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  *常任幹事会声明・一一月二一日発表*
衆議院の解散にあたり全国の団員に訴える
佐藤 真理 自由法曹団京都支部編 『自由にできる選挙活動』の活用を
―選挙期間中も、労組・民主団体の拡声器使用は自由!―
白    充 知事選勝利報告
―闘いはこれから―
井上 正信 ギャンブラーの賭け金になることを拒否した沖縄
馬奈木 厳太郎 専門家証人が採用される!いよいよ立証段階へ!
〜「生業を返せ、地域を返せ!」
福島原発訴訟第九回期日の報告
芦葉  甫 六六期給費制廃止違憲訴訟提訴の報告
後藤 富士子 筆跡鑑定と裁判官
―お寒い司法インフラ



*常任幹事会声明・一一月二一日発表*
衆議院の解散にあたり全国の団員に訴える

一 大義のない解散・総選挙
 安倍首相は、一一月一八日、衆議院の解散を表明した。今回の解散・総選挙は、アベノミクスの失敗や政治とカネの問題から国民の目をそらし、支持率が下がらず、かつ、野党の選挙準備が整わないうちに、総選挙を行って再び過半数を獲得しようという姑息・卑劣な策略である。長期政権を狙う安倍首相の私利私欲、与党(自民公明)の党利党略による総選挙といわざるをえず、解散の大義は全くない。
二 安倍政権を解散・総選挙に追い込んだのは世論と運動の力
 安倍政権が、このタイミングで、解散・総選挙による「リセット」を選択せざるを得なくなったのは、生活保護基準の切り下げ、消費増税、秘密保護法強行、集団的自衛権行使容認の閣議決定、原発再稼働、沖縄新基地建設等々、憲法と広汎な民意を無視した強権的な政権運営に対する国民の怒りと批判が大きく広がったからにほかならない。一一月一六日の沖縄県知事選挙では、辺野古新基地建設に反対する翁長雄志氏が圧勝し、新基地建設を強引に進めようとする安倍政権への抗議の県民意思が明確に示された。それに続く今回の解散・総選挙は、憲法違反、民意無視の安倍政権を退場させる絶好のチャンスととらえるべきである。
三 問われるべきは安倍政権による憲法無視の暴走政治
 政権側は、今回の総選挙の争点が消費税再増税延期の是非の点にあるかのように宣伝している。しかし、消費税再増税には、国民の七〜八割が反対しているのであって、その延期の是非は争点にならない。
 今、ここで問われるべきは、これまで安倍政権が行ってきた、日本を「戦争する国」につくりかえる「戦後レジームからの脱却」路線の是非である。平和憲法と民主主義を擁護し、一層の発展を可能とするか否かの重大な選挙である。
 安倍政権は、選挙に勝って、来年以降、海外での武力行使を解禁する安全保障法制整備、労働者を犠牲にして企業に稼がせる雇用改革、格差と貧困を広げる社会保障切り捨て、カジノ法案等の「成長戦略」、原発再稼働、沖縄新基地建設等をさらに無理押しすることを目論んでいる。しかし、そのようなことを絶対に許すわけにはいかない。憲法と民意を無視する安倍政権の暴走に対して、民衆による「ノー」の審判が下されることが切望される。
四 憲法を守り生かす取り組みに全力を尽くす
 自由法曹団は、今回の総選挙に際して、日本国憲法を守り生かす勢力が大きく伸長することを強く望むものである。私たちは、国政をめぐって政治的論議が活発に交わされるこの機会に、安倍政権打倒の世論の結集に向けて、街頭宣伝、集会を通じて平和憲法・国民主権・民主主義の擁護のために旺盛に活動することを心から全国の団員に訴えるものである。
 常任幹事会は、憲法を守り生かす取り組みに全力を尽くす決意である。
 二〇一四年一一月一九日

自由法曹団 常任幹事会


自由法曹団京都支部編 『自由にできる選挙活動』の活用を
―選挙期間中も、労組・民主団体の拡声器使用は自由!―

奈良支部  佐 藤 真 理

 自由法曹団京都支部は、長年にわたり、各種選挙に際し、市民の旺盛な選挙活動を支え、弾圧を許さないために、「法律家選挙対策本部」を設置して奮闘してこられました。これらの実践の上に、一九八三年に『自由にできる選挙活動』を出版し、一九九八年、二〇〇八年と版を重ね、改訂第四版が本年十月一五日に発刊されました。
 本書は、現実の激しい選挙戦の中で、自由法曹団京都支部の中堅、若手が英知を結集して、自由な選挙活動を切り開くという実践を積み重ねてこられた闘いの結晶であり、全団員にとって、必読の文献であると確信します。
 選挙制度は、国民の政治参加のための最も基本的な制度であり、国民主権のもと、国民が主体的・能動的に選挙に参加することを保障しなければならないはずです。
 ところが、公職選挙法(以下「公選法」)は、「選挙運動は候補者やその運動員だけで行うもの」として、国民が自主的・自発的に選挙に関わることを制限し、国民の政治参加を押しとどめる役割を果たして来ました。旧憲法下の一九二五年、普通選挙法が成立した際、戸別訪問や文書活動の禁止等、現在の公選法の規制の原型が定められたのです。同年成立の治安維持法とセットであり、本質的に国民の自由な活動を弾圧する法規としての性格を持っていました。
 従って、国民主権と言論表現の自由を保障する日本国憲法の成立により、かかる規制は廃止され、選挙運動は全面的に自由化されねばならなかったはずですが、一九五〇年制定の公選法は、普通選挙法の選挙運動の取締規制をより強固な形で受け継いだのです。そればかりか、各種選挙で革新陣営が伸張するたびに、改悪され、規制が強化されてきました。
 このように、公選法は、その出自とその改悪経過自体が日本国憲法とは相容れないものです。
 この稀代の悪法のもとで、政治に積極的に参加しようとする多くの国民がいわれなき干渉と弾圧を受けてきました。公選法のもとでの選挙活動で、何が禁止され、どこまで許されているのか、正確に答えられる国民はほとんどいないのが実情です。
 本書は、六つの章からなっていますが、告示(公示)後にも労働組合・市民団体・個人ができる活動のごく一部を次に紹介します。
(一)街頭でできる政治活動・要求活動
 「公選法の改悪により、『政党その他の政治活動を行う団体』が選挙期間中、拡声機を使用して政策の普及宣伝をすることなどが禁止されたが、労働組合・市民団体・個人は、選挙運動(投票依頼および投票とりまとめの運動)にわたらない限り、自由に街頭活動ができる。団体独自の要求を宣伝できるのはもちろん、自らの要求と結びついた政治的課題――例えば医療改悪に反対する、集団的自衛権に反対するという内容のもの――について、宣伝カーを出し、街頭で拡声器で訴えることは問題とされない。」
 なお、田中隆団員は「首都東京に於いても、反原発の官邸前行動や風営法の『ダンス規制』反対の運動が総選挙(二〇一二年)や都知事選(二〇一二年、二〇一四年)の選挙運動期間中も続けられたが、警視庁の干渉はなかった」と報告されています。
(二)労組・市民団体主催の集会等
 「労働組合が選挙期間中に、(1)「春闘勝利、民主市政実現」と銘打って組合員の決起集会を開くことは可能か、(2)この集会に確認団体役員が来て候補者への支持を訴えることはどうか。(3)この集会の開催を組合機関紙にて組合員に告知することはできるか。
 (1)〜(3)いずれも可。(1)の集会はそれのみでは選挙運動のための集会ではない。組合員のみが集まるのであれば内部集会とも言える。(2)は幕間演説として許される。確認団体役員でなく候補者個人が訴えるのでも可能。(3)も全く問題がない。」
(三)ポスター等
 「 労働組合・市民団体は『オール与党政治はごめんです』とのポスターを貼ることができるか。
  可。労働組合や市民団体などが、政治活動用ポスターを掲示することは自由にできる。この内容は一般的政治スローガンであって、選挙運動のためのものではないから問題がない。」
四 本書では、判例の動向も正確に分析されており、近年の立川自衛隊官舎ビラ配布事件、葛飾ビラ配布事件、堀越事件、宇治橋事件、大石事件などの闘いの到達点を報告し、今後の闘いの方向性も示されています。
 安倍内閣の「壊憲」暴走政治による「戦争する国」作りを許すのか否か――文字通りの歴史的選挙戦が今月二日から始まります。
 本書を活用して、旺盛な選挙活動に取り組み、歴史的勝利を目指して奮闘しましょう。
※ 自由法曹団京都支部編『自由にできる選挙活動』

(かもがわ出版 一九〇〇円+悪税)


知事選勝利報告
―闘いはこれから―

沖縄支部  白     充

一 はじめに
「勝って兜の緒を締めよ」
 これほど、この言葉が当てはまる選挙があっただろうか。
ご存知のとおり、去る一一月一六日に行われた沖縄県知事選挙では、翁長氏が現職の仲井真氏に約十万票の差を付けて勝利した。大差と言って良いだろう。
 得票数は以下のとおりである。
当 翁長 雄志 三六万〇八二〇票
  仲井真弘多 二六万一〇七六票
  下地 幹郎  六万九四四七票
  喜納 昌吉    七八二一票
 全国の団員の皆様からも、カンパや寄せ書き、応援メッセージ等を多くいただいた。全国の団員の、そして全国の良識ある方々の想いが、今回の選挙結果につながったのだと思う。
 しかし、個人的には、勝利の嬉しさよりも、緊張感の方が大きかった。そして、この緊張感は、「的中」した。
 沖縄防衛局は、知事選二日後の一八日に、辺野古新基地建設工事を再開したのである。
二 自ら消したことのない「灯」
 県民は、「基地反対の灯」を自ら消したことはない。
 現職の仲井真知事は、四年前、「辺野古県外移設」を公約に掲げ、当選した。
 今年の一月には、辺野古新基地建設反対を掲げる現職の稲嶺名護市長が当選した。
 そして、今回の県知事選でも、辺野古新基地建設反対を掲げる翁長候補が当選した。
 そう、県民は「基地反対の灯」を自ら消したことはない。むしろ、基地問題が重要争点となる選挙では常に、その「灯」をつけ続けてきた。しかし、その「灯」は、戦後何十年もの間、為政者によって消されそうになってきたのが沖縄なのである。
 見方を変えれば、今回も、いつ、どのようにして為政者がこの「灯」を消しにかかってくるか、そして、翁長氏を「火消し側」に招き、あるいは同氏に対し圧力を加えてくるか、分からない。
 知事選で民意が示されて一週間も経たない間に、辺野古新基地建設工事を進めるという権力側の態度からも、今回の選挙で喜んでばかりいられないということが分かっていただけるだろう。
「市民は選挙時に民意を示し、権力は選挙後も圧力を加える」という歴史が、今まさに繰り返されようとしているのである。
三 闘いはこれからである
 ではどうするべきか。
 答えはいくつもあり得るが、それは他方で、答えがないという意味でもある。
 「沖縄県民がつけた灯を消さないためには、どうすれば良いか」
 皆様も、この問いについて真摯に考えてみて頂きたい。
 そうすれば、知事選勝利がゴールではなく、むしろスタートであることを分かっていただけると思う。
 知事選は勝利した。
 しかし、戦(闘い)はまさに、これからである。
 「勝って兜の緒を締めよ」
 今回の知事選で勝利したときように、引き続き全国の皆様と手を取り合って、立ちはだかる難題を一つずつ解決したい。


ギャンブラーの賭け金になることを拒否した沖縄

広島支部  井 上 正 信

 沖縄県知事選挙は翁長雄志氏が一〇万票の大差をつけて圧勝しました。普天間基地を辺野古崎に移設することに反対したオール沖縄の勝利です。日米同盟の「抑止力」強化の象徴が普天間基地の辺野古崎への移設でした。それを明確に拒否した沖縄の選択は、私達全体に共通する問題だと思います。
 普天間基地移設は、元々は九五年に発生した海兵隊員による少女暴行事件で、沖縄県民の米軍基地への怒りが沸騰し、全国の世論調査でも安保条約に反対する意見が過半数に達し、このことが当時すすめられていた安保再定義(日米同盟強化)の大きな障害になったことから、沖縄の負担軽減という名目で持ち出されたものでした。しかし県内移設という条件がついたことから迷走を始めたのです。
 その後ブッシュ政権になり、テロとの戦争という新しい米軍戦略に併せて日米同盟の強化が図られます。日米防衛政策見直し協議(米軍再編協議とも称される)です。すると今度は普天間基地移設は、アジア太平洋でグアムを米軍の拠点として強化するという政策に位置づけられました。普天間移設を海兵隊部隊のグアム移転と結びつけられました(パッケージ論)。
 ところがオバマ政権になり、大幅な国防費削減の中でアジア回帰(リバランス)という軍事戦略をすすめる上で、海兵隊のグアム移転と普天間基地移設を結びつけていることが逆にアジア太平洋での米軍再編を阻害することになりました。そこで登場したのが米軍再編見直しです。(以上は二〇一二年二月一五日アップした「米軍再編の見直し協議」をお読み下さい)
 この様に普天間基地移設問題は、米軍事戦略の中で位置づけを変えられながら、普天間基地の辺野古崎移設だけは一貫して目指されてきたのです。パッケージ論が破綻したのは、沖縄県民の長年にわたる粘り強い反対運動の力です。現在では普天間基地の辺野古崎移設は、アジア太平洋での米軍再編にとり不可欠なことではないと思います。むしろ日本政府側が、「抑止力」神話に取り憑かれて、海兵隊の沖縄駐留に固執し、使い勝手のよい新品の基地を提供するので、海兵隊の駐留を続けてくれと米国へ頼んでいるようなものです。 米軍再編見直しを合意した二〇一二年四月二七日の2+2共同発表文に次の一節があります。「(米軍再編見直しが)アジア太平洋地域において、地理的により分散し、運用面でより抗堪性があり、政治的に持続可能な米軍の態勢を実現するために必要であることを確認した。」。
 この一節の意味は、沖縄の米軍基地は中国に近すぎて、且つ沖縄に密集しているので、不測の事態では中国軍の攻撃に脆弱であるということです。だから米軍再編見直しでは、在沖米海兵隊の実戦部隊第四海兵連隊をグアムに移転し、ハワイ、オーストラリアとローテーション配備するというのです。米軍再編合意では、在沖縄海兵隊の司令部要員をグアムへ移転するはずでした。「抑止力」が低下するので実戦部隊を残さなければならないという理屈だったはずです。実戦部隊をグアムへ移設するというだけで、普天間基地の辺野古崎移設の根拠はなくなるはずです。沖縄に残される実戦部隊は第31MEU(海兵遠征部隊)だけです。二〇〇〇人規模ですが、佐世保の強襲揚陸艦に乗艦して運用される部隊です。MEUは、大隊上陸チーム、ヘリコプター飛行隊、戦務支援群で構成され、戦闘部隊は大隊上陸チームで、およそ六〇〇ないし八〇〇名の兵員と思われます。戦闘部隊としては小さいものです。しかもこの部隊は一年の内大半は海外での任務(共同訓練や能力構築支援など)に就いています。ですから、第31MEUが沖縄に駐留していても、抑止力にはならないはずです。普天間基地の移設が日米同盟の「抑止力」維持に必要ということは騙しの手口です。
 通常弾頭の弾道ミサイル数発で壊滅するような基地を、沖縄県民を苦しめ抜き、一兆円とも言われる膨大な国費をつぎ込んで造る価値がどこにあるのかということを述べるのが目的ではありません。米中間の本格的な軍事紛争となれば、真っ先に犠牲になるのが沖縄県民なのです。それを「抑止力」と称してごまかしているのが安倍晋三なのです。
 「抑止力」とは、もし相手国側がわが方を攻撃すれば、相手国に対して耐えがたい惨害を与えるという軍事態勢をとることで、相手国は攻撃を控えるという力です。「抑止」が効くためには、不測の事態で軍事力を使う意思と能力が必要です。「抑止」はきわめて主観的な概念ですから、本当に「抑止力」が効いているか客観的、定量的には測ることが出来ません。「抑止」が成り立つ前提には、互いに相手の能力(軍事力)と意図(軍事戦略)が正確にわかること、相手も自分と同じように理性的に判断するとお互いに信頼できることという二つの条件が最低でも必要です。互いの国内でナショナリズムという非合理的な感情が高まり、政府がコントロールできなくなると、「抑止」は破れるでしょう。歴史問題を抱える日中間ではそのリスクは高いものがあります。
 「抑止力」は平和と安定を維持する仕掛けとしてはきわめて脆弱です。武力紛争がないから「抑止力」が効いていると感じているに過ぎないかも知れません。「抑止」は破れやすいと言えます。基盤の脆弱な「抑止力」に国の平和と安全をゆだねるのは、博打のようなものです。
 互いの国が相手に対して「抑止力」を働かしているという状態は、互いに相手国に対して耐えがたい惨害を与えるぞと威嚇している構図です。言い換えれば、互いの国民を人質に取る軍事政策です。「抑止」が破れたときは、国民が犠牲になるのです。つまり「抑止力」とは、それをもてあそぶ安倍晋三という政治家の博打に、私達の平和と安全、生命財産を賭け金として預けることに等しいことです。「抑止力」を発揮しようとする決定的な段階では、秘密保護法で私達にはその本当の理由は秘密にされるでしょう。私達の置かれた立場と沖縄県民が置かれた立場は基本的には変わらないのです。私は安倍晋三にだけは自分と家族の安全を絶対にゆだねたくありません。
 解散になった臨時国会へカジノ法案が議員提案されました。その母体は「国際観光産業振興議員連盟」です。安倍晋三は麻生太郎と並んで最高顧問です。さすがに法案が提出されたことで安倍晋三は最高顧問を辞したが、安倍晋三は首相として五月にシンガポールのカジノ施設を視察し、俄然積極的になりアベノミックスの第三の矢の成長戦略に組み込むつもりです。法案は衆議院解散で廃案になりましたが、次期通常国会へ提出されるでしょう。
 安倍晋三がギャンブル好きかどうかはここでは関係ありません。七・一閣議決定を貫いている安全保障政策の要は、安倍晋三の大好きな「抑止力」です。尖閣を防衛するためには、日米同盟の「抑止力」を高めなければならない、そのための集団的自衛権という理屈です。「抑止力」は破れやすく、いわば勝率の低いギャンブルのようなものです。賭け金は私達の平和と安全、生命と財産です。閣議決定は、中国の脅威に対抗し尖閣防衛のために私達を人質に差し出すことに等しいものです。さらに集団的自衛権行使と称して、米国の国益のために私達の平和と安全、生命財産を差し出すことに等しいものです。
 沖縄県民は県知事選挙でこれを拒否しました。次は私達の番です。総選挙では安倍晋三の安全保障政策にきっぱりと「NO」を突きつけなければなりません。
 この原稿はNPJ通信「憲法九条と日本の安全を考える」へ掲載されたものです。http://www.news-pj.net/news-allをご覧下さい。


専門家証人が採用される!いよいよ立証段階へ!
〜「生業を返せ、地域を返せ!」
福島原発訴訟第九回期日の報告

東京支部  馬奈木 厳太郎

一 雨にも寒さにも負けず
 一一月一八日、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の第九回期日が、福島地方裁判所において開かれました。この日の期日では、国と東電、そして原告側がそれぞれ書面を提出し、原告団県中支部に属し、家族の避難によって二重生活を経験した原告の方が、家族が離ればなれになった苦痛な体験を涙ながらに意見陳述しました。
 国の書面は、一〇〇頁を超える大部のものですが、今回の津波を予見できなかったとし、原子力委員会が定める指針や省令は、津波を含めた外部事象について原子炉施設の安全性を損なうことのないよう配慮されているから不合理ではなく、原告の求める結果を回避するための措置をとることについても、是正するための規制権限を有していなかった、シビアアクシデント対策をとることも、平成二四年の改正前には法規制の対象ではなかったと主張するものとなっています(準備書面九)。
 東電の書面は、中間指針などで定められている内容と範囲で十分で、それ以外のものについては因果関係がないとし、原告側が主張する人格権(平穏生活権)侵害についても、漠然とした不安感では足りず、科学的な知見に基づく客観的な観点から具体的な法益侵害を生じさせていなければならないと主張するものです(準備書面一二)。
 原告側の書面は、津波の予見可能性に関して法的主張を整理したもの(準備書面二五)、津波の予見可能性を根拠づける事実に関する主張を整理したもの(準備書面二六)、福島県沖の「想定しうる最大規模の地震津波」が想定から排除された経過についてまとめたもの(準備書面二七)、シビアアクシデント対策に関して国の講じた措置の実効性についてまとめたもの(準備書面二八)、いわゆる“吉田調書”の内容と非常用電源設備の「独立性」に関して主張するものです(準備書面二九)。
 期日当日は、朝まで小雨が降り、冷え込みの厳しい一日となりましたが、あぶくま法律事務所前には約二〇〇名の原告団が集まりました。また、映画『あいときぼうのまち』の脚本を担当した井上淳一さん、ラジオ福島アナウンサーの大和田新さん、元NHKキャスターの堀潤さんが前回に引き続き駆けつけたほか、中京大学の成先生、原発事故被害救済千葉県弁護団からも参加していただきました。多彩なゲストによるリレースピーチも行われ、寒さを吹き飛ばす裁判所前集会となりました。
二 四度目の正直
 この日のハイライトは、なんといっても専門家証人の採用が決まったことです。
 本年五月の第六回期日以降、原告側は、立証計画を期日ごとに提出し、専門家証人、検証及び本人尋問による立証とその内容・スケジュールなどの方針を明らかにしてきました。期日を重ねるごとに、その内容はさらに具体的なものとなり、尋問予定者の確定や検証の実施コースなども詳細なものとなりました。
 もちろん、立証計画だけではなく、責任論についても、前回期日で審理対象となった“吉田調書”が言及する一九九一年の非常用発電機の水没事故の教訓に関する書面も提出し、主張を尽くしてきました。裁判所も、「責任論について、事実の主張はこれまででほぼ出尽くしたと理解している」と発言し、主要な争点の整理と噛み合わせはなされているとの認識を示しました。また、被害論についても、原告側は被害総論だけで七つの書面をすでに提出し、東電も「二〇ミリシーベルト以下は何らの権利侵害にもあたらない」、「中間指針は相当で合理的な内容を定めたもの」などといった主張をこれまでに明らかにし、この点についても争点は具体的になっている状況でした。
 そうした立証段階に到達していることをふまえ、裁判所は、次回期日から専門家証人の尋問に入ることを決断しました。
 「専門家を証人採用」、「専門家三人証人尋問へ」、「次回に証人尋問」――一一月一九日付の各紙は、このような見出しで専門家証人の採用を伝えるとともに、「専門家の証人尋問は原発事故による被害救済を求める裁判では初めて」、「原発事故をめぐり国や東電に損害賠償を求めた訴訟で証人採用は全国初」とその意義を伝えました。
 次回期日には、原子炉技術・規制関係、放射性物質による汚染状況、放射線被ばくによる不安感・恐怖感などに関して、三名の専門家証人の主尋問が実施されます。
三 新たなステージに入った生業訴訟
 安倍首相が解散を表明したまさにその日に、生業訴訟は主張段階から立証段階へと大きな一歩を踏み出すこととなりました。
 専門家証人の尋問の後には、検証、そしていよいよ原告本人尋問といった流れとなります。また、上京しての要請や全国の原発立地自治体への再稼働反対のためのキャラバンなど、福島からの情報発信もますます重要になってきており、法廷外の取り組みという点でも、さらに大きな動きを作っていくことが求められています。
 福島で三〇年以上にわたってラジオのアナウンサーを務めてきた大和田新さんが、「誰も責任をとらない。誰も謝らないというこの原発事故の不条理に風穴を開けるのが、この生業訴訟だと思っています」と力強くエールを送っていましたが、その風穴を開けるためにも、来年はいよいよ正念場を迎えることになります。みなさまの引き続くご支援を心からお願い申し上げます。


六六期給費制廃止違憲訴訟提訴の報告

三重支部  芦 葉   甫

一 はじめに
 六六期給費制廃止違憲訴訟の全国原告団長を務めております、芦葉甫と申します。既にご承知かと存じますが、六六期給費制廃止違憲訴訟の原告団を代表して、私から提訴のご報告等をさせていただきます。
二 六六期給費制廃止違憲訴訟の概要
(1)  提訴地

 六六期訴訟の提訴地は、東京、熊本、札幌の三か所です。東京は、平成二六年度司法試験合格発表日に合わせて、平成二六年九月九日に提訴致しました。その後、熊本は同年一〇月二一日、札幌は同月二二日に提訴しました。
(2) 原告数、訴訟団の概要
ア 全体

 六六期における全原告団は、合計一六五名(平成二六年一〇月二二日現在)です。原告団長は、石井衆介弁護士(福岡支部)と私の二名体制でやらせていただいております。弁護団は、六〇〇名超(熊本限定の代理人を合わせると七一四名)です。
イ 東京訴訟(平成二六年九月九日提訴)
 原告数一一〇名(追加提訴予定あり)、弁護団長は原和良弁護士です。原告団長は、私が務めております。
ウ 熊本訴訟(平成二六年一〇月二一日提訴)
 原告数四四名、弁護団長は加藤修弁護士、塚本侃弁護士です。原告団長は、福永紗織弁護士です。なお、熊本訴訟においては、熊本県弁護士会会員の過半数が弁護団に参加しております。
エ 札幌訴訟(平成二六年一〇月二二日提訴)
 原告数一一名、弁護団長は高崎暢弁護士です。原告団長は、小林令弁護士です。なお、札幌訴訟においては、給費制廃止違憲訴訟提訴について、札幌弁護士会会長談話が出ております。弁護士会会長談話が出たのは、今回の札幌が初めてです。
三 給費制廃止違憲訴訟提訴の意義
 「二〇〇〇万円近い借金があります。」
 これは、破産申立ての相談者の言葉ではありません。給費制廃止違憲訴訟の原告の一人が語った言葉です。法曹資格を有した時点で、平均六〇〇万円もの借金を背負うといわれておりますが、一〇〇〇万円を超える借金を抱えている同期は珍しいわけではありません。法科大学院の創設、給費制の廃止により、司法修習生の経済的状況は厳しさを増しております。
 しかし、給費制廃止の問題は、単に司法修習生時代の経済的困窮のみにとどまりません。前記のような莫大な借金を背負った弁護士は、自らの生活が安定しないため、弁護団活動やその他の公益活動を行うことが難しくなります。このままでは、「社会正義の実現と人権擁護」という弁護士の職責を果たせない弁護士を大量に生み出しかねません。そのことは、人権救済の砦として司法が機能しなくなることを意味します。
 そこで、我々は、本訴訟を通じて、司法の機能不全という事態にならないよう、広く国民に情報を発信していく予定です。
四 お知らせ
 熊本訴訟の第一回期日が、決まりました。平成二六年一二月一七日午前一〇時三〇分からです。ご多用かと存じますが、特にお近くにおられる先生方、期日に足を運んでいただければ幸いです。
 なお、東京訴訟は、平成二六年一一月二七日に行いました。期日前にご報告できず、申し訳ありません。

**カンパの御協力のお願い**

 我々は、裁判官に正しい判決を書かせるために、給費制廃止違憲訴訟を全国レベルで盛り上げていくつもりです。その一環として、期日の傍聴席を満席にするため、全国各地に動員要請をしております。
 我々は弁護士のみなさんや市民の方々からのご支援をいただきながら、こうした活動に取り組んでいます。恐縮ではございますが、給費訴訟にご支援・ご協力を頂きたく、お願い申し上げます。
【振込先】 
ゆうちょ銀行
 〇〇一五〇-七-四四一五七二「給費訴訟を応援する会」
ゆうちょ銀行以外 
 店名:〇一九  口座番号:〇四四一五七二(当座)


筆跡鑑定と裁判官
―お寒い司法インフラ

東京支部  後 藤 富 士 子

一 筆跡鑑定の実情
 民事訴訟法の鑑定は、特別の学識経験を有する第三者に、専門の学識経験に基づいて、法規、慣習、経験法則など、およびそれらを適用して得た判断の結果を裁判所に報告させ、裁判官の知識を補充して判断を可能にするための証拠調べであり、その証拠方法を鑑定人という。近代法における鑑定制度は、鑑定人を裁判官の補助者とするか、それとも証拠方法とするかという二つの理念の間を揺れ動いたと言われる。現行法においても鑑定が証拠調べの一種とする位置づけが維持されているが、鑑定人の指定が裁判所の権限とされていること(法二一三条)等々から、鑑定人が裁判所を補助する機能を有していると指摘されている(日本評論社・第二版コンメンタール民事訴訟法IV二七七〜二七八頁)。
 民事訴訟実務では、裁判の大前提が法規、経験則であり、裁判の小前提が事実判断に関する事項とされている(前掲書二七九〜二八〇頁)。鑑定の対象となる鑑定事項も、それに従って分類されるが、特に問題になるのは、後者の事実判断に関する専門家の意見であり、ここでは筆跡の同一性について取り上げる。なお、筆跡の同一性の判断をする場合に裁判官がそれらを対照して判断しうるときは(法二二九条)、鑑定を命じなくても差支えがないとされている(最判昭和二七・五・六判タ二一号四六頁)。
 私が受任した事件では、裁判所が選任した鑑定人により、贈与証書の筆跡鑑定が行われたが、鑑定結果に素人である私でさえ疑問を感じるものであった。ちなみに、私の依頼者の目の前で贈与者が自署しており、「同一性なし」=偽造という鑑定結果が出るとは全く予想していなかった。そこで、私は、図書館で入手した当該鑑定人自身の著「筆跡鑑定の手引き」を引用したりして、鑑定結果が如何に信用ならないかを論じた。その鑑定人によると、一つの字の何本かの字画線相互の筆圧の強さを示す「相対的筆圧」は、だれの筆跡でも、いつ書いても、殆ど変ることがないから、筆跡を鑑定するときは、必ず検討することが必要であるとし、そのためには鑑定資料は原本でなければならない、という。鑑定することを決定した裁判所は、そのために病院から治療同意書の署名など原本を取寄せた。しかるに、実際に行われた鑑定では、原本が使われず、コピーで行なわれたのである。私は、そんな鑑定人がどうして裁判所に選任されるのか、すこぶる疑問をもった。
 私は、再鑑定の申立をし、そのために「鑑定人名簿」の開示を求めたりもしたが、裁判所は逃げるようにして、被告本人尋問だけで結審し、判決した。その判決では、鑑定結果をまつまでもなく、「一見して異なる」というのである。勿論、控訴し、原本による再鑑定の申立てをしようとしたところ、第1審で裁判所係属部が変更になった際、書記官のミスで原本を引き継がなかったためコピーで鑑定したことが判明した。そして、第一審判決後、病院から取り寄せた同意書原本は病院へ、贈与証書原本は私に返還された。私は、控訴審で鑑定するために、原本を控訴裁判所に引継ぐように抵抗したが、「裁判所の事件に関する保管金等の取扱いに関する規程」(昭和三七年九月一〇日最高裁判所規程第三号)を盾にして、書留で返還してきたのである。なお、事件の係属裁判所が変更になったのは、当初の裁判官(単独係)がいなくなり、後任の裁判官が引継がなかったからであるが、当初の裁判官がその際法務省に行き、今年になって法務省の女性トイレで盗撮して処分されたことを、新聞報道で知った。この事件で調べていたら、筆跡鑑定をしなかったことが釈明権不行使(釈明義務違反)とされた最高裁判決(平成八・二・二二判時一五五九号四六頁)を知り、それについての加藤新太郎判事(当時司法研修所事務局長)の評釈(NBL六一四号五六頁)も参照した。その評釈によれば、筆跡鑑定は、実務的にはそれ自体の信頼性に問題があること、信頼に足りる鑑定人の確保が難しいこと等の特殊性があり、この種の争点の認定には、鑑定以外の証拠を用いることが実務では一般的であるという。
 しかし、私としては引き下がるわけにはいかず、控訴審第一回期日に鑑定申請却下のうえ弁論終結されたので、執念で日本筆跡診断士協会会長森岡恒舟氏(著書『第三の発見/筆跡の科学』)にたどり着き、第一審の鑑定書に対する批判意見書と、新たに対照資料を加えた鑑定書を作成していただき、弁論再開を申し立てたが再開されず、控訴棄却された。上告も不受理・棄却になり、第一審判決が確定したが、贈与証書は偽造されたもので、私の依頼者が偽造犯だと言わんばかりである。
二 筆跡の科学
 森岡氏によると、筆跡は「書く」という人間の行動の結果残された痕跡であるところ、行動には行動者固有の特徴が付帯するものであるから、筆跡にも必ず書いた人固有の特徴が伴われていて、それを筆癖とか筆跡個性と称する。筆跡鑑定は、鑑定対象筆跡と鑑定対照筆跡において、異同を対照検証することにより行われるのが通例である。しかし、同じ字であっても楷・行・草等の書体の違いにより、字の特徴が全く異なってきたりもする。筆癖の異同の対照検証は、同一文字、同一書体において同一部分のあり方の異同識別が原則である。
 このことからすると、前記判決が「一見して異なる」というのは、書体が異なることを指摘しているにすぎないし、第一審の鑑定は、そもそも鑑定不能なのである。
 ところで、平成六年に日本筆跡診断士協会(旧名は日本グラフォログ協会)を発足させた当時、筆跡診断士と名乗れる者は森岡氏一人で、あとは研究生十余名であったが、平成二四年一月時点で、同会所属の筆跡診断士は一五二名になっている。平成一七年のフランス・グラフォログ協会の発表では、職業人の中で筆跡診断士の占める比率が、フランス五〇〇〇人に一人、スイス八〇〇〇人に一人、イタリア一万一〇〇〇人に一人、ドイツ六万七〇〇〇人に一人、日本三三〇万人に一人、である。また、現在の日本の筆跡鑑定で、裁判で登場する筆跡鑑定士の資格に全く法的規定がなく、鑑定能力を測る国家試験に類するような認定制度もなくすべてが自称の鑑定士で、かつ、多くが科学捜査研究所を定年退職した後に、第二の人生としてこの職を開業しているという(魚住和晃『筆跡鑑定ハンドブック』)。
 結局、科学的手法での鑑定能力を備えた人的資源を国家レベルで組織することが必要であり、それなしには裁判の質も向上しないのではなかろうか。

二〇一四・一一・二一