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山田 秀樹 岐阜県警による市民運動の不当な調査・監視活動に抗議する
白    充 「普通の若者」と考える辺野古移設問題
―琉大生に聞いてみました―
柿沼 真利 九月一日(月)「原発と人権」ネットワーク・大飯原発判決学習会と
九月一三日(土)原発をなくす全国連絡会・全国交流集会と
九月二三日(火・祝)No Nukes Day



岐阜県警による市民運動の不当な調査・監視活動に抗議する

岐阜支部  山 田 秀 樹

一 事案の概要
 二〇一四年七月二四日付け朝日新聞朝刊一面において、岐阜県警(大垣警察)(以下、警察という)が、岐阜県上石津町に計画されている風力発電事業に関し、これに反対する市民運動に関わる人物らの個人情報及びプライバシー情報等を調査・収集したうえ、事業主体である中部電力の子会社(シーテック社)と「意見交換」を行い、収集した情報を同社に対し故意に漏えいしていたことが報じられた。警察は、反対運動の中心的人物らが、大垣市内在住の女性市民活動家、当法律事務所(弁護士法人ぎふコラボ・西濃法律事務所)、当事務所の事務局長(実際は元事務局長である)と連携して反対運動を展開することを懸念していることを、これら関係者の実名その他の学歴、政治活動歴、病歴等の個人情報等と共に漏らしたのである。シーテック社は、警察とのやり取りを議事録に残していたことから、これらが判明した。マスコミは、「警察による個人情報の漏えい」として一斉に報道したいが、以下で述べるように、個人情報の漏えいにとどまらない重大な問題を含んでいる。
(なお、風力発電事業の問題点については、「風力発電の不都合な真実」(武田恵世)などを参照していただきたい。)
二 市民運動に対する悪質な妨害行為である
 風力発電事業に反対する上石津町住民らの運動は、同事業によって生ずる様々な問題を懸念するがための運動であって、憲法が保障する言論の自由、結社の自由及び幸福追求権の行使として高度に保障されるべきものである。その運動は地元自治会を中心に取り組まれており、風力発電の勉強会を開催したり、大垣市に対し陳情を行ったりするといったごく穏当なものであって、何ら反社会的な傾向はない。
 しかるに、警察が漏らした情報には、個人の病歴、過去の政治的活動歴、弁護士に相談した事実など、通常の方法では入手できない詳細な経歴や私生活上の事実が含まれている。こうした入手困難な情報を有していたということは、警察が関係者の身辺を調査し、彼らの行状を監視していたことを窺わせる。しかも、警察は「意見交換」の場で、「平穏な大垣市を維持したい」、「全国に(運動が)広がっていくことを懸念している」とか、関係者らのことを「やっかいな人物」であるなど、あたかも市民運動を展開する関係者らが公共の秩序を乱す存在であるかのごとき言辞を用いて、彼らに対する敵意を示している。
 市民運動にとって警察権力から敵意を向けられ、監視・調査の対象とされること自体、重大な委縮効果を生じるものである。しかも警察は現に市民運動を抑圧する目的で調査及び情報漏えいを行っており、甚だしい人権侵害を行っている。これは、悪質な市民運動つぶしでありこのような行為を警察が行うことは断じて許されない。
三 違法なプライバシー侵害である
 警察が、関係者の実名等の個人情報を否定的な評価とともに第三者に漏えいした行為は、当然ながら個人のプライバシーを侵害する行為である。さらに警察が個人の病歴等の情報を漏らした行為は、地方公務員法三四条一項の守秘義務に反し、岐阜県個人情報保護条例一二条等にも反するのであって、刑事罰による制裁が加えられるべき重大な違法行為である。かかる行為を繰り返し行った警察の責任は重大であり、「意見交換」を重ねることで情報漏えいを促したシーテック社の責任も看過できない。
四 弁護士業務への妨害である
 弁護士の守秘義務は、その業務にとって基本的かつ重要な要素であり、市民が安心して法律相談ができるための必須の前提である。弁護士は、法律相談の内容は当然ながら、誰が相談に訪れたかもみだりに漏らすことは許されない。
 ところが警察は、反対運動の中心的人物が「風力発電事業に関して(弁護士のところに)相談を行った気配がある」と、本来守秘義務により秘匿されるべき情報を漏らした。このような情報を把握する警察は、当法律事務所をも監視の対象とし、法律相談に訪れる市民が誰で、相談の内容は何かを調査していたことが強く窺われる。
 しかも、警察は、同人物が当法律事務所の後援会役員になった事実を、反対運動の活発化を危惧しつつ漏らしており、当事務所に対し、市民運動に対するのと同質の敵意を向けていることが窺われる。さらに警察が情報を漏らした相手方は、当該相談者にとっては紛争の相手方であるシーテック社であって、相談の事実を知られた相談者の不利益は重大である。このようなことは断じて許されない。
五 警察と私企業との不正常な癒着である
 新聞報道によると、警察は、シーテック社に対し「御社の事業も進まないことになりかねない」などと、反対運動の活発化を抑止することが同社の利益に適合することを強調して情報漏えいを行っている。「意見交換」を持ちかけたのは警察側とのことであり、意見交換の内容が記録されたシーテック社の議事録には警察が積極的に情報を漏えいした様子がうかがえる。
 つまり、警察は、シーテック社の風力発電事業を促進するために本件の情報漏えいを行ったのである。いやしくも公権力が、時間と人員と税金を費やして得た情報を、私企業の事業活動を助けるために売り渡すことなどは許されない。公権力が不当な肩入れをすることは、私企業との不正常な癒着の実態があることを強く疑わせるものである。実際、岐阜県警の退職者が親会社である中部電力の岐阜支店に継続的に再就職をしている。
六 秘密保護法の危険性が現実化した事案である
 本件は、国家権力による市民への監視行為であり、その点で、自衛隊のイラク派遣に反対する市民を監視した自衛隊情報保全隊の行為が、人格権を侵害するものとして仙台地方裁判所において違法と判断された情報保全隊事件(仙台地方裁判所二〇一二年三月二六日判決)と共通する面を持つと考えられる。本件は、秘密保護法の制定により危惧された国民監視による権利侵害が現実のものとなった事案である。
 秘密保護法は秘密の範囲が無限定に拡大する危険が指摘されるところ、権力による市民の監視活動がテロリズムの防止に関する情報と偽られて秘密指定の対象となった場合(実際、風力発電事業に反対する住民の情報を収集することが治安維持のために必要とコメントされている)、本件のような情報収集活動の実態が明らかにされることすらなくなる。
 本件は秘密保護法の持つ危険性を明らかにした事案であり、同法の施行は阻止されなければならないことを示すものである。
七 岐阜県警及びシーテック社の態度
 警察は、「治安維持のために必要な情報収集はしており、必要ならば企業と共有することもあり得る」旨のコメントを発した。まっとうな市民運動に対して敵意をもって監視し、その抑圧を図る一方、私企業の便宜を図る目的で、不当な調査により得た情報を故意かつ違法に漏えいしたことに対する反省がみじんも感じられないコメントである。その開き直った態度には怒りを禁じえない。
 シーテック社においても、あくまで個人情報の資料(議事録)が新聞社に入手されたことについて問題とするのみであって、警察との不正常な癒着が疑われることについては何ら弁明しない。
八 今後について
 本件は、警察による市民運動の悪質な弾圧であり、個人のプライバシーの侵害であり、弁護士業務の不当な妨害であって、決して許されるものではない。当法律事務所も含めた関係当事者は、直ちに、警察及びシーテック社他に対して厳重な抗議を行った。
 問題は、警察によって市民運動に関する情報収集がどの程度の広がりと深さをもって行われているかである。それを知るために、とりあえず条例にもとづく個人情報の開示請求を行っているところである。核心部分については非開示決定が予想されるが、不服申立てや行政訴訟を行っていく考えである。
 当然ながら、国家賠償請求についても検討している。本件は、市民運動と結びつく自由法曹団の事務所であればどこでも起こりうる(あるいはすでに起こっている)問題である。全国の団員の皆さんのご支援、ご協力をお願いしたい。
 なお、当事務所の抗議声明と新聞記事はこちらをご覧下さい。
 http://www.gifu-collabo.jp/


「普通の若者」と考える辺野古移設問題
―琉大生に聞いてみました―

沖縄支部  白      充

一 はじめに―辺野古移設問題の多面性
 七月末、「団通信への投稿のお願い」が届いた。題材は、「辺野古移設問題について」。隣には、「表題は自由にお付け下さい」と。
 さて、困った。
 一口に、「辺野古移設問題」といっても、ざっと思い浮かぶだけで、現在係属中の辺野古埋立承認処分取消訴訟について、一一月末の沖縄県知事選について、東アジアにおける米軍基地の存在と辺野古移設という名の基地強化についてなど、視点(というか書きたいこと)は山ほどある(いっそ、「取消訴訟について」などと限定してほしかった!)。
 かといって、馬○木厳○郎先生のように、「連載か!」と思うほど立て続けに投稿するほどの、能力や勇気もない。
 そこで今回は、私が体験した、琉大(琉球大学。以下同じ。)での一コマをご紹介する。
二 琉大生にした質問―三千万円で「埋立て」を受け入れますか?
 お世話になっている琉大教授からの依頼で、私は毎年一コマ、琉大一年生を対象に「ゲスト講義」を行っている。
 今年の講義で私は、次のような質問をし、グループでの討論を促した。
 「皆さんは、漁師です。最近、辺野古の海では魚が獲れません。愛する家族を養っていくには、収入が足りません。そんなとき、防衛局の人が、『今回、基地建設のため辺野古の海を埋め立てます。皆さんは、埋立てにより漁ができなくなります。可愛そうなので、一世帯三千万円の補償金をあげます。埋立てしてもいいですよね?』と言ってきました。さて、あなたなら、どうしますか?」
三 ある琉大生(1)―「三千万円は安すぎます。けど…」
 こんな回答が飛び出した。
 「三千万円では安すぎます。けど、基地がなくても生活は苦しいので、悩みます。基地がなくても生活ができるのであれば、一番良いのですが…」
 この回答を聞いて、次の言葉を思い出した。
 「沖縄には、『基地反対派』、『基地容認派』はいるが、『基地賛成派』はほとんどいない」
 すなわち、沖縄は、ほとんどの人が、「基地なくして生活が成り立つのなら、それに越したことはない」と考えている。そこから、(1)「だけど、基地がなければ生活ができない」と考える『基地容認派』と、(2)「やはり、基地は受け入れられない」と考える『基地反対派』がいる。しかし、(3)「沖縄に基地がなければ、日本の防衛は成り立たない」と考える『基地賛成派』は、ほとんどいない、ということである。
 もちろん、沖縄の人々の現状をこのように単純化することはできないが、いわゆる『基地容認派』に、あるいは今の若い世代に、「基地なき沖縄」の具体的なビジョンを示せているか、日頃の取組みを見直すきっかけとなった。
四 ある琉大生(2)―「この問題について悩みたくありません…」
 グループ討論の最中、黙ったままの学生がいた。私が近づき、「どう思う?」と聞いたところ、学生は「この問題について悩みたくありません…」とだけ答えた。
 名前をみると、いわゆる「沖縄の名字」であった。私も、「そっか」とだけ答えた。いや、そうとしか答えられなかった。
 翌週、琉大教授から連絡があった。いわく、当該学生は、辺野古出身とのこと。親戚が皆、関係者で、さまざまな利害があり、自分の考えを口にできずにいたとのことだった。
五 まとめ―やはり、基地には賛成できない。そして…
 基地なき地域で、「基地がなくても生活ができるか」ということは、議論にすらならない。
 「基地建設」という「悪魔の問題提起」に曝されることにより、人々は「イエスorノー」に追い込まれ、これからの生活に向けた想像力は停止し、肝心な人と人とのつながりは奪われる。「基地」を「原発」に置き換えても、問題はそう異ならないであろう。
 やはり、基地には賛成できない。そして、素晴らしき「基地なき沖縄」を考え、示していきたい。基地も対立も分断もない、「素晴らしき沖縄」を、そして、「素晴らしき東アジア」を。


九月一日(月)「原発と人権」ネットワーク・大飯原発判決学習会と
九月一三日(土)原発をなくす全国連絡会・全国交流集会と
九月二三日(火・祝)No Nukes Day

東京支部  柿 沼 真 利(原発問題委員会事務局次長)

 現在、我が国は、昨年九月一五日に、関西電力・大飯原発四号機が稼動を停止して以降、「原発稼動ゼロ状態」が継続している。また、本年五月二一日、福井地裁は、関西電力に対し、「大飯発電所三号機及び四号機の原子炉を運転してはならない」、という主文の判決を言い渡した。二〇一一年三月の東京電力・福島第一原発事故以降の、「脱原発」、「原発ゼロ」を求める声、活動は、確実に成果を出しているのである。
 しかし、本年七月一六日、原子力規制委員会は、審査を進めてきた九州電力・川内 原発一号機及び二号機について、「新規制基準」適合を理由に、審査書案を了承した。これを受けて直ちに科学的・技術的意見の公募が開始されており、三〇日間の意見募集が終了した後、正式な審査書として決定される予定となっている。現安倍内閣や九州電力は、この秋にも、川内原発一、二号機を再稼働させようとしている(一部、報道では、「冬以降にずれ込む」可能性も。msn産経ニュース二〇一四・八・五参照)。
 そして、今後、これを皮切りとして、なし崩し的に、全国各地の原発の再稼動を推進する動きが活発化することが予想される。
こんな情勢の中、我々、自由法曹団員は何をすべきか。
 そんな「お悩み」を持つあなたへ、本年九月中に行われる三つの原発問題関係の企画などをご紹介いたします。

一 九月一日(月)「原発と人権」ネットワーク・「大飯原発差し止め訴訟判決の意義と脱原発運動のこれから」
一八時〇〇分 開場、
一八時三〇分 開演 
二〇時三〇分 終了予定
東京霞ヶ関・弁護士会館東京弁護士会五階五〇二室
内容(予定)
(1)大飯原発差し止め訴訟判決の内容とその意義 海渡雄一弁護士
(2)大飯原発差し止め訴訟判決「批判」に対する反批判 舘野淳さん(元中央大学教授。核・エネルギー問題情報センター NERIC)
(3)脱原発をめざす草の根運動の状況と課題 北村浩さん(ネットワーク事務局次長。日本科学者会議)

二 九月一三日(土)原発をなくす全国連絡会・全国交流集会
(1)目的
 再稼働を許さないたたかいの到達点を確認するとともに、秋以降のたたかいについて意思統一をはかる。
(2)日時・場所 九月一三日(土) 一三時三〇分〜一七時 
 全国家電会館(日本電化協会)
 〒一一三―〇〇三四 東京都文京区湯島三丁目六番一号
 電 話 〇三―三八三二―四二九一
◇JR御徒町駅松坂屋方面から徒歩一〇分、JR御茶の水駅聖橋口から徒歩一〇分、地下鉄千代田線湯島駅外神田口から徒歩五分、地下鉄銀座線末広町駅から徒歩八分
(3)プログラム案(予定)
一三時三〇分〜一三時四〇分 主催者あいさつ(自由法曹団!!)
一三時四〇分〜一四時四〇分 記念講演「大飯原発さし止め判決の意義」 講師案 訴訟に関わった弁護士のなかから
一四時四〇分〜一五時 事務局からの提起(全労連または民医連) 
一五時〜一五時一〇分 休憩
一五時一〇分〜一五時二〇分 国会情勢報告 笠井亮衆議院議員に依頼
一五時二〇分〜一五時五〇分 特別報告 一〇分×三(川内・福島・浜岡)
一五時五〇分〜一六時五五分 討論 五分×一三人 
一六時五五分〜一七時    閉会あいさつ(原発問題住民運動センター)

三 九月二三日(火・祝)
   No Nukes Day・川内原発再稼働するな!
   フクシマを忘れない さようなら原発★全国大集会&大行進

(1)名称 九・二三 NO NUKES DAY 川内原発再稼働するな! フクシマを忘れない さようなら原発★全国大集会&大行進
(2)主催 九・二三 NO NUKES DAY実行委員会(「さようなら原発一〇〇〇万人アクション」、「首都圏反原発連合」、「原発をなくす全国連            絡会」の三者共同開催)
(3)会場 代々木公園
(4)規模 実質二万人以上五万人をめざす
(5)内容 (予定) 既設ステージを中心にステージ
       ブース出展 五〇〜一〇〇
       ステージ企画
       音楽 エセタイマーズ、
スピーチ 呼びかけ人、川内原発関係(向吉祥隆)、福島原発関係(橋本あき)
 皆さん、今年の九月は、今後の川内原発を含む原発再稼動の動きに対抗するため、「学び」、「交流し」、そして、「声を挙げ」ましょう!!