過去のページ―自由法曹団通信:1470号        

<<目次へ 団通信1470号(11月11日)


川口  創 *秘密保護法特集*
イラク派兵違憲訴訟と「秘密」
仲山 忠克 訴訟に現れた防衛情報の本質
小野寺 義象 情報保全隊問題と「秘密」
情報保全隊はなにを監視し、なにを秘密としたか・・・
大久保 賢一 原発情報も「特定秘密」にされる
篠原 義仁 いまたたかいのとき
総力をあげて秘密保護法を阻止しよう
窪田 之喜
(国立求償事件弁護団)
判決せまる「国立市の元市長に対する求償裁判」
鈴木 亜英 ナショナルロイヤーズギルド総会参加
プエルトリコ雑感
井上 洋子 NLGプエルトリコ総会に参加して
飯田 美弥子 みややっこの愛国心
今泉 義竜 ハピバ憲法、大成功!&東京法律事務所の今後の取り組み
西田  穣 自由法曹団のホームページでの存続をかけて今年も募集します!
新六七期(二〇一四年一二月登録予定)修習生向けの事務所情報の登録をお願いします!



*秘密保護法特集*

イラク派兵違憲訴訟と「秘密」

愛知支部  川 口   創

 二〇〇三年、イラク戦争はアメリカによる一方的な攻撃で始まった。日本は世界に先駆けて支持し、イラク特措法を作り、二〇〇四年から本格的に自衛隊をイラクに派兵した。
 国は、イラク派兵の実態について、「人道支援」という宣伝をするばかりで、その実態を明らかにするように求める情報公開請求に対しては、「墨塗り」の書面を出しつづけ、イラク派兵の実態を国民に隠蔽し、欺き続けた。
 その中で、我々イラク派兵差し止め訴訟弁護団は、独自の情報収集をした。また、中日新聞・東京新聞など、一部のジャーナリストが精力的にイラクでの航空自衛隊の活動の実態を取材をし、報道を続けた。そういった積み重ねの上で、二〇〇六年七月に陸上自衛隊が撤退したと同時にこっそりと始まった、航空自衛隊によるバグダッドへの輸送活動の実態が、武装米兵の輸送であることが分かった。
 そして、バグダッドが当時、激しい戦闘地域であり、その最前線に武装した米兵を多数送り込むことが、米軍との「武力行使一体化」にあたる、として、二〇〇八年四月の名古屋高裁の憲法九条一項違反の判決をおこなった。
 仮に、「特定秘密保護法」ができていれば、我々の情報収集も、また、中日新聞・東京新聞の取材活動も、処罰の対象となりかねなかったのではないだろうか。イラク派兵の実態は隠蔽されたままで、当然違憲判決なども出ることがなかったであろう。
 二〇〇八年四月に違憲判決があり、当初、政府はこの判決を軽視する発言を繰り返していたが、二〇〇八年の年末には、イラクから自衛隊を完全撤退させた。
 憲法九条が力を発揮したと言って良い。
 名古屋高裁が憲法九条違反の判決を示したのは、原告側がイラクでの自衛隊の活動を詳細に証拠として提出したからである。その証拠は、我々原告弁護団がイラク隣国ヨルダンへの調査を行うなどによって独自に入手したものもあれば、中日新聞・東京新聞の優れた記者達が地道な取材活動によって入手したものもある。
 こうした情報は、「外交・防衛」に当たるため、特定秘密に指定され、入手できなくなる。そうであれば、憲法違反の事実が海外で積み重ねられたとしても、情報入手ができない以上、憲法九条を活かす訴訟自体が不可能となり、憲法九条は空文化してしまう。
 さらに、違憲判決から一年あまり経った二〇〇九年一〇月、国はそれまでほぼ全面的に墨塗りに形でしか「開示」してこなかった航空自衛隊の活動実績について、全面的に開示をしてきた。
 その「全面開示情報」から、航空自衛隊の輸送活動が、人道支援でも何でもなく、武装した米兵の輸送が多数に上っていたことが明らかとなった。
 仮に特定秘密保護法があり、「特定秘密」に指定されていたとすれば、こうした情報が開示されることはなかったであろう。
 安倍政権は、現在、「特定秘密保護法」と同時に「日本版NSC設置法」を法案化しようとしている。さらに、来年には、国家安全保障基本法の制定を狙っている。
 国家安全保障基本法は、集団的自衛権のみならず、海外での武力行使を全面的に解禁していくことにつながる法案であり、憲法九条を完全に空文化させしまう法案である。同法案では国民に対する「防衛協力努力義務」も課され、この基本法の下で作られて行くであろう様々な法律によって、戦争に反対すること自体が処罰対象となりかねない。
 国家安全保障基本法の中には、秘密保護法制の制定と、日本版NSCの創設自体が明記されており、この国家安全保障基本法と、特定秘密保護法と、日本版NSC法とは、一体となって、日本を軍事国家に作り上げる法体系の基本として機能していくことが予定されている。
 国家安全保障基本法は、まさに「平和憲法破壊基本法」である。
 明文改憲手続きを経ることなく、憲法九条に規範を根こそぎ否定し、軍事中心の新たな国家体制を作り上げるのが、国家安全保障基本法であり、その大事な骨格となるのが、特定秘密保護法である。
 このようなやり方が認められては、もはや我が国は立憲主義国家とは言えない。
 しかし、現実には、内閣法制局長官のクビをすげ替え、集団的自衛権を容認する人物を「長官」として送り込んだ。
 内閣法制局を握った安倍内閣は、一見「敵なし」である。
 国家安全保障基本法も、来年、制定に向けて大きく動くであろう。
 特定秘密保護法は、戦争国家への大きな第一歩である。
 特定秘密保護法が出来れば、自衛隊が海外に派兵されても、もはやその活動実態について調査することは不可能になり、活動実態についての情報公開について国は応ずることもないだろう。
 海外で自衛隊が憲法九条違反の行為をしていたとしても、その実態を私達が直接情報収集をしていくことは極めて困難になり、憲法九条違反の活動は国民に隠さてしまうだろう。
 そして、国家安全保障基本法の下、九条違反の事実が次々積み重ねられ、その「事実」に合う形で「法律」が次々作られ、憲法九条は、明文改憲手続きを経ることなく、あってもなくても良い規定になってしまう。
 特定秘密保護法は、単に「知る権利」云々、という問題にとどまらない。私達が今直面しているのは、「平和憲法」の危機であると同時に、「立憲主義」の危機である。
 立憲主義を破壊する一連の「手口」に対して、大きく連帯していくべき時である。
 幸い、広汎な連帯を行う大きな素地が出来つつある。一見敵なしの安倍政権であるが、私たちも決して無力ではない。全力で戦争国家への「手口」を止めていこう。


訴訟に現れた防衛情報の本質

沖縄支部  仲 山 忠 克

 安倍政権が今国会での制定を目論む特定秘密保護法案は、防衛・外交等の四分野に関する事項を保護する秘密の範囲としている。そのうちの防衛情報の秘密性の存否が直接の争点となった裁判例がある。那覇市情報公開訴訟である。防衛情報の本質が具現化された訴訟として紹介する。
 事案の概要は次のとおりである。
 那覇防衛施設局(当時)は、一九八八年一二月、建築予定のASWOC(対潜水艦戦作戦センター)庁舎(以下、「本件施設」という)の建築計画通知書および添付図書四四点を那覇市に提出したところ、一市民が、「ASWOCは有事の際、真っ先に敵の攻撃目標とされかねない。平和な市民生活を営む上からも、その内容について十分に市民の知る権利とチェックの機会が保障されるべきである」旨主張して、那覇市情報公開条例に基づいて公開請求した。ASWOCは、対潜哨戒機P3―Cに対する戦術支援、指揮管制を行って、敵潜水艦を攻撃させる任務を負う軍事施設である。
 那覇市長は、国民の知る権利の保障の観点から、同年九月、これらの図書の全面公開を決定した。国(那覇防衛施設局)は、ただちに那覇地方裁判所に対して、那覇市長を被告として、情報公開決定の取消を求める行政訴訟を提起し、併せて公開決定の執行停止の申立をした。この執行停止申立事件の審理の過程で、国は、二三点の図書には秘密性はないと自ら公開に同意したので、那覇地方裁判所は、残る二一点の図書について、それを見ないまま、国の主張を全面的に受け入れて執行停止を決定した。
 こうして、本件施設の二一点の建築図書(以下、本件図書という)の公開決定の是非をめぐる那覇市情報公開訴訟(以下、本件訴訟という)が開始された。
 国は、本件図書には複数の防衛秘密が存し、そのうち本件施設の抗たん性に関する情報については、次のように主張した。準備書面の主張をそのまま引用する。
 「自衛隊の行動にとって不可欠な航空基地、指揮通信施設等は、有事における抗たん性の確保、すなわち、攻撃を受けた場合でも簡単にはその機能を停止することのないよう所要の措置を講じている」
 「本件施設は、主として爆撃機による爆弾攻撃を想定し、その爆弾の重量、投下速度、投下高度等から弾道、弾着角度、弾着速度を見積もり、地中爆発による破壊威力を計算して、これに耐えうる鉄筋コンクリートの壁厚等を設計したものである。この点、本件施設は、一般庁舎、宿舎、隊舎などの通常の自衛隊施設とは全く異なった特殊な施設である。」
 「本件施設の壁の構造、厚さなどの情報を含む本件図書が公開されると、本件施設の対爆撃強度が判明して、本件施設の破壊にとって最も効率的なデータ(爆弾の重量、爆撃高度等)を攻撃側に対して与えることになり、ひいては、我が国に対する攻撃を極めて容易かつ効率的なものにすることとなる。」
 しかし、国の上記主張はまったくの虚偽であった。本件施設の実態は、壁の構造に何ら特殊性はなく、地下階の壁厚はわずか三五cmで、およそ一般庁舎建築物と何ら異なるものではないからである。その虚偽性は、本件図書を所持している那覇市側にとっては一見明白であったが、国は本件図書を見ることのできない裁判所や国民なら誤魔化せるとの判断の下に、虚偽の主張をしたものと解さざるを得ない。一審判決は、公開図書をもとに「一般事務所建築物」と特段異なるものではないと判断した。
 大仰な虚偽の主張によってでも本件図書を隠蔽しようとする国の姿勢は、防衛情報は国家が独占すべき聖域化されたもので、裁判所も当然にそれを受け入れるべきであり、国民には「知らしむべからず」という思想的基盤に立脚したものであろう。虚偽と隠蔽こそ防衛情報の内在的本質であり、それは際限なく拡大することを、本件訴訟は実証した。去るアジア太平洋戦争における大本営発表は虚偽の代名詞となっているが、その虚偽性は戦争という時代的背景の下でやむを得ず偶然に生起したものではなく、防衛情報の内在的本質がもたらした必然の帰結に他ならない。
 防衛情報は、国民の生存や安全に直結するものであり、それ自体が独自の存在理由を持つものではない。常に国民の生存や安全と関連して吟味されるべきであり、特に国民の知る権利の保障を侵害するものであってはならず、その聖域化は許されない。
 特定秘密保護法案は、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案とセットである。同会議が設置された場合、米国などの同盟国と秘密情報を交換・共有することになるので厳重な秘密保全が必要であるというのが、安倍政権の特定秘密保護法制定の理由である。米国の国家安全保障会議は戦争司令部として機能し、その究極的な局面は戦争の決断だといわれている。その日本版設置は、戦争のできる軍事国家体制づくりに他ならない。特定秘密保護法の制定はその一環であり、虚偽と隠蔽、それを保護する罰則の脅威に支えられた国家の出現をもたらし、明文改憲への布石でもある。
 「軍事によらない平和」の構築を国家存立の基本原理とする日本国憲法下において、自己増殖性を不可避的特性とする軍隊は、その名称(自衛隊、国防軍、米軍)の如何に関わらず存在自体が許容されるべきではない。その観点から防衛(軍事)情報そのものの存在性、そしてその存在根拠である軍隊としての自衛隊や安保条約の違憲性や是非が改めて鋭く問われなければならない。


情報保全隊問題と「秘密」
情報保全隊はなにを監視し、なにを秘密としたか・・・

宮城県支部  小 野 寺 義 象

 秘密保護法の人権侵害の危険の先取りともいえる事件が、現在仙台高裁で審理されている陸上自衛隊情報保全隊(現在は自衛隊情報保全隊)による国民監視違憲訴訟である。

一 何が秘密とされていたか

 訴訟では、情報保全隊が自衛隊の活動に反対する市民を監視し、その収集情報を秘密文書として保有していることが認定された。イラクへの自衛隊派兵が大きな社会問題になった時期(二〇〇三年末から〇四年二月)に、派兵に反対する全国の広範な団体・市民の集会、デモ等の動向を組織的・系統的・日常的に監視し、個人の実名を含む情報を収集・分析・管理保管した内部文書が、自衛隊員の内部告発によって発覚したのである。監視対象は平和・護憲・女性などの様々な市民団体から国会議員・地方議員、マスコミ、さらには弁護士会や著名な映画監督の動向など広範囲に及んでいた。
 仙台地裁は、二〇一二年三月二六日、被告国が文書の成立すら認否しなかったこの秘密文書が存在することを認定し、この文書は国民の自己情報コントロール権を含む人格権を侵害する違法文書と判断して、五人の原告に対する国家賠償を国に命じた。
 国の秘密文書が国民の人権を侵害する違法文書だったことが明らかにされ、これによって、私たち国民は国家の人権侵害を救済しこれを抑止する足がかりを得たのである。
 人権を侵害された原告には、秘密保護法は、情報保全隊による人権侵害の違法文書を国民に内部告発してくれた勇気ある公務員を懲役一〇年の犯罪者にしたてて社会的に抹殺する法律にしか見えないのである。

二 情報保全隊はなにを監視していたのか

 以下は、元情報保全隊隊長(鈴木健氏)の仙台高裁での証言である。
(1)情報保全隊はなにを監視するのか
 情報保全隊の任務は「外部からの働きかけから部隊等を保全すること」であり、外部からの働きかけには「秘密を探知する動き」が含まれる。
 秘密を探知する可能性のある団体等の動き、活動、これらの団体等による隊員あるいは家族に対する接触状況、こういったものが情報保全隊の情報収集の対象となる(第一回尋問調書二頁)。
 一般市民についても情報を集めることはあり得る(同二一頁)。自衛官人権ホットラインの開設やそのホームページの開設も外部からの働きかけ等に当たり得る(同五〇頁)。
 秘密保護法の「特定秘密」を探知しようとする団体(報道機関等)の動き、活動は、自衛隊にとって、外部からの働きかけそのものであり、当然に情報保全隊の監視対象となる。
(2)報道機関の取材は外部からの働きかけにあたるか
 報道機関の記者が隊員の話を聞かせてほしいと取材を申し込むことは外部からの働きかけに当たり得ない(同三三頁)。
 隊員に対する取材については、広報を通じて申し込むものであるというふうに私は認識をしている。だから、外部からの働きかけには該当しないと認識している(第二回調書一三頁)。
 (記者が広報を通さずに隊員や家族に直接取材を申し込むことは外部からの働きかけに当たり得るかとの問いに対し)そういう場合はあり得ないと私は認識している。マスコミが、報道の方が、広報を通さずにそういうことをすることはないと認識している(同上)。
 (広報を通さない取材は問題のある取材なのかとの問いに対し)それは取材ではありません(同一四頁)。取材は広報を通じてなされるものであると認識している(同上)。マスコミの取材というならば、広報を通じて言ってきていただくということで、それが取材だと認識している。それだけです(同上)。
 秘密保護法は「取材の自由に十分配慮しなければならない」というが、自衛隊が念頭においている「取材」とは「広報を通した取材」に過ぎないのであり、それ以外は「外部からの働きかけ」となる。
(3)情報保全隊は国民のどのような情報を収集しているのか
 秘密を探知しようとする外部からの働きかけに該当する行為(広報を通さない取材や集会・デモ行進等)の内容に関する情報のほか、それら活動の関係者及び関係団体等が行う他の活動、関係団体等に所属する個人に関する情報も収集し、整理していた(同三一頁)。
 その情報には、氏名、職業、住所、生年月日、学歴、所属団体、所属政党、個人の交友関係、過去にその個人が行った活動も含まれる(同五三頁〜五六頁)。
 このように、秘密保護法が制定される前から、自衛隊は国民のプライバシーに関する広範な情報を収集し保管しているのである。
(4)情報保全隊が集めた情報はどうなるか
 外部からの働きかけ等を行った団体・個人の情報についてまとめたリスト(第一回調書六四頁)、個人や団体について整理した文書は存在していた(第二回調書四頁)。
(5)さらに、鈴木証人は、本年一〇月二八日の第三回証人尋問で、情報保全隊は警察も含む全ての他の行政機関から非公開の情報の提供を受け得ること、情報保全隊が収集した情報は団体の傾向(セクト?)ごとに整理していることまで認める証言を行った(現時点で尋問調書は未完成)。
 このように、秘密保護法のない現在においても、自衛隊情報保全隊は国民の人権を侵害する違憲違法な監視活動を行っており、私たち国民はこの人権侵害を許さない闘いを法廷で行っている。秘密保護法は、自衛隊に違憲違法行為を隠蔽する口実を与えるとともに、自衛隊の違憲違法行為を正そうとする国民を抑圧する凶器にほかならない。


原発情報も「特定秘密」にされる

埼玉支部  大 久 保 賢 一

 福島原発事故に際して、放射性物質の拡散状況に関するデータ(SPEEDI)が米国には提供されたが、国民からは隠されていたために、福島県浪江町の住民が放射線の高い方向に避難するという悲劇が起きた。政府は、原発事故に関する情報を国民のためには使おうとしなかったのである。そんな政府が「国民の安全のため」として、「特定秘密の保護に関する法律」(特定秘密保護法)を国会に上程している。
 ところで、特定秘密保護法によって、原発に関する情報は、「特定秘密」とされることはないのだろうか。この間、政府は「原発情報が秘密になることは絶対にない。」と説明してきた。ところが、一〇月二四日に開かれた超党派議員と市民による政府交渉の場で、法案担当の内閣情報調査室参事官は、「原発関係施設の警備等に関する情報は、テロ活動防止に関する事項として特定秘密に指定されるものもありうる。」と説明したのである。そして、核物質貯蔵施設などの警備状況についても同様であるという。結局、原発の内部構造や事故の実態も秘密とされる危険性が明らかになったのである。
 そもそも、法文上、原発情報を除外する規定などないにもかかわらず、「秘密とされることは絶対ない」などと断言すること自体虚偽説明であるが、ここでは、原発情報が「特定秘密」とされうることを確認しておくことにする。
 法案によれば、防衛、外交、特定有害活動、テロ対策などに関する情報は、行政機関の長の判断で「特定秘密」とされ、国会や第三者機関の関与は予定されていないので、何が秘密とされたのかも不明ということになる。のみならず、その「秘密」を漏らした公務員も、政府情報を明らかにしようとする国会議員も、取材しようとするジャーナリストも「犯罪者」とされる危険性に晒されるのである。
 秘密保護法などなくても、放射性物質の拡散に関するデータを隠蔽した政府が、秘密保護法を手に入れてしまえば、国民の生命や健康にかかわる情報や環境汚染にかかわる情報も、「テロ対策」などの名目で国民の目から隠されてしまうことになる。そして、それを知らせようとする人たちは、「犯罪者」とされることを恐れ、その行動を自主規制することになるであろう。
 福島県議会は、一〇月九日、「特定秘密の保護に関する法律案に対し慎重な対応を求める意見書」を全会一致で採択している。同意見書は、日弁連の反対の立場を援用しながら、原発の安全性に関する情報や住民の安全に関する情報が、核施設に対するテロ活動防止の観点から、「特定秘密」とされる可能性を指摘している。その上で、今、必要なことは、情報公開の徹底であり、刑罰による情報統制ではない。内部告発や取材活動を委縮させる法案は、情報隠蔽を助長し、ファシズムにつながるおそれがある、もし採択されれば、民主主義を根底からことになるとして、両院議長と内閣総理大臣に慎重な対応を求めている。
 毎日新聞は、この福島県議会の意見書について、一〇月二六日の社説「国会は危険な本質を見よ」で、「この重い指摘を全国民で共有したい。」としている。
 私たちの姿勢と、福島県議会や毎日新聞とは、強く共鳴し合っているといえよう。

(二〇一三・一〇・二八記)


いまたたかいのとき
総力をあげて秘密保護法を阻止しよう

団 長  篠 原 義 仁

 一一月七日、政府・与党は「特定秘密の保護に関する法律案」(秘密保護法案)の審議入りを強行し、臨時国会で成立させようとしています。日本国憲法を蹂躙する戦争のための人権抑圧立法が、数の横暴によって強行される危険が強まっています。
 法案発表から二か月、市民運動や地域運動、憲法・刑事法学者、弁護士会や各種法律家団体が反対の声をあげ続け、自公修正にもかかわらず、メディアの反対・批判は弱まっていません。世論調査では反対・慎重が圧倒的多数を占めており、野党は反対を表明するか修正を要求しています。
 こうしたなかで、与党が圧倒的多数を占める国会であっても、国民的な闘争によって臨時国会での強行を阻止し、秘密保護法案を廃案に追い込む条件も生まれてきています。
 一一月五日、自由法曹団は緊急意見書を発表して、大きなインパクトを与えました。メディアとの懇談も成果をあげつつあります。全国の支部・法律事務所での活動も前進し、「反対連絡会議を結成」「弁護士会の宣伝活動に結集」「法律事務所で毎週宣伝」などの活動が展開されています。リーフレットの活用も一〇万部に近づき、日を追うごとに受け取りの手ごたえがでてきています。
 いままさにたたかいのとき。
 全国の支部・法律事務所、団員・事務局員の皆さんが、法案阻止のために総力をあげて奮闘されることを、心から呼びかけます。

   *行 動 提 起*
◎ デモ・パレード、街頭宣伝、集会などで反対の声を広げよう
 ・一一・二一中央集会(一八時三〇分 日比谷野音)に結集を。
  各地の一一・二一連携集会。連絡会で共同行動を。
 ・支部・法律事務所での街頭・駅頭宣伝を行い、弁護士会の宣伝  行動に積極的に参加を。
 ・反対の声を個人署名・弁護士アピールなどに集約を。
◎ 反対の声を国会議員とメディアに突きつけよう
 ・衆院安保特議員(一一日から審議)に全国からFax要請を。
 ・地元選出議員に説得要請を。地元事務所へ。上京して国会へ。
  国会の行政への拝跪と議員活動の抑圧を強調しよう。
 ・地元メディアへの要請、資料提供、懇談を。
  修正で報道の自由は守られないことを強調しよう。
◎ 問題点と危険性を徹底的に暴露しよう
 ・法案の構造・内容・問題点の把握を。
  TPP・原発・基地・人権・・課題との関係での考察を。
 ・意見書、リーフレットなどを活用し、学習会・レク会を。
 ・意見書などのブログ、メール、SNSでの拡散を。
◎ 活動を交流し、経験・教訓を共有しよう
 ・論稿や活動の報告を自由法曹団通信へ。


判決せまる「国立市の元市長に対する求償裁判」

東京支部  窪 田 之 喜(国立求償事件弁護団)

 この事件では、住民訴訟制度の意義や住民自治の根本が問われています。

一 景観破壊とたたかった国立市民

 国立市で景観政策を積極的に掲げた上原公子市長が誕生した直後の一九九九年七月、M社は、国立市民が最も大事な景観として育んできた通称大学通りの南端の土地(本件土地)を買占め、一四階建・高さ四四m・三四三戸のマンション(本件建物)建設にかかった。
 国立市民と国立市は、建物の高さが並木の高さ二〇メートルを超えないとする地区計画をつくり、これを条例化して対抗した。M社は、同条例制定前に着工して建築を強行したので、本件建物が同条例の違反建築物となるか否かが問われ、「違反建築」、「二〇メートルを超える部分の撤去」を命じる判決などが連続したが、上級審で否定された。
 M社が国立市を被告とした訴訟は、二〇〇五年一二月、東京高裁が地区計画条例の適法、既存不適格化による三億五千万円の請求の棄却、信用棄損等二五〇〇万円の損害賠償請求のみ認容との判決を出し、最高裁で確定した。国立市はM社にこれを支払い、M社は同額を寄付して、一連の争いは決着した。

二 住民訴訟から求償訴訟へ

 二〇〇九年五月、四人の市民により、国立市がM社に支払った遅延損害金を含む三一二三万余円は上原元市長の不法行為による賠償金であり、国立市は元市長に求償せよとの住民訴訟が提起され、二〇一〇年一二月、東京地方裁判所はこれを容認する判決を下した。国立市は控訴したが、二〇一一年四月の市長選挙で交代した新市長は、同年五月、控訴を取下げ一審判決が確定した。
 確定した住民訴訟判決によって訴訟提起を義務付けられた国立市が、元市長(被告)に対して損害賠償金を求償しているのが本件訴訟である。事態は、住民自治内部の争いとなった。 

三 国立市の主張(住民訴訟判決)

 国立市は、概略以下の四つの行為を被告の違法行為と主張している。
 第一行為 被告が、二〇〇九年七月三日、ある懇談会で、本件建物の建設情報を話し、「行政は止められない」などと発言し、反対運動が広がった。
 第二行為 被告は、国立市景観条例に基づく行政指導から、地区計画及び条例の制定という(強制力ある)方向に市の方針を変更させ、二〇〇〇年一月二四日、地区計画を告示・施行し、同月三一日、臨時市議会を招集して地区計画を条例化させ、翌日、公布した。
 第三行為 二〇〇一年三月議会で二度、前年一二月の保全事件高裁決定をもとに、本件建物が違法である旨発言した。
 第四行為 一九九九年一二月のテレビインタビューの発言、二〇〇〇年一二月二七日、建築指導事務所長に本件建物を違法建築とした高裁決定を尊重する指導を求め、同年七月には、東京都知事に文書で、電気、ガス、水道の供給承諾を留保するように要請し、二〇〇一年一二月、東京都建築主事の本件建物の検査済証交付に抗議した。
 これらの行為は、全体的に観察すれば、適法な本件建物の建築販売を阻止する目的で、これを妨害するもので、行政の中立性及び公平性を逸脱し、行政の継続性の視点を欠いた急激かつ強引な行政施策の変更であり、異例かつ執拗な目的達成行為であって、社会通念上許容される限度を逸脱した国家賠償法一条一項に規定する違法があり、違法となる基礎的事実を認識してM社の営業活動を妨害したので、重大な過失がある。

四 「大学通りの景観を守れ」は「オール国立」の声 

 本件建物は、大学通りの優れた景観をセールスポイントとしつつ景観全体を壊すものであった。「大学通りの景観を守れ」は、国立市民、国立市、首長、議会、まさに「オール国立」の声であった。
 憲法の視点からは、「(1)『営業の自由』(二二条)は『公共の福祉』により広範な制約を受け、『公共の福祉』には、景観利益(判例上も認められた)・景観権の保護も含まれ、(2)被告の一連の行為は、景観保護のための行為であり、営業活動妨害目的行為ではない、それは憲法九二条「地方自治の本旨」の主たる内容である「住民自治」の営みである。」とまとめられる。

五 法廷で明らかにされた住民自治の姿

 国立市は、地区計画による建築物の高さ制限には「都知事の事前協議」が必要と考えていた。しかし、一九九九年一〇月二二日に都庁を訪ねた住民は、前年の都市計画法令の改正で、その地区計画が市独自で決定できることを知った。
 住民側は、都市プランナーであるIを中心に地区計画案作成にとりかかった。Iは、専門家として「お互いが自主規制してこそまちづくり」と考えていた。桐朋学園敷地を計画区域に入れて同学園の了解をとり、「低層住宅地区」の地権者から一五メートルの当初案より厳しい一〇メートル制限案が出されて、Iは、この地区計画が「いける」と実感した。
 Iらの地区計画案は一一月一一日に完成し、同月一五日、地権者の八二%の賛同署名を得て、国立市に提出された。行政の地区計画決定、条例化は、第二行為として述べたとおりである。

六 元市長の行為には違法性も責任も無い

 住民自治の全体像が明らかとなり、元市長が先導したかのように位置づけた第一行為の意味は失せた。
 景観保護か巨大マンション建設か、政策選択・実行に中立性はない。「急激かつ強引な行政施策の変更」との主張は、第二行為の、指導助言から地区計画・条例に基づく強制への変化を指したものと考えられるが、法廷証言は、これが住民提案に基づくものであることを明らかにした。
 第三行為の司法判断を引用した議会答弁、第四行為の司法判断の尊重を求める要請等には、なんらの違法性もない。
 自治体首長は、組織的判断に基づいて行動する執政者であり、被告に自治体に対する背信行為や私的な利益を図る行為がない以上、国賠法上の責任を問われることはない。被告に違法性の認識は無く、故意・重過失ある行為とは言えない。

七 迫る判決、住民自治の再確立へ

 去る九月一九日、訴訟は結審し、来る一二月二四日、判決言渡となった。結審の法廷で被告は、国立市民、全国の人々が「希望をもって自治の主体者となれるように」と陳述を結んだ。
 一一月二四日には、一橋大学内で、東海村前村長・村上達也氏と上原氏とのトークセッション「首長の責任とは」を開く。地元での運動も党派を超えた市民運動となりつつある。『法と民主主義』、『住民と自治』、『法学セミナー』などが次々に本事件を取り上げる状況ともなっている。裁判の意義に注目され、公正裁判を求める署名にも是非ご協力いただきたい。


ナショナルロイヤーズギルド総会参加
プエルトリコ雑感

東京支部  鈴 木 亜 英

 ナショナルロイヤーズギルドの年次総会が中米プエルトリコで開催され、団からは四人がはるばる二〇時間余りの道のりを辿って参加した。大アンティル諸島の東端に位置するこの島は一万平方キロに満たず、鹿児島県とほぼ同じ広さ。カリブ海に浮かぶこの島は北緯一八度にあって、ハワイ島やルソン島とほぼ同緯度にある常夏の地である。私たちが訪れた時期は十月下旬とは言え、灼熱の余波は残っていた。
 プエルトリコは、米国自治連邦区(コモンウエルス)のひとつで、「高度な自治権を有するものの依然として米国に帰属する領域」(米国議会一九五二年決議案)だそうであるが、準州と思えば良い。かねてから主権を求める「完全独立派」、アメリカ合衆国の一つになることを望む「州昇派」、現状のまま自治権の拡大を求める「自治権拡大派」の政治潮流がある。米国の市民権を有するものの、第二次世界大戦ではそれと引き換えに徴兵の対象となってたそうで、議会はあるが、市民は米国大統領の選挙権を有しないという状況にある。
 総会のメインであるキイノートアドレスは、まさにプエルトリコ特別企画であった。これまでの闘いが紹介され、苦難と闘った活動家が表彰された。会場には生演奏が入って、やや物悲しいラテン音楽が流れた。「なんか沖縄みたいだね」そんなことを耳打ちしながら、参加した私たちも、満席の会場の一角でこれに聞き入った。
 この小さな「国」を大きくしているのはスポーツと音楽であろう。
 アメリカ大リーグ野球を支えているのは隣国ドミニカ共和国とともにプエルトリコだし、バスケットボール大国であることは知る人ぞ知る。陸上競技も隣国ジャマイカとともにこの「国」も頑張っている。音楽にしても、お馴染みトリオロスパンチョスの名を上げるまでもなく、ラテンアメリカ音楽の荷い手なのである。要するにバネとリズムを内蔵する民族である。
 こんな偉大な国ではあるが、国中の企業はアメリカ資本がどっかりと腰を下ろし、政治的にはアメリカになるか、ならないかで揉めている。私たちは、この総会参加に当たって、NLGの友人たちに宛てたニュースレターを持参した。テーマは「憲法九条と集団的自衛権」「福島の原発被災」「TPP交渉と国民の生活破壊」である。どれも日本の将来を根本的に変えてしまいかねないこれらの問題と私たちが向き合ううえで、米国との関係は大きな比重を占めている。総会恒例のインターナショナルレセプションで杉本朗団員が代表してあいさつした。憲法九条改悪の動向やTPPの危険を語る彼の話に会場からは「オー!」とか「イエス!」とか同意や共感を示す反応があった。アメリカでも「パブリックシテズン」などのNGOは消費者のためにならとしてTPPに反対を表明している。戦争にいや気がさしたアメリカ国民は米軍のシリア介入を良しとせず、オバマは別の道を探らざるを得なくなった。憲法九条の平和主義はアメリカの良心層にとっても希望の星である。デフォールト問題で、TPPどころではなくなったにしても、これは一時的なものであり、アメリカの「国益」を掲げた攻勢は続くに違いない。私たちはこれにどう立ち向かってゆくのか。ISD条項と云うマスターキーで各国の国益保護の扉をこじ開けてゆくであろうアメリカ系多国籍企業の無法を許してはならない。アメリカ発の無理難題に対するこうした私たちの願いはNLGの友人たちと共有できるのか。連帯はとても大切だが、それにも私たちなりの戦略が必要となる。この接点を探るのがこの総会に参加した意味でもある。二年前の東北大震災では彼らは学校や地域で自発的に多額の募金を集めて日本に届けてくれたという。その中心になった会員が、一昨年参加した私たちに漢字で「友達」と白抜きしたTシャツを分けてくれた。募金活動に使ったTシャツだという。アメリカ市民の良識や善意を信頼しもっと深く交流すべきだという思いが沸くのもこの総会だ。
 何日も滞在しない私たちにプエルトリコの本当の状況は分からない。しかし、五一番目の米国州になるかならないかをめぐって世論を分けるこの国のありようは、集団的自衛権やTPPでこれまでの国の在り方を脅かされ、主権さえ事実上奪われかねない日本にとって対岸の火事ではない。五一番目の米国州をプエルトリコと競い合う事態だけは避けたい。
 暇を見つけて出かけたスペイン時代の大要塞跡で、私の足元に突然学名はペプシスと云うベッコウバチが飛来した。米国南部からこの中米、そして南米の熱帯域に広く棲息する大型の狩り蜂の一群がいる。これもその一つだが、赤茶の羽根と紺の腹部は美しさの極みだ。豊かな熱帯雨林なくしてこの美はない。プエルトリコはこの熱帯雨林の保存に熱心と見受けた。たかが蜂一匹であるが豊かな自然に溢れたこの国をもう一度訪れたいと思った。


NLGプエルトリコ総会に参加して

大阪支部 井 上 洋 子

 ナショナルロイヤーズギルド(NLG)の今年の総会は、プエルトリコの首都サンファンで行われました。プエルトリコという場所柄に興味を惹かれて、鈴木亜英、柳澤尚武、杉本朗、筆者の四人の団員が参加しました。
 総会の数ヶ月前には、知人のNLGメンバーに連絡し、今年も日本から行くけど何か手伝えることはないか(分科会での発言など)、とメールをしました。しかし、今年は、菅野団員や鈴木団員の長年の友人であるピーター・アーリンダーもロビン・アレクサンダーも総会を欠席する上に、二年前に原発問題をNLGの環境問題分科会で近藤ちとせ団員が発言したときのコーディーネーターであるアンドリュー・レイドも欠席ということで、そうした主体的な関わりを獲得することができませんでした。
 そこで日本が抱える重大な問題のうち、アメリカとの関わりが深い(1)原発問題、(2)TPP、(3)憲法破壊と集団的自衛権の三つに絞って、日本の現状を紹介するA4の四頁の英文ニュースレターをつくりました。
 幸い、今年も、NLGの国際委員会主催の懇親会において、NLGの国際委員長でありIADLの代表もつとめるジーン・マイヤーの取り計らいで、日本代表団として挨拶する機会を得ました。そこで、杉本団員が、日本の現状を紹介しつつ連帯の挨拶をし、ニュースレター二〇〇部を配布しました。
 NLGでは、ジーン・マイヤーが関西九条世界大会のTシャツを販売してくれていました。国際法律家協会を中心として活躍してくれている笹本潤団員や梅田章二団員の努力がこうした形で実っていました。
 はっきり言えば、私はNLGとの交流は苦手です。英語が不十分なうえに内弁慶で十分な会話がもてません。分科会で報告を聞いたりするのはおもしろいのですが、表彰や記念講演のスピーチに対する観客の派手なお祭り的熱狂の反応には、逆に醒めてしまいます。
 それでも、行けば勉強になります。
 NLGにも団総会の全体会にあたる場面があります。今年は約四〇〇人が会場の椅子(劇場方式で、机は置きません)にぎっしり腰掛け、椅子が足りないので絨毯の上に座り込み、後ろでは立ち席という状態でした。机がないことで会場に親密感と一体感が増します。今年の団の安比高原総会で「みややっこの憲法噺」をみんなで聴きましたが、あの規模を拡大したような感じです。団総会でも一度実験してみてもいい方式かも知れません。
 また、全体会で行われたのは活動に対する表彰と、記念講演でした。その進行は、NLG議長一人がまず仕切り、別のメンバーによる表彰者の活動の紹介、そして表彰者のスピーチと続きます。記念講演も同様に進められます。NLGという組織ではあっても個人個人に焦点があてられて光っている、という印象です。
 自由法曹団もそうですが、今年のNLGはメンバーも大いに若返っている感がありました。日米ともに経済的に低迷し、政治外交等の政策においては我らが意に反して厳しい時ですが、希望の光は燃え続けていると感じました。


みややっこの愛国心

東京支部  飯 田 美 弥 子

一 はじめに

 安比高原総会では、「みややっこの憲法噺」に八〇人近い(分散会一個分?)お客様がご参集くださり、誠にありがとうございました。
 会場まで私に付き従う一団あり、既に最前列を確保する女性部の一団あり、という盛り上がりで、恐縮いたしました。感謝いたします。
 さて、私は、このネタで一〇回以上も噺をしているので、自覚がなかったのですが、「一七条の憲法」から話し始めるのには驚いた、とかお声をいただいたことから、少し、ネタ作りの経過を振り返りました。
 そうでした。
 私の、自民党改憲案に対する怒りの根元には、改憲案が「我が国の伝統」などと言いながら、わが母国の歴史、息吹を醜く歪めて描き出すところにあったのでした。

二 和を尊ぶ伝統?

 一七条の憲法から噺を始めるのは、改憲案前文に「和を尊び」という行があり、「草案Q&A」の中で、「党内議論の中で、『和の精神は、聖徳太子以来の我が国の徳性である』との意見があり」との一文があるからです。
 確かに、「和を以て尊しとなし」は、一七条の憲法の第一条前段です。
 でも、後段は、「逆らふことなきを旨とせよ」。第二条は、「詔を承りては、必ず謹め。」、第三条は、「篤く三宝を敬え。三宝とは、ブッポウソーなり。」(…鳥じゃありませんよ。仏様とその教えとお坊さんのことですからねえ。)
 一七条の憲法は、仏教による鎮護国家思想を体現したものなのです。
 自民党が、自分に都合のいいところだけを摘み食いすることは、歴史認識を歪めます。
 また、その頃の天皇制は、明治時代の天皇制とは大きく違います。大化の改新などというクーデターさえ起こる、不安定な国家体制でした。(だからこそ、逆らうな、必ず謹め、と定めなければならなかったのです。)
 茶杓の歌銘に「鶯宿梅」というものがあることから、「勅なれば いとも畏し 鶯の 宿はと問わば いかに答えむ」という歌で、天皇さんの命令を断った紀貫之の女(むすめ)を思いつき、天皇さんと貴族との距離の近さを指摘することを思いつきました。私たちが高尾山天狗裁判までしても、梅林の収用を止められなかった話との対比は、梅つながりで付加したものです。

三 日の丸の歴史

 落語には取り上げていませんが、日の丸の歴史についても、腹立たしい思いを経験しました。
 日の丸君が代の裁判で、都教委側は、「日の丸は、平家物語で那須与一の扇の的に登場して以来、国民に親しまれてきた意匠である。」と主張してきました。
 屋島の戦いで、那須与一が見事、扇の要際一寸ばかりを射抜いた、その扇の意匠は、「皆紅の扇の、日出したる」、すなわち、紅地に金の丸であって、「白地に赤い」日の丸ではないのです。
 「戦国武将の多くが旗印にしていた」との主張も同様で、地色と丸の色の取り合わせは様々でした。四角の旛に丸の模様は、最も単純、かつ、目立つものですから、多くの武将が使っても何の不思議もありません。全部が全部「白地に赤の丸」だったら、どこが誰の陣地か区別がつかず、旗印として意味をなさないのも明らかです。
 でも、そうした旗印は、天皇制とは何ら関係はありません。
 白地に赤い日の丸を、日本国の統合の目印として、国内の臣民や、占領した他国民に、その掲揚を強制したのは、明治以来のことにすぎないのです。「伝統」が聞いて呆れます。

四 落語という文化

 私は、初め、こんな変な自民党改憲案を笑いのめしてくれる芸人が現れることを期待していました。(岩波新書「武器としての笑い」飯沢匡著は、私の愛読書でした。)
 が、そのような時事物をやる人は、今のお笑い界にはいなさそうです。
 物足りなくなりました。
 そこで、自給自足的に、自分で落語調の講演を始めてみたのです。
 「みややっこ」をやり始めると、「落語」と「講談」の区別がついていないお客様が多いのに驚きました。「講談」が寄席で演じられることはないと思います。少なくとも、私は、寄席の演目に「講談」を見たことがありません。
 「講談」は、講釈師の前に机のようなものがあり、講釈師は、左手に扇子、右手に机を敲く扇子様のもの(名前を知らないのです。すみません。)を持ち、基本は右手の道具で調子をとり、話が盛り上がってくると、両手で、ととんとんとん、とリズムを刻みます。
 「落語」、特に、江戸前の落語では、噺家が机(見台という。)を使うことはないと思います。NHK朝ドラの「ちりとてちん」で、上方落語では見台を使うか、そうでなければ、袴を履いて、裾の乱れを見せないようにして演じると知り、驚きました。江戸前は、すわったきりで、大立ち回りをすることはありません。また、上方落語のように、鳴り物が入ることもない、と思います。前記ドラマの初めのころ、「たちきり線香」の三味線を主人公が担当したので、これにも驚きました。
 私が落語だと主張しているのに、チラシが「講談風講座」となっており、これにはさすがに苦情を言いました。どうして講談と思われるか、と考えたら、女流落語家より、女講釈師の方が、広く認知されているからだろう、と思い当りました。確かに、女性の真打ちは、東京でも、まだ数人の範囲です。私が高校生のとき、進路調査票に「落語家」と書いて職員室に呼び出された頃から、四半世紀以上経っても、やっとその域だということです。
 落語を愛する者として、女流噺家の皆さんの奮起を促したいところです。(半分、嫉妬が入っています。私だってやりたかった…)
 落語は、せいぜい江戸時代頃に成立した、比較的若い芸能です。相撲や歌舞伎と同じぐらいと思います。
 でも、ネタの中には、古典の叡智も詰まっています。
 「道具屋」や「火炎太鼓」のくすぐりに使われる小話で、うっかり者の店主「鎮西八郎為朝が小野小町に送った恋文ってのがありますよ。どうです。珍しいでしょう?」
「へえ、そりゃ珍しいねえ。…でも、鎮西八郎為朝と小野小町は時代が違うから、あるはずがないよ。」
店主「あるはずがない物があるから、珍しいんで。」
 という話の元ネタは、「徒然草」第八八段にあります。(物は恋文ではありませんが。)
 落語をやると古文の成績がよくなる、と落研の顧問であった国語の教諭が言っていたことを思い出します(本当かな)。

五 裏千家第一五代お家元も、憲法の講演活動を

 意外に思われるかもしれませんが、私は、裏千家の茶名を持つ身です。
 茶道というと、保守的、旧弊と思っておられる方が多いのではないでしょうか。それは偏見だと思います。
 NHK大河ドラマ「八重の桜」の八重さんも、裏千家の茶人でした。茶道は、昭和期の花嫁修業の一科目に留まるものではないのです。
 先代家元、鵬雲斎大宗匠は、特攻隊員として、「明日はもう死ぬ身」と思い、仲間と末期の茶を飲んだときのお話をあちこちでなさりながら、平和の大事さを訴えておられます。
 私が高座に持って出ているのは、大宗匠の筆による「淡きこと水のごとし」と書かれた扇子です。
 私の噺も、「一?から平和を」と訴える茶道の志に添うものと信じて、活動しています。

六 私の愛国心

 私は、私が生まれ育った国を、私なりの愛し方で愛しています。
 自民党や安倍首相ごときに、愛し方を指定されたくない。「君が代」を歌う、その声量で、愛情の度合いを測られたくない。
 何を愛するか、どう愛するか。そういう、最もプライベートな領域に、土足で踏み込む自民党改憲案を許すことはできません。
 まして、私の母なる国を、珍妙なお道化のように描き出すことには、怒り以外感じられないのです。安倍さんの美的感覚を疑います。
 自国をありのままに愛することができない輩が、他国を尊重するなどとうそぶくこと自体、笑止です。
 みややっこの「憲法噺」は、そういう、歴史・文学・芸能、それに憲法の理念を絡めて、全般的に広く訴えたいという考えから、編み出されたネタでもあります。著作権は主張しません。皆さんで使い回してください。


ハピバ憲法、大成功!&東京法律事務所の今後の取り組み

東京支部  今 泉 義 竜

 一一月三日、新宿アルタ前ステージを一日借り切って行われたハッピーバースデー憲法は天候にも恵まれ、大成功を収めました。
 東京法律事務所、東京共同法律事務所、あかしあ法律事務所、都民中央法律事務所の新宿区内四事務所が集まって夏頃に実行委員会を作り、つながりのある民主団体、区内法律事務所にも呼びかけながら三か月弱かけて準備しました。
 当日は、ともしびファンクラブ(演奏)、えぷろんおばさん(獅子舞)、小さなツインシュー(演奏)、リコレフア(フラ)、鮑捷(中国琵琶)、青年劇場有志による'お酒のめなーず'(憲法コント)、ソレイユ(合唱)、民俗芸能を守る会(紙切り・太神楽)、TapJamCrew(ダンス)、ウーミン+シャッフル(ダンス)、三増流曲独楽(江戸曲独楽)、憲法フオークジャンボリー(演奏)、ジンタらムータ(演奏)という多彩な出演陣でお送りしました。司会は官邸前でおなじみの紫野明日香さん、そして演目の合間には「DJくま」さんによる音楽と若手弁護士中心に憲法の価値を語るリレートークを行いました。
 ダンスでは若者が座り込んで見入り、伝統芸能や合唱、演奏では老若男女が足をとめて歓声を上げるなど、大いに盛り上がりました。
会場脇ではバルーンアート(子どもたち中心に約一七〇個配布)、九条折り紙の実演、フェイスペインティングなどのブースを設けるとともに秘密保護法反対署名などを集め、特製のチラシ、ティッシュ計八〇〇〇部を配布。当日スタッフは延べ六〇名弱に上りました。また、あかしあ法律事務所のみなさんが大変な時間をかけて造った一三条のアートも素晴らしく、若い女性が「かわいい〜」と言ってとおりすぎたり、記念写真をとるなどといった光景も数多くありました。当日の模様は、実行委員会フェイスブックページ(「ハッピーバースデー憲法」で検索)でご覧になれます。
 憲法に普段関心を持たない層にどうやったら訴えられるかという出発点から企画したイベントですが、若い世代にもチラシがどんどん配ることができ、憲法の価値に多少でも触れてもらえた機会となったと思います。
 近日中に反省会を行い、今後の新宿区内での取り組みについて話し合おうと思っています。
 当事務所独自の今後の取り組みとしては、民放労連から当事務所へ呼びかけがあったこともあり、秘密保護法に反対する街頭宣伝活動を毎週行っていく予定です。


自由法曹団のホームページでの存続をかけて今年も募集します!
新六七期(二〇一四年一二月登録予定)修習生向けの事務所情報の登録をお願いします!

東京支部  西 田   穣

 自由法曹団では、三年前より、人権活動等に強い意欲を持つ将来の法曹にできるだけ多くの選択肢を用意する取り組みとして、ホームページで修習生向けの事務所紹介ページを用意してきました。しかし、昨今、急激に深刻化した事務所の経営難と修習生の就職難から、敢えて自由法曹団のホームページに修習生の募集を掲げる必要まではないと考える事務所が増えています。昨年も一五の団員事務所から情報の提供をもらうことができたものの、その有用性は検証できず、むしろ、必要性なしとして事務所紹介ページの存在意義自体が問われています。他方、この事務所紹介ページには、毎月三〇〇件程度のアクセスがあるという事実もあり、執行部、広報委員会及び常任幹事会において、この事務所紹介ページの存続につき議論を重ねましたが、明確な結論を導くことはできませんでした。
 そこで、今年、来年以降の事務所紹介ページの存続をかけて、できるだけ多くの団員事務所に協力してもらい、新六七期の採用の「可能性」のある事務所(「いい人がいれば」の事務所も含むということです)に事務所情報の登録をしてもらい、かつ、実際に修習生の団員事務所へのアクセス方法を確認してもらうことで、この事務所紹介ページの有用性について検証したいと考えております。なお、念のため申し上げると、後者のホームページの有用性の確認報告は義務ではありません。ただ、後述のように、たった二〇〇〇円の出費とA4・一枚の事務所紹介情報の作成だけで対応できる制度ですので、できる限りご協力よろしくお願いします。
 なお、この事務所紹介ページは、他団体と協力して行う四団体説明会などのイベントに参加するほどの労力等に余裕のない、都市部以外の団員事務所、一人団員事務所にも、手軽に利用してもらいたいとの希望があります。是非、この団通信を読まれたら、直ちに、事務所情報の提供をお願いします。
 情報提供のルールは昨年までと同じですが、簡潔に紹介します。なお、このシステムは、あくまで団員事務所からの情報提供のみを目的としており、採用方法、時期、基準等に本部は一切関与しません。

* ホームページの利用方法
(1)
来年司法修習終了予定の修習生(新六七期)の採用予定がある団員事務所は、各事務所の情報を提供して下さい(自由法曹団のホームページにフォーマットがあります。手書きも可ですが、できればホームページから書式をダウンロードして、メールで本部まで下さい。手書きFAXも対応します)。二〇一三年一一月三〇日を〆切とします。
(2)費用は一年間で二〇〇〇円(書換料、削除料を含む)です。
  申込後、
振込先
三菱東京UFJ銀行 春日町支店 普通預金口座 〇二一五一一〇
口座名義 自由法曹団 代表者篠原義仁(しのはらよしひと)
に送金して下さい。
(3)採用を決めた場合は、情報の削除のため、電話で結構ですので本部まで連絡を下さい。その際、団本部ないし支部の企画等の情報を提供するため、その他団内の議論等のため、修習生の情報(氏名及び修習地程度)を提供して下さい(また、自由法曹団のホームページを見ていたかも確認をお願いします)。
(4)掲載期間は、一年間弱(一一ヶ月くらい)です。今回の情報は、二〇一三年一二月ころ(修習開始時期)から二〇一四年一一月ころまで掲載します。
 なお、このシステムは単年で更新を続けていきますので、昨年に提供された事務所情報(で抹消されていないもの)は、二〇一三年一二月には抹消させていただきます。引き続き今年度も情報提供いただける事務所は、お手数ですが、再度申し込みをいただけますようお願いします。
 また、今年は、この事務所紹介ページの存続をかけた検証をするということもあり、可能な限り事務作業についても協力します。具体的には、採用は考えているけど、ホームページへのアクセスとかフォーマットのプリントアウトが面倒だという方は、この団通信を読まれた後に、
〇三―三六三四―五三一一 東京東部法律事務所 弁護士西田穣
 まで電話を下さい。フォーマットをプリントアウトし、ファックス申し上げます。その上で、手書きで事務所情報を記入していただければ、私の方で入力もして登録します。
 有用性が検証できない場合、来年から廃止という可能性が著しく高まります。是非、この事務所紹介ページの有用性の検証の見地から、一つでも多くの団員事務所の協力と情報提供をお願いします。