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守川 幸男 滞納税金を徴収するための滞納処分(預金の差押)を撤回させた事例の報告
馬奈木厳太郎 “資料が見当たらない”国・“指針から一歩も出ない”東電
〜「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟第六回期日の報告
内山 新吾 集団的自衛権噺のまくら
堀内 由美 東京都大田区での労働法制大改悪阻止へ向けた取り組みについて
萩尾 健太 郵政六五歳「定年制」無効裁判にご協力お願いします



滞納税金を徴収するための滞納処分(預金の差押)を撤回させた事例の報告

千葉支部  守 川 幸 男

一 相談と異議申立
 本年三月三日、民商の相談会でY市の国保税二一〇万円強を滞納している元公務員だったOさんから、一月下旬に預金八万円弱を差し押さえられた。共済年金だけで生活しているので生活できなくなるとの相談を受けた。私は後述の鳥取の事件を思い出し、大変な裁判闘争を覚悟した。Oさんは、教示に基づいてすでに異議申立書を作成してきた。さすがは元公務員なのでよくできており、急いだほうがよいのでそのまま提出することとした。委任状も合わせて提出した。
 もっとも、差押禁止債権である共済年金は前年一二月中旬に合計三三万円強振り込まれており、鳥取の事案のように、差押禁止債権である児童手当金振込のわずか九分後の狙い撃ちの事案とは異なっていた。
二 若干の資料送付と交渉だけで撤回させる
 その後、市の担当者に、鳥取の事案を知っているか尋ねたところ知らないようだったので、最小限の以下の各資料をファックスした。
(1)一月二〇日付全商連新聞の記事「鳥取県・児童手当差し押さえ謝罪」「徴収マニュアル改訂へ」
(2)平成一五年五月二八日付東京地裁判決
 郵便貯金債権に対する強制執行のうちの一部に受給した年金があったことから、差押禁止の法の趣旨から不当利得返還請求を認めた事例
(3)三月一〇日付全商連新聞の記事「滞納処分は実情見て」「総務省が文書で通知」「自治体に適切な執行促す」
 なお、本件の結着後、五月一二日付で「鳥取県、滞納整理に新基準」「差押禁止財産に配慮」との記事が掲載されている。
 ところで、滞納処分は(1)差押、(2)換価、(3)配当の一連の手続を言う。そして、市の担当者から、差押に対する異議申立(上記(1)にあたる)は不服申立の対象となる処分が不存在なので、そのままでは却下となるとのことで、これは取り下げたうえで、改めて国税徴収法一三三条二項に基づく配当計算書に対する異議申立(上記(3)にあたる)をして、換価ずみの八万円弱の返還を求めた。四月一四日には配当計算書更正通知が来て、八万円弱が返金され、次いで四月二五日には、当職から要請書の提出をするまでもなく、地方税法第一五条の七第一項二号の「滞納処分をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」に該当するとして滞納処分停止となった。
三 付言 ―鳥取の事件の判決理由のご紹介
 煖エ敬幸弁護士から、一審と二審の判決全文と、「議会と自治体」四月号に掲載された鳥取民商事務局長と勝俣彰仁弁護士の解説を送ってもらった。一審と二審の判決の違いについて団通信などで読んだような記憶があるが見当たらないので、関連する最高裁判決とともにこの機会に紹介しておく。
(1) 最高裁判決
 差押えの事案でなく、金融機関による相談の事案だが、最高裁第三小法廷平成一〇年二月一〇日判決によれば、一般的に預金口座には差押禁止債権以外の預金も存在するので、年金等は預金口座に振り込まれると一般財産に混入し識別できなくなるとして、差押等禁止債権としての属性を承継しない、とした。
(2) 本件の一審、二審判決とその違い
 これに対して鳥取の事案の鳥取地裁判決は、処分行政庁の処分について実質的に児童手当法の精神を没却するような裁量逸脱があったとして差押処分を権限濫用として違法と評価し、後続処分である配当処分についても違法として取り消し、不当利得を認めた。さらに二五万円の損害賠償まで認めた。
 これに対して広島高裁松江支部判決は、預金債権のうちの児童手当相当額について、いまだに本件児童手当としての属性を失っていなかった、とし、実質的に児童手当を差し押さえたのと変わりがない、として差押処分について違法であり、不当利得と認めた。滞納処分の取消訴訟(行政訴訟)は却下した。国家賠償については認めなかった。
 地裁判決だと徴税側の悪質性を立証しないといけないのに対し、高裁判決は、原告が悪質納税者であるかのような認定をした問題点はあるが、徴税側の認識と預金の状態という二つを考慮すれば足りることになる。悪質滞納者であろうがなかろうが、差押禁止の趣旨に反する差押は許されないと言う態度を示したと言える。
四 先陣の闘いに感謝
 私はかつて、過労自殺事案で、裁判をやらずに新認定基準をもとに労基署段階で業務上認定を勝ちとったことがある。今回も先陣の大きな闘いの成果をもとに、楽をさせていただいた。先人の闘いに感謝である。このようにして権利の歴史は前進していく。


“資料が見当たらない”国・“指針から一歩も出ない”東電

〜「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟第六回期日の報告

東京支部  馬奈木厳太郎

一 いよいよ明らかになった国・東電の姿勢
 「資料現存せず確認できぬ」「国、指示認否明かさず」、「『資料がない』国は認否回避」――五月二一日付の各紙は、一斉に国の態度を見出しに報じました。
 五月二〇日、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の第六回期日が、福島地方裁判所において開かれました。
 この日の期日では、国と東電、そして原告がそれぞれ書面を提出し、原告団沖縄支部の原告が意見陳述しました。
 国の書面は、原告の原状回復請求は、行政権の発動を求めるものであり、民事訴訟としては不適法だとするもの、国の不作為が違法だと判断されるための枠組みと過失の内容である予見対象について反論を述べ、原告と裁判所から求められた釈明事項に対して回答したものです。
 東電の書面は、精神的損害に関する賠償について指針で示されたもの以外には賠償責任がないと述べるもの、過失を本件で審理する必要性はないが、「裁判所の理解に資するため、念のため」、過失がないことを主張したもの、原告と裁判所から求められた釈明事項に対して回答したものです。
 原告の書面は、津波対策に対する国の規制権限行使のあり方と怠りの実態について述べるもの、原子力損害賠償法の存在によって民法の適用が排除されないと主張するもの、平穏生活権侵害が原告らに共通する被害であることを述べたもの、原告らの健康不安が合理的であることを主張するもの、その他、今後の立証計画の予定や検証の必要性を述べたものです。
二 窮地に追い込まれた国と東電
 今回、国は、原告側から釈明を求められていた点について、「当時の資料が現存しないため、事実の有無を確認することができない」と述べました。これは、国と東電に過失があると主張する原告側が、予見可能性があったとする根拠として、四省庁報告書が二倍で津波高さを試算するようにとしていることから、これに基づき二倍で試算するよう東電に指示したことがあるか否かを明確にするよう求めたものに対する回答です。「資料がない」とは、まったく無責任な回答です。
 また、東電は、精神的損害について、賠償の範囲や程度について指針は合理的で相当な内容を示しているから、指針で示されたもの以外には賠償責任がなく、損害の程度を判断するうえでも過失を考慮する必要はないと述べ、“指針からは一歩も出ない”姿勢を明らかにしました。
 法廷では、原告側が国に対し、「資料がないという回答はにわかに信じがたい。どういう調査をしたのか明らかにされたい」と釈明を求めました。国は、「結論は変わらないし、回答する必要性はない」とこれまた無責任な主張を述べましたが、原告側の反論にあい、裁判所からも釈明するよう求められ、どういう調査を行ったのか回答することとなりました。
 原告側は、東電に対しても、「指針が合理的で相当だから過失を審理すべきではないという主張は、まるで裁判所も指針に拘束されるかのような言い草である」と批判しました。裁判所からも、「指針の内容や東電基準での賠償に不満があっても裁判を起こすことができないという趣旨か」との釈明があり、東電はこの点について回答することとなりました。
 今回の期日を通じて、“資料が見当たらない”国と“指針から一歩も出ない”東電という国と東電の無責任で開き直った姿勢がいよいよ明確になりました。あわせて、国と東電が原告の過失をめぐる主張について正面から争うことができずに窮地に追い込まれていることも鮮明になりました。
三 責任をめぐる議論はいよいよ山場
 過失をめぐっては、(1)今回のような事故が起きるかもしれないので何らかの対応をしなければならないといえるためにはどんな情報に接している必要があるか(結果回避義務を導くものとしての予見対象)、(2)そのような情報といえるためにはどの程度の情報である必要があるのか(確立した知見といえるための条件)、(3)そのような情報にいつ接したといえるのか(いつ予測できたといえるか)といった点について議論が交わされています。(1)については、O.P.+一〇メートルを超える津波か、今回実際に到来した津波かをめぐって、(2)と(3)については、一九九七年に出された四省庁の「報告書」や二〇〇二年の地震調査研究推進本部地震調査委員会の「長期評価」が、今回のような事故について予見を可能ならしめる“知見”といえるか否かをめぐって、主張をたたかわせています。
 責任をめぐる議論は、いよいよ大詰めになってきました。次回期日は、七月一五日となります。引き続き、国と東電の責任を明らかにすべく、全力で取り組む決意です。


集団的自衛権噺のまくら

山口県支部  内 山 新 吾

 みややっこ師匠の足元にも及ばぬ前座(未満)からの報告です。
 先日、地元で集団的自衛権の学習会の講師をやりました。かつて憲法学習会をやった子育てグループの方の要請で、原発・環境問題にとりくむ市民グループの秘密保護法学習会の講師をやったところ、参加していたカトリックの方から声をかけられて・・・という芋づる式学習会(私は、この「芋づる」が大好き)。それだけに、労組・民主団体のおなじみの顔ぶれは一人もおらず、新鮮な集まりでした(参加者は七〇余名)。
 その学習会の冒頭で語った数分の「まくら」が、好評でした。「おかげでその後の話が頭に入りやすかった」「緊張がほぐれて楽に話を聞けた」「あの話が一番良かった」「いつも最初から寝ている隣のおばあちゃんが今日は起きていた」・・・。
 内容は、久しぶりに参加した五月集会(憲法討論集会)で聞いた川口団員の「悪徳商法だ」発言にヒントを得たものです。学習会当日は、即興でやったのですが、「次回」のために活字にしておくことにしました。
 なお、私は、二年ほど前から、地元の小学校で月一回のペースで、朝教室で子どもたちに絵本の読み聞かせをしています。その中で、ときどき、短い古典落語をアレンジした(担任の先生や子どもを登場させる)落語もどきの話をしています。そのときの調子で、このたびは、学習会参加者(年配の女性が多い)に話をしました。
 学習会の冒頭、自己紹介をする中で、最近の相談・事件の傾向にふれ、「やはり、お年寄りからの相談が多いですね」と言った後、まくらに入ります。(山口弁でやりましたが、本稿では、標準語で記します。)

◇          ◇          ◇

 先日も、一人のおばあちゃんが、相談にやってきました。
 「内山先生、よろしくお願いします」
 「どんな御相談ですか」
 「実は、先日からうちにセールスマンがやってきて、何かわけのわからない大きなものを買わされそうなのです。どうしたらいいでしょう」
 「よくある話ですね。で、何を売りにやってきたのですか」
 「よくわかりませんが、“物騒な世の中になりましたね、でも、これを取り付けておけば、もしもの時も安心ですよ! 近所のみなさんは、みんな取り付けておられますよ、まだ取り付けてないのは、おばあちゃんのところだけですよ!”って言うんです」
 「そうですか。で、その商品の名前は何て言うんですか」
 「たしか、シュウダンテキジエイ器とか言っていました」
 「シュウダンテキジエイ器、物騒な名前ですね」
 「私もそんな気がしたのですが、セールスの男の人は、“取り付ければ、近所のみなさんからも喜ばれますよ、近所づきあいのためにも必要なんじゃないですか”って言うんです。やっぱり買った方がいいでしょうか」
 「いや、そこは慎重に考えないといけませんね」
 「でも、セールスの男の人は、“限定品だから、お買い得ですよ”って言うんです。“電気代も必要最小限しかかかりません。エコで地球にやさしいですよ”って言うんです。それなら、いいかな、と思うのですが」
 「だけど、それって、あなたの家に取付け可能ですか。家を傷めるおそれはないですか。」
 「ええ、私も、そのことを尋ねたのですが、“取付けは簡単です。わざわざ家を建てかえる必要もありません”って言われました。」
 「買ったあとのことをちゃんと考えないといけませんよ」
 「だから、私も“メンテナンスが大変でしょう”って言ったら、“いったん取り付けたら、あとは私どもにお任せ下さい。故障して爆発するようなことは絶対ありません”って言うんです。いい男だから任せようかなって・・・」
 「危ないですね・・・。ところで、大事なことを聞き忘れていました。その業者、セールスマンの名前は何ていいますか。私がそこの顧問をしていたり、相談を受けていたりしたら、あなたの依頼を受けられないので、念のためお聞きするのですが」
 「たしか、あべ、あべと言っていました。下の名前まではわかりません」
 「その男の顔はどんな感じでしたか」
 「育ちのいいお坊ちゃん風でした」
 「チョビヒゲははやしていましたか」
 「いいえ。でも、はやすと似合いそうでした」
 「その男なら、最近いろんな被害を受けたと言って、たくさんの人がうちの事務所に相談に来られていますよ」
 「そうなんですか。まじめでいい人だと思ったのですが」
 「で、契約はまだしていないのですね」
 「いや、ずっと前に何だかよくわからないうちにサインした契約書があるのです。業者は、それでいい、って言うのです」
 「いいかげんな業者ですね。ところで、パンフレットか何かお持ちですか」
 「あります。きょう持って来ています。専門用語が多くて難しくてよくわからないんです。シュウダンテキジエイ器の「使い方」っていうのがたくさん書いてあって、チンプンカンプン。ほかにも、いろいろ載っています。AKBが武力行使されたとか・・・」
 「それは、PKOの武力行使ですね」
 「それから、グレー、グレーなんとか・・・グレーの下着まで売りつけるんですか。私、米寿(ベージュ)なのに」
 「それは、グレーゾーンのことですね」
 「先生は、このパンフに書いてあることわかりますか」
 「どれどれ・・・いや、実は私も専門的でよくわからないところがあるのです」
 「えっ、弁護士先生がそんなことでいいんですか。それで、○○での学習会の講師がつとまるのですか」
 「いいんです。みなさんと一緒に学ぶのです」
 「ずるいですね、先生。ちゃっかり、いいわけして・・・」
 「ともかく、かりに契約したとしても、クーリングオフというのがありますし、それが使えないときは、消費者契約法という法律で、インチキな契約でだまされたときは取り消せることになっていますから、安心して下さい」
 「へえー、どんなときに取消しができるのですか」
 「業者が大切なことについてウソの説明をしたとき、取消しができます。また、『必ず儲かる』とか断定的な判断を示したとき、取り消せます。さらに、不利益な事実を告げなかったとき、これも取り消せます。あなたの場合も、これらに当たるかどうかチェックしましょう。あてはまれば、取消しをしましょう。少なくとも、よくわからないままで、必要のないものを買わないようにしましょうね」
 「でも、弁護士さん、私は、イヤだと言ったり、取り消すと言ったりすることができないのです」
 「どうしてですか」
 「おことわり!とか言おうとすると、胸がドキドキしてダメなんです」
 「胸がドキドキするのですか、それはきっとシンゾウが悪いのですね」
 「シンゾウが悪いのですか。でも、シンゾウのせいだと言うだけじゃ、よくならないのではないですか」
 「そうですね」
 「どうすれば、いいのですか」
 「特効薬は、ありません。でも、確実な方法はあります。それは、みなさんがしっかりとお灸(九条)をすえることです」

◇          ◇          ◇

 というような話をした後、「それでは、レジュメの一項『五月一五日、安倍首相は国民に本当の話をしたのか』に入ることにします」とすすめていきました。
 集団的自衛権行使を許さないとりくみは、始まったばかり。まだまだ、続きます。団員のみなさんが、それぞれ自分にしか語れない「まくら」話を添えて講師をする・・・そういう光景が各地で広がっていくことでしょう。私は、私流でぼちぼちやっていくつもりです。それでは、ごきげんよう。さようなら。


東京都大田区での労働法制大改悪阻止へ向けた取り組みについて

東京南部法律事務所  堀 内 由 美

 五月集会では、安倍政権の派遣法など労働法制大改悪の企みについて、広く旺盛に世論に訴えて、改悪法案の廃案に向けた反対運動を組織していくことが確認されました。そこで、私ども東京南部法律事務所が関わった、東京都大田区での取り組みついて報告します。
 四月一日に「安倍政権が狙う雇用破壊四・一労働法制学習会」を事務所主催で行いました。この学習会に向けて弁護士三名事務局二名のプロジェクトチームをつくり準備を始めました。最初に学習会の中身について、三つのテーマ、(1)派遣法・有期雇用・限定正社員の問題、(2)労働時間規制変更の問題、(3)解雇規制の問題、に分けてそれぞれ弁護士が解説するスタイルとし、テーマに沿う形の事務所オリジナルのパンフレットを作成することになりました。
 準備期間が一月しかないなかでしたが、緊急にチラシを作成し、区内の各労組や民主団体へお知らせしました。それだけではなく、雇用破壊の危険性を訴えるとともに、ぜひ学習会に来てくださいと、区内の各労働組合や民主団体を一日かけて訪問して訴えました。  顧問先の組合等には、事務所の担当弁護士から声かけをしたり、労組の機関紙に掲載してもらう等要請しました。さらに、労組・団体と結びつきの薄い皆さんへお知らせする意味で、新聞折り込みチラシもやりました。
 こうした努力の成果か、当日の参加者は(事務所員以外で)約四〇名を数えました。労働組合執行部からの参加だけではなく、民商の方や、最近契約社員になったばかりの娘さんと一緒に参加した組合員の方もおられました。講師は、事務所の弁護士、竹村和也・小林大晋・堀浩介が分担して担当しました。
 当日は、できあがったオリジナルのパンフレット(一二頁だて)とともに、今後の学習会の呼び水となるよう、「弁護士が無料でどこにでも講師にうかがいます」という内容の「出前学習会」の申込書を配布しました。この学習会前後に、事務所へ地域の組合など七つの団体から講師要請がありました。学習会開催前にあった講師要請は、学習会の事前宣伝そのものが、労組・団体の問題意識を喚起する効果があったのではないかと思います。お知らせを一本入れただけでは、こうした講師要請には結びつかなかったのではないでしょうか。
 もうひとつ、五月二〇日に行われた、地域の「労働法制改悪に反対する大田連絡会」主催の学習決起集会について報告します。
 この主催団体は、大田区内の労連・地区労加盟組合が世話人として参加し、毎月一回の会議や宣伝、時々の学習会などの活動をしています。事務所も代表世話人に名を連ねており、会議や宣伝行動に参加して来ました。
 さてその学習会ですが、「『許すな労働者派遣法大改悪・労働者の使い捨てをやめさせる』学習決起集会」というタイトルで、最初に日本共産党労働局・筒井晴夫さんから国会情勢を含め、国際的な雇用を巡る流れ等の報告があり、次に事務所の堀弁護士が法案の中身と問題点を、事務所のパンフレット(四月一日に配布したものの改訂版)を使いながら解説しました。休憩をはさみ、JMIU大田地域支部から、最近増えている労働相談の事例報告、大田区職労から、職員定数削減問題、日航原告団から不当解雇裁判高裁判決を目前に控えての決意表明と、現役労働者から、空の安全がないがしろにされている職場の現状報告がありました。最後に、派遣法改悪についてまだまだ知られていないので毎月の宣伝行動を継続していくこと、廃案にするための行動に参加することを確認しました。参加者は五〇名でした。
 このように、大田区では事務所オリジナルのパンフレットを活用しながら、講師活動を積極的におこなっています。もちろん自由法曹団のリーフ「STOP!アベノ雇用破壊」や、日本労働弁護団の「生涯低賃金・ハケン切りなんて嫌だ〜日本の雇用を破壊する派遣法第改悪に反対しよう」パンフも、地域の宣伝行動の時に配布し活用しています。引き続き、地域の労働者とともに改悪法案の廃案に向けた運動を強めていきます。


郵政六五歳「定年制」無効裁判にご協力お願いします

東京支部  萩 尾 健 太

一 はじめに
 パワハラ、自殺、自爆営業・・・日本最大のブラック企業、最も多くの非正規労働者を雇用する郵政グループでは、非正規労働者がその労務政策の犠牲とされてきました。
 二〇一一年九月末、日本郵便株式会社(日本郵政グループ)の前身である郵便事業株式会社は、約一万三〇〇〇名もの六五歳以上の有期雇用の職員を雇い止めとしました。さらに、二〇一二年三月末にも同様の雇い止めが行われました。
 生活が困窮する中で、その職員らのうち九名が原告となって、雇い止め無効、地位確認を求める裁判を二〇一一年一二月以降、四次に渉って提訴しました。
 原告らはたった九名ですが、生活苦などの事情から、裁判に立ち上がれなかった多くの非正規職員の代表として、裁判をたたかっています。
二 請求の原因
 原告らの請求の原因は、概ね以下の四つです。
(1)雇い止めおよびその根拠とされた就業規則一〇条二項が公序に反して違法・無効。
 定年制は、昔から、年齢のみを根拠として労働の権利を奪うものとして、問題が指摘されてきました。秋北バス事件最高裁判決では、正規の労働者については、年功による賃金の上昇、厚生年金、及び退職金が支払われて、退職後の生存権が保障されることで、肯定されてきました。しかし、非正規労働者は、年功賃金ではなく、厚生年金も少なく、退職金は皆無です。それにも関わらず定年を定めるのは、労働権、生存権の侵害であるのみならず、高齢者差別に当たります。近時、年金支給年齢の引き上げとともに雇用延長が求められているのは、生存権保障のためです。その観点からすれば、厚生年金の乏しい非正規職員を六五歳で雇い止めとすることは、憲法に抵触し、公序に違反することは明らかです。
(2)高齢者差別を禁止した雇用対策法一〇条違反
 郵便事業会社では、有期雇用職員は、雇用期間満了通知がなされてから改めて雇用される、という形式が取られてきました。これは、形式的には新たな雇い入れであり、雇用対策法一〇条が適用されなければならないはずです。ところが、原告らは、六五歳以上であると言うことで雇い止めされ、希望しても契約更新も再雇用もなされませんでした。
(3)就業規則の違法な不利益変更
 郵政公社時代から、郵政の職場は六〇代、七〇代の非常勤職員が支えており、原告らも、体が続く限り働けると言われてきました。
 就業規則一〇条は、二〇〇七年一〇月の分割民営化時に規定されましたが、その際に、過半数代表の選出は、JP労組、全郵政など、原告らが所属していない多数派組合任せ、選出手続がいつ行われたのか、職場の非常勤職員に知らせず、代表者は正規社員でした。就業規則一〇条導入の必要性はおろか、六五歳定年と言うことも説明されてきませんでした。就業規則の置き場所も不明でした。就業規則の届出がなされていない職場、過半数代表者が職場にいない多数派組合の中央本部委員長になっている職場もありました。
 郵便事業会社もそのことを自覚したため、六五歳定年の適用は半年間延長されましたが、この延長のための就業規則変更に際しても、過半数代表の選出や、非正規社員への説明は、先ほど述べたのと同様でした。
(4)解雇権濫用法理の類推適用
 原告らは、長年被告に勤務し、契約が反復更新されてきました。しかも、就業規則一〇条二項には「会社の都合による特別な場合のほかは」と例外を認める記載がされており、実際には雇用更新者が四五五名、再雇用者が一〇七名もいたのです。
 原告らには雇用継続への合理的期待が認められます。しかも、なぜ原告が「特別な場合」に当たらないのかは説明されず、雇用更新や再雇用された者とされなかった者を区別する基準は何なのかも不明です。
 原告らの所属していた職場も、六五歳雇い止めの結果人員が不足し、郵便物の配達が滞るなど、多大な支障が生じました。現在に至るまで人員募集をしている郵便局もあります。
 原告らの中には、郵政ユニオンに加わってストライキで闘ったり、成績評価について裁判を提訴していたた者、郵政ユニオンの一人支部の副支部長や一人分会の文会長だった者もいます。そのために雇用更新されなかったのだといわざるを得ません。
 結局、原告らに対する雇い止めは、解雇権の濫用として違法・無効です。
三 被告の反論
 こうした原告らの指摘に対して、被告日本郵便株式会社は、原告らが所属している郵政ユニオンと締結した「人事に関する協約」九一条を持ち出してきました。この協約は就業規則一〇条二項と同じ内容となっています。しかし、郵政ユニオンは、正規労働者が多い組合です。組合員の一部の者に不利益を及ぼす労働協約については、当該組合員の意見を聴取し特別多数決などの手続を執らなければならない、とするのが多くの判例ですが、郵政ユニオンはそのような手続を執っていません。また、被告は、郵政ユニオンに提案した内容を、協約締結を決定した組合大会の後、協約締結の直前に、何の説明もなく変えてきたのです。結局、郵政ユニオンはその変化に気付かないまま、膨大な他の条項とセットに労働協約を締結せざるを得ませんでした。
 このような協約九一条は、原告らに対して効力を持ちません。郵政産業ユニオンは、被告に対して、この協約九一条の削除を要求し、日本郵便株式会社の側も、限定正社員制度を先取りする新人事賃金制度導入のために、人事に関する労働協約を破棄し、現在、無協約状態となっています。
四 現在の進行とお願い
 被告は、日本有数の巨大な公共的企業であるにも関わらず、この違法を自ら是正するどころか、年末繁忙などを理由として訴訟進行を遅らせて、原告らの救済を先延ばしにしているとしか思えない態度を取っています。
 ようやく次回六月一〇日に人証決定のための進行協議が行われることとなりました。夏休み後に証人尋問、年内結審、年度内判決と予想されます。
 日本最多数の非正規労働者を抱える民間企業である日本郵便株式会社で、有期雇用社員の使い捨てを許さない本訴訟は、全ての非正規労働者に影響の及ぶ重要な意義のあるものと言えます。
 団員の皆さん、ぜひ、以下のとおりご協力お願いします。
(1)HP閲覧のお願い
 まず「郵政非正規社員の『定年制』無効裁判」HPをご覧ください。http://www.ne.jp/asahi/post/union/65/
(「六五歳 解雇」で検索してください。上部に表示されます)
(2)「六五歳裁判支える会」へのご入会のお願い
 HPでは「支える会」の規約や申込書等がご覧いただけます。財政が苦しく、綱渡り状態の活動です。HP上から「支える会」へのご入会をお願いします。
 年会費は、個人会員二〇〇〇円、団体会員六〇〇〇円です。
(3)署名のお願い
 「支える会」では、現在、裁判所に提出する「公正な審理により郵便事業会社の雇用責任を認定する判決を求める要請書」への署名を集めています。個人、団体とも、署名用紙をHPからダウンロードしていただけます。
 ネット署名も可能です。ご署名をよろしくお願いします。