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藤澤 智実 *静岡県特集*
静岡生活保護訴訟(エープリルフール訴訟)について
鈴木 亜英 TPP懇談会に参加して
瀬川 宏貴 農民連とTPP問題の懇談をしてきました
與那嶺慧理 政治活動中の交通事故でっちあげ事件で不起訴処分
岡村 庸靖 滋賀支部の取組み「八月集会」
岡本 真実 「初心忘るべからず八月集会」
永尾 廣久 吉田茂の正体、そして岸信介が自主志向だったとは・・・
種田 和敏 自衛隊をウォッチする市民の会(ウォッチの会)を設立します。
柿沼 真利 原発をなくす全国連絡会、意見広告運動へ皆さんのご協力を!!
市民問題委員会 「債権法改正問題について意見交換を行います」



*静岡県特集*

静岡生活保護訴訟(エープリルフール訴訟)について

静岡県支部  藤 澤 智 実

(一)平成二一年五月、糖尿病と腰痛を抱える六四歳の男性が、稼働能力を活用していないとして生活保護を停止された。これが現在静岡地裁に係属中の静岡生活保護訴訟(通称「エープリルフール訴訟」(四月一日に提訴された、嘘のような信じ難い事案だから))の核心である。

 一般に福祉事務所は六五歳以上の方の稼働能力は一律に問題としない運用をしている。ところが、本件では六四歳+糖尿病+腰痛の原告の保護が停止された。

(二)稼働能力の活用の有無は、いわゆる林訴訟(名古屋地判平成八・一〇・三〇判タ九三三号一〇九頁、名古屋高判平成九・八・八判タ九六九号)判決等を基礎に、(1)稼働能力そのもの(典型的には働ける健康状態かどうか)(2)稼働能力活用の意思の有無(典型的には就職活動の程度や内容が問題となる)(3)稼働能力活用の場の有無(現実的に就職先が見つかるか)の三点から判断されるものと考えられている。

(1)について本件では、整形外科医が「腰痛、および糖尿病の合併により就労は困難である」との診断書を作成している。ところが、静岡市は、福祉事務所の総合判断と称して、原告に稼働能力はあるとする(しかし、なぜ、福祉事務所の判断が医師の判断に優越するのか理解できない。許容される「総合判断」は健康には問題ないが諸事情により働けないということのみである。健康に支障があっても「総合判断」により働けるものと「みなされ」てはならない。)。

(2)については原告は持病をおしてハローワークに行き、現実に採用面接までこぎ着けている。しかし、静岡市は原告が「選り好み」をしたから就業できなかったと主張する(しかし、原告が健康を損なわずに「選択」できる仕事がそもそもどれだけあるというのだろうか。)。

(3)について、有効求人倍率が低かったこと等の指摘に対し静岡市は「就職率が二六%」だから「平均して四回応募すれば採用される可能性がある」と主張する(しかし、「二六%の就職者」が、平均一回応募したのか平均一〇〇回応募したのかは不明である。二六%の就職率という数字が、「平均的な応募回数」を示すことはない。)。

静岡市の主張はあまりにも奇妙である。

(三)最近、本件だけではなく新宿、長浜、岸和田、那覇等、全国各地で稼働能力が争点となる訴訟が起きている(ちなみに新宿・長浜は原告勝訴で確定。)。「単純に申請させない」素朴な水際作戦は大きな批判を浴び、大々的に継続できない。「稼働能力」は、これに代えて生活保護を抑制する格好の口実となりつつある。

 しかし問題はそのような悪しき抑制政策という点だけではない。福祉事務所の主観にも大きな問題がある。新宿の事案では野宿者に対する偏見があり、本件では「実際に就業できなくても役所の命令に従って就職活動を繰り返すことが重要だ」という倒錯した思考がある。こうした発想の根底には「生存権や生活保護の権利性」に対する驚くべき軽視と無理解がある。本件をはじめ稼働能力を巡る一連の訴訟が問うものは、実はそうしたかなり根本的な意味での生活保護制度観、人権観の問題である。


TPP懇談会に参加して

東京支部  鈴 木 亜 英

 国際問題委員会は九月六日、農民運動全国連合(農民連)を尋ね、副会長の真嶋良孝さん、常任委員の齋藤俊之さんらとTPPと農業問題で懇談した。国際問題委員会は、かつて二年に亘り、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどASEAN諸国を訪問し、東南アジア共同体の在り方を勉強したり、昨年の五月集会分科会では鈴木宣弘先生を招いてTPPの話を伺うなどの企画を進めて来た。しかしまだまだ理解が十分でないばかりか、農業問題に及ぼす影響は深刻であるとされながら、実感に欠けるところがある私たちにとって、運動の現場に赴くことは欠かせないとの思いからの訪問であった。

 日本がTPP交渉に参加するには参加国の同意が必要だが、米国、オーストラリア、ニュージーランドの同意はまだ得ていない。とりわけ影響の大きい米国との交渉参加をめぐっての協議では、自動車、保険、牛肉の三分野で集中協議が進められているという。原発、尖閣、オスプレイなどは問題が大きいだけに情報もあるが、TPP協議は交渉の秘密主義が徹底しているだけに、一体何がどうなっているか十分に伝わってこない。すでにBSE対策に端を発した米産牛の輸入制限は米国の執拗な要求から規制の緩和を了承するなど新参者の日本は早くも高い入場料を要求されているのが実態だ。この分では遺伝子組替え食品の押しつけも時間の問題ではあるまいか。頂いた真嶋さんのレジメでは「法外な頭金を要求し、ルール作りには口出すな」と米国の交渉態度を非難していた。

 TPP参加によって、農産物の輸入を完全に自由化した場合の食料自給率は四〇パーセントから一三パーセントに急落し、コメに至っては一割しか残らず、関連産業を含む失業者は三五〇万人に及ぶというのが農水省の公表した試算だ。国内総生産減少が八・四兆に達するという試算も当っているのだろう。

 コメを例外扱いすることを許さないTPP交渉は「たった二パーセントの利益」を押しつぶすだけでなく、日本の産業構造を大きく悪化させてしまうことになる。私見だが、外国から来たお客さんを案内すると日本の景色は美しいと感嘆される。特に水田を中心とする緑のたたずまいは比類がないのではないか。水田や里山のあれ果てた姿は景色から美しさを奪うだけでなく、農村社会の衰退をはじめ、田畑から水貯畜機能を奪うなど農業の持つ多面的機能の莫大な喪失を生むに違いない。

 私たちは個別FTA締結国のTPP交渉における既得権はどうなるのか、TPPと国内法に齟齬を生じた場合の扱いはどうなるのか、参加九か国にはそれぞれのお家の事情があるのか、牛肉、保険、自動車三分野における米国の圧力はどうなのか、ISD(投資家対国家の紛争解決条項)の持つ意味は何かなど結構難しい話に耳を傾けながら、日本の未来のどこに光明を見出すべきか心のなかで模索した。

 TPP交渉をめぐる日米の交渉は今どうなっているのか。真嶋さんは、「アメリカの自動車産業界は全米自動車労組を含め、日本のTPP参加には異論が根強いんですよ。大統領選で苦戦しているオバマは支持率回復のため、自動車労組など労働組合への依存度を高めています。」となれば、米国がTPP交渉で手控えることはないだろうから自動車分野での交渉では何かを確保しようと強引な手段を弄してくるだろう。TPP締結は年内はないと云うが、この間に運動を広げないと民主党政権による城明け渡しを覚悟しないといけない。

 さて、TPPにいささかでもメリットはあるのか。中野剛志氏の本を読むと経済を左右するのは一般の工業製品メーカーにとってもはや関税障壁ではなく、為替リスクのほうがずっと大きいという。自動車部門ではトヨタもホンダもこのリスク回避のために米国における現地生産に主力を置いており、米国で販売する車の六五パーセントはすでにアメリカ産であり、関税障壁も円高・ドル安の為替リスクも関係なくなっているという。だからアメリカの自動車業界の「心配」が今更どこにあるのかを問いたいところだ。

 日本がTPPに参加しても、製造業において、輸入を拡大することはできないし、日本の関税率の低さや為替誘導を考えれば参加はメリットよりデメリットが大きいという分析を、「TPPに乗り遅れるな」とか「参加しないと日本は世界の『孤児』になる」と呼ぶ、「売国奴」(中野剛志著書の題名)的政財界の人々は頭を冷やして学ぶべき点だろう。


農民連とTPP問題の懇談をしてきました

事務局次長  瀬 川 宏 貴

一 農民連と懇談を実施

 本年九月六日、国際問題委員会のメンバーで農民連を訪問し、TPP問題について懇談を実施しました。その席で、農民連の方から、TPP参加による農業への影響や、日本の農業の現状と今後についてお話をうかがいましたので、本稿で団員の皆さまにご紹介したいと思います。

二 日本の農業の現状

 日本の食料自給率はカロリーベースで約四〇%であり、品目別でいうと穀物は二七%、果実四三%、砂糖三三%、肉類五六%となっています。

 九五年のWTOの発足以来、農産物の輸入急増、生産者価格の暴落、稲作減反により食料自給率が下がり続けています。もともと、日本の農用地は非常に生産力が高く、一ヘクタールあたり九・三三人を養うことができる能力を持っています。これはアメリカの一一倍、オーストラリアの八五倍にあたります。しかし、減反で四割の水田が減反しその活用ができていないというのが現状です。

 また、農家の収入は、自給にして百数十円と少なく、米価は、五〇〇ミリリットル入りのペットボトル水は約一二〇円であるのに対し、同じ量の米は一〇〇円に満たないという状況です。昔は、一俵の米を買うのに一週間の労働の賃金相当額であったところ、今は一日の賃金で買えるとのことで米価が安すぎるという問題があります。

三 日本の農業の展望

 農民連では、当面食料自給率を五〇%以上に回復し、今後六〇%、七〇%をめざすとしています。小麦、飼料穀物、大豆、米などに支援を行っていけば自給率の向上は十分に可能ということです。

 農業のかかえる問題について、農産物の価格が低い問題については農産物の価格保証が必要であるとしています。米をはじめ、小麦、大豆、牛乳などに価格保障制度を作る必要があるとしています。また、後継者問題については、フランスが実施しているような若い農家を支援する思い切ったプロジェクトを実施する必要があるとしています(フランスでは一九七三年から実施している「青年就農者育成支援制度」により、五四歳以下の農家が六四%、六五歳以上が一四%)。また、実際に次世代の担い手も相当程度あり、もともと零細農家が多いので、今の農家数だけ次世代がいなくてもよいのでそこまで悲観的な状況ではないというお話もされていました。

四 TPP参加による日本の農業・食品への影響

 日本がTPPに参加して農産物の輸入を完全に自由化した場合、農水省の統計によると、食料自給率がカロリーベースで現在の四〇%から一三%に下がり、農林水産物の生産四兆五〇〇〇億円減少し、農業の就業機会の減少が三五〇万人となるとされています。また、主な品目の生産減少率でいうと、米が九〇%、小麦が九九%、砂糖が一〇〇%、バター・脱脂粉乳が一〇〇%、牛肉が七五%が減少するとされています。米は九〇%とされていますが、水田は水利の関係で隣の水田がなくなると水田を維持できなくなるため、九〇%以上の減少があり得るというお話もされていました。

 食品の関係では、アメリカが日本の食品添加物の規制を「非関税障壁」であるとして、緩和を求めてくる可能性があります。日本で認められている食品添加物は八三二品目であるのに対し、アメリカでは約三〇〇〇品目の食品添加物が認められています。また、日本で遺伝子組み換え食品に一定の表示義務がありますが、表示義務のないアメリカは表示なしにするよう要求してきています。

 このように、TPP参加により、日本の農業は壊滅的被害を受けます。

 米などは、一部のブランド米の産地のみ生き残り、国産米は食卓に上ることはなく、一部の富裕層や中国の富裕層への輸出向け商品になってしまうのではというお話をされていました。

 TPPは農業だけの問題ではなくあらゆる分野で問題となるということをよく言いますが、今回の懇談でやはり農業に直接的な深刻な被害をもたらすということがよく分かりました。

 TPP問題では、一〇月二日に民医連に訪問する予定となっておりますので、また団通信で報告したいと思います。


政治活動中の交通事故でっちあげ事件で不起訴処分

東京支部  與 那 嶺 慧 理

一 できごと

 事件は、二〇一一年二月六日の午前中に起きました。東京・多摩地域のとある団地でのハンドマイク宣伝に対して、一人の「男」が、違法な宣伝活動だとクレームをつけ写真を撮るなど活動を妨害しました。宣伝隊は、速やかにその場を離れ、迎えの車と待ち合わせていたコンビニへ移動しました。しかし、「男」は「宣伝隊」に執拗につきまとい、迎えの車の運転手にまで「おまえが責任者か」などとクレームを付け、写真撮影をしました。宣伝隊は、トラブルにならないよう急いで車に乗りその場を離れました。この時、車はコンビニから道路に向かってバックで発車しており、「男」は車の前方にいて別の客と話をしていたので、車は男性に接触すらしていませんでした。

二 「事故」のでっちあげと直後の対応

 しかし、その日の午後、警察官がこの車の運転手の自宅に「事故」の事情聴取に来て、「男」が上記コンビニで事故に遭い怪我をしたと言っていることが分かりました。そこで、関係者で相談し、夜には八王子合同法律事務所で対策会議を開きました。

 警察によれば「男」は、当初宣伝隊の活動が選挙違反だと訴えてきたが、これが受理されないとなると、出直してきて「事故」の申告をしたとのことでした。明らかに「でっちあげ」です。しかし、昨年四月は一斉地方選挙でしたので、選挙妨害に利用される危険がありました。そこで、警察の捜査が始まっている以上、弾圧事件と同様に位置づけて、対策会議を作って対応することになりました。そして、尾林弁護士が弁護人となり、警察対応と現場の確認、証拠保全(自動車の写真撮影)を行いました。

三 一斉地方選挙告示日の呼び出し

 その後、約二ヶ月間は何の音沙汰もなく過ぎました。にもかかわらず、四月の一斉地方選挙告示日に、警察から本人に対して呼出しがありました。選挙妨害を狙ったとしか思えないタイミングでした。そこで、尾林弁護士は、警察に対して断固抗議しました。私は、尾林弁護士が大声で怒鳴っているのをみたのははじめてだったと思います。尾林弁護士の抗議の成果か、その後選挙が終わるまで、特に動きなく推移しました。

四 大衆監視の下での実況見分

 選挙後、警察から呼び出しがあり、対策会議で話し合った結果、交通事故での訴えであることを考えて、実況見分には応じることにしました。そして、五月一三日の夕方に、救援会の呼びかけで集まった約二〇名の方の監視の下、約一五分間、実況見分を行いました。

五 その後の警察からの本人への出頭要請と支援者の抗議・要請行動

 対策会議としては、この実況見分で事実関係は明らかになったからこれ以上の取調は不要として、提出を求められた車検証などの書類の写しを提出し、警察からの出頭要請を拒否し続けました。この時、出頭拒否との回答をする書面には、毎回必ず、実況見分以上に本人への事情聴取が必要ならばその内容を具体的に示して弁護士に連絡すること、また、本人には逃亡のおそれがないし必要な捜査には必ず協力する旨を記載しました。逮捕・勾留を回避するためです。

 しかし、警察は形式的な出頭要請を繰り返すだけで、一度も具体的な事情聴取の必要性を明らかにしませんでした。その一方で、担当警察官は、「実況見分に大勢で押しかけたりしても、警察は屈しないからな」というような脅しをかけてきたりしました。

 このような警察の態度に対して、定期的に対策会議で検討し、運動の力で不起訴を勝ち取ろうと、救援会が中心となって、定期的に地元の駅頭でビラ配布など宣伝活動を行い、検察庁に送検されてからは、検察庁前での宣伝活動も行いました。集会も四回くらいやり、事件の経過や本件の不当性を明らかにし、さらに運動を拡げる場としました。終盤には、検察庁への市民からの電話も相当数行ったようです。

六 不起訴処分

 その結果、最終的には、弁護人の意見書を提出し、本人が警察署に出頭することのないままで、八月二二日、不起訴処分となりました。

七 最後に

 今回の事件に関わって私が学んだことは、以下の通りです。

 まず、当事者の原則的な対応の大切さです。政治宣伝活動も正しく行っていれば弾圧はできないし、そして、「妨害」にあったときに挑発に乗らなければ、「事件」をでっちあげられても逮捕・勾留できるだけの根拠を作らせないことができるということです。

 二つめは、警察・検察は国家権力であることを忘れてはならない、です。今回、警察は、「男」の申告が選挙違反から交通事故に変化し「でっちあげ」を疑ってもおかしくない状況であったにもかかわらず、型どおりの捜査をしようとしました。そして、一斉地方選挙直前の呼び出しも行っています。どんなささいなことでも、権力とのたたかいなのだと言うことは頭の隅に置いておく必要があることを改めて感じました。

 三つめは、当事者、弁護士、支援者の連携の大切さです。

 この約一年半のたたかいで、大衆監視の中での実況見分以外、逮捕はもちろん、密室での取調をさせず陳述書の提出もしないまま、不起訴とさせたことは、その背景に、当事者とそのご家族のがんばりはもちろんですが、先にお話ししたような救援会を中心とした、不当な取調を許さない、弾圧を許さないという方々の支援があったことが大きかったと思います。


滋賀支部の取組み「八月集会」

滋賀支部  岡 村 庸 靖

一 はじめに

 自由法曹団滋賀支部では、毎年八月に「八月集会」なる企画を催している。県内の団員・事務局らが一堂に会し、相互に事件報告を行うとともに、時季に見合ったテーマについて学習し、団の伝統・団員の生き様を学ぶために各分野でご活躍の団員に記念講演をお願いしている。今回が六回目であり、今年は守山市で開催し、弁護士一九名、事務局一五名の合計三四名の参加があった。新六四期である私は、弁護士になって初めての参加であった。会場には非核の会の元永団員が原爆のパネルを展示したが、これを見た参加者から反響があった。

二 団員の活動報告

 滋賀支部の団員らの活動報告としては、高橋団員が、原発運転差止の仮処分・訴訟について、石川団員が、大きな社会問題となっている大津いじめ訴訟について遺族側代理人の立場で、近藤団員が、痴漢冤罪事件についてそれぞれ事件報告をした。黒田弁護士が甲賀市の貴生川保育園及び貴生川幼稚園廃止処分取り消し請求事件について報告した。それぞれ現状や問題点がよくわかる興味深い内容であった。

三 秘密保全法勉強会

 メイン報告は、石川団員による、秘密保全法に関する報告であった。『徹底解剖・秘密保全法』(かもがわ出版)を課題図書として、団員らが事前に通読していることを前提にしていたため、問題点が良く分かった。

 なお、滋賀弁護士会では本年一一月三日に、大津市にあるピアザ淡海にて、秘密保全法についての市民集会を企画しているところ、多数の団員が、企画段階から携わっている。憲法学者の市川正人教授、元毎日新聞の西山太吉氏、朝日新聞の論説委員などをお呼びする予定となっており、貴重なお話が聞ける機会である。近隣府県の団員もぜひおいでいただきたい。

四 記念講演「公害事件、アスベスト訴訟を中心に」

 記念講演では、大阪弁護士会の村松昭夫団員をお招きして、公害事件、アスベスト訴訟を中心としたお話を伺った。村松先生は、西淀川公害訴訟、泉南アスベスト訴訟などに携わられている公害訴訟の第一人者である。今から二〇年以上前の、環境問題が今ほど盛んでなかった時代に、法律的にも、科学的にも厚い壁が立ちはだかっている中、どのように裁判を闘っていったのかの生の声を聞くことができた。被害者らと団結し、専門家との協議を重ね、裁判で勝つための強い意思を長年持ち続けてきたという村松先生のお話に感銘を受けた。私が子供のころからイメージしていた弁護士像そのものだ、とも思った。また、勝つことにこだわり、闘うことの重要性を説いていた村松先生であるが、終始にこやかに、柔和な表情で講演をなさっていたことも、印象に残った。

 近時、高裁レベルでの敗訴判決が相次ぐアスベスト訴訟である。判例タイムズ一三五九号が、「国民意識」や「財政事情」というタームを出して、被害救済を露骨に否定する方向の論考を掲載したことも大きく影響を与えているとのことであった。

 しかし、アスベスト訴訟においてもまた、被害者と団結し、徹底的に証拠を収集し、勝つことにこだわり、熱意を持ち続ければ、きっと、現状の逆風を突破することができるはずだ。村松先生の講演は、そのような確信を抱かせる良い内容であったと思う。

 懇親会では、参加者から記念講演について「感銘を受けた。」「団の基本的精神がわかりよかった。」「村松先生の話がわかりやすく、引きつけられました。」等の感想がいくつも出された。

五 さいごに

 私自身、弁護士登録して八カ月余りであるが、日々、目の前の事件処理に追われ、視野が狭くなりがちな時期でもあった。そのため、滋賀八月集会は、他事務所の各団員がどのような活動をされているのかを知り、「弁護士としての志を高く持つことの大切さ」を改めて思い出させてくれる良い機会となったと思う。


「初心忘るべからず八月集会」

吉原稔法律事務所  岡 本 真 実

 毎年恒例の滋賀支部主催の八月集会に参加しました。各団員の先生方の事件報告も秘密保全法を取り上げたメイン報告もどれも興味深い内容でしたが、やはり普段の団活動では聞くことができない記念講演が一番興味深かったです。今年は大阪弁護士会所属の村松昭夫先生にお越しいただき、アスベスト訴訟のお話を講演していただきました。

 話の随所に共感できるところがあり、アスベスト訴訟と原発訴訟との共通点について、それぞれの事件の問題の原因である石綿と放射能とは目に見えないということであると聞き、実に肯けました。また、アスベスト訴訟の原告団の方々の「普通に生きて普通に死にたかった」という生の声を代弁されていて、胸に迫るものがありました。話を聞きながら自分の身に置き換えて想像をしてみました。被害妄想かもしれませんが、私の家の近所にはコンクリートの精製所のような場所があり、そこでは毎日砂利が粉砕されていて、その粉砕された砂利から目に見えない砂埃が飛散しているのですが、この気にも留めていなかった砂埃が実は有害な物質だったら…と考えるだけで背筋が凍りつきました。実際、アスベストの被害者の方々は石綿を吸い込むことで将来病魔という形で姿を変えて現れるとは夢にも思わなかっただろうと思います。そうすると、今もって解決していない原発問題も同じだと思いました。放射能が見えるのであれば、被災者の方々がここまで苦しむ必要はなかったですし、健康だけでなく、生活する場所までをも奪われて、心身共に苦労されていると思います。やっぱり放射能は恐ろしいです。

 人の生活を良くする為に作り出された物が、反対に人の命を脅かしているという矛盾が起きているのです。私たちの生活の裏で誰かが泣いているという現実を見据えて、涙する人が一人でも減るように、また笑顔で過ごせる人が増えるように自由法曹団の活動を通して実現できたらいいなと改めて思いました。

 村松先生、ありがとうございました。


吉田茂の正体、そして岸信介が自主志向だったとは・・・

福岡支部  永 尾 廣 久

 いま話題の『戦後史の正体』(孫崎享、創元社)を読みました。江上武幸団員(福岡支部)のすすめで投稿します。

 戦後日本を、アメリカとの関係で、自主を志向するか、追随を志向するかで区分してみた面白い本です。それにしても、かの岸信介が、ここでは自主志向に分類されているのには正直いって驚きました。

 一九六〇年の日米安保条約改定反対闘争にも新たな解釈がなされています。

 アンポ反対、キシを倒せ。これが当時のデモの叫びでした。そのキシがアメリカべったりというより、アメリカから自立を図ろうとしていたなんて、本当でしょうか・・・。

 多くの政治家が「対米追随」と「自主」のあいだで苦悩し、ときに「自主」を選択した。そして、「自主」を選択した政治家や官僚は排斥された。重光葵、芦田均、鳩山一郎、石橋湛山、田中角栄、細川護熙、鳩山由紀夫。そして、竹下登と福田康夫も、このグループに入る。ええーっ、こんな人たちが「自主」だったなんて・・・。

 日本のなかで、もっともアメリカの圧力に弱い立場にいるのが首相である。アメリカから嫌われているというだけで、外交官僚は重要ポストからはずされてしまう。

 アメリカの意を体して政治家と官僚をもっとも多くの排斥したのが吉田茂である。吉田首相の役割は、アメリカからの要求にすべて従うことにあった。吉田茂は、GHQのウィロビー部長のもとに裏庭からこっそり通って、組閣を相談し、次期首相の人選までした。吉田茂が占領軍と対等に渡り合ったというイメージは、単なる神話にすぎず、真実ではない。

 「対米追随」路線のシンボルが吉田茂であり、吉田茂は「自主」路線のシンボルである重光葵を当然のように追放した。吉田茂は、自分の意向にそわない人物を徹底的にパージ(追放)していった。外務省は、「Y項パージ」(吉田茂による追放)と呼んだ。

 吉田茂は、大変な役者だった。日本国民に対しては、非常に偉そうな態度をとったし、アメリカに対しては互角にやりあっているかのようなポーズをとった。

 テレビで吉田茂を主人公の連続番組が上映されるとのことですが、どれだけその正体に迫っているのでしょうか・・・。

 日本がアメリカの保護国であるという状況は、占領時代につくられ、現在まで続いている。それは実にみごとな間接政治が行われている。間接政治においては、政策の決定権はアメリカが持っている。

 日本は敗戦後、大変な経済困難な状況だった。そのなかで六年間で五〇〇〇億円、国家予算の二〜三割をアメリカ軍の経費に充てていた。

 吉田茂はアメリカの言うとおりにし、アメリカに減額を求めた石橋湛山は追放されてしまった。アメリカは、石橋湛山がアメリカ占領軍に対して日本の立場を堂々と主張する、自主線路のシンボルになりそうな危険性を察知して、石橋を追放することにした。

 岸信介は、一九六〇年に新安保条約の締結を強行した。そして、CIAからの多額の資金援助も受けている。ところが、岸は対米国自立路線を模索していた。岸は駐留アメリカ軍の最大限の撤退をアメリカに求めた。

 一九六〇年代のはじめまでにCIAから日本の政党と政治家に提供された資金は毎年二〇〇万ドルから一〇〇〇万ドル(二億円から一〇億円)だった。この巨額の資金の受けとり手の中心は岸信介だった。そして、岸首相は中国との貿易の拡大にもがんばった。

 ところが、CIAは岸を首相からおろして、池田に帰ることにした。日本の財界人がその意を受けて、岸おろしに動いた。

 そうなんですか・・・。池田勇人の登場がアメリカの意向だったとは、まったく予想外の話でした。

 東京地検特捜部の前身は隠匿退蔵物資事件捜査部。つまり、敗戦直後に旧日本軍関係者が隠した「お宝」を摘発し、GHQに差し出すことだった。

 アメリカが独裁者を切るときには、よく人権問題に関するNGOなどの活動を活発化させ、これに財政支援を与えて民衆をデモに向かわせ、政権を転覆させるという手段を使う。二〇一一年のアラブの春、エジプトとチュニジアの独裁者を倒したときも、同じパターンだった。韓国の朴大統領暗殺事件も、その流れでとらえることができる。

 どんな時代でも、日本が中国問題で、一歩でもアメリカの先に行くのは、アメリカ大統領が警戒するレベルの大問題になる。ニクソン大統領の訪中を事前に日本へ通告しなかったのは、佐藤首相への報復だった。少しでもアメリカの言いなりにならない日本の首相はアメリカから報復された。

 田中角栄がアメリカから切られたのは、日中国交正常化をアメリカに先立って実現したから。キッシンジャーは、日ごろ、常にバカにしていた日本人にしてやられたことにものすごく怒った。

 小泉純一郎は、歴代のどの首相よりもアメリカ追随の姿勢を鮮明に打ち出した。

 アメリカの対日政策は、あくまでもアメリカの利益のためのもの。そして、アメリカの対日政策は、アメリカの環境の変化によって大きく変わる。

 アメリカは自分の利益にもとづいて、日本にさまざまなことを要求してくる。そのとき、日本は、どんなに難しくても、日本の譲れない国益については、きちんと主張し、アメリカの理解を得る必要がある。

 TPPもアメリカのためのものであって、日本のためにはならないと断言されています。戦後の日本史をもう一度とらえ直してみる必要があると痛感しました。一読を強くおすすめします。

 福岡県弁護士会のHPにアップしている書評にも同旨を書いています。


自衛隊をウォッチする市民の会(ウォッチの会)を設立します。

東京支部  種 田 和 敏

第一 レンジャー訓練

 陸上自衛隊第一普通科連隊(練馬駐屯地所属)は、二〇一二年六月一二日、レンジャー教育訓練の一環として、白昼堂々、板橋区と練馬区のまちなかで、迷彩服を着て、顔に迷彩ペイントをし、小銃や銃剣を持って、行軍する訓練を実施しました。自衛隊が二三区の市街地で武装して訓練を行うのは、実に四二年ぶりのことでした。

 この訓練に対して、生活者として不安をおぼえた市民は、日本国憲法に明記された平和のうちに生存する権利を侵し、平穏な日常生活や生命・身体の安全を害するものとして反対運動を展開しました。その成果として、大型ヘリコプターの公園への着陸を阻止し、行軍ルートの変更や各種安全対策が図られました。しかし、自衛隊は、住民の声を押し切って訓練を強行し、今後も同様の訓練を続ける意向を表明しています。

第二 二三区展開訓練

 また、第一普通科連隊は、二〇一二年七月一六日夜から一七日朝にかけて、首都直下型地震で車両が使用できなくなったという想定の下、約三〇〇名の隊員を徒歩により二三区全体に展開し、各所で通信する訓練を実施した。自衛隊が二三区内で大規模に部隊を展開する訓練を行ったのは初めてのことです。

 六月のレンジャー訓練に続き、自衛隊が二三区全域で大規模に部隊を展開したことは、東日本大震災を間近に体験した市民としても、災害対処における自衛隊の役割を考える契機となりました。

第三 国民監視行動と自衛官の人権

 さらに、二〇一二年三月、仙台地方裁判所が自衛隊による国民監視行動を違法であると判断したにもかかわらず、現在に至るまで、自衛隊が監視行動を継続していることが判明しました。

 他方、自衛隊内のパワハラやセクハラ、訓練に名を借りたいじめなど、自衛隊内の人権侵害も後を絶ちません。加えて、昨今の憲法改正や集団的自衛権行使をめぐる議論をみていると、将来、日本が他国の戦争に加担する国になり、自衛官が異国の地で命を落とすことになるのではないかとの危惧感も現実味を帯びてきました。

第四 設立趣意

 私たちは、以上のような自衛隊をめぐる不穏な動きを受けて、日本が二度と戦争を経験しないことを究極の目的とし、自衛隊が市民や隊員の権利や日常生活を脅かすことがないように、その政治信条を超え、老若男女を問わず、情報をひろく交流する市民ネットワークを構築するとともに、自衛隊をウォッチし、平和憲法に根ざした理性的なアクションを起こすために、「自衛隊をウォッチする市民の会」(ウォッチの会)を設立するものです。

第五 「ウォッチの会」設立総会&学習会

日  時:一〇月一〇日(水)午後六時三〇分〜八時三〇分

会  場:コアいけぶくろ会議室(豊島区民センター)四階

     東京都豊島区東池袋一―二〇―一〇

設立総会:会の設立と役員の選任を行います。

学 習 会:内 藤   功 団員

    「総括!レンジャー市街地武装行軍訓練」

資 料 代:五〇〇円


原発をなくす全国連絡会、意見広告運動へ皆さんのご協力を!!

東京支部  柿 沼 真 利

 七・一六代々木公園さよなら原発一〇万人集会、七・二九脱原発国会大包囲行動、毎週金曜日の首相官邸前抗議行動など、猛暑であったこの夏、反原発・脱原発の国民世論は大きく燃え上がった。

 また、本年七月から八月にかけて、さいたま、名古屋、仙台など全国一一カ所にて行われたエネルギー政策に関する政府の「意見聴取会」が開催されたが、参加者の約七割が二〇三〇年の原発比率「〇%」に対する発言を選択していた。また、八月四日、五日に開催された、中長期のエネルギー政策を話し合う政府の「討論型世論調査」においても、原発ゼロの支持が多数派になっている。さらには、六月二九日、政府の「エネルギー・環境会議」から「エネルギー・環境に関する選択肢」が提示され、国民からの意見公募(パブリックコメント)が行われたが、八月一二日の締切りまでに、八万八二八〇件の有効意見が寄せられ、政府が示した原発比率の三つの選択肢(〇%、一五%、二〇〜二五%)のうち、原発ゼロ案の支持が約七万六八〇〇件(八七%)を占めたと報道されている。

 ところが、政府、官界、財界などの原発推進勢力は、大飯原発再稼働の強行し、また、新たに発足した原子力規制委員会の委員長等の人事に、従来、原子力を推進する立場にあった人物を置き(委員長は、前原子力委員会委員長代理で、元日本原子力学会会長の経歴も。その他の委員の中にも、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」を所有する日本原子力研究開発機構に所属していた人物が。)、原子力発電規制を骨抜きにするなどの巻き返しを図っている(そもそも、規制委員会も、今後、形ばかりの安全宣言の繰り返しで、原発再稼働の「お墨付き」を与えるだけの「ガス抜き」にしかならない危険もある。)。ここで、脱原発の民意の表示を、緩めてはならない。

 そこで、われら自由法曹団も加入する「原発をなくす全国連絡会」では、本年一一月一一日を目途に、政府に対し、「原発ゼロ」の決断を求める、意見広告を、全国新聞紙、福島県内二新聞紙(福島民報、福島民友新聞)全面広告で掲載するなどの意見広告運動を進めている。

 九月一日号団通信に同封した意見広告運動推進のため、皆さんのご協力をいただきたく思います。


「債権法改正問題について意見交換を行います」

市 民 問 題 委 員 会

 かねてより議論となっている民法(債権法)改正問題ですが、本年九月ないし一〇月に中間試案のたたき台の公表、来年二月ころに「中間試案」公表、三月から四月ころにパブリックコメントの募集というスケジュールが予定されています。

 そこで、団としてもパブリックコメント提出に向けて次の日程で意見交換を行いたいと思います。各分野で取り組まれている団員や若手団員の参加を広く呼びかけます。皆さまどうぞご参加下さい。

また、当日参加できない団員からの意見や情報提供も募集します。FAXやメールで是非団本部までお寄せ下さい。


日 時 一〇月三〇日一一時〇〇分〜一二時三〇分

場 所 団本部