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柳  重雄 反TPP運動に積極的に参加を
永尾 廣久 正月あれこれ
田井  勝 派遣法改正に関する厚生労働省への申し入れについて



反TPP運動に積極的に参加を

埼玉支部  柳   重 雄

 私は団埼玉支部の支部長、「秘密保護法を撤廃させる埼玉の会」の代表を努めており、我ながらそこそこ頑張っている。もう一つ、埼玉食健連(農林業と食糧・健康を守る埼玉連絡会)の会長も引き受けて、少しだけ頑張っているのでその点について報告をしたい。食健連の会長になればおいしくて新鮮な食べ物、お酒に巡り会えるなどとうまいことを言われ、断るのも大変だったのでついつい引き受けてしまっただけのことで、確かに毎年行われている「収穫祭」などでは、新鮮な食べ物やお酒に恵まれてとても幸せなのではあるが、今やTPPに反対する運動に邁進している。TPPに反対する勢力を結集して「これでいいのかTPP?。一二・八大行動」などの運動を支え、グリーンウエーブ運動などTPPに反対する運動を展開している全国食健連の地方版であり、埼玉農民連、新婦人、埼労連等労働組合などに支えられて学習会、街頭宣伝などの運動に取り組んでいる。
 TPP反対運動の重要なところは農民団体、JA、婦人団体、生協、消費者団体、労働組合、医師、学者などの幅の広い共闘やネットワークに基づく運動が進んでいることであると思われる。現に中央でも或いは全国各地でも反TPPという共通する課題での今まで考えられなかったような幅の広い共闘が大きく前進している。いわゆる一点共闘の大幅な前進である。
 埼玉でも、県内各地で様々な団体がTPPに関する学習会、講演会、シンポジウムなどに取り組んで来た。年内交渉妥結か、などと言われていた平成二五年秋、県内各地で各団体が取り組んできた反TPP運動を、更に大きく運動を展開するには、食健連が中心となって、普段付き合いの希薄なJA、生協連、消費者団体連合会、医師会などを繋げてゆくしかないのではないかとの声があがった。確かに、これまでそれぞれの団体が別々に取り組んで来た反TPP運動を横につなげて、更に広げてゆくことが求められているが、それをするには我々食健連が奮闘するしかないという点で一致し、JA県中央会、県生協連合会、県消費者団体連合会、医師会等々に働きかけ、これらの団体の賛同と協力、パネラーも出してもらって、TPPのあり方を考えるシンポジウムを行うことを計画した。
 そこで、埼玉食健連の構成団体である埼労連議長、埼玉農民連会長ととともに埼玉食健連会長である私とで、半日かけてこれらの諸団体の賛同、協力を求め団体訪問を試みた。いくつかの団体とは親しく懇談もできた。私にとってそれぞれの団体の訪問、懇談ははじめての経験であるが、医師会を除いて、JA県中央会、県生協連など結果的にこころよく賛同、協力することを約束してくれ、またパネラーとしても参加してくれることになった。
 平成二五年一一月二六日、さいたま市内に用意した会場に溢れるばかりの参加者を得て、シンポジウム「TPP交渉、このまま進めて大丈夫?」を開催した。私はコーデイネーターを努めた。基調報告をした全国食健連事務局長は「たたかいはヤマ場を迎えている。全力をあげよう」と呼びかけ、パネラーであるJA県中央会はTPPの下での農業、その他の影響を踏まえて、国民的共同の必要性を訴えた。県生協連からはTPPの下で、消費者、食の安全の立場の面で憂慮される点を明確にし、また、特別に依頼したパネラーである済生会栗橋病院院長補佐である医師は「TPPはアメリカの保険業者や巨大製薬メーカーが大もうけをする仕組み。日本の皆保険制度をまもるため、絶対に許してはダメ。」とユーモアを交えて報告をしていただいた。会場からも「今でも遺伝子組み替え食品などの安全性に問題がある食品が輸入されている。これ以上の自由化は、生産者と消費者で力を合わせて阻止しなければ」などTPPの妥結反対に向けて積極的な発言が相次いだ。会場からの発言の中でJAの政治的な立場のあいまいさなどに批判的な意見、質問もあったが、JAも含めてTPP阻止のために互いの団体の特性を尊重した幅広い共闘こそ重要であることも確認された。中身の濃い豊かな内容のしかも幅の広い参加によるパネルデスカッションができたと思う。
 TPP問題はかろうじて年を越すことができた。しかし、二〇一四年度こそ決戦たる闘いが待っている。全国各地で大なり小なり、共闘、ネットワークをくみながら反TPP運動が展開されている。北海道をはじめとして町や村を挙げて反TPP運動に必至に取り組んでいるところも少なくない。ISDS条項の問題点など反TPP弁護士ネットワークや団員弁護士が取り組む課題は大きいと思うが、全国各地において取り組まれている反TPP運動に、弁護士が団の観点から積極的に参加し、更には共闘やネットワークのカナメになって取り組む課題も大きいのではないか。全国の団員の活動に期待したい。


正月あれこれ

福岡支部  永 尾 廣 久

庭いじりを楽しむ

 正月三ヶ日は幸い好天に恵まれた。毎日、午後から庭に出て、土いじりに精を出した。いま、匂ひロウバイが黄色い?のような花を鈴なりに咲かせ、早咲き水仙の白地に淡い黄色の花がチラホラ咲いている。
 庭のあちこちを掘り起こし、球根の植え替えをして、庭をすっきりさせる。暮れに買った在庫一掃のチューリップの球根がまだ残っているので、少しずつ隙間に植え込む。これで春には五〇〇本のチューリップが咲いてくれるだろう。やがて来る春が楽しみだ。
 庭仕事をしていると、いつも姿を見せてくれるジョウビタキが今年は現れない。どうしたのだろうか。すぐ身近のフェンスにとまって尻尾をチョンチョンと上下させて挨拶する愛敬のいい小鳥を見ることができないのはちょっぴり寂しい。
 冬の夕暮れは早い。陽が沈み、夕闇の気配を感じると、頭上を天高くカラスが鳴きながら飛んでいく。初めは一羽、やがて数十羽、次々に何百羽ものカラスが天の河のように滔々と流れるように遠くの丘にあるネグラを目ざし西の空に飛んでいく。ゴマ粒のように小さくなって消えていくのをずっと天を仰いで眺める。カラスたちは仲間同士で鳴きかわしたり、追いかけっこしたり、最後まで騒々しい。
 カラスの姿が夕闇に消え、夜の気配を感じると、やむなく本日の作業は中止。鍬とシャベルをしまって風呂場に直行する。冷えた身体を温めると、ああ、極楽、極楽。
 夜、いつものように書評を書く。この一〇年間、書評をHPにアップしている。どれだけ読まれているのか分からないが、意外なところから反応があったりすると、うれしい。ちなみに、昨年よんだ単行本は六四一冊。読んだ本の数は移動距離に正比例するので、忙しさのバロメーターにもなっている。書くのを途中でやめ、娘にお灸をしてもらう。ストレスからかフランス留学中に急に弱視になってしまった娘は、華麗なる転身を図り鍼灸師を目ざすことになった。背中にお灸をしてもらうと、アッチッチと何度も悲鳴をあげてしまうが、翌朝の目覚めは爽快そのものだ。

今どきの正月風景

 元旦は、自宅に届いた年賀状を読み終えると、車で一〇分あまりの事務所へ出かける。
 途中、日の丸の旗を掲げている家や商店・事務所をまったく見かけない。昨年までは、それでも一本か二本は日の丸を見かけたのに・・・。
 学校では、教師と子どもたちへの日の丸の押しつけがますます強まっている。でも、実社会では誰もそんなことはしていないし、求められてもいない。それなのに、自民党の改憲草案では憲法に新しく国旗尊重義務を定めるという。バカバカしいほどの時代錯誤だ。
 事務所に行く途中の商店街はどこも閉まっている。正月休みというのではなく、閉店してシャッター通りになっているということ。正月から人々はショッピングモールに出かけ、寿司など仕出し食品の売り場が大にぎわいだったという。コンビニも年中無休だ。便利さに奪われているものがある。
 福岡のデパートでは一〇五万円の福袋が一番人気だという。アベノミクスが景気を好転させているというマスコミ報道はいかにもわざとらしくてシラジラしい。実際には、相変わらずの不景気に多くの人は困っている。少なくとも私の接する人は、みな生活苦がひどくなるのを嘆いている。ささやかな晩酌の楽しみが節約の対象だというのを聞くのも辛い。

年賀状・ニュース新年号を読む

 年賀状を読むのは昔からの楽しみだ。定型文だけのものは、いかにも素っ気ない。日頃感じているものとか、何か訴えるものがあるだろうに・・・と思う。一言短信があるのを読むのがうれしい。人の異動も知ることができる。
 法律事務所のニュースの新年号も、みな隅から隅まで目を通す。市民向けの「くらしと法律」講座を開設しているところが多い。講座のあとは無料で法律相談に乗る仕掛けだ。
 実は、私の事務所でも、同じことをやり始めた。地域のコミュニティーセンターを借りて法律講座を開き、そのあと無料で相談に乗る。西日本新聞に折り込みチラシを入れたら予想以上の効果があった。
 私の事務所は経営危機を依然として脱却しきれていない。昨年はついに給料の遅配・欠配にまで至った。昨年の暮れに発覚した同期の弁護士の横領事件は親しい人なだけに大変ショックだった。経営難を一人でかかえこんでしまったのではないだろうか。私は、事務所の経理は前から所内でオープンにしているので、一人で悩まないようにしている。厳しい状況を周知・徹底し、あとは所員全員が「売り上げ確保」のために目の色を変える必要がある。若手にも檄を飛ばしている。
 ところで、法律事務所ニュースの巻頭言に難しいところが多いのが気になる。もっとやさしく、分かりやすく書けないものだろうか。つい溜め息が出てしまう。特定秘密保護法や集団的自衛権、そして改憲の危険な本質を論じるのはいい。弁護士らしいアプローチも当然だと思う。しかし、それにしても、漢字ばかりで固い。固すぎる。これで、読み手にニュースを読む気分を起こさせることができるのだろうか、心配になる。
 いま、安倍・自公政権のマスコミ操作がかなりうまくいって、多くの国民が中国・韓国(北朝鮮)を怖いと思っている。しかし、実のところ、韓国や中国の人々こそ、ますます軍国主義化している日本を怖がっているのではないか。多くの日本人が、そのことに気づいていない。安倍首相の支持率が五割ほどもあるのは、そんな素朴な「怖さ」にも支えられているのではないかと思う。
 そんな作られた「怖さ」をもつ人々の気持ちに、すっと訴えかける分かりやすい文章を、弁護士はもっと工夫する必要があるのではないだろうか。
 せっかくカラー写真をつかい、レイアウトも良くなっているのに、肝心の文章があまりにも旧態依然、裁判官向けの準備書面そのまま。ここから私たちが脱皮しない限り、国民のなかに多数派を形成するのは難しい気がしてならない。
 いかに日本人の識字率が高いといっても、漢字ばかりの固い文章を読み慣れた人が多いとは思えないし、多くの人は直感というかイメージで判断している。そこに、いかに切り込んでいくかが、当面する課題ではないだろうか。
 投票率が六割を切ってしまっている現状のなかで、投票所に行っていない人への働きかけをこれまで以上に工夫することが求められているように思う。大久保賢一団員が年賀状で言っているように、これまで同様、愚直に働きかけ続けるしかないのだけれども、今の状況はさらに新しい知恵と工夫も求められていると思う。

法律知識を得る

 事務所ニュースを丹念に読むのは、事件解決に役立つ法律知識が得られる楽しみがあることにもよる。
 私の事務所の若手弁護士が「知らないことばかりで勉強になります」と事件を一緒にやっていて言ったことがあるが、これは弁護士生活四〇年になる私にとっても同じこと。世の中は知らないことだらけだし、法律知識は日々更新しないと現実についていけない。そして年をとると残念なことに忘れることも多くて、残るは経験にもとづく直感のみになりかねない。
 以下、今回、私が得た新しい法律知識のさわりを少しだけ紹介したい。なあんだ、こんなことも知らなかったのかと笑われそうだけど、まあ、関心のある人は読んでほしい。詳しくは、その弁護士にたずねてほしい。

熟年離婚と退職金分割

 離婚に際して年金分割があるのは常識になっている。しかし、退職金も財産分与の対象として退職金の一部を配偶者に渡せというもの。
 結婚から別居までの期間に相当する夫婦のそれぞれの退職金を計算して、その差額を出し、多い方が少ない方に差額を支払うことになる。その差額の支払い時期は退職金を受領したとき。
 判例では定年まで四年、七年、九年あるときでも認められている。
 これは三重合同の村田正人弁護士の論稿。村田さんは心臓手術をしたが経過は順調とのこと。私と同世代なので、お互い無理せず、がんばっていきたい。

婚禁止期間の婚姻届出

 二〇年以上別居状態が続いて音信も不通だった女性が、長く別の男性と内縁関係を続けてきた。その内縁の夫が末期ガンで余命いくばくもないことが判明したので、この際、きちんと戸籍上の夫と離婚して内縁の夫と入籍したいという事案。女性は六ヵ月の再婚禁止期間があるので、離婚してすぐの入籍は不可能なのでは・・・。
 しかし、再婚禁止期間の定めは父性の推定の重複を回避するためのもの。だとすれば、既に六五歳になっている女性に子どもが生まれる可能性はない。そこを強調したところ、市役所でついに婚姻届が受理された。そして、まもなく入籍した夫は病死したという。
 なにごとも簡単にあきらめてはいけない・・・。
 あべの総合の岩城穣弁護士の論稿。

別受益と持戻免除の意思表示

 姉妹二人だけしか相続人がいないとき、姉は結婚したときに持参金として三〇〇万円をもらっている。妹としては、それは特別受益にあたると主張したい。
 ところが、実は、姉は死んだ父親の療養看護にとくに面倒を見てきたというときには、父親は「持戻免除の意思表示」をしていたと(推定)され、特別受益にあたらないとされることがある。
 恥ずかしながら、私は「持戻免除の意思表示」なるものを知らなかった。
 城北の深山麻美子弁護士の論稿。

免責期間内の自殺で保険金がおりる

 生命保険の契約をして三年内に自殺したときには保険金は出ない。ところが、自殺した人がうつ病など精神障害にあったときには、それは「自殺」に該当せず、保険金は支払われる。
 自殺だからといって、簡単にあきらめてはいけないということ。
 おおいた市民総合の藤崎千依弁護士の論稿。

故人のネット上のデータ

 インターネットを利用していた人が死んだとき、そのデータについて遺族が当然にアクセスできるとは限らない。
 同意なく故人のIDやパスワードをつかってログインする行為は不正アクセス禁止法違反として犯罪行為になる可能性がある。IDやパスワードは準委任契約として、原則として相続の対象にはならない。
 これも、おおいた市民総合の吉井和明弁護士の論稿。
 インターネットの世界は、私にとって知らないことだらけだ。


派遣法改正に関する厚生労働省への申し入れについて

事務局次長  田 井   勝

 現在、労政審の職業安定分科会労働力需給制度部会において、労働者派遣法の見直しが議論されています。
 二〇一三年一二月一二日、同部会において、公益委員は唐突に、「労働者派遣法の改正について(報告書案)」を提示しました。
 この公益委員案では、特に派遣労働の期間制限について、問題を多く含んでいます。具体的には、専門二六業務の区分を撤廃し、有期雇用の派遣労働者の派遣先の同一の組織単位(課等)における派遣受入可能期間を三年とする一方、事業所の過半数労働者もしくは過半数代表者の意見を聴取すれば、引き続き派遣労働者を使用できる、としています。この内容であれば、有期雇用の派遣労働者の場合でも、派遣先は、三年ごとに派遣受入の組織単位(課等)を代えれば、同一の派遣労働者を使用し続けることができますし、また、同一の組織単位(課等)への派遣でも、派遣労働者を入れ替えれば永続的に派遣労働者を使用できる事になります。また、無期雇用の派遣労働者、六〇歳以上の高齢者等々には派遣期間制限を一切設けないとしています。
 仮に公益委員案のまま派遣法が改正された場合、派遣労働者は永続的に派遣労働のまま働き続けることを余儀なくされ、正社員になる道を永続的に閉ざされてしまうことになります。
 また、公益委員案はそのほかにも、登録型派遣・製造業派遣の全面容認、事前面接などの特定行為の解禁等々、多くの問題を含んでいます。
 二〇一四年一月八日、自由法曹団は、労働問題委員会のメンバー数名で、労働者派遣法の改悪の阻止を求めて厚生労働省需給調整課に要請を行いました。この時、自由法曹団作成の同公益委員案に反対する意見書を併せて提出し、この意見書の趣旨説明をすると共に、労働政策審議会での徹底審議を求めました。
 厚生労働省の担当者からは、当初の予定では二〇一三年末中に派遣法の見直しに関する労政審案をとりまとめる予定であったものの、労働者委員の反対があるなどして意見調整がまとまらなかった、との発言がありました、また、担当者からは労使双方の納得のいく形での見直しができるように徹底審議をするつもりである、との発言もありました。この発言を受け、我々団員側より、「公益委員案を押し通すのではなく、徹底審議するよう是非とも頑張って欲しい」、と要請しました。
 派遣法の見直しに関する次回部会は、一月一七日に開催されます(厚生労働省HPより)。この原稿が通信に掲載される頃にはまた新たな動きがあるかもしれません。
 労働法制に関する現在の情勢は、派遣法の大改悪の問題にとどまりません。政府内の産業競争力会議、規制改革会議による主導の元、限定正社員制度、労働時間法制の撤廃(ホワイトカラーエクゼンプション)、有期雇用法制(有期五年での正社員への無期転換ルール)の見直し等々のうごきが加速しています。いずれも労働者の権利を弱める内容であるにもかかわらず、労働者側の意見を聞かずして押し通される危険が極めて大きいです。
 今、労働法制に求められているものは、雇用の安定と低賃金の改善です。安易に労働者の権利を弱める動きは、時代の趨勢に逆行すること明らかです。改悪を阻止すべく、各地域等での運動・要請等々、よろしくお願いします。