過去のページ―自由法曹団通信:1441号      

<<目次へ 団通信1441号(1月21日)


内村  修 配転無効・解雇無効の完全勝訴判決の報告
橋本  敦 最高裁は、今こそ自らのあやまりの歴史を正せ
―レパ裁判の上告審のたたかいにあたって―
永尾 廣久 法律事務所の業務拡大の新しい動き
緒方  蘭 国家安全保障基本法案の危険性
上田 月子 最低賃金裁判勉強会のご案内



配転無効・解雇無効の完全勝訴判決の報告

長野県支部  内 村   修

一 二つの裁判で完全勝訴判決

 二〇一二年一二月二一日、長野地方裁判所において、(株)アールエフの従業員二名が訴えた配転命令無効、解雇無効、損害賠償請求、時間外労働割増賃金請求、付加金の請求をいずれも認める完全勝訴判決が言い渡された(以下、「アールエフ裁判」という)。同時に、アールエフ裁判の係属中に、アールエフの他の従業員九名がアールエフ裁判の原告一名に対して求めた損害賠償請求は棄却するとともに、その訴訟提起が不当訴訟であるとして損害賠償を求めた反訴請求を認めるという画期的な判決も言い渡された(以下、この裁判を「従業員裁判」という)。

二 本件事案の概要と闘いの経過

 (株)アールエフは胃カメラなど医療機器類の開発、製造、販売などを目的としており、長野本社の外に、東京、大阪、名古屋などにショールームを置いていた。社長は、社長ミーティングという会議を定期的に開催しては、酒を飲みながら従業員に対して罵声や悪口を浴びせるなどのパワハラを繰り返していた。二〇〇九年三月、大阪店で開催された社長ミーティングで大阪店従業員であったY氏は、自分の意見を言ったところ、社長から長野本社への転勤を命じられた。Y氏が転勤命令の理由を聞いたところ、社長は「嫌なら会社を辞めなさい。私はクビに出来る、アフリカに飛ばすこともできる。」などとパワハラ発言をした。Y氏及び社長の意見に賛同しなかったM氏もY氏の同調者と見なされて、ともに長野本社へ「研修目的」での配転命令がなされた。Y氏とM氏は異議を留めて長野本社に転勤したが、そこでは、会社ぐるみの退職強要行為が繰り返された。

 そこで、Y氏とM氏は、退職強要禁止の仮処分を申し立て、退職強要をしないという訴訟上の勝利的和解が成立したにもかかわらず、会社側はそれ以降も和解条項に違反して様々な退職強要行為を繰り返したために、二〇〇九年九月、配転命令無効、損害賠償請求、時間外労働割増賃金請求、付加金の請求の訴訟を提起した。その裁判係属中の二〇一〇年一月、会社はY氏に解雇通告したので、解雇無効・賃金仮払仮処分を申し立て、賃金仮払い仮処分決定が出された。その後、同年一二月、解雇無効、損害賠償の本訴裁判を提起した。その解雇無効、損害賠償の本訴裁判を提起した直後に、会社従業員から従業員裁判が提起された。

 本件は、退職強要という違法目的のもとに会社ぐるみの組織的一体となった様々な嫌がらせ、配転命令、解雇を受けた原告ら二名が組合(化学一般関西労組)に加盟し、組合や支援者の支援を受けて約三年半掛かって勝ち取った勝訴判決である。アールエフ裁判は会社側が控訴したが、従業員裁判は控訴を断念し本件勝訴判決が確定した。

三 本件判決の意義

 アールエフ裁判の第一の意義は、配転命令及び解雇が退職強要行為の一環としてなされたことを明確に認め、会社を断罪したことである。

 まず、判決は、配転命令が被告が原告らを退職に追い込む「退職強要行為の一環として行われたことは明らかである」として、「配転命令が不当な目的により権利を濫用して行われた」、「社長の主導により、社長の意を体した被告従業員が退職強要をおこなったもの」、「被告が原告らに対して行っていた退職に追い込むための精神的圧迫は、極めて執拗かつ陰湿で不当」であり、「これによって原告らが受けた精神的苦痛は非常に大きいというべきである」と認定した。

 また、「本件解雇は、被告から原告Yを排除するために不当に行われたものである」上、「被告があげる具体的な解雇事由はいずれも事実として存在しないか、解雇事由となり得ないものである」から、「解雇権を濫用したもので無効」とし、解雇に関する損害賠償についても、「被告が行った精神的圧迫はその執拗さ、陰湿さ及び悪質さからして、会社ぐるみの退職強要としても類を見ないものであり、原告Yが被った精神的苦痛は筆舌に尽くしがたい」とまで認定している。

 第二の意義は、恒常的に時間外手当を支給しない会社に対して、不支給の説明が変遷して一貫性がないこと、サービス残業としての休日出勤を半ば強制している等の違法性・悪質性を考慮し、「付加金(労基法一一四条)の支払いを免れるような事情はない」として、その支払い義務を認容したことである。

 更に従業員裁判では、「原告らが個人として真摯に本件訴訟を追行しているものとは到底考えられず、被告(アールエフ裁判の原告Y)が会社に体して本件別訴を提起していることに関連して、原告らが被告に体して不当に圧力を加えるために本件訴訟を行っていることが強く推認される」、「本件訴訟の提起字体が裁判制度の趣旨目的からして著しく相当性を欠く不当なものである」と認定して、原告らの本件訴訟の提起は「共同不法行為に該当する」として損害賠償を認め、不当訴訟であることを明確に認定した点に意義がある。

四 本件裁判の教訓、全面解決に向けた新たな決意

 本件裁判で完全勝利をしたのは、原告の毅然とした態度の堅持にある。原告らは、会社ぐるみの組織的一体となった退職強要行為にも屈せず、組合と支援者の支援を受けながら闘い通した(但し、原告M氏は体調を壊し休職を余儀なくされる事態にまでなった。)。 原告らは、会社の違法な実態を証拠に残すためにも出来る限り録音を取っており客観的証拠を得ることが出来たこと、その他にも原告の行動に心情的に協力する社員から情報を提供されたり、退職した社員が原告側証人になってくれたりしたのも勝利の要因に繋がった。原告らの思いは、「風通しのいい物を言える会社にしたい。泣き寝入りして辞めていく社員をこれ以上出したくない。」という一点であった。この思いが裁判官の琴線に触れる判決文に強く反映したものとなった。

 アールエフ裁判は、今後東京高裁に場を移すが、同時に現在中労委に継続している不当労働行為(大阪府労委ではアールエフの行為を不当労働行為と認定し救済命令を出したが、会社が中労委に異議申し立てた。)の勝利命令も勝ち取り、全面解決を図るべく、原告らと支援者は、意気揚々と新たな闘いの雄叫びを挙げている。(なお、弁護団は、山舞ラ正団員と鏡味聖善弁護士と私)。


最高裁は、今こそ自らのあやまりの歴史を正せ

―レパ裁判の上告審のたたかいにあたって―

大阪支部  橋 本   敦

 戦後史の重大な汚点であるレッド・パージ、―それは言うまでもなく、憲法を踏みにじり、思想・良心の自由を侵害する許されざる人権侵害である。

 ドイツでは二〇〇九年に、ヒットラー時代のナチスによる不法な弾圧と人権侵害によって国民が蒙った損害に対し、「包括的名誉回復法」を制定した。また、スペインでは二〇〇七年に「歴史の記憶に関する法律」が制定され、フランコ政権下の弾圧の犠牲者に対して権利回復措置がとられた。

 このレッド・パージはまさにまぎれもない日本の戦後史の重大な歴史的誤りであるのに、その犠牲者に対して名誉回復等の法的措置はいまだに一切とられていない。

 諸外国ですすめられた歴史のあやまちをただす正義の措置が何故日本では無視され続けるのか。

 神戸中央電報局で「共産主義者又はその同調者」であるとして免職処分を受けた大橋豊氏をはじめ、もはや九〇才をこえるレッド・パージ犠牲者三名が、「生きているうちに名誉回復を」と願って神戸地裁に提訴したレッド・パージ裁判が、第一審、および大阪高裁の第二審の不当判決を経て、その上告審裁判がいよいよ今年最高裁判所で審理される重大な年を迎えた。

 そこで私は声を大にして言いたい。

 「最高裁よ、今こそ、自らのあやまちの歴史を正す勇気をもて」と。

 それは何故か。実は、憲法と法の正義、国民の基本的人権をまもるべき最高裁もまた、レッド・パージの下手人だったという重大な負の歴史があるからである。

 それは、元東京地方裁判所の書記官補であった加藤栄一氏が、本人の受けた免職処分はレッド・パージであり許されないものであると日弁連に対して人権救済の申立をした事件に対し、日弁連は慎重な審査の結果、二〇一〇年八月二一日、これをレッド・パージであると認めて、最高裁判所に対し、その責任を厳しく問い、免職処分撤回の人権救済勧告を出したことで明白である。

 「最高裁判所には法の支配の担い手として政治部門の権力濫用を防止し、国民の人権を保障することこそが期待されるのに、申立人の思想・信条の自由を侵害したことはその職責に照らし、責任は極めて重い。」

 このように、法の正義と人権をまもるべき最高裁までもが、時の政府とGHQによるレッド・パージの共犯者だったことが証明されたのである。

 こうして今、最高裁判所での公正な正義の審判を求めるために、私たちは声を大にして言いたいのである。

 「最高裁判所よ、法の正義と憲法に背いて自らもレッド・パージを行った過去の重大なあやまちの歴史をただす勇気をもて」と。

 そのために当然必要なことは、これまでに全国でたたかわれた数多くのレッド・パージ裁判を、すべて敗訴させた元凶である不当な二つの最高裁の決定(一九五二年四月二日の共同通信事件と一九六〇年四月一八日の中外製薬事件)のあやまりを今こそ最高裁が自ら正すことである。

 この最高裁決定が、労働者のレッド・パージ反対のたたかいに、いかに不当な結果をもたらしたかという事実は、北海道教育大学の明神勲教授が、本件で神戸地裁に提出した「意見書」で次のように述べられているとおりである。

 『公共的報道機関のレッド・パージについては、既に占領下に、共同通信社事件に対する最高裁決定(一九五二年四月二日)が、マッカーサー書簡の効力は公的報道機関にも及ぶと判示したことによって判例として確立していた感があった。残る問題は「その他の重要産業」に対する効力についてであったが、独立後にはこれを否定して国内法を適用し、レッド・パージ無効判決をくだす下級裁判例が増加する傾向が強まった。しかし、マッカーサー書簡の効力は、「その他の重要産業」にも及ぶと判示した中外製薬事件に対する一九六〇年の最高裁決定を契機に、これを踏襲する下級審判例が続出し、有効説が圧倒的多数となり判例の傾向は完全に逆転した。

 最高裁は二度にわたる決定によって数万人のレッド・パージ被追放者たちの法的救済を完全に断ち切り「職場からの追放」を合理化し、さらに彼らを「法の保護」という世界からも追放したのである。』

 また、本多淳亮大阪市大教授も次のようにきびしく批判されている。

 『思想・信条の自由は現代社会における人間存在の基底を形作るものである。重要な人権主体として人間の尊厳が保障されるためには、何をさておいてもまず確保されねばならない根源的な自由という性格を持つものである。最高裁判決を初め日本の裁判はどうであったか。いやしくも裁判所が事件を扱う限り、厳密かつ明確に法的根拠を示さなければレッド・パージを肯認できないはずである。にもかかわらず最高裁判決を初め、下級裁判所の多くの裁判例は、あいまいな法的根拠のもとに解雇有効の結論を下した。この態度は占領軍当局の巨大な魔手におびえて自ら司法権の不羈独立を放棄した、と言われても仕方あるまい。』(「季刊労働法」別冊一号「思想・信条の自由」一九七七年)

 われわれはこれまでの審理でも、この最高裁決定は重大なあやまりであり、速やかに破棄されるべきであるときびしく主張した。しかし、本件の第一審判決も、大阪高裁判決も、われわれの主張をしりぞけた。それが今や最高裁自らがこの不当な誤った自らの決定を破棄・変更する絶好の機会がおとずれたのではないか。それがまさに本件のレッド・パージ上告審である。

 反共マッカーシズムの嵐が吹き荒れたアメリカでも一九五八年六月一八日に、「赤狩り」の思想差別は違憲であるとする連邦最高裁判所の判決が出され、『世界週報』は、「マッカーサーシズムも臨終へ・米最高裁判所は、三つの重要な判決を下し、一つの主義(反共主義)に『墓標』をたてた」と書いた。

 今や、日本の最高裁もレッド・パージについて過去の自らのあやまちの歴史を正し、ゆるぎない正義の判断を示すべきである。

 すべての裁判が全部敗訴とされたこれまでのレッド・パージ裁判の痛恨の歴史に、今こそ終止符を打って、歴史の正義とわが憲法が生きる画期的な判決が下されることを、今年の年初にあたり、あらためて強く切望する。 

 日本の戦後史の一大汚点をただしぬぐい去るために、本件レパ裁判上告審のたたかいに、全国の皆さんのあたたかい御支援を心からお願いする。


法律事務所の業務拡大の新しい動き

福岡支部  永 尾 廣 久

 正月の楽しみは全国各地の法律事務所の新年号を読むこと。六〇通ほどのニュースの全部に丹念に目を通している。今年の特徴はなんと言っても、多くの法律事務所が積極的な業務拡大、生き残り作戦を展開しているということ。私の事務所も負けられないと思ったことだった。

 そして、業務拡大を支えているのは、弁護士が増えていることの積極的反映でもあるので、うれしいことだ。弁護士の大量増員で食えなくなったという悲鳴をあげているだけでは世の中は変わらない。若手弁護士と一緒に、さらに市民の中に飛び込んでいく元気と工夫が求められている。

 以下に紹介するのは必ずしも自由法曹団員のいる法律事務所とは限らないので、その点は誤解なきようにお願いしたい。

平日夜そして土・日さらには出張相談

 私の事務所では、平日夜は午後六時スタートを法律相談そして打合せの最後とするようにしている。土・日は完全閉店で相談者も依頼者も来ない。

○東京法律事務所は「平日夜、土日曜の相談も可能」を大きくうち出した。

 平日は午前一〇時から午後七時開始。土曜も午前一〇時から午後二時半開始。相談料は三〇分間五二五〇円だ。ただし、労働相談、顧問関係者は無料。そのほか事件を依頼した時にも相談料は無料とする。さらに、紹介カードを持参したら相談料は無料としている。

○埼玉総合は「午前、夜間相談はじめました」としている。土曜日は午前一〇時から午後二時まで(三時に終了)、平日は午前九時半から七時まで(八時に終了)。

 債務整理の相談は無料としている。

○千葉中央も「夜間・土曜日の法律相談をはじめました」としている。

 相談料は三〇分五二五〇円。

○滋賀第一は、「夜間、土日相談も実施」としている。ただし、ここは相談料が一時間一万五〇〇円となっている。

 さらには、「出張相談も実施」という。

○きづがわ(大阪市)は、土曜日相談(午前一〇時から一二時まで)、夜間相談は毎週水曜日のみ午後六時から八時まで。

 ここは、民商などでの地域法律相談が多く、二二ヶ所もある。そこでは午後六時からの相談が多い。弁護士一四人なので、大変そう。もっと弁護士を増やしたら・・・。

○川崎合同は、平日夜の火・木曜日には午後六時から八時まで相談を受け、さらに、土曜日も相談を受ける(要予約)。相談料は三〇分五二五〇円。

 共産党市議団・後援会などの主催する地域での無料相談も一九カ所あるが、これは夜七時からのところが多い。ここも弁護士一四人が分担している。実は、私も、今から三五年以上前、その一人として分担していた。

○三多摩も平日は午前一〇時から午後七時まで、そして、土曜日は午後一時から午後六時まで(ただし、第四土曜は休み)。相談料は三〇分五二五〇円、ただし債務問題は初回無料。

○東京南部も三多摩に似ているが、平日は午前一〇時から午後七時まで、土曜日は午前一〇時から午後五時まで(ただし、土曜日は休業もある)。

 相談料は三〇分五二五〇円。

○神戸あじさいは平日は午前一〇時から午後六時まで(予約したら、その後も可能)、土曜日は午前一〇時から午後三時まで。

 初回相談料は無料としている。

○おおいた市民総合は、夜間相談を毎週一回午後六時半から午後八時半まで。日曜相談を毎月二回、午後一時から六時まで実施している。

 相談料は一時間以内五〇〇〇円。

○まちだ・さがみ総合(東京・神奈川)は、平日夜七時からの相談があるほか、土曜日も第一、三、五週に午前一〇時から昼まで受けている。

相談料を無料に

○北海道合同は四〇分間の初回相談料をすべて無料とした。

 そして、平日は水曜のみ夜八時まで相談を受けている。

 また、ホームページでの相談予約を可能とする。

○たかさき法律も同じく「初回無料相談が好評です」という。

 初回相談に限り、相談料は一時間まで無料とする。

 ここで特筆すべきなのは、「即日、休日相談も好評」というところだ。その日のうちの相談を希望する人には、平日午後三時から午後七時まで相談に応じる(即日相談)。また、土曜日、日曜日、祝日も相談に応じる(ただし、平日に事前予約が必要)。相談予約のFAXは二四時間受付としている。

○あべの総合(大坂市)は、平日夜は水曜か木曜日が午後六時から午後九時まで、土曜日も第一、三、五土曜日は午前九時半から昼〇時半まで相談を受けている。初回相談は、すべて三〇分無料としている。

○新潟合同は「債務整理・交通事故の相談は初回無料」としている。

 事務所ニュース(ほなみ)には、相談室は個室で、計七室あり、プライバシーを守るとして、きれいな相談室を写真で紹介している。さらに、「おもちゃもあるので、お子様連れの方も安心です」と書かれている(写真つき)。

○城北(東京)は平日夜は金曜日のみ午後六時から八時まで相談を受け、土曜日も第一と第三は午後一時から午後三時まで相談に応じている。

 相談料は三〇分五二五〇円で、債務整理のみ初回無料。

無料電話相談

○京都第一は顧問先の会員・組合員に対して毎週木曜日に午前一〇時から午後三時まで二〇分以内の無料電話相談に応じている。簡単に判断できる法律事案について弁護士が応対してアドバイスする。複雑な事案は来所するよう案内する。

 電話相談専用のフリーダイヤルで受け付ける。

○九州では佐賀県と宮崎県の弁護士会が同じように電話で無料相談を受けている。

今回のニュースにはなかったけれど、インターネットでの相談に応じている法律事務所がある。有料だけでなく無料にしているところがあった(と思う)。

市民向け法律講座

 私の事務所でも市民向け法律講座は三〇年以上前から、弁護士が二人になって以来、意欲的に取り組んでいる。最大のイベントは六月から七月にかけて三回連続の「くらしと法律連続講座」である。これは、憲法、民法、刑法の三分野に関連したものをテーマとして取りあげる。会場は事務所の外で参加者は多いときで一〇〇人ほど、少なくても三〇人ほど。かなりの常連参加者がいる。

 このほか、私の事務所を会場とする学習会も月一回、夜に開かれており(「しらぬひの会」主催)、そのとき、たとえば「やさしい遺言書のつくりかた」などもテーマとする。こちらは、参加者は三〇人ほどのことが多い。

 法人化してからは柳川支店でも別に市民向け学習会を開いて、「悪徳商法への対処法」や「遺言・相続」など市民に身近なテーマとしている。その広報として市政だよりなどにも掲載してもらっている。会場は柳川支店内の会議室とし、三〇人ほどの参加がある。

○名古屋第一は、「法律・福祉公開セミナーと無料相談会」を法律事務所を会場として開催している。弁護士だけでなく、社会福祉士、ケアマネージャーも講師となっている。セミナーのあとに無料で法律・福祉相談が受けられる(事前申し込みが必要)。

 なお、ここも土曜日も午前九時から昼一二時まで相談を受けている。

 名古屋第一は弁護士三〇人、事務局も三一人いて、相続や高齢者の分野では所内に研究チームを組んでいる。一人の事務局は五人ごとにAからDグループに分かれるほか、事務局長と経理グループ(五人)、そして庶務グループ(七人)という構成である。

 ベテランから若手まで、若々しく活力あふれる法律事務所だという雰囲気がニュース紙面にあふれている。

○北九州第一も昨年九月から「くらしと法律講座」を始めた。会場は事務所の外で、参加者は三〇人。さらに、一〇人ほどの集まりなら弁護士が出張しての法律セミナーに応じるという呼びかけをしている。

 ここは平日は午前の相談は水曜日のみで、土曜日も午前中のみ法律相談を受けている。

○奈良合同も二月、三月、四月と事務所近くの会場で連続して法律講座を開く。テーマは「老後の財産管理」、労働問題、憲法である。

○城北(東京)は、「弁護士・税理士、社労士等による会社のトラブル解決セミナー」を月一回、近くの区民センターで開いている(定員六〇人、要予約)。テーマは「労働のルール」「セクハラ・パワハラ・メンタルヘルスの対処法」である。セミナー終了後、無料法律相談を午後九時まで受ける。

○あべの総合(大阪)は「身近な法律問題連続講座」として、年六回(隔月)土曜日の午前中に講座を開いている。ここの特徴は、法律事務所を会場として定員一五人、終了後に無料相談を受け付けるというもの。

○川崎合同も「くらしの法律講座」を毎月第二土曜日の午前中に法律事務所で開いている。講座四五分、その後に質疑。テーマはハラスメントや交通事故(事前申し込み必要)。

アメリカの弁護士レイオフ

 『かつての超大国アメリカ』(日経新聞社)に、アメリカでも弁護士のレイオフがすすんでいると紹介されている。

 それによると、

 「法律事務所で最初に解雇される弁護士は、信用バブルと住宅バブルの最中に仕事が急増したときに就職し、仕事をやり、やり終えると仕事がなくなった連中だ。
 いまも仕事があるのは、新しいテクノロジーや新しいプロセスを使って従来の仕事をもっと効率的にやる新しいやり方を見つけたり、これまでは存在しなかった仕事を考案し、新たなやり方でやったりしている弁護士だ。法律事務所も、あらゆる面でもっとクリエイティブかつ柔軟になる必要がある」

 日本の私たち弁護士も、もっとクリエイティブかつ柔軟になって新しい分野を開拓していく必要があることを教えている。

弁護士は感情労働

 最近、『感情労働シンドローム』(PHP新書)という本を読んで参考になった。それによると、

 「感情労働は、相手が期待している満足感や安心感をつくり出したり、不安感を解消させるために自分の感情をコントロールするものである。感情労働が求められる職業には三つの特徴がある。
 第一に、対面、声による顧客との接触が不可欠である。第二に、他人に感謝の念や恐怖心など何らかの感情の変化を起こさせなければならない。第三に、雇用者は研究や管理体制を通じて、労働者の感情活動をあるある程度支配するものであること。
 感情労働がそのまま要求される職種としては、看護師、介護士、保育士、そして医師や弁護士。いずれも困っている人の悩みにより添う仕事。また、役所や銀行の窓口業務なども、感情労働が要求される仕事である。
 感情労働とは、仕事において、相手が望んている満足感や安心感をつくり出したり、不安感を解消させるために、自分の感情をコントロールする労力のこと。
 弁護士にも営業力が求められている。クライアントをいかに獲得するか、そしていかに引き留めるおけるか。この営業力が採否を決める大きなポイントになる」

 これは、本当にそのとおりです。クライアントの心をつかみながら仕事を進めることのできる弁護士が求められています。きちんと会話ができて、問題点を正確につかむ。そのうえで法律構成を考える。さらに事件の処理の進行過程を逐一クライアントに報告して信頼を増していく関係を築きあげる。

 『オレにまかせておけ!』ではいけないのです。


国家安全保障基本法案の危険性

東京支部  緒 方   蘭

一 改憲をめぐる情勢

 昨年一二月一六日の衆議院選挙の結果を受け、同月二六日に第二次安倍内閣が発足した。安倍氏は任期中に改憲を必ず実現する趣旨の発言をしている。また、自民党以外にも日本維新の会やみんなの党も政策に改憲を掲げており、これらの政党と自民党の議席は衆議院全体の四分の三以上を占め、憲法改正を発議する要件を満たしている。

 現在、自民党は参議院では議席の過半数を占めていないため、改憲は参議院選挙後だという見方が一般的である。しかし、既に「国家安全保障基本法(概要)」(http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/117613.html)が自民党内で党議決定されている。この法案によれば、改憲をしなくても集団的自衛権の行使を認められるだけでなく、交戦権の行使など憲法が明文で禁止していることが可能となってしまうおそれが強い。本稿ではこの法案について紹介していく。

二 閣法ではなく議院立法によると・・・

 この法案は今までの自民党政府の見解によっても違憲なのだから、法律にはならないと思われているようである。

 しかし、自民党はこの法案を内閣提出ではなく議員提案で提出すると公言している。内閣提出によれば内閣法制局が違憲と判断して法案審査が通らないおそれがあるが、議員提案によれば、このような問題はない。

 また、参議院で否決されるおそれもあるが、現在衆議院では改憲勢力が三分の二以上を占めているのだから、衆議院で再可決すれば法律となる。

三 国家安全保障基本法案の内容

 この法案の中で特に重要な条文は、次の三つである。

・八条(自衛隊)

 第一項には「外部からの軍事的手段による直接または間接の侵害その他の脅威に対し我が国を防衛するため、陸上・海上・航空自衛隊を保有する。」とあり、「自衛」のために「自衛隊」を保有することを認めている。しかし、歴史的に見て、自衛戦争と称して侵略戦争を開始した例は多い(最近ではイラク戦争など)ため、この規定は戦争する国づくりに繋がりかねない。

 第二項には「自衛隊は、国際の法規及び確立された国際慣例に則り、厳格な文民統制の下に行動する。」とある。この「国際の法規」とは、交戦法規等を定める武力紛争法や、武力紛争犠牲者に対する人道的考慮等を定めた国際人道法などを指す。また、「確立された国際慣例」とは、慣習国際法を指す。国際法は現在の日本政府の見解よりも広く交戦権を認めている。そのため、この法案の規定によれば交戦権の行使が広く認められてしまうことになりはしないか。

・一〇条(国際連合憲章に定められた自衛権の行使)

 同条一項では、我が国の自衛権の行使にあたり、次の事項を遵守するとされている。同条項一号には「我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態であること。」とあり、集団的自衛権の行使を認める記述がある。

 また、同条項三号には「この措置は、国際連合安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置が講じられたときに終了すること。」とある。安保理の集団的強制措置は、冷戦終了後は増加し、一定の価値を有しているが、イラク戦争の際には機能不全も指摘された。

・三条(国及び地方公共団体の責務)

 三条三項は、国が秘密保全法を定める措置を講じる義務を定める。これは秘密保全法の容認に繋がる危険な規定である。

 以上から、国家安全保障基本法案はこれまでの政府解釈を拡大させ、憲法九条を死文化させる役割を持つといえる。

四 今後われわれがなすべきこと

 私の所属する事務所では、所内に憲法委員会が設けられ、いかにしてこの危険な法案を広めていくかが話し合われている。新議員は憲法を知らない者が多いため、われわれが改憲の危険性を伝えていく必要がある。併せて、国民やマスコミにも今何が起きているかを伝え、声をあげていくべきである。

 また、改憲派の書物も読むなどして、彼らの動向に気を配っていくことも重要である。石破茂のブログには、国家安全保障基本法案を作成し党議決定するにあたり、「ここまで議論に議論を重ねること約七年、ようやくここまで辿り着いた」とあり、この法案が七年前から準備されていたことがわかる。また、二〇一一年度に自衛隊と米軍が実施した共同演習の回数は、少なくとも四八回、のべ七一五日間にものぼった(しんぶん赤旗二〇一二年一二月三一日号)。この数は二〇一〇年度の七五九日よりは少ないものの、震災後約三ヶ月間中止していたことも併せると、むしろ回数が増えており、少しずつ海外で戦争する準備が進められているといえる。これらの事実から、改憲の準備は私たちが見ていないところで少しずつ進んでいると感じざるを得ない。今後も改憲派の動きに一層の注意を払う必要がある。

 二〇一三年は、改憲勢力の動向を注視しつつ、改憲を防ぐ輪を広げていきたい。


最低賃金裁判勉強会のご案内

事務局次長  上 田 月 子

一 日程

 自由法曹団貧困委員会は、二〇一三年二月一六日、午後五時三〇分から、自由法曹団本部に神奈川支部の田渕大輔団員を講師としてお招きして、最低賃金裁判についての勉強会を行います。

二 最低賃金裁判とは?

 最低賃金裁判とは、二〇一一年六月三〇日、原告五〇名が、神奈川労働局長に対し、神奈川県の最低賃金を一〇〇〇円以上とする決定を行うよう命ずる判決を求め、横浜地方裁判所に提訴したことを言います。この訴訟は最低賃金の水準が、生活保護の水準を下回っているという、不条理な逆転現象を是正する措置を、神奈川労働局長に命ずることを求めるものです。

三 なぜこの勉強会をやるのか?

 生活保護の問題を訴える上で、生活保護にだけ目を向けていては説得力に欠けるし、生活保護受給者がなかなか生活保護から脱却できないのは、雇用に原因があるとも言えるからです。たとえば、生活保護受給者が、折角働く機会を得ても、最低賃金の水準が、生活保護の水準を下回っている現状では、生活保護から脱却できません。平成二二年度中、就労できたのに、生活保護から脱却できなかった者の割合は約六五%に及びます。最低賃金を上げることは、生活保護の問題でもあるのです。

四 是非、ご参加ください。

 この日は自由法曹団本部で午後一時から五時まで自由法曹団の常任幹事会が行われるので、常任幹事会に参加したついでの参加など、大歓迎です。ちなみに常任幹事会は団員であれば誰でも参加できます。