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菊池  紘 暑中お見舞い申しあげます。
園田 昭人 ノーモア・ミナマタ訴訟の和解の成果及び今後の活動
川本 美保 飲酒運転による懲戒免職処分取消訴訟事件報告
吉田 悌一郎 東日本大震災
〜法律家に求められる今後の被災者支援活動における課題〜
中島  晃 安斎育郎先生からの手紙
牛久保 秀樹 ILOは、非正規雇用のシンポを行う
―郵政一〇万人正社員化ILO要請行動の報告(下)
井上 正信 より深化し、拡大する日米同盟?
平井 哲史 あきらめてはいけない!
〜給費制維持の世論づくりを〜



暑中お見舞い申しあげます。

団 長  菊 池   紘

 暑い日が続きますが、いかがお過ごしですか。

 机の上の置時計。その窓のなかでメリーゴーランドのような白金色の装飾が、外の光を反射しながら、音もなくゆっくり回っています。時計の裏側を見ると「東京電力差別撤廃闘争勝利記念・一九九五年一二月」と書いてあります。先日、東京争議団の議長にあったら「東電闘争支援で東京からバスを連ねて東京電力福島第一原発に行った。今そのことを思い出す。」といわれました。

 玄海原発が再稼働の焦点となると、九州電力は住民説明会を前に、関連会社などにメールで「再開賛成」を集めるよう指示しました。「株主総会も控えていたし、会社を守らなければと思った」「全国でも初めての運転再開がかかっていたから、政府や経済界の期待も強く感じた」。指示をした副社長はこう述べたと伝えられます。

 原子力発電は、内には、賃金差別にはじまり冠婚葬祭からの排除まで、電力労働者にものを言わせない差別と抑圧の中ですすめられてきました。また外に向かっては、過疎の地域に潤沢な電源交付金を湯水のように投入し、電力、電機、鉄鋼、ゼネコン、大手銀行、さらには巨額の金により買収された政党、大手マスコミ、一部「専門家」などの「原子力利益共同体」を形づくるなかで、異論を押しつぶし、抵抗を排除してすすめられてきました。こうしてみると、いま原発ゼロへの転換を図るには、この国の社会と政治のあり方をその基礎から打ちこわし、つくり直すことを避けられないのです。

 原発廃止をめざし、明治公園に予想を超える二万人が集った七・二緊急集会は、ひとつには、こうした社会と政治のあり方を変えようとする人々の意志を示したのでした。

 仙台の常任幹事会を翌日に控えた七月一五日、一の関から二台のバスに分乗した私たちは陸前高田市と大槌町に行きました。そこで分かったのは、テレビで見るのと、実際に現地で自分の目で見、鼻で嗅ぐことは、まったく違うということでした。なかでも、町長以下職員の大部分を津波で失った町で、見渡す限り瓦礫の山が続く大槌の悲惨を、夕闇せまる中に見たとき、私たちは語る言葉を失ったのでした。

 他方でまた私は、「前市長の時から市民と話し合い共につくってきた街と産業」を誇りを持って語る陸前高田市長の話に共感を覚えました。そして「新幹線の駅のような個性のない街づくりは避け、こだわりのある品質の良い素敵な美しい街づくり」を訴えかける大槌町長候補の話に、瓦礫の中から立ちあがり、生活の立て直しと産業の復興にかけるひとびとの強い意志と、くじけない人間の強さを垣間見ることができた気がしたのです。

 この秋、自由法曹団は九〇周年の記念企画を東京・お台場でもちます。

 三月一一日の震災と原発事故は、私たちの社会のあり方を根本から問うています。震災からの救援と復興、そして原発廃止。さらに多くの当面する課題を究明し、行動をひろげましょう。それらを持ちよって、九〇周年を多くの人々と祝い、次の一〇年に立ち向かいましょう。そして総会を成功させましょう。


ノーモア・ミナマタ訴訟の和解の成果及び今後の活動

熊本支部  園 田 昭 人

一 はじめに

 ノーモア・ミナマタ訴訟は、熊本、近畿、東京の各訴訟が本年三月二八日までに和解が成立し、五年半にわたる裁判は全て終了しました。

 長年にわたってご理解、ご支援をいただきましたことに対し、心より感謝申し上げます。これまでの経過を振り返り、和解の成果と今後の活動について述べます。

二 経過

 一陣の五〇人が提訴したのが、平成一七年一〇月三日でした。水俣病関西訴訟最高裁判決(平成一六年一〇月一五日)にもかかわらず、チッソ、国、熊本県は未救済被害者に対し責任を取ろうとしなかったことから、提訴を決断したのでした。水俣病のような悲惨な公害を二度と引き起こしてはならないとの決意を込めて、ノーモア・ミナマタ訴訟と名付けました。

 ノーモア・ミナマタ訴訟は、「すべての水俣病被害者の救済」を掲げ、司法制度を活用して大量・迅速な被害者救済を目指すものでした。その実現のための戦略として、幅広い世論の支持の獲得、大量提訴、医師団の診断の正しさの証明を柱に据えました。

 当初のころは、「水俣病問題は解決済み」という世論でした。そこで、水俣市から北海道まで全国縦断キャラバンを約二ヶ月わたって行いました。毎年六月に行われる公害被害者総行動に参加し、環境大臣交渉等を行いました。また、何度も議員会館を訪問し国会議員に要請を行い、各地で多くの街宣活動を行いました。

 そして、医師団の協力のもと被害者の掘り起こしを行いました。約一〇〇〇人が受診した不知火海代検診も実現しました。熊本地裁、大阪地裁、東京地裁へ次々に追加提訴を行い、約三〇〇〇名という大原告団を組織できたことは、大きな力となりました。

 平成一八年一月、原田正純医師、藤野糺医師、高岡滋医師が中心となり、確実・迅速な診断のための「共通診断書」を提案しました。水俣病の病像論は決着していませんが、これまで研究成果と裁判例に基づき、大量・迅速な被害者救済を図る目的で、作成されたものです。裁判では、医師団の共通診断書による診断の正しさを立証することを最大の目標に掲げ、主張を展開し、高岡滋先生の七回にわたる証人尋問で、大きな成果を得ました。

 この間、一陣提訴時の小池百合子環境大臣の和解拒否発言、被告らの裁判引き延ばし、チッソの消滅時効の主張、チッソ分社化を認める特措法の成立など、何度も困難に直面しましたが、支援の皆様の支えと一枚岩の団結で、水俣病裁判史上はじめて国が参加した裁判上の和解が実現しました。

三 成果

(1)四肢末梢性のみならず全身性の感覚障害などを救済対象として救済要件を拡大したこと、(2)救済要件の判定機関として被害者側・加害者側の医師を同数含む「第三者委員会」方式を実現したこと、(3)医師団による共通診断書を公的診断と対等の判断資料とさせたこと、(4)その結果として、三〇〇〇人に迫る大原告団の九割を超える救済率での大量救済を五年半で勝ち取ったこと、(5)天草をはじめ従来「対象地域外」とされてきた地域でも、対象地域の拡大や立証の努力によって相当の救済率を実現したこと、(6)水俣病のたたかいの歴史上初めて昭和四四年以降の出生者からも救済対象者を出したこと、は高く評価できると考えています。

 そして、私たちの闘いが、訴訟外の被害者のたたかいと結びつき、特措法上の救済制度を新設させ、その救済水準をも引き上げたこと、未救済被害者を励まし四万人以上が申請を決意するに至りました。

四 今後の活動

 私たちの闘いは、水俣病被害者の救済を大きく前進させましたが、被害地域全住民の健康調査は未了のままです。五五年を経て解決していない現状をみると、全般的な健康調査がいかに大事かを思い知らされます。

 不知火海沿岸、県外への転出者、いずれも多数の未救被害者が残されており、水俣病特措法等により救済が図られるべきであると考えます。

 また、水俣病の病像は未だ解明し尽くされておらず、胎児生・小児性被害、加齢等による症状の悪化などの研究が不可欠であり、そのような問題があるもとで、加害企業チッソのみが分社化で責任逃れをすることは認められず、引き続き監視を続けることが必要です。

 私たちは、この和解による解決を前進のための大きな一歩と捉え、今後も「すべての水俣病被害者救済」のために活動を続ける決意です。


飲酒運転による懲戒免職処分取消訴訟事件報告

神奈川支部  川 本 美 保

 岡田尚団員と私の二名で弁護団を組み、神奈川県を相手に争った懲戒免職処分取消訴訟の第一審で勝訴判決を得ましたので、ご報告いたします。

 本件の原告は、県立高校の教諭でしたが、二〇〇八年一二月五日深夜、呼気一リットルあたり〇・二mgの酒気帯び運転により警察に検挙され、同月一九日、神奈川県教育委員会から懲戒免職処分を受けました。

 県の懲戒処分の指針によれば、具体的な処分の決定に当たっては、(1)非違行為の動機、態様及び結果の程度、(2)故意又は過失の程度、(3)児童生徒、保護者、県民及び他の教職員に与えた影響の程度、

(4)非違行為を行った教職員の職責の程度、(5)過去の非違行為歴等のほか、日ごろの勤務態度や非違行為後の対応等を含め、総合的に考慮の上判断することが示されています。

 原告は、採用されてから本件処分に至るまでの約三三年間、本件処分以外に懲戒処分を受けた経歴がなく、本件に関する神奈川県人事委員会の裁決でも「長きにわたり教員として真摯に職務を務めてきたと認められ」ると評されたほどの方でした。また、本件非違行為の内容をみても、深夜、交通量の少ない通りで、原動機付自転車を最初は押して歩いていたのですが、疲れてしまったことから車両に乗り、二〇メートル進んだところで警察官に誰何されたものです。酒気帯び運転以外の違反行為はなく、事故も起きていませんでした。さらに、原告は自らの行為を深く反省し、検挙された翌日には、免職となることが確実であるにもかかわらず、学校長への報告までしていたのです。

 ところが、県は「飲酒運転の責任を量定するに当たり、勤務実績を重視することは、処分者の恣意的な判断で免職処分が行われる可能性につながり、むしろ平等取扱いの原則及び公正の原則を侵しかねない危険性がある。」として、原告の勤務実績等の諸事情を何ら考慮することなく懲戒免職処分を下したのです。

 しかし、教員の場合、懲戒免職処分によって退職金の受給資格を失うだけでなく、教員免許まで失ってしまうため、再就職が極めて困難になるという二重の不利益を受けることになるのです。たしかに、酒気帯び運転は許されざる行為ですが、非違行為の程度に比して、懲戒免職処分は過酷すぎるのではないでしょうか。

 そこで、私たちは、本件懲戒処分は裁量権の逸脱又は濫用があり違法であること等を理由として、懲戒免職処分の取消訴訟を提起することにしました。

 提訴から約九ヶ月、横浜地方裁判所は本件懲戒免職処分を取り消す判決を下しました。その要旨は、免職処分は重大な結果を招来するものであるから、免職を選択するに当たっては、他の懲戒処分に比して特に慎重な配慮を要するが、原告の非違行為の態様、勤務実績等を総合的に考慮すると、本件処分は重きに失するため、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱した違法な処分である、というものでした。

 もっとも、本判決では、原告の非違行為は悪質であるし、勤務実績についても特筆すべき功績は認められないと認定しています。それでも、原告が、一致団結してやらなければならない共同作業である教員の職務を三二年九ヶ月も全うしたことは、一定の評価ができるとして、定年退職間際の懲戒免職処分は重過ぎると判断したのです。とくに目立った功績のない、ごく普通の職員について、真面目に長年働いてきたことを高く評価している点が、本判決のポイントではないでしょうか。

 しかし残念ながら、本件は控訴されております。今後、争いの舞台は東京高裁に移りますが、再び取消判決を勝ち取れるよう、全力で取り組んでまいります。

 なお、本件の裁判長が同種事案(鎌倉市立中学校の教員に対する懲戒免職処分取消訴訟)に対してなした処分取消判決が、東京高裁において支持され、現在県が上告受理申立てをしています。この結果によっては、飲酒運転即懲戒免職処分としている県の指針自体の見直しを求めるたたかいが前進すると思われます。


東日本大震災

〜法律家に求められる今後の被災者支援活動における課題〜

東京支部  吉 田 悌 一 郎

 私は、今年三月一一日の震災以降、三月一八日に行われた、さいたまスーパーアリーナでの被災者相談活動を川切りに、東京武道館や赤坂プリンスホテルなどの東京都内の避難所や、約八〇〇世帯の被災者が居住する東京都江東区東雲の公務員住宅などでの被災者相談活動に携わってきた。同時に、福島県内の被災地(郡山市、白河市、いわき市、相馬市)を訪問し、被災地の各避難所等をまわっての被災者相談活動も行ってきた。

 そこで、こうした相談活動の経験を通して私が感じている、被災者支援に関して法律家に求められる今後の課題をまとめてみた。

二 避難所で生活されている被災者

 震災から四ヶ月以上が経過した現在も、未だに避難所生活を余儀なくされている被災者が各地にいる。多くの被災者が仮設住宅に移行している中、避難所生活を余儀なくされているのは、そもそも提供すべき仮設住宅を自治体が用意できていない、また被災者自身が仮設住宅への移行を望まないなど様々な理由がある。

 後者の場合は、まず、経済的に困窮した被災者が、食事等の提供のない仮設への移行を望まないようなケースがある。この場合、行政が被災者に対して生活保護制度の適切な説明をしていない可能性がある。したがって、生活保護の正確な情報を伝え、必要であれば生活保護を受けさせた上で仮設等への移行を促す必要がある。

 また、被災者が、町の中心から離れた不便な場所に設置された仮設住宅や、自分の元の生活拠点から遠く離れた場所にある仮設住宅への移転を望まない場合がある。この場合、望まない仮設等への移行を強要すると、特に移動が困難な高齢の被災者などにとっては極めて酷な状況となる。

 最近、一部自治体においては、仮設への移行の目途が立たないうちに避難所の閉鎖時期を一方的に決定するというような動きも見られる。もしこのようなことが強行されれば、被災者に路上生活を強いるような人権侵害にも繋がる。そこで、こうした行政による不当な排除が行われないよう、自治体に対する申し入れや要求等を積極的に行っていくことが必要である。

三 仮設住宅入居者に対する支援

 これについては、まず、仮設住宅の設置場所や入居者数の正確な実態把握が出発点となる。被災者が集中している避難所とは違い、仮設住宅は各地に点在し、それとともに被災者も拡散していく。したがって、まず正確な実態把握を行わなければ効果的な支援は不可能である。

 仮設住宅には移ったものの、生活に必要な物資の支援が十分になされていない可能性がある。日本赤十字社は仮設入居者に対して「家電六点セット」(洗濯機、冷蔵庫、テレビ、炊飯器、電子レンジ、電気ポット)を提供することにしているが、これが被災者に十分行き渡っていない地域もある。さらに、七月中旬を過ぎてもエアコンが設置されていない住宅も多いようである。熱中症対策からもエアコンの設置は極めて緊急性が高い。こうした生活物資の提供について不十分な点があれば、自治体に対して強く要求していくべきである。

 さらに、仮設住宅は一定の期限付きであり、居住者は必ず今後の生活に不安を持っている。よって、ここでも生活保護に関する情報提供は不可欠であり、要件を満たせば生活保護制度を利用して仮設住宅からアパート等へ転居することも可能である旨のアドバイスを行うことが必要となってくる。

 また、仮設に移って生活が少し安定し出すと、それまでなかなか相談する機会がなかった本格的な法律問題(離婚、相続、借金問題など)に関する相談が出てくることもある。したがって、適宜仮設入居者を対象とした相談会を開催するなどして、こうした法的ニーズを漏らさないようにすることも重要である。

四 原発被害者の問題

 今後、原子力損害賠償紛争審査会の策定する「指針」に基づく賠償が行われる。まず、私は、この「指針」の対象に含まれる被害者の賠償についても、原則として法律家が関与すべきと考える。東電側が「指針」の範囲内と判断したとしても、正確な被害実態に即した適正な賠償がなされるとは限らないからである。

 そして、この「指針」の対象から外される被害者も多数に上ると見られているが、言うまでもなくこの「指針」が最終的な損害の範囲を確定する指標となるわけではない。したがって、あくまでも被った損害の完全賠償を求めて闘うべきであり、情勢によっては集団訴訟の提起などが必要となってこよう。このあたりは、まさに数々の大衆的裁判闘争の歴史を持つ団員の英知の結集が求められる場面であろう。

 また、政府は現在、福島第一原発から三〇キロ圏内を避難指示区域(警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域等)と位置づけ、逆に三〇キロ圏外を様々な補償から外そうとする動きも見られる。これは三〇キロ圏外地域からの避難者をいわゆる「自主避難者」と呼んでいることからも明らかである。「自主避難者」は自己責任で避難した人であり、補償はないという考え方に結びつく。したがって、形式的な三〇キロでの線引きを許さず、あらゆる場面で三〇キロ圏外被害者にも十分な賠償がなされるよう、運動を行って行くことが必要である。

五 注目されていない被災地や被害の掘り起こし

 ほとんど報道されない、いわゆる被災三県と呼ばれる岩手県、宮城県、福島県以外にも、たとえば青森県や茨城県、千葉県あたりの被害状況がどうであったのか、このあたりも今後実態把握を行い、必要であれば支援を行うなどの対策が必要である。

 また、千葉県や茨城県では、一部地域でいわゆる住宅の液状化現象による甚大な被害があると聞く。この問題の実態調査や支援も今後の大きな課題となるであろう。

六 最後に

 以上、羅列的に私が感じている今後の課題を書いた。今回の震災被害の特徴は、被災地域が広く、被害状況が多岐にわたっているということである。したがって、私の乏しい経験に基づく本原稿での指摘以外にも、様々な課題があると思われるし、今後時間が経過するにつれて新たな課題も生じてくるであろう。

 自由法曹団では、過去の震災(古くは関東大震災時の布施辰治弁護士など)においても、当時の団員による献身的な被災者支援活動が行われたと聞く。こうした諸先輩方の活動に学び、今後も情熱を失わず、長期的視点に立って息の長い被災者支援活動を行って行くことが必要である。


安斎育郎先生からの手紙

京都支部  中 島   晃

 今年五月一一日発行の団通信一三八〇号に載せた拙稿(「大逆事件一〇〇年と福島原発事故」)を安斎育郎先生にお送りしたところ、安斎先生から次のような手紙が団通信編集者宛に送られてきた(この手紙は毛筆で非常に流麗に書かれていて、それはまことに見事なものである)。

 一三八〇号の中島晃弁護士のエッセイを拝読しました。今回の福島原発事故については、この半世紀、原発批判の側に身を置いてきたとはいえ、科学者としての責任を痛感しています。

 中島さんの指摘にある、この国での「支配的意見に同論する風潮」は、戦争の時代の延長―加藤周一流に揶揄すれば、サドイスティック・コンフォーミズム(佐渡ヘ佐渡へと草木は靡く的順応主義)です。今後とも御指導下さい。

          二〇一一年五月二四日     安斎育郎

 この手紙のなかで、安斎先生が「科学者としての責任を痛感しています」と述べていることは、福島原発事故をうけた、良心的な科学者の悲痛な叫びとして真剣に受け止める必要があると考える。そういう意味で、我々一人ひとりが福島原発事故から何を学ぶのか、いま痛切に問われているといわなければならない。

 団通信に載せた前回の拙稿でも書いたことであるが、「原発推進政策を批判し、これに反対する意見を述べる者を敵視し、排除する、あるいは、特定の研究者に対しては、その行動を日常的に監視するやり方までとられてきた。」というこの国の異常な体制について、安斎先生の著書「福島原発事故 どうする日本の原発政策」(かもがわ出版)の中で、東京大学医学部の助手時代に受けたさまざまなアカデミックハラスメントの実態について、生々しく書かれているので、是非参照してもらいたい。

 こうした異常な体制のもとで推進されてきた原発政策のもとで、今回の福島原発事故はおこるべくしておこったと言っても過言ではない。いいかえれば、原発を安全に稼働させる体制が根本からゆがみ、くずれていたことが、今回の原発事故を、チェルノブイリに匹敵するレベル七にまで至らしめたのではないだろうか。

 映画監督の山田洋二氏は、三月一一日以前に受けたと思われるインタビューのなかで、日本がおかれている危機的な状況について、次のように発言しているのは、非常に示唆的である(集英社新書「証言 日中映画人交流」)。

 かなり日本は危ないところにいる…。生ぬるく回避して回避して地獄に落ちてしまうよりは、どこかでガツンとやられて、コンビニからほとんど品物がなくなってしまうとか、…

 山田氏のこの発言は、映画監督としてもっている彼の鋭い感性が、ある意味で、今日の状況を的確に見通しているともいえる。しかし、今回の大震災と原発事故がもたらしたものは、山田監督が予測した状況よりも、はるかに深刻で重大なものであることはいうまでもない。

 ともあれ、いま我々が直面している深刻な危機は、福島原発事故によって、初めて引き起こされたものではない。むしろ、それ以前から危機は深く進行しており、今回の原発事故は、そのことをはっきり目に見える形で、我々に示すことになったのではないだろうか。

 その意味で、我々はいま、直面しているこうした深刻な危機的状況をしっかり見すえて、これに立ち向かっていく必要があると考える。

 そこで具体的な提案があるのだが、安斎先生のさきほど紹介した著書に出てくる、「安斎育郎先生と行く平和ツアー」が、高浜原発を見学しようとしたところ、直前になって見学を断られた件について、自由法曹団などが中心となって、きちんと実態調査を行い、電力会社に抗議と謝罪を求める取り組みをする必要があるのではないだろうか。

 このような許しがたい差別と人権侵害をこのまま放置しておくことができないことはいうまでもないことであり、こうした電力会社の体質が今回の原発事故を引き起こすことにつながったと考える。


ILOは、非正規雇用のシンポを行う

―郵政一〇万人正社員化ILO要請行動の報告(下)

東京支部  牛 久 保 秀 樹

 郵産労は、非正規労働者一〇万人の正社員化の課題に取り組んでいます。郵政企業グループは、最大の非正規労働者をかかえる、国家的事業体です。その郵政での正社員化実現は、労働法の改正に等しいほどの影響力があると位置付けています。

 郵政各社は、亀井静香大臣の国会答弁を受けて、正社員採用手続を実施しました。その結果、平成二二年一二月、三万四〇〇〇人が応募して、その中の八四三八人の正社員化が実現しました。実際に、現在の、この国で、八〇〇〇人の正社員化は快挙というべき成果です。

 郵政会社は、翌年(平成二三年)に、再度、正社員採用手続を実施するとしています。このことに向けて、ILOへの情報提供を行いました。

 ひとつはILO一一一号の雇用差別禁止条約の適用を要請しています。職場での労働実態は、正社員、非正規社員、ともに同じ業務を遂行している、それが賃金で月に一五万円の差、一年雇用という身分の不安定さ、年間一〇〇万円という一時金の差、退職金の有無、有給休暇の差、昇給の道は閉ざされている、これらのことは、まさに差別的扱いであり、ILO一一一号条約に違反することとなります。

 もうひとつは、一二二号雇用政策条約です。同条約は、当該国の雇用政策は、雇用を充実させる方向で展開されなければならないとしています。その雇用は、単に雇用があればよいというものではなく、完全雇用です。非正規雇用一〇万人は、この安定的な雇用に反するとともに、いつ雇止めされるか分からないという不安定さは、雇用充実に反することになります。

 ILO基準局からは、「郵政の問題については、一〇月の情報提供であったため、昨年一一月の条約勧告適用専門家委員会で審査されなかった。今年一一月の専門家委員会には必ず審査されることになる。」との回答がなされました。出される勧告は、郵政以外にも影響を与えると思います。

 私から、いつ解雇されるか身分不安定の非正規雇用について質問しました。回答です。

 「完全雇用実現の論点である。完全雇用の立場からみると、身分不安定の非正規雇用は不十分である。大量の身分不安定、大量の解雇は、雇用政策条約の求める政策に反する。」

 実際に、一二二号条約がどのように活用しうるか、今後の検討事項です。それにしても、理論的には、一二二号条約を批准する日本政府は、国中に蔓延している非正規雇用、少なくとも身分不安定問題については、解消の政策を政労使で十分協議をして策定する、そのことが条約上の義務であるのです。

 労働者活動局(アクトラーブ)から、「非正規労働に関する国際基準をつくれないか検討している」と表明されました。

 「非正規雇用は、各国で格差が大きく、実態も異なる。あまりにも大きな格差を前にして、新しい階級が登場したのではないかという感さえ抱く。ILOはまず、その実態をきちんと調査することになる。この一〇月に、アクトラーブ主催のシンポジウムを予定している。」

 「シンポジウムを準備していて、今の私の個人的な感想を述べたい。非正規雇用に、現在ある国際条約の数多くが適用される。団交権は非正規労働者の組合に保障される。数多くの社会保障上の保護は、当然非正規労働者に適用される。

 しかし、そのことをいうだけでは解決しない。特に非正規労働の固定化について問題があると感じている。非正規労働者は、長期間、非正規労働者であり続けている。そこには、安定的な正規労働へ移行するための基準がない。そこに欠陥があるとみている。」

 非正規労働者の問題は、かつてなく、ILOの中心課題とされていることを知ることになりました。

 ところで、朝のジュネーブ散歩から戻った、要請団の一員が、「日本食のレストランに読売新聞がおいてあり、一面トップに、布川事件無罪が報道されていた」と教えてくれました。桜井・杉山両名への祝福とともに、職業柄、布川事件弁護団の多年の尽力に心から敬服します。


より深化し、拡大する日米同盟?

広島支部  井 上 正 信

 二〇一一年六月二一日ワシントンで開かれた2+2は、共同発表文「より深化し、拡大する日米同盟に向けて:五〇年間のパートナーシップの基盤の上に」を発表した。日米両政府とも実現の見込みのないことを分かっていながら、自公政権時代の普天間基地移設案に回帰したり、風前の灯の菅内閣、国政のコントロール能力を失った民主党政権、東日本大震災の復興の手がかりすらつかめない日本の中央政界など、タイトルとは裏腹に、日米同盟の足元が怪しくなっている。

 それでも、日米両政府はこれまで築かれてきた日米の軍事一体化の強化という路線を進めようとしている。今回の共同発表文で合意された内容は、地上・海洋から宇宙空間・サイバー空間まで日米の一体化を強化しようとしている。

 今回の日米合意は、国名こそないが中国を強く意識した内容である。六月二三日朝日新聞で編集委員加藤洋一氏の解説が出ているが、「中国という眼鏡をかけて見れば、結構露骨な内容」という日本政府関係者の言葉を引用している。中国はそのことを十分認識しており、早速中国は外交ルートを通じて「東アジア地域の緊張を高めるだけだ」と批判をした。

 「III日米同盟の安全保障及び防衛力の強化」では、日本の新しい防衛計画大綱の「動的防衛力」構築と、オバマ政権の軍事戦略二〇一〇年QDR「四年毎の国防見直し」にある「アクセス拒否/エリア拒否」への対処を挙げて、これを踏まえたいくつかの強化策を合意している。動的防衛力の構築もアクセス拒否/エリア拒否への対処も、台頭している中国の軍事的能力を抑止するためのものである。「能動的、迅速且つシームレスに地域の多様な事態を抑止し、それらに対処するために、共同訓練・演習を拡大し、施設の共同使用を更に検討し、情報共有や共同の情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動の拡大」も、対中国軍事シフトである。「航行の自由」「海洋安全保障」は海賊対策も含むが、主要には中国シフトである。宇宙・サイバー空間への日米協力の拡大も中国シフトである。六月二三日中国新聞(共同通信配信)は、2+2の会議の中でクリントン国務長官が中国の海洋進出を「地域に緊張をもたらしている」と名指しで批判したと報道している。

 合意文書はいくつかの日米同盟強化の重点分野を合意したが、その中で二つについて述べたい。ひとつは、「定期的な二国間の拡大抑止協議」が立ち上がったことを歓迎していることである。これは、北朝鮮による二〇〇六年七月弾道ミサイル発射、同年一〇月初の核爆発実験で、タカ派の安倍内閣の下、日本は大騒ぎとなり周辺事態を認定しかねない動きもあり、額賀防衛庁長官や麻生外相が敵基地攻撃論を主張したり、麻生外相や中川自民党政調会長など政府与党高官が核保有論をぶち上げるなどし、阿部首相は周辺事態を認定して周辺事態船舶検査法発動を検討すると答弁したため、米国はこれを懸念して日本の強硬論を押さえようとした。一〇月一六日ブッシュ大統領は中国の懸念を紹介しながら日本の強硬姿勢を牽制し、ライス国務長官は日米外相会議後の記者会見で、核抑止力を含めてあらゆる手段で日本の安全を確保すると発言した。

 オバマ政権下での核態勢見直しに影響を与えたといわれる、米議会戦略態勢委員会の報告書作成作業において、委員会がヒヤリングした駐米日本大使館の四人の外交官が、海洋発射核巡航ミサイル(トマホーク)の退役による日本への拡大抑止に懸念を示すなどの動きがあり、オバマ政権は新しい核政策(核態勢見直し二〇一〇年四月)で、米国の拡大抑止の信頼性、有効性を確かなものにするため同盟国と協議するという方針を打ち出した。

 二〇一〇年一一月一一日朝日新聞は、二〇〇九年七月に日米の外務・防衛当局の局長による「日米安保高級事務レベル協議(SSC)」で「核の傘」をめぐる定期協議の立ち上げに合意し、二〇一〇年二月に第一回の会合が行われたと報道している。二〇一〇年八月新安保防衛懇報告書が発表されたが、その中に、米国による拡大抑止の実効性を保証するため、米国任せにすることなく、日米間で緊密な協議を行う必要があると提言しているが、オバマ政権が提案していることに乗っただけの内容である。

 「定期的な二国間拡大抑止協議」であるから、日米の外務・防衛当局者の間で制度化された協議であること、予め指定された日米の一定の地位にある官僚(例えば課長級や審議官級)による会議であることが分かる。ここで協議された結果は必ず日本の安全保障政策、防衛政策に反映されるであろう。

 これは何を意味するのだろうか。拡大抑止とは、共同発表文にも述べているように、「核及び通常戦力の双方のあらゆる種類の米国の軍事力」による抑止力である。「定期的な二国間の拡大抑止協議」に言及している部分で「(核能力によるものを含む。)」とわざわざ括弧書しているくらい、日米両政府は核兵器にこだわっているともいえる。日本の立場からこれを言い換えれば、不測の事態で米国の核兵器を使って日本を防衛することを米国へ要求することである。この拡大抑止力を有効に機能させ、信頼性をもたせる(米国の本気度に日本が安心するとともに、仮想敵には本当に使うかもしれないと信じ込ませるという両面がある)ために、日本と米国とが平時から協議するのであるから、武力紛争下での米国の核兵器使用計画に、平時から日本が何らかの形で参画することに他ならない。その結果、不測の事態で日本が米国の核兵器使用計画の手足を縛る(例えば核兵器持ち込み禁止など)ことはもはや考えられない。もし米国が核兵器を使用するなら、日本はその共同正犯となるのである。

 新防衛計画大綱は非核三原則見直しを打ち出さなかったが、「非核三原則見直し」などのセンセーショナルな方針を出さなくても、非核三原則は無に帰することになるであろう。

 もうひとつは、「日米同盟の基盤の強化」のため、情報保全制度(秘密保護法制のこと)の重要性を強調していることである。二〇〇五年一〇月2+2の合意文書「日米同盟:未来のための変革と再編」では、日米同盟の一体化強化として、国家戦略レベルから部隊戦術レベルまでの情報協力・共有の重要性を合意している。しかし、度重なる日本の情報保全の脆弱性の露呈から、日本の秘密保護制度が日米同盟強化のアキレス腱であることが明らかとなった。そこで官房長官の下で二〇一〇年一二月「政府における情報保全に関する検討委員会」を立ち上げ、その中に「法制検討部会」を設置し、有識者懇談会が開催されている(詳しくは二〇一一年四月一一日アップした「新防衛計画大綱と秘密保護法制」を参照)。アップした当時は法制検討部会の有識者懇は第三回まで開かれていたが、六月一〇日第六回会議が開かれて、報告書を検討している。当初のスケジュールでは第六回会議で有識者懇は審議を終えることになっているので、報告書が作成されたはずである。その内容は不明である。第五回会議の審議内容を公表されている議事要旨で見ると、公務員法上の秘密保護規定とは趣旨が異なること、自衛隊法の防衛秘密保護規定は新しい秘密保護法制に取り込み、統一的に運用すること、日米防衛援助協定等に伴うMDA秘密保護法とは別立てにする、等が話し合われている。これらの議論から、包括的な秘密保護法を検討していることが推測される。

 今回の共同発表文ではこの取り組みを「歓迎し」、これが情報共有の向上につながることを「期待」していると述べている。2+2とそれをお膳立てする日米の事務方の会議で、「政府における情報保全に関する検討委員会」での議論が詳細に報告されたものであろう。第六回有識者懇で審議された報告書も出されていたのかもしれない。

 日米同盟の一体化の強化のために、日米の情報共有が重要であり、そのための秘密保護法制の制定というわけであるが、これは憲法の危機である。言うまでもなく、国民の知る権利とそれに寄与する報道の自由は、民主主義社会の基盤であり、日米同盟の深化が憲法と両立しないことを示唆している。

 東日本大震災の際に行われた「トモダチ作戦」についても、わざわざひとつの合意文書「東日本大震災への対応における協力」を作っている。この作戦は日米同盟の深化の一里塚として位置づけていることを示している。米軍再編では行詰った日米同盟を、トモダチ作戦でブレイク・スルーさせようという魂胆である。

 「この大規模な共同対処の成功は、永年にわたる二国間の訓練、演習及び計画の成果を実証した。」と述べる。二国間の訓練、演習とは軍事演習・訓練であり、計画とは共同作戦計画のこと。この一文は、トモダチ作戦は訓練や演習ではなく実戦であったこと、日米の共同演習の積み重ねとそこから作られた共同作戦計画が実戦でも有効であったことを誇っているのである。

 東日本大震災では、米軍は統合支援部隊(JSF)を編成し、米海軍太平洋艦隊司令官(ウォルシュ海軍大将)が支援部隊司令官、在日米軍司令官が副司令官となり、横田基地に総勢三〇〇人の司令部を置いた。三月末時点で兵員一八〇〇〇人、艦艇九隻、航空機一四〇機を投入した。他方自衛隊は、陸自東北方面総監部へ「災統合任務部隊JTF-TH」を置き、陸自東北方面総監が司令官となり、最大で一〇万六三〇〇人の兵員(このうち最大は陸自七万人)という自衛隊史上最大規模の統合任務部隊を編成した。この日米両軍の統合部隊が実戦活動で連携したのであった。

 更に、市谷・横田・仙台に自衛隊と米軍の日米調整所を立ち上げ、この経験が将来のあらゆる事態への対応のモデルとなると総括している。市谷とは防衛省本省のこと、横田基地にはは在日米軍司令部があり「日米同盟:未来のための変革と再編」では、横田基地へ「共同統合運用調整所」を設置することを合意している。これが機能したことを述べているのである。つまり日米両軍は、演習・訓練ではない実戦において、初めて共同統合運用調整所を使ったのである。横田基地のJSFへは、陸幕防衛部長番匠幸一郎陸将補(彼は陸自第一次イラク派遣部隊司令官)が常駐した。初の共同運用調整所が有効に機能したことは、「将来のあらゆる事態への対応のモデル」になるという貴重な経験を積んだ。軍隊にとって災害救助も武力紛争での実動の訓練という位置づけであることを、この合意文書が率直に語っているのである。私は、今回の自衛隊の救援作戦は、率直に評価することはやぶさかではないが、軍隊がそれを行うことは、常に戦争への準備となることもしっかりと認識しておく必要があると思う。さらに今回のように日米同盟の強化に寄与するのである。このような大規模自然災害に備えるために、自衛隊ではなく、自衛隊を災害救助部隊に転換する方向が憲法を実践し、かつ、有効な災害対処となる途であると考える。

News for the People in Japan掲載原稿を転載しました。左記のURLでご覧下さい。興味深い記事が満載です。

http://www.news-pj.net/


あきらめてはいけない!

〜給費制維持の世論づくりを〜

東京支部  平 井 哲 史

一 重大な局面を迎えた給費制維持の課題

 すでに報道されたように、七月一三日のフォーラムでは、それまで給与制の廃止に慎重姿勢をとっていた委員も含めて「貸与制支持が大勢」となり、座長取りまとめ案として「貸与制への移行を前提に、経済的困窮者への手当を検討する」とされてしまいました。

 その原因は、法務省が資料として発表した弁護士からとったアンケートです。このアンケートで登録後一五年以内の弁護士の所得が平均で一〇〇〇万円を超えるという結果が出て、「これなら十分返せるじゃないか。」という空気が一気に作られてしまいました。

 五月以降、順調に各地での市民集会・街頭宣伝が積み上げられてきて、この日に至るまでは複数のフォーラムメンバーが給費制の存続に理解を示していただけに、重大な情勢の転回といえます。

 昨年の取り組みにおいては、「すでに決まったこと」と言う議員を、日弁連アンケートの結果(平均三〇〇万円超の借金)を使って状況が変わったと説き伏せて一年延期を勝ち取りました。これに対し、法務省は今回のアンケートで「十分返せる」という反撃をおこない成功させました。この先フォーラムが貸与制にお墨付きを与える結論を出せば、国会議員は「専門機関が検討した結果だからそれを尊重するのは当然」となり、昨年以上に法改正は困難となりえます。

二 フォーラムを包囲する世論作りを

 しかし、ここであきらめたらそれこそ終わりです。昨年も、最後まであきらめない踏ん張りがあったからこそ一年延期を勝ち取れたことを想起し、あきらめず夏の間に着実に準備し、秋からの巻き返しをはかりましょう。

(1)フォーラム批判

 すでに市民連絡会とビギナーズネットは拙速な審議で給費制の廃止を決めないよう求める声明を発表していますが、安易に決めることのないようフォーラム批判を強めることが早急に求められます。フォーラムでは法曹人口の問題やその他の問題も議論する予定であるため、日弁連としては給費制の問題だけでフォーラムを厳しく批判することには立ち往生するかもしれません。なので、ここは団の出番と言えます。

 また、新たな材料として持ち出されている法務省アンケート批判も必要です。そもそもこのアンケートは対象者一万六〇〇〇人弱のうち二〇〇〇通余りの回答しかなく、とても弁護士全体の傾向を反映したものとはいえません。また、所得が一〇〇〇万円を超えているのが四割もあるというのは、回答者が比較的高額所得者に偏っていたのではなかろうかと想像します(もっとも、稼ぐことに熱中して他のことをしなければこれくらいいくのかもしれません。)。何よりも、修習専念義務を課して生活手段を奪っているのですから、将来稼げるからとか、親にお金があるからといった理由で給与を払わないでよいというのは議論の立て方としておかしいでしょう。

(2)フォーラムと国民世論は違うことを示す

 そして、できるだけ早い段階で、フォーラムの考えと国民世論は別であることを示し、フォーラムを包囲することが大事です。これは、フォーラムに考えの変更を迫るとともに、フォーラムで給費制廃止の結論が出ても国会レベルで逆転をする足がかりとなります。

 そのためには、各地でこれから予定されている市民集会を成功させることが大事ですが、これとともにしっかり署名を積み上げることを忘れてはならないと私は思います。弁護士の人数をはるかに上回る世論を結集してこそ国会議員の心を動かす材料になるからです。

三 団が果たしうる積極的役割

 この運動を進めるうえで、団が果たしうる積極的な役割については5月集会特別報告集に書きましたが、改めて簡潔に提起したいと思います。

(1)付き合いのある諸団体への働きかけ(署名と集会参加)

 まず、市民連絡会のHPに載っている賛同団体をはじめとして、それぞれの団員が付き合いのある諸団体に署名の協力と集会参加をお願いすることです。すでにおこなわれているところも多いかと思いますが、大きな団体ですと中央に要請に行くだけでなく、支部単位で要請をおこなうことでより徹底がされます。すでに全労連・国民救援会は中央執行部のところでは動いてくれており、七月四日には団の対策本部で全商連、新婦人、国公労連に要請に行きましたが、各地で県商連、県本部、単組に要請がなされることで昨年を上回る協力を得ることができるだろうと思います。

 署名用紙を団通信に同封しましたので活用をお願いします。

(2)街頭宣伝などの行動への参加

 また、各地でおこなわれる街頭宣伝に団員が積極的に参加することが期待されます。私は東京の宣伝にしか顔を出していませんが、団が呼びかけて人を集めることで宣伝の主体が確実に一回り大きくなります。主体が増えればそれだけ宣伝の効果があがります。この給費制の取り組みでは、本部では、六二期はもちろん、六三期の若い団員のみなさんと一緒にやらせてもらっていますが、やはり若手が参加してくると元気が出ます。ただ、その若手も一人だけでは出て行きづらいものです。なので、先輩団員の皆様、ぜひ若手団員とともにご参加ください。

(3) 院内集会とアンケートへの協力を

 そして、これまで以上に、日弁連の取り組みを下支えすることが求められます。すでにFAXニュースで流れていますが、日弁連は八月二日(火)に院内集会を構えています。これを昨年と同様の規模で成功させるために是非ご参集ください。また、おそらくこの集会で発表するつもりなのでしょう、日弁連で改めて所得に関するアンケートが対象を絞って呼びかけられています。回答までの期間が短いため漫然としていては法務省アンケートを批判できるほど数が集まらない可能性がありますので、是非対象となった期の団員の皆様は積極的に回答をしていただけますようよろしくお願いします。