過去のページ―自由法曹団通信:1512号      

<<目次へ 団通信1512号(1月11日)


海道 宏実 一九歳未成年労働者へ初めてのパワハラ過労自殺損賠訴訟勝訴判決
―ブラック企業規制・過労死等防止対策推進法を武器に労働法制規制緩和を許さない運動を!
後藤 富士子 「DV」が「離婚原因」とされるとき ―「破綻させ主義」への転換(一)
星野 圭 大森典子団員「日本軍『慰安婦』問題
今何が問題になっているのか」学習会のご報告
三上 侑貴 大飯オフサイトセンターに行ってきました!
今村 幸次郎 阪田勝彦団員を悼む(弔辞)
大江 智子 *福井・あわら総会特集・その六*
福井・あわら総会プレ企画に参加して
本田 伊孝 労働法制改悪阻止・労働裁判闘争勝利をめざす全国会議二・六への参加を



一九歳未成年労働者へ初めてのパワハラ過労自殺損賠訴訟勝訴判決

―ブラック企業規制・過労死等防止対策推進法を武器に労働法制規制緩和を許さない運動を!

福井県支部  海 道 宏 実

企業と加害者上司の責任を明確に判決!
 手帳に残された「辞めればいい、死んでしまえばいい、もう直らないならこの世から消えてしまえ」等々の息子の文字。遺書にはチームリーダーを名指しで「大嫌い」と指摘。自死した後にこれを見つけたご両親の思いはいかばかりだっただろうか?
 高卒で地元では消火器販売等トップ企業の暁産業に就職した二〇一〇年の一二月に、チームリーダーだった上司からのいじめパワハラや長時間労働を苦に、わずか一九歳の若さで自宅の自室で縊死してしまった被災者。被災者の父が弔問に来た上司や社長に手帳を見せて問いただしたところ、社長は「私の責任です」と認めました。しかし、その後会社は何ら労災手続きをしようとせず、全く連絡すらしようとしませんでした。
 被災者の父は、弁護士に委任し、証拠保全を実施した上、二〇一一年九月に福井労基署へ労災申請しました。社長は「自殺は家族の責任。指導は社員教育でいじめの認識はない」等と主張しましたが、福井労基署は、二〇一二年七月二四日に業務上認定しました。(1)上司からのパワハラが繰り返され、人格を否定する言動があったーこれは判断指針の「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」ことに該当し、心理的負荷の強度はIIIと評価され、総合評価は強と評価される。(2)本来の業務外の年賀状販売を強いられ、これは「達成困難なノルマが課せられた」に該当するが、ノルマ達成の負荷はある程度あったものの著しい負荷とまではいえないので、心理的負荷の強度はIIと評価され、プレッシャーまではなかったので、総合評価は弱と評価される。以上から、総合評価は強と評価される。以上が認定理由でした。しかし、労災認定を受けた会社は、相変わらず「再調査したが、パワハラはなく、主として被災者に対する作業上の注意乃至は指導である。よって、損害賠償義務はない」と回答するばかり。
 そこで、同年一二月、被災者の父が福井地方裁判所へ会社とパワハラ加害者上司一名、部長一名を被告として損害賠償訴訟を提起しました。会社は、パワハラや長時間労働を否定し全面的に争ったため、証拠保全で入手した資料に加えて、労基署からの文書送付嘱託回答や労働局からの保有個人情報開示請求による開示資料も利用して主張立証し、原告本人、被告社長・上司二名の尋問が実施された(加害者上司は社長がいる間姿勢を崩さず前を向き傍聴している異様な姿で、社内の様子が容易に推察できました)結果、二〇一四年一一月二八日、樋口英明裁判官は、会社と加害者上司に対し、七二六一万円余の支払いを命じる判決を下しました。基本的には、最近のパワハラ過労自殺事案の勝訴判決の流れに沿うものですが、(1)具体的に二三カ所の手帳記載の発言を丁寧に拾って、被災者の「人格を否定し、威迫するもの」で、「これらの言葉が経験豊かな上司から入社後一年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントと言わざるを得ず」として、明確に加害者上司に不法行為を認め(2)注意を受けた内容のメモを作成するように命じられ、誠実にミスをなくそうと努力していた高卒新入社員である被災者にとって、緊張感や威圧感はとりわけ大きいので、言動による心理的負荷は極めて強度であった、被災者もきまじめな好青年であった等として、自殺との相当因果関係も認定し(3)過失相殺も全くなされなかった、点で意義があると思います。ただ、他方で、判決文が二一頁と短く、結論を導く上で最低限の判示しかしていないことから、(1)労基署調査でも認められている長時間労働については全く判断しておらず(2)よって上司の部長の責任も認めていない(3)会社固有の悪質な責任まで検討していない(使用者責任で処理してしまっている)(4)遺族補償金を元本充当している、点で不十分さが残ります。
 判決後、原告は「会社の代表者や当事者はまったく謝りません。判決は当然の結果。謝らないなら許さない」とコメントを発表し、マスコミやネットでも大きくとりあげられ反響を呼びました。しかし、会社は、あろうことか「発言は指導の範囲を超えていない。仕事で注意すること自体がパワハラになってしまう」等として控訴し、原告も上記の不十分さを問うため控訴し、舞台は名古屋高裁金沢支部に移り、引き続き争いが続くことになりました。

(弁護団:海道・端将一郎・諸隈由佳子)

ブラック企業問題の取り組みを通じた労働法制規制緩和反対の世論を!
 暁産業では、従業員が五〇名にも充たないにもかかわらず、被災者の一か月後にも二〇代男性が死亡しており、被災者の死後すぐに求人募集をかけている、大量採用大量退職のいわゆるブラック企業の典型です。
 昨年の秋冬は、たまたまブラック企業問題に関連して多くの取り組みを行う機会を得ました。(1)「ブラック企業と呼ばれないために」シンポを弁護士会主催、商工会議所、社労士会共催で開催(2)反貧困キャラバンin福井で今野晴貴さんによる「ブラック企業問題」講演を実施(3)福井大学の正規の就職対策として「ブラック企業の見分け方」業界・企業研究講座(4)福井大学で日本科学者会議主催の「ブラック企業の見分け方」講座(5)福井大学教育地域学部で「ワークルールーブラック企業なんかに負けないために」授業(6)「過労死等防止対策推進法施行記念ー過労死防止シンポin福井」を過労死弁護団主催、福井労働局・福井県後援で開催、と多種多様でしたが、労働者・反貧困運動に関わる市民のみならず、労働問題に「無関心」と言われていた大学生や大学教員、労働者を雇用する立場の中小企業経営者、労働行政を指揮する労働局や県といった行政機関、いずれの参加者の関心も大きく、命や健康をむしばむような労働は許されない、法規制すべきとの感想が数多く寄せられました。
 安倍内閣は総選挙での「圧勝」をてこに労働法制規制緩和の動きを強めていますが、その本質は、これまでの労働法規制を破壊し、雇用を流動化させ、過労死を促進する点にあります。これはまさしくこの間の運動の成果であるブラック企業規制の施策や世論、過労死等防止対策推進法と真っ向から矛盾するものであり、だからこそこれらを武器に広範な国民に自分の問題として具体的に訴えかけていけば、必ずや対抗し押し返すことができるのではないか、と実感しました。今後は、このような取り組みを広げるとともに、本来の運動主体となるべき労働組合への働きかけを強めたいと考えています。


「DV」が「離婚原因」とされるとき ―「破綻させ主義」への転換(一)

東京支部  後 藤 富 士 子

一 「DV防止法」の異常な特性
 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下「DV防止法」と略す。)は、何回か改正されていますが、条文を読んだことがありますか? 私の感じでは、「暴力の防止」については特段の対策が定められているわけではなく、「被害者の保護」一本やりといっても過言ではなさそうです。
 「配偶者からの暴力の防止」について考えると、現行犯なら警察の介入によって一時的に制圧できるでしょうが、将来に向かって防止すること、つまり「予防」は、保安処分になるので、現行法体系の下では不可能です。したがって、「暴力の防止」といっても結局は、接近禁止などの保護命令、すなわち「被害者の保護」になるのです。
 同法の第一章は総則で、第一条二項によれば、「被害者」とは、「配偶者からの暴力を受けた者」をいう、と定義されています。第二章は「配偶者暴力相談支援センター等」、第三章は「被害者の保護」で第六条〜第九条の二、第四章は「保護命令」で第一〇条〜第二二条、第五章が雑則、第六章の罰則では第二九条で保護命令に違反した者は一年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金、第三〇条で虚偽の記載のある申立書により保護命令の申立てをした者は一〇万円以下の過料、とされています。
 このように概観しただけでも、私たちに馴染みのある法律とは相当異なっていることが見て取れます。この法律の所轄は内閣府男女共同参画局で、行政・政策レベルで見ても、「ワーク・ライフ・バランス」を押しのけて、「性暴力撲滅運動」(?)の根拠にされているのです。
二 「保護命令」について
 私たち法曹が関与するのは「保護命令」ですから、これについて検討します。
 まず、保護命令の要件ですが、第一〇条一項は、「被害者」が「配偶者からの更なる身体に対する暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」に、裁判所は、次の二種類の命令を出せます。@被害者の住居その他の場所において身辺につきまとったり、付近を徘徊することを六か月間禁じる「接近禁止命令」。A二か月間、被害者と共に生活の本拠としている住居から配偶者が退去し、付近を徘徊しないことを命じる「退去命令」。
 何とも不可思議なのが、被害者が配偶者と「生活の本拠」(つまり住所)を同一にしている場合です。この場合、配偶者に対して自宅への接近禁止を命じることはできませんから、@の「被害者の住居」について「当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く」とされています。Aの「退去命令」については、被害者が自宅から荷物を取り出すために配偶者に二か月間家を明渡させるものですから、申立て時に被害者と配偶者が生活の本拠を共にする場合に限られます。
 ところが、「DV」が離婚原因とされるケースでは、妻は子どもを連れて「失踪」するのですから、夫は、「接近」のしようがありません。また、民法や地方自治法、住民基本台帳法等で「住所」とされるのは「生活の本拠」であり、失踪した妻は住民票を残したまま「居所秘匿」です。訴訟では代理人弁護士の事務所を送達場所としていますが、問題は、訴訟が終了した後のことです。私が経験したケースでは、判決で離婚が確定し、子どもを連れ去った妻が親権者になり、住所や本籍をどうするかと見ていたら、呆れたことに、本籍も住所も元夫と同じにしているのです。別のケースでは、本籍を代理人弁護士の事務所所在地にして、住民票は実際には住んでいない実親の住所に措くのです。夫は、突然いなくなった妻子を心配して警察に相談に行くと、そこで自分が「DV夫」にされていることを初めて知るのですから、こんな背信的な妻との離婚はいいのですが、子どもについて「連れ去り」「引き離し」が耐え難いのです。
 このようにみてくると、「保護命令」の要件を欠く「被害者」ばかりで、それでも期間限定の命令ですから、裁判官の心理としては保護命令を発令する方に傾きがちです。罰則でも、保護命令違反の配偶者の刑罰と、虚偽申立ての過料と、極端です。
三 「DV被害者」―自己申告主義と特典
 「保護命令」は、一応、司法の裁判ですから、頑張れば申立が却下されることもあります。そこで、妻たちは、保護命令などで司法の救済を求めず、専ら行政の保護を貪るのです。私が経験した例では、保護命令申立てが却下されたにもかかわらず、行政の保護を受け、ついに離婚判決確定、面会交流認容審判も確定しながら、居所秘匿のため面会さえできません。「連れ去り」時に三歳になっていなかった子が九歳になった今も「生き別れ」で、このまま永遠の別れになるのでしょうか。
 「DV被害者」として保護を受けるには、「二次被害の防止」という名目で法律が改悪されましたから、警察や女性センターに相談するだけでいいのです。つまり、自己申告主義。一方、「DV被害者」の特典は、凄まじい利権です。「昔、解同(部落解放同盟)、今、DV」と言われるほどです。「DV被害者」であれば、生活保護受給について扶養義務者の調査をしないで夫が知らないうちに支給決定がされ、別途、婚姻費用分担審判も「私的扶養優先」ということで生活保護の関係を無視して決定されます。健康保険についても、被扶養者を抜かないまま手続ができる。さらに、離婚後に支給される児童扶養手当も前倒しで支給される。低家賃の公共住宅に優先的に入居できる、等々。つまり、夫が知らないところで、妻は「DV被害者」として、行政の「上げ膳、据え膳」の待遇を受けるのです。行政にとっては「政策顧客」というべき存在ですから、「対物暴力」「言葉の暴力」「経済的暴力」などと、ことごとく「DV被害者」に誘導するようです。
 この辺の実情を知りたい方は、平成一七年四月に発行された、内閣府男女共同参画局編『配偶者からの暴力/相談の手引【改訂版】』をお勧めします。(続)


大森典子団員「日本軍『慰安婦』問題
今何が問題になっているのか」学習会のご報告

福岡支部  星 野   圭

一 はじめに
 先日(二〇一四年一二月二〇日)、久しぶりに全国常任幹事会(常幹)に参加しました。常幹に参加するといつも思うのですが、運動の最先端にいる団員たちは真に熱気とやる気に溢れていて、しかも調査、学習意欲が高い。本当に頭の下がる思いです。私ももっとがんばらねば!という気持ちが湧いてきます。
 さて、先の常幹では慰安婦問題について二〇年以上活動している大森典子団員による標記の学習会が開催されました。広く知っていただくべき内容でしたので、その内容の一端を私なりにまとめてご紹介させていただきます。
二 慰安婦問題を巡る最近の動き
 二〇一三年一〇月頃から強まった産経新聞を中心とした河野談話見直しキャンペーンに代表されるように、今、慰安婦問題が「なかったこと」にされようとしています。
 河野談話は、日本政府として加害の事実を具体的に認め、謝罪し、対応を約束した国際公約です。安倍政権はこれを覆したいと思っていますが、国際的な圧力でそこまではできていません。そこで、安倍政権の本音を一部マスメディアや民間団体が代弁するキャンペーンが草の根レベルからなされています。例えば、一部民間団体は、慰安婦は性風俗業にすぎないのであって性奴隷ではない、強制連行はなかったのだから慰安婦問題もなかったことであるという内容のパネル展などを全国各地で実施しています。
 六月二〇日には河野談話の検証結果が公表され、続いて八月には朝日新聞の吉田証言に関する記事取消し問題に端を発する激しい朝日新聞攻撃が展開されました。朝日新聞バッシングの根拠になっている吉田証言は、これまで学者も運動団体も慰安婦の証拠には用いていないものでした。ところが、最近では、吉田証言に関する記事が取り消されたことをもって強制連行もなかったことであると喧伝されています。一部の民間団体は、民族差別の意識を煽るのみならず、南京大虐殺や三光作戦(殺し尽くす・奪い尽くす・焼き尽くすという殲滅作戦)も「なかったこと」であるというキャンペーンにつなげようとしています。
 慰安婦問題への対応は、過去の歴史について、日本社会がどう向き合っているかを示す象徴的な事案と言えます。今こそ日本政府の適切な対応が必要なときです。ところが、日本政府の対応は一八〇度違う方向を向いています。国際社会が女性の人権の観点から繰り返し日本政府に出している勧告さえ完全に無視しています。
 また、安倍政権は、政権に楯突くメディアをつぶすという明確な目的をもって動いており、他方で、メディアは安倍政権を畏れて批判的な記事を出せなくなってきています。今や民主主義そのものが危機に瀕しています。
 自由法曹団としても、この民主主義の危機に対して反撃していかなければなりません。慰安婦問題があったかどうかという問題だけでなく、あの戦争がなんだったのかという大きな問題のレベルから話すことで、慰安婦問題と現在の民主主義のあり方に対する危機意識を広げていかないといけません。
三 私たちにできること
 慰安婦問題をはじめとした戦争被害について、被害実態を知らない世代が増えています。集団的自衛権に関する閣議決定や九条改憲に対して抵抗感をもつ市民も減少傾向にあります。今一度、戦争の具体的な被害実態を広く知ってもらうため、私たちも被害を伝える表現に工夫を施す必要があります。私も明確なアイデアがあるわけではありませんが、大森団員お勧めの次の映画の上映会を各地で開催するという運動も、被害実態を知らせるひとつの方法でしょう。
 金東元監督の映画『終わらない戦争』二〇〇八年
 問い合せ先:日本軍「慰安婦」問題関西ネットワーク
 ちなみに、一回五〇〇〇円(学校教育に利用する場合は無料)で借りられるそうです。


大飯オフサイトセンターに行ってきました!

京都支部  三 上 侑 貴

 平成二六年一〇月二一日、私たち京都支部団員は福井県にある大飯原子力防災センター(以下、「大飯オフサイトセンター」といいます。)を訪問しました。
 御存じのとおり、オフサイトセンター(正式名称「緊急事態応急対策等拠点施設」)とは、万一の原子力災害発生時に、国・県・関係市町・警察・消防等の防災関係機関が集結し一体となって応急対策等を講じるための拠点となる施設のことであり、原子力災害対策特別措置法第一二条に基づく施設です。オフサイトセンターは、原発からの距離が五q〜二〇qに設置される必要があります。
 大飯オフサイトセンターは、原発から約七qという距離にあり、隣は海で、海抜約二メートルの地点に建設されており、水没の可能性があることは論を待ちません。担当者は「施設が水没することはない」とおっしゃっていましたが、もっといい場所はなかったのだろうか、と口には出さずに頭を捻ってしまいました。今原発事故や津波が起こったらどうしようとひやひやしながらの大飯オフサイトセンター訪問が始まりました。
 原子力防災専門官と原子力保安検査官は、私たちをオフサイトセンター一階の緊急時対策室に案内してくださいました。
 原子力防災専門官の方は、陸上自衛隊を退職した後、嘱託で原子力防災専門官という役職に就いているということでした。原子力防災専門官は原子力緊急初動段階における連絡調整の責任者です。しかし、驚くことに、大飯オフサイトセンターにおける原子力防災専門官は一人だけでした。元陸上自衛官とはいえ、体調も崩すこともあるでしょうから、これでは、有事の連絡調整が円滑に行われるのか不安で気が気でありません。
 原子力保安検査官は、原発事故が起こった時に、原発で何が起こっているのかを確認するために速やかに原発に向かうという役割があります。団員から、「そうはいっても道路が通れなくなっていたり、放射線が大量に放出されているときはどうするのか」という質問がなされたところ、「(どんな状況でも)なんとかして(原発のところまで)行きます」「陸路がだめなら空路から」との回答でした。それが仕事だから何とかして行くという回答しか出来なかったのでしょう。原発がある限り、原子力保安検査官はこの質問に答え続けていかなければなりません。やはり原発はなくしていかなければならないと強く思いました。
 緊急時対策室は、原子力緊急時に国・県・関係市町・防災関係機関が集結し応急対策等を講じるための業務を行う場所です。大飯オフセンターの緊急時対策室は、体育館のようなフローリングの上に、関係市町ブースや関係周辺府県ブースなどの多数のブースごとに机と電話機等が置いてあり、一番前にスクリーンがある広い空間でした。実際には、国・県・関係市町や関係周辺府県の担当者は、常駐ではなく、原発事故があってから大飯オフセンターに来てブースで業務を行うとのことで、震災・津波等が生じた場合や原発事故により周辺への立ち入りが制限されているときに、迅速にオフサイトセンターまで来ることがそもそもできるのか、という疑問が残りました。
 オフサイト対策の中心は、住民の防護措置であり、いかに住民を安全な方法・手段を用いて安全な場所に避難または屋内退避してもらうことが基本であるとのことです。しかし、大飯原発周辺の地域では、そもそも避難計画自体作成していない地域もありますし、作成している地域においても主に自家用車で多数の住民が避難することを前提としており、渋滞・道路の遮断・ガソリン不足・受入先の駐車場不足などにより自家用車での住民の避難には限界があることを看過しているという点で不十分なものです。そのほか、全ての人が自家用車を所有しているわけではないにもかかわらず、バスの台数は不足していますし、要援護者の避難を援助する予定の人も被災しているため援助の実効性が担保できないことからすれば、そもそも全住民の安全な避難など不可能であることは明らかなのです。
 原発事故が起こった時、原発に近づく過程では、原子力保安検査官は生命身体に大きな危険を被ります。そもそも原発に近づくことができなければ、原発の状況を迅速・的確に把握することはできません。迅速・的確な情報が得られなければ、大飯オフサイトセンターにおいて、市町村に迅速・的確な情報を伝えることはできませんし、そもそも道路が地震等で壊れ、市町村の担当者が大飯オフセンターにたどり着くことができない状況になっているかもしれません。情報を得ることができたとしても、たった一人の原子力防災専門官が体調を崩したり、けがをしたりした場合には、もはや大飯オフサイトセンターで連絡調整をおこなう責任者がいなくなってしまうこととなり、現場は混乱します。そして、大きな被災のときに、大飯オフサイトセンターが津波の被害を受けない、と一〇〇%言い切れるのでしょうか。仮に、迅速・的確に情報が得られ、市町村に伝達できたとしても、全住民が安全に避難することなど不可能なのですから、多数の住民が放射線の被害を受けることとなります。ここまでして、原発を維持する意味などあるのでしょうか。
 今回、大飯オフサイトセンターを訪問して再確認しました。安全な原発などありません。京都から、全国の原発を止めるため、より一層の運動に取り組んでいきたいと思っています。


阪田勝彦団員を悼む(弔辞)

幹 事 長  今 村 幸 次 郎

 阪田さん、こんなに早くあなたとお別れする日が来るなんて思いもよりませんでした。いまだに、これが本当のことなのか信じられない思いで一杯です。
 あなたは二〇〇五年一〇月から二〇〇七年一〇月まで、自由法曹団の事務局次長をつとめました。自民党が新憲法草案を発表し、日本国憲法の平和主義や民主主義の原則が大きく変えられてしまうような政治的変革が次々に行われようとしていた時期でした。あなたは次長として、憲法改正、教育基本法改正に反対する運動を担当されました。
 あなたは、「法律で生きている弁護士だからこそ、この改憲の問題に無関心であることは許されない」という先輩の言葉を大切にされ、寝食を忘れて、この仕事に打ち込みました。
 ここに一冊のパンフレットがあります。二〇〇六年九月二五日に自由法曹団が発行した「弁護士から見た教育基本法『改正』の問題点」というものです。あなたは、このパンフ作成の中心になって頑張ってくれました。グラフや図表がふんだんに盛り込まれ、徹底的に、見やすいよう、使いやすいように工夫がされています。表紙もカラーで、それまでの自由法曹団になかった作風に仕上がっています。
 あなたは、このパンフ完成間近のころ、毎日のように、深夜早朝まで作業していました。「色はこれにしました、ご意見ください」とか「グラフはこれに変えたいと思います」などのメールをいくつももらいましたが、送信時刻を見ると夜中の二時、三時というものばかりだったように思います。
 私は、あなたと顔を合わせたときに「あんまり無理するなよ」と声をかけました。そんなときあなたは、決まって、笑顔で「大丈夫ですよ、今やっておかなければ後悔しますから」と言っていました。今日は、あなたの熱い思いがこもったこのパンフレットを持ってきました。あの世に持って行って、時々、あの頃のことを思いだしてください。
 あなたは、自由法曹団での活動を通じて、自分が「政治に触れている」という感覚を抱かれました。次長退任にあたって、あなたはこう書いています。
 「この政治に触れている感覚は、今でも忘れられません。講演会ばかりか街頭演説をしたり、街宣車に乗ったり、お金にもならない法文を徹夜で調べたり・・とても次長就任前の自分がやるとは思えないようなことばかりやりましたが、これによって政治が反応し、世論が動いていく様に私は民主主義の原点を感じた気がします。『もし、こういう気持ちを国民の一人一人がもてたなら、そのときに初めて、本当の民主主義っていうものが完成するのかもなあ』などと本気で思いました。団に入った若い人たちも、この感覚を是非体験してもらえたらと思ってやみません。」
 私たちは、あなたのこの純粋な気持ちと熱い思いを引き継ぎ、自由法曹団のみんなで、平和と民主主義を守り強める運動に全力を尽くしていきたいと思います。
 阪田さん、今まで本当にありがとう。安らかにお眠りください。
  二〇一四年一二月一九日 

自由法曹団 幹事長 今村 幸次郎


*福井・あわら総会特集・その六*

福井・あわら総会プレ企画に参加して

京都支部  大 江 智 子

 一〇月一八日(土)は、プレ企画として第一部「大衆運動における弁護士の役割〜弾圧事件の弁護活動を考える〜」、第二部「もんじゅ判決から大飯原発判決へ」が開催されました。ここでは、特に興味深かった第一部についてご報告致します。
 弾圧事件の経験のない若手弁護士が、経験豊富な先生方から弾圧事件に取り組む意義と、具体的にどのように動いて、どのように法的助言をすれば良いのか、を学びました。
 まず最初に、堀越事件で主任弁護人を勤めた石崎和彦先生から弾圧事件の基礎知識と弁護士としての心構えをご講演いただき、企画の後半では、具体的な事例に即した検討を行いました。
 弾圧は、起訴できないような軽微な事件についてわざわざ身体拘束をして情報を聞き出すことや、被疑者・被告人とされる人に打撃を与えることによって同じ考えをもつ団体の行動を抑圧することを目的として行われます。公安警察は「犯罪を追いかけるのではなくて、人や組織を追いかける」組織です。そして弾圧事件において裁判所は、暴力によって支配することの正当性を担保し、弾圧を合法化する役割しか果たしません。
 このような弾圧に対してどうたたかうか―石崎先生の口から忘れがたい名言が飛び交います。石崎先生のご講演から感じ取った名言を私なりに整理しました。
一、公訴棄却を主張せよ
(起訴自体が違法であることを明確に主張しなければならない、そして、こちらの事件の見方を検察官よりも先に説明しなければならない。)
一、毅然とした態度で本気の立証活動をせよ
(弁護人が本気で立証活動をすることで初めて、裁判官に疑問が生じる。)
一、弾圧の実態を国民に知らせよ
(法廷を利用して国民に弾圧の実態を明かにする。公判廷での証拠開示にこだわり、傍聴する国民の前で証拠を開示させる。)
一、無罪を勝ち取れ、弾圧を跳ね返せ
(弾圧の勝利は無罪を勝ち取ることだ。しかし、無罪を勝ち取ることが難しい事件の場合には、弾圧の実態を裁判所で明かにし、国民に裁判所を監視させることで、国民の中に弾圧に抵抗する人々を生み出すことが勝利だ。)
 一時間少しのご講演の中で、いくつ名言が出るかと思うくらいに、数々の示唆を受けました。石崎先生の、ゆっくりとした、しかし力強い声に吸いこまれるようにあっという時間は過ぎていきましたが、この福井・あわら総会で最も印象深い企画でした。


労働法制改悪阻止・労働裁判闘争勝利をめざす全国会議二・六への参加を

事務局次長  本 田 伊 孝

 昨年末の総選挙を経て、第三次安倍内閣が成立しました。選挙期間中、安倍首相は「雇用が一〇〇万人以上、増えた」「賃金も二%増加している」と、雇用環境の改善をアベノミックスの成果だと喧伝しました。
 しかしながら、「雇用環境の改善」は虚構です。増えた雇用の過半数が六五歳以上、残りの過半が非正規労働者、一方で正規労働者は二〇万人減っています。非正規労働者の数が二〇〇〇万人を超えたのは、統計を取り始めた一九八四年以降で初めてとなります。(二〇一四年一二月二六日総務省発表)。
 賃金水準の改善も、実質賃金でみれば二〇一三年七月以降、一五カ月連続して二〇一〇年の水準を下回っています。
 安倍政権の下でもたらされたのは、格差拡大、そして雇用環境の悪化です。
 安倍首相は「総選挙によって国民の信任を得た」と臆面もなく、衆議院解散により廃案となった労働者派遣法案を通常国会に再提出する予定を組んでいます。
 労働者派遣法の「改正」案は、厚労委員会において塩崎厚労大臣が法案の内容を誤って答弁したり、また、審議の途中に公明党から修正案が提出したりと、与党内でも意見が一致しておらず、世論の反対も強く、廃案は当然です。「正社員ゼロ法案」「生涯派遣」といわれるように「改正」案が通ってしまうと、非正規労働者は増加し、低賃金・不安定雇用が広がっていきます。「改正」案を廃案にすることこそが、格差拡大と雇用環境の悪化に歯止めをかけることにつながります。
 雇用環境の悪化は、「非正規労働者の増加」の問題にとどまらず、「過労死促進・残業代ゼロ法案」によって労働者の健康的な生活が蝕まれるという問題も含むものです。労働時間の在り方を検討している労政審労働条件分科会は今も会合を重ね、今期に建議をまとめ、労働時間法制を取り払う法案を通常国会に提出する見込みです。
 労働時間法制を取り払うことによって、企業は残業代を支払うことなく、労働者を長時間働かせることができるようになります。今、求められるのは、長時間労働、残業代未払を改善させ、労働者が健康的な生活を送れるよう、法規制です。
 第三次安倍政権が成立したことで、一層、安倍首相は「成長戦略」の下で、雇用分野での規制緩和を押し進めることでしょう。
 安倍首相は海外に「岩盤規制を規制緩和というドリルで打ち砕く」と宣言しました。安倍首相が打ち砕こうとしているのは、労働者の健康や働く生きがい、そして生活です。
 労働法制改悪阻止対策本部では、安倍政権が推し進めようとしている労働法制改悪を止めるために意見書・第二弾の作成に取り掛かりました。
 二月六日には「労働法制改悪阻止・労働裁判闘争勝利をめざす全国会議二・六」を開催し、全国の団員と労働法制改悪問題を討議し、また、全国の労働裁判闘争(JAL、いすゞ、労契法二〇条裁判等)の経験交流を行います。
 多くの団員が、全国会議二・六に参加されることを呼びかけます!

  労働法制改悪阻止
  労働裁判闘争勝利をめざす全国会議二・六

日時 二〇一五年二月六日(金)一三時〜一七時
場所 文京シビックセンター会議室一・二(三階)