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二〇一一年島根・松江五月集会特集〜その二
田上 尚志 *島根県特集*
島根での活動について
庄司 捷彦 *東日本大震災*
被災地からの報告
渡邊  純 福島の現状
沢井 功雄 「二〇一一・四・二仙台現地調査報告」
大久保 賢一 「原発事故対策」PTの発足にあたって
神保 大地 北海道における教育現場の危機
楠  晋一 自由法曹団「国内人権機関開設をめぐる全国意見交換会」が開催されました
自由法曹団女性部 ハーグ条約学習会のお誘い
労働問題員会 東日本大震災・被災者支援 四・一三「街頭労働・生活相談会」に参加しましょう!



二〇一一年島根・松江五月集会特集〜その二


 今号ではプレ企画と全体会・各分科会の詳細をご案内いたします。申込締切は、四月三〇日となっておりますので、参加ご希望の方は、四月一日号団通信同封の申込用紙に必要事項をご記入のうえ、団本部までFAXにてお送りください。

●プレ企画【 五月二一日 】

1 新人弁護士学習会 (午後一時一五分〜四時一五分)

事務局次長  近 藤 ち と せ

① 「どこにいようと、どんなときでも」

岡山支部 則 武  透団員(四五期)

 則武団員は、岡山県の出身ですが、弁護士登録後七年間は東京南部法律事務所で、日本航空乗組員事件などの弁護団事件に取り組むとともに、本部の事務局次長としても活躍しました。その後、故郷の岡山に戻ってからは、岡山合同法律事務所で、倉敷チボリジャパン事件、残留孤児訴訟、社会保険庁職員分限免職事件など多彩な事件活動を行うのはもちろん、副会長など弁護士会活動にも力を入れてきました。

 則武団員には、東京と岡山の両地で団員として活動をしてきた経験について話していただくとともに、東京の団員としての視点、地方の団員としての視点の両方を踏まえ、「どこにいようと、どんなときでも」団員として頑張る中で感じていることについて話していただく予定です。

② 若手弁護士リレートーク

島根支部  光 谷 香朱子団員(  五八期)
岡山支部  呉   裕 麻団員(現 六一期)
神奈川支部 沢 井 功 雄団員(新 六一期)

 若手弁護士リレートークでは、登録後一〇年以内の三人の若手弁護士にお話しいただきます。

 光谷団員は、C型肝炎訴訟、トンネルじん肺訴訟などに取り組んでこられたほか、地域に密着した弁護士として、多くの労働事件、セクハラ事件、家事事件などに積極的に取り組んでいます。

 呉団員は、障害者自立支援法違憲訴訟、社会保険庁職員分限免職事件、ティティコム消費者被害事件、東建コーポレーション残業代未払い事件等多彩な事件に積極的に取り組む若手です。

 沢井団員は、NSK非正規切り事件、スタンレー電気非正規切り事件、追い出し屋事件等に取り組むと共に、東日本大震災の被災者救済・支援のため,弁護士会や団本部での活動に奔走しています。

 若手団員の方々が、弁護団事件やその他の裁判活動、いろいろな分野での人権活動等に取り組む中で、何を感じ、何に悩み、そしてそれらの悩みをどのように克服しているのか等についてお話しいただく予定です。また、新人団員が直面しがちな問題についての質問や、弁護士としての活動に関する疑問点などがあれば、それらについてもお答えいただく予定です。

2 将来問題
 〜 団員過疎地の団の後継者づくりと若手団員の力の発揮づくり 〜

将来問題委員会委員長 中 野 直 樹

団員が二〇〇〇名に

 今年になってからの新六三期の入団により、団員数が大台にのりました。千名になったのが一九八〇年(三三期)の頃であり、そこから一五〇〇名に達する五二期まで約二〇年かかりました。五八期に五〇名の新入団員を迎えてから毎年新しい団員が平均して九〇名生まれています。昨年秋に五九期から六二期の四期の団員を調べたところ、全国一六五の事務所で三四五名が活動していることがわかりました。

依然団員過疎地が

 二〇〇八年時点で、弁護士経験五年の五五期以降の団員が空白の県が一一ありました。二〇一〇年一〇月までに六県で空白が解消されましたが、なお、岩手(もっとも若い期―五四期)、栃木(四八期)、鳥取(三一期)、香川(三五期)は新人空白が続いています。北海道では、札幌以外の地裁管内の団員も同様の状況ですし、裁判所支部レベルの団員事務所のなかには、後継者がいないために事務所閉鎖の危機が迫っているところもあるようです。

人権課題の担い手不在の問題が顕在化

 全国的に取り組まれている集団訴訟において、多数の原告(予定者)がいるのに、地元にこの代理人を引き受ける弁護士がいない、住民運動や非正規切りの当事者が法的救済を求めているのに、これを引き受ける弁護士が地元にいない、という深刻な事態が生まれています。二〇〇八年の五月集会のプレ企画で、そのようなひとつとし「香川問題」が具体的な事例を通して語られ、衝撃を与えました。

テーマ1 団員事務所再建・後継者づくりに踏み出す

 香川の地元の民主団体から、人権活動を担う団員事務所の開設を求める切実な声があがっているとききます。団本部では、周辺複数支部の団員事務所の共同プロジェクトとして、数年後に複数名の団員事務所を高松に開設することを目標にした計画づくりに入っています。人の見出し、教育養成のあり方、その間の経済問題の解決のあり方等、これまで未経験の課題が少なからずあります。全体として財政が厳しいなかで条件をつくれるか不安もあります。

 しかし、地元の要求は待ったなしです。ぜひ今度のプレ企画で、皆さんからの知恵を出していただきたい。

 合わせて、全国の団員過疎地の把握とそこに団員後継者をつくっていくための政策づくりについても意見交換をしたい。

テーマ2 若手団員の成長のために

 この間、新入団員を迎えた支部では、刺激を受けて支部例会が活性化したり、支部事務局の担い手になったり、弁護団活動の中心になったり、地域運動に参加したり等若い団員に活動の場を提供し、若い力を引き出し、生かす取組みを実践しているところが出てきています。元気をもらえる話です。

 この間の将来委員会の議論では、若手団員の要求のくみ上げ、そして若手団員の横のつながり(昔風にいえば青年団のようなもの)づくりが必要だろうと考えています。

テーマ3 給費制維持のために

 昨年、ビギナーズネットをはじめとする若い法律家、法律家をめざす若者の運動は、「経験則」を乗り越え、「一年延期」を得ました。東北関東大震災からの復興というさらに厳しい財政条件が生まれましたが、今後の取組みについて意見交換をします。このテーマにつきましては新人学習会の企画との合同となります。

3 給費制維持のために (午後四時二〇分位〜五時二〇分)
 〜 新人学習会・将来問題合同 〜

事務局次長  坂 本 雅 弥

 昨年一一月二六日、「司法修習生に対する給費制廃止・貸与制導入」を一年間延期する裁判所法の一部改正が成立し、一年間給費制は維持されることになりました。団は、若手弁護士や司法試験受験生等により組織されるビギナーズネット、日弁連、市民連絡会などと共に、院内集会、議員要請、街頭宣伝等の運動を行いました。一年間という暫定措置ではありますが、給費制の維持が実現されたのはこれらの運動の成果であると思います。しかし、本年一一月以降も給費制を維持するためには、さらに運動を盛り上げていく必要があります。

 そこで、今年の五月集会のプレ企画の一部の時間を使って、給費制について意見交流を行います。当日は、各地域の団員が給費制維持に向けてどのような取り組みをしているか、日弁連やビギナーズネット等各種団体との間でどのように連携しているか、運動をするにあたって悩んでいることは何か、これからどのような運動を取り組んでいくべきか、などの意見交換をして、今後の運動の方向性を定めていきたいと思います。

 多くの団員の皆さまのご参加をお待ちしております。 

4 法律事務所事務局員交流会 (午後一時一五分〜五時二〇分)

[ 全体会 ]

事務局交流会世話人 高橋 伸子(八王子合同法律事務所)

 五月集会は、毎年多くの事務局のみなさんが参加されます。ぜひ、二一日土曜日の事務局員交流会にもご参加頂き、全国の団事務所で働く事務局の役割、業務と活動のあり方、団員弁護士と事務局の協働のあり方などを、交流したいと思います。

 新人事務局のみなさんの参加もお待ちしております。働き始めて間もないところで、とまどったり、苦労したりする事も多々あると思います。事務局員交流会の場に参加して頂き、実状を共有できる場になればいいなと思っております。

 全体会のメイン講演として、岡崎由美子先生(島根県支部・岡崎法律事務所)に、「弁護士と事務局とのパートナーシップ―地方少人数支部での活動―」をテーマにお話し頂く予定です。

 続いて、先輩事務局員からのお話しとして、弁護士法人名古屋南部法律事務所の堀切幸寛さんより、「団事務所における事務局の役割(仮題)」をテーマにお話し頂きます。

[ 分科会 ]

①運動の経験交流

事務局交流会世話人 林  千穂(東京法律事務所)

 大震災と原発事故の複合災害により、被災された方々の命・健康・安全・財産を守り、回復し、復興を促進させるかは、日本国憲法の「人権」と「民主主義」と「平和」という根幹から、この惨状に立ち向かうことが、今こそ求められているのだと思います。

 なによりも、個人個人の権利がまもられるために、憲法を守り発展させる運動を強化することが大切だと考えます。憲法分科会にご参加いただき、それぞれの活動を交流させながら、新たな課題と諸活動への決意を確認しあう分科会にしたいと思っています。

②「私たちの仕事について考える」分科会

事務局交流会世話人 高橋 伸子(八王子合同法律事務所)

 団事務所では、市民にもっとも身近な法律事務所として、弁護士と事務局が一体となった協働体勢(チームワーク)で、法的サービスを提供しています。そこで、今回は各事務所で実践されている仕事の進め方や、仕事の分担等を経験交流するなかで、団事務所での弁護士と事務局、事務局間の組織的な連携、チームワークについて考える機会にしたいと思います。

 「近年、苦情相談件数が激増」など。司法環境の様変わりもあり、弁護士会には、法律事務所を利用される市民の方々から、事件処理の仕方や応対について、厳しい声が寄せられている状況です。私たち団事務所も無縁ではないでしょう。団事務所へのより一層の信頼を高める執務体制づくりについて、チームワークという視点から一緒に考えて行きましょう。

③新人交流会

事務局交流会世話人 鈴木 英美子(川崎合同法律事務所)

 自由法曹団員のいる法律事務所に入所された新人事務局員のみなさん、事務所の業務に、様々な活動に奮闘の毎日だと思います。

 そんな慣れない環境で頑張っている仲間は全国にたくさんいます。日頃の仕事に対する悩みや不安、自由法曹団の運動における事務局の関わり方などについて、全国の事務局のみなさんと語り合い、少しでも今後の仕事や運動に役立てることができる交流会にしたいと思っております。

 また、この交流会は、同世代、同期の事務局の方と仲良くなれるよい機会でもあります。気軽に話ができる楽しい交流会にしたいと思いますので、是非ご参加下さい。

●全体会(午後一時一五分〜三時一五分)

第一日目 五月二二日

[ 鈴木宣弘教授講演 ]

事務局次長  小 林 善 亮

 昨年一〇月の菅総理の所信表明演説により突如浮上したTPP(環太平洋連携協定)問題。政府・財界からは「第三の開国」や「乗り遅れると世界の孤児になる」などと参加を求める発言が相次いでいます。TPPは農業だけの問題かのような言説もなされていますがそれは間違いです。TPPでは関税の撤廃だけでなく、サービス貿易、労働、政府調達、競争政策、知的財産権など二四の分野について外国の参入障壁を撤廃に向けた協議がなされています。医療の領域では、株式会社の医療機関経営導入により医療の質の低下や、混合診療の拡大による国民皆保険制度の空洞化を危惧する声も挙がっています。TPPが地域経済を破壊すると反対の決議を挙げている自治体も多くあります。

 鈴木宣弘教授は、農水省、九州大学教授を経て、現在東京大学大学院教授をされています。専門は農業経済学で、TPP問題について積極的に発言されており、国民的議論を起こすために設立された「TPPを考える国民会議」の世話人でもあります。

 震災の影響で、政府は当初「六月まで」とした参加・不参加の結論について先送りをする方針であると報道されています。しかし、一方で財界からはTPPや税と社会保障の一体改革は「震災以前から掲げられた重要政策で、震災とは関係なく進んでいく」(桜井正光氏・経済同友会代表幹事)などの発言もあります。結論が延期されても、後日この問題が再び政治の焦点となることは間違いがありません。

 この五月集会でTPP問題を学習し、今後の運動に活かすため多くの方の参加を呼びかけます。

●分科会(午後三時二〇分頃〜五時二〇分)

第一日目 五月二二日

①TPP分科会

事務局次長  小 林 善 亮

 TPP問題の論点は多岐にわたります。分科会では、全体会での鈴木宣弘教授の講演を受け、国際的な背景と、国内的な影響の両側面からこの問題を考えます。国際的な背景からは、TPPとはどんな国際的な背景で出てきたものなのか、アメリカ、東アジア諸国はどのように考えているのか、国内的影響ではTPPが私たちの生活に具体的にどんな変化をもたらすのか、そしてそれらを踏まえ私たちはこの問題をどう考え何をすべきか等について議論します。国際的な視点からは、グローバル経済をどう考えるのか、アメリカとの関係や東アジア諸国との関係をどう構築するのかという問題、国内的な影響からは構造改革の課題に通じる論点も出てきます。

 団としてTPP問題を正面から議論するのは初めての試みです。多くの方の参加を得て、議論を深めたいと思います。

②比例定数分科会

事務局次長  芝 田 佳 宜

 本年三月二三日の最高裁判決において、衆議院選挙における一票の格差が違憲状態であるとの判決が出されました。既に、多数の違憲判決が出ている参議院とともに、選挙区割りを含めた選挙制度改革が必至となっています。また、本年三月一一日発生の東日本大震災の影響からも、復興財源確保を理由とした議員歳費削減、あるいは議員定数削減が検討されています。このような現在の情勢からは、今国会において比例定数削減と動く可能性は高いものと考えられます。

 これまでの間、大阪で一〇〇〇人を集めた「民意をゆがめる比例定数削減ストップ!一・二八府民のつどい」をはじめ、各地の団員による比例定数削減反対に向けた活動がありました。また、本年二月に団員有志が、立命館大学の小堀教授による小選挙区制にかかる選挙制度改革の国民投票についての訪英調査に同行するなど各団員による調査・研究活動も行われてきました。

 五月集会では、これまでの活動や調査・研究活動をご報告いただき、「あるべき選挙制度」論や、比例定数削減に向けた今後の活動についての議論を行いたい考えています。

 多くの方にご参加頂き、活発な討論を行いたいと考えています。

③「北方領土」・尖閣問題分科会

東京支部  河 内 謙 策

 昨年九月七日に勃発した尖閣諸島沖漁船衝突事件は、日本を震撼させたといっていい大事件であった。それまで尖閣問題があることを知らなかった日本の民衆に対し、尖閣問題の存在を知らせただけではない。それを通じて日本の民衆は、中国という国がどういう国か、日本の領土を守るとはどういうことか、を深刻に考えさせられることになったのである。

 「北方領土」問題は、その存在は広く知られていたが、なぜか自由法曹団がとりあげたことはなかった。しかし、昨年九月にロシア・メドベージェフ大統領と中国・胡錦濤国家主席の共同声明が発表され、メドベージェフ大統領が一一月に国後島に乗り込んだことにより、尖閣問題も「北方領土」問題も、これまでの日本の平和運動の「想定外」の問題であるが、今後避けて通ることはできないこと、また日本の主権の確立、平和と共生のアジアを作り上げていく上で基本的に同一の性格の問題であることが明らかになったのである。

 今度の五月集会の討論が自由法曹団としてのスタートである。既存のイデオロギーにとらわれない、自由で活発な討論を実現したい。

④貧困問題分科会(一日目)

事務局次長  斉 藤 耕 平

住居の貧困−「ハウジング・プア」−を考える

 私たちが貧困問題に取り組む上で必ず遭遇し、立ち向かわなければならないのは、相談者の住居の問題です。住居がなければ、人は何も始められません。生活を得るための就職活動も、連絡手段を得るための携帯電話の契約も、住居がなければままならないばかりか種々の生活支援制度にも繋がらないのが実情です。

 しかしながら、格差社会が更に進行している現在、路上生活者、ネットカフェ難民など、生活を立て直すための住居すら確保できない歪んだ居住格差が目の前に存在し、さらにはこれにつけ込んだ悪質な無料低額宿泊所等の貧困ビジネスも横行しています。市民の住宅に対する安心が脅かされています。このような現実が、二〇〇八年暮れから新年にかけて日比谷公園に設けられた「年越し派遣村」をはじめとする、全国各地での様々な活動でいっそう浮き彫りになったことは、記憶に新しいところです。

 今年の五月集会では、このような「住居の貧困(ハウジング・プア)を考える」と銘打って、現在の我が国の住宅政策の問題点につき、認識を共有し、住居の確保を原点とした生活の立て直しを支援するためにどのような活動が求められるのかについて、積極的な議論、意見交換を行なう分科会を企画しています。

 講師として、神戸大学の平山洋介教授をお招きし、現在の我が国の住宅政策について、ご講演をいただく予定です。そのほか、市民の住環境に関する個別の問題として、(1)UR問題、(2)橋下大阪府政の住宅政策問題、(3)追い出し屋問題、(4)無料低額宿泊所問題、(5)保証人問題などについて、積極的に携わっている各団員からご報告をいただきながら、理解を深めていきたいと考えています。

 食だけでなく住まいすら失った人々への支援が、今こそ求められています。日々の業務の中で常に直面する住居問題について、関心をお持ちの皆さまの多数のご参加をお待ちしています。

⑤労働分科会(一日目)

事務局次長  近 藤 ち と せ

(1)東日本大震災と雇用問題

 東日本大震災の影響は、雇用問題にも深刻な陰を落としています。

 宮城、岩手、福島などの被災地では、事業所など職場そのものが崩壊し、解雇や雇止め、自宅待機などのケースが多発しています。また、直接的な被災地以外の地域でも、輸送経路の遮断、取引先の被災などの影響等による解雇・雇止めや自宅待機などの問題が生じている反面で、震災に便乗した非正規社員の解雇・雇止めなど悪質な事案が多発することも懸念されます。

 さらに、福島原発では、原発で働く労働者の過酷な労働実態も指摘されており、原発労働者の健康と安全をいかにして守るかも、重要な課題です。

 そこで、今回の五月集会では、これらの大震災に伴う雇用問題等について、情報交換をするとともに、議論をしたいと思います。

(2)派遣切り・期間切りに関する裁判闘争等についての報告・意見交換

 松下プラズマディスプレイ最高裁判決後、各地の裁判所では労働者の権利を無視した不当な判決が多く出されています。他方で、日本トムソン神戸地裁姫路支部判決等、勝利判決も出ています。各地の裁判闘争の現状と課題を出し合って、裁判勝利に向けて何が必要か、報告・意見交換をしたいと思います。

(3)派遣法抜本改正・有期法制規制強化のための問題提起と討議

派遣法や有期法制については、関西経済連合会などから規制緩和を目指す提言がなされるなど、揺り戻しの動きが強まっています。非正規労働者の不安定な雇用状況を改善するには、派遣法の抜本改正と有期法制の規制強化が必要です。派遣法抜本改正、有期法制の規制強化に向けた全国の団員の活動について、意見交換をしたいと思います。

⑥司法分科会(一日目)

事務局次長  坂 本 雅 弥

 今年の司法分科会一日目と二日目の前半は、裁判員制度の見直しをテーマにした企画を行います。

 二〇〇九年五月に施行された裁判員制度は、平成二三年一月末時点で、全国で三一四九件の起訴がなされ、そのうち一九一八件の判決が言い渡されています。この間、複雑な事件や死刑が求刑される事件など、難しい事件の審理もなされています。

 裁判員制度は、施行後三年にあたる来年五月には見直しの検討がなされます(裁判員法附則第九条)。今まで、司法問題委員会は、五月集会、総会、拡大司法問題委員会等で、全国の団員の皆さまと裁判員裁判についての経験や問題意識についての意見交流を重ねてきました。

 本年四月三〇日に開催される拡大司法問題委員会では、裁判員制度の見直し試案(改訂版)について意見交流をしますが、五月集会の分科会では、この拡大司法問題委員会での交流を踏まえた上で、さらに団としての見直し案の内容を固めていく予定です。司法問題委員会としては、できるだけ多くの団員の皆さまの経験や意見をうかがい、見直し案の確定をしてきいたいと思います。裁判員裁判を経験された団員の皆さまや刑事事件に関心のある団員の皆さまのご参加をお待ちしております。 

⑦環境・公害分科会(一日目)

事務局次長  愛 須 勝 也

 東日本大震災で起こった福島原発事故によって、原発の「安全神話」は崩壊し、見えない放射線に対する恐怖と政府・東京電力の情報隠蔽によって、国民の中に不安が広がっています。また、世界もこの事故に注目し、ドイツでは、環境政党「緑の党」が選挙で大躍進するなど、世界中で原発見直しの機運が高まっています。

 五月集会の行われる松江市には、中国電力の島根原子力発電所二機が稼働しています。県庁所在地で原発が稼働しているのは、松江だけであり、島根県庁、五月集会の会場から原発までは八キロしか離れていません。この地で、今、福島で何が起こっているのか。今後、この事故がどのような影響を及ぼすのか。私たちは、今後何をすべきか。原子力問題に詳しい科学者、島根原発差止め訴訟に取り組む地元団員、地元で原発増設の反対運動に取り組む住民にご参加いただき、これまでの全国の取り組みなども交流しながら、今後、私たちは何をすべきか議論したいと思います。

●分科会(午前九時二〇分〜一一時二〇分)

第二日目 五月二三日

①憲法分科会

事務局次長  愛 須 勝 也

 普天間基地撤去をめぐる運動は、昨年五月に日米合意がなされたものの、沖縄を中心とする全国各地の運動により、知事選挙において現職の仲井真知事が県外移転を言わざるを得ない状態になり、現実的には辺野古への移転は不可能な状態にあります。

 このような状況において業を煮やしたか、ケビン・メア米国務省元日本部長の暴言が報道され、沖縄県民の大きな怒りを買いました。メア発言は、沖縄県民を侮辱する許し難い発言ですが、そこには辺野古移転を推進する日米両政府の考えが示されています。また、鳩山前首相の「抑止力は方便」発言の中で、前首相は「米国は沖縄にいることでパラダイスのような居心地のよさを感じている。戦略的なメリット当然だが思いやり予算、県民の優しさも含めて。」と発言しました。時の最高権力者の「パラダイス」発言は、米軍基地の本質を示すものとして無視できないものです。日米合意の破綻はいっそう明らかになっています。

 現在も沖縄では、沖縄防衛局が名護市に異議申立をしたり、東村高江のヘリパッド建設を強行しようとしており、これに反対するたたかいが全国各地の運動と連帯して行われています。

 一方、政府は、昨年一二月、「新防衛大綱」を発表し、専守防衛を建前とする「基盤的防衛力構想」を投げ捨て「動的防衛力」に転換し、米軍と自衛隊との連携、自衛隊の海外派兵を推し進めようとしています。そこでは中国や北朝鮮に対する脅威論が強調され、尖閣問題を通じてマスコミでも垂れ流されました。こうした動きとあわせて、国会の憲法審査会の審査を始めようとしており、憲法を踏みにじるますます危険な領域に踏み込もうとしています。     分科会では、新防衛力大綱の危険な中味を明らかにし、米軍基地、普天間基地撤去の運動の再構築に向けて全国のたたかいの教訓を交流したいと思います。

②教育分科会

事務局次長 與 那 嶺 慧 理

 今年夏、二〇一二年度用の中学の教科書の採択が、全国各地で行われます。

 本来、中学校三年生が学ぶ公民教科書は、将来の社会を支える子どもたちに、日本国憲法の思想や人権の大切さ、国際平和の精神を伝える大切な教科書です。

 しかし、新しい歴史をつくる会(通称「つくる会」)の公民教科書は、日本国憲法を「改正」すべきとし、自衛隊の海外派兵は当然だという視点に基づいて書かれているものであり、子ども達に渡す教科書として、きわめて不適切な内容となっています(なお、今年度は、「つくる会」の内部分裂により、自由社と育鵬社の二社から、それぞれ、公民教科書が出ています)。

 これまで、「つくる会」の歴史教科書については様々な分析や批判がなされてきましたが、公民教科書についての分析や批判は十分になされていないというのが現状です。

 本分科会では、今年度の二種類の「つくる会」系の公民教科書(自由社版、育鵬社版)の問題点を分かりやすく解説いたします。

 また、今年の教科書採択において、「つくる会」教科書(歴史・公民)を採択させない各地での運動を作るために、二〇〇五年度など過去の取り組みや、二〇〇八年以降の各地での動きについて学び、意見交換をしたいと思います。

 みなさんのご参加をお待ちしています。

③貧困分科会(二日目)+構造改革分科会

事務局次長  久 保 木 亮 介

大震災が問う「構造改革」路線〜「『構造改革』分科会」への参加を呼びかけます!

 「構造改革」の名のもと国民・住民の命と暮らしを守る国・地方自治体の役割が後退させられてきた日本社会を、未曾有の東日本大震災が襲っています。多くの公務公共労働者が住民の救援と復旧・復興に向け昼夜を問わず奮闘しています。しかし、市町村合併により住民との絆が弱まっている自治体が多いうえ、津波により自治体機能そのものを喪失してしまった地域も少なくなく、復興への道のりは長く苦難に満ちたものとなるでしょう。

 五月集会「『構造改革』分科会」では、被災地の救援・復興の現状についてのリアルな報告を得ながら、これまでの「構造改革」路線を厳しく検証してゆきます。

 被災地や被災民の避難先のハローワークに人々が列をなす、被災民の生活保護申請が急増し生活保護受給者が200万人に迫るなど、被災に伴い、国や自治体が国民・住民の生活崩壊を防ぐべく、緊急に対応しなければならない課題が山積しています。また、大震災のもとで行われている地方選挙では、「安心・安全、福祉のまちづくり」が否応なく争点となっています。

 これまでの新自由主義イデオロギーに基づく施策(「構造改革」、「地方分権」、「地域主権」、「道州制」)が、根本的な見直しを迫られていることは明らかです。他方で、「道州制の導入も視野に入れた自治体間協議」(日本経団連)、「震災復興は地域主権で」(関西広域連合)、「構造改革で危機克服を」(三月二九日・日経コラム「十字路』)など、今回の震災をさらなる構造改革推進の契機にしようとする動きもすでに始まっています。「震災をきっかけに東北を構造改革特区に指定し、法人税減税で企業進出を促す」(三月二四日・産経ニュース)など、企業本位の「復興」論も広がりつつあります。これらとどう切り結んでゆくかも、今後の重要な課題となるでしょう。分科会でも、突っ込んだ討論を予定しています。

 震災のもたらした深刻な被害を乗り越え、国民・住民本位の真の復興を進めてゆく上で、自由法曹団の役割が問われています。震災から住民を守り、憲法二五条の生存権を実現するための国と自治体の在り方、新たな福祉国家像をいかに提示してゆくかについても。充実した討論を予定しています。多くの団員の参加を呼びかけます。

④労働分科会(二日目)

事務局次長  近 藤 ち と せ

(1)正規社員を巡る裁判闘争等についての報告・意見交換

 JALは、営業利益や希望退職について再生計画上の目標を達成しているにもかかわらず、パイロットと客室乗務員合計二〇二名の不当解雇を強行しました。JALによる不当解雇は,整理解雇四要件を否定するものであり、今後の労働者の雇用問題に与える影響は極めて重大です。

 二〇〇九年末、日本年金機構への移行に伴い、五二五人の職員が分限免職処分を受けました。昨年相次いでなされた人事院への異議申立については、現在、各地で公開審理が行われています。また、京都では、全国に先立ち国に対し分限免職撤回を求める訴訟も提起されました。社会保険庁解体を巡る問題や、その他公務を巡る問題について報告・討議をしたいと思っています。

 NTT配転強要事件や津田電気高年法事件などの事件についても報告をいただき、討議したいと思います。

(2)臨時職員等の雇用を守るたたかい、労働者性をめぐる問題等

 各地で臨時職員等の雇用を守る裁判闘争がたたかわれています。また、新国立劇場事件等労働者性をめぐる問題は、最高裁で弁論が行われています。これらの問題についての意見交換をしたいと思います。

⑤司法分科会(二日目)+治安分科会

事務局次長  坂 本 雅 弥

 二日目の前半は一日目に引き続いて裁判員制度の見直し案についての意見交流をし、後半は裁判員制度の見直しに関する意見交流を踏まえた上で、取調過程の全面可視化と証拠の全面開示の実現に向けた意見交流を行います。

 過去多くのえん罪事件でも明らかなとおり、えん罪防止のためには、取調過程の全面可視化と証拠の全面開示は必要不可欠です。しかし、最近発表された最高検察庁の方針は、地検特捜部の取調べについて一部録音録画をするにとどめ、しかも録音録画の範囲や内容は担当検察官の裁量に委ねるとしています。このような一部可視化では、検察側にとって都合の良い場面だけしか可視化されず、かえってえん罪を生じさせるおそれがあります。

 分科会では、取調べ過程の全面可視化と検察官の手持ち証拠の全面開示の実現のために、「何が必要で、どのように実現していくか」など、今後取り組むべき運動面を含めた意見交流を行いたいと思います。刑事事件に関心のある団員の皆さまのご参加をお待ちしております。

⑥環境・公害分科会(二日目)

事務局次長 愛 須 勝 也

 この間、泉南アスベスト訴訟控訴審でのたたかい、新潟水俣病訴訟での和解成立、B型肝炎訴訟の和解をめぐるたたかい、よみがえれ有明訴訟における福岡高裁判決、薬害イレッサ訴訟での大阪、東京地裁判決など、全国各地の公害・環境訴訟において、たたかいが続き、貴重な成果が生まれています。これらの全国のたたかいの教訓を交流・議論したいと思います。


*島根県特集*

島根での活動について

島根県支部  田 上 尚 志

 早いもので、福岡から島根に移って六年以上経ちました。もともとは日弁連のひまわり基金で公設事務所所長として赴任したのですが、そのまま事務所を個人事務所にして、こちらに居ついてしまいました。皆様は島根のことはよくご存じないかも知れませんが、島根県東京事務所の公式見解としては、日本で四七番目に有名な県だということです。あと、砂丘もありません。ちなみに県人口は約七二万人です。

 島根県は、昔の出雲国(東側)と石見国(西側)が一つになって島根県となっています。県の政治や経済は、どうしても人口が多く、県庁所在地である松江市を擁する出雲地方になってしまいます。私が事務所を構える浜田市は、西の石見地方の中心都市ですが、人口は六万ちょっとです。このような田舎なので、島根に移った当初は、仕事は少ないかもしれないけど、弁護士も少ないだろうからまあ何とか食べてはいけるだろうと思っていました。しかし、予想と現実とは大違いで、毎日、新たに持ち込まれる事件と格闘しています。

 石見地方には、浜田市に松江地家裁浜田支部があり、益田市に同益田支部の二つの地家裁支部があり、この二つの都市に法律事務所がありますが、全部で七つ法律事務所があるうち、一つは法テラスの事務所であり、二つが公設事務所です。これらの法律事務所は弁護士に任期がありますから、微力ではあっても島根に定着(居座ったのかも知れませんが)した私の事務所に事件が集まり易いのかも知れません。

 それはさておき、石見地方は以前、日本最悪のクレサラ無法地帯だったかも知れません。真面目な県民性、弁護士の不存在といった様々な要因から、受任した過払金返還請求訴訟の訴額平均は一〇〇万円を超え、ワ号事件となる訴訟が続出しました。回収額は合計して二五億円を超えたと思います。夫婦合わせて二〇〇〇万円近い過払金を回収したこともありました。また、悪質リフォーム、先物取引、未公開株と消費者被害も後を絶ちません。島根は日本で最も高齢化しているので、比較的高齢な方からの相談も多いのですが、このような事件で債務を帳消しにできたり、あるいは多額の過払金を回収できたとき、自分では大したことはしていないと思うのですが、依頼して頂いた方々の少しはお役に立てたのかと思います。

 その一方で、最近はインターネット等の発展により、都会との情報格差はずいぶん縮まってきたと感じます。都会の図書館に行かなくても、必要な文献がネットで簡単に、しかも無料で入手できたりします。

 島根に来て、田舎に来て、充実した日々を送れていると感謝しています。


*東日本大震災*

被災地からの報告

宮城県支部  庄 司 捷 彦

(一)石巻が壊れました。

 自由法曹団のいくつかのMLの中で、私の安否確認の通信が飛び交っていたことを、私自身が知ったのは震災後一週間を経た後のことでした。私が無事であることは広島に住む二男の手になるインターネット上の書込に目を留めてくださった団員(静岡の萩原さん)がいて、彼発のメールが伝播していたことを、後日確認することができました。停電が数日続き、電話回線も不通(現在も不安定)という状況でしたので、多くの方々にご心配をおかけしたことになりました。心からの感謝を覚えております。

 本当に幸運に属することですが、私の事務所も自宅も(そして裁判所も)海岸から一キロ位の位置ですが、海抜四〇メートルほどの高台にあります。地震振動は大きかったものの建物被害はなく、大津波とも無縁でした。被災当日は、直ちに停電となったため、テレビを見ることも出来ませんでしたので、大津波による悲惨な被害を知ったのは翌朝のことでした。海抜五〇mほどの高台からの見た町の風景には言葉を失いました。一つの町(南浜町)が完全に燃え尽き、或いは家屋が流されて、まるでヒロシマの映像のようです。川中央の中瀬と川向の湊町に目をやれば津波で破壊され、倒壊した家屋が重なり合っています。町中央の橋(内海橋)の上には三隻の船舶が重なり合って載っかっています。川向かいに住んでいた実弟方ではその家屋が津波で破壊されました。かれは町内会の役員として、避難所の世話役を続けています。

 このように、私の住む石巻市は甚大な被害を受け、現在も尚二万人を越える人々が避難所で暮らしています。津波は海岸から数キロまでの家屋を破壊しました。この地域に存在していた数百の水産加工工場は壊滅状態です。数千人の職場が喪失したことになります。家屋も職場の消失しているのです。生活基盤は完全に崩壊したのです。親族や友人らの安否確認が一段落したこの頃では、明日からの生活への不安が強まってきています。町の主力工場であつ日本製紙が工場存続を決定し、少しの安堵感が拡がりましたが、もう一つの柱の水産業は展望が全く見えていません。塩水で冠水した田畑の再生にも、多くの時間と費用を必要とされるでしょう。

 昨日、法律相談の一環として、市役所で「養子縁組届出書」を提出しようとしました。ところが市役所窓口では、「現在は死亡届出だけを受理しています。他の届出は受理できません」との対応で、提出できませんでした。このようなとき当事者の片方が急死した場合を想定すると、理不尽な対応に思われます。これも震災後の一つの現象です。

(二)産業振興策の提言

 試案としての産業振興策を以下に記します。

 皆さんからの積極的なご意見をお待ちします。

(1) 巨大な国家資本を導入して数多くの会社(国営企業)を設立す る

(2) 国営企業の営業は、建設(道路改良、公共建物の建築、護岸工 事など)、漁業(造船、漁業資材の製造、漁業資源の獲得、漁船 ・漁具類の貸与、水産加工場の建設・整備と加工業の展開など) や農業(土壌改良や休耕地での農業など)を分担して担う

(3) 国営企業の運営は、これまで地元で「私的資本」として事業展 開をしてきた人々に委嘱する(民間会社と国営企業間の業務委託 契約)

(4) この事業の労働者は、被災により職を失った人々を優先して雇 傭する

(5) 産業基盤が確立した後(五〜一〇年後)、これらの企業は民間 へ払い下げる

(6) 仮設住宅は労働者定着のための経過的施策です。

(7) 津波被害は強い恐怖感を遺しています。従来の居住場所への復 帰は強い抵抗感があります。安全性に特別に配慮した集合住宅を 多数建築して、各被災者の再出発を支援すること。

以上の構想は明治維新期の産業振興策にヒントを得てのものです。

 この国営企業による産業振興は、各被害地(大船渡、陸前高田、釜石、気仙沼、南三陸、石巻、いわき)等の広範囲の市町村で展開されるべきでしょう。国が総力を挙げて、急いでの、そして多方面での、力強い起業を為し、その事業展開を始めることが、被災各地で、強く強く求められているのではないでしょうか。

(三)現地調査を歓迎します。

 団本部から、現地調査団の派遣が検討されていると聞きました。被災地はまだ混沌とした状況にありますので、調査団への対応には限度があろうかと思います。特に各自治体は、被災の規模や程度に質的な相異点も指摘されていたり、首長の施策にも温度差がある様子です。自治体責任者との対話を確保することは困難かもしれません。

 しかし、東北に点在している団員は、それぞれの拠点からの実情を伝えることが出来ます。中央での議論に各地から参加することが可能となり、議論を深めることに少しの貢献にはなるでしょう。

 是非、「石巻のヒロシマ、石巻の沖縄」をご覧ください。同じ風景が、気仙沼にも、陸前高田にも、大船渡にも、そして仙台市若林にも、あることもお忘れなきように。

(二〇一一・三・三〇)


福島の現状

福島支部  渡 邊   純

 福島県は広い。西から会津、中通り、浜通りに分かれる。

 浜通り(北は相馬、南はいわき)は、地震及び津波の被害が甚大。海岸線がなだらかな相馬では、七・三メートルの津波が襲い、海岸線から二kmの範囲が壊滅。いわきでも、海岸線を中心に広く津波被害。いわき中心部ではまだ上水道も復旧していないところが多い(いわき市の見込みでも、全面復旧は四月下旬になるとのこと)。

 中通りでも広く地震被害が襲った。福島市では、国道四号線が崖崩れで崩落。崩落地点は上水道の太いパイプが埋設されていたが、それが切断され、福島市の中心部を含めた暖水が長く続いた。郡山市の場合、電気や水道などのライフラインの復旧は比較的早かったが、それでも一週間程度の断水。白河市では、ダム湖が決壊し、死亡・行方不明者が。東北新幹線は、那須塩原以北の被害(橋脚、架線の破損)がひどく、復旧は四月いっぱいかかる見通し。

 会津は比較的地震被害は軽かったが、それでも、各地で建物の破損、崖崩れなどが起きている。

 加えて、今回の大震災においては、東京電力福島第一原発事故(地震と津波により緊急電源が働かず、冷却系が機能停止)による放射性物質漏れの問題が大きい。

 現在のところ、原発周辺二〇km区域は立入禁止、二〇km〜三〇km区域は屋内退避となっているが、それ以外の区域住民も、健康被害を恐れ、また生活物資(水、食料、日用品、医薬品、燃料等)の補給が乏しいことから、県内外に自主避難している人も多数。自主避難した人の数については、おそらく自治体でも把握できていない。

 原発事故による健康被害、経済被害(風評被害も含め)がどの程度になるかは、今後の推移にもよるが、今のところ誰も推測できない。比較的原発から離れた地区の農民からは、農業補償についての相談が寄せられつつある。

 今のところ、原発事故に対する不安が被災者支援や復興への最大の阻害要因(物理的にも、心理的にも)になっていることは間違いない。

 ガソリンや生活物資の不足も引き続き深刻。中通りでは、横浜から新潟経由の鉄路石油輸送ルートができたため、ガソリンの補給については改善されつつある。また、中通りの都市部では、スーパーやコンビニなども営業しているが、品不足は変わらない(ただし、一時の買い占めムードは若干少なくなったような印象)。ただし、特に浜通りや過疎地域を中心に、物資の不足とライフラインの復旧の遅れは深刻。真偽不明ではあるが、物資輸送にあたるドライバーが浜通りへの輸送を拒んでいるなどという噂もある(さもありなん)。いわきでは、市役所職員や各種業者が原発事故を恐れて逃げ出したということを漏れ聞いており、原発事故の健康被害への懸念と、物資不足、ライフライン復旧の遅れがトリプルパンチとなって、市内中心部でも不安が広がっている。

 福島県弁護士会は、会館(福島市)自体は無事であったが、原発事故に対する懸念もあったことから、震災発生後約二週間にわたり、事務局機能がストップ。各支部の事務局も三月二二日まで業務停止。三月二〇日ころから、中通りの法律事務所が業務再開し始め、現在は、会事務局及び各支部事務局(相馬、いわきを除く)が稼働している。相馬、いわきでも、一部の事務所が稼働し始めているが、弁護士が避難しており、再開のめどが立たない事務所も多い。

 現在、福島県内の弁護士の被災者支援を阻害している最大の要因も、また原発問題。県内では、一時間ごとに環境放射線量測定値が公表されるが、避難者や住民(もちろん、弁護士を含む)はその測定値に一喜一憂し、原発の状況を伝える報道におびえる状態が長期間続いている。何と言っても、原発でいま何が起こっており、これからどのように事態が推移していくのか、被害がどれだけ広がるのか、短期的・長期的に見た影響がどうなのか、などについて、正確な状況把握に基づく情報が得られないことに、県民は不安を感じ、放射線被曝という見えない脅威におびえている。東電、保安院、原子力委員会、官房の発表もそれぞれ格別に行われ、相互に矛盾したり訂正されたりする。団員の中にも、家族を含めた健康被害等を恐れ、また生活物資の不足などから、一時的に県外に避難せざるを得なかった(ましてや、団外の弁護士も)。

 被災者支援のため、避難所での出張無料相談などにも取り組みたいと思っているが、原発事故の終息の見通しが立たない状況の中では、マンパワーが不足し、すぐに取り組むことは難しい。福島市の避難場所である県立あづま体育公園では、屋外で避難者や住民の放射線被曝スクリーニングテストが行われているが、避難所入り口でスクリーニング済みであることを示さないと避難所に入れないという信じられない取扱いがされているという新聞報道もある。

 福島県内の弁護士が一番望んでいることは、原発事故の終息方向の見通しに関する、信頼できる情報。それなしに、本腰を入れて被災者支援に取り組むことは困難である。

 原発事故の終息の見通しが立たない中で、被災地支援と復興のために何ができるか、考え続けている。

 震災や津波被害については、過去の阪神大震災や中越沖地震の例が参考になる。また、原発事故被害に対する対応という点では、JCO東海村事業所の例は参考になると思われる。しかし、規模の点でも、また、地震・津波・原発事故の重複という点でも、過去に例のない事態に対応せざるを得ない。

 原発事故については、いくつかのフェーズに分けて考えることができるだろう。

(1)まず、第一に、原発の安定停止と閉鎖が可能か、可能としていつ 完遂できるかの見通しをつけること。

(2)第二は、被災者の生活再建と補償をどうするか。

(3)第三に、町ぐるみ、村ぐるみで避難している人たちが被災地に戻れることを前提とした場合の、地域コミュニティと自治体の再建復興。

 ただ、難しいのは、これらのフェーズに分けたとしても、原発の安定停止と閉鎖が絶対条件であることだ。毎日、一喜一憂しながら、祈るような思いでニュースを見ているが、本当にもどかしい。

 今後、原発事故のフェーズと、被災者の居住場所(避難区域から村ぐるみ町ぐるみで避難している人たち、自主避難した人、とりあえずは避難せず、自分の住居にとどまっている人とでは、状況もニーズも異なる)にあわせた対策を打っていくことが必要だと思うが、事態の大まかな見通しも立たない状況では、困難が伴う。まずは、原発事故と被災者の状況についての情報を集める必要があるのではないか。少なくとも、原発事故に関する情報が不透明な点(組織的な情報隠し?)については、団なり日弁連なりがきちんと問題化していく必要があるのではないか。


「二〇一一・四・二仙台現地調査報告」

神奈川支部  沢 井 功 雄

 東京から仙台に向かう深夜バス乗車の途中から(福島県あたりからか)、道路に段差が多く起こされることが多かったです。途中で止まったサービスエリアのガソリンスタンド(仙台のガソリンスタンドも)は、気が遠くなるような長い行列でした。四月中には、新幹線が開通するようですが、車で現地入りされる方は、今後注意必要です。

 予定より一時間早い午前五時三〇分に仙台駅に到着しました。早朝の商店街は、ほとんどのお店が閉まっていました。道行く人に聞いたら、なぜかすき屋だけは開店していますとのことでした。すき屋は見あたらないので、近くのまんが喫茶に行きました。申し訳ありませんが、まんが喫茶と伊賀先生、田中先生のミスマッチ、一方で、まんが喫茶と小部先生、西田先生の見事なマッチぶりが対照的でした。

 当職は、久保木先生の報告にもある石巻・女川班とは別行動で、伊賀先生、田中先生、宮城の小野寺先生らと、仙台若林区、太白区を視察しました。現地からの情報でタバコ(特に国産)がないと聞いていたので、現地調査の運転をして下さった自交総連に東京からもってきたタバコをカンパ(東京でも国産タバコは、買える個数が制限されています)しました。宮城支部にもカンパしましたが、菊地先生しか吸わないようなので、今後は、カンパの内容を再考します。

 仙台市若林区の深沼海水浴場にまず向かいました。遺体が海岸に数百体並んだ場所です。都市部(後述する太白区緑が丘の住宅街の様な場所を除く)は、建物損壊、土地亀裂は見られるものの、風景に余り変わりはありません。東北自動車道の高架を越えると、風景が一変します。現地の避難所で生の声で印象的だったのは、あの高架のせいで、津波が押し戻され、逆流のエネルギーで、私らの被害が増したのだという声です。気が重くなりました。津波被害の恐ろしさは、すでに皆さんが報道で見られているとおりです。気になったのは匂いです。まだまだ海が見えないのに、潮の香りがしてきます。田んぼを含めた土地が海水につかっているからです。泥だらけの土地、建物、自動車らの瓦礫、そして瓦礫の下に未だ埋まっているかもしれない遺体。撤去だけでも途方もない作業になるのは想像するに難くありません。労働者はもちろん、事業者も、全てが生活基盤を失い、自治体の機能も不全の状態です。農業、漁業、林業、工業の復興は、気が遠くなるような年数とエネルギーを必要とするでしょう。

 生徒・住民が、緊急避難して一日を過ごして救出された東六郷小学校は、校舎の中に軽トラックが乗り入れてありました。校舎内は、早朝でも息が白く寒かったです。トイレは流されておらず、異臭が漂っていました。津波の轟音、トイレの異臭、暗さ、寒さ、いつ建物が崩れるかわからない状態で過ごした避難者の一泊の恐ろしさが身にしみて伝わってきました。

 避難所の六郷小学校は、そもそも生活環境が整った場所ではありません。神奈川の避難所しか目にしていませんが、まさに雲泥の差です。臭気もしましたし、文字通り足の踏み場もないすし詰め状態で、高齢者、子どもが多く、病気になったら、すぐ蔓延してしまうのでは・・・と不安になりました。陸の孤島のように無事だった特別老人養護施設(二階は無事でしたが、一階は津波の影響で泥だらけです)の二階で寝た切りの要介護者のケアも心配です。

 太白区の長町駅前に三一五〇戸建設予定の仮設住宅の一日も早い完成と避難所住民含めた住居喪失、損壊者、全ての速やかな移転が望まれます。仮設住宅建設予定地区はもともと仙台中華街になる予定だったらしいのですが、何ら中国系にルーツのない長町に中華街作るよりは、余程世のため、人のためになる有用な利用方法でしょう。

 その後、太白区緑が丘の住宅街に移動しました。今回の震災は、(1)地震、(2)津波、(3)原発事故の要素があわさることで、被害の大小を図ることもあるようですが、単純に足し算で被害の大小を図ることが出来ないことがこの住宅街を見てよくわかりました。建物は、耐震構造がなされている影響か損壊があまり見られません。問題は、塀や何よりも造成地の地盤が崩落して地盤割れが著しいことです。建物危険ならぬ宅地危険は正直生まれて始めて見た気がします。

 岩手、福島の被害状況は、現地の団員の意見を聞いただけですが、それぞれの地域の特性もあり被害状況は様々で、どこも被害は形を変えども、当たり前ですが、深刻のようです。宮城の先生方は、とても暖かく現地調査団を迎えてくださいましたが、やはり疲れておられるという印象を受けました。救助もそもそもまだ終わっておらず、復興への道のりは遠いですが、現地の団員らと密接に協力し合い、この問題を取り組んいこうとの思いを強くしました。

 帰りは、高速バスの中で、段差も気にならならないくらい疲れで寝入ってしまった〇泊三日の現地調査報告でした。


「原発事故対策」PTの発足にあたって

埼玉支部  大 久 保 賢 一

はじめに

 東日本大震災対策本部内に「原発事故対策」のプロジェクトチーム(PT)が設置され、私がチームリーダーとなった。そこで、このPTが何をすることになるのかについて、現時点での決意と方針を述べておくこととする。

 今回の大震災は、大地震と大津波と原発事故を伴う事態となった。被災された方の胸中を察すれば何とも言葉を失ってしまう。けれども、何かできることはあるはずだし、できることから始めなければと決意している。

 とりわけ、原発事故は、現在も進行中の災害であり、その帰趨は予断を許さない状況にある。「最悪の事態」を想定して「最善の対処」が求められている。原発の冷却や放射性物質の拡散防止のために、法律家が何かできるわけではない。関係者の必死の努力に感謝し、その成功を祈るばかりである。

 その上で、今回の「原発震災」(石橋克彦・神戸大学名誉教授)に対して、どのように考え、どのように対処するのかを展望しなければならない。

一 今、何が起きているのか

 政府は、既に、原子力緊急事態宣言(原子力災害対策特別措置法一五条)を発令している。「異常な水準の放射線量」が確認されたためである。IAEAは、スリーマイル島事故を超えチェルノブイリ事故に迫る重大事故だとしている。また、「広範で深刻な放射能汚染の可能性」(元原子力安全委員会委員長などの「福島原発事故についての緊急建言」)も指摘されている。事故の終息のめどは立っておらず、社会的不安と混乱は増大している。私たちは、「民族的安全が危機に瀕する事態」(不破哲三)を避けなければならない。

二 人体への影響

 今回の事故は、「環境破壊」、「生活破壊」、「労働の機会の喪失」、「風評被害」などを伴っているが、人体への影響も懸念されている。政府や一部の「有識者」は、「直ちには健康に影響がない」としている。その観測された放射線量が健康を害する程度ではないということを根拠としている(本当にそうであれば僥倖である)。けれども、その線量は「基準値」を超えているし、避難指示や屋内避難の勧告も出されている。「安全」と言われても納得できるものではなく、自主避難を選択する人たちも増えている。政府の対応は整合性を欠いているといえよう。

 しかも、政府の発表は放射線の内部被ばくの脅威については十分に説明していない。内部被ばくの機序は不分明の部分もあるが、その危険性は確認されているところであって、それを軽視することは許されない。

 他方、放射線を闇雲に恐れることも控えなければならない。放射線の人体に対する影響や対処策についての蓄積もあるからである。また、今後、対処策も改善されるであろう。恐怖心が先行するパニックは、むしろ、より大きな混乱と不幸を招くことになる。私たちは冷静でなければならない。

三 当面求められること

 現在も、放射性物質が漏出し拡散している。とにかくこれを阻止しなければならない。問題は、その核種、放射線の種類、線量などについて、その計測日時・場所・方法なども含めて生データは開示されていないことである。また、当該原発の構造についての情報(設計図書や構造計算書類など)も開示されていない。「企業秘密」を前提とすれば、開示など無理であろう。今、求められていることは「嘘をつかないこと」、「隠さないこと」である。

 そして、それらのデータや情報を基に、東電や政府の影響を受けていない、原発に懐疑的な専門家を含めて、解析と検討がなされるべきである。危険の過小評価はその危険性をさらに高めることになるし、対処が遅れることになる。

 この情報開示と専門家の総力結集とを基礎として、統一的な見解と具体的な指示が出されるべきである。冷静かつ合理的な指導部と不退転の現場の作業が求められている。オールジャパン体制の確立である。

四 東電の責任追及

 東電は、今回の事故が「想定外」であったかのようにいう。「異常に巨大な天災地変」(原子力損害賠償法三条但書)を念頭に置いてのものであろう。けれども、それが通用しない弁解であることは明らかである。国会での共産党の論戦、政府審議会での専門家の指摘、地元県議や運動体の申し入れなど、今回の事態は想定されていたのである。更に、東電の無責任さは、現場で作業に当たる労働者を極めて劣悪な環境に置いていることにも現われる。安全性を無視し、効率と利潤追求に血道をあげてきた東電の責任は限りなく重い。

 短期的な補償措置要求(例えば、仮払仮処分)はもとより、直接損害にとどまらず、「土壌汚染」や「風評被害」を含めた損害賠償請求を視野に置かなければならない。

 合わせて、業界のいうままに原発を推進してきた政府の責任も問わなくてはならない。

五 原発政策の見直し

 原発の危険性は、(i)核分裂エネルギー利用のそもそもの危険性、(ii)日本は地震列島であること、(iii)核廃棄物処理の困難さ、(iv)核兵器への転用の危険性などである。

 しかし、原発はエネルギー供給源である。核兵器が殺傷の道具であることとは違う。彼我の違いは念頭に置かれるべきであろう。また、CO2を出さないので、温暖化対策にも有効だとされ、「クリーンエネルギー」だの「原子力ルネサンス」などとも言われてきた。

 「福島原発事故」はこの(i)、(ii)の危険性を顕在化させた。「原発安全神話」の崩壊である。推進一辺倒だった政策が根本から見直されなければならないのは理の当然である。速やかに全国の原発の安全性を総点検し、危険な炉から停止すべきである。また、原発推進性勢力である電力業界を監視し、制御できる強固な機関を設置すべきである。原発に依存しないエネルギー政策の確立も求められている。これは、私たちの社会と生活のあり方そのものを問いかけることにもなるであろう。

おわりに

 「福島原発事故」は、これまで私たちが経験したことのない事象である。二度と起きて欲しくない事故である。そのために何ができるのか、何をしなければならないのかが問われている。

 原発問題についての団の蓄積はない。私自身も、核兵器廃絶や原爆症認定訴訟に関わってきた経験はあるが、原発問題は門外漢である。加えて、遠い昔の高校時代、物理の成績は一〇段階の三だった。そんな私が、「原発事故対策」PTのリーダーなどとは思いもよらなかった。皆さんの協力と理解がなければ、空回りするだけであろう。

 未曾有の事態に立ち向かうのは、私たちの本懐とするところではなかろうか。ぜひ、皆さん方の力を貸して欲しい。私も、「非力ではあるが無力ではない」と自分に言い聞かせながら任務を全うしたいと決意している。

(二〇一一年四月六日記)


北海道における教育現場の危機

北海道支部  神 保 大 地

一 はじめに

 いま、北海道の教育現場では、職務命令を背景にして、学校長が各教職員に対し、「あなたは卒業式で君が代を歌いますか」などと公然を質問をするという状況が生まれています。

 また、二〇一〇年三月には、北海道教育委員会(以下「道教委」という)が「あなたは、学校内でカンパの集金をしたことがありますか」「あなたは教研集会に参加したことがありますか」などと、教職員の内心の披瀝を要求する調査を行うよう学校長に要請し、実際このような調査が広く行われました(以下「本件実態調査」という)。さらに、道教委は、二〇一〇年五月、道民が「学習指導要領に違反する行為が‥(略)‥まさに行われようとしている旨を」道教委へ報告するといういわば密告のような制度に関する要綱を策定し、施工しました(以下「本件情報提供制度」という)(以下合わせて「両制度」という)。

 このように、北海道では、教育現場に著しい反動が起こっています。このことに関して、現在進行形ではありますが、北海道支部団員が中心となっての取り組みを行いましたので報告いたします。

二 両制度の背景、内容及び問題点

(1)背景

 両制度の直接の契機は、二〇〇九年九月に、ある公民科授業(北海道のある道立高校の公民科の授業で、教員が生徒に、選挙公示日当日の新聞社説(北海道で広く読まれている新聞)の穴埋めを行わせ、各政党の公約を調査させたという内容)を「偏向教育」として、道教委が全道調査を指示したこと、及び、その後二〇〇九年八月実施の選挙について、二〇一〇年三月にかけて政治資金規正法違反(企業・団体献金の禁止)によって、組合役員と組合が起訴されたことにあります。

 しかし、実際には、一九九九年八月の国旗国歌法の施行、二〇〇六年一二月改訂教育基本法施行、新学習指導要領の実施(一一年四月から小学校、一二年四月から中学校、一三年四月から高校。拘束力強化が謳われている)という流れが大きな背景としてあると言えます。

(2)本件実態調査

 このような中、道教委は、国会や北海道議会での質疑に応えざるを得ないという形で、二〇一〇年三月三〇日、教育長名で、本件実態調査についての通知を発しました。本件実態調査は、学校長が面談で教職員一人一人から、「勤務時間中の組合活動」「教職員の政治的行為」「長期休業期間中の校外研修の状況」などに関して、聴き取り調査を行うというもので、道教委の出した文書には、上記のような問いが記載されている他、「調査に当たっては一切交渉に応じる必要はない」「職員が聴き取りを拒否した場合は、‥(略)‥職務命令を発することが可能である」などと記載されていました。

 本件実態調査に対しては、道教委の調査結果でも、組合活動について一三%の、政治的行為について一七%の教職員が回答を拒否しており、教職員から強い批判と抵抗がなされたことが窺えます。

(3)本件情報提供制度

 そして道教委は、立て続けに、同年五月三一日、北海道教育委員会教育長決定として本件情報提供制度についての要綱を策定し、施行したのです。本件情報提供制度は、法令等に「違反する行為が‥(略)‥まさに行われようとしている」場合にも、情報提供を可能とするもので、事前の抽象的な可能性に基づく情報提供がなされる可能性があります。また、大綱的基準としての範囲でのみ法的拘束力が認められると考えられる学習指導要領に、法令等と同様の法的拘束力があるかのような誤解を与えるおそれのあるものです。

(4)両制度の問題点

 両制度は、思想良心の自由、表現の自由、教育を受ける権利、プライバシーの権利、団結権等、憲法上保障される多くの権利・自由を侵害することが明白なものです。詳しくは、下記集会で照会された意見書をご参照ください。

三 北海道支部団員の活動

 上記のように、両制度については、北海道内の教職員組合の批判と抵抗がなされ、北海道内各単位会に対し、六〇〇〇名を超える教職員の方々から、一斉に人権救済申立がなされました。これを受けて、札幌弁護士会(以下「札弁」という)人権擁護委員会、札弁憲法委員会、各単位会とで競技を行い、まず憲法委員会で憲法問題についての意見書を作成することとなりました。そこで、札弁憲法委員会内に、道教委服務規律問題対策プロジェクトチーム(以下「PT」という)が設立され、佐藤博文団員を始め、北海道支部の団員が多く参加することになりました。

 PTでは、数ヶ月を掛けて、意見書の作成を行いました。これに先だって北海道支部では、独自に両制度の問題点を一定程度ピックアップしており、PTでは、北海道支部での検討を踏まえた上で、さらに調査・検討を進めるという形で意見書の作成を行いました。

 そして、意見書がほぼ完成し、二〇一一年二月一九日、卒業式が間近に迫る中、北海道弁護士会連合会(以下「道弁連」という)と札弁の共催で、「緊急シンポジウム 憲法から北海道の教育現場を考える」が開催されました。

 約二〇〇名の会場に、約三〇〇名を超える参加者が参加され、急きょ、弁護士は会場外に出、会場の前後左右に補助椅子を出して対応することになり、二五〇部用意した資料は全然足りず、資料を「もう一部」という形で持ち帰る方も多く、全部で四〇〇人分を配布したとのことです。

 このように、参加者があふれる会場で、最近ではみられないほどの熱気と危機感を共有したシンポジウムとなりました。

 パネラーの姉崎洋一氏(北大教授)は、教育法学の立場から、国家的な国民相互の監視システムが、子どもの教育を受ける権利を実現するための教員の教育の自由を侵害し、管理職を含む教職員の間、教職員と生徒の間、保護者等との対話の関係を破壊すること、情報提供制度は、道民であればだれでも通報可能であり、「虞」まで通報対象としていることは深刻である。「民主主義国家」米国の愛国者法のもとで行われている図書館貸出カード等の情報収集等の実態を報告され、教育の本質に反する「密告・監視社会」化が進んでいく懸念等を指摘されました。

 奥野恒久氏(室蘭工大)は、憲法学の立場から、本件実態調査及び情報提供制度がもたらす教職員の思想良心の自由、政治的活動の自由等への著しい侵害についてお話しされるとともに、最高裁が、ピアノ伴奏事件等において、憲法上保障されている内心の自由と外面的な行為とを区分して判断することの不当性について、わかりやすく話をされました。

 平館英明氏は、自民党の「教育改革」の実験場が、広島県(日の丸・君が代での校長自殺事件を機に、教員や組合へのバッシングが凄まじく行なわれ、文科省・県教委のやり方が一気に席捲)、東京都(ご承知の通り)に続き、いま北海道が「第三の実験場」とされている、特に、道民からの「情報提供」を求める制度は、広島・東京にすら存在しない悪制度であることと指摘されました。

 参加者からの質問及びアンケートには、今回のシンポジウムが時宜を得た非常に充実した内容であったことの評価と併せて、今後この問題に継続的に取り組んでほしい、また、本意見書を是非教育委員会等に送付するなどして教育現場に生かせるように配慮してほしいとのメッセージが数多く寄せられました。

 冒頭にも書きましたが、この問題は、一九九九年八月の国旗国歌法施行から始まる、国家による国民統制の一環となるものといえます。

 その後、道教委は、「政治的行為には法令上厳しい制限があります」「教職員は子どものお手本です」などと記載したカラー印刷のリーフレットを大量に配布するなどしています。全く予断を許さない状況です。

 北海道だけの問題ではなく、全国的な広がりを見せる可能性のあるこの問題について、北海道支部では、引き続き取り組みを強めている所存です。


自由法曹団「国内人権機関開設をめぐる全国意見交換会」が開催されました

大阪支部  楠   晋 一

 二月一九日に大阪で常任幹事会が開かれるのに先立って、二月一八日に大阪弁護士会で国内人権機関開設をめぐる学習会が開催されました。

 私自身は、行政による人権侵害は今でも少なからず見受けられる、司法機関を通じてもその人権侵害はなかなか是正されない、国連の人権条約に関する各委員会から国内人権機関の設置を度々要求されているなどの日本の現状からすれば、当然国内人権機関の設置を目指すべきだろうと漠然と考えておりました。そのため、どうして団員の中からその設置に反対する声が上がるのか、その点について勉強したいと思い、今回参加させていただきました。

 学習会では、最初に藤原精吾団員から設置を推進する立場からの報告がなされました。平成二二年六月に法務省政府三役名で「新たな人権救済機関の設置について(中間報告)」が発表され、その中で政府から独立性を有する人権委員会の設置が謳われていること、平成二〇年に日弁連も政府から独立した国内人権機関の設置を求めていること、平成一四年に政府が成立を目指した人権擁護法案とは政府からの独立性の点などで大きく違っているなど、自分も知らなかった情報を知り、理解を深めることができました。

 引き続き、石川元也団員から同和問題をめぐる解同と行政の状況について報告がなされました。私自身はリアルタイムで解同の人権侵害を体験した世代ではありませんが、今回石川団員から実際に部落解放同盟が行ってきた人権侵害行為について具体的に説明していただきました。人権救済機関の設置に反対される方々は、解同などが国内人権機関の設置を利用して差別禁止に名を借りた人権侵害を再び行うのではないかという点に懸念を有しているということを知ることができました。

 弁護士会の人権擁護委員として人権救済申立てを審理する際に、調査委員に十分な調査権限が与えられていないことから公権力が行った人権侵害への救済の申立てに対して十分な調査が行えないことは私自身も経験しており、政府から独立した国内人権機関が強制力をもって公権力と対峙できるということは十分に意義のあることだと考えています。

 その一方で、解同が国内人権機関を利用して差別禁止に名を借りた人権侵害を行うことは許されることではありません。しかし、日弁連が提案するように、国内人権機関では私人間同士の問題は原則として扱わないことにし、人権委員の選任や事務局の人事、財政などにおいて政治的中立性が守られるようにすれば、解同の不当な介入は回避できるように思われます。

 解同の不当な介入の問題を許さない形で国内人権機関を速やかに設置できるように、私も勉強を続けてまいりたいと思います。貴重な勉強の機会を与えてくださった自由法曹団の皆様に感謝いたします。


ハーグ条約学習会のお誘い

自 由 法 曹 団 女 性 部

 東日本大震災の余波が、大きく日本全土を揺さぶっていますが、団員の皆様は、きっと元気で自分の持ち場で全力を尽くしておられることと思います。

 この時期にふさわしい学習会かどうか悩みましたが、やはり震災の支援活動と並行して情勢の流れも押えておく必要があるだろうと考え、上記学習会を行なうことに致しました。

 ハーグ条約は、国際結婚等の破綻による別居・離婚に伴い親の一方が、他方親の同意なしに、子どもをそれまで生活していた国から連れ去った場合に対処するための条約ですが、原則として子どもを元生活していた国に戻すことを目的としています。外務省も締結の方向と伝えられていますし、日弁連も二月の理事会で意見書をまとめています。

 どんな内容の法律なのか、条文を押えながら学習するとともに、具体的事案を通して、どのような問題が起こるのか、検討していきたいと思います。DVを受けて、自分の国に戻ってきた母子をどのように救済できるか、また、本条約が締結されたら、私たちの実務にどのような影響が起こるかなど検討事項は盛りだくさんです。

学習会の場所・時間は次のとおりです。皆さんふるって参加下さい。

日 時:二〇一一年四月一八日(月)一〇時三〇分〜一二時〇〇分

場 所:団本部


東日本大震災・被災者支援 四・一三「街頭労働・生活相談会」に参加しましょう!

労 働 問 題 委 員 会

 三月一一日一四時四六分に発生したマグニチュード九・〇の東日本大地震は、四月四日現在で、死者一万二一五七人、安否不明者一万八〇六三人、避難者一六万〇三五一人の被害を与えています。このような中で、東日本大震災の被害や東京電力の計画停電で、無給の休業を通告されたり、解雇や雇止めされたりする労働者が、被災地以外でも急増しています。二〇〇八年秋のリーマン・ショックの時のように、再び派遣工切り・期間工切りの嵐が吹き荒れようとしています。

 自由法曹団は、東日本大震災の被災者支援活動の一環として、全労連、労働法制中央連絡会ともに、四月一三日、JR新宿駅西口で、「街頭労働・生活相談会」を持つことにしました。この相談会では、労働・生活相談とあわせて、労働者派遣法の抜本改正と有期労働契約法制の規制強化も訴えます。

 関東近県を中心に多数の団員・事務局の皆さまが参加されることを呼びかけます。

 東日本大震災・被災者支援
 四・一三「街頭労働・生活相談会」

○日 時:二〇一一年四月一三日(水)午後五時〜七時

○場 所:JR新宿駅西口

○内 容:休業、解雇、雇止め等についての労働相談 、被災生活の中で発生する問題についての生活相談

○主 催:自由法曹団・全労連・労働法制中央連絡会

(終了後、全労連等と一緒に懇談会を持ち、今後の活動について意見交換をします。)