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橋詰  穣 パート従業員の不当配転を撤回させる
岩城  穣 障害者への勤務配慮は「温情」か
小林 徹也 大阪における共通番号制反対の取り組みと全国的な運動の必要
坂本  団 「共通番号制」の問題点
橋元 美智子 滋賀支部八月集会に参加して
小野 通子 女性部総会のご報告
小部 正治 一〇・三〇 ふくしま大集会に結集しよう



パート従業員の不当配転を撤回させる

東京支部  橋 詰   穣

一 本件の概要

 労働委員会で、組合つぶしのためのパート従業員の不当配転を事実上撤回させ、原職場への復帰を果たす勝利的和解を勝ち取ることができたので報告します。本件は書店(ブックセンター滝山 東久留米店)に勤務するパート従業員で主婦のAさん(勤続一一年)が、労働条件の違法を指摘して改善を求め東京西部一般労働組合に加入し、他のパートに働きかけて組合の分会を結成しようとしたところ、他店舗に突如配転され単純作業に従事させられ、組合の分会結成を妨害された事件です。 

 ブックセンター滝山グループは、東久留米市を拠点に一八店舗の書店を展開し、パート従業員は一五五名を超えます。ブックセンター滝山には、これまで就業規則がなく雇用保険や労災保険なども未加入で、パート従業員に有給休暇などもありませんでした。この劣悪な労働環境に疑問を持ったAさんは、自分で労働法を勉強し、就業規則の作成や有給休暇の付与等を求めて平成二一年七月に組合に加入しました。九月中旬に第一回の団体交渉が設定されましたが、団交直前の九月八日に、会社は事前の予告も理由もなく突如パート従業員を別店舗に異動する命令を出しました。Aさんは東久留米店では勤続も長く職場の他のパートからも信頼されていて、八月にはAさんが中心となり組合分会結成を他のパートに働きかけたところでした。さらに、会社は異動前店舗に出勤したAさんを不法侵入扱いしたり、自らが発行する地域ミニコミ誌「けやき新聞」で反共・反組合宣伝を展開するなどしました。また、Aさんの家族の勤務先に差出人不明の嫌がらせの手紙が送付される事態も発生しました。

二 団体交渉の経過

 その後、組合と会社側代理人との協議で原職復帰の協定がなされる直前にまでなりました。しかし、会社は合意を拒否し、代理人弁護士を解任しました。会社の新代理人弁護士と協議が再開されたものの、前代理人との従前の協議結果を全て白紙に戻すものであったため、組合はあらためてパート従業員の原職復帰、誠実な謝罪などを求めて団体交渉を申し入れましたが、会社は拒否しました。

三 都労委での経過

 平成二一年一二月、組合は、会社による不当な配転命令及び不誠実団交を理由に、都労委に不当労働行為救済申立を行いました。当初、組合のみで都労委の審理を追行していましたが、話し合い解決ができず審問を実施することになり、平成二二年八月に当職らが代理人になりました。平成二三年二月に二日連続の期日でAさん、組合担当者、会社社長、労務担当者ら計五名の審問を集中的に行いました。審問では、会社側が「人員余剰」を理由にAさんを他店に配転しながら数ヶ月後に新規でパートを採用していたこと等が明らかとなり、配転が組合への加入と分会結成を嫌悪してなされた不当労働行為であることが浮き彫りとなりました。

四 和解協定の内容

 同審問の結果をうけ、都労委は和解解決を双方に打診しました。組合はパート従業員の配転無効と原職復帰が和解の大前提であることを強く主張し、組合からおにぎりの差入れを受けながらの深夜にまで及ぶ和解協議が繰り返されました。何度も和解協議が壊れる場面がありながらも、最終的には都労委からAさんを当時とほぼ同様の勤務条件で原職場に復帰させたうえ一定の解決金を支払う内容の和解案を提示させることができました。会社も労働委員会の強い説得を受け入れ、解決することができました。

 パート従業員の不当配転を撤回させ早期に原職場に復帰できたことは評価すべき成果です。安易に考えられがちなパートの労働条件を会社にきちんと理解させ、パートの労働組合への加入の大切さが認識できた事件でした。なお、弁護団は当事務所の小林克信弁護士と当職の二名です。


障害者への勤務配慮は「温情」か

大阪支部  岩 城   穣

Aさんの中途障害

 Aさん(四三歳)は、一九九二年に阪神電鉄に入社し、バス事業部門で一貫して勤務してきたベテラン運転手である。

 ところが、一九九七年に受けた「腰椎椎間板ヘルニア」の手術の後遺症で「神経因性膀胱直腸障害」で「排尿・排便異常」の身体障害が残った。この障害は、排尿や排便を自分の意思でコントロールすることができず、下剤を服用するなどして数時間をかけて強制的に排便するなどが必要なものである。

「勤務配慮」による安定した勤務

 当時阪神電鉄には「勤務配慮」という制度があった。これは、心身の状況や家庭の事情等によって、決められた労働条件に従って勤務するのが困難な労働者について、本人からの申し出を受けて個別協議を行い、勤務に支障が生じないように必要な配慮を行う制度である。

 Aさんはこの制度を利用して協議を行い、(1)乗務は午後からとする、(2)時間外労働は避ける、(3)前日の勤務終了から翌日の勤務開始までの間隔を一四時間、最短でも一二時間以上空けることとする、という「勤務配慮」を受けてきた。

バス事業の分社・統合と「勤務配慮」制度の廃止

 ところが、二〇〇九年、バス事業部門が分社化され、従前からあった阪神バスに統合されたが、その際、阪神電鉄・同社労組、阪神バス・同社労組の「四者協議に関する合意書」で、「勤務配慮は原則として認めない」とされた。

 Aさんは二〇〇九年四月に阪神バスに移籍したが、勤務配慮はしばらく続けられたものの、二〇一一年一月から「勤務配慮を廃止して、通常の勤務シフトで勤務させる」と一方的に通告され、実行された。

 その結果、Aさんは勤務時間に合わせた排便コントロールが全くできなくなり、二〇一〇年一月〜一二月の一年間で当日欠勤(欠勤扱い)は〇回、当日欠勤(年休扱い)は四回しかなかったのに、二〇一一年一月だけで当日欠勤(欠勤扱い)三回、二月は六回、三月は八回に及ぶことになった。このままでは解雇されたり退職せざるを得なくなるとは明らかである。

 Aさんは、通常シフト(ローテーション)での勤務を行う義務のないことの確認を求める仮処分命令申立を神戸地裁尼崎支部に行ったが、会社は「勤務配慮は温情的措置にすぎず、労働条件ではない」「勤務配慮を無制限に続けることは、乗務員間の公平感を損ない、ひいてはバス事業の正常な運営に支障を来す」と主張して争ったため、仮処分事件は来年三月まで勤務配慮を延長することで和解し、訴訟によって解決することとなった。

障害者権利条約を中心とする世界と日本の流れ

 身体・精神に長期的な障害がある人への差別撤廃・社会参加促進のため、障害者権利条約が二〇〇六年に国連総会で採択された。そこでは、障害に基づく差別を、(1)直接差別、(2)間接差別、(3)合理的配慮の欠如の三類型として禁止している。

 二〇一一年三月現在の批准国は九九か国である。日本はまだ批准していないが、二〇〇七年九月に署名し、現在国内法を整備して批准に向けた準備が進められている段階である。

 また、仮に条約の批准前であっても、日本国憲法一四条一項は「法の下の平等」を定め、あらゆる差別を禁止しているのだから、既に国際的に承認されている上記のような差別類型は、日本国憲法も禁止していると解すべきである。

「勤務配慮」の一方的廃止は障害者に対する差別にあたる

 本件における「勤務配慮」は、結果として上記の「合理的配慮」に当たるものであり、これを廃止することは、障害者権利条約が禁止している差別に該当することは明らかである。

 障害者権利条約を批准しても、実際にそれが多くの民間企業で実現されなければ意味がない。その意味で、大企業は率先して合理的配慮を行っていくべきであるのに、この会社は、逆に、これまでの「勤務配慮」を廃止しようとしているのだから、企業の社会的責任(CSR)の見地からいっても、言語道断といわなければならない。

 会社は、「乗務員間の不公平感」をいうが、阪神バスには三七〇人もの運転手が在籍しているのだから、Aさんへの勤務配慮を続けることは決して困難ではないし、多くの運転手の人たちはAさんの事情を知れば、不公平感を持つことはないのではなかろうか。

 そして、そのような啓発活動こそ、会社が行っていくべきではないのか。

障害は、社会との関係で障害となる

 世界保健機構(WHO)は一九八一年の国際障害者年に際し、障害を三つの段階で定義している。

 (1)impairment(機能的、形態的な身体障害)

 (2)disability(能力的障害)

 (3)handicap(社会的不利)

 これは、視覚障害を例に取ると、視神経に機能的に問題がある場合が「impairment(機能的障害)」。それが視力に影響を及ぼし、近視や視野変状になった場合が「disability(能力的障害)」。それによって社会生活に支障が起きるほどであった場合が「handicap(社会的障害)」である。

 (1)の「impairment(機能的障害)」があっても、「道具」(眼鏡やパソコン画面の拡大など)によって(2)の「disability(能力的障害)」はカバーされうるし、(2)があっても、社会がそれを「道具」や「仕組み」によって補えば、(3)の「handicap(社会的障害)」とならなくて済むのである。

 つまり、機能・能力障害は、社会の配慮との相関関係で「社会的障害」となるのである。

 そもそも、視力をはじめ、誰でも能力において平均より劣る点があり、結局は程度の差である。そう考えると、(1)・(2)の障害は、ある意味でその人の「個性」といえる。

 そんな人たちに対して、できるだけ社会の側が配慮して、その障害が(3)の社会的障害にならないようにしようというのが、障害者の権利の歴史であった。

 だから、障害者が安心して働ける・生きられる社会は、障害を持つに至っていない健常者にとっても働きやすい・生きやすい社会なのである。

 それゆえに、阪神バスのように、障害者と健常者を対立的にとらえることは誤っている。

 Aさんの提訴は、決してAさんだけのためではない。障害を持ちながらも、また障害を持つようになっても、安心して働けることを願う、すべての人々のためでもあるのである。

多くの皆さんのご支援を

 八月二六日の神戸地裁尼崎支部への提訴は、多くのマスコミに注目され報道された。

 第一回期日は、一〇月二五日と指定されている。

 Aさんのように、働き続けながら会社と裁判をすることは、大変なことである。

 皆さんの注目と支援をお願いしたい。

(なお、弁護団は、中西基、立野嘉英弁護士と私である。)


大阪における共通番号制反対の取り組みと全国的な運動の必要

大阪支部  小 林 徹 也

一 着々と進行している共通番号制導入の動き

 消費税増税・保険制度改定・年金問題などを含む、税と社会保障の一体改革については、民主党政権内でも様々な議論があり、必ずしも政府の思惑通りに進むとは限りません。

 ただ、その中で唯一、共通番号制(=「国民総背番号制」)については、大きな反対運動も起こらないまま、導入の動きが着々と進んでいます。

 番号制は、自公政権時代からの政府の懸案事項であり財界も要求しているものです。しかも、今回、導入されようとしている共通番号制は、当初から民間利用が予定されており、そのプライバシー侵害の度合いは、極めて大きいものです。

二 大阪における意見交換の始まり

 大阪支部においては、このような共通番号制に疑問を持ち、また、その導入によって直接に影響を受ける、税務・医療・年金・自治体など各分野に声をかけ、昨年末より、月一回程度のペースで意見交換会を始めました。

 参加している団体は、支部以外に、大阪労連、全厚生近畿社会支部、大商連、全国専業税理士協会、大阪税経新人会、国民救援会、民主法律協会、保険医協会、歯科保険医協会、消費税をなくす大阪の会、と多彩です。

 途中からは、意見交換会の名称を「社会保障・税に関わる共通番号制度に反対する大阪連絡会」(略称:共通番号制度に反対する大阪連絡会)として、積極的な取り組みを目指してきました。

 そして、三月には、「社会保障と税の一体改革、って何?―消費税増税と共通番号制」と題して、黒田充氏(自治体情報政策研究所代表)を講師としてお呼びした学習会を開催し、また、九月には、呼びかけ団体から六名のパネラーに参加してもらい、シンポジウムを開催し、共通番号制の導入は有害であっても効果がないことを具体的に明らかにしました。

三 全国的な取り組みの必要

 ただ、ご存じのとおり、基本的にマスコミなどは導入賛成の論調であり、反対の声は大きくありません。しかし、このままでは、極めて重大な問題を有する共通番号制が二〇一二年には導入されるおそれがあります。大阪でも、より大きな運動にしようと取り組んでいますが、なかなか広まりません。

 また、これまで団本部においても、この問題が大きく取り上げられたことはないように思います。

 そこで、今回、この連絡会の中心的メンバーであり、日弁連・情報問題対策委員会において副委員長を務める、坂本団(まどか)団員が支部議案書に書いた原稿の掲載をお願いするとともに問題提起をさせていただいた次第です。


「共通番号制」の問題点

大阪支部  坂 本   団

一 番号制度とは

 二〇一一年六月三〇日、政府は「社会保障・税番号大綱」を公表した。計画では、今年秋の国会にも法案を提出し、二〇一五年一月以降、社会保障分野、税務分野で番号の利用を開始するとしている。

 「大綱」によると、この番号制度は、全国民に「番号」を付け、これを活用して所得等の情報を把握し、それらの情報を社会保障や税の分野で効果的に活用すること、効率的かつ安全に情報連携を行える仕組み(情報連携基盤)を整備することを目的とするとされている。

二 番号制度でも所得の把握には限界がある

 番号制度を導入すれば、自営業者等の所得が漏れなく把握され、脱税がなくなる、というような議論も見受けられるが、そんなことはない。

 「大綱」も「全ての取引や所得を把握し、不正申告や不正受給をゼロにすることなどは非現実的であり、また、『番号』を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があることについて、国民の理解を得ていく必要がある」としている。

 「番号」で所得を把握するのは、次のような仕組みである。

 すなわち、(1)各種取引の際に、「番号」を取引相手に告知する。(2)取引相手が税務当局に提出する資料情報(法定調書)と、(3)納税者が税務当局に提出する納税申告書に、それぞれ「番号」を記載することを義務付ける。(4)税務当局は、納税申告書の情報と法定調書の情報を同じ「番号」で名寄せし、(5)突合する。

 したがって例えば、海外の取引は把握できない。海外の取引相手が、日本の税務当局に対して「番号」を記載した法定調書を提出することは期待できない。

 また、一般消費者相手の小売業・サービス業などの売り上げの把握にも限界がある。一般消費者が、誰から、いくらで、何を買ったかなど、業者の「番号」とともに漏れなく正確に申告するのは非現実的である。

三 番号制度では公平・公正な税制は実現できない

 番号制度で公平・公正な税制を実現することができる、とも言われる。

 しかし、公平・公正な税制を実現するためには、まず、今の税制のどの辺が不公平・不公正なのかを明らかにする必要がある。

 まず問題にされるべきなのは、高額所得者に対する過度の優遇であろう。

 現在、所得が多いほど税率も上がる累進課税が採用されているにも関わらず、所得が一億円を超えるような超高額所得者になると、逆に所得が増えれば増えるほど税負担率が下がってしまうのである。

 このような事態が生じるのは、近年、最高税率の引き下げや金融所得の源泉分離・低率課税などの高額所得者に対する優遇税制改革が進められてきたからにほかならない。したがって、この「不公平」を正すためには、これらの優遇税制を見直す方向での税制改革を行うという方法によるしかない。番号など使う必要はまったくないし、番号を使ったとしても、優遇税制をそのままにしていたのでは、この「不公平」はまったく解消されないのである。

四 番号制度で社会保障は充実しない

 番号制度で社会保障が充実するかのように言われることがある。しかし、「番号」を付けただけで社会保障が充実するはずがない。

 「大綱」もそんなことは言っていない。

 「大綱」は前提として、今の社会保障に関しては、「制度上利用できるサービスであってもそれを知らないためにみすみす受給の機会を逃してしまう」あるいは「国民それぞれの実情にあったサービスを提供するための前提としての正確な本人特定ができず、したがって、真に手を差し伸べるべき者に対するセーフティネットの提供が万全ではな(い)」という問題があるとして、番号制度でこれを解決すると言っているのである。

 しかし、今の社会保障が抱える問題とはそのような問題ではない。

 番号制度によって、社会保障給付を受ける権利を守る、というのであれば、その結果として社会保障のための支出が増加するのが自然であり、社会保障予算の増額とセットでなければならないはずである。しかし政府はそのような議論はまったくしない。予算の増額を伴わないとすれば、番号制度は、よりきめ細やかに社会保障給付を削減するための道具にしかなりえない。

五 番号制度はプライバシーを侵害する

 番号制度は、様々な機関の保有する様々な個人情報を情報連携(データマッチング)することを目的としている(当初は社会保障、税分野での利用から開始し、将来的には他の分野にも拡大することを目指している)。これが完成すれば、国家による個人情報の一元管理体制にほかならない。

 また、「番号」で集積・集約された個人情報が外部に漏洩する危険性や、「番号」の不正利用により財産的損害等を受ける危険性もある。

 こうしたおそれのあることは「大綱」も認めていて、その対策についても一応論じている。が、いずれも実効性のあるものとはいえない。

 「大綱」が上げているのは、一つは「第三者機関による監視」である。しかし肝心の第三者機関がどのようなものになるのか、未だに決まっていない。

 逆に、「番号」が反則調査又は犯罪の捜査等一定の事由を目的として保有されている場合には、第三者機関の調査権限が及ばないことは明記されており、第三者機関が「番号」の取り扱い全般について監視、監督するわけではないことははっきりしている。

 「法令等の規制措置」や「罰則の強化」も上げられているが、個人情報漏洩事案の多くは、不注意で発生している。規制や罰則では不注意による漏洩を防ぐことはできない。また、違法を承知であえて行う確信犯による不正使用も防ぐことはできない。

 さらに情報連携の仕組みとして「番号」を直接用いない方式が検討されている。しかし、いくら「番号」を直接用いない仕組みを作ったとしても、各機関は、共通の「番号」を保有し、その「番号」に個人情報を紐づけるのである。別の仕組みを作ったとしても、「番号」を使って様々の機関の保有する個人情報を名寄せできることには違いがない。

 「大綱」の上げる対策はいずれも不十分である。番号制度によるプライバシー侵害を防ぐことは到底できない。

六 番号制度は費用対効果を度外視している

 番号制度は大規模なシステムである。厳しい財政事情の中、多額の税金を使って新たなシステムを作ろうというのだから、本来であれば、「番号」制度による便益を試算し、これがシステムの構築や運用にかかる費用を上回る、といえてはじめて導入を決定するのでなければならない。

 かつて政府は、番号制度構築のための初期費用として最大で六〇〇〇億円を超える費用が必要という試算をしていた。また番号制度により年間数千億円のコスト削減効果が見込める、ともしていた。

 ところが今や政府は、費用と便益に関する試算を示そうともしない。「大綱」でも「(番号制度導入には)相応のコストが発生せざるを得ない。我が国の厳しい財政事情をふまえれば、番号制度の導入に伴う国及び地方公共団体の各種事務の一層の行政効率化により、より大きなコスト削減効果の実現を図らなければならない」と「精神論」が述べられているだけである。

 費用を上回る便益があるかどうか、試算することすらせずに、構築だけで数千億円以上もの巨額の費用が必要なシステムが導入されようとしているのである。

 以上のとおり、今の政府が進めている番号制度は国民にとって有害でしかない。ところが、テレビや全国紙はそのような問題点をほとんど報道しない。

 国会でも、民主党はもちろん、自民、公明、みんなの党は番号制度に賛成である。法案が国会に提出されれば、まともな議論もなく可決されてしまうおそれがある。番号制の問題点を広く国民に知らせる取り組みを早急に行う必要がある。


滋賀支部八月集会に参加して

女性の法律事務所パール 橋 元 美 智 子

  「今回の感想文はパールで!」玉木支部長から指令を受け、八月二九日を思い返しています。そこで、事務局目線で滋賀支部八月集会の意味を考えてみました。

その一

 県下七つの事務所から弁護士・事務局が毎年八月、一同に会して学習・懇親会で交流する楽しみがあります。他事務所の事務局同士の繋がりというのはほとんどなく、団事務所ならではです。

その二

 記念講演は、事前の意見とアンケートの集約で決められるので、素晴らしい先生のお話が身近で聞ける貴重な時間です。団事務局だからこそ経験出来る学習の場であり、「団事務所の事務局で良かった」と思える大切な機会でもあります。

その三

 事件報告は、「これが聞きたい」という人気ランクの高い事件が担当弁護士から報告、時に遠慮容赦ない弁護士同士の質問に、内心ドキドキの時も。いろんな分野で、意気を持って取り組んでおられる先生達に対する思いを新たにする場面でもあります。

 さて、今回の柴田五郎弁護士の「布川事件の闘いと私の弁護士人生」の記念講演は、いくつか驚かされました。桜井さん、杉山さん「ショージとタカオ」の四四年は、柴田先生の弁護士としてだけでなく、人としての熱い心と意志が貫かれていたことです。

 「大変な事件だが、最後まで闘うのが弁護士としての使命」として覚悟を決めたこと。

 「二人とも親が亡く父親のように思ってきたので、釈放されて結婚したことが一番うれしかった」など、ひょうひょうと語られるのですが、聞く側には何度か胸が温かくなる言葉があり、長く厳しい事件を闘われた先生の強さと優しさを感じました。

 レジメに、「お客様は神様」ー長年、民商事務局を経験した私は、この言葉に最も距離のある業種だと感じていたので、意味が知りたくて質問をしました。

 「依頼者はそれぞれの道のベテランであり、謙虚に学ぶ姿勢が必要」とのこと。

 法律事務所が、現在・これから直面する問題にどう取り組むか、ヒントがあるように思いました。

 パールの事務局の一人は、「勉強だけでなく、少し寄り道をしたり、遊びもしてこられた方が、人間的に豊かになり、いざという時に人の為に全力で闘える弁護士になられるのかなあ」と感想を述べています。

 最後に、二年前の五月集会で学んだことがキッカケで結成された「反貧困ネットワーク滋賀」が主体となって、大津しごと・きずな応援事業「奏〜かなで〜」(国の補助金で県・市含む共同事業)を九月から始めたことを報告します。


女性部総会のご報告

神奈川支部  小 野 通 子

 本年九月一一日に、箱根湯本の吉池旅館で自由法曹団女性部の総会が行われた。

 私は、地元神奈川支部に所属しているが、この総会が箱根を訪れる最初の機会であったし、九月の箱根は最高の季節、特に、この吉池旅館は、有形文化財に登録されている旧岩崎亭別邸と一万坪の回遊庭園を誇る素敵な旅館、女性部の総会はいつも料理もお風呂も素晴らしい、などなどと聞いていた私は、総会の内容はもちろん、他にも期待いっぱいで総会に参加した。

 女性部の総会には、各地から約三〇人の女性団員、および、ゲストとして二人の男性団員と三人のお子さんが参加した。吉池旅館は、お部屋は二五畳部屋(!)があったり、お風呂は露天風呂が二つもあったりと、期待通りの素敵な旅館であった。

 総会の一日目は、震災・原発の被害にあった各地からの報告がなされ、議論が行われた。

 まず、福島支部を代表して、安藤ヨイ子団員よりご報告があった。その中でも、県内の農家の方の損害賠償請求のための弁護団が結成されつつあったところ、突如、当事者の方から考え直したいとの連絡があったとのご報告が印象的だった。東電が、各地で説明会を開いたり、被害者宅を個別に回ったりなどして、我々に先んじて被害者に接触し、そのために、低廉な金額で和解に応じてしまっている被害者がいるのではないかとの心配が、このご報告からますます実感を持って感じられたからだ。安藤ヨイ子団員も、我々団員がしっかり東電の説明会に参加し、東電の基準や国の中間指針が絶対ではないことを周知して回らねば、と意欲を燃やされていた。

 宮城支部からは、大久保さやか団員が、みやぎジョネットへの参加についてご報告された。スーツを着て、法律相談とのノボリを掲げて、避難所の真ん中に陣取るのではなく、普通の格好で、軍手人形を被災者と一緒に作りながらお話する中から、人権問題を掘り起こしていく重要性。震災問題には、すでに多くの弁護士が取り組んでいるから、私がやらなくても大丈夫では?と思いだしていた私にとって、震災から五か月以上経過した今も、何もすることがなく、ただぼーっと座っていなければならない高齢女性についてのお話は、まさに目からうろこ、もっと現場に行って、高い感度を持って問題を見つけ出さなければと思わせられるお話だった。女性部でも、もっと現場でフィールドワークをやろう、との決意が確認された。

 一日目の夜はもちろん懇親会。期待どおりの素敵なお料理の数々を堪能した。懇親会が始まるとすぐに、各団員の近況報告が始められたのだが、みなさん、お話しされたいことが多すぎて、二時間の枠には入りきらないほどだった(笑)。

 二日目は、まず、ハーグ条約に関する学習会があり、神奈川支部の湯山薫団員を講師として、現状報告がなされた。その後は、今期の女性部の活動などについて議論がなされ、女性部の活動には、女性団員ならではの制約があるのは間違いないが、女性部が作られた経緯などに鑑みて、幹部を中心に、もっと団全体の活動に積極的に関わっていこうということが確認された。

 初めて、女性部の総会に参加し、自由法曹団の女性のパワーと多様さを実感した。一〇年後、二〇年後、三〇年後に、私も、こんなパワーと個性を持っていられるだろうか。日々の仕事に追われながらも、ときどきこんな女性部の団員のパワーを思い出し、また来年の総会まで自分を磨いていきたい。


一〇・三〇 ふくしま大集会に結集しよう

幹事長  小 部 正 治

一 九月一九日は

 みなさん、全国各地で原発に反対する、あるいは廃炉を求める様々な集会やパレードが企画されています。元気に参加されていますか。

 七月二日(土)にまして九月一九日(祝)の明治公園は、人、人、人であふれかえり、公園内に入れない人の方がむしろ多かったです。JR千駄ヶ谷駅では、駅から外に人があふれ、駅の外に出られない人がホームに充満し、電車が着いても降りることができず、先の信濃町まで行って下車するよう指示されていました。私は一緒に行った団長ともはぐれ、事務所のメンバーとケイタイでどこにいるのと尋ねるだけでした。デモに出るのも一苦労でした。久しぶりに様々なと潮流・流派・団体から多数の人が参加し、本当の結集を実感し、改めてすごいと確信しました。約四五分間の集会の内容も素晴らしかったです。

 今度は、全国から福島に結集しましょう。

二 「ふくしま大集会」とは

 一〇月三〇日(日)午後一時から二時過ぎまで福島市郊外の「四季の里」にて「放射能被害から子どもたちを守る」「被害の全面賠償」「原発なくし、安心して住み続けられる福島」の実現をめざし、「一〇・三〇大集会インふくしま」が開催されます。

 集会後には、会場周辺でパレードも予定されています。午前一一時からは、物産テントなどで交流会も予定されています。規模は一万人です。

 集会の賛同アピールには、「安心して住み続けることができる福島県をつくる」ために、

(1)徹底した計測と除染活動を行ない、放射能から子ども・県民を守ること

(2)原発事故で発生したあらゆる被害・損害を賠償すること

(3)福島原発はすべて廃炉とし、原発から撤退すること

が必要だとしています。

 この集会は、福島県内の各団体の役員ら一一名がよびかけ人として名を連ねていますが、自由法曹団福島支部の支部長である広田次男団員も「いわき市、弁護士」の肩書きでその一人となっています。そして、呼びかけ人や呼びかけに応える団体・個人で実行委員会を構成して集会成功のために奮闘しています。

三 全国から結集する意義は

 前述の(1)から(3)の福島県民のねがいを実現するためには、全県、全国の世論の結集がどうしても必要であり、そのためにこの集会が準備されました。私たちが持っているそれぞれの思いを持ち寄り、福島県内そして全国各地で取り組まれている運動を一つに紡ぎ、大きなたたかいのうねりを創り出しましょう。また、全国各地で取り組まれている原発をなくす運動をさらに大きく広げる契機としましょう。

 全労連、民医連、全商連、農民運動、新婦人、原水協などの東京にある様々な団体本部も、この集会を全国各地からの参加によって大成功させることが重要と位置づけ、それぞれ各組織内に幅広い参加を呼びかけています。福島行きの列車を一台借り切っていくとか何台もバスを連ねるなど、様々な企画が準備されています。

 自由法曹団は、自由人の集まりでありバスや列車に押し込むことは難しいので、各人がそれぞれ全国からJR福島駅に集合し、そこから準備されるであろうバス等で思い思いに参加してください。幹事長である私も、団本部の旗とともに参加者の一人になる予定です。参加される方はあらかじめ団本部にお知らせいただければさらに結構です。

 それでは、一〇月三〇日(日)午後一時に福島市・四季の里でお待ちしています。