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菊池  紘 あけましておめでとうございます
佐藤  生 事務局次長退任のごあいさつ
鶴見 祐策 税制大綱の「納税者の権利」の問題点
笹本  潤 平和的生存権の世界化へ
―「平和への権利」国際会議
小笠原 彩子 教育子育て九条の会・ブックレット発行の紹介



あけましておめでとうございます

団 長  菊 池   紘

 みなさんはどのように新しい年を迎えられましたか。私たち執行部は新年のつどいをもち、この年にむけた思いをこもごも交換しました。会場となったわが家のさざんかにはメジロが来てちゅるちゅるさえずっています。ここは二三区の西のはずれですが、近くの石神井池にはカワセミが飛来し、人気です。

 年末に、日本航空は三ケタの機長、副操縦士、客室乗務員を解雇しました。その数と無法さで類を見ない、そして整理解雇の四要件をすべてないがしろにする、強引な解雇です。これを許すなら、会社更生中の解雇はやりたい放題ということになりかねません。この間の、白紙のスケジュールを手わたしての退職強要は許せないものですが、とくにストライキ投票に干渉し、「三五〇〇億円の支援を打ち切る」と恫喝した支配介入は、あまりに非常識なことでした。国際標準に違反する年齢差別もひどいものです。そしてなによりも、あの「沈まぬ太陽」にも描かれた、たたかう労働組合をつぶそうとする攻撃です。わたしたちはこの解雇をはねかえし、航空政策を改めさせて、空の安全を守るために、力を尽くしたいと思います。

 民主党執行部の文書は、参議院の比例区を廃し、議員定数を大幅に減らす案を示すとともに、「衆議院選挙制度の改革」として、衆議院比例定数を八〇減らし、「将来的には完全小選挙区制とする」と明記しています。この通常国会で、これに着手しようとしているのです。大阪、京都、埼玉その他の経験に学んで比例定数削減に反対する行動をすみやかにひろげましょう。

 他方で、重なる一票の格差違憲判決を受けて、参議院議長は、九ブロック比例代表の参議院抜本改革案を発表しました。衆議院の比例定数削減に反対するとともに、民意を正確に反映する、あるべき選挙制度を求め攻勢的にたたかうことが求められます。

 今年はまた、派遣と有期の裁判の重要な年になりそうです。二月の大量解雇問題全国会議で、裁判上の諸問題を検討し、あわせて派遣法・有期規制の理論問題を討議し、前へ進む契機にしましょう。

 そして今年は自由法曹団結成から九〇年になります。一〇月二一日には東京・臨海副都心・お台場で記念の集いをもちます。先人の活動に学び、とくにこの一〇年をふりかえるとともに、あらたな前進のステップとしたいと思います。ぜひ手帳に予定を記入願います。

 本年もよろしくお願いします。


事務局次長退任のごあいさつ

東京支部  佐 藤   生

 この度、事務局次長を退任することになりました。

 次長の間、国会改革関連法案・衆院比例定数削減問題に主に関わってきました。関わってきたと言っても、他の次長におんぶに抱っこで、門前の小僧さながら耳学問させてもらっていたという方が正確かもしれませんが…。

 団次長になる前、弁護士登録してからの数年、団の活動にはほとんど関わらないままにおり、団がどのような問題に取り組んでいるのか全く知らないまま、いわゆる幽霊団員として過ごしてきました。そんな状態から突然団の次長となり、民主党による比例定数削減・国会改革関連法案阻止行動としての各集会・要請行動等を中心に、洗濯機に放り込まれたような感じになりました。

 当初は、国会改革についても比例定数削減についても、問題は何なのか全くと言っていいほど分かりませんでした。国会内の制度や選挙制度というと司法試験受験時代からなんとなくよく分からないという印象でした。しかし、団の次長として洗濯機の中で揉まれてみると、どちらも基本的人権を守るため、日本国憲法の背骨を守るためにとてつもなく重要な問題であることが今では実感として分かるようになりました(もっとも、選挙制度についてさらに細かいことは勉強が追いついていませんが。)。退任の挨拶に変えて、学習の成果を復習させていただきます(間違えていたら補修授業ですかね。)。

 国会改革関連法案は、官僚、とりわけ内閣法制局長官の答弁を国会から締め出すことを主内容とし、憲法を民主党の意のままに解釈し自衛隊の戦地への海外派兵を目論みとする、当時の民主党幹事長小沢一郎氏が長年抱いていた、事実上の憲法改悪の方策でした。同法案は、野党一致して反対する中、一〇年五月、当時の民主党幹事長小沢一郎氏を筆頭に民主党議員により衆議院に提出されました。その後、鳩山内閣が退陣、法案の推進者である小沢一郎氏は党首選に破れ金銭問題に追われることとなり、この法案は審議されないままです。しかし、一〇年秋の臨時国会閉会時には通常国会に続いて継続審議とされました。

 この法案が今後審議の対象として浮上してくることはないかもしれません。しかし、この法案は、多くの国民が気づかないうちに強行採決まで考えられていた究極の改憲(解釈)法案でした。自民党は正面から憲法改悪を挑み国民投票法までは作りましたが、その結果敗れました。今でも憲法を変えようと言っても、国民は直ちに賛成しません。しかし、民主党が考えた手法は、官僚主導から政治主導へと国民受けやすい(「官僚=悪」「官僚主導=悪政」というイメージが定着していますが、本当はこの点からきちんと検証されなければならないにもかかわらず。)キャッチフレーズを入り口に用意して、しかし出口は憲法改悪、九条抹殺という、いわば裏口からトロイの木馬を潜り込ませるとでもいうべき憲法破壊の手法でした。

 もう一つの衆院比例定数八〇削減問題は、〇九年マニフェスト以来民主党が次の衆議院選挙までの実現課題として執念を燃やすものです。現時点では、定数削減を訴えた各野党も反対し、さすがに民主党も法案提出を強行できない現状です。しかし、民主党は比例定数削減を未だ断念していません。一二月に入って、「一票の格差を是正する」との理由で選挙区のブロック化をともなう参議院選挙制度の大改正を提案し、一一年通常国会での成立を目指すとしています。

 「一票の格差を是正する」ことそれ自体は望まれることです。しかし、民主党は同時に党内に「部外秘」とした文書を回し、参院選改革と併せて衆院比例定数削減に着手すること、最終的には単純小選挙区制を目指すとのことで党内の意思統一に着手しました(赤旗二〇一〇・一〇・一二判)。民主党の考えでは、参院選で一票の格差を是正するのは、衆院比例定数削減と抱き合わせなのです。

 もし、衆院の比例定数削減が実現されるならば、日本国憲法の民主主義、すなわち全国民の意思を反映した国会を国家の最高機関として国政を行う、という仕組みは形骸化されてしまいます。国会は全国民の意思を反映する機関ではなく、議会で数的優位を支持する選挙民の意思を反映するだけの機関となってしまいます。これもやはり事実上の日本国憲法改悪、しかも国民主権という憲法の背骨を骨抜きにしてしまうものです。そして、これを推し進めようとする民主党の手法は、一一月一七日に東京高裁判決を受けての「一票の格差是正」といういかにも国民に受け入れられやすい目くらましを入り口にぶら下げ、入ってみるとセットにされた衆院比例定数削減によって、出口では衆参ともに民意を歪められた「国民の代表」機関とされ国民主権が骨抜きにされるという、やはり裏口からトロイの木馬を潜り込ませる作戦です。

 衆院比例定数削減の危険性が、訴えても多くの人に理解されにくいのも当然、トロイの木馬には精強なトロイア人ですら騙されてしまったのですから、どうして善良な日本国民がすぐに騙されていることに気づくことができましょう?国民に正面から憲法改悪を問うてきた末期の自公政権に比べて、民主党のやり方はなんとも老獪かつ姑息。こういうと「政治とはそういうものだ。」と言われるかもしれません。けれども、先の参院選で国民の多くは二大政党制を支持しないと表明しているのですから、国民を騙しています。自国民を騙すことが真の国政のはずがありません。

 と、今、こう言えるのはまさに団の次長として国会・比例に携わってきたこともたまものであり、もしこれがなければ報道を見ても、「いよいよ一票の格差是正に本腰入れるのか〜」と多くの人々(「善良」かどうかはともかくとして)と共に騙され続けているかもしれません。でも、トロイの木馬だと知ってしまった今、むざむざと木馬を入城させるわけにはいかない。ということで、団の次長は退任しましたが、今後も、何かと関わっていきたいと思っています。ですので、その節は、「門前の小僧が来たな。」とお考えになって、置いてやっていただけますよう、よろしくお願いいたします。


税制大綱の「納税者の権利」の問題点

東京支部  鶴 見 祐 策

一 納税者権利立法の運動

 強権的な税務行政に対する闘いとその是正を求める自営業者を中心とする運動が取組まれて久しい。各地で団員も闘いの一端を担ってきたと思う。「納税者の権利保護法」の立法化を求める運動が始まって半世紀にもなろうとしている。いちど二〇〇二(平成一四)年に野党の民主党と共産党、社民党の共同で「国税通則法の一部改正案」(以下「一四年案」という)が提案されたが、国会審議に至らず葬られた経過もあった。

二 民主党政権による立法作業

 民主党はマニフェストで「納税者権利憲章」の制定を掲げ、衆議院選挙で勝利して政権をとった。これに期待を寄せた人達も多かったと思う。日弁連も制定を促す「意見書」(本年二月一八日)を発表している。

 民主党の議員の中にも熱心な人達がいたことから今度こそ実現できると考えたのは当然だろう。ところが、「納税環境の整備」として作業が進められるうちに雲行きが怪しくなってきた。そもそも「納税環境の整備」の呼称自体が、課税庁側に特有の方向性が示されている。骨抜きの策動が懸念されてきた。そしてそれが現実となった。

三 税制大綱に盛り込まれた中身

 裏切られたと感じた人が殆どだろう。

 「納税環境整備PT報告書」(一一月二五日)や「最終整理案」(一二月一〇日)

 では、財務・国税の官僚達による容喙と干渉と恫喝の圧力が強力かつ執拗に行われた結果と考えざるを得ない。それほど随所に後退が認められた。そして一二月一六日の「平成二三年度税制改正大綱」(以下「大綱」という)に盛り込まれた(マスコミの正確な報道や評論は見当たらない)。昭和三七年の国税通則法制定以来の大改正と言えよう。

 さっそく全商連などが「国税通則法改悪反対」を打ち出している。これまで運動を進めてきた「PCフォーラム」も、その前日に「緊急要望書」の形で最低限これ丈は改めてほしい一〇点を挙げて議連に要請している。来年春には審議が始まる。事態は急を要する。

四 大綱に内包する問題の所在

 いろいろあるが、主要な問題点を摘記すると次のとおりである。

(1)納税者権利憲章の策定

 まず「納税者権利憲章を策定します」と謳っている。国税通則法の目的に納税者の権利利益の保護の趣旨を明確にするのは当然であろう。法律の名称にも「納税者の権利保護」を加えるべきである。ところが、「PT報告書」では「納税者が求めることができる内容」に加えて「納税者に求められる内容」「納税者に気をつけていただきたいこと」を税務手続にそって平易、簡潔、明瞭に示す考え方で策定するとなっている。そして「納税者の権利・義務をバランスよく記載」と注文をつけている。課税庁を代弁する学者の意見と言われるが、その課税側の特異なバランス論が反映されていると言わざるを得ない。ことさら「納税者の義務」を謳うことは憲章の意義を逆のものに変質させる狙いがあり、絶対に許されるべきものではない。その視点から大綱をみると「納税者・国税庁に求められる役割・行動」との記載があり、権利・義務バランス論蘇生の余地が残されているように思われる。

(2)納税者の権利憲章の位置づけが明確ではない。

 国税庁長官の通達などを想定しているとすれば、課税や不服審査などのシステムを平易に説明することでお茶を濁してしまう虞が大いにあると言わねばならない。納税者の権利、裏を返せば課税側の責務を明らかにし、それが単なるプログラムではなく、裁判規範(少なくとも解釈基準)として機能する法規として定められなければならない。その具体的な権利を提示して納税者に徹底するための具体的な施策の必要は勿論のことである。そしてそれに違反した行為と結果が不適法とされ、取消原因につながるものでなければならない。

(3)納税者に対する信頼の原則がない。

 OECD加盟三〇か国で納税者の権利憲章を持たない国は日本だけになった。その多くの国で「納税者が誠実であると信頼する」(誠実性推定の原則)ことが謳われている。それが権利憲章の原点にほかならない。骨抜きを許さない保障である。各論的にも立証責任の程度や調査理由の開示や処分理由の明記の必要とも関連する。大綱にはそれがない。

(4)税務調査の事前通知に裁量的な例外

 臨場調査にあたって事前通知は当然である。問題は例外である。大綱が「正確な事実の把握を困難にするおそれ」とか「調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」など課税庁側の主観的な判断にゆだねているのは容認できない。これでは自由裁量を認めるに等しい。もし例外の無予告を認めるとすれば、一四年案の「検査しようとする物件が隠蔽される等調査の目的を達成することが著しく困難になると認められるに足る相当な理由がある場合」に限定すべきである。

(5)税務調査の「理由」と「必要性」の開示の明記がない

 税務調査は任意調査である。納税者に対して税務調査の客観的な「理由」が先行的に明示されなければならない。また質問検査権の行使に際しては客観的な「必要性」が開示されるべきである。税金裁判の主要な争点の一つであった。これの明記がなされていない。これは強権的な調査と確たる調査に基づかず、ひたすら修正申告の慫慂で税額の増差を強要してきた現状を改めさせる要諦と思われるが、それが明確でないのは致命的の感を抱かざるを得ない。

(6)事前通知の「目的」を「所得の調査」に矮小化

 調査理由の開示との関連では、事前通知の内容として「調査の目的」が挙げられている。これが調査理由を示すものであれば申し分ない。少なくとも調査対象者の「選定理由」であれば、納税者の権利は格段に前進する。ところが、大綱はカッコ書きで「例:○年分の所得税の申告内容の確認等」としている。これはフリーハンドに執着する税務当局の要求そのものである。団員が税金裁判で常に直面してきた問題点である。TCフォーラムは一四年案のとおり「調査の目的」を「調査理由の開示」に変更することを求めている。少なくとも調査に際しては、あらかじめ選定理由を開示することを税務職員の義務として定めるべきである。

(7)反面調査「補充性」の原則がない

 大綱では事前通知の対象者として「反面先」を挙げている。国税庁が作成した現行「税務運営方針」でも「客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする」と定めている。これを補充性という。もっとも現実には守られていない。銀行調査などを先行してその材料を持って納税者のもとに臨場するのが常態化しつつあると言われる。裁判では質問検査の必要性との関連で必ずと言ってよいほど争点とされてきた。これを改めるのが第一歩であろう。「税務運営方針」の趣旨を法規化すべきである。

(8)意味不明の「反面調査」

 さらに理解に苦しむ記述がある。反面先には「調査対象者(納税者)の名称及び確認対象取引は通知しない」「調査対象者本人には通知しない」というが、取引先に納税者の名前や取引を特定しないで何ができるというのであろう。銀行には「行きますよ」というだけなのである。銀行は全預金者の口座をそろえて待つのであろうか。

(9)調査結果の通知とその後の再調査

 調査が終結したとき、納税者に調査結果(非違の内容、金額、理由)を説明し、文書を交付するとしている。申告是認の結果も通知書が交付される。ただしそこには「その時点で更正すべきと認められない」と書くのだそうである。その後も「調査について必要があるときは、再調査できることとします」と断っている。これでは納税者は不安定な状態を強いられることになる。通知の意味がない。少なくとも同一事項につき「不再理」の原則が明記されるべきであろう。これは「理由開示」の問題とも直結する。

(10)その他の問題点

このほかに(1)修正申告の慫慂の公然化(2)調査と連動する更正請求の期間延長(3)理由付記と白色申告者の記帳義務(4)罰則の新設と強化(5)徴収手続における権利保障の欠如などが、特に検討されるべき問題点である。

五 税務行政の民主化に逆行する通則法の「改正」

 課税庁側の権限強化と納税者側の無権利が我が国の税務行政を存分にゆがめてきた。しかし、強権的な課税が税収の増加に資するという考え方自体が完全に誤りなのである。税務行政の公正と透明への国民の信頼なしに申告納税制度は有効に機能しない。税務署が得体の知れぬ「怪物」視されて恐怖と不信の的となっては、納税者の理解と協力は得られない。その信頼回復のカギが「権利憲章」なのである。

 政権交代後の最初の「平成二二年度税制改正大綱」では「税制への信頼確保に資するものとして『納税者権利憲章』を早急に制定する」と記載されていた。わかっていたはずである。

 かつて各地の団員が精力的に税金裁判闘争に取組んだ時期があった。それが一助となって、税務当局の内部に強権的な調査に対する反省の機運をうみ、最高裁の判例(一九七三年)をふまえながら、納税者の立場にも配慮を示した「税務運営方針」(一九七四年、一九七六年)が作られたことは周知のとおりである。そこには「納税者に対して親切な態度で接し、不便を掛けないように努めるとともに、納税者の苦痛あるいは不満は積極的に解決するよう努めなければならない。また、納税者の主張に十分耳を傾け、いやしくも一方的であるという批判を受けることがないよう、細心の注意を払わなければならない」と書かれている。また「税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものである」との基本的な観点が掲げられている。それが法規の形で明記されるだけでも、課税側の息のかかった今回の「大綱」よりましと言えるのではないか。

六 むすび

 法案は、この骨子を受けて年明けの国会に提出される。一括法案として十分な審議がなされないまま成立する可能性が高いのである。「納税者権利憲章」との呼称に惑わされてはならない。少なくとも問題点を明らかにし、その是正を求め、審議を尽くさせ、それができないならば、成立を阻止する覚悟が必要ではないかと思う。いったん成立すれば、税務行政の基本法となるだけに今後の改正は非常に困難とならざるを得ない。

 真の納税者の権利保障の立法化を実現させるため、そして税制と税務行政の国民主権を確立するため、それが自由法曹団の闘ってきた道筋にあることを銘記しながら、新しい段階の運動に向けての奮闘を誓いたいと思う。


平和的生存権の世界化へ

―「平和への権利」国際会議

東京支部  笹 本   潤

 一二月九日、一〇日にスペインのサンチアゴ・デ・コンポステーラで行われた、「平和への権利」に関する国際NGO会議に参加しました。

 この会議は、平和への権利の国際法典化(宣言や条約)を目指すもので、最終的には国連総会での採択を目標にしています。

 世界各国から約二〇〇人のNGOが参加し、国連関係者の参加も多かったのが特徴でした。この「平和への権利・国際キャンペーン」はスペインの国際人権法協会というNGOが中心となって二〇〇七年以来進められています。

 「平和への権利」は、国連人権理事会や国連総会で使われている用語で、平和的生存権よりも広い概念です。世界には、実際に戦争が起こっている国民や迫害を受けている人や難民もいて、そのような被害にあわない自由や、平和な世界の前提たる政治的な表現の自由も想定されています。また、軍隊のある国であれば、兵役拒否の権利なども含み、この「平和への権利」は多彩で豊かな内容を持っています。この国際会議で採択された宣言文(サンチアゴ宣言)では、その中でも特に平和的生存権は、生命の権利と並んで最も重要な人権とされ、恐怖と欠乏からの自由など積極的平和を実現する権利としても位置づけられています。

 二〇〇八年の「九条世界会議」でスピーチしたハーグ平和アピールのコーラワイズさんもセッションの司会を務め積極的に関わりました。彼女は、平和と人権の団体が一緒になったところにこの会議の意義があると言っていました。

 日本からは、日本国際法律家協会の塩川頼男さんと私が参加し、私は、主に日本からの情報を発信することに力を注ぎました。実はこの「平和への権利・国際キャンペーン」を日本のNGOが知るようになったのは今年に入ってからであり、日本の平和的生存権をめぐる状況が十分に取り入れられていないからです。

 私は、日本の憲法の前文は「平和的生存権」について、「全世界の国民」の権利として認めており、それは一国にとどまらず国際的な普遍的な権利であり、国際的に実現させる必要のある権利でもあること、そして平和的生存権の内容は日本の裁判所の判決によって発展してきていること(幸福を追求する権利、加害行為に加担させられない権利など)を報告し、資料も配付しました。

 二〇〇八年のイラク派兵違憲判決では、政府が九条違反の行為をする際には平和的生存権が侵害されるとしています。そういう意味で「平和への権利・国際キャンペーン」は、「グローバル九条キャンペーン」とともにすすめるべき、とも発言しました。

 九条が、政府の戦争行為を直接に縛る憲法であれば、平和的生存権は、人権の面から政府の行為を制約する憲法の人権条項です。

 最終日の一二月一〇日に採択された「サンチアゴ宣言」では、九条や平和的生存権という言葉が取り入れられたわけではありませんが、前文では平和的生存権の位置づけが高まり、人権カタログでは恐怖と欠乏から免れる積極的平和を実現する権利として(三条)、日本の平和的生存権とほぼ同じ内容の権利が書かれました。

 このような平和への権利や平和的生存権が、世界宣言や国際条約になり、世界の各国の憲法でも取り入れられるようになれば、それは九条を世界に広めようという「グローバル九条キャンペーン」とも目指すものは同じです。平和的な環境は一国だけでは達成できません。これらの世界的キャンペーンを発展させて、さらにそれをアジアにおいても実現させていくことが大切ではないでしょうか。

 今、日弁連の国際人権委員会では、アジア人権機構の提唱をするための作業部会が設置され、私もそのメンバーの一人です。ヨーロッパや米州などにおいては、地域の人権宣言や人権条約が作られ、それに基づき人権委員会や人権裁判所の判断がなされています。東北アジアの閉塞した状況を打開するのには、間に合わない長期的な課題ですが、このような運動を作り上げていく中で、徐々に人権意識や平和的思考が東北アジアにも浸透していけばと思います。

 今後、来年四月にはスペインのNGOの中心メンバーが来日し、法律家団体と市民団体が主催して日本各地で集会を開きます。また、来年の三月、六月に開かれる国連人権理事会の会期でもこの平和への権利のテーマを取り上げることになっており、これからいよいよ平和への権利の法典化の運動が大きくなっていきます。


教育子育て九条の会・ブックレット発行の紹介

東京支部  小 笠 原 彩 子

 教育子育て九条の会は、こんな時代だからこそ、子どもたちのしあわせと豊かな教育をめざして、暖かい心をつなぎあっていくことを願い合いたいと考え、『いきいき!子どもたち いのち、学び、そして九条』というタイトルの本を発行(高文研)しました。

 この会はこの通信でも一度報告致しましたが、二〇〇八年一〇月に「九条の会」の趣旨に加えて、(1)平和な社会を教育によってめざすこと(2)子ども一人ひとりの学び発達する権利を保障すること(3)保育園、幼稚園、学校などの組織と運営に民主主義を実現することを目標と行動の一致点として発足した会です。

 今回発行したこの本では、子どもたちの思い(沖縄や岩国基地問題、ニューヨークでの核兵器廃絶を訴えたり、国連子どもの権利委員会や私学助成運動に参加した子どもや若者の声)や、子どももおとなも育ちあえるつながりを(小森陽一、香山リカ、山田洋次、佐藤学、田中孝彦、三上満他)等の連帯に向けての発言をメインの柱として、幅広い視点から教育・子育て・九条の問題に触れています。

子どもの意見表明権とそれを支えるおとなの役割について学びあう資料として、是非ご購入下さい。

 『いきいき!子どもたち いのち、学び、そして9条』(高文研)

A5判、九六ページ、本体価格一一〇〇円+税(多部数についての割引有り)

ご注文は下記へ、FAX、メール等でお寄せください。

 〒一〇一-〇〇四八
  東京都千代田区神田司町二-四 小山ビル六階 
  小笠原法律事務所内 教育子育て九条の会 あて
  電話/FAX:〇三‐三二五五‐六八六〇
  eメール:kyoiku‐kosodate9@tenor.ocn.ne.jp