過去のページ―自由法曹団通信:1505号      

<<目次へ 団通信1505号(11月1日)


荒井 新二 *新任・団長挨拶*
歴史と伝統に確信をもって
今村 幸次郎 *新任・幹事長挨拶*
就任のご挨拶
山口 真美 *福井・あわら総会特集*
二〇一四年福井・あわら総会が開催されました
佐野 雅則 総会プレ企画第二部
「もんじゅ判決から大飯原発判決へ」中嶌晢演住職のお話に触れて
星野 文紀 福井あわら総会
二日目の第二分散会の感想
笠置 裕亮 第三分散会に参加して
白    充 真の民主主義を獲得するために
―団総会全体会の感想と沖縄県知事選の意義―
白    充 誰でも分かる?
―沖縄県知事選の様相
村松 昭夫 大阪・泉南アスベスト国賠訴訟
最高裁も、国の責任を認める! 厚労大臣が原告らに謝罪!
笹本  潤 平和への権利と集団的自衛権
白神 優理子 「労働法制改悪」に反対する取り組みのご報告
加藤 丈晴 「Q&A心神喪失者等医療観察法解説 第二版」のご紹介



*新任・団長挨拶*
歴史と伝統に確信をもって

団 長  荒 井 新 二 

 四五年前、東京合同法律事務所の一階で二二期入所歓迎会が開かれました。私が戦後生まれ(四五年一二月)と挨拶すると、岡林先生、上田誠吉・植木敬夫弁護士らからいっせいに大長息が洩れ酒席が一瞬静かになりました。とうとう戦後生まれの弁護士が我が事務所に来たぞとの思いが、戦時下の痛苦と敗戦後の困難な時期をくぐり抜けてきた諸先輩から自ずとあふれ出た、と今ではよく分かります。
 来年は戦後七〇年です。安倍政権は、二閣僚の辞任などの波乱要素をかかえつつ、七〇年の節目に戦後体制の根本的な変容を企てています。平和・人権・民主主義、経済社会と人々のくらしは、強引な政治手法の前に重大な危険にさらされています。自由法曹団の真髄が求められる、そういう時代の大きな転換期を迎えています。
 自由法曹団も戦後再建七〇年の節目を迎えます。自主・自律の法律家専門集団として、その大衆性と戦闘性と実践は、団体の歴史と伝統にしっかりと結びついています。一時の中断こそあれ団は一九二一年以来のながい歴史のなかで裁判闘争と事件・諸運動を通じ豊富な経験と貴重な教訓、そしてなみなみならぬ高い蓄積を持っています。
 団の力量を大きく発揮して、平和と人権を擁護し、政治反動阻止のため前を向いて激動するこの時代を切り開いていきましょう。
 二〇一四年福井総会で採択された方針は、十分に内容が練られたており団は総力をあげてこれを的確に実践していかなければなりません。
 福井総会では団員が自分の頭でよく考え、運動のなかで思考を鍛えあげるという作風が生きていたように感じました。そのことが、この情勢であるからこそ今大事になっていると思われます。団総会や五月集会の年二回の全国集会で、数百人が泊まり込みで個別の課題の討議ーそれも老若問わず侃々諤々(かんかんがくがく)の議論ーを虚心に行っているような団体は、他にそうあるものではありません。集団討議のあり方にも不断の工夫を加えながら、団員が事実認識と道理を見極める能力を磨き上げ、ともに一層の運動の前進をはかっていきましょう。
 総会等での報告を聞きながら、全国各地の団員がこの社会で虐げられている人々や政治的・社会的な弱者と言われる人たちに対して寄せている共感・共振の大きさと重さを考えさせられました。団員がそのような仕事に携わることを通して、弁護士としての力量と識見を確実に増すばかりか、人間的な魅力を湛えるまでになった例を身近に見るのは嬉しいことです。決して私と同世代である古希団員だけについて言っているのではありません。その品性を輝かしいものにしている団員は全国各地で数限りなくおられます。ひとりひとりの団員とその仕事ぶりは、まことに貴重であって、またそのひとつひとつが団の原点でもあります。
 団の使命、伝統、作風をより強めていきたいものです。
 才人ぶりを発揮された前団長には到底及びもつきませんが、団長の職に就くにあたり皆様に最善をつくす決意を申し述べて私の挨拶とさせていただきます。


*新任・幹事長挨拶*
就任のご挨拶

幹 事 長  今 村 幸 次 郎

 先日の福井・あわら総会(拡大幹事会)で幹事長に選任されました。やや急なお話でもあり、ブルペンでの投げ込みが十分ではなかったため、若干「暴投」があるかもしれませんが、「暴走」だけはしないよう気をつけていきたいと思います。
 「暴走」といえば安倍政権です。こちらの「暴走」は、どこへ行きつくかわからない迷走的なものではなく、日本を「戦争する国」、「戦前の大日本帝国のような国(戦後レジームからの脱却)」、「企業が世界で一番活躍しやすい国」にするという明確な目的地を持った「暴走」です。
 総会でも確認されたとおり、この「暴走」をやめさせ、日本国憲法を守り・生かすことこそが、私たちの目下の最大の課題です。そのために、団として、具体的にどう取り組むかについて、今後の常幹等の場で議論していきたいと思います。
 安倍政権は、来年四月の統一地方選挙を「日本を取り戻す最終決戦」と位置付けているようです。それまでに、マスコミを使って「集団的自衛権行使容認」を既成事実化しつつ、「女性の活躍」や「地方創生」で人気取りをして、そこでの勝利をかすめとり、そのうえで、七・一閣議決定に基づく戦争関連法案を一気に押し通そうという姑息な戦略です。
 しかし、そんなことは絶対に許すわけにはいきません。
 団として、日本を戦争国家に作り変える七・一閣議決定の危険な中身、秘密保護法、共謀罪、盗聴・ネット傍受の拡大等による秘密国家・弾圧国家化への動き、愛国心教育・道徳教育による思想統制、侵略戦争を美化する歴史の修正、労働者を犠牲にして企業に「稼がせる」雇用改革、民意を無視した沖縄新基地建設・原発再稼働・消費増税・TPPの強行、社会保障の切り下げによる格差・貧困の拡大等々、安倍政権による「暴走」の内実を、広く、わかりやすく、トータルに伝えていくことによって、この「暴走」をストップさせなければなりません。「戦争する国」づくりは、国民の安全・安心のためのものでは決してなく、日米同盟強化、軍事大国化、グローバル企業の権益擁護、反対する者への監視・抑圧・弾圧強化等、国民の権利や自由と平和を犠牲にして権力者の支配に資するものにほかなりません。そのような臭いを敏感に感じ取った若い人たちが、自由や平和を守る運動やデモに立ち上がっていることは、とても心強いことです。
 一一月一六日の沖縄県知事選挙、来年四月の統一地方選挙は、「暴走許さず」「憲法守れ」の民意を示す絶好のチャンスだと思います。
 今、改造後の安倍内閣では、「政治とカネ」の問題や極右団体との深い関係を指摘される閣僚が相次いでいます。これら問題閣僚の任命は、安倍氏のおごり、慢心が招いたものです。このような政権の腐敗は厳しく追及されるべきですが、より本質的には、日本を「戦争する国にする」、「戦前の大日本帝国のような国にする」という安倍氏の野望こそが、徹底的に批判されなければなりません。
 私たちは、それぞれの分野において、こうした批判を強め、集中的な活動に取り組むことで、安倍政権の「暴走」を止め、憲法を守り・生かすたたかいに勝利する展望をつかむことができるものと思います。
 私自身は、甚だ力不足ではありますが、まずは、全国の団員の皆さんが活動しやすくすることを第一として、微力を尽くしてまいりたいと思います。皆さん、どうぞ、よろしくお願いいたします。


*福井・あわら総会特集*
二〇一四年福井・あわら総会が開催されました

事務局長  山 口 真 美

 二〇一四年一〇月一九日、二〇日の両日、福井県・芦原市の清風荘において、自由法曹団二〇一四年総会が開かれました。本総会では、三〇七名の団員・事務局が全国から集まり、活発な議論が交わされました。
 全体会の冒頭、今村幸次郎(東京支部)、島田広(福井県支部)両団員が議長団に選出され、議事が進められました。
 篠原義仁団長の開会挨拶、地元福井県支部の海道宏実福井支部長からの歓迎挨拶に続き、福井弁護士会・内上和博会長、全国労働組合総連合・高橋信一副議長、日本国民救援会中央本部・伊賀カズミ副会長、日本共産党福井県議会議員・佐藤正雄氏の各氏から、ご来賓のご挨拶をいただきました。また、本総会には全国から合計六九本のメッセージが寄せられました。
 ご来賓のご挨拶に続き、恒例の古稀団員表彰が行われました。今年の古稀団員は四一名で、うち一七名の古稀団員が総会に参加されました。参加された古稀団員には、篠原義仁団長から表彰状と副賞が手渡されました。また、古稀団員を代表して杉井静子団員(東京支部)からご挨拶をいただきました。
 続いて長澤彰幹事長から、本総会にあたっての議案の提案と問題提起がなされました。
 議案書の第一章に基づき、その後の情勢の変化も加味しながら、現在全国民的な課題となっている(1)集団的自衛権の行使容認を認める閣議決定や日米ガイドライン見直しの中間報告など安全保障と改憲をめぐる問題、(2)密告・監視社会をもたらす盗聴法の拡大と司法取引の導入をめぐる問題、(3)臨時国会に提出された労働者派遣法など労働法制改悪をめぐる問題について問題提起し、あわせて各分散会で討議されるべき主要なテーマについて解説しました。さらに、新事務所への移転に関する報告、及び、予算・決算報告の報告がなされました。
 次に、松本恵美子団員(東京支部)から会計監査について報告がなされました。続いて、選挙管理委員会の諸隈由佳子団員(福井県支部)から団長に荒井新二団員(東京支部)が無投票で選出された旨の報告がなされました。
 一日目の全体会終了後、四つの分散会に分かれて議案に対する討論が行われました。
 今年は、各分散会の共通テーマとして、(1)憲法と平和・民主主義をめぐるたたかい、(2)盗聴法拡大と司法取引の導入の動きや弾圧事件など治安警察分野でのたたかい、(3)労働者の権利を守り、労働法制の改悪を許さないたたかいの三つのテーマに沿って討議が進められ、この間の実践の報告を含めて、各分散会で活発な議論がなされました。
 各分散会の議論を受けて、二日目の全体会では以下の発言がなされました。
○松島暁団員(東京支部)・・・憲法問題について(情勢の歴史的転換点にあたっての安倍政権の選択と団の課題)
○白充団員(沖縄支部)・・・沖縄県知事選と辺野古新基地建設問題について
○加藤健次団員(東京支部)・・・盗聴法拡大と司法取引の導入を許さないたたかいについて
○田井勝次長(本部)・・・労働法制問題(派遣法改悪の情勢、労働時間法制改悪の問題点、団としてのとりくみ)
○島田広団員(福井県支部)・・・司法は生きていた!大飯原発差止訴訟判決の意義と今後のたたかいについて
○並木陽介次長(本部)・・・衆参両院における選挙制度改革問題と民意を反映する選挙制度の確立について
○小林善亮団員(埼玉支部)・・・道徳の教科化と中学校教科書採択について
○横山雅次長(本部)・・・カジノ法案の危険性について
○鎌田幸夫団員(大阪支部)・・・泉南アスベスト訴訟最高裁判決の意義について
 これらの発言以外に、小野寺義象団員(宮城県支部)から「秘密保護法と対決する自衛隊情報保全隊の国民監視差止訴訟について」、神原元団員(神奈川支部)から「歴史認識問題と改憲策動」の各発言通告がありました。
 討論の最後に長澤幹事長がまとめの発言を行い、議案、予算・決算が採決、すべて承認されました。
 続いて、以下の一二本の決議が採択されました。
○集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を撤回し関連法案の制定断念を求める決議
○辺野古新基地建設の断念を求め、沖縄県知事選挙の勝利をめざす決議
○監視・密告社会をもたらす盗聴法の拡大と司法取引の導入に反対する決議
○労働者派遣法と労働時間法制の大改悪など、安倍政権のもくろむ労働法制改悪に反対する決議
○道徳の教科化に反対する決議
○TPP(環太平洋戦略経済連携協定)交渉からの早期撤退を求める決議
○カジノ法案の廃案を求める決議
○生活保護老齢加算の引き下げを合憲とする不当判決に抗議し、生活保護の住宅扶助基準と冬季加算の削減に強く反対する決議
○福島第一原発事故による被害の全面救済の実現及び原発再稼働等の原発推進政策からの即時撤退を求める決議
○大飯原発第三、四号機差止請求訴訟を支援し、無反省で無責任な原発推進政策の放棄と原発のない社会の実現を求める決議
○福井女子中学生殺人再審請求事件の早期再審開始と無罪の確定を求める決議
○司法修習生に対する給費制復活を求める決議
 選挙管理委員会の諸隈由佳子団員(福井県支部)から、幹事は信任投票で選出された旨の報告がなされました。引き続き、総会を一時中断して拡大幹事会を開催し、規約に基づき、常任幹事、幹事長、事務局長、事務局次長の選任を行いました。
 退任した役員は次のとおりであり、退任の挨拶がありました。
   団 長     篠原 義仁(神奈川支部)
   幹事長     長澤  彰(東京支部)
   事務局次長   上田 月子(埼玉支部)
   同       並木 陽介(東京支部)
   同       林   治(東京支部)
   同       山添 健之(東京支部)
 新役員は次のとおりであり、代表して新たに選出された荒井新二団長から挨拶がなされました。
   団 長     荒井 新二(東京支部 新任)
   幹事長     今村幸次郎(東京支部 新任)
   事務局長    山口 真美(東京支部 再任)
   事務局次長   佐野 雅則(静岡県支部 再任)
   同       田井  勝(神奈川支部 再任)
   同 辰巳 創史(大阪支部 再任)
   同       本田 伊孝(東京支部 再任)
   同       横山  雅(東京支部 再任)
   同       増田 悠作(埼玉支部 新任)
   同       藤岡 拓郎(千葉支部 新任)
 閉会にあたって、二〇一五年五月集会(五月一七〜一八日、一六日にプレ企画を予定)開催地である広島支部からの歓迎のメッセージが紹介され、最後に、福井県支部の黛千恵子団員による閉会挨拶をもって総会を閉じました。
一〇 総会前日の一〇月一八日にプレ企画が行われました。今回のプレ企画は、前半に石崎和彦団員(東京支部)による「大衆運動における弁護士の役割ー弾圧の弁護活動を考える」と題した講演会を、後半は「もんじゅ判決から大飯原発判決へ」と題し、大飯原発差止訴訟の弁護団の吉川健司団員(福井県支部)から大飯原発訴訟の経過と福井地裁判決の内容について報告を受け、大飯原発差止訴訟原告団長の中嶌哲演氏(明通寺住職)から、もんじゅ訴訟から取り組んできた反原発運動について講演していただき、全体で六一名の団員・事務局が参加しました。
一一 今回も、多くの団員・事務局の皆さんのご参加とご協力によって無事総会を終えることができました。総会で出された旺盛な議論を力に、新たな情勢の下、大いに実践に取り組みましょう。
 最後になりますが、総会成功のためにご尽力いただいた福井県支部の団員、事務局の皆様、関係者の方々に、この場を借りて改めてお礼申しあげます。ありがとうございました。


総会プレ企画第二部
「もんじゅ判決から大飯原発判決へ」中嶌晢演住職のお話に触れて

静岡県支部  佐 野 雅 則

 中嶌晢演さんは、福井県小浜市の明通寺のご住職で、原発の危険性を早くから訴え、反原発運動の活動をされてこられました。本総会プレ企画では、「もんじゅ訴訟から取り組んできた反原発運動について」と題して、ご自身の経験談を踏まえ、住民としての思い、そして宗教家としての思いについてお話をいただきました。
 中嶌住職は、一一年三月一一日の福島第一原発事故が起きる前から、原発の危険性を訴えて活動してこられました。しかし、福井のような決して発展しているとはいえない地域においては、原発が地元にもたらす莫大な利益に、「中毒症状」を起こし、経済成長至上主義がもたらす原発の「必要神話」、そして、それに科学技術のお墨付きを与える「安全神話」を盲目的に「信仰」し、多くの地元住民は「原発マネーファシズム」にどんどん取り込まれ、「国内植民地化」されていったということでした。
 それでも一部の住民は、原発の危険性を意識していましたが、多くの住民は無批判的に原発マネーに取り込まれ、市長などは、原発マネーがもたらす利益による「棚ぼた式町づくり」を推進し、それを多くの住民が支持してきました。ある市長は、公演(チェルノブイリ原発事故前)で、「これまで何の支障もなかった。今後も大丈夫だろう。五〇年後、一〇〇年後にどうなっているかはわからない。だったら進めたほうがいい。そんな先の事を心配しても仕方ない。」というような発言をしていたそうです。まさに「原発マネーファシズム」がもたらした「国内植民地化」の成れの果てでした。
 このような状況のもとでは、闘いの結末は自ずと決まっていました。ところが、「もんじゅ訴訟」の名古屋高裁金沢支部は住民の勝訴判決を出しました。中嶌住職はもちろんこの結果を評価するのですが、危険性を訴える住民の立場としては当たり前の結果でした。本当に「安全」ならば、大電力を必要としている大都市圏に原発をなぜ作らないのか、若狭に一五基も集中させていること自体が「安全ではない」ことを証明しているはず。決して安全ではないとすれば、考えるべきは、原発の地元も電力大消費圏の源地も、一体何と引き換えに原発を必要としてきたのかということです。これが中嶌住職の言う原発の「必要神話」の根源でした。
 もんじゅ訴訟最高裁判決(〇五年)は住民の訴えを退けました。判決を受けて、中嶌住職はこう表現しました。「知恵の文殊菩薩が制御しているのは百獣の王獅子。血に飢えたライオンが暴走すれば何人といえども手がつけられまい。」「最高裁判決は行政の暴走を免責しただけではなく、司法のトップ自らが暴走してしまったというほかない」と(タイトルは「殺生亡国への暴走」)。
 それから六年後、福島第一原発事故は起きます。暴走したライオンは、誰も手がつけられず、すでに三年半が経過しました。
 この事故の結果、原発マネーに中毒を起こしていた地元住民も「安全神話信仰」がまやかしであることに気づき、そして立ち上がりました。その結果獲得したのが、大飯原発差止勝訴判決でした。福島第一原発事故の事実は凄惨極まりないが、その事実の重さがすべてを動かしたということです。
 私の自宅は、世界一危険と言われる浜岡原発から五〇キロ圏内です。実家は三〇キロ圏内です。浜岡はまさに原発マネーに侵食された原発城下町です。浜岡原発について子供のころ聞いていた話はまさに「安全神話信仰」でした。中嶌住職のお話一つ一つがそのまま浜岡の境遇と重なりました。
 最後に、中嶌住職は、「人格権と真の国富は、「自利」と「他利」を円満にすること」だと言われました。まさに我々がめざすべき到達点はそこにあるのではないでしょうか。


福井あわら総会 二日目の第二分散会の感想

神奈川支部  星 野 文 紀

 福井あわら温泉において行われた団総会での前日に引き続いての分散会で、治安問題、労働問題、貧困問題、TPP問題、原発問題、大阪の思想調査等について発言がありました。
 まず、治安の問題では、神奈川の森団員から現在進行中の司法取引の問題について問題点が紹介された。普通司法取引とは、被疑者自分が罪を認める代わりに量刑の軽減等の便宜を図るという内容である。ところが、現在、議論がされている司法取引は、他人の犯罪について話す代わりに量刑の軽減等の便宜を図るという内容である。これは、類型的に罪を軽くしたいために嘘をつくという危険が冤罪作出の危険があるものである。この取引には弁護人の承諾も必要になるが、弁護人はなにもわからない内容についてどう承諾するのか。冤罪作出の片棒を担がされてしまうのではという。ひどい内容である。日弁連が明確な反対を打ち出せない現状、団の運動が求められる。
 労働の問題は、問題山済みである。雇用の不安定化、労働者の使い捨てが進むなか、残業代ゼロ、派遣の拡大など、労働法制の改悪が進んでいる。JAL事件のはじめさまざまな個別事件の報告もなされた。JALの不当労の勝利もテコに、労働者の権利強化の為に団の活動が求められている。
 選挙制度の問題に今回、団が積極的に取り組んでいる。今回出された、二〇一三年参議院選挙についての分析を活用して、団員各位にも積極的活動が求められる。
 東京の林団員から生活保護の問題についても提案がなされた。現在政府は生活保護の支給額引き下げを行っている。生活保護は、社会の最低限の生活を決定する性質ももっており、生活保護が下げればみんな下がることになる。労働条件もしかりで、生活保護の就労支援の研修は時給は最低賃金を守らなくてもよいというモデルケースがおこなわれている。パソナがやっている時給四〇〇円で働かせている。また、平和の問題にも直結している、アメリカのように経済的兵役というようなことが出てくる。食べるため、進学のためには自衛隊で入隊するようなひとが出てくる。実際に財界からは自衛隊に入隊すれば奨学金の償還を免除するような話が出ている。こういう、社会全体の生活レベルを後退させないためにも生活保護制度の改悪を許してはならない。
 東京の加藤団員からは年金の話がでた。年金額は去年の一一月一日から順次引き下げられ合計二・五%の削減が予定されている。もともと年金は物価スライドだったが、一五年前景気が悪い時に景気対策として政策的に据え置いたことがある。これをもらい過ぎだといっているのが今の引き下げである。しかし、一五年前の据え置きされた年金額を、生活の厳しい今あえて引き下げることが許されるのであろうか。今回の引き下げについては、一二万人年金受給者が審査請求を出している。審査請求、再審査請求が棄却されだしているので、今後は裁判が行われると思われる。裁判で勝つのは難しいかもしれないが、更なる引き下げが予定されている中、提案をしていきたい。各地で年金者組合からの相談が来ると思われる。年金者組合との付き合いもあり、断れないので、みなさん頑張っていきましょう。
 埼玉の柳団員からはTPPについて発言があった。政府はアメリカの中間選挙を控えてアメリカが全く妥協することが期待できない今のタイミングで急いで話を進めている。これは、事実上、アメリカの言うとおりにする話になっている。形だけの議論だと思われる。日本の農業は後継者がなく未来がないと言われるがそれは作られた問題である。安倍政権の農業破壊政策でコメの価格が半分ぐらいになっている。政府は米価を調整しなくなっている。農協を破壊して企業を入れようとしている。
 神奈川の渡辺団員からは原発問題について、議案書の五〇頁以降を見てほしい。網羅的でよくできている。三年半たっても被害は広がっているという報告があった。
 大阪の高橋団員から大阪府の思想調査について裁判の報告があった。橋下知事は思想調査についての業務文書に中身を見ずに署名したなどと言い訳をしている。三月には判決が出ると思う。さらなる追求を行いたいとの報告があった。
 以上、さまざまな報告がなされどれも重大な問題である。団員各位が各課題をまず知り、興味を持ち、できる限りの協力をすることが求められている。本総会での情報共有をもとにさらなる活動が求められているといえる。


第三分散会に参加して

神奈川支部  笠 置 裕 亮

 二〇一四年一〇月一九日〜二〇日に開催された自由法曹団総会において、私は第三分科会に参加しました。その際に印象に残ったことを記します。
 まず、議論の俎上に上るテーマが非常に多岐にわたることです。憲法・平和に関するテーマを初め、沖縄の情勢に対する支援、労働法制改悪問題、選挙制度、ヘイトスピーチ、原発などなど…。現在の日本において議論されている人権課題が遍く取り扱われており、全国の自由法曹団の先生方が時代の流れと向き合ってきた足跡がそのまま表れているように思いました。とりわけ印象深かったのが、ヘイトスピーチ問題に取り組んでいらっしゃる京都の先生の訴えでした。ヘイトスピーチ規制法の是非については、表現の自由との関連で様々な議論があるかと思いますが、「子どもたちに対し、聞くに堪えない汚い言葉が浴びせられている現状について、何とか規制をかけなければならない」との切実な訴えには、ヘイトスピーチのリアルな現実を垣間見たように感じました。
 そして、各テーマについて、各地の団員の先生方が実に創意工夫を凝らして取り組まれていることも、非常に印象に残った点です。憲法について言えば、自由法曹団所属の弁護士が担当可能な学習会のメニューを作成し、各団体に配布の上、要請があれば各弁護士に学習会を割り振って実施していくという取り組みや、労働問題をテーマにした学習会であったとしても、最後に憲法・平和の問題と絡めた問題提起をしていく、といった取り組みについては、非常に刺激を受けました。私自身の日頃の取り組みにも活かしていこうと思います。
 また、総会では、古稀を迎えられた団員の先生方が二〇名以上表彰されておりましたが、一〇期代の先生方から、私のような六六期の新人弁護士まで、非常に幅広い年代の先生方が二〇〇名以上も参加され、活発に議論を交わしていることも印象に残りました。私は二〇期代の先生方と懇親会を御一緒させていただきましたが、七〇歳を超えた先生方が朗々と様々な人権課題について自らの考えを述べておられる姿には、新人の私にとって、ぜひ将来の目標としていきたいと感じさせられました。
 総会には、昨年まで七月集会をともに作り上げた同期の仲間たちが二〇名ほど参加しました。全国各地で人権問題に取り組み、活躍している彼ら・彼女らと再び集まり、修習時代の思い出や現在取り組んでいる事件について語り合えたことも、また非常にいい思い出になりました。
 食事でも、蟹が一匹まるごと出されるなど、福井ならではの非常に充実したものになっており、大変思い出深い総会になりました。


真の民主主義を獲得するために
―団総会全体会の感想と沖縄県知事選の意義―

沖縄支部  白     充

一 団総会全体会の感想―民主主義の危機
 去る一〇月一八日から二〇日まで、福井県あわら温泉「清風荘」にて、二〇一四年自由法曹団総会が開かれた。
 同総会の最終日にあたる、二〇日の全体会では、多くの方が討論や発言をされていた。
 集団的自衛権の問題、沖縄の問題、盗聴法等の治安警察問題、労働問題、原発問題等々。
 これらの問題に共通するテーマとしては、私は、「民主主義の危機」というものを感じた。
 集団的自衛権も、基地も、盗聴法も、労働者派遣法改正も、原発再稼働も、果たして誰が望んでいるのだろうか?
 仮に「民衆」を「大多数の人々」と定義するのであれば、日本に住む「大多数の人々」が、これらを必要なものとして望んでいるとは考えがたい。
 日本に、真の民主主義があるのだろうか。
 改めて、沖縄県知事選にスポットを当てながら、沖縄、日本、そして東アジアにおける今回の沖縄県知事選の意義を述べたいと思う。
二 沖縄県知事選―「真の民主主義」獲得の出発点
 「日本は、民主主義ですか?」
 この問いに、多くの「日本国民」は、「はい」と答えるであろう。
 しかし、問いをこう変えてみてはどうだろうか。
 「沖縄に、真の民主主義があると思いますか?」

*  *  *  *

 戦後、七〇年が経とうとしている。
 しかし、沖縄は未だ基地問題で悩まされ、迷走し、人々は分断を強いられている。
 お隣の大韓民国も、例外ではない。
 最近では、済州島において、(名目上は韓国軍の)海軍基地の建設が進められている。
 「先祖代々守られ続けてきた、他にはない、美しい景観を守りたい」という、ただそれだけの島民の素朴な思いは、戦後七〇年が経っても、無視され続けているのである。
 沖縄にも済州島にも、「真の民主主義」があるとは思えない。

*  *  *  *

 現職の仲井真県知事は、四年前、普天間基地県外移設を公約として掲げ、当選を果たした。
 しかし、二〇一三年一二月、同知事は、辺野古新基地建設(同知事の言葉を借りると「普天間基地移設」)のための、公有水面埋立てを承認したのである。
 民主主義とは何であろうか。そして、公約とは何であろうか。
 民衆は、公約を見て、投票をする。候補者は、投票を受けて、当選し、職に就く。それゆえ、民衆は、公約に自身の思いを委ねているのであって、決して「当該候補者であれば何をやっても良い」という思いでは投票をしていないはずである。こんな当たり前なことを、あえて書かなければならないほど、日本の政治は危機に面しており、それは沖縄において顕著に表れているのである。
 このような状況で行われる今回の沖縄県知事選は、沖縄、日本、そして東アジアにおける「真の民主主義」獲得の出発点として位置づけられるべき、極めて重要な選挙なのである。
 決して、民衆は、自らの手で、「真の民主主義」を放棄するようなことがあってはならない。
三 まとめに代えて―福井・沖縄・在日朝鮮人
 私は、福井出身で、現在沖縄にいる、在日朝鮮人三世である。
 大飯原発差止めの歴史的判決が出た生まれ故郷である福井の地で、東アジア全体の民主主義に関わる、沖縄県知事選のお話ができたことに、運命的なものを感じる。
 (私が高校時代に知り合った、愛知の川口創先生に、沖縄で就職することになったことを報告した際、川口先生から「天命を全うしてください」と言われたことを思い出す。)
 残念ながら、本稿では、字数の関係で、沖縄県知事選の様相についてお話ができなかった。
 本稿をきっかけに、あるいは、以前より、沖縄県知事選に興味関心を抱かれている方は、「誰でも分かる?―沖縄県知事選の様相」をお読みいただきたい。


誰でも分かる?
―沖縄県知事選の様相

沖縄支部  白     充

0 はじめに―本当に「誰でも分かる?」
 以前の団通信でも紹介したとおり、来る一一月一六日の沖縄県知事選には、現在、(1)仲井真現知事、(2)翁長元那覇市長、(3)下地元郵政相、(4)喜納元民主党沖縄県連代表が立候補を表明している。
 そして、この通信をお読みの方であれば、翁長氏が当選すべきであることは、「誰でも分かる」だろう。
 しかし、そこで思考を止めていただきたくない。
 本稿では、以下に挙げた、分かっていそうで分からない、そんな(微妙な?)質問に答える形で、選挙戦の様相をお伝えしたいと思う。
 (なお、上記質問に答える形で進めるため、以下では口語体(丁寧語)で記載を進める。非常に感覚的な問題であって、特に深い意味はない…)
一 問1―現職の仲井真知事に投票する人っているの?
 まず、端的に、多くの経済団体が、仲井真氏を支持しています。
 沖縄県内には、主要一二経済団体と呼ばれる団体がありますが、一〇月二四日の時点で、このうち九団体が、仲井真氏支持を表明しています。
 ではなぜ、仲井真氏支持なのでしょうか?
 仲井真氏は、「なかいまビジョン」や「沖縄二一世紀ビジョン」等を掲げ、自身が当選した際に実施する政策を、具体的に列挙しています。
 沖縄県に住む方々の中には、「基地は無くならない。だったら、基地とどう『共存』していくのかを考えるべきだ。」と考える方が、少なくありません。
 そのような、諦め、虚無感、あるいは(絶対的権力を背景とした)「現実主義」の中で、仲井真氏が掲げる「ビジョン」が、現実的だと考え、それに思いを託す人が一定数いるのだと思います。
 (ちなみに、「仲井真支持=基地賛成」ではないということ、沖縄はそんな単純な図式では語れないということだけは、しっかりと抑えてください。
 しかしながら、同時に、「仲井真支持が結果的に基地賛成につながってしまう」ということも、しっかりと抑えてください。)
 なお、翁長氏も、「基地反対」だけではなく、具体的な政策を掲げています。興味がある方は、「翁長雄志 オフィシャルWEB」で検索してみてください。
二 問2―「撤回」を明確に掲げる喜納さんの方がいいんじゃないの?
 喜納氏は、辺野古埋立承認「撤回」を公約として掲げます。
 これは、現職の仲井真知事が公約違反をしたという経験と、仲井真氏と同じ、いわゆる「保守」出身の翁長氏に対する強い警戒心から出たものであり、一定の説得力があります。
 しかし、辺野古埋立承認の「撤回」は、基地反対の唯一の方策ではありません。
 また、「撤回」をするにしても、「取消」をするにしても、既に進められている基地建設を止めるには、前提として、法的な検討を始めとする、種々の詳細かつ慎重な検討が必要不可欠であります。そして、その検討を経て、基地建設に抗う一番有効な策が出されるべきであって、当選を前にして「撤回」のみが唯一の手段であるかのように述べることには、にわかには同意しがたいのです(なお、私個人は、辺野古埋立承認には、法的な瑕疵があるため、「取消」されるべきだと思っています)。
 この点、翁長氏は、公約の中で「あらゆる手法を駆使して、辺野古に新基地はつくらせない」と述べながら、「承認に法的な瑕疵があれば取り消し、瑕疵がない場合は撤回という方法がある。『あらゆる手法』の中に入っている」と述べます。
 「保守」出身の翁長氏に、一抹の不安を覚えるのは、仲井真氏に裏切られた経験があるだけに、むしろ自然な反応だと思います。
 しかし、だからこそ、選挙という「点」ではなく、選挙前後という「線」で、現実的な政策を掲げられているか、そして実行できるのかを吟味しなければならないと思います。
三 問3―私に何ができるの?
 読者の中には、「私には沖縄県知事選の投票権が無いから、何もできないのではないか」と思われる方がいらっしゃると思います。
 しかし、私にも沖縄県知事選の投票権はありません(日本国籍ではないからです)。
 しかしながら、今回の沖縄県知事選は、東アジアにおける「真の民主主義」獲得の出発点として非常に重要な選挙であると考えるため、すなわち「自分の問題」であると考えるため、団通信に投稿し、応援を呼びかけています。
 「私にできること」の、簡単かつ有効な方法であれば、カンパがあります。また、皆様の講演の際に沖縄県知事選のことをお話いただくことでも、沖縄にいらっしゃることでも構いません。
 それぞれがアイディアを出し合い、今回の県知事選の圧倒的勝利に向けて前進しましょう。
 日本、東アジアの「真の民主主義」は、沖縄から始まります。


大阪・泉南アスベスト国賠訴訟
最高裁も、国の責任を認める! 厚労大臣が原告らに謝罪!

大阪支部  村 松 昭 夫

一 最高裁も国を断罪
 去る一〇月九日、大阪・泉南アスベスト国賠訴訟は、最高裁第一小法廷(白木勇裁判長)において、アスベスト被害では初めて国の規制権限不行使の責任を認める原告勝訴の判決が言い渡され、最高裁前に、「勝訴」と「最高裁 国を断罪」の旗が弁護団の手で高々と掲げられました。
 判決は、一九五八(昭和三三)年には、国は石綿工場において深刻な石綿被害の発生を認識していたことや、有効に機能する局所排気装置を設置することが可能であったことなどを認定として、五八年から局所排気装置の設置が義務づけられた七一(昭和四六)年まで、国には局所排気装置の設置義務づけを怠った規制権限不行使の違法があったと判示しました。同時に、国の責任範囲も二陣高裁判決が認定した二分の一に確定し、提訴した被害者五九名の内五二名に対する損害賠償が認容されました(なお、一陣訴訟は、形式上は大阪高裁に差し戻しとなりましたが、差し戻し審において二陣訴訟の最高裁判決と同様の判断がなされることは確実です)。
 その一方で、防じんマスクの着用は石綿工場においては補助的手段であるなどとして、七二年以降に就労を開始した原告らについては、国の規制権限行使は「著しく合理性を欠くものではない」として請求を棄却しました。なお、近隣ばく露や家族ばく露の被害者や提訴時に死亡後二〇年以上経過していた被害者については、今年七月に上告不受理の決定がなされ、請求棄却が確定していました。
 今回の最高裁判決は、わが国で初めてアスベスト被害に対する国の責任を認めた最高裁判決であり、二〇〇六(平成一八)年五月の一陣訴訟の提訴以来実に八年半に及ぶ闘いを経て勝ち取られ、とりわけ、二〇一一(平成二三)年八月の一陣高裁の不当判決を乗り越えての最高裁判決である点でも、極めて重要かつ貴重な成果です。
二 重要な判断基準や原則を再確認した最高裁判決
 労働者の生命や健康をめぐっての規制権限不行使の違法に関しては、二〇〇四(平成一六)年に、筑豊じん肺訴訟最高裁判決において、労働者の生命や安全、健康を守ることを目的にして省令制定権限が委任されている場合には、行政に与えられた規制権限は、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく、適時にかつ適切に行使されるべきであり、これに反する場合には、国の規制権限不行使は「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く」との判断基準が示されていました。また、同年には、水俣病関西訴訟でも、行政の裁量権を厳しく制限し、国の規制権限不行使を認める最高裁判決が出されていました。以後、これら最高裁判決を踏まえて、トンネルじん肺訴訟などにおいても同様の判断基準に基づいて国の規制権限不行使の違法を認める判決が続き、本件でも二〇一〇年五月の一陣地裁判決が同様の判断基準で国の規制権限不行使の違法を認めていました。ところが、二〇一一年八月の本件一陣高裁判決や二〇一二年五月の建設アスベスト神奈川訴訟の横浜地裁判決は、最高裁判決の上記判断基準を採用せずに、国に広範な裁量権を認めて原告らの請求を退ける判断を出すなど、国の規制権限不行使の判断基準をめぐってはまさにせめぎ合いの状況となっていました。今回の最高裁判決は、こうした状況下で、筑豊じん肺訴訟最高裁判決の判断基準を再確認したものであり、逆流的動きに対して最高裁として決着を付けたものと言えます。さらに、一陣高裁が、「規制を厳しくすれば産業社会の発展を著しく阻害しかねない」などとして、生命や健康と産業発展を同一の天秤にかけ、産業発展のためには生命、健康が犠牲になってもやむを得ないと判示していたことに対しても、四大公害訴訟以後の闘いによって確立されてきた人命尊重の原則、すなわち、「国民の生命や健康を、経済発展の犠牲にしてはならない」という原則を再確認したことも、当然とは言え重要な成果です。
三 八年半に及ぶ死力を尽くした闘い
 泉南アスベスト国賠訴訟は、二〇一〇年五月の一陣地裁判決で勝訴しましたが、二〇一一年八月の一陣高裁判決で全面敗訴の不当判決を受け、まさに崖っぷちに追い込まれました。そのなかで、泉南アスベストの重大な被害を繰り返し訴え続け、一陣高裁判決の不当性、誤りを事実認定でも法的側面でも徹底的に暴き、多くの法曹関係者や世論がこの闘いを支持しました。何よりも、一陣訴訟の上告にあたって、短期間に一〇〇〇名を越える弁護士が上告代理人に就任したことは、原告団や弁護団が励まされたことはもちろん、最高裁に対しても大きなアピールになったことは確実です。そうしたなかで、二〇一二年三月の二陣地裁判決、そして、二〇一三年一二月の二陣高裁判決と勝利し、今回の最高裁判決が勝ち取られたものです。今回の最高裁判決は、不十分性はありながらも、まさに八年半に及ぶ死力を尽くした国との攻防によって勝ち取られた点でも重みのある判決です。
三 厚労大臣も原告らに謝罪
 この八年半の間に、提訴時に生存していた原告の内すでに一四名が亡くなり、生存している原告らのなかでも、寝たきりの生活を余儀なくされている原告や酸素ボンベを手放すことができなくなっている原告も多数に上り、「いのちある内に解決を」は原告らの待ったなしの切実な願いとなっています。
 判決当日には、原告らは、(1)真摯な謝罪、(2)最高裁判決を基準にした一陣、二陣の一括解決、(3)泉南アスベストの最終解決に向けた協議の三項目の解決要求を国に突きつけ、与党のアスベストPTのメンバーも厚労大臣に面談して政治決断による早期解決を求め、野党七党の有志議員も同様の申し入れを行いました。また、一〇月一五日から一七日には、国会においても、与野党五党の国会議員一一名が、衆議院、参議院の厚労、法務、内閣、環境、経済産業などの各委員会で、こぞって早期解決の政治決断を内閣に迫りました。判決後のマスコミ報道においても、大手各紙はもちろん、全国で約二〇の地方紙も、「一日も早い解決を」の社説等を掲げるなど、早期解決の世論が広範に巻き起こっています。
 塩崎厚労大臣は、記者会見や国会答弁では、「判決を重く受け止める」、「国が敗訴した原告らには申し訳なく思う」、「早期解決の思いは共通である」などと言いながら、その一方では、一陣訴訟が差し戻しになったことや他のアスベスト訴訟への影響などを理由にして、原告らへの直接の謝罪や早期解決の政治決断も行っていませんでした。しかし、国会内外での広範な世論を背景にした原告らの要請を受けて、一〇月二七日に原告らに面談して謝罪し、一日も早い解決への努力と訴訟未提訴の被害者に対しても司法救済で解決する意向を表明しました。本件では、国の長期に亘る怠慢によって多くの人命が失われており、国の責任は極めて重いものがあります。国には、引き続き、泉南アスベストの全面解決に向けて最高裁判決を真摯に受け止めた誠実な対応が求められています。原告団と弁護団は、引き続き全面解決まで闘い続ける決意です。
四 国際的にも注目されている最高裁判決
 今回の最高裁判決は、全国六カ所で闘われている建設アスベスト訴訟をはじめとするアスベスト訴訟の勝利に道を切り拓くと同時に、国には、法的責任はないとした従来のアスベスト対策の検証結果の再検討や、法的責任がないことを前提とした被害者救済制度の見直しを迫るものです。
 また、世界最大のアスベスト被害を発生させたエタニット社の旧経営者に対する刑事事件のイタリア最高裁判決が今年一一月に予定されており、今回の最高裁判決は、イタリア最高裁判決とともに国際的にも大きな注目を集めています。
 全国の団員の皆さんからのご支援に心からお礼申し上げると共に、とりあえずの最高裁勝利の報告とさせていただきます。


平和への権利と集団的自衛権

東京支部  笹 本   潤

 現在、国連人権理事会で審議されている「平和への権利・国連宣言」は新たな局面に入っている。二〇〇八年以来国連人権理事会では、平和への権利を国際法典化しようという決議がラテンアメリカ、アジア、アフリカ諸国などの多数で採択されてきている。一方、アメリカやEU諸国、日本、韓国はこれに反対するという状態が続いている。
 「国連宣言」は国連総会決議ではあるが政治的宣言に近く法的拘束力の弱いものである。しかし、世界人権宣言のようにその後自由権規約、社会権規約と国際条約化していくことまで射程に入れて考えれば、将来的には武力の行使に一定の縛りをかけるものと捉えられている。国際人権となれば、人権理事会で各国政府に報告義務が生じ、定期審査(UPR)の対象になり、他国の政府やNGOも、平和への権利の侵害するような武力の行使に意見を言えるようになる。そのため、アメリカやEU諸国などの先進国は、一貫して反対していると思われる。また、安保理の常任理事国は、拒否権により国際平和に関する大きな権限を持っている現在の国連体制を崩されたくないというのも反対の動機と思われる。
 二〇一四年現在の人権理事会での審議は、内容についてはコンセンサス方式で審議が進められている。コンセンサス方式は、投票にはかけないが全員一致を目指す表決方式なので、反対国も同意するような妥協的な宣言案にしかならないので、目指すべき平和への権利の内容がなかなか取り込まれないという問題がある。しかし、逆に多数決に持ち込むと、成立後に反対国に対する決議の拘束力がなくなってしまう(国際刑事裁判所におけるアメリカなど)、という本来の平和への権利のねらいが失われるという問題が生じる。国連における審議方式はこのように非常に悩ましい問題である。
 ところで、平和への権利を日本の集団的自衛権の問題に引き直していうと、平和への権利、あるいは日本の平和的生存権の役割を、集団的自衛権の議論にもっと活用できないだろうか。日本における平和的生存権は、裁判では、敵に攻撃されない権利、戦争に巻き込まれない権利、戦争行為の加担を強制されない権利などの形で、長沼訴訟、イラク訴訟などで主張されてきたはずである。国連の場でも日本のNGOはそのように主張してきた。
 集団的自衛権の行使は、まさしくこのような平和的生存権を侵害する。アメリカに対する武力攻撃により日本もアメリカの戦争行為に巻き込まれる危険は増大し、他方、自衛の概念を拡大させている現在の現在の国際状況からすれば (イスラム国へのアメリカの攻撃も「自衛」とされている)、「加害行為たる戦争行為への加担が強制される」おそれもあるのである。訴訟にするかどうかとは別に、このようなことは政治の場でもっと主張されていいのではないだろうか。平和的生存権や平和への権利は、平和の問題を政府のレベルから一人一人の個人の問題に引き直したところに意義がある。そのことをもう一度思い起こしてはどうか。国連人権理事会での議論は、そのような議論が展開されているから、なおさらそう思う。
 再び、国連の議論に戻ると、アメリカやNATO諸国、日本、韓国が平和への権利に反対するのは、このような集団的自衛権を基礎にした軍事同盟体制に制限をかけられたくないから、とも言える。あるEUの反対国が、国連憲章の自衛権の行使の際に平和への権利が制限になるべきではない、という意見を言ったことがある。このことは集団的自衛権と平和への権利が対立することを示している。日本における集団的自衛権は、平和的生存権以外にも、もちろん九条にも違反するが、政府と個人の関係の問題としては、「(政府による)集団的自衛権vs(個人の)平和的生存権or平和への権利」という構図が成り立つはずである。
 この数年、私は日弁連や国際民主法律家協会(IADL)の代表として国連人権理事会に参加してきたが、「人権」理事会だからこそNGOとして参加し、意見を述べることができる。(本来は、政府は人権侵害側、市民は人権侵害の被害者側だから、市民代表であるNGOが参加できるのは当然なのであるが。)そのため、私自身もアメリカ政府代表に対して直接批判的発言をして、アメリカがそれに反論するなどの応酬ができ、NGO参加の大きな醍醐味を味わうことができた。特に若い団員にもこのような国際活動を味わってもらいたいと思う。
 なお、平和への権利の詳しい情報は、日本国際法律家協会の機関誌interjurist や平和への権利のウエッブサイトに詳しい。また、平和への権利国際キャンペーン日本実行委員会の『いまこそ知りたい平和への権利48のQ&A』(合同出版)も出版されたばかりなので、そちらもご覧いただきたい。


「労働法制改悪」に反対する取り組みのご報告

東京支部  白 神 優 理 子

 安倍政権下で進められる「労働法制改悪」の動きに対しての取り組みをご報告させていただきます。ご参考にしていただけたら嬉しいです。
一 講師活動
 まず、事務所として「労働法制改悪」についての学習講師活動を盛んに取り組んでいます。地域の労働組合・地域の青年労働者・大学など様々な場所で講師活動を行っています。
 講師活動の際には、必ず団のリーフレット(STOP!アベノ雇用破壊リーフレット)を配布しこれを活用しながら労働法制が改悪されたらどうなるのかについて、具体的に説明しています。労働弁護団の同期メンバーで取り組んだ「イリーガルハイ」という労働法制改悪についての寸劇の内容なども(演劇混じりで)紹介すると、皆さん声を上げて改悪の中身に驚き、腹を立ててくれます。また、事務所で取り組んでいる「過労死事件」について解説をすると涙を流してくださいます。
 講師活動において意識していることは、(1)上記「改悪の中身の具体性」(わかりやすさ)と、(2)改悪の原因・狙い、(3)展望を伝えることです。
 現在、非正規雇用・不安定雇用が更に増加することによって、一部の大企業が多額の内部留保を蓄積していることを具体的な数字で説明し、(1)により更に蓄積を増すことが(2)狙いの一つであることを伝え、一方で(3)労働者派遣法が廃案になるなど運動の成果があることを訴え、元気になる学習会を心がけています。
二 地域の組合まわり
 事務所としてこの半年で三回ほど、地域の組合事務所回りを行いました。地域労連や産別の役員と共に各組合事務所を訪問し、全体で二〇件ほどの組合事務所に団のリーフレットや集団的自衛権についてのリーフレットを配布・説明し、署名や学習会開催を呼びかけました。
 実際に働く現場を知ることができましたし、組合の闘いの歴史・現在の悩みや課題などを交流することができ大変勉強になりました。
 「ここまで組合で頑張って来られたのは、学習したから。憲法を学ぶことで、組合の要求は正しいということ、組合の存在もまた憲法で保障された正しいものであることを知り、確信が持てた。」という組合役員の方のお話が印象的でした。
 今後、労働法関連の学習会をする際には、もっと憲法についても触れたいと思いました。
三 組合による街頭宣伝活動への参加
 地域の労働組合が毎月街頭宣伝をしているため、事務所のメンバーが必ずこれに参加するようにしています。ここでも団のリーフレットを配布しており、弁護士が毎回マイクを握って訴えるようにしています。
四 相談会
 街頭宣伝や学習会と共に事務所の弁護士や地方議員による相談会も何度か開催しました。青年から切実な労働相談も寄せられました。
五 ニコニコ生放送に出演、女性のひろば「ブラックバイト特集」、 寸劇出演
 私個人の取り組みとしては、ブラックバイトの問題でインターネットの生放送に出演したり、雑誌で「ブラックバイト」について記事を投稿したり、労働法制改悪反対の寸劇「イリーガルハイ」に出演するなどの取り組みを行いました。
 労働法制改悪の問題に当事者として不安を抱く若者に対して、同じ「若者」として問題提起をしつつ、元気になってもらう情報を提供できるように、これからも頑張りたいと思っています。
六 集団的自衛権の学習会の機会に労働法制改悪問題も訴え
 最後に、私は弁護士になってから毎月数回ほどの講師活動を行ってきました。その八割が「集団的自衛権」をテーマとしていますが、必ず団のリーフレットを配布し、「労働法制改悪」の問題についても一言訴えさせてもらっています。
 安倍政権が、一部企業の儲けを優先し、若者の命を使い捨てにしようとしている点で、両者の問題は本質的には同じだと思うからです。また、労働条件が悪くなることで自衛隊募集に応じる若者が増える危険性もあると思います。
 根本原因を指摘することで、「国会での力関係を変える必要がある」という意識を共有したいと考えています。
七 最後に
 働くことは本来、「自己実現」であり「喜び」であると思います。そのために、これまで先輩方が作り上げてきた「働くルール」を壊させてはならないと強く決意しています。引き続き、アイデアを出し合い、様々な取り組みに励んでいきたいと思っています。


「Q&A心神喪失者等医療観察法解説 第二版」のご紹介

北海道支部  加 藤 丈 晴

 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律」(以下、「医療観察法」という。)が、二〇〇五年七月一五日に施行されて、九年が経過した。
 医療観察法は、心神喪失または心神耗弱の状態で重大な他害行為(殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害の六罪種を指す)を行った者に対して、それらの行為を行った際の精神障害を改善するために、医療観察法による医療を受けさせて、その社会復帰を促進することを目的として、強制処遇としての入院医療及び保護観察所の観察下での通院医療を受けさせるという法律である。
 この法律が、二〇〇一年六月に発生した「池田小事件」をきっかけに制定されることになったこと、さらにこの法律の政府原案が、「再び対象行為を行うおそれ」を強制的な処遇の要件としていたことから、日弁連は、実質的には保安処分に異ならないとして、この法律の制定に反対した。国会での審議の経過において、この要件は削除されることになり、医療観察法は、対象者の社会復帰を目的とした、「医療と福祉の法」として成立することになったのである。
 医療観察法の施行後、弁護士は、対象者の付添人として、単なる対象行為の有無という事実認定における手続保障のみならず、対象者が不当に自由を制限され、意に沿わない医療を受けさせられることのないよう、環境調整を行うなど、最善の付添人活動を行うべく努力してきた。このような活動が、医療観察法を、「医療と福祉の法」として運用させ、保安処分化の歯止めの一助になっていると評価できよう。
 「Q&A心神喪失者等医療観察法解説」(以下、「本書」という。)は、医療観察法の施行当初から、全国の付添人から申立事例を収集して分析を行い、医療観察法が抱える問題点や日弁連として今後取り組むべき課題について検証してきた日弁連刑事法制委員会医療観察法対策部会の編集によるもので、必ずしも精神医療や福祉の専門家でない弁護士に対し、必要な知識を提供するとともに、付添人として、具体的にどのような活動をすればよいのか、その指針を示すことを目的に執筆されたものである。
 本書の第一版は、医療観察法の施行直後である二〇〇五年一二月に刊行されたが、執筆は法施行前であり、現場での運用などについての記述は、あくまで想定に基づいたものであった。そこで法施行から間もなく一〇年を迎えようとするにあたって、これまでの付添人活動の成果を集約し、実務で問題になっている点をふまえて、内容を大幅に加筆、改訂したものが本書の第二版である。
 医療観察法について書かれた本はいくつか出版されているが、付添人活動に焦点をあてて執筆された本は、本書以外にないものと思われる。本書第二版の執筆者の一人として、本書が団員諸氏の付添人活動の一助となり、対象者の人権擁護が図られることを祈念して、本書をご紹介する次第である。
三省堂「Q&A心神喪失者等医療観察法解説 第二版」
日弁連刑事法制委員会編
二〇一四年八月刊 定価三五〇〇円(税別)