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泉澤  章 新潟五月集会の概略
宮本 成葉 「憲法分科会(一日目)に参加して」
椏c 晃一郎 TPPの最も怖い部分
木村 夏美 五月集会プレ企画に参加して
花村 和歌子 五月集会に参加して
中村 博則 「一泊旅行に参加して」
井上 正信 *憲法特集*
その日(中国との武力紛争)に備えよ
―自民党新防衛計画大綱への提言を読むその一
飯田 美弥子 八法亭みややっこの出前憲法高座
西田  穣 今こそ自由な選挙を取り戻そう
小沢隆一・田中隆・山口真美編著
「市民に選挙をとりもどせ!」のすすめ



新潟五月集会の概略

事務局長  泉 澤   章

一 はじめに

 本年五月一八日から二〇日にかけ、スキーリゾートで有名な新潟県越後湯沢において、二〇一三年五月研究討論集会が開催されました。雪解けから目覚めたばかりのまばゆい新緑の中で開催された今年の五月集会には、全国から四八三名もの参加者が集まり、経験交流と熱心な討論が繰り広げられました。

 詳細は追って団報にて報告いたしますが、取り急ぎ概略についてご紹介いたします。

二 全体会(一日目)

 全体会の冒頭、新潟支部の金子修団員と東京支部の齊藤園生団員が議長団に選出されました。そして、篠原義仁団長の開会挨拶に続き、新潟支部の土屋俊幸団員から歓迎の挨拶がありました。

 来賓として、地元新潟県弁護士会から、団員でもある味岡申宰会長からご挨拶をいただきました。

 この後、渡辺治一橋大学名誉教授の全体講演があり、続いて、長澤彰幹事長から、安倍政権による改憲策動とのたたかい、選挙制度改革、原発再稼働阻止など、現在団が取り組んでいる重要課題についての基調報告と、分科会の討論へ向けた問題提起がなされました。

三 記念講演

 今回の全体会での記念講演は、渡辺治一橋大学名誉教授・日本民主法律家協会理事長による「安倍政権の成立と改憲の新段階」と題した講演でした。昨年一二月の総選挙で第二次安倍政権が成立したことを踏まえ、現在の改憲策動が歴史的にどのような位置づけにあるのか、この改憲策動に打ち勝つためには今後どのような共闘関係を目指すべきか等々、その鋭い情勢分析と運動の提起は、全国で日々改憲策動とたたかっている団員にとって大きな力になったことと思います。

四 分科会

 今回の分科会も従前どおり、経験交流と討論とを交えて行われました。分科会の概要と参加者(カッコ内)は次のとおりです。

1 原発分科会(一日目九五名、二日目八九名)

 原発分科会の一日目では、原発被害者の方から被害の実態、福島支部の渡邊純団員から原発事故被害の多様性と被害発生のメカニズムについて報告がされました。続いて、本年三月一一日に福島本庁、いわき支部、東京地裁、千葉地裁に提訴をした四弁護団から報告があり、その後、各地弁護団等で奮闘する団員の活動報告などがされました。

 二日目は、核・エネルギー問題情報センター事務局長の舘野淳さんから「シビアアクシデントと安全目標」という題名で新規制基準の問題点について講演いただき、その後、原発問題委員会からの情勢報告や各地訴訟・運動の報告がされました。

2 憲法分科会・二日目+選挙制度(一日目一四五名、二日目八九名)

 憲法分科会一日目では、明文改憲・解釈改憲阻止をテーマに、全体会講演を受けて、明文改憲・解釈改憲をめぐる情勢、講師活動など各地での取組みについて意見交換がなされました。また、秘密保全法、共通番号制についても報告を受けました。この間の取組みの活発化を受けて、積極的な発言通告が相次ぎ、二〇名の発言者がありました。

 分科会二日目では、まず選挙制度改革をテーマに、選挙制度改革をめぐる情勢、自民党が提案した比例「優遇枠」問題、ネット選挙解禁について報告・議論しました。ついで、沖縄から辺野古移転問題についての報告を受けるとともに名護市長選への支援の訴えがあり、また、大阪から、維新の会の現状と裁判・労働委員会でのたたかいについて報告を受けました。さらに、改憲阻止の取組みのうち一日目に発言できなかった団員から報告をいただきました。

3 労働分科会(一日目七〇名、二日目八三名)

 労働分科会一日目は、前半で現在進んでいる安倍「雇用改革」の議論状況とその内容について基調報告がなされ、これについて議論を行いました。後半では、正社員に対する退職強要・解雇問題への各地での取り組みについて事件報告がなされました。

 二日目は、前半、派遣切りや雇止めとたたかう非正規労働に関する各争議団からの報告を受け、後半は改正労働者派遣法と改正労働契約法に関する基調報告と発言がなされました。

4 TPP分科会(一日目五三名)

 TPP分科会では、そもそもTPPとは何かという点からTPPの概要と団の取り組みを報告した上、ISD条項(投資紛争条項)による国家主権侵害の問題について愛知支部の岩月浩二団員から問題提起がありました。

 また、農民連常任委員の齋藤敏之さんからTPP参加による日本農業への影響について問題提起の上、議論を行いました。

5 貧困分科会(一日目五四名)

 貧困分科会では、さいたま市で生活困窮者支援に取り組んでいるNPO法人ほっとプラスの藤田孝典氏に、生活保護の現場で体験されたことや現在国会で審議されている生活保護法「改正」案、生活困窮者自立支援法の問題点について聞きました。質問応答の後、新潟支部の大澤理尋団員から新潟生存権訴訟の報告がされ、さらにこれらの各報告を受けて、各地の貧困問題に対する取り組みや、生活困窮者支援のために法テラスを利用することなどが呼びかけられました。

6 給費制分科会(一日目三三名)

 給費制分科会では、貸与制下で修習を受けた新六五期から、貸与制の実態の報告があり、活発な質疑応答がなされました。また、日弁連の状況、ビギナーズネットの活動、給費制廃止違憲訴訟についての報告に続き、各地の取り組みが寄せられました。最後に、団としての今後予定している議員要請などの行動提起をしました。

7 構造改革分科会(二日目三三名)

 構造改革分科会では、道州制をテーマに、新潟県関川村村長平田氏、国土交通労組森田氏、尾林芳匡団員をパネリストとしてパネルディスカッションを行いました。道州制を導入すると住民の声が地方自治に反映されなくなるという平田氏の話、国は国民生活に関わる防災には予算を裂くつもりがなく地方整備局の廃止を狙っているという森田氏の話から、道州制の導入は住民の声と住民サービスを切り捨てるものに他ならないことが確認されました。

8 治安・警察分科会(二日目三四名)

 分科会前半ではこの間の弾圧事件について議論をし、昨年末に最高裁判決が出た国公法弾圧二事件を中心にこの間の政治活動の自由、ビラ配布をめぐる闘いについて総括的な議論を行いました。

 後半は、法制審・新時代の刑事司法特別部会が本年一月に公表した「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」について議論を行いました。同基本構想の批判的意見書の検討を中心に議論を行い、基本構想の問題点を共有しました。また、団としてどう反対運動していくかについて議論を行いました。

9 教育分科会(二日目五二名)

 教育分科会では、全日本教職員組合書記長の今谷賢二先生から、「安倍・『教育再生』は、子どもと教育、学校、教職員に何をもたらすのか」というテーマでご講演いただき、これに続いて、村山団員から、いじめ防止法案について報告されました。その後、質疑応答を経て、行政による教育現場への介入の現状、いじめ問題への取り組み、教科書採択問題などについて報告がなされました。

五 全体会(二日目)

 分科会終了後、全体会が再会され、次の八名の全体会発言がありました。なお時間の関係上、生活困窮者に支給された児童手当を狙い撃ちした県の預金差押えを違法とした判決の報告(鳥取県支部・高橋敬幸団員)、大阪泉南アスベスト訴訟の現状と展望について(大阪支部・鎌田幸夫団員)については要旨の紹介のみとさせて頂きました。

(1)九六条改憲を許してはならない 埼玉支部・山崎徹団員

(2)柏崎刈羽原発差し止め訴訟の現状と問題点について 新潟支部・中村周而団員

(3)マツダ事件判決の報告と安倍内閣「雇用改革」とこれに対する批判 東京支部・並木陽介団員

(4)生活保護「水際作戦」違法判決と生活保護法「改正」案について 埼玉支部・北川浩司団員

(5)安倍政権の教育改革に抗する取り組みを 神奈川支部・穂積匡史団員

(6)TPPの危険性と行動のよびかけ 大阪支部・杉島幸生団員

(7)司法修習生に対する給費制復活の運動の継続的な取組みについて 東京支部・野口景子団員

(8)昨年一二月最高裁で言い渡された国家公務員のビラ配布二弾圧事件判決の報告 東京支部・石崎和彦団員

 全体会発言に引き続いて、次の八本の決議が執行部から提案され、会場の拍手で採択されました。

(1)国内の原発再稼働、海外への原発輸出の即時断念を求める決議

(2)九六条改憲をはじめとする新たな改憲策動を阻止するために全力を尽くす決議

(3)引き続き衆院比例定数削減に反対し、民意を反映する選挙制度の実現を目指す決議

(4)解雇自由社会をねらう安倍「雇用改革」に反対する決議

(5)生活保護基準の引き下げと生活保護法改悪に強く反対する決議

(6)安倍政権の「教育改革」に反対する決議

(7)住民の声とくらしを切り捨てる道州制に反対する特別決議

(8)TPP交渉参加に反対し、交渉からの撤退を求める決議

(9)司法修習生に対する給費制の復活を求める決議

(10)安倍政権及び橋下・石原日本維新の会共同代表の女性の人権無視の根底にある歴史観に抗議する決議

 以上の決議が採択された後、拡大幹事会が開催され、新人団員の入団が拍手で承認されました。

 続いて、今年一〇月の総会開催地である岩手支部の小笠原基也団員、上山信一団員から、開催場所となる岩手安比高原の紹介と歓迎の挨拶がありました。

 最後に、新潟支部の斉藤裕団員から閉会の挨拶が行われ、全てのプログラムが終了しました。

六 プレ企画について

 例年どおり、五月集会の前日(一八日)に、プレ企画がもたれました(人数はカッコ内)

1 将来問題(五九名)

 将来問題では、従来どおり「基盤づくり・人づくり」がテーマでした。今回は特に団事務所の基盤づくりについて討論が行われ、長谷川一裕団員、藤本齊団員の問題提起をもとに、事前アンケート分析結果を資料として、熱心な発言が交わされました。

2 新人弁護士学習会(六一名)

 今年の新人弁護士学習会は、前半で、新潟水俣病をはじめ多くの重大事件に関与してきた新潟支部のベテランである中村洋二郎団員から、「団員として訴訟と権利闘争から学んだもの」と題して、貴重な経験をお話いただきました。後半では、国公法堀越事件で弁護団事務局長を務めた加藤健次団員から、「言論弾圧事件と大衆的裁判闘争〜国公法弾圧事件の弁護活動を通じて」と題して、国公法弾圧二事件最高裁判決の意義などをお話いただきました。

3 事務局交流会(六六名)

 事務局交流会では、全体会で、新潟支部の中村周而団員から、「水俣の教訓を福島へ」と題して、新潟水俣病訴訟の教訓を福島原発事故に生かす活動についてお話いただきました。事務局の講演は、三多摩法律事務所の森田めぐみさんから、「団事務所で生き生き活動するために」と題して、団事務所で勤務する事務局として日頃行っている活動についてお話いただきました。

 その後引き続き行われた分科会では、「(1)運動の経験交流」「(2)事務局の仕事とIT」「(3)団事務所の運営と事務局の役割」「(4)新人交流会」の四つの分科会が設けられ、経験交流と討論が行われました。

七 最後に

 例年五月集会では全国各地から団員が集まり熱心な討論が繰り広げられますが、今年は特に、昨年一二月に民主党政権にとって替わった安倍自民党政権が、改憲を明言するだけでなく、原発再稼働、TPP早期参加、生活保護削減等々、新自由主義政策を次々と打ち出していることから、多くの団員が危機感をもって集まったのではないかと思います。今回の討論集会が、団員一人一人のこれからの活動にとって、少しでも役立ちうるものであったとすれば、主催する側としてそれに勝る喜びはありません。

 最後に、今回の五月集会も、地元新潟支部の団員、事務局員の皆様方の多大なるご尽力によって成功しました。執行部一同、御礼申し上げます。ありがとうございました。


「憲法分科会(一日目)に参加して」

北大阪総合法律事務所  宮 本 成 葉

 一日目の憲法分科会に参加させて頂きました。

 憲法を巡る情勢と各地の運動や活動が多数報告されました。同分会は大盛況で、設けられた席も殆ど埋め尽くされていました。発言者も多く、休憩の時間も取れない程でした。

 日々の改憲を巡る情勢だけを見ていると、九条改悪に先立つ九六条先行論が推し進められ、不安と焦りばかりが募っていましたが、こんなにも全国でたくさんの方々が、改憲問題に関心を持ち、憲法を守る活動されていることに、心強く感じました。また、「この突破口ともいえる期を挫折させ、運動・行動に立ち上がりましょう」という東京支部の方の発言にも励まされさました。

 各地の活動報告からは、ホームページ、ブログ、Facebook、紙芝居やパンフレットなど、様々なツールを活用し、幅広い世代に対し、創意工夫を凝らした呼びかけ・学習会を実施している支部が沢山あり、当事務所にも持ち帰り、今後の活動に活かしていきたいと思います。

 また、仕事だけでなく、運動や活動にも取り組まれている弁護士の事務局として、自分に何が求められているのか、ということについても考えました。日々の一般業務に限らず、社会的な取り組みについてもサポートできる事務局になりたいと思います。


TPPの最も怖い部分

神奈川支部   田 晃 一 郎

 時勢を受け、今年の五月集会では全体会をはじめ分科会にも憲法をテーマとしたものが多くありました。その中で私は、一番自分の理解が薄い分野であったので、この機会に理解を深めようとTPP分科会に参加しました。参加前は、なにかいろんなことが自由化されて海外企業がどんどん進出してきて、国内産業が危機に陥るかもしれない、程度の薄い理解でした。

 結果的にはそのような分科会の選び方は大正解だったと思っています。そもそもTPPとは何かという説明から始まり、それによってこの先どのような危険があるのか、国内農業がどれだけ危機的な状況になるのか、ISD条項についての解説と、私にとっては初めてきちんとした説明を聞けた事柄ばかりで、非常に勉強になりました。

 そして、分科会に参加して思ったことは、TPPについては多くの人がその内容をよく知らないままに、賛成したり反対したりの議論をしているのではないかということです。医療等のサービスも含めて国内産業が危機に陥り、結局国民の不利益になるというTPP反対派の意見に対して、よく聞くTPP賛成派の反論は、資本主義なのだから自由競争が当たり前で、自由競争の結果いいものが残り、国民の利益になるというものです。しかし、このような賛成派の理屈は、次のような場合にも当てはまるでしょうか。

三 【ケーススタディ〜分科会のレジュメから〜】

 外国企業が日本の学童保育所事業に参入したとします。ISD条項を盾に訴えるぞと脅すことで、国内の保育所への補助金を不公平だからと廃止させ、利益追求のために保育所の設置基準も撤廃させ、大量に保育所を設置。国内の保育所は競争に敗れ全滅します。そして数年後、外国企業は大して利益が出ないからと保育所を全て閉めてしまいます。その頃には、すでに国内産業には新たに保育所を設置する体力は残っておらず、国内から保育所は消え失せてしまいました。

 自由競争が消費者の利益となる、というのは一つの理屈だとは思うし、それが妥当する局面も確かにあると思います。しかし、上の例を見てもわかる通り、福祉や教育に関わる分野は自由競争には馴染まないでしょう。また、たとえば食品の分野でも、安くて安全性は無視した食品が出回り、しかもそれらの食品について遺伝子組み換え食品かどうか等安全性の部分についての情報をパッケージに記載することを法定したら、企業に国が訴えられたりし得るわけです。そういった情報をよく知らないままに議論がなされて、「自由競争」とか「グローバル」なんて耳あたりのいい言葉のイメージでなんとなくTPPに賛成してしまう、そういう人も多いであろうことが怖いと思うわけです。

 私の理解でいえば、TPPとは、健康の安全や教育や福祉といった観点は全くないまま、ほとんど全分野の産業を利益追求のみの観点から自由競争に委ね、結果に文句は言えないというものです。しかし、そのような内容であることが「TPP」という、アルファベット三文字からは全く想像もつかない。分からないものには強い反対も出てきにくいわけで、その分からなさこそがTPPの一番恐ろしい部分であると感じました。

 この分科会に参加したことを機に、今後参加する憲法学習会等で、多くの人にTPPの怖さを伝えていこうと思います。


五月集会プレ企画に参加して

三重支部  木 村 夏 美

 五月集会のプレ企画「将来問題、経営問題」に参加して、私が感じたことを書きます。

二 将来問題

 各支部から、支部の活動状況、特に若手の活動状況について報告がありました。

 多くの支部で支部会議や例会の参加者が限られている、若手の参加が少ないといった悩みが報告されました。とはいえ、定期的に支部の団員の集まりがあるというのはうらやましいことです。やはり、支部会議を持つのは基本だなと思いました。

 これらの定期的な集まりに加えて、愛知の若手会の取り組みが紹介されました。愛知では、先輩団員が若手が集まりを持てるように積極的に支援しています。

 若手は、先輩による支援を期待するのではなく、自分達で何をするか考えるべきであるという意見もあります。しかし、今は、放っておいても、自主的に団の活動を行う若手は圧倒的少数になっていると思います(昔のことはよく知りませんが)。若手団員の数は増えているかも知れませんが、同期に占める団員の割合は下がっているため、団の影響力は低下せざるを得ません。団の活動をしない若手弁護士が多数を占める状況を放っておけば、弁護士業界、さらには社会全体に占める団の存在感が低下することは避けられないと思います。

 自由法曹団を存在感のある団体に保つためには、将来を担う若手を先輩弁護士が支援することは必須であると思います。まずは、先輩弁護士の経験を、若手に語って、継承してほしいと思います。

三 経営問題

 事前に複数団員がいる事務所に配布された相談件数や売り上げの推移などについてのアンケートをまとめた報告がされました。集計されたアンケート結果が少ないことに驚きました。もっと協力があると思ったのですが…。

 アンケート結果としては、相談件数や売り上げは関東圏に限らず全国的に減少しているということでした。弁護士数が増え、社会全体の貧困化が進んでいる状況では当然の結果ですし、私の実感にも合致しています。

 いろいろと刺激になる話がありました。本気で経営について責任を持つことが必要との指摘が印象に残っています。

 宣伝や情報発信のためにHPを持つことは当然の前提になっていると思います。特に、弁護士経験が浅く、固定された顧客を持たない若手弁護士は、宣伝をして顧客を獲得していくしかありません。一方で、拡大戦略はもはや限界のように思います。

 プレ企画でも指摘されていたことですが、私もこれまで弁護士が当然だと思ってきた所得レベルを考え直す必要があるのではないかと思います。一つ一つの事件が低額化しており、これまでと同じ所得レベルを維持しようと思ったら、多忙すぎて体を壊してしまいかねません。その上で活動までしようと思ったら限界を超えてしまうのではないでしょうか。「甘い」という声も聞こえてきそうですが。

 団活動をしたい若手の比率は下がっていると感じますが、それでも熱心な人はいます。活動したいという若手を、団事務所が採用しないということは大損失です。経営が厳しく、採用数が減っている今、新人を採るなら、団活動を積極的に行いたいという新人を採って欲しいと思います。

 上手くまとまりませんが、「自由法曹団の事務所」を維持したいのであれば、個人の売り上げに留まらず、事務所としてどうしたいのか、事務所が一体感を持てるのかが問われているように思います。その関係で、事務所綱領を持っているか否かは基本的かつ重要な問題であると思いました。


五月集会に参加して

弁護士法人ぎふコラボ  花 村 和 歌 子

 今年、久しぶりに五月集会参加しました。

 私が参加した事務局分科会「団事務所の運営と事務局の役割」は通称「グチって会」と呼ばれているように、事務局のグチも交流するという貴重な分科会です。最初は報告をしているのですが、だんだんグチになったり、最初からグチももちろんありますが、あたたかく話を聞くという、法律事務所の事務局が集まったことを実感する分化会でした。

 みなさんとの話の中で、経営に関することが多く出ていて、事務局も積極的に新たな営業、広報活動を行っていました。HPの充実、相談のメール受付、弁護士と事務局で関連団体へ出張相談会、貧困の子どもの塾設立計画などなど、アイディアを出し合って事務所の経営を支えようとしている姿がみられました。どれもすぐに結果がでるものはありませんでしたが、また時期をみて効果をみていきたいと思いました。地域に向けての学習会を行っている事務所も多くあり、なかには、参加者がほとんど事務所の人だという話も!ありました。地域の人に来てもらいたいのに、宣伝方法や、こちらが伝えたいメッセージと、市民が聞きたいと思っていることに隔たりがあるのではという意見等も出ていて、参加者自身の事務所の学習会の紹介、反省点などが交流されました。

 また、経営が厳しい事務所がほとんどの中、活動面での困難さに関する意見が多くでました。ボーナスも給料も減って、活動なんてやってられるか〜という意見。弁護士もがんばっているし、団事務所として社会を変えるための活動がしたい。という気持ちが入り乱れ、なんとも複雑な気持ちになっている事務局もいます。団の事務所として、どうあるべきかのイメージはあるのに、気持ちや、お財布や、人間関係がついていかない。今後、団の事務所で働きながら、活動をすることが困難になってきてしまったら、地域での基本的人権や、民主主義をまもりすすめる力が弱ってきてしまいます。

 社会のことも全部ひっくるめて今後のことを考えられるようになるといいなと思った時間でした。

 具体的で、有効な即効性のある解決策はありません。理想だけをかかげていてもいつか経営がよくなる保証もありません。みんなで知恵を出し合い、動くことが大切だと感じました。

 もちろん、頭をかかえることばかりではありませんでした。

 分科会や、同室、夜の懇親会での出会いにとても恵まれ、とても楽しい時間を過ごせましたし、仕事の話を何の気兼ねなく話ができる時間や、仲間がもてたことに、とても感謝しています。(考古学部出身の事務局といく“縄文土器見学”や、飲んだくれの懇親会や、会う人会う人に「働いでどのくらい?慣れた?」と何度同じ質問をされても丁寧に返事をしていた新人さんの謙虚さにふれることができたり、他の弁護士事務所の弁護士さんにのみに誘ってもらったり)とても充実した三日間でした。

 三多摩法律事務所の森田さんをはじめ、「やりがいを持ち、楽しく活動も含めて仕事ができるようにしていこう!」と励まされた気分になり、元気になる五月集会でした。

 大都市では、組合でのつながりがあり、団事務所の事務局として話をする機会がありますが、地域によっては他の事務所の事務局さんとは交流がないところもあります。五月集会は事務局にとっても大切な学習の機会になっています。

 来年、今年よりもたくさんの事務局が五月集会に参加することを期待します。


「一泊旅行に参加して」

福岡支部  中 村 博 則

 五月集会後の一泊旅行に参加しました。

 まず、中越地震で被害を受けた山古志に行きました。崖に挟まれた山道を登っていくような険しい場所でした。そのような地形に棚田があり、田は養鯉池にもなるということでした。錦鯉の親鯉が地震で全滅したそうですが、今までは三〇kg近い親鯉が育っていました。地震による土砂崩れで埋まったままの家がいくつもありました。地震により道路が寸断されて陸の孤島になったそうですが、今では道路も復元され、公営住宅も建てられて、地元に帰ってきた皆さんはがんばっていました。昼食は、地元のお母さん達が復興後に作った山菜料理の店でいただきました。そして、山古志の人々を励ますためにアメリカから送られてきたアルパカには子供が生まれていました。

 夕方は、日本海に面した寺泊に行き、道州制についての講演をお聞きしました。佐渡島とその北東に浮かぶ粟島浦村を例にして、平成の大合併で合併した佐渡市は議員が約七分の一になり、学校や保育園も二割以上減ったが、粟島浦村では変わりないこと、歳入・歳出は佐渡市がそれぞれ一割減に対し粟島浦村はそれぞれ九割増であること、歳出のうち土木費は佐渡市が二割減であるのに対し粟島浦村は二割増であること、教育費は佐渡市が一割以上減であるのに対し粟島浦村は三倍以上になったこと等が紹介されました。結局、合併のメリットはなかったというのです。全国市長会会長の長岡市長が道州制の推進論者であるのに対し、全国町村長会は道州制に反対しているとのことでした。

 宿は、寺泊の旅館に泊まり、おいしい日本酒と食べきれないくらいのカニや魚に舌鼓を打ちました。

 二日目は、寺泊の朝市をぶらぶらして、良寛記念館と田中角栄記念館に行った後、柏崎刈羽原発を見学しました。案内してくださったのは、長年にわたって原発反対運動を築いてこられた元刈羽村議会議員でした。刈羽原発は一一〇万KWから一三〇万KWの原発が七機あり、世界最大の原発です。一号機・二号機が並ぶ線と三号機・四号機が並ぶ線がずれており、それは活断層があることが原因と考えられるそうです。刈羽村長は原発推進側に取り込まれてしまっているそうですが、柏崎市長は案内してくださった元村議と学生時代からの知人で原発反対の立場であり、東大助手だった宇井純氏の弟子だそうです。柏崎市長は、現在、表立って反対運動はできませんが、新潟県・刈羽村とともに東電との間で「原発周辺地域の安全確保に関する協定書」を締結して原発を規制するという姿勢でがんばっているそうです。また、新潟県の幹部は、国に対する発言力を増やすために、反対運動をもっとがんばってくれと言ってくるそうです。

 最後は長岡駅で解散しました。

 今回の旅行は、地元の団員や旅行社の皆様のおかげで、道州制や原発の勉強をさせていただいたうえ、お酒や海の幸がとてもおいしく、すがすがしい空気を吸いながら気持ちよく観光することができ、本当にありがとうございました。


*憲法特集*

その日(中国との武力紛争)に備えよ

―自民党新防衛計画大綱への提言を読むその一

広島支部  井 上 正 信

 二〇一三年六月四日自民党は「新『防衛計画の大綱』策定にかかる提言」(「防衛を取り戻す」)を発表しました。第二次安倍内閣は今年中に平成二二年大綱に代わる新しい防衛計画大綱を策定する予定ですから、自民党からこれへ反映させるべき内容を提言したのです。

 平成二二年大綱は、元々は二〇〇九年一二月に策定予定でしたが、政権交代があったため、それまでの作業が一旦キャンセルされ、改めて民主党政権が二〇一〇年一二月に策定しました。自民党は政権交代の前である二〇〇九年六月九日「提言・新防衛計画の大綱について」―国家の平和・独立と国民の安全・安心確保のさらなる進展―を発表しています。そのため、二つの提言を読み比べることも必要です。二〇〇九年六月の提言についてはNPJ通信の私のコーナー「憲法九条と日本の安全を考える」で三回シリーズ「憲法改正を狙う自民党提言」(二〇〇九年六月二七日、七月一〇日、八月二二日)をアップしています。

 今回の提言を読んだ率直な印象として、この小論の標題がすぐに浮かびました。二〇〇九年六月の提言が中長期的な展望で書かれていたことに比べ、今回の提言はきわめて切迫感があふれています。平成二二年大綱策定後の安全保障環境が悪化したこととして、北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験、中国がわが国周辺海空域で活動を活発化していることを真っ先にあげています。防衛計画大綱は一〇年間を見通した防衛計画ですから、わずか三年で新しい防衛計画大綱を策定するなど異常なことです。それを合理化する最大の理由が北朝鮮と中国の動きというわけです。北朝鮮は地域における最大の不安定要因、中国はわが国周辺諸国の大きな不安定要因と定義しています。このような安全保障環境の悪化に対する安保防衛政策の具体的な提言がどのようなものか見て行きましょう。

 真っ先にあげている提言に憲法改正と立法改憲(国家安全保障基本法制定など)がありますが、これは次号に回します。新防衛計画大綱の中身として具体的に提言していることは、よく読むと中国への軍事的対処が中心になっています。「高烈度下においても、着実にわが国防衛の任務を全うできる能力を確保」するため「強靱な機動的防衛力」構築を目指します。「高烈度下」とはきわめて厳しい戦闘状況のことでしょう。「強靱な機動的防衛力」構築のための具体的な施策では、シームレスな事態対応(領域警備を例としてあげます)、統合運用の強化(闘う自衛隊の創設です。例として陸上総隊創設をあげています。)。情報・偵察・警戒監視(ISR)機能強化、島嶼部防衛として初動対処能力強化、島嶼部防衛に不可欠な海空優勢確保のため対空・対艦・対潜能力強化、増援部隊展開のための活動・補給拠点の設置、先島諸島周辺空域の防空能力の強化のため先島諸島へ空自の基地を整備、緊急事態での初動対処・迅速な増援・島嶼奪還のための強襲着上陸作戦のため自衛隊に海兵隊機能を付与、そのための編成・装備(オスプレイを装備する水陸両用部隊の新編)、戦車・火砲を含む高練度部隊の対規模かつ迅速な展開のための部隊編成・運用の見直し、輸送能力の強化、敵策源地攻撃能力の保有、などを提言しています。これらは明らかに東シナ海での中国との武力紛争を想定した布石です。

 島嶼部防衛のための以上のような具体的詳細な提言は、二〇〇九年六月提言にはありませんし、これ自体切迫感が伝わってきます。さらに不測の事態に備えようとの切迫感が伝わるのは、敵策源地攻撃能力保有の提言です。二〇〇九年六月提言でもこの能力保有を検討すべきと提言していますが、今回のものは、この能力の保持について検討を開始し、速やかに結論を得る、としています。弾道ミサイル防衛でも、日米で開発中の能力向上型迎撃ミサイル(現在のSM-3では到達高度の関係から十分な迎撃能力がない)を「可能な限り早期に導入する」、Jアラート等の情報伝達体制を強化すると提言しています。急がなければならないというのです。

 島嶼部防衛では、中国との武力紛争を想定すれば、勝敗を決するのは海・空の優勢確保です。中国本土と沖縄本島からそれぞれ約三〇〇キロ離れた尖閣諸島海域での戦闘となれば、双方にとり長い海上補給路と海上輸送部隊、海上戦闘部隊の敵からの攻撃による消耗を最小限に押さえながら闘うことが絶対に必要です。自衛隊と中国軍が東シナ海での海・空優勢を争う武力紛争を想定していると思われます。島嶼部が中国軍に占領されれば、その奪還作戦を行います。まず陸上自衛隊の海兵部隊がオスプレイと水陸両用戦闘車輌で強襲着上陸します。その前に着上陸作戦の援護として、海と空から敵中国占領軍へ攻撃を行い、その戦闘力を削ぎます。その後重装備の陸上部隊を上陸させて、陸上自衛隊海兵部隊が築いた橋頭堡を確保してそこから敵中国占領軍の掃討作戦を敢行します。万一後続部隊の上陸作戦に失敗すれば、殴り込みをかけた陸上自衛隊海兵部隊は全滅します。およそこのような戦闘を考えているのでしょう。そのための布石を着々と打とうとしているのがこの提言です。「高烈度下」での防衛任務達成という意味は、恐らくこのような事態を意味しているのでしょう。

 実際の武力紛争に耐えうる自衛隊を作ろうと思えば、莫大な防衛予算が必要になります。「強靱な機動的防衛力」構築のため、提言は自衛隊の人員・装備・予算を継続的に大幅に拡充すると述べています。さらに、諸外国並みの必要な防衛関係費を確保するとも述べています。そのため、米軍再編経費は防衛関係費から外すべきなどと姑息な提案までしています。

 諸外国並みといっても、米国はこれから一〇年間で約五〇兆円の防衛予算削減を迫られています。ヨーロッパ諸国も軍縮しています。何処と比較しようというのでしょうか。二〇〇九年六月提言では、〇七年の防衛費では日本は世界第五位であること、中国は世界第三位であることを挙げて、中国の軍事予算と日本の防衛予算との乖離が増大していることに懸念を示して、「骨太の方針:ゼロベース」の見直しを提言しています。あたかも中国と軍拡を競うかの書きぶりでした。今回の提言も中国を念頭に置いていると思います。東南アジア諸国も軍事予算を増やしていますので、これらの諸国も念頭に置いているのでしょう。自衛隊の人員と装備及び防衛予算を「継続的に大幅に増大」すれば、一体東アジアの国際関係はどうなるのでしょうか。日本の歴史認識問題と憲法改正問題で、日本に対する懸念が広がっているさなかの日本の大幅な軍拡は、日本の安全保障政策に対する不信感を増大させ、国際関係が不安定になる一方です。むろん私たちの暮らしに重大な悪影響を及ぼします。「大砲よりバターを」はいささか古いスローガンのようですが、今の日本に生活する私たちが声を大にして叫ばなければならないスローガンと思います。

 この原稿はNPJ通信「憲法九条と日本の安全を考える」へ六月九日アップされたものです(http://www.news-pj.net/npj/9jo-anzen/20130609.html)。NPJ通信は憲法問題についての情報が満載です。是非ご覧下さい。


八法亭みややっこの出前憲法高座

東京支部  飯 田 美 弥 子

一 そうだ、落語でやってみよう

 自由法曹団員が自民党改憲草案を読んだなら、必ずや、「げ。何これ?」と思うと信じたい。(自民党の国会議員の中にも弁護士がいるから、「弁護士なら」とは言えない。)

 とにかく、私はそう思った。三月一五日には、八王子革新懇主催の学習会で、事務局長自ら、改憲案批判の講師をした。三〇人の参加で、盛況ではあった。

 四月二九日には、八王子の市民ホールで、七〇〇人規模で、伊藤真弁護士による改憲案批判の講演とシンポジウムが行われた。参加して、熱い真節に大いに感心したものである。

 さて、その学習会の後に、新日本婦人の会の某支部から、学習会講師の要請があった。先日の伊藤講演を聞いてしまった人も多いに違いない。同じ話をして退屈されるのは辛い。どうしよう…、と思っているところに、その支部からの質問事項が送られてきた。

 「質問一 憲法は私達の暮らしにどう生きているのですか?」

 私は、この質問で椅子からずり落ちそうになった。

 伊藤真弁護士の、あれだけ密度の濃い講演を聞いて、感激して帰っても、振り返って、自分の周りを見ると、憲法のケの字も見つけられない、ということであろう。

 こりゃだめだ。同じように話をしても、「よかったわあ。いい話だったわあ。でも、私たちには関係なさそうよね。」となってしまうに違いない。

 紙芝居では、二番煎じだしなあ。…そうだ!

 私は、高校時代に落研で培ったスキルを生かすことを思いついた。

二 みややっこ登場

 その日、私は、紬の着物に紅型の染め帯姿で(茶道のお稽古のお陰で、自分で着物が着られる。)、自分で墨書した(書道四段)「安倍のリスク 八法亭みややっこ」というめくりと扇子を持ち、学習会の会場に臨んだ。座布団を用意して欲しいことは、事前に連絡済みである。

 ちなみに、この高座名は、以前、沖田国賠事件の報告を落語でしたときに、支援の会の皆さんがつけてくれたものだ。

 さて、会場に入ると、参加者から訝しげな視線を投げられる。「誰、あれ?」「弁護士いないけど?」最初から、「先生のお話を聞く」という雰囲気でなくなっている。

 「え〜、皆さんからのご質問をいただきまして、これはダメだ、スーツで話に行ったら、叱り飛ばしてしまう、と思って、着物で来ました。皆さん、婦人の集まりですよね。私たちの生活にどう生きているか?って。え?皆さん、日本国憲法になるまで、婦人参政権はなかったんですよお。知らなかったとは言わせませんよ。大丈夫ですか。」

 「あら、そうだった」「やあねえ、忘れてたわ」的な笑いが起こる。

 「日本国憲法の前の憲法の第一条を知っていますか?バンセイイッケイの天皇これを統治すだったんですよ。また、『それ、日本語?』みたいな顔をして。バンセイイッケイとは、万世一系と書いて、いざなぎ・いざなみの命(みこと)以来、ずっと守られている血脈というほどの意味。天皇は現人神(あらひとがみ)で、神様だと信じられていたんですよ。何笑っているんです。本当ですよ。敗戦後に、昭和天皇が『私は人間です。』と人間宣言をしたときには、国民が、御労(おいたわ)しや、と泣いたんだから。私たちは、国民じゃなしに、臣民で、天皇様がお許しくださる範囲で自由があったにすぎなかった。女性なんぞ、子どもの頃は親に従って、嫁しては夫に従って、老いては子に従うという三従苦の立場でしたね。私には、無理!ああ、日本国憲法の下に生まれてよかったと思います。」

 「今の憲法は押し付けだ、憲法を国民に取り戻すとか安倍さんは言いますけれどね。敗戦直後にも国民の間では、この辺りでは五日市憲法が有名ですが、権力分立や人権思想を盛り込んだ憲法草案もあちこちで作られていたんです。ところが、ときの政権の考えていた新憲法案は、コクタイゴジ、大丈夫ですか?国民体育大会の字が間違っているわけじゃありませんよ。国体を護り維持するという字。国体とは天皇制のこと。マッカーサーだって、これじゃダメだ、と呆れたことでしょう。…今の憲法、満六六歳ですけれど、ずっと押し付けられたと国民が憲法を恨みながら暮らしていたと、安倍さんは言いたいのだろうし、安倍さん自身はそうかもしれないけれど、決してそんなことはないと思いますね。国民は、日本国憲法を歓迎し、守ってきたのではないですか。皆さん、大日本帝国憲法がクレージーだと思いません?」

 書いているとキリがない。とにかく、こんな調子で、弁護士ではなかなか言えない、言いたい放題をしてきたのだった。

三 ご指名が続く

 参加者からは、「新鮮だった。」「気持ちがスカッとした。」等の感想が寄せられた。よかった、よかった、と思っていると…。

 新婦人新聞のニュースに、みややっこ先生の楽しい憲法講座の記事が載ったらしい。あとは、女の口コミの力か。法律相談に出向いても、「先生、落語やったって?評判になっているよ。」と声を掛けられる。「みややっこ先生、私も聞いてみたい。」と議員や候補者からメールが届く。(団員からも頂きました。)

 じわじわと、みややっこご指名の講師依頼が来るようになった。現在三件。衣装と扇子とめくりを持って出掛けて行く。弁護士の業とも思われない。

 でも、憲法の話は、私も楽しい。ネタを探すのに、新聞にもよく目を通すようなった。それで、聞く人が喜んでくれ、憲法について理解を深めてくれるなら、こんな嬉しいことはない。

 私にこんな機会をくれた、自民党改憲草案に感謝したい。

二〇一三・六・一四


今こそ自由な選挙を取り戻そう

小沢隆一・田中隆・山口真美編著

「市民に選挙をとりもどせ!」のすすめ

東京支部  西 田   穣

 このたび、東京慈恵会医科大学の小沢隆一教授と、田中隆団員、山口真美団員の共同編著で、「市民に選挙をとりもどせ!」が大月書店より発刊となりました。

 昨今、国民の政治・選挙離れがうたわれ、国民の「政治的有効性感覚」(注:用語の意味は、紹介本を読んで確認下さい)が失われつつあります。先日行われた東京都議選でも、自民党圧勝、革新政党の大幅躍進の影で、投票率は前回を一一ポイントも下回る四三・五%にとどまりました。主権は国民にあり、政治は国民のものであるべきであるにもかかわらず、国民が政治から離れてしまう、これはわが国の政治的風土だけでは説明がつかず、選挙制度、選挙活動に問題があると考えざるを得ません。

 今回発刊された「市民に選挙をとりもどせ!」では、第一章、第二章で、戦後日本における政治と選挙のあゆみと、憲法からかけ離れた選挙制度の問題点を指摘し、第三章、第四章で公職選挙法の問題点、今般のネット選挙解禁による改正点、そして選挙運動・政治活動がどこまでできるのかに具体的に踏み込んだ説明がされています。

 特に、個人的に強調(お勧め)したいのは、第三章、第四章に関連する選挙運動・政治活動の自由の獲得に向けた取り組み(説明)です。従来の公選法の二大害悪とされた「文書図画の規制」、「戸別訪問の禁止」ですが、ホームページ・ブログ・ツイッター等を利用して、文書・図画を掲示・発信できるようになり、文書図画の規制に合理的根拠はなくなりました。いくつかの要件・規制があるも、メールを利用して個人に対し直接政策・意見を伝えられるようになり、有権者に個別に働きかけること(戸別訪問)の規制にも合理的根拠がなくなりました。もはや、従来の公職選挙法の規制が、表現の自由に対し許容される規制として合理的に説明できる根拠は失われています。すでに法改正の議論の中で、公職選挙法の矛盾が露呈されており、今後FAX等の文書に関する規制についても議論することが付託されていることからも、今こそ自由な選挙を取りもどすときといえるでしょう。

 もっとも、与党政党と同じことをやっていても、革新政党がやると弾圧されるのがわが国の風土(捜査常識)です。一見自由になった選挙活動も、警察の恣意的な運用により、たちまち極めて危険な選挙活動に変わります。我々自由法曹団員に求められるのは、自由な選挙を求める活動と、同時に捜査機関の動きも想定した準備だと思います。そのためにも、正確に公職選挙法を理解し、そして「べからず選挙法」といわれる法律下でも、自由に行える政治活動・選挙運動はたくさんあるということの理解を深める必要があります。

 「市民に選挙をとりもどせ!」は、こういった理解を深めるに足りる最新の情報(国家公務員の政治活動・選挙運動、ネット選挙解禁に関する説明など)と、従来の公選法下で弾圧とたたかってきたノウハウの双方を集約した秀逸本です。議席にかなりの差があるとはいえ、「自共選挙」といわれるほど政策の対立軸が明確になっている革新政党に対し、都議選の躍進を受けて、捜査機関が次の参議院選挙で暴挙に出る可能性は低いとはいえません。若手は当然のこと、ベテランの団員の方も、参議院選挙前に一読されることを強くおすすめしたいと思います。

 定価は税込み一八九〇円ですが、自由法曹団を通じて注文して頂ければ二割引一五一二円で購入できます。(一〜二冊は一冊につき送料二〇〇円、三〜四冊は送料五〇〇円、五冊以上は送料無料です。)チラシをお持ちでない方は自由法曹団本部(電話〇三―三八一四―三九七一)までお問い合わせ下さい。