過去のページ―自由法曹団通信:1532号      

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荒井 新二 この夏 展望を拓いて
佐藤 誠一 *改憲・戦争法制阻止特集*
戦争法制 参議院へ向けた取り組み
松井 繁明 自由法曹団員のための軍事知識(一)
齋藤   耕 安保法制廃案に向けた北海道支部の取り組み
吉川 健司 福井県支部における戦争法制阻止の取り組みについて
由良 登信 安保法制に反対する和歌山大集会&パレードが大成功
臼井 俊紀 山口県支部、弁護士会での戦争法制阻止のとりくみについて
横山   雅 *盗聴法拡大阻止・治安警察*
刑事訴訟法等の一括改正法案の現況と課題
前川 雄司
(市民問題委員長)
倉敷民商弾圧事件の検討会議の報告と感想
林  裕介 *教科書問題*
教科書に関する神奈川での活動報告
楠  晋一 大阪の教科書問題
梅田 章二 *「大阪都構想」住民投票のとりくみ*
「大阪都構想」住民投票運動を振り返って
杉本 吉史 住民投票に係る運動支援のための大阪支部の活動について
谷  真介 大阪市労組組合事務所裁判・大阪高裁で不当判決上告審代理人就任のお願い
久保田 和志 「九条俳句不掲載」国賠訴訟の提訴について
竹村 和也 管財人による不当労働行為を三度断罪
(日本航空不当労働行為事件高裁判決の報告)
椛島 敏雅
(弁護団長)
池永  修
(弁護団事務局)
原発労災裁判梅田事件(上)
平井 哲史 「闇」を暴く ―旧動燃差別是正訴訟の提訴報告(一)―
長澤  彰 責任の所在を明らかにしたうえで、出直せ新国立競技場見直し問題
後藤 富士子 憲法二四条は活かされているか? ―「法律婚主義」「夫婦同氏」「単独親権」
山口 真美
(改憲阻止対策
本部事務局長)
戦争法制阻止「夏の陣」たたかいはこれからです!
リーフレット第二弾 「安倍首相!違憲です!こんな説明で強行採決ですか?」の普及のお願い



この夏 展望を拓いて

団 長  荒 井 新 二

 この数年、七月か九月の初めに、富山立山でひとりテントを張って、三・四日間静かな時を過ごしてきました。峰や峠にとりつき展望が眼下にひらいていき、大地に引っ掻いた痕のような道が、遙か遠くの山塊に消えていく光景を楽しみにしていました。しかし今年は、そのような楽しみは今しばらくお預けのようです。
 この夏、いうまでもなく戦争法案の天下分け目のたたかいです。団員諸氏には、諸課題の遂行を怠たらず(大変でしょうが)、多忙の間も(大変な時だからこそ)メリハリをつけて、休暇がとれるよう願っています。自分の身体をいたわり、家族との貴重な時間を確保することは、なにものにも替えられない大事なことです。
 この夏の、いま渦中にある情勢と運動の展望について話したいと思います。

◇        ◇       ◇        ◇

  五月集会の挨拶では「隆々たる展望を築きあげる」ことに触れました。安倍首相の解釈改憲から来年の参院選挙を経ての明文改憲という長期プランに対抗する必要性を強調したのですが、今日眼前にある情勢の輪郭は、挨拶時の想いを遙かに超えるものと言ってよいものでしょう。
 最後の衆院・安保特別委で安倍首相は、「戦争法案」を国会議員は理解しているが、国民の理解が不十分だと言いました。立憲主義に対する理解の欠如は、議会代表制の無理解と一直線で繋がっていたのです。この不遜な言葉は、主語を取り違えています。国民は戦争法案を理解していますが、説明に対する共感がないのです。
 この間の安倍内閣の説明は、同じことの繰り返し、あるいは答えるのに条文を以てする類が目立ち、説明する度に国民の理解が困難になると伝えられています。
 安倍首相はイラク戦争やアフガン戦争などには参加する積もりはないし、自分の念頭にあるのはホルムズ海峡の掃海であるなどと口にし、さらに軍事政策の内容を述べることは海外のリーダーもしないと居直りました。そして衆院審議を打ちきり強行採決に持ち込みました。

◇        ◇       ◇        ◇

  交戦権を否認されているわが国の首相が他の先進国のリーダーに自分を擬することはおかしい。海外派兵が一般的に禁じられている前提ならば、TPP風に言って、ネガティーブリストではなくポジティーブリストを開示しなければなりません。安倍個人の頭の中を見せられても、立法にあたっての審査としてはおかど違いです。安倍氏の信条や持論は、累代の内閣の見解をひっくり返し、憲法学者からダメだしされ、使いものにならない砂川判決の独自解釈に立てられています。最終的に信のおけない言葉になっています。裸の王様の為政者の言うことは信用できない、ときつく言われています。ここに立憲主義を侵犯することの結末が現われています。
 説明すればするほど戦争法案が不可解なものになると言う裡に、国民は安保条約のうえでのアメリカと一体となった企みと作戦等の密約があると推知し始めています。そのこともあって安倍不支持が相対的に多くなってきています。

◇        ◇       ◇        ◇

 戦争法案の舞台は参院に移りました。参院では、突っ込みどころが満載ですし、審議のあり方でも重要なPKO法にしても、これまでの論議では明らかに不足です。しかも参院は「良識の府」。安倍氏らに六〇日ルールの網をかけられて、「虚仮」(こけ)にされようとしていることに反発の芽が生じるでしょう。議員は、お盆休みでいったん帰郷することになりますが、与党幹部の厳しいしめつけの前に軽視しがちな有権者・後援者の生の声に、身をもって触れることになるでしょう。われわれ団員も、この鎮魂の夏、彼らに―与党か、来年参院選の改選議員か否かにかかわらず―、心を込めて平和と非戦を語りかけていきましょう。そこから展望が一段と間違いなく開いていくことでしょう。

◇        ◇       ◇        ◇

 展望は、むろん、国会のせまい場所にあるのではありません。全国で繰り広げられている戦争法案の反対運動は、歴史的な盛り上がりを示しています。各地弁護士会が呼びかける集会・パレードは、すべて予想を超える規模と内容の充実をもたらしています。シールズなどの運動をはじめ、若者や女性たちの多様な運動は、借り物ではない内発性に満ちています。各層・各界の方がたとの運動の一体感が生まれ、これまでにない可能性が胚胎する、刮目すべき現象にもなっています。そこに若い団員の活躍が見られることは嬉しいことです。強行採決後も、酷暑にもかかわらず、国会前で連日のように抗議の声をあげる大勢の粘り強い方々の取組が続けられています。先の七月の静岡の常幹では、各地の感動的な報告が途切れることがありませんでした。他の課題ともあい連動して、安倍内閣の政治に対する総対決の様相を強めています。

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 国会内外の展望が開かれていくなかに、他の分野での自由法曹団の取り組んでいる諸法案に対する運動があります。派遣法「修正」案は、衆院を通過し参院厚労委員会審議となっていますが、ここにきて九月一日施行に向けての審議日程がタイトになってきました。派遣労働者の正社員採用への架け橋を断ち切り、彼らの無権利な状態を固定・悪化させる法案に対する批判が、労働基準法「改正」への抗議・撤回の要求とも結んで、急速に強まっています。派遣労働者をはじめとする社会の底辺におかれている多くの労働者たちの切実な「労働し生きる権利」「人間にふさわしい生活」の保障という大きな任務を、自由法曹団は積極的にになっていかなければなりません。
 新しい刑事手続立法の刑訴法等「改正」案は、当初の一律一括審査の拘束から脱し、審議が進めば進むほど法案の問題点が明確になり国民の理解がすすんできました。各法案ごとの参考人意見を通じて自由法曹団の見解が国会内外に浸透しています。民主党と維新の党の共同による抜本的な修正案も提案されています。その内容は、日弁連の本来的な要求に実質的に共通しています。与党推薦の参考人(学者)が取調を本人の反省と更正に効用があると評価しましたが、それは村木事件等からスタートしたえん罪防止のため「過度の取調」を検討する立法課題が、いつのまにか「取調等に過度に依存した」取調等の代償という名目で盗聴拡大や司法取引の捜査手法の創出に変質していった過程を逆照射することになりました。野党議員たちも集中して、このことを批判しています。今国会で廃案にできる十分な条件が生じています。

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 目を国会から転じるならば、辺野古新基地問題で、八月中旬にも大浦湾の埋立承認撤回・取消に関する沖縄県の行政判断をめぐり、安倍政権による攻撃が繰り返して行われること必至です。この政権は、オール沖縄を掲げる現知事による県民意思を屈服させて、ここでも日米安保を最優先にしようとしています。自由法曹団は、沖縄県の自立的な経済発展に矛盾する新基地の建設に反対し、県の立場と方針を全面的に支持して協同を強めていかなければなりません。基地の八割近い供出を強いる異常な事態を早急に解消させるため、全国の団支部で沖縄を支援する体制を急速につくりあげ、戦後七〇年の非戦平和の思いを具体的な運動に生かすべきときです。
 川内原発を再稼働する動きもこの夏に大きく進められようとしています。原発→沖縄→戦争法案の運動の国民的な大きなうねりに自信を持ち、再稼働の動きを許さない運動をさらに強化していくことが重要です。ほかにも重大な局面にさしかかったTPP問題をはじめ、教科書問題、社会保障の問題など、直面する遂行課題は山積しています。これらの諸課題の取組は、安倍政権に対する総対決の重要な一環となっています。運動が旺盛に展開するならば、全局に亘って安倍政権の施策・姿勢を厳しく問うものとなります。

◇        ◇       ◇        ◇

 九月末日までの九五日間は確かに長い。が、その期間は我々が体勢を整え、エネルギーを発揮して、戦争法案をはじめとする諸法案を廃案に追い込む具体的なプランの策定と実行を鋭意積み重ねていく時間的な余裕を与えられた、と理解しようではありませんか。
 戦後七〇年のこの夏は、格別に「熱い」夏になりました。心を寄せ合って、真に熱い運動を持続させていきましょう。勇躍した、また地に着いた運動をしようではありませんか。そうして将来に希望を十分に託しうる筋道をつけましょう。
 戦後七〇年、歴史の岐路にふさわしい取組と運動を、われわれは展開するのみです。安倍強行政権は、いまや明文改憲の道への手がかりを確実に失いつつあるのではないのでしょうか。屹立とした展望を得つつあるのは、今や我がほうと言うのは決して妄言ではありません。
 まだまだ暑い日々が続きます。団員の皆さんのご健康、そしてご健闘を心から願って挨拶とします。 


*改憲・戦争法制阻止特集*

戦争法制 参議院へ向けた取り組み

東京支部  佐 藤 誠 一

 学習会の日程を入れるとき、衆院採決後になるであろう日程で入れることにちゅうちょし、やっぱり強行採決となってしまった、さてどうしよう、何を語ろうと言うとき、田中隆さんのレジュメを大いに参考にさせていただきました。強行採決はやられてしまったのではなく、私たちの運動が、国民の声が自公を追い込み、苦し紛れの採決となったのだと思います。連日の国会周辺の行動、全国津々浦々ご当地始まって以来という人員規模の集会・パレードの連発…うきうきしてしまいます。私は、「憲法の危機」ではあってもこの運動に参加することがとっても楽しい。展望がもてる。
 実際、衆院採決後、安倍政権の支持率が初めて不支持が支持を上回った、あれほど変更しないと言っていた新国立競技場が世論に押され白紙撤回となった、さらに七月一九日発表の毎日世論調査でとうとう安倍不支持が五〇%を超え、支持が三五%まで下がった。内閣の「危険水域」と言われる三〇%まであと一息。ここまで国民の意見が明確に「戦争No」となった以上、戦争法制を廃案とすることができたら、改憲勢力のダメージは計り知れない。かなりの期間九条改憲の提起はできなくなると思います。
 これまで安倍政権の提起した政策が「反対」が過半数となることはあっても、不思議と内閣の人気は衰えなかった。それが、今回ばかりは、政策の「反対」が内閣の「不支持」へとつながっている。これは重要です。正に「アベ政治は許さない」です(世の中の「アベセイジ」さんに罪はありません。申し訳ありません)。
 参院は衆院と同じか?いやいや、参院議員のステータスとしても、衆院と同じではその存在意義が問われます。衆院は世論に背いた、参院はもっと世論に耳を傾けるべきではないか、「参議院よ、おまえもか」ではいけない、再議決なんて許していいのか、こうアピールしましょう。
 日本の八月は特別の月です。ヒロシマ、ナガサキ、そして終戦記念日、お盆と続きます。八月は戦争被害に思いをいたす月、鎮魂の月、そして亡くなった祖先を祭る月です。TVでも例年それに見合った良心的なドラマやノンフィクション番組がたくさん放送されます。非戦・反戦・戦争被害への思い、語らいを経て、八月後半から九月にかけての勝負に挑もうではありませんか。
 (そう自らも決意して)連休明け二一日、蒲田駅駅頭の事務所恒例週一宣伝でのこと。団リーフを受け取ってくれる年配女性に「連日テレビに出ているでしょう、ごらんになってますか?」と声をかけると、「見てるわよ」「許せないわ」などと反応が返ってきます。中には「(テレビの街頭インタビューを)蒲田でもやってくれないかしら、私一言いいたいわ」という方も。これまでにない広がりを本当に実感します。
 それからもうひとつ。選挙権年齢が一八歳に引き下げられます。対象を高校生に絞った宣伝も重要だと思います。日頃の街頭宣伝で高校生のビラの取りが悪いのは、大人たちの問題で自分たちの問題ではない、と思っているからではないでしょうか。地元東京・大田区の高校前で、一八歳選挙権をテーマに、「みんなも来年の参院選から投票だ、ひょっとしたら憲法改正の国民投票もあるかも」、という街宣やりました。驚くくらいビラの取りがよいのです。自民も一八歳対策に躍起です。私たちも位置づけて取り組みませんか。


自由法曹団員のための軍事知識(一)

東京支部  松 井 繁 明

(1)弾薬の補給
 戦闘現場以外への「後方支援」活動を容認することは自衛隊へのリスクを増大させる。この批判に対し政府答弁は、「活動期間を通じて戦闘行為が発生しないと見込まれる場所」を「活動地域」に指定するからリスクは増大しない、という。
 しかし戦争法案は「弾薬の補給」を自衛隊の任務とすることを認めている。「弾薬の補給」の実態はどのようなものであろうか。
 アメリカ陸軍の師団や族団戦闘団が戦闘をするとき、最前線に配置されるのは歩兵ある。各戦闘単位の中で純粋な歩兵の占める割合は一〇%以下である。九〇%以上の各部隊は後方に配置される。
 当たり前のことだが、「弾薬の補給」は弾薬の欠乏した部隊にたいしておこなわれる。実際の戦闘では、後方に配置された部隊(砲兵をのぞく)はほとんど弾丸を撃たないので弾薬が欠乏することはあまりない。これにたいし敵と直接対峙する最前線の歩兵部隊は大量の弾丸を発射し、たちまち弾丸が欠乏する。「弾薬の補給」を任務とする自衛隊は、「後方から」近づくにしろ最前線の歩兵部隊まで弾薬を運びこむことになる。後方の「活動区域」まで弾薬を運び、アメリカの歩兵に「取りに来させる」わけにはゆかないからである。
 戦闘中の最前線の歩兵部隊は、まさに「戦闘の現場」そのものであって、そこへ「弾薬の補給」に行く自衛隊にリスクの増大がない。―そんなことはありえないのである。
(2) ガイドラインと南シナ海
 四月に合意された新ガイドラインを読んで「おい、おい」と思ったものだ。
 「日米両政府が海洋安全保障のための活動を実施する場合、日米両政府は、適切なときは、緊密に協力する」ことが約されている。これでは、アメリカの海洋作戦に日本はいつでも「緊密に協力」させられてしまう。
 とりあえず思い浮かぶのは南シナ海である。この海域では、中国の進出にアメリカが対抗しているが、戦力の不足が否定できない。護衛艦二隻、P3Cまたは最新鋭のP1哨戒機三機程度の派兵を、アメリカが日本に要請してくることが予測される。これはしかし、日本にとって思いのほか重い負担となる。
 たとえば今、海上自衛隊は海賊対策として二隻の護衛艦と三機の哨戒機をアデン湾に派遣している。二隻の護衛戦派遣には、故障などに備えて予備一隻を確保しなければならない。また、次の派遣に備えて三隻の護衛艦を整備・訓練する必要がある。―二隻の護衛艦派遣のために六隻が拘束される(他の任務に就けなくなる)のだ。
 海上自衛隊は現在、四七隻の護衛艦を持っている。しかし、修理中その他の理由で動けるのは三五隻程度。そのうち新兵が乗り込んだばかりで直進するのがやっとという船が四分の一はあるから、作戦行動ができるのは約二三隻しかない。そこから海賊対策と南シナ海に各六隻取られれば、半減してしまう。
 海上自衛隊は米ソ対決の時代から、宗谷・津軽・津島各海峡を哨戒ポイントとして護衛艦を常駐させてきたが、今では沖縄近海も加わっていよう。
 南シナ海への派兵が加われば、海上自衛隊の大増強が不可避。防衛予算の増大は避けられない。これにたいし政府は、防衛予算の上限は防衛大綱などに定められているから「心配ない」と答弁している。しかしそれでは日本近海の「防衛」を手抜きするほかなく、小林節教授が指摘するとおり「本末転倒」といわざるをえない。アメリカに協力するために日本の「防衛」を危うくする―なにが「積極的平和主義」なのやら。


安保法制廃案に向けた北海道支部の取り組み

北海道支部  齋 藤   耕

一 道内各地での学習会講師活動
 二〇一三年一二月に制定した秘密保護法案に関して、同年秋頃から、民主団体、九条の会から学習会の講師要請が団員に寄せられるようになった。
 講師の要請は、秘密保護法案成立後も、集団的自衛権に関する要請として、止まらず各地から寄せられるようになっていた。
 その要請は、北海道支部の団員のおよそ九割がいる札幌近辺のみならず、道内各地から寄せられる。
 こうした要請に、旭川の畑地団員、釧路の吉田団員らと協力しつつ、対応している。
 中には、二時間程度の講演のため、ほぼ一日を移動にかけた団員もいる。広い道内各地からの学習会の要請に団員は精力的に答え続けている。
二 弁護士会での活動
 札幌弁護士会は、二〇一五年五月二二日に開催された定期大会において、安保法制に反対する総会決議をあげるなど、道弁連傘下の各単位会で、法案に反対する会長声明をあげるなどした。
 さらに、札幌弁護士会では、七月五日から一七日までの期間、ほぼ毎日、市内で、街宣を行った。
 署名に応じる市民が多く、手応えを感じられる活動となっている。
 そして、七月一一日、道弁連が主催して、「わたしたちは戦わない(NO WAR)―集団的自衛権・「安保立法」ストップ―七月一一日北海道集会&パレード」を開催した。
 当日は、三〇度を超える真夏日となったが、連合北海道、道労連が協力したこともあり、約六〇〇〇名の参加となった。
 集会では、地元の憲法学者、若者、宗教者(キリスト者、仏教者)、元自衛官、そして、法案に反対する各政党の代表者らが挨拶をし、安保法制反対のオール北海道集会となり、北海道民に対し、安保法制反対の力強いメッセージを伝えることが出来た。
 参加者からは、「弁護士会に期待しています!」など弁護士会への期待の強さが感じられた。
三 道憲法会議等の活動
 道憲法会議、共同センターでは、共同で、週一回程度の街頭宣伝を行ってきたが、前述の札幌弁護士会の毎日の街宣が開始するとこれと共同してお今なってきた。
 そして、道憲法会議、共同センターが呼びかけ、六月一日、七月二二日の二回、札幌市内の国会議員事務所へ法案反対、慎重審議を求める陳情を行った。
 陳情は、団員の他、救援会関係者、婦人団体等から参加者を募り、三〜四グループに分かれて行った。
 与党の対応は、事務所毎に異なっていたが、参加者は口をそろえて、与党の地元事務所に対し、電話、FAXなどを含めた陳情を行う必要性を述べていた。
 ここで、私の感想を若干述べさせていただきたい。
 私は、二回とも陳情に言ったある自民党衆議院事務所では、地元秘書が丁寧に対応してくれ、七月二二日の陳情の際には、「私自身の意見はここでは述べませんが。」と言いつつ、「今回の法案が直ちに戦争を引き起こすことにならないとしても、この法案成立が蟻の一穴となり、いつか来た道をまた引き返すのではとの不安は分かります。」と答えてくれた(正直、この秘書は、審議の進め方に疑問を抱いているのではないかとの印象を持った。)ことが強く印象に残った。
 いずれにしても、各地で与党議員に反対の声を届けることの必要を強く感じさせるものであった。
 今後も、道憲法会議等では、議員廻りを行うことを予定している。
四 その他
 その他にも道内の団員は、様々なところで活躍している。
 その全てを紹介することは紙面上できないが、全国ニュースでも取り上げられた一九歳(当時)の若者のよびかけではじまった「戦争したくなくてふるえるデモ」などの若者の活動に際しては、団員らが中心となって警備活動などを行っている。
 その他、たかさき法律事務所九条の会は、七月一日に池辺晋一郎氏を招いて、市民集会「池辺晋一郎さん 平和を語る夕べ」を開催したり、郷路征記団員は、ユーチューブのSEALD-sのメンバーの訴えの映像のURLを、メールアドレスの知っている札幌弁護士会の会員(その数数百人!)にメールで送信し、若者の訴えを聞いて欲しいと伝えたという。
五 最後に
 衆議院での強制採決は行われたが、戦後七〇年目の夏を挟んでの参議院での審議では、私たちの声を国会に届けることで、法案を廃止に出来ると信じて、今後も精力的な活動を行うことを予定している。


福井県支部における戦争法制阻止の取り組みについて

福井県支部  吉 川 健 司

 福井県は、民主党が政権を取った二〇〇九年総選挙においてさえ、自民党が全ての小選挙区の議席を独占する自民党王国です。その代表は、現自民党政務調査会長であり、歴史修正主義でも悪名高い稲田朋美議員です。
 しかし、そのような保守王国においても、今回の戦争法案に対する反対運動は盛り上がりつつあります。そして、福井県支部の団員も、反対運動を盛り上げるために頑張っています。
 最初の主な取り組みは、六月二七日に行われた福井弁護士会主催の集団的自衛権を考えるシンポでした。島田広団員が中心となって企画し、集団的自衛権についての模擬ディベート、来場者に答えてもらう憲法クイズ、南野森九州大学教授による「最近の憲法論議を斬る−集団的自衛権の問題を中心に」という演題での記念講演という盛りだくさんの内容で、来場者が楽しみながら、立憲主義、集団的自衛権についての理解を深める内容が好評でした。来場者も一〇〇数十名に達し、福井県内のシェアが八〇%を超える福井新聞でも大きく取り上げた記事が掲載されました。
 七月一日には、福井弁護士会会員有志二一名が呼びかけ人となって、戦争法案反対の県民集会が開催されました。参加者は五〇〇名以上となり、その後のデモ行進も長い列となりました。特筆すべきは、この集会の呼びかけに対し、福井県において初めて、連合所属の労組と県労連所属の労組が一緒に賛同し、県民集会に参加したことです。その結果、多数の様々な市民団体も集会に参加し、おそらく福井県で初めての幅広い共同による集会とデモ行進が実現しました。
 福井県支部の団員は、この集会を成功させるため、呼びかけ人となる弁護士をできる限り増やすために努力しました。その結果、福井弁護士会会員一〇二名中二一名という二割を超える呼びかけ人を組織することができました。
 七月一二日には、九条の会北陸ブロック交流会が福井大学において開催され、富山、石川、福井から一〇〇数十名が参加しました。小森陽一九条の会事務局長が「止めよう『戦争法』なしくずしの『九条破壊』を許すな」という演題で基調講演を行い、その後、参加者は「会運営の悩みや工夫」「宣伝、学習活動の工夫」「女性の活動」「青年の活動」の四つの分科会に分かれて討論が行われました。北陸地域は自民党の強いところですが、それでも、各地において九条の会が様々に工夫した取り組みをして、戦争法案反対の声を広げていることが分かり、参加者にとって元気の出る内容でした。
 残念ながら、七月一五日には戦争法案が衆議院安保特別委員会で強行採決され、一六日には衆議院本会議で可決されてしまいました。
 私は、これに抗議するため、一八日、一九日と二日間続けて街頭宣伝をしました。私の個人的な感想ですが、むしろ、通行人の方からの反応は良くなっています。自由法曹団のリーフレットの受け取りもいいですし、応援してくれる人や、好意的な反応をしてくれる人も以前よりも増えたと感じました。福井県においても、安倍首相のあまりに強権的なやり方に反対する人が増えてきたのではないかと思います。
 衆議院で可決されましたが、まだ参議院があり、さらに、衆議院での再可決を阻止することで廃案に追い込むことは可能です。
 福井県からの反対の声を大きくするため、福井県支部として頑張っていく決意です。


安保法制に反対する和歌山大集会&パレードが大成功

和歌山支部  由 良 登 信

 和歌山弁護士会の主催(日弁連共催)で、七月一二日の日曜日に「憲法違反の安保法制に反対する七・一二和歌山大集会&パレード」を開催しました。県下各地から二五〇〇名の市民が集まり、会場の和歌山城西ノ丸広場が埋め尽くされました。県下の人口が九六万人の和歌山で、これだけの市民が野外で集まった集会をこれまで知りません。県下の九条の会、平和フォーラム、県地評(全労連)、民主党系の市民団体などが、垣根を越えて、「安保法案反対」の一点で集まりました。
 それぞれの団体が、自分達の集会と位置づけて自主的に取り組み、和歌山市内に一五台のバスをチャーターして参加者を会場に運び、県下の橋本市、那賀郡、御坊市、田辺市、西牟婁郡からもそれぞれの地域で観光バスを手配して集まってきてくれたのです。参加者から、「弁護士会が呼びかけてくれたからこそ、ものすごい規模で、立場の違いを越えて、法案阻止の一点で集まり、行動できました」という声が寄せられています。
 集会は、和歌山弁護士会の木村義人会長の「憲法に違反している法案を、在野法曹として断固阻止しなければならない」という開会あいさつから始まり、一時間の間に次の九人の方のリレートークで、それぞれの立場・気持ちで安保法制反対を訴えました。
 民主党衆議院議員 岸本周平さん(和歌山一区選出)
 日本共産党衆議院議員 宮本岳志さん(和歌山市出身)
 「九条ママnetキュッと」世話人代表 小池佳世さん(田辺市)
 カトリック修道女 田村悠紀栄さん(和歌山市)
 「平和の琉歌」と「翼をください」の歌唱 松永久視子さん
 自民党員で「戦争を語る会」代表 丹生邦子さん(橋本市)
 安保法案に反対する学者の会 江利川春雄さん(和歌山大学教授)
 「若者憲法集会実行委員会」 西澤正美さん
 和歌山県保険医協会理事長 龍神弘幸さん(医師)
 会場で、「弁護士会の集会なので、もっと堅苦しい話をするのかと思ってきたけど、すごくやさしい語りの集会で、感動しています」と話しかけてこられた方がいました。また、この集会に参加された年配の女性の方が、朝日新聞の声欄に投稿されて「色々な立場の方からあいさつがあり、自民党員という年配女性の『二度と戦争してはいけない』という声に感動しました。」と書かれていました。
 集会にひき続いて、JR和歌山駅前までの約二キロメートルを、街宣車五台でシュプレヒコールを呼びかけながら、けやき大通りをパレードし、炎天下で声を上げ続けました。先頭が出発して、最後がゴールするまで一時間三〇分かかる長蛇の列でした。
 私は、和歌山弁護士会の憲法委員会の委員長ですので、ゴール地点で、到着する人たちを迎え、声かけを続けましたが、参加者から「この集会を作ってくれてありがとう」「大成功や」「よかった」などという笑顔での声を一杯もらいました。
 次の「県下一斉大行動」の企画が動き始めています。


山口県支部、弁護士会での戦争法制阻止のとりくみについて

山口県支部  臼 井 俊 紀

 山口県支部の内山新吾会員は、今年度の日弁連の副会長に就任しており、その中で戦争法制阻止の日弁連の活動にも積極的に関与している。
 会務で多忙な中でも、地元に帰って来た時には、この問題での学習会や集会にも講師として呼ばれる等、奮闘している。
 この問題で山口県支部全体としては、山口県や下関市の憲法共同センターや革新懇に参加して、団員がその中で集会や街頭アクション等に参加している。
 また、弁護士会としては、六月一〇日付で「安全保障法制改定法案に反対する会長声明」を出した。
 そして、現在、七月二八日に山口地区、宇部地区、岩国地区、周南地区の五地区で街頭でのビラ、ティッシュ配布等を行って、反対行動を行うことが決定している。
 各地区で一斉に街頭宣伝に取り組むことは、弁護士会としても画期的なことである。 
 さらに、八月九日(日)には、安倍総理大臣の地元である下関で、下関地区会主催(三〇日の県弁護士会の常議員会で承認が得られれば、県弁護士会との共催)の市民集会、パレードを五〇〇人規模で実施することが決定されている。
 リレートーク方式で、児童文学作家の那須正幹さんや浄土真宗の常生寺(長門市)住職の高橋見性さん等を弁士として予定している。
 各団員は、この集会の企画にも積極的に関与しており、集会が成功して、総理の地元から全国を動かして大きなうねりとなるように奮闘中である。
 これらの活動が実施された後に、その詳細については報告したい。


*盗聴法拡大阻止・治安警察*

刑事訴訟法等の一括改正法案の現況と課題

事務局次長  横 山   雅

 戦争法案の廃案の反対運動が盛況な中で、盗聴法(通信傍受法)の拡大と手続の簡易化、司法取引の導入を含む刑事訴訟法等の一括改正法案の国会審議も盛況です。
 まず、同改正法案は、現在、衆議院法務委員会で審議中です。戦争法案の強行採決に伴い、刑訴法の一括改正法案の審議も停止し、七月末頃まで審議は再開しない見通しになっています。これまでの審議状況を振り返るとともに今後の課題も述べたいと思います。
崩れる与党の見通し
 与党は、当初、二〇時間程度の審議時間で採決を行う見通しでした。これは、法制審において、日弁連委員も含めた全員一致の採決で上がってきた法案であったこと、与党議員の法案の認識が「可視化法案」という認識に止まっていたこと等が原因にあったと思われます。しかし、布川事件の桜井昌司さんを中心とした冤罪被害者が反対の声を挙げたこと、各地の弁護士会や法律家団体から反対の声が多数あがったこと等を理由として、共産、民主、維新の野党三党は、戦争法案がなかったとしたら今国会最大の対決法案であるという共通認識の下、法案の徹底審議を求めました。
 その結果、法務委員会での審議は、法案全体の質疑だけでなく、(1)可視化、(2)司法取引、(3)証拠開示等その他、(4)盗聴法の四分野につき、参考人質疑を含めた個別質疑の時間を確保して、最後に法案全体の概括質疑を設けるという流れに決まり、当初の与党の見通しは完全に崩れ去りました。
法務委員会での審議状況
 本稿執筆時点で法務委員会の審議は、(1)可視化、(2)司法取引、(3)証拠開示等その他までの審議を終え、盗聴法の導入質疑の途中で停止している状況です。再開後は、盗聴法の質疑から始まることになります。これまでの審議の中で、加藤健次団員が(1)可視化、今村核団員が(2)司法取引、小池振一郎団員が(3)証拠開示その他で参考人として出席し、法案の不十分さ・不合理さを明らかにしています。(4)盗聴法では、長澤彰団員が参考人として出席する予定です。また、野党三党は、合同学習会をこれまで三回開催し、可視化で村木厚子さん、司法取引で美濃加茂市長とその弁護人の郷原弁護士、盗聴法で緒方靖夫さんと森卓爾団員をそれぞれ講師として招き学習会を開催しています。野党三党は、現法案のままでは反対という立場で一致しています。
 そのような状況下で、民主と維新が共同して提出すると言われている修正案が発表されました。修正案は、(1)可視化について、可視化の例外事由を災害と弁護人の同意を得て被害者が拒否した場合の二点に絞り、可視化の努力義務を課し、(2)司法取引の導入を認めない等の点でかなり前進した内容になっています。他方で、(4)盗聴法については、立会人制度を現状のままに保ちながらも、対象犯罪を詐欺、電子計算機使用詐欺、恐喝の限度で拡大を認めるものになっており、(4)盗聴法の対象犯罪の拡大の点において、団とは見解を異にしていますが、日弁連の立場では政府提出の法案よりも反対する理由がないものになっています。修正案の動向にも注目する必要があります。
今後の課題
 以上のとおり、刑訴法改正案は徹底審議の下、衆議院を未だに通過できない状況にあります。しかし、会期が大幅に延長され、また、法務委員会は、民法改正案や、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案等の重要な法案を抱えており、与党が審議を打ち切ることも十分に考えられ、予断を許さない情勢です。
 対策本部では、今後の課題は、まだまだ報道の少ないマスコミに報道を促すこと、日弁連と弁護士会が修正案を後押しする状況をつくること、法務委員会担当の議員に対し、各地から議員要請をかけることにあると考えています。
 各支部におかれましては、各地で議員への要請、弁護士会への働きかけ、地方紙への働きかけ等の活動をお願いいたします。   


倉敷民商弾圧事件の検討会議の報告と感想

東京支部  前 川 雄 司(市民問題委員長)

治安警察問題委員会と市民問題委員会合同で検討会議
 七月一〇日に団本部で倉敷民商弾圧事件の検討会議を治安警察問題委員会と市民問題委員会の合同で行いました。会議には地元岡山の弁護団から山本勝敏団員に参加いただき、関東でこの事件に関心を持っている団員にも参加いただいて議論しました。
 はじめに、荒井新二団長、坂勇一郎団員と私がそれぞれレジュメに基づいて問題提起をしました。
 荒井団長は、
 (1)「判断」を処罰できるか
 (2)「作成」の一律・形式的な解釈は正しいか
 (3)規制手段の「税理士集中」は必要・合理的か
 (4)民商事務局員は会員にとって「他人」か
という四つの論点について、
 坂団員は、
 (1)民商の活動と中小事業者の実情
 (2)保護法益との関係における規制のあり方
 (3)法益侵害の危険性のある行為をどうとらえるか
 (4)解釈にどう反映させるか
等の論点について、
 私は
 (1)保護法益についての団藤「刑法綱要総論」の議論
 (2)アメリカの制度
 (3)結社の自由の意義
について、それぞれ問題提起をしました。
 増本一彦団員は残念ながら急用のため欠席でしたが、民商への攻撃や「弾圧」に対する大衆運動と裁判闘争の歴史と教訓をふまえ、「えん罪」事件の枠を超えた大きな運動の重要性等を指摘したメールを寄せていただきました。
 裁判闘争や民商運動などをめぐって参加者から次々に意見が出され、活発な議論が行われました。それぞれの意見や議論の正確な紹介は私の能力を超えますので、参加された団員の投稿をお願いしたいと思いますが、その議論は今後の控訴審の裁判闘争や全国の民商運動に活かされるものと思います。
原判決に対する疑問と感想
 以下は私の疑問と感想です。
 原判決の考え方によれば、税理士でない人が適正な税務書類を作成した場合でも税理士法違反の罪は既遂となるはずです。
 しかし、その後で納税者本人がその税務書類を確認し内容を了解して税務署に提出すれば税理士法違反の罪は成立しないはずです。
 でも、いったん既遂となって成立した罪が、その後で罪でなくなるというのはなんとなく違和感がありませんか。
 これは構成要件が不備なためにそうなるのではないでしょうか。つまり、構成要件としては、最低限「税務書類を作成し納税者本人の了解を得ないで税務署に提出すること」あるいは「提出させること」でないと論理的に筋がとおらないのではないでしょうか。
 しかし、もしそうだとすると、税務書類作成者としては納税者本人の了解を得る必要がありますが、本人に説明して本人がわかったと言っても、本人が実はよくわからないまま提出してしまったらどうなるのでしょうか。本人の内心の問題ですから構成要件としてあいまいすぎます。
 この他にも、「会計書類の作成」と「税務書類の作成」の峻別の問題や、従業員は「他人」ではないとして従業員による税務書類の作成を処罰しないこととの矛盾(従業員が作成した税務書類を雇い主が内容を理解しないまま提出してしまうことはいくらでもあることでしょう。その場合は違法でないのに、民商事務局が同じことをするとどうして違法になるのでしょうか。)、有償・無償を問わず処罰することの問題など、考えはじめると問題が満載です。
 だいたい、アメリカではそもそも無資格者による税務書類の作成は処罰の対象になっていないのですから、そもそも保護法益や刑罰による規制の必要性があるのかという問題もあります。
 なお、裁判では結社の自由の意義は決定的な問題にならないかもしれませんが、私個人の関心としては、結社の自由の意義は深める必要があるとかねがね思っています。結社の自由は、人と人が助け合うことであり、個人の行動の自由と同じように、人の最も自然な基本的権利です。アメリカでアソシエーションが果たしている役割は極めて大きいようですし、ヨーロッパでも協同組合などの社会セクターが果たしている役割はたいへん大きいと聞いています。そうした中間団体がさまざまに存在し活動することによって個人の自由がより守られることにつながるはずです。中小零細な納税者が力を合わせて活動することの憲法的意義と価値に対する認識と敬意が日本の裁判官にはあまりにも欠如しているように思います。


*教科書問題*

教科書に関する神奈川での活動報告

神奈川支部  林   裕 介

一 はじめに
 神奈川県は、全国で採択されている育鵬社公民教科書の約半分が県内で使用されているという緊迫した状況にあります。このため、神奈川支部においては、育鵬社公民教科書が、今回こそ神奈川県内全市町村で採択されないよう、活動をしています。
二 宣伝活動について
 まず、宣伝についてですが、団教科書PTで作成したリーフレット「こんな教科書でいいの?」を配布しながら、マイクを使用して街頭宣伝活動をしています。団神奈川支部では、ほぼ毎日、戦争法制反対の宣伝活動を行っているため、この宣伝と同時に教科書の宣伝も行い、団員のみならず、憲法関係の団体や教職員組合の方々など、様々な団体とともに、教科書の宣伝を行っています。
 神奈川支部では、教科書リーフレットを四〇〇〇部購入しましたが、うち三〇〇〇部以上を既に配布しました。宣伝をしている感触としては、戦争法制リーフレットと比較すると、教科書リーフレットについては、女性の受け取りがよいように感じます。やはり、お母さん方が、子どもの教育や教科書について深い関心をお持ちなのだと思います。
 あわせて宣伝行動の際に、マスコミ各社への投げ込みも行っており、赤旗には写真付で取り上げてもらいました。宣伝行動をマスコミに取り上げてもらうことで紙面等にてさらに宣伝をするという一石二鳥作戦で、教科書の問題をさらに広めるべく、きたる教科書採択に向けて活動を盛り上げています。
三 中学校訪問について
 私の事務所のある川崎市の中学校では、現在は育鵬社を採択していませんが、予断を許さない地域とされています。このため、神奈川支部の中瀬団員、笹団員、畑谷団員が中心となり、市内の各中学校を訪問して育鵬社不採択に向けた要請行動を行いました。訪問を受け入れたうえで校長や教頭先生が対応をしてくださり、団員の要請に深く耳を傾けてくれる学校が少なからずあった一方で、逆の対応をされた学校もありました。このことから、中画工訪問は、育鵬社不採択を要請するという意義だけでなく、中学校ごとの教科書に対する現場の考え方を知るという意義もあり、大きな成果を得ることができました。
四 教育委員会要請
 神奈川支部では、団で作成した意見書、神奈川県内の法律家四団体(労弁、青法協、社文、団)で作成した意見書及び教科書リーフレットを、県及び各市町村の教育委員に持参または郵送しました。ここで留意したこととしては、教育委員会に一部を送付しても、全ての教育委員が目を通してくれるか分からなかったため、全教育委員分をそろえて送付したということです。
五 最後に
 教科書展示会が終了した地域も多く、教科書採択に向けた運動は、終盤戦を迎えています。そして、今回は、育鵬社教科書に賛成する側の活動があまり露見しておらず、見えない相手と闘っているような気になることもあります。しかし、最後まで気を抜かず、二〇一五年教科書の夏、終盤戦を戦い抜きたいと思います。


大阪の教科書問題

大阪支部  楠   晋 一

一 大阪の現状
 大阪では四年前に初めて東大阪市で育鵬社の公民教科書が採用された。東大阪市の野田市長だけでなく、泉佐野市の千代松市長、和泉市の辻市長は教育再生首長会議会員であり、千代松市長は二〇一四年に「はだしのゲン」を差別的表現が多いとして公立小中学校の図書館から回収するなど、警戒すべき自治体は少なくない。また、過去二回の統一地方選挙を通じて、右翼的な大阪維新の会の地方議員がどこの自治体にも所属するようになったことも見逃せない傾向である。
 また、橋下大阪市長も教育基本条例のみならず、現在は公募区長を教育委員会の次長と兼務させるなど、教育への政治介入姿勢を続けている。その橋下市長がこの四年間に任命した教育委員の中には、日本教育再生機構のインタビューを度々受けている委員がいるなど教科書採択に向けて予断を許さない状況にある。
 加えて、大阪市はこれまで八つの地区に分けて教科書採択が行われていたが、今回から市内一括採択へ制度変更されており、育鵬社・自由社の教科書が採択された場合の悪影響は計り知れないものがある。
二 団支部を含む各団体の大阪でのとりくみ
 既に育鵬社が使われている東大阪では市民レベルで育鵬社教科書の勉強会がされるなど巻き返しに向けた地道な努力が続けられています。そして、今年に入ってからは、教科書ネット21大阪など各種団体が教科書採択に向けて動きを強めていきました。
 団支部では、教科書ネット21大阪が主催した「五・三一大阪教育集会」に当職が参加して、団本部が作成した意見書を活用していただきたい旨アピールし、教科書ネット21大阪との連携を深めていきました。
 団支部としては、最重点と位置づけている大阪市には数多くの団体が要請に行くことを重視して、七月九日に上山支部長ら支部三役を含む五名の団員で教育委員会への要請訪問を行いました。また、東大阪市(七月一六日)や泉佐野市(七月二二日)へは教科書ネット21のメンバーに支部団員も同行する形で要請訪問を行っています。
 また、団本部の意見書は府内全域の教育委員会に送付しております。
 様々な政治課題のある中、決して十分な活動を行ったとはいえませんが、教科書は一〇年後の世論を左右すると考え、今後も連携して活動を続けてまいります。 


*「大阪都構想」住民投票のとりくみ*

「大阪都構想」住民投票運動を振り返って

大阪支部  梅 田 章 二

はじめに
 有権者二一〇万人の大都市大阪での初めての住民投票が五月一七日大阪市内三六五箇所の投票所で実施された。結果は、賛成六九万四八四四票、反対七〇万五五八五票でわずか一万〇七四一票の僅差で、かろうじて政令指定都市としての大阪市の存続が決定された。投票率は六六・八三%であった。
 勝敗は一〜二ポイントの差で決まるだろうと事前予想されていた。賛成派と反対派の両陣営とも、投票日、全投票所に運動員を配置し、両派入り乱れての宣伝が投票時間の終了する午後八時まで展開された。投票日まで運動が可能という初めての経験で、緊張感が高まり、いくつかの投票所前ではトラブルが発生したようだ。われわれが張り付いたところでも暴力事件一歩手前の緊張状態があり警察官数名が駆けつけるということがあった。
 政党関係者や活動家だけでなく、これまで運動に参加したことがない市民が街頭に出て闘った住民投票運動を振り返る。
息を吹き返した「大阪維新」
 一昨年の橋下氏の慰安婦発言に始まり、堺市長選挙での維新の敗北、地下鉄民営化の頓挫、思想アンケートや組合事務所問題などでの相次ぐ敗訴で、誰もが維新は衰退していくだろう、二七年四月の統一地方選挙、一一月のダブル選挙で維新政治を終わらせようというのが、大方の見通しだった。
ところが、昨年一二月のクリスマスに、官邸と創価学会との駆け引きで、公明党が突如態度を変え、住民投票を行うことに同意すると発表したことによって、情勢は一転した。
 三月一三日大阪市議会で、三月一七日には大阪府議会で、大阪市解体・消滅のための「協定書」が承認され、五月一七日に住民投票が実施されることとなった。
 維新は息を吹き返し、四月の統一地方選挙で、府議会、市議会とも、それぞれ議会第一党の地位を確保したのである。
 一〇〇年以上もの歴史をもつ大阪市をなくしてどうなるのか、大阪府が吸い上げる権限や財源がどのように使われるのか、特別区では住民サービスが低下するのではないか、市民生活に直結する一〇〇以上もの事業が事務組合によって処理されるのは異常ではないか、住民が適確な判断を下すには、余りにも期間が短すぎるのではないか、結局は、維新対反維新、橋下対反橋下の人気投票になってしまうのではないか、という不安をかかえながら、住民投票運動は始まった。
市民団体や地域振興会なども登場
 「府民のちから」や「大阪市をよくする会」、「明るい民主大阪府政をつくる会」など市長選挙や知事選挙で候補者を擁立してきた政治団体が活動を始めたが、「大阪市がなくなるで!えらいこっちゃの会」、「民意の声」、「大阪市分割解体を考える市民の会」、「大阪市なくさんといてよ!市民ネットワーク」、SADL(Small Axe for Democracy and Life 民主主義と生活のための小さな斧)など、さまざまな市民グループが新たに登場した(自治体研究社「住民と自治」五月号の私の論稿で活動をを紹介している)。
 このうち、われわれが取り組んだのは、「大阪市なくさんといてよ!市民ネットワーク」である。維新政治のもとで、さまざまなグループが裁判や運動をしてきた。昨年一〇月に約三〇のグループが一堂に会して八〇〇人の集会を成功させた。その集会を企画した事務局の呼びかけでネットワークを立ち上げた。約一〇〇名で学習会を二回行い、ホームページやフェースブックで「都構想」に関する講演動画や資料の発信、さまざまな団体の取り組みを紹介、イラスト、チラシ、ステッカー、プラカードなどを普及するほか、他のグループと連携して集会やデモへの参加を呼びかけてきた。告示後の最終盤は、地域の人たちと連携して街頭宣伝に取り組んだ。
 また、地域振興会、商店会総連盟、医師会・歯科医師会 ・薬剤師会などが、住民サービスの低下や地域コミュニティがなくなるとして反対の声明を出して、ポスターなどを貼り始めた。
 京都大学の藤井聡教授や立命館大学の森裕之教授らが中心となって、関西の研究者に呼びかけたところ、短期間に一〇〇名以上もの各分野の研究者が「都構想」に問題ありという回答を寄せ、その結果を記者会見で発表したところ、大きな反響があった。特に防災問題で著名な河田恵昭さん(京都大学名誉教授、関西大学教授)が登場したことの影響は大きかった。
 大阪弁護士会では、賛成派と反対派が討論する集会を企画したが、賛成派が出席を拒んだため集会は中止となったが、弁護士有志が市民団体の代表や自民・共産の市会議員の参加を得て反対集会を開催した。
 このように実に広範な人が「都構想」に反対の声をあげたのである。
政党、議員、広範な人々による共同の闘い
 三月二一日、大阪市分割解体を考える市民の会が主催する「どうしよう?大阪市がなくなったら、都構想・住民投票を考える市民大集合、市民による市民のための一〇〇〇人大集会」が開催され、各政党の議員や市民が約一〇〇〇人が参加した。三月二八日には、「民意の声」と「えらいこっちゃの会」が呼びかけた「都構想」反対!御堂筋パレードにも、約一〇〇〇人の市民が参加し、集会では自民・民主・共産の各党の代表があいさつした。四月二八日には、よくする会と明るい会合同の府民集会が開催され六〇〇〇人が集まった。この集会には、各政党や市民グループの代表も壇上で紹介され、自民党の柳本卓治参議院議員が挨拶し、「生まれてはじめて共産系の集会に参加」と発言した。投票日を一週間後に控えた五月一〇日には、「民意の声」と「えらいこっちゃの会」などの実行委員会が呼びかけた扇町公園での集会には約五〇〇〇人が集まり、各政党の国会議員や地方議員が並び、次々と発言し最終盤の闘いに大きな弾みとなった。
 もともと大阪市議会の中では、自民、民主、公明、共産の会派は大阪維新の会に対して共同歩調をとっていた。公明党も中央や創価学会の圧力があったにせよ、大阪市議団としては、都構想反対の立場であった。但し、四月の統一地方選挙が終わるまでは、共同の闘いを表面化させることはできなかった。その間、各会派をブリッジする役割を果たしたのが、「民意の声」や「えらいこっちゃの会」などの市民グループだったといえる。
 自民と共産が共闘することに違和感をもつ市民が結構いただろうと思う。選挙や市長選挙のたびに、両党の政策は対立してきたのであるから違和感があるのはもっともだ。しかし、対維新という点では、政策の違い以前の問題がある。橋下氏の議会無視の強引な手法は民主主義を否定するファシズムや独裁につながるという共通認識がある。「大阪都構想」についても、いったん議会で否決されても、専決処分で実施することを仄めかし、賛否を問う住民投票を行う条例を制定するための直接運動を行おうとしたりするなど、強引に進めようとした。このような橋下氏の議会無視のファッショ的なやり方に対する一点共闘である。政策上の違いを超えて共闘した一点はここにある。
初めての住民投票運動
 大都市地域特別区設置法は、投票運動に関しては、政令で一部公選法を準用するという形で規制しているが、事前運動の禁止の規定はなく、投票日の運動も可能、文書やネットの規制もなかったので、選挙とは異なり、かなり自由な運動ができた。運動の場面で問題となったのは、公共施設利用の禁止とデモやパレードのシュプレヒコールの内容の二点くらいのことであった。宣伝カーを自由に走らせ、ビラの種類や枚数にも規制がないということから、各政党入り乱れて街頭での宣伝戦やポスティングが行われた。誰でも自主的に運動ができるという点では、選挙とは大きな違いである。われわれの市民ネットにも、チラシをほしいという注文がかなりあった。また、手書きのビラを書いて配るという市民も現れた。
 他方、維新は、政党助成金を投票運動に回し、総額五億円ともそれ以上ともいわれるほど多額の資金を投入し、橋下氏が登場するテレビコマーシャルを一日に何回も流し、電話の受話器をとると橋下氏のメッセージの録音が自動的に流れるいわゆる「スパム電話」を一〇〇万件もかけたと言われている。維新のチラシは、カラーずりのかなり費用のかかるものだった。
 各区で大阪市の主催で実施された「住民説明会」は、橋下氏の演説会のようなものとなった。これも税金をつかった賛成派の運動のようなものである。
 新聞やテレビの報道に関しては、概して自己抑制がかなり働いていたように思う。橋下氏は、「都構想」に批判的で、影響力のある研究者がテレビに出演することを執拗に妨害した。この問題については、大阪弁護士会の有志約一〇〇名が、維新に対して、メディアへの干渉を止めるように申し入れを行っている。
 ネットを通した運動でも、維新は圧倒していた。ここでも維新はかなりの金を使ったのだろう。運動の自由化はいいとしても、豊富な資金でメディアを買い取ることができるという自由までも認めていいのかという問題を残した。
最後は、有権者一人一人を獲得する総力戦
 四月二六日に統一地方選挙後半戦が終了、二七日に住民投票が告示され、投票運動は本格的な闘いとなった。残すところ二〇日間となる。大阪府下だけではなく全国から支援部隊が大阪に入り、街頭での宣伝戦が展開された。われわれのグループも連休をすべて返上して、街頭で宣伝した。スーパ前や団地、商店街などの「有権者のいるところ」での宣伝と対話に焦点が当てられた。
 すでに期日前投票も始まっているので、「反対に投票してきました」と声をかけてくれる人もあれば、「賛成や」と言って睨みつけて通り過ぎる人もいる。しかし、多くの人は「わからない」状態だった。通行人から、「何が問題なのか教えて欲しい」と声をかけられることも多くあった。街頭でのビラ配りで、通行人から話しかけられる機会がこんなに多くあったことはかつてないことだ。
 何億円もかけたテレビコマーシャルを空中戦とすれば、電話や街頭での対話は地上戦である。最後に僅差で勝敗を決したのは、地上戦での総力戦ではなかったか。
今後の課題と憲法国民投票への準備を考える
 幸いにして、大阪市の廃止・分割という最悪の事態は免れたが、同時に、これまでの大阪市政の問題も浮き彫りになった。今後の課題として、巨大都市大阪で、市民の声が市政に反映できるシステムをどうつくっていくのか、市民参加の新しい大阪をめざして、住民投票は新しいスタートとなるだろう。
 今回の住民投票は、憲法国民投票の予行演習といわれてきた。マスメディアを金で買い取るコマーシャル戦術、公的資金を使った事実上の投票運動、騙しと恫喝の扇動的な派手な宣伝戦などの手法は憲法国民投票でも使われるだろう。ツイッターやフェースブック、ホームページ、YoutubeなどのSNSの活用、大集会やデモ、などあらゆる運動形態が用いられた。しかし、最後は、有権者一人一人と接して対話するという基本的なスタイルが勝敗を決したという住民投票運動の教訓は、憲法国民投票運動に通じると思う。
追記
 この原稿は、住民投票直後に団大阪支部のニュースに投稿したものをそのまま転用しました。長文となってすいません。戦争法案のため都構想を振り返る時間的心理的余裕もありません。大阪では七月一八日、一万人を突破する大集会が開催されました。都構想で広げた共同の輪を戦争法案でも広げたいと思います。


住民投票に係る運動支援のための大阪支部の活動について

大阪支部  杉 本 吉 史

一 住民投票チームの設置といち早い周知のための活動
 団大阪支部では、今年一月の幹事会でいち早く、住民投票に向けた運動についての法的規制を検討するチームを設置した。
 同チームでは、今回の住民投票が「大都市地域における特別区の設置に関する法律」に基づくもので、同法が公職選挙法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定を準用していること、同法の施行令が公職選挙法の規定のうち準用をしないものを列挙していることから、まずは準用されるもの、されないものを拾い出し、検討を開始した。
 その結果、特徴点としては、告示前の運動規制がなく、文書運動や拡声機、自動車を用いた活動等の規制に関する規定のほとんどが除外されており、投票日までの期間中、自由な活動を展開することができることが分かった。
 また、四月には統一地方選挙が実施されるが、同選挙について適用される規制を除き、その告示期間中も住民投票に係る運動については同じく自由に行うことができることを確認した。
 団支部はいち早く「住民投票運動の手引き」(第一弾)を作成し、二月二六日には、街頭宣伝の自由確立をめざす各界懇談会(街宣懇)が開催した学習交流会「どこまでできるの?選挙活動と住民投票」で楠晋一団員が支部としての報告を行った。その学習会には、労働組合、市民団体の府的な役員を中心に約八〇名が参加し、そこで活発な質問、意見が出されるなど、自由な活動が保障されることを大阪中にいち早く広げることができた。
二 「都構想反対の運動は自由です。」のチラシの作成
 その後、チームでは、政治的行為制限条例が既に施行されている大阪市、大阪府や、それ以外の地方自治体の公務員、国家公務員の運動支援についても検討を開始し、大阪市、大阪府の公務員についても、既に大阪支部が作成していたパンフ「政治的行為制限活動に関するQ&A」で対応できることも確認した。また、公務員の労働組合からの質問に回答したり、実際に公務員の組合事務所での役員会に参加し、活動に関する質問に答える活動を実施した。
 先の一般向けの「住民投票運動の手引き」(第一弾)については、レイアウトを業者に依頼をして、表、裏一枚のチラシにし、「都構想反対の運動は自由です。」というタイトルをつけて、そのファイルを関係する労組、団体に配布した。
 チーム内で最も議論となったのは、デモ行進に関してであった。
デモが適用除外とはされていない「隊伍を組んで往来する」等の気勢を張る行為として規制されるのではないか、という疑問である。
この点については、告示前から実施されていた都構想反対デモに防衛要員として参加するなどし、政治活動と住民投票運動とを峻別することによって規制を受けることはないとの一致点で対処することとなった。また、選挙管理委員会との面談で、「都構想反対」の訴え自体は投票運動にあたらない、との言質をとり、デモ申請等の際に警察を逆に教育することも行った。
三 電話による運動面での法律相談活動
 告示後は、大阪市をよくする会等からの要請を受け、連日午後一時より四時までの三時間、同事務所で特設の電話を開設し、運動に関わる相談活動を実施した。
 数は多くはなかったが、街頭でのシール投票の干渉に対し、それが規制されている人気投票には該当しないといった回答や公務員の活動への対応などを行った。実際、公務員の皆さんは、政治活動規制条例による縛りの中でも運動の裏方としての重要な役割を果たされた。
 また、期間中の街頭宣伝活動に対する警察の干渉がいち早く連絡され、翌日からの同じ場所での宣伝活動に防衛要員を派遣し、宣伝活動を守った。
 特に京橋駅、寺田町駅等の運動に対して、相手方からの通報を受けての警察の干渉が特徴的であった。
四 憲法改正の国民投票の予行練習としての住民投票
 今回の住民投票は、維新の党が国会内での野党改憲勢力であることからも、憲法改正の国民投票の予行練習とまで評されて、その観点からも注目をされた。
 楠晋一団員が総務省に同法の規制について問い合わせをしたところ、同省もこの住民投票の運動規制が国民投票下での規制と共通しているものであることを明言していた。
 改憲勢力側も、今回の住民投票での敗北を教訓として、公務員、とりわけ投票資格を付与された一八歳を担当していることを口実にして教職員の政治的活動を全国的にさらなる規制を加えようとする構想も持ち上がっており、監視が必要である。
 そして、護憲の側も今回の経験を総括し、今後仮にそのような事態に至った時のために、従前たる準備を団としてもしておく必要がある。今回の住民投票での大阪の経験は、そのような事態に対して十分に対応することができるという自信に繋がるものであったといえる。(本稿は、団大阪支部の六月号ニュースの原稿に若干の加筆をしたものである。)


大阪市労組組合事務所裁判・大阪高裁で不当判決上告審代理人就任のお願い

大阪支部  谷   真 介

一 大阪市労組・組合事務所裁判
 大阪市労組組合事務所裁判は、全労連傘下の大阪市役所労働組合(市労組)らが平成一八年以来継続的に使用してきた大阪市役所本庁舎地下一階の組合事務所について、平成二四年度以降も引き続き使用許可申請をしたことに対し、大阪市(橋下市長)がこれを不許可とした(その後も不許可を続け、平成二四〜二六年度の各不許可処分が訴訟の対象)ことについて、不許可処分の取消等を求めた裁判(大阪市側も明渡し訴訟を提起)です。
二 労働組合の権利を重視した大阪地裁判決とこれを覆した大阪高裁
 昨年九月一〇日の大阪地裁判決は、自治体労働組合が組合活動の拠点として組合事務所を庁舎内に設置する必要性があることを出発点とした判断枠組みを採用し、本件組合事務所の明渡しにおける橋下市長の団結権侵害の意図の存在及びこれがその後も一貫して継続していたことを認定し、一連の使用不許可処分を全て違法と判断しました。そして、明渡し通告の後に市議会で成立した労使関係条例一二条(労働組合に対する便宜供与の全面禁止)については、同条例が適用されなければ違法とされる大阪市の行為を適法化するために適用される限りにおいて、憲法二八条又は労組法七条に違反して無効であるとして適用違憲の判断をし、組合を完全勝訴させました。
 この地裁判決に対し、橋下市長は、「地裁ごときの判断で市長の判断が覆されるべきではない」として控訴しました。
 そして、大阪高裁は、地裁判決を変更し、(1)行政財産の目的外使用許可の裁量権行使の判断枠組みについて、市長に極めて広範な裁量権を認め、(違法行為であるはずの)不当労働行為が認められたとしても、それだけでは不許可の違法性は認められないとまで言い切りました。また、(2)橋下市長の団結権侵害(支配介入)について、橋下市長は労働組合の活動を市民感覚に合うように是正改善していく方針であったことから、組合に対する支配介入の意思を有しているとまでは認められないとしました。そして、(3)労使関係条例一二条(便宜供与の一律全面禁止)の違憲・違法性については、憲法二八条や労組法七条には違反せず適法であるとし、一方で同条例を前提にしても市長が議会から責任追及されることを覚悟で使用許可することも理論上は可能であるとしつつ、本件では市庁舎に行政スペースが不足していたという誤った事実認定を下に、平成二五年度・二六年度の各使用不許可処分を適法とし、結論として組合事務所の明渡しを命じました(平成二四年度不許可処分のみ、手続が性急であることを理由に違法としました)。
 しかし上記(1)は、憲法二八条の労働組合の団結権保障に基づいて庁舎内に継続的に組合事務所を使用してきたことの実態を全くみず、その重要性を市長の裁量権行使の考慮要素として著しく軽視するものです。また(2)は、団結権侵害(支配加入)は、使用者の行為が労働組合の活動に与える影響やその影響についての使用者の認識・意図、使用者の行為の必要性・相当性、労使関係の経緯などの事情から客観的に判断されるべきものであるにもかかわらず、橋下市長の言説の一言隻句をとらえて不当労働行為性を否定するという極めて非常識な判断です。また、仮に橋下市長の言説を前提にしたとしても、一方当事者である使用者が他方当事者を不適正と一方的に判断してその組織・活動に影響力を行使する行為は、自主性・独立性を奪う支配介入行為そのものであることを看過しています。さらに、(3)は、労働組合の団結権保障に基づく組合事務所の使用を軽視するものであり、少なくとも継続的に供与をしてきた組合事務所を廃止する際に、便宜供与を一律全面禁止をしている同条例を理由に不許可処分を下すことは、団結権を保障した憲法二八条や労組法七条三号に違反する結果となるはずです。
 結局、高裁判決は、「行政は悪はなさない」という強固な意思を貫徹しており、平成二四年当初の橋下市長就任下での大阪市役所の異常な労働組合攻撃の実態を無視した判断をし、組合事務所の明渡しを命じたのです。なお、この判決を言い渡した志田裁判長(修習三四期)は、その前週にも公務災害の遺族年金に関する男女格差の違憲性を問う裁判で、逆転合憲判決を言い渡しており、二週連続、大阪地裁労働部の違憲判決を覆して行政側を勝たせました。そして何と、本判決の五日後、定年まで数年を残したまま、突然依願退官しました。
三 最高裁での逆転勝利に向けて−全国の団員の皆様に上告審代理人就任のお願い
 七月二日、市労組らは最高裁闘争でこの不当判決を絶対に覆す強い決意のもと、最高裁に上告しました。すでに平成二七年度の使用不許可処分を受けている苦しい状況下ですが、何としても、最高裁で勝訴し、橋下市長の不当労働行為から組合事務所を守らなければなりません。そのためにも、全国の団員の先生方には、ぜひとも本事件の代理人に就任していただきたく、本投稿にて広くお願いをさせていただきます。
 代理人の就任にご了解いただける方は、当該弁護団事務局の谷真介(大阪支部/北大阪総合法律事務所)まで、FAX(〇六-六三六五-一二五六)かメール(tani@kitaosaka-law.gr.jp)で、「大阪市労組組合事務所裁判・上告審代理人就任」等記載の上、お名前と事務所名、修習期とメールアドレスをご連絡くださいますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。


*「大阪都構想」住民投票のとりくみ*

「大阪都構想」住民投票運動を振り返って

大阪支部  梅 田 章 二

一 公民館による不当な言論統制
 昨年六月二五日に、さいたま市の三橋公民館が毎月発行する「公民館だより」に、地域住民の俳句サークルが定例会で選出した一句を掲載しないことがマスコミに取り上げられました。
 この俳句サークルと公民館は、約四年前に、毎月公民館で行う定例会にサークルメンバーが持ち寄った俳句を検討して、サークルメンバーが選び公民館に提出した一句をそのまま翌月の公民館だよりに掲載するとの合意に基づいて掲載してもらっていました。
 ところが、昨年六月の定例会で、俳句サークルが選んだ俳句である「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」という一句が、突如、公民館担当者の判断で、公民館だよりの俳句コーナーに掲載されないこととなったのです。
 その理由は、当初、(1)社会教育法二三条一項二号によると、公民館は特定の政党の利害に関する事業を行うことは禁止されていること、(2)さいたま市広告掲載基準四条(1)エによると、国内世論が大きく分かれているものは広告掲載を行わないとされていること、から、本件九条俳句の中の「九条守れ」というフレーズは、憲法を見直そうという動きが活発化している中、公民館の考えであると誤解を招く可能性があるため、掲載できないというものでしたが、明らかに誤った理由であり、公民館自体が後に理由が不適切であったとして撤回し、現在は、「公民館だより」は「公共施設である公民館が責任を持って編集・発行している刊行物であり」「公平中立の立場であるべきとの観点」から好ましくないとの説明となっています。
 しかしながら、このような理由は後に述べるとおり正当とは思えません。
 この公民館の対応については、新聞に取り上げられ、何度も集会が開催され、日本社会教育学会などの様々な機関でも議論され、住民による自治体への請願なども行われましたが、俳句不掲載措置が撤回されることはありませんでした。 
二 公民館の在り方と民主主義を問う
 本来、公民館は、社会教育機関であり、地域住民の教養向上を図るために学習機会を提供し、多様な情報を提供する役割を有する施設であり、社会教育法二二条に具体的な事業目的が掲げられています。
 公民館だよりは、公民館の役割の一環として、実際に市民に学習の機会を与え、学習成果を発信するツールであり、特に本件では、各種サークルに一定のスペースを与えて作品を発表させていました。
 そうだとすれば、公民館だよりに俳句掲載することは、市民サークルに開放されたというべきであり、一度開放された方法による言論・研究を内容に着目して、拒否することは、事実上の検閲として表現の自由などの憲法上の権利を侵害するばかりではなく、公民館の在り方にも真っ向から反し、社会教育法の不当な支配にもあたり、地方自治法の公の施設における利用拒否や不平等取扱いにも該当する違法な行為であり、民主主義の根幹を否定する極めて重大な憲法問題を含む行為だと考えています。  
三 訴訟の提起
 今回、俳句の掲載拒否から一年が経ち、今年の六月二五日に、(1)俳句掲載、(2)損害賠償を求めて、さいたま地方裁判所に訴訟を起こしました。
 このところ、国分寺まつりにおける九条の会の出展拒否や、調布市・神戸市・大和市における後援拒否・取消問題、埼玉では、今年の三月から四月にかけて、新座市の市民団体が「慰安婦」をテーマにした中学生向けのパネル展を市の施設のギャラリーで開催しようとして拒否されたり(八月に「市生涯学習センター」での開催が許可された)と本来表現活動に中立であるはずの公権力が私的サークルの思想・表現内容に立ち入って表現活動の機会を奪う憲法違反の事象が次々引き起こされていますが、公民館のような「社会教育施設」において、言論統制と評価されうる措置が取られたことは、基本的人権の侵害に加えて、民主主義の根幹を揺るがす大問題であるとの問題意識をもって、作者や市民応援団と一体となって訴訟を提起することになりました。
 現在、様々な団体から公民館の今回の不掲載に対する反対意見書を提出したいとの反響も頂いています。各界での意見書採択などを訴訟に提出するなどして、運動を広げて戦い、民主主義破壊に歯止めをかけなければなりません。


管財人による不当労働行為を三度断罪(日本航空不当労働行為事件高裁判決の報告)

東京支部  竹 村 和 也

一 事案の概要
 東京高等裁判所第一四民事部(須藤典明裁判長)は、二〇一五年六月一八日、日本航空の会社更生手続下で行われた更生管財人ディレクターの日本航空乗員組合ならびに日本航空キャビンクルーユニオンに対する発言が、両組合に対する支配介入にあたり不当労働行為に該当すると判断した。
 本件は、会社更生手続下にあった日本航空において、整理解雇を強行しようとした管財人である企業再生支援機構のディレクターらが、解雇回避の交渉のために争議権を確立しようとした労働組合に対して、「争議権を確立した場合、機構は三五〇〇億円の出資をしないことを決定した」などと恫喝した事案である。
二 本件高裁判決の概要
 東京高裁判決は、東京都労働委員会、東京地裁に続き、ディレクターの発言について不当労働行為を認定した。
(1)まず、「機構執行部の判断が経営判断としては相当かつ合理的なものであったとしても、本件発言が不当労働行為に該当するか否かは、支配介入に該当するか否かという観点から、別途検討されるべきものである」と判示する。
(2)そのうえで、不当労働行為制度を「憲法二八条は団結権・団体行動権を保障しており、それを受けて労組法は使用者の組合に対する支配介入行為を禁止している」と位置づける。また、日本航空は、争議権が確立されれば二次破綻に至ることを強調していたのであるが、「従業員が争議行為を行おうとしていることによって、会社の存立自体を危うくする可能性があっても、日本国憲法や労働組合法は、会社を存続させることを優先しているわけではない。会社の存立を優先するために、会社が労働組合の運営等に介入してもよいということにならない」として斥ける。さらに、「会社がその存立のために争議行為を阻止したいのであれば、労働組合が求めるところをも踏まえて、労働組合との間で何らかの妥協を図るしかない」とする。
(3)判決は、「争議権の確立」の労働組合における重要性についても述べる。「争議権の確立は、労働組合が会社と交渉する際に、会社との対等性を確保するための有力な対抗手段となるものであって、労働組合にとって最も根幹的な権利の一つである」と的確に判示するのである。
(4)そして、判決は、本件発言について以下のとおり断罪する。「本件発言は、争議権の確立の是非を問う組合員投票が行われている最中に、組合から説明を求められたわけでもないのに、争議権を確立すれば、確実に更生計画は頓挫して、破綻に至ることを示唆したもので、争議権の確立に向けて運動中の組合の活動を抑制することを意図してなされたものであり、支配介入行為である。」。
三 本件高裁判決の意義
 本判決の意義は以下のとおりである。
(1)まず、会社の経営判断の問題と不当労働行為該当性を明確に峻別したことである。裁判所においては、ときに労働契約等に関する判断と労働組合法上の判断を混同する傾向にあるが、適切な判示である。
(2)つぎに、不当労働行為制度が憲法二八条に基礎付けられていること改めて確認し、その憲法二八条で保障された争議権を確立することの組合活動上の重要性(会社との対等性確保のための根幹的な権利)を正確に認めたことである。また、本判決は、そのような憲法上基礎付けられた争議権に対して、使用者が「会社の存立」を優先して介入することは許されないと強調する。争議権が、必然的に使用者の事業の正常な運営を阻害することを意味するものであることからすると当然の判示である。
(3)本判決によって本件整理解雇に正当性がないことが三度確認された。すなわち、本件における整理解雇は管財人によって行われたものであるが、その管財人が解雇手続中に、整理解雇回避を求めて行おうとした争議権確立行為に介入し、整理解雇を強行したのである。その争議権確立行為は、労使の対等性を確保するための憲法上基礎付けられたものなのであって、それに介入することは重大な違法行為である。本来であれば、日本航空は「労働組合が求めるところをも踏まえて、労働組合との間で何らかの妥協を図るしかなかった」のである。日本航空は、本判決を踏まえて、整理解雇問題の解決に向けて「労働組合との完全かつ率直な協議」(ILO第二次勧告)を確実に行わなければならない。


原発労災裁判梅田事件(上)

福岡支部  椛 島 敏 雅(弁護団長)
福岡支部  池 永   修(弁護団事務局)

原発労災裁判梅田事件とは
 一九七九年二月から六月まで島根原発と敦賀原発の定期検査(定検)で多重下請けの末端労働者として原子炉格納容器内等の仕事に従事した福岡市在住の梅田隆亮氏(原告)が、二一年経った二〇〇〇年三月心筋梗塞を発症した。これは島根原発等の定検での放射線被ばくが原因であるとして、その治療をした長崎大学医学部付属病院の療養費について、二〇〇八年九月松江労基署長に労災保険の請求をした。しかし、被ばく線量は八・六ミリシーベルト(mSv)に過ぎない等として不支給決定を受け、それに対する審査請求及び再審査請求をしたが棄却された。そのためその処分の取り消しを求めて、二〇一二年二月福岡地方裁判所に国を被告に提訴している事件である。
 訴訟は福岡地方裁判所第五民事部に係属している。現在、原発での労働と放射線被ばくに関する事実関係の立証が終わり、これから争点は心筋梗塞の発症が原発の定検で受けた放射線被ばくの影響か否かに移行する段階にきている。
 本年九月と一〇月には学者等専門家の証人尋問も予定されており、梅田裁判は最終の重要な局面を迎えようとしている。
国の主張
 梅田氏の労災認定請求に対して、国は、
(1)一ないし二グレイより低い線量の放射線被ばくと循環器心疾患との関係を明らかにするような科学的な情報が不十分である。(2)広島・長崎の原爆被爆者を対象にした最新の疫学調査によると、〇・五シーベルトよりも低い線量では心疾患のリスクについて有意な増加は明らかでない。(3)国際放射線防護委員会(ICRP)の二〇〇七年勧告において、現在入手できるデータからでは、約一〇〇mSvを下回る放射線量による影響の推定には、非がん疾患を含めることはできないと判断されている。(4)心疾患は喫煙、肥満、高血圧などが関係する生活習慣病の一つであり、放射線被ばくと関係なく死亡率が一四四・四(人口一〇万人対)である。(5)原告には糖尿病、高脂血症、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子があったことなども踏まえれば、医学的に妥当なもので、何ら誤りはない。
 と、梅田氏のような一般人では到底対応できない棄却理由を言い立てて、労働者の切実な請求を退けてきた。更に、訴訟で(6)八・六mSvという数値は、胸部CT検査を一回受けた際に浴びる放射線量(六・九mSv)をやや上回る程度のものにすぎない、との理由も付加している。これは原発労働者の労災認定請求は何が何でも認めないと言う強い意思の現れであろう。
 ところで、原発労働者の多くは働いている時は相対的に高い賃金を得ているように見える。しかし、その後は放射線被ばくが原因と思われる体調不良で働けなくなり、更に疾病を発症してからは、その治療費や生活費のために最後の備えとして蓄えていた預貯金等を使い果たして貧困と不健康に陥り、苦しんでいる場合が多いのである。労働者の労働により使用者は利益を受けるだけであるが、けがや疾病になった労働者はそのために塗炭の苦しみを受ける(可能性が高い)。元々、労災保険制度はこのような不正義を正す目的のものである。
 だから無過失責任にして、業務と疾病の関連が明らかであれば、簡易迅速に被災労働者を救済するものである。この理は原発の定期点検労働者の疾病でも同じである。原発労働者が作業中に放射線に被ばくしたこと、被ばくによる影響を否定し得ない疾病を発症したことを証明すれば、国が、その疾病についての確たる発症因子等が立証できない限り、労災保険給付をなすべきである。
原爆症認定集団訴訟の成果を受けて
 梅田原発労災裁判は放射線被ばくによる心筋梗塞罹患を理由とする日本で初めての労災保険請求訴訟である。日本で原発が稼働して以来、その運転や定検に携わった原発労働者は少なくとも延べ数十万人はいると推定されるが、放射線被ばくを理由とする労災認定請求はこれまで四八件しかなく、この内、認定されたのは僅かに一〇数例で、いずれもがん系の疾患である。
 しかし、原爆症では心筋梗塞も認定されている。原爆被爆者は二〇〇三年から取り組まれた原爆症認定集団訴訟で心筋梗塞認定の判決を勝ち取っている。弁護団は原爆症認定集団訴訟を支えた医師団で意見書に関わられた福岡市内の小西恭司医師から講義と助言を受け、放射線大量被ばくの労働実態等を認識させる必要性の示唆を受けた。
原発定期点検の現場と被ばく労働の実態
 梅田氏は一九七九年二月六日から二月九日までと三月二日から三月一〇日まで島根原発で一三日間、五月一七日から六月一六日まで敦賀原発で三〇日間、併せて四三日間、原発の定期点検に従事している。一日の被ばく労働時間は短い時は三五分、長い時で三時間位である。定検の労働現場の「雰囲気照射線量」が高くて、定検を請け負っている側もそれ以上働かせられなかったのである。必然、人海戦術による作業にならざるを得ない。
 梅田氏の作業内容の多くは原子炉格納容器(PCV)内での仕事で、腐食した配管の切断や取外しと溶接と取付け、計装配管の取替え、遮蔽プラグの取外し、鉛毛板の取付け、足場の取付け、床面ポリシート貼り、足場取付け、PCV内床面に溜まった汚水の汲取りとウエスでの拭取りの仕事、そして超高線量の原子炉圧力容器(RPV)の壁面や床面のウエスでの清掃、及びRPVに繋がる計器類の計装配管の取替え等の仕事もさせられている。このほかタービン建屋や原子炉建屋内での配管の切断や取替え等の仕事に従事しているが、そこも雰囲気線量は相当高い。
 末端下請労働者はこれら作業に従事していても、放射線の人体への害悪や危険性を教えられていなかった。そのため、梅田氏は島根原発では普通の作業着でマスクもアラームメーターも付けずに作業しており、敦賀原発でも防護服は着用しているものの高温多湿の現場で息苦しくなったり、マスクが曇り見えない時はマスクを外して作業している。また、労働者は作業中にアラームが鳴り出すと仕事にならないために、その責任感からポケット線量計やアラームメーター等を人に預けて作業を続けた。
急性放射線障害の発症
 敦賀原発での仕事を終えて、一九七九年六月一六日に福岡の自宅に戻った梅田氏には、原因不明の鼻出血や吐き気、目まいの症状が出るようになった。また、全身のけだるさも覚えていくつものの医療機関を受診した。九州大学病院のカルテが残っていて、原告が全身倦怠感や脱力感、動悸、めまい、原因不明の鼻出血等の諸症状に襲われて小倉医師会クリニック、健和会総合病院、三萩野病院、長崎大学医学部、九州大学病院など複数の医療機関を受診していたことが明らかになった。これらは原爆被爆直後の被爆者に多く見られた症状で、この急性放射線障害が原告にも出ていたのである。
 また、九州大学病院のカルテには、原告が同年七月一二日に長崎大学医学部においてホールボディカウンター検査を受けており、コバルト、マンガン、セシウムといった放射性核種が検出されていて、内部被ばくしていたことも明らかになっている。(続く)


「闇」を暴く ―旧動燃差別是正訴訟の提訴報告(一)―

東京支部  平 井 哲 史

はじめに
 二〇一五年七月六日(月)、旧動燃(現在は独立行政法人日本原子力研究開発機構)を相手に四名の職員および元職員が、「非良識派」のレッテルを貼られて、人事・処遇・人間関係上の各種の不利益取り扱いを長年に渡り受けてきたことに対する損害賠償請求訴訟を水戸地裁に提起した。
 この訴訟は、原子力開発の過程で大小様々起こる問題を隠蔽するために、職場のなかで起こる批判や問題提起を押さえ込もうと労使そして警察権力が連携して個人の自由を侵害し、抑圧してきた「闇」の部分を社会的に明らかにし、原告ら個人の損害の回復とともに職場における発言の自由を取り戻すことを目指している。
 弁護団は、石川島播磨の差別是正争議を担当した菊池紘元団長(城北)を弁護団長として、現地から佐藤大志、五來則男、丸山幸司、木南貴幸(以上、水戸翔合同)、東京から瀬川宏貴、緒方蘭(以上、東京合同)、山添健之(東京東部)、加藤健次、本田伊孝、そして私(以上、東京)の計一一名である。
 本部から執筆要請を受けて書いてみたが、投稿としてはあまりに長くなってしまったので、動燃でおこなわれていた批判者の抑圧と今回提訴に至るまでの二回に分けて報告をさせていただくこととする。
一 原子力開発推進の「闇」としての批判者の抑圧 
(1)原子力動力炉の開発推進のための動燃の設立

 日本における原子力の研究開発は、一九五一年の朝鮮戦争を契機としたアメリカの対日政策の転換を受けて、一九五五年の原子力基本法の成立に始まる。当初は、研究開発を日本原子力研究所(原研)が担い、原子燃料の発掘・生成を原子燃料公社が担った。
 しかし原研内では、自主・民主・公開の原子力利用三原則をかかげる労働組合(原研労)が強く、度重なる労使紛争を経ながら、安全確保等の観点から拙速な開発を批判する声が職場からあがり続けていた。
 これを嫌ったのか、一九六七年、動燃が設立され、動力炉の開発事業は原研から動燃に移された。
(2)動燃内における安全を脇に置いた開発への批判の盛り上がり
 だが、原子力という巨大なエネルギーをコントロールする技術が十分確立していないもとでの動力炉の開発を進めることは職場と地域の安全を脅かすことになる。このため、原研のみならず動燃内においても安全確保を求め、拙速な開発を批判する声が高まった。折しも高度経済成長を終えて公害問題が起こるようになるとともに「七〇年安保(改定)」を迎え、国政革新の要求が高まっている時期でもあった。
 この時期、日本共産党が大きく組織を拡大していっており、原研、動燃内もその例外ではなかった。同時に、動燃内の労働組合(動燃労)の運動は、職場の要求を取り上げた各種の取り組みだけでなく、地域と結びついた音鑑活動が活発となり、若い組合員が積極的に職場内外で活躍するようになっていた。
 その中で、動燃労では、労使協調し経営の計画には口を挟まず原子力の研究開発を促進しようとする潮流(動燃が用いていた用語を使い「良識派」と言う。)と、安全確保を脇に置いた研究開発に批判的な潮流(「良識派」に対置するため「非良識派」と言う。)とが組合運動の方針をめぐって争うようになり、一九七四年に建設中の再処理工場で転落死亡事故が起きると、安全確保を求める声が大きく高まり、後者の潮流が本部および支部の施行部の多数を占める状況が生まれた。
 そして、一九七六年一月には動燃労の中央執行委員長が東海村村議選に立候補し当選した。
(3)動燃の巻き返し
ア 「良識派」による巻き返し

 しかし、すぐに巻き返しが始まった。動燃労内では、中央執行委員長が執行委員会に相談することなく村議に立候補したことを良識派が厳しく批判し、村議となった委員長は一九七六年二月には委員長職を辞任するに至った。
イ 労使・警察が連携した傾向調査
 事はこれでは終わらず、動燃は同年三月には日立から労務担当者を招へいし、およそ一九八〇年ころまで、警察組織(所轄署、県警、公安)および「良識派」と連携して職員の傾向調査を進めていった。この傾向調査は、日本共産党員や民青同盟員、あるいはこれらに近しい者、村議選において辞任した前中央執行委員長を支援した者、さらには中央ないし支部の執行委員選挙において「良識派」と対立する候補およびこれを支持した者らを「A」「B」「C」にランク分けして「敵性」判定をおこない、判別がまだできない者は経過観察などと分類した。
ウ 労使一体となった反共・「非良識派」攻撃の教育
 これと平行して、動燃は労使一体となって新人研修の際に、労働運動を共産党が牛耳り、革命を目指す「動員部隊」として利用しているが、動燃においてはこれと異なり「労働組合主義」の方針をとっており、組合活動を政争の具と考えている人達の発言が組合全体の意見とならないよう組合に関心を持ってほしいなどといったあからさまな反共教育や、「組合員の一部には労働組合の団結力を弱めるような行動、あるいは原子力開発を否定するような行動をとる集団があります。」「間違ってもこうした集団に引き込まれないよう良心的な行動をとることをお願いします。」などといった「非良識派」に近づかないよう求める教育を毎年繰り返した。
エ 差別処遇の開始
 そして動燃は、一九八三年ころには、傾向調査に基づき「良識派」ではない人々(「良識派」に対置する意味で「非良識派」と言う。)に対する人事対応と処遇の基本方針を決定した。その第一は、当該対象職員の在籍地において管理し、枢要業務から排除して、いわゆる「干す」ことを原則とするものであった。その第二は、「ぶんまわし」と「封じ込め」と称する人事措置を組み合わせ、周囲への影響力を削ぎ、孤立化させることとされていた。そして、「等価交換」として、対象職員を出す部署においては別の対象職員を受け入れるようにし、「食い逃げ」を許さないとする連帯責任の態勢でおこなうものとされていた。
 この方針に沿って、動燃は、各原告について、研修を受けさせず雑用のような仕事ばかりさせたり、二六年間も洗濯場担当に張り付けたり、放射線管理区域に立ち入れないよう担当を外したり、普通はせいぜい五年程度で異動になる僻地の事業所に定年を迎えるまで「封じ込め」、その間に繰り返し「良識派」への転向を求める工作をする、などをおこなってきた。そして、枢要業務から排除することで低い考課をおこない、昇級・昇格において同期・同学歴の入職組と比較して大幅な昇給・昇格差別をおこなった。
オ 「非良識派」の封じ込め
 以上の各種施策により、「非良識派」とされた人々の声はだんだんと小さなものとなり、動燃労内で本部および支部の執行委員の多数がとれないことはもちろん、執行委員にほとんど当選すらしないようにされていった。

 (以下は、次号掲載)


責任の所在を明らかにしたうえで、出直せ新国立競技場見直し問題

東京支部  長 澤   彰

 安倍首相は、七月一七日、新国立競技場の現行案について、「白紙撤回しゼロベースで見直す」と表明した。しかし、謝罪の一言もない。内閣支持率の急低下に歯止めをかけ、戦争法案の成立に強行しようとするための決断である。しかし、この問題は、見直したから済んだというわけにはいかない。責任の所在を明らかにし、メンバーを入れ替え、新しい国立競技場建設に生かしていく必要がある。
 デザインは、安藤忠雄を委員長とする審査委員会が決定した。ザハ・ハディドの案については、審査委員会で意見が分かれ、最終的に安藤忠雄が一任を取り付け、ハディド案に決定した。安藤委員長は、「スポーツにとって一番重要な躍動感がある。流線型の形の中に潜む内部空間の祝祭性は魅力的」と説明した。
 費用は当初一三〇〇億円から始まったが、その後増大し、六月二九日の専門家会議で、二五二〇億円を決定した。開閉式屋根部分は、オリンピックの後にとりつき得られ、別に一六八億円かかる。メイン会場は、ロンドンで六四五億円、リオデジャネイロで五五〇億円。これらの五個分の経費になる。五〇年間の修繕費用は、一〇四八億円、年間二〇億五〇〇〇万円の赤字となる。経費の内訳の四割は、キールアーチの屋根部分で、九五〇億円、デザインの特殊性・巨大キールアーチで七六五億円となっている。
 総工費は、ロンドンオリンピックが六四五億円なので、この二倍程度という安直な考えで、総工費一三〇〇億円でコンペを実施した。
 日本の文部科学省の二〇一五年のスポーツ関連予算は、わずか二九〇億円である。年間予算の八倍という巨大プロジェクトである。文部科学省は、このような巨大プロジェクトを扱ったことがなく、利権の温床となった。
 財源の確定分は、国が出す三九二億円を含むスポーツ振興基金とトトのサッカーくじを合わせて六二六億円だけ。総工費の四分の一に過ぎない。しかし、大成建設と工事契約を締結し、一〇月から着工する計画であった。
 工事の困難性としては、二本のキールアーチの問題がある。弓型をした巨大な鉄鋼製のアーチで、長さは三七〇メートル、東京タワーより巨大である。断面積は、八〇平方メートルで、3LDKのマンションの床面積に相当する。鋼鉄総量は、東京タワーの五塔分。キールアーチ一本、一万トン。アーチの下部を鉄筋コンクリートでつなぐため、地下を二〇メートル掘削しなければならない。土砂の量は、一〇トントラックで、三六万台分。一日一〇〇台として、一〇年かかる。地下鉄大江戸線に影響しないかという疑問、神宮の森の樹木の伐採を余儀なくされると言う自然破壊、いろいろな問題点が指摘されていた。
 ザハ・ハディドの建築は、流体的デザインを用い、曲線を多用し、未来社会を連想させる奇抜なデザインで、人々をびっくりさせるのが、特徴である。建築学会のノーベル賞と言われるプリツカー賞を女性で初めて受賞しているが、彼女について愛称は「アンビルドの女王」、『建てられない建物』を設計する女王であった。
 ザハ・ハディドは、コンペで入選した後、「本当に作るんですか」と言った。三つの意味があり、(1)お金が途方もなくかかること、(2)工期が長くなること、(3)補修費用が膨大にかかること、を意味していた。
 自民党は、設計の決定は、民主党野田政権の時で、自分たちに責任はないといっていた。しかし、東京オリンピックの誘致に、このデザインのメイン会場を最大限利用したのは、安倍政権である。IOC総会の場で、安倍首相は、「この会場でお待ちしています」と国際公約した。「放射能は、完全にブロックされている」という発言と共に、このデザインを、東京オリンピック招致に大きく活用したのは、安倍政権である。
 責任の所在がどこにあるのか。デザインを決定したのは日本スポーツ振興センターだが、文部科学省の外郭団体で、役員は現職の文科省からの出向者である。設計変更の決断をしなかったのは、政治の責任だ。文科省と安倍政権である。オリンピック組織委員会委員長の森喜朗元首相の政治的責任は大きい。「国家的プロジェクトである」といい、「三〇〇〇億円かかっても、四〇〇〇億円かかってもやるべきだ」と主張し、費用の拡大にお墨付きを与えてきた張本人であった。安倍首相が、初当選で国会に初登院した時、自民党幹事長として、絶大な権力をふるい、のちに総理大臣を務めた。自民党の国会議員の誰も、森本元首相に意見できるものはいなかった。
 工事を受注したのは、大成建設と竹中工務店である。大成建設は、取り壊されて国立競技場の施工業者で、また、新国立競技場も受注した。屋根の部分は、竹中工務店が受注した。二本の巨大アーチを組み立てると言う作業は、地上六〇メートル〜七〇メートルの空中に巨大クレーンでつり上げ、巨大アーチを組み立てていくという困難なものである。この技術を持つのは、竹中工務店だけで、キールアーチを採用した段階で、竹中工務店の受注は確実だった。受注額は、約一〇〇〇億円、自由競争原理は働かず、竹中工務店の言いなりの金額に膨張した。
 下村文部科学大臣は、責任を取り辞任すべきである。森元総理大臣が、組織委員長として権限を振うことは極めて異常である。森元総理は、若手に組織委員長を譲るべきである。文部科学省と安倍政権だけという、官僚と政治家だけで、計画企画立案すべきではなく、民間人の専門家を入れるべきである。野党推薦の専門家を選定し、企画立案に参加させるべきである。「国家的プロジェクト」にとらわれる限り、一八〇〇億円という財務省案がまかり通る恐れがある。ロンドンオリンピックの六四五億円以内に収めるべきである。「コンパクトオリンピック」に徹し、国民の納得のいく「新国立競技場」建設を行うべきである。


憲法二四条は活かされているか?
―「法律婚主義」「夫婦同氏」「単独親権」

東京支部  後 藤 富 士 子

一 「法律婚主義」は合憲か?
 日本国憲法二四条一項は、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と定めている。すなわち、婚姻を成立させるには、「合意」の外に何もいらない。
 ところが、民法では、戸籍法の定める「届出」をし、その届出が法令に違反していないとして「受理」されて初めて婚姻が成立する(民法七三九条、七四〇条)。そして、婚姻適齢(男一八歳、女一六歳)、重婚禁止、女の再婚禁止期間、近親婚の禁止、直系姻族の婚姻禁止、養親子等の婚姻禁止、未成年者の婚姻に父母の同意・・と色々ある。これでは、「合意のみ」で婚姻が成立するという憲法の規定に反している。
 一方、憲法は「同性婚」を排斥しているのだろうか?これについては、「性同一性障害者性別取扱特例法」により性転換した者は「異性」として法律婚が認められる。しかし、生物学的な性別が変わるわけではないから、「同性婚」とも見ることができ、憲法は排斥していないと解することになる。なお、最近の最高裁判決で、女から男に性別変更した夫と妻との間のAID(非配偶者間人工授精)で生まれた子について、生物学的にも異性の夫婦間のAIDで生まれた子と同様に、「嫡出子」と認められた。これは、民法七七二条「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」という規定に基づく。こうなると、父子関係を定めるために設けられた「嫡出推定」制度は陳腐化するのではないか。
 惟うに、生きた人間の社会では、「法律婚制度」の枠から外れるケースが出てくることは避けられない。その場合の対処について、方向性が異なる二つの方法が考えられる。一つは、枠から外れたケースを枠内に取り込む方法であり、他は、枠自体を取り払う方法である。前者の場合、必ず枠内に取り込む要件が設けられて線引きされるから、枠内に入れる者と入れない者とで差別化される。性同一性障害者の性別変更が認められる要件は厳格で、性転換手術が必要である。つまり、「異性婚」が擬制されなければならないのであり、あるがままの「同性婚」を許容しない。
 「同性愛」の性的嗜好をもったり、生物学的な性別と心理的な性別の不一致に苦しんだりする人が現にいる以上、「法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」とする憲法二四条二項に照らせば、法律婚の枠を取り払う方法こそ採用されるべきである。日本の「法律婚主義」は戸籍制度と不可分であり、それと必然的な関係があるのか分からないが、要件が厳格である。そして、法律婚は優遇され、差別を生み出す。これに対し、「事実婚主義」は、人が婚姻生活を営んでいる事実に対し婚姻の法的効果を付与する。価値観が多様化すれば、婚姻という私事について、当事者の自治に任せるほうが「生きやすい社会」になる。「個人の尊厳」は、国家が付与してくれるものではなく、人が実現するものであろう。
二 「夫婦同氏」強制の違憲性
 民法七五〇条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定め、夫婦のどちらか一方に改氏を強制している。
 しかしながら、これでは「婚姻の自由」と「両性の平等」が両立しないのであり、憲法二四条、一四条に違反する。
 このことを考えると、不平等の起源が「法律婚主義」にあることが分かる。「事実婚主義」なら、夫婦の同氏が強制されることはない。同氏を望む夫婦が選択的に同氏を称することができるようにすれば足りる。
 ちなみに、民法改正として論じられている「選択制夫婦別姓」は、倒錯している。「優遇された法律婚に取り込め」と要求することは、事実婚差別を温存するものであり、破廉恥ではなかろうか?
三 「単独親権」の違憲性
 民法は、「婚姻中は父母の共同親権」としている。換言すれば、未婚や離婚は単独親権である。なお、未婚や離婚自体が「親権喪失事由」とはされていない。
 しかし、二人いる親のうち必ず「どちらか一方が親権を喪失する」制度は、「未婚・離婚の自由」と「両性の平等」が両立しないから、「夫婦同氏」の強制と同様、憲法二四条、一四条に違反する。
 さらに問題なのは、父母間で協議が調わない場合に、裁判官が決めることである。戦前の「イエ制度」の下では「家の自治」があり、家族は国家の直轄ではなかった。それが、憲法二四条により「イエ制度」が廃止された結果、皮肉なことに、国家が家族・家庭を支配することになったのである。
 言うまでもなく、親は日本国憲法で「主権者」とされている。それに対し、日本の裁判官は、官僚にすぎない。そう考えると、どうして裁判官が片方の親から親権を剥奪できるのか、全く不思議である。

 (二〇一五・七・二五)


戦争法制阻止「夏の陣」たたかいはこれからです!

リーフレット第二弾 「安倍首相!違憲です!こんな説明で強行採決ですか?」の普及のお願い

事務局長  山 口 真 美(改憲阻止対策本部事務局長)

 安倍政権は、七月一五日、衆議院平和安全法制特別委員会で戦争法制の採択を強行し、翌一六日、衆院本会議においても同法案を強行採決しました。しかし、八割超の国民が説明不足と批判し、五割超の国民が法案の成立に反対しています。採決当日、国会は強行採決を批判する一〇万人の国民によって包囲されました。平和を求める国民の声、安倍政権の多数を頼んだ暴走を批判する声は日ごとに高まり、強行採決後の世論調査(共同通信社一七日、一八日実施)では内閣支持率が四七%から三七%に急落しました。強行採決を「よくなかった」とする回答は七三・三%を占めています。国民の理解が得られないのは戦争法案が集団的自衛権の行使を認め、武力行使と一体化した後方支援を認める違憲立法であるからにほかなりません。
 大多数の国民は戦争法案の成立を望んでいません。そして、国会軽視・国民無視の安倍政権の暴走に強い憤りをもっています。
 戦後七〇年の節目の年、この夏のたたかいが、日本を再び戦争する国にするか否か、日本の未来を決めます。安倍政権が、戦争法制を成立させるには、参議院で強行採決をするか、「六〇日ルール」を発動し衆議院で三分の二以上の多数による再議決を強行するか、二つの道しかありません。戦争法制に反対する国民の声を高め運動を広げて、安倍政権が採決を強行できない力関係に追い込めば廃案にできます。たたかいはこれからです。参議院でのたたかいをいっそう強めましょう。
 自由法曹団では、(1)地方・地域から、分野・階層から廃案要求の声をまきおこすこと、(2)国会議員に直接向ける活動を特段に重視することとあわせて、(3)旺盛な宣伝や対話で問題をさらに広げることを提起しています。その中で、自由法曹団リーフレット第一弾、第二弾で一〇〇万部水準の活用を訴えています。
 衆議院での国会論戦をふまえ、戦争法制の問題点を指摘しつつ、安倍政権の暴走・独裁を批判するリーフレット第二弾を作成しました。A四版のフルカラー両面刷りです。
 戦争法制の危険性、安倍政権の暴走ぶりを広く国民に訴え、法案の成立を阻止する運動を広げる宣伝ツールとして、ぜひ、ご活用ください。
 第一弾リーフレット「平和な戦後が終わる 安倍政権の戦争法制づくり」も好評発売中です。
 第一弾は戦争と平和の問題を訴える内容が中心、第二弾は安倍の暴走と独裁を民主主義の観点から批判する内容が中心です。参議院でのたたかいも戦争と平和の問題、そして、安倍政権の独裁と民主主義の問題が二大テーマになります。
 第一段、第二弾あわせてご活用ください。
* 一枚五円です。
(郵送費は、別途御請求いたしますので、御負担お願いいたします。)
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