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  *改憲・戦争法制阻止特集*
戦争法案の強行採決に断固抗議し、廃案を求める声明
田中 隆 衆議院強行突破と参議院段階の阻止闘争
白神 優理子 「学習講演会での工夫」 ―自由法曹団員だからこそ語れること
岩橋 進吾 戦争法案阻止への千葉支部の動き
鈴木 亜英 *盗聴法特集*
隠れたる「立法事実」 盗聴法拡大に反対する―思想調査事件の体験から
今村 核 日本版「司法取引」参考人意見(骨子)
田井 勝 派遣労働一一〇番、相談結果について



*改憲・戦争法制阻止特集*
戦争法案の強行採決に断固抗議し、廃案を求める声明

 本日午後〇時二〇分過ぎ、政府・与党は、国民の多数が反対しているにもかかわらず、衆議院安保法制特別委員会において戦争法案(国際平和支援法案、及び自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態法等の一〇本の現行法改定する一括法案)を強行採決した。
 全国二一〇〇名の弁護士で構成する自由法曹団は、強行採決の暴挙を行った政府・与党に、断固抗議するものである。
 この戦争法案は、集団的自衛権の行使を解禁し、米軍やその同盟軍が行う世界中の戦争に、自衛隊が、いつでも、切れ目なく参入して軍事活動を可能とし、海外での武力行使をも認めるものであって、戦争と武力行使を禁止している日本国憲法九条を真っ向から踏みにじる違憲の法案である。この法案は、国会で与党推薦の憲法学者からも憲法に違反するとの指摘を受け、衆議院の審議を通じて、その違憲性はますます明らかとなっている。しかも、存立危機事態がどんな事態かは予めは言えないとか、弾薬の提供や発進準備中の戦闘機への給油についてまで武力行使と一体化しないなどと強弁する政府には、まともな答弁は不能となっている。もはや、戦争法案は直ちに廃案になすべき事態となっているのであり、国会会期を九月二七日までとする会期の大幅延長をしたうえ、強行採決に及ぶなどということは言語道断と言わざるを得ない。
 のみならず、安倍首相は、自衛隊員に死傷者が出たりするリスクを指摘する野党議員に対して「早く質問しろよ」とヤジを飛ばしたり、(憲法解釈の)「最高責任者は私です」などと公言し、憲法を解釈によって変更して違憲な戦争法案を成立させようとするなど、国会審議を軽視し、立憲主義を踏みにじる態度を露骨に示している。さらに、自民党内では沖縄の二つの新聞は潰さないといけないとか、マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばよいなどと言論弾圧を公然と議論している。国民の声を圧殺し民主主義の根本をないがしろにする動きであり、そのもとで、戦争法案の成立が強行されようとしているのである。
 しかし、弁護士会や憲法学者ら法律家はもとより、学者や文化人を含め、戦争法案に強く反対する声は大きく広がり、国民世論の多数も反対の態度を示している。自由法曹団は、衆議院特別委員会での強行採決に断固抗議するとともに、国民の運動との連帯をいっそう強め、戦争法案の廃案を求め全力を挙げてたたかうものである。
  二〇一五年七月一五日

自由法曹団団長 荒 井 新 二


衆議院強行突破と参議院段階の阻止闘争

東京支部  田 中   隆(改憲阻止対策本部)

一 苦しまぎれの強行突破
a 圧倒的な包囲のもとで

 政府・与党は、七月一五日に衆議院安保法制特別委員会で、翌一六日に本会議で、いずれも戦争法制の採決を強行しました。民主・共産・維新の各党は審議と討論は行なったものの採決には加わらず、「一部野党を引き込んでの採決」という政府・与党のもくろみは成功しませんでした。
 七月一四日、「総がかり」実行委員会が仕かけた日比谷集会とデモには二万人が参加、一五日の「総がかり」実行委とシールズ(自由で民主的な日本を守るための学生による緊急アクション)の共同行動には六万人が参加して国会を埋め尽くしました。「安保法制に反対する学者の会」のアピールに賛同する学者・研究者は、一五日には一万人に達しています。七月一四日夕刻に行なった法律家六団体でのマリオン街宣でも、一五日正午から開始して強行採決をリアルタイムで報告したマスコミ・団四団体の街宣でも、手ごたえは十分でした。
b 「国民の理解」を阻んだもの
 六月二二日に九五日間という長期延長を強行した政府・与党は、法案への国民の理解を得ることはできず、安倍首相は一五日の答弁でそのことをあけすけに認めました。
 理解が得られないのはある意味で当然でした。政府の姿勢は、将来の運用に拘束を受けることを嫌って、ことさら「あいまいな答弁」を続けるというものでした。独善性の強い安倍首相のキャラクタが、その色彩をさらに強めました。自縄自縛に陥った政府は、「説明不足」への批判が強まっても、開き直りと驕慢に満ちた答弁を続けるしかありませんでした。
 この国会軽視・国民無視の姿勢に、安倍首相を支える若手議員学習会(文化芸術懇話会 六月二五日)での報道弾圧問題などが重なり、法案反対と政権批判の声は日増しに拡大しました。戦争と平和の問題に、暴走と独裁をめぐる民主主義の問題が重なって、批判と不信をいっそうかきたてました。官邸と一部官僚の寡頭支配と国民主権・議会制民主主義の、本質的な矛盾が露呈した場面と言えるでしょう。
c 政権の「危険ライン」と強行突破
 国民の批判と不信・不安は、内閣支持率の急落として現れました。
  朝日新聞(七・一二)  支持三九%、不支持四二%
  日本テレビ(七・一二) 支持三九・七%、不支持四一%
  NHK(七・一三)   支持四一%、不支持四三%
 これまでの例では、強行採決によって支持率が一○%前後低下しており、これ以上、強行前の支持率が低下すると「政権の危険ライン」とされる三○%を割り込むことになりかねません。その政府・与党が苦しまぎれに強行したのが、衆院強行突破でした。
 院内外の意思がここまで乖離しても強行突破ができる背景には、民意と議席を乖離させ、議員を政党執行部=政権に無条件に従属させる政治改革・小選挙区制のシステムが介在しています。民意と政治を遮断するこのシステムのもとで、ギリギリのところまで政権を追いつめたのが、衆議院での戦争法制阻止闘争でした。
 この「制度によるガード」をどこまで突き崩せるか、これが次なる参議院段階でのたたかいの課題と言えるでしょう。
二 参議院の諸相と政治日程
 次の舞台となる参議院の様相をいくつかスケッチしておきます。
a 「六〇日ルール」と再可決
 衆議院で与党が三分の二を超えていることから、参議院が送付を受けた七月一六日から六〇日後の九月一四日を経過すると、「否決したもの」とみなしての衆議院での再可決が可能になります。おそらく、政府・与党はこの「六〇日ルール」を参議院の審議促進・議決促進の恫喝材料に使うでしょう。
 確認しておくべきは、衆議院の再可決は二院制の例外であり、「六〇日ルール」はそのまた例外にすぎないことです。送付を受けた参議院が審議をサボタージュしたのなら別論、審議を尽くそうとしているにもかかわらず、再可決をほのめかして審議を遮断するなどは参議院の審議権の侵害にほかなりません。まして、多くの憲法研究者が違憲とし、国民の多数が反対する法案を「六○日ルール」による再可決で強行するなどは、民主主義を破壊する暴挙です。
 現に、「六○日ルール」の再議決は数例しかなく、一三年六月二四日に再可決された「衆議院小選挙区〇増五減法案」も含めて、すべて与野党逆転のもとでの再可決です。
 「六〇日ルール」を振りかざした介入は、厳しく批判されねばなりません。
b 参議院の構成と特徴
 参議院でも与党(自民・公明)は多数を占めていますが、総数二四二議席のうち一三三議席(五五%)で、衆議院のような絶対多数ではありません。また、参議院には中小会派が多く、会派の数は一一に及んでいます(自民・民主・公明・維新・共産・元気・次世代・無所属ク・社民・生活・改革)。明確な反対会派派(民主・共産・社民・生活)は七五議席で衆院に比べれば比重は大きい反面、次世代と改革は賛成にまわると思われます(元気は反対のはず)。なお、維新は参議院でも独自案を提出すると考えられます。
 これら参議院議員の半数(一〇年=平成二二年選出組)は、一六年七月に改選を迎えることになっており、法案を審議することになる一五年夏は「最後の夏」にあたります。「与党の改選議員が委員になろうとしない」と言われるのは、戦争法制が支持層のなかでもすこぶる評判が悪いため。ここに、与党議員を地元から突き崩す条件があります。
 参議院と衆議院はよく似た選挙制度を持っていますが、
 ・選挙区=個人立候補(衆議院は政党の名簿提出)
 ・比例区=非拘束名簿(個人名に投票可能。衆議院は拘束名簿)
と、相対的には議員個人のウエイトが大きくなっていることにも、留意を払うべきでしょう。
c 参議院での委員会と政治日程
 民主・共産・維新などの野党が強行採決への抗議を続ける一方で、与党側は参議院での安保法制特別委員会の編成を進めようとしています。野党にも賛成派がいることもあり、七月二七日の週には法案の上程と趣旨説明と委員会付託が行なわれると思われます。
 特別委員会はおそらく三五人委員会になると思われ、そうなれば四人以上の会派は委員を送り出すことになるとのことです。ちなみに、一三年に秘密保護法等を審議した国家安全保障特別委は三〇人委員会で、共産党から仁比聡平議員と井上哲士議員が委員になり、社民党の福島みずほ議員も委員になっていました。ほぼ同じような構成になるのではないかと思われます。
 委員会の法案審議は遅くも八月三日にははじまることになると思われ、せいぜい数日程度の「夏休み」をとるだけで審議が続けられることになると思われます。
 暑い夏のたたかいにはなりますが、議員の地元と国会のある東京で、七月のたたかいからそのまま八月になだれ込むことになると思われます。
 対策本部は、七月末までに「安倍の暴走」に照尺したリーフ第二弾を発表し、論点を押し出した補充意見書を編集し八月四日に参議院向けの要請行動を行ないます。ご協力とご活用をお願いします。
三 参議院段階の課題に寄せて
 参議院段階でどうたたかうか。
 基本は、政府と法案を追いつめたこれまでの闘争の到達点を確認・共有し運動をさらに前進させることであり、それを前提に「戦後七〇年目の夏」と参議院の特徴に対応した設定をすることが重要になります。現時点での対策本部の認識と論議を踏まえて、いくつか検討課題を提起しておきます。
a 地方・地域、分野・階層の運動をさらに大きくすること
 局面を動かしたのは地方からの地鳴りと分野・階層の決起でした。強行採決・民主主義破壊への反発・批判をバネに、街頭に出て目に見える行動を展開し、メディアの注目と報道をひきつける工夫が求められます。また、「安倍の暴走」に批判を集中して、支持率の「引き下げ」をはかることが肝要です。
b 議員に向けた活動を特段に重視すること。
 与党議員をどこまで突き崩せるかで、帰趨が決まります。議員は夏には選挙区に帰らざるを得ず、とりわけ一六年改選議員にとっては「再選がかかった夏」です。その「夏」が「戦後七〇年の夏」である以上、関心は「戦争と平和」「戦争法案」に向かざるを得ません。
 選挙区から地元議員に働きかけることは決定的に重要です。
 強行採決でようやく「国会騒然」が現実化しましたが、国会と国会議員へのアプローチは強いとは言えず、「議員事務所」の悲鳴はまだ聞こえません。Fax・Mail・電話・手紙・・あらゆる方法で、議員に直接声を突きつける活動を強化しましょう。
c 宣伝や対話で問題をさらにひろげること
 戦争法制への関心と暴走への不信・不安は広がっています。戦争法制の問題も民主主義破壊も知らせれば知らせるほど、批判・反対は広がります。目に見える街頭での宣伝や憲法カフェでの対話などで、さらにひとまわり宣伝を広げましょう。自由法曹団リーフ(第一弾、第二弾)は、一○○万部水準で活用してください。
 このたたかいには、戦争法制の成否だけではく、この国を戦争に出て往く国にするか、平和憲法を生かすか死滅させるかがかかっています。引くことができないたたかいです。
 団員の皆さんの奮闘に心から敬意を表するともに、さらなる奮闘を呼びかけるものです。

(二〇一五年 七月一六日脱稿)


「学習講演会での工夫」 ―自由法曹団員だからこそ語れること

東京支部  白 神 優 理 子

一 今こそ“何をどう語るか”ということが問われている
 安倍政権への不支持率が支持率を上回り、戦争法案の世論が大きく高まっているとき、弁護士が講演会で何をどう語るのか、その中身が問われていると思います。
 弁護士になってからの二年間で、白神にとのご要望を受けて行った講演数は予約分も含めると八〇回以上となっており、このような経験を通じて“何をどう語ることが求められているのか”を私なりにまとめました。いつも目的として意識していることは「明日から戦争法案阻止の運動の輪を大きく広げるために元気に頑張ろう!!」という気持ちになっていただくことです。
二 「戦争のリアリズム」を語る
 私は映像資料・手記などを使い徹底的に「戦争のリアリズム」を語ります。
 ある大学でゲスト講師をした際、四五人の受講生のほとんどが感想レポートで「戦時中に教員が子どもたちに天皇のために死ねと教えていたことを知らず衝撃的でした。それを後悔する教員の詩に胸が苦しくなりました。その反省から国家の支配を排除する憲法や教基法が生まれたという話は感動的でした。」と書いていました。若者は侵略戦争のこと、その悲惨さ、それを踏まえての憲法であることを教えられていません。また現代の戦争が何をもたらしているかも。
 「戦争のリアリズム」を語る際、二つの文脈があります。一つ目が「立憲主義の価値を語る文脈」です。なぜ国家権力の手足を縛る必要があるのか。それは国家権力の暴走により他国に多くの犠牲を生み、多くの国民もまた、その人生が、家族が、命が奪われたからであり、これを知ってもらう又は再確認することが立憲主義の破壊が進む今こそ求められているのではないでしょうか。
 もう一つが「戦争法案の本質を語る文脈」です。米国の戦争に一度も反対したことがない日本であることを踏まえると、戦争法案が実行された場合の一番の危険性はテロとの闘いに巻き込まれることです。そこで私は、イラク戦争などのアメリカによる戦争について被害者の写真・民間人被害者が七割を超えることを示すグラフ・派兵された軍人の自殺者・これらの手記などを用い語ります。実際の映像としては「リトルバーズ―戦火の中の子どもたち」を紹介します(大変衝撃的な内容なので覚悟をして見る必要があります)。この中には『赤ちゃんを抱いているイラク人のお父さんの真上にアメリカの空爆があり、赤ちゃんの脳みそが飛び散り、これを泣き叫びながらかき集めるお父さんの姿』『空爆で手足を失い血だらけで横になる子どもたちの横で「神様!神様!」と泣き叫んで壁に頭を打ち続けるお父さんたち』『地平線いっぱいに広がる子どもたちの小さなお墓』の映像があります。このような戦争に日本の若い人たちが連れて行かれ、戦闘地域まで行き、武器を使うことができるようになる、これが戦争法案の本質だ、と語ります。学生、青年、若いお母さんなど目に涙を浮かべて聞いてくれます。
 これは、当事者の立場に立つこと、現場に重きを置くことを大切にする団員マインドを生かした講演のやり方だと思います。
三 根本的原因と「一%対九九%」であることを語る
 戦争法案は内容もやり方も日本国憲法に反し、憲法を壊すものであることを伝えた上で、これにより経済被害も強まることを伝えます。戦争をするには税金が必要、それに文句を言わせないための思想統制が必要。防衛予算の増大による社会保障の削減、都合の悪い情報を秘密にし、国民を統制する・・・ありとあらゆる憲法上の権利が破壊されることを強調し、「なぜ安倍自公政権はそこまで焦るのか?」と問いかけます。
 資料として、日米安保条約締結からのアメリカ従属をあらわす年表を出します。あわせて日本経済同友会の提言『「実行可能」な安全保障の再構築』(この中で武器輸出禁止三原則緩和や集団的自衛権行使を可能にすることなどが求められている)などを紹介します。
 そして私が実際に話をしたことがある米兵のことを語ります。米兵とランチトークをした際に「なぜ米兵になったのですか?」と私が問うとどの米兵も「大学に行かせてもらえるから」「家族を楽にさせてあげられるから」という回答でした。元米海兵隊員の故アレンネルソンさんも「私はスラム街出身で冷蔵庫の中に食べ物が入っているのを一度も見たことがなかった。ある日スラム街に米兵がスカウトにやってきて美味しそうな食べ物と女性に囲まれる米兵の写真を見せられ母を楽にさせられるんだ、と思い入隊した」と語っていました。いつも、このお話をした上で『労働法制改悪』の話にも触れ、若者が貧困に追いやられる、そして貧困が若者を戦地へ追いやるのだと訴えます。
 安倍首相がいう「企業が最も活躍しやすい国」と「戦争する国づくり」はリンクしているんだ、ということを強調します。
 アメリカの他国経済支配・財界の儲けなど、“一部のお金持ちがもっとお金持ちになるために若い人が貧困に追いやられ命まで奪われる”これが安倍自公政権の狙いであることを訴えます。
 このように社会的事象の構造的な原因を伝え、打開策を探るという姿勢も団員マインドを生かしたものだと思っています。
四 最後は「希望」を必ず語る
 どんなに戦争法案の危険性を訴えても、それだけで『やる気』は出ないのだ、と実感しています。私自身がそうだったからです。
 かならず最後に、「歴史が前に進んでいること」をデータなどの材料を示して伝えます。
 五〇年代から始まっていた歴代自民党政権による改憲策動を許していない日本国民の意志の強さ、安倍政権の動きは急ピッチで大変危険だが、明文改憲や九六条改憲を許さず立憲主義を壊さないと野望を果たせないところまで追い詰めていること、戦争法案反対の世論が広がり続けているのも運動の成果であることを語ります。
 そして世界史的にみた時に日本国憲法の平和主義が、人類史発展の証であり、軍事同盟国下の人々の割合が六七%だったのが現在は一六%にまでなっており世界の流れは憲法九条の方向に大きく動いているということを、世界地図パネルを示して語ります。
 『九条はもはや理想ではない。九条こそ現実的なのだ』『日本国憲法は歴史を前に進めるバトンなのだ』と強調します。
五 沖縄を主軸に語る
 私が重視している「語るべきポイント三つ」を書きましたが、これらを伝える際に「沖縄を主軸に語る」ことに手ごたえを感じています。
 沖縄は日本の縮図だと思います。
 四人に一人が亡くなった沖縄戦は“国体護持のための捨て石作戦”でした。集団自決(自死)とは、“捕虜になることは天皇への恥”だと国家が自殺を強要する戦陣訓を叩き込んだ結果でした。ここに「国家権力が横暴を振舞うとどうなるか」の本質が示されており、立憲主義の価値が見出されると思います。
 また、米軍基地が押し付けられ基地被害の多発する沖縄の現状には、対米従属という日本の性質があらわれ、安倍自公政権の狙いの本質が示されています。
 そして、“オール沖縄”で保革を超えて一致団結する沖縄の姿は、進むべき日本の未来を指し示す「希望」そのものです。
 これからも、足を運んでくれた方々の心に響く語りを、希望が持ち元気が出る語りを一生懸命続けていこうと決意しています。


戦争法案阻止への千葉支部の動き

千葉支部  岩 橋 進 吾(支部事務局長)

一 学習会
 学習会の数は把握できていない。また反応についても執行部の力量不足で把握できていない。しかし、学習会の講師要請が格段に多くなってきている。革新懇、労働組合、新婦人、九条の会などからの講師依頼が多くなっている。
二 宣伝
 憲法改悪反対共同センターが九のつく日に宣伝をしていたのを毎週火曜日に宣伝をするようにした。千葉駅頭の約一時間の昼宣伝である。毎回数十名が参加をしている。
 団のリーフレットを一万部追加注文をした。五〇〇〇部は九条の会に回し、五〇〇〇部は団支部で配布する予定である。また、団支部の横断幕も三種類作成した。
三 弁護士会
 七月七日、七月二一日、八月六日と宣伝を予定している。弁護士会では、千葉以外に船橋及び松戸でも宣伝をしている。弁護士九条を守る会が、年配者の呼びかけによって六月一九日に行われ、小沢隆一教授に講演をしていただいた。約五〇名の会員が集まった。年配者三名から戦争体験も語っていただいた。
 また、歴代会長三〇名の賛同を得てアピールを出し、七月七日は歴代会長四人が弁護士会の宣伝でマイクを握った。マスコミも取材に来ており、東京、朝日、毎日、千葉日報や赤旗にも配信された。
四 集会
 六月一三日に千葉公園で戦争反対集会を実行委員会形式で行った。共産党の国会議員のみならず民主党の議員や宗教者も参加をし、女子高校生の決意表明もあった。参加者は、約四〇〇〇名であり、メーデーなどを超える規模であった。団員は、何人かが発言をしたりし、支部の約四割が参加をした。
五 国会要請
 七月九日憲法改悪反対共同センターが国会議員会館に地元選出の国会議員を訪ねて要請行動を行った。団員三名が参加をした。それ以外に、安保法制特別委員会の委員及び地元選出の国会議員に法案を撤回する旨の要請ファックスを七月一〇日に送った。また、千葉中央法律事務所、千葉第一法律事務所及び弁護士法人房総法律も同様の要請文を事務所名でファックスをした。
六 今後の動き
 今後もいろいろな行事が予定されている。その中の一つに、七月二七日に六〇期以降の若手会員が呼びかけ人になり、若手弁護士対象に先輩弁護士の戦争体験を聞くとともに、伊藤真弁護士に講師を依頼して講演会を開く予定である。


*盗聴法特集*
隠れたる「立法事実」 盗聴法拡大に反対する―思想調査事件の体験から

東京支部  鈴 木 亜 英

 盗聴法拡大の衆議院審議が山場を迎えている。これまで特定の犯罪群に限定されていた通信傍受法なる盗聴法(以下盗聴法)は犯罪対象を一気に一般犯罪に広げることで、市民の人権が脅かされる危険は格段に高まった。使いものにならなかった自動車だが、具合の悪かったエンジンを取り替えて本格的に乗り回すと云う。立法事実もないのに、市民がそのプライバシーを権力に捧げなければならない法案を悪法と呼ばずして何と云えばよいのか。
 私は緒方電話盗聴事件(以下緒方事件)の弁護団を務め、自分自身の思想調査事件を闘った経験から、今回の改悪法案は決して成立させてはならない人権侵害法案だと確信している。緒方事件も思想調査事件も侵害される法益の主要な側面はプライバシー権である。
 プライバシー情報はその収集、管理、使用のすべての面で権力の恣意的な乱用を許さない。緒方事件では情報の違法な収集が、そして思想調査事件では情報の違法な使用が専ら咎められることになったが、公安警察の情報収集は表面に浮上した部分だけでは明白でないことも多いが、実は組織的であり、計画的である外、根深く系統的であることである。直ちに、何かに使うためのこともあろうが、実は公安警察が、いつの日かに備えて、地道に蓄積するのが狙いである。選別をせずにむやみと収集されるだけに犯されるプライバシーも広範囲・無限定となる。その姿はさながら営々と築かれた蟻塚にも似ている。
 このようなメカニズムを持つ公安警察の情報収集は当然隠密裏に行われ、収集の方法も管理も実態も闇の中にある。一般刑事事件を捜査した刑事警察からも、公安にとって都合よいと思われる情報は躊躇なく持ち込まれるという。その点では刑事警察も公安警察も壁垣はないらしい。
 盗聴・盗撮、尾行、聞き込み、様々な印刷物、インターネット情報の収集、ありとあらゆる方法が駆使される。
 緒方事件発生の時は盗聴法は存在しなかったから、電話盗聴には合法も違法も区別なしにすべてが違法であったが、今後は「合法」盗聴から得られた情報も必要とあれば公安警察に垂れ流しとなるに違いない。実はそのことこそ「立法事実」なのではなかろうか。それだけに厄介さは増幅する。
 さて、さらにここからがさらに厄介である。秘密が暴露された時の公安警察の対応である。私の事件で云えば、抗議文には三行半の返答から始まり、利用された公安情報が果たしていずこにその源があるのか、その追及には一切答えず、法廷では出頭した証人警察官はウソをつきまくってごまかそうとした。なぜ弁護士鈴木亜英を日本共産党員として把握したのか?刑事事件の捜査報告書には「党員として把握されている」と断言され、「把握」は過去形となっていた。警視庁公安部にある情報の「貯蔵庫」は口が裂けても言えないとするのが警察の姿勢である。それでは彼らは何といったか。曰く。「鈴木弁護士の所属する三多摩法律事務所の建物の外側には共産党のポスターが貼ってあり、かってこの事務所の前を通りかかった時、相棒の警察官から、『ここは共産党の法律事務所だ』と教わった」、「鈴木弁護士は共産党機関紙に何回も名前が載っていたことがある。だから、共産党員として把握した」と言い張ったのである。この弁解がすぐにも崩れる脆いものであることは誰にもわかる。
 しかし、さらなる困難が待ち受ける。「貯蔵庫」の存在は直接これを証明する資料は乏しく、止むなく間接事実の積み重ねに頼らざるを得ないが、審理を担当する裁判所はこの秘密の奥深く分け入ることは決してしない。裁判所は国家機関として立ち振る舞う。偶然拾い集めた証拠により判断したのと狙いをもって、系統的に収集した情報群から判断したのとでは違法性の程度も慰謝料額も違う。しかし、裁判所はこの解明を嫌うのである。思えば、緒方事件の時、国賠訴訟の被告国側は、極秘情報収集の指揮部隊、通称[四係」の存在について一切の認否をしなかった。現在仙台高裁で闘われている陸上自衛隊情報保全隊国賠訴訟一審段階においても、被告国は事実についての認否をしなかったと聞く。偽証と「黙秘」で逃げる加害組織を追い詰めるのは国賠訴訟が有効だが、裁判所が彼らの前に立ちはだかって、これを容易にはさせないと云うのが実態である。せいぜい情報貯蔵庫の出入りだけを問題にするに過ぎない。
 民主主義社会にあって、罪もない市民が「公安」という権力組織の前に丸裸にされて良いわけがない。戦前に私たちの先輩が経験した空恐ろしい思いを再来させてはならないとの思いから、私は大義のない、悪用さえ想定された盗聴法に反対である。私のように立場に恵まれた者はまだ良い。しかし、一般の市民がプライバシーを奪われても、闘えるすべもなく、闘っても幾重もの障壁か待ち構えているとあれば、救われる道は極めて狭い。私は「合法」の名の下に市民のプライバシーが取得され、それが暗の世界で利用されることを恐れるものである。


日本版「司法取引」参考人意見(骨子)

東京支部  今 村   核

 七月一日に衆議院法務委員会で「司法取引」につき参考人質疑が行われた。私も参考人の一人として意見を陳述したので、その骨子を報告する。
 今回導入されようとする司法取引は「他人の罪を明らかにすることにより自分の罪を軽く処分してもらう」ことができる制度だ。アメリカの制度で、拘置施設で密告者(スニッチ)が、自分の罪を軽くするべく「犯行告白を聞いた」と虚偽の密告を行う冤罪事例が多発した。一例としてロン(元マイナーリーグ選手)、フリッツ(元生物学教師)事件を紹介する。女子学生に対する強姦殺人で、ロンと同じジェイルにいた女性は「ロンから犯行告白を聞いた。肛門にケチャップをつっこんだと言っていた」と証言し、実際に遺体の肛門からはケチャップの蓋が出て来た。彼女は偽造小切手行使の常習だったが不起訴となった。フリッツの同房者は、「フリッツは『俺たちは彼女を傷つけるつもりはなかったんだ』と目に涙を浮かべて告白した。『私には娘がいる。決して人に言わないでくれ』と口止めされた」と証言。毛髪鑑定もあり有罪となり、ロンは死刑、フリッツは終身刑に。死刑執行寸前、人身保護請求が認められDNA鑑定が行われた。犯人遺留精液、現場の遺留毛髪ともDNA型が両名と一致せず無実が判明した。有罪後DNAテストにより救済された第一号事件から第二五〇号事件まで記録を検討したギャレットの研究は、事例を誤判原因ごとに分類するが、「嘘を付くジェイルの情報提供者」による誤判が五二例、二一%ある。
 日本でも、これまで闇の司法取引が行われた事例は多いと考える。二〇〇八年福岡地裁小倉支部で無罪となった事件を紹介する。北九州市引野口のN方から出火、瓦礫に埋もれたNの炭化した遺体には心臓に刺創があり、放火、殺人事件として捜査。妹Kが別件逮捕、勾留された。Kは黙秘ないし否認。同房女性M(二一歳)は覚せい剤取締法違反で勾留され、窃盗の余罪八件の取調中だった。Mは「トランプをしているときKから『二回刺した。最初に右の首を刺した』と聞いた」と警察に報告、ホルマリン固定されたNの右頚動脈を調べると約五ミリの直線状の切れ目があり、鑑定医は刺創と判定、検察は「秘密の暴露」があるとして起訴した。Mは恩典として余罪のうち七件を不起訴とされた。Mは法廷でも詳細に証言。頚動脈の破損は、体表側から見て血管の奥側のみにあったが、刺創であれば、貫通しなければならない。弁護側鑑定により、血管の破れは、加熱による血液沸騰による水蒸気爆発と判定された。判決は、Mはそれと覚られぬまま警察のスパイとしてKを取調べていたもので黙秘権を侵害し、代用監獄制度を悪用したもので証拠能力はない、信用性もないとして無罪となった。
 村木事件は、虚偽の公的証明書の作成につき、上司が「村木に指示した」、部下が「村木に指示された」などと虚偽の共犯者供述を行った。上司は共犯であるはずだが全く刑事処分されていないのはおかしく、闇の司法取引が強く疑われる。村木事件の経過を見ると、多くの証人が公判廷で捜査段階の供述を翻し、参考人調書が排除され、信用性が否定された。しかし今回導入される「虚偽供述罪」は、司法取引で虚偽を述べたときに処罰されるというもので、公判廷で供述を翻すのが困難となると予測される。
 外国法制につき一つだけ述べると、ドイツでは「自分の罪」と「他人の罪」が全く無関係なのに、刑事責任が軽減される理論的根拠がないとして、両者に「牽連性」を要求する。法案では全く関係ない他人の罪を密告したときも軽く処分されるが、責任軽減の根拠がない。
 闇取引を明るみに出すという主張も根拠がない。ギャレットの研究では、「ジェイルのスニッチ」が虚偽の証言をした例が二八例あったが、正式な取引をしたのは二例に過ぎない。二六例は闇取引である。法案は闇取引を禁じるものではなく、利益誘導を法が認めたことにより、闇取引は裾野を広げるだけだと思う。アメリカでは現在、反省と制度改革が行われている。弊害が明らかになった今、この制度を輸入する理由は全くない。断固反対である。


派遣労働一一〇番、相談結果について

事務局次長  田 井   勝

一 相談について
 二〇一五年七月二日(木)の午前一〇時から午後八時までの合計一〇時間、派遣労働者の方を対象にした電話相談を行いました。
 「改正」案を不安に思っている派遣労働者の声を集めて国会に届けよう、という目的の元、緊急で行いました。当日は東京労働会館(東京都豊島区)に電話を六台設置し、総勢二四名(弁護士一九名、組合員五名)が交代で電話相談に対応しました。
 相談にあたっては、複数のマスコミにも報道してもらったためか、当日は電話が鳴りやまない状態が続きました。
 またその他にも、全労連や自由法曹団のツイッター、フェイスブック(SNS)で告知しました。当日はこの電話相談をツイッター等で知ったという相談者も何名かおり、SNSの有効性も再認識しました。
二 相談者の概要
 相談者は、電話相談者が三八名、来所しての相談者が二名(うち一人は事前に電話相談)で、合計三九名となります。ほとんどが派遣労働者として働いている方です。
 年齢ついては、平均四一歳。比較的、ミドルエイジ世代の方が多かったです。この世代の人こそが、派遣の不安定雇用を一番実感しているのかなと感じました。
三 相談でのアンケート結果について
(1)労働者派遣法改悪について
 電話相談では、個別の法律相談がメインとなりますが、それに併せて、相談者に「改正」案に関するアンケートの協力をお願いしました。
 今回の法案の国会提出については、ほとんどの方が「知っている」と答えました。また、多くの方がこの法案の内容をよく理解されていました。
 そのうえで、「改正」案について、ほとんどの方が「反対」と返答しました。みな、期間制限が事実上撤廃され、派遣労働者が増えてしまう可能性が高い点を問題視し、法案が成立してしまうことの悩みを訴えていました。
 「改正」案の内容について、具体的な意見を抜粋します。
(1)三年ごとに一から新しい仕事を覚えるのはきつい。
(2)三年で契約打ち切りは労働者にも企業にもよくない。企業はその都度、教育をしなければならなくなる。
(3)いまの職場で働き続けたい。三年で首を切られる法改正には反対。
(4)長く働いても正社員になれないのはつらい。派遣のままの待遇ではいいことが全くない。
(5)派遣法四〇条の六のみなし規定に期待することが多い。一〇月一日の施行前に改正案を成立(施行)させるのはやめてほしい。
(6)専門業務で働いているので派遣法「改正」案は反対。
 この他、「派遣法『改正』案はもう成立したのか」「参議院の審議はいつからなのか」とか「施行時期はいつからか?三年の期間制限はいつからカウントされるのか」等々、法案の成否に関する情報を質問する方が多くいました。今回の法案によって確実に影響を受けざるをえない方だからこそ、法案の成否について心配しているのだなと感じました。
(2)派遣での働き方について
 派遣で働く理由については、「他に仕事がないから」という方が大半でした。
 また、「正社員になりたいですか」、という質問については、回答者二二名のうち一九名が「正社員になりたい」との回答でした。
将来の不安としては、「生活(収入面)」「仕事がなくならないか」との回答が多数を占めました。
 派遣での働き方に関する具体的意見を抜粋します。みな、この働き方の辛さを訴えられていました。
(1)派遣という働き方をなくしてほしい。ピンハネされるし不安定でいいところがない。
(2)正社員以上の業務量、正社員がやりたくない仕事をおしつけられている
(3)会社では「たかが派遣くん」と侮辱される。待遇面だけでも改善してほしい。
(4)派遣労働者みんな、「出来れば正社員になりたい」と思っているはず。
(5)今でさえ、法に守られていないと感じている。
四 相談内容について
 個別の相談については、契約解除に関する相談、パワハラ被害に関する相談、正社員との待遇格差に関する相談等々、様々でした。多くの方が苦しい立場で働いており、にもかかわらず、派遣元にも派遣先にも苦情を訴えられないつらさを感じているのだなと実感しました。
 電話での相談で解決できない相談者には、その後の窓口として各地の労働組合の連絡先をお伝えしました。また関東圏の方については、担当の弁護士が個別に継続相談をするなどして対処しています。
五 最後に
 多くの方が、この法案の問題点を「訴えたい」「伝えたい」と言われていました。複数の方から「国会議員にこの声を届けると聞いて、電話をかけている」と言われました。この声を国会にもっていき、廃案めざしてたたかわねばと感じました。
 なお、集計結果をまとめた一覧表は、団本部のホームページに掲載していますので活用ください。