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荒井 新二 みんなで想像力を働かせよう
―「県営住宅追出し母子心中事件調査報告書」
長沼  拓 *宮城・蔵王総会特集*
加美町最終処分場建設阻止運動の動向について
吉田 竜一 姫路市駅前文化祭中止命令国家賠償訴訟
―姫路市の全面謝罪により早期解決―
横山  雅 刑事訴訟法等の一括改正法案は臨時国会へ



みんなで想像力を働かせよう
―「県営住宅追出し母子心中事件調査報告書」

団 長  荒 井 新 二

 九月の常任幹事会で銚子市の母子心中事件について、団本部の貧困・社会保障問題委員会と千葉支部との協力による法的な問題点をおさえた調査報告書が確認された。
 昨年九月に県営住宅で、家賃滞納による部屋の明け渡しの強制執行当日に中学二年生の娘さんを殺害した事件である。本年六月一二日千葉地裁の裁判員裁判で母親は懲役七年(求刑一四年)の判決がおりた(現在控訴中)。マスコミで何度か報道されてきたので、事件の輪郭は知っておられる方が多いだろう。
 団はこれまで他団体(全生連・中央社保協・住まいの貧困に取り組むネットワーク)とともに現地調査(本年一月)をし、銚子市や千葉県に申し入れ、県議会で取りあげいただき行政の改善を求めてきた。現地調査・申入活動では、千葉支部の藤野幹事長・岩橋事務局長を先頭に約一〇名の支部団員が終日参加された。そして刑事裁判では同支部の若手を中心に全公判を傍聴し事実関係の把握につとめてくれた。「事件」にかなりの程度肉薄することができたと思う。母子の生活と境遇が遡って明らかにされ、報道内容よりも格段に掘り下げられ、「事件」のはらむ問題点が克明に浮かび上がる調査報告書になっている。委員会と千葉支部の大変な努力のもたらした成果である。
 (1)母子の経済的な窮迫状況は長期に亘り深刻化し、前年には娘さんの中学入学等の出費をまかなうため母親はヤミ金融に手をだしていたこと。(2)母親は強制執行の張り紙を見て、『もうダメだな』と思い自殺を決意したこと。(3)当初は、強制執行の日に合わせて自分ひとりだけが死ぬ、娘さんは「国に保護してもらう」と思っていたこと。(4)当日母親の体調が芳しくないことを心配した娘さんが学校を休んだこと。(4)執行官が入室したところ、母親は娘さんの運動会のビデオを見ており、「これ、うちの子なの」「頭に巻いている鉢巻きで首を絞めた」「このDVDが終わったら後を追って死ぬんだ」と述べたということ。(5)母親は給食センターに勤務し、公務という理由から他に職を求めず専業であったが、八月は夏休みのため無給であったこと、などが判明した。娘さんはバレー部のセッターで県大会(一年生)に出場し、運動会では応援団で頑張るほどの活発・明朗の性格であったようだ。母親が大好きだと日頃語っていたという(顧問の証言)。母親は娘さんには明け渡しを強制されていることを一切話さなかった、凶行時の状況は、母親は覚えていないと言う。したがって殺害のとき、この母子の間でどのような会話があったかは不明である。母親は地域でも諸活動に参加するなど表面的には社会的に孤立していた女性ではなかったと報じられている。
 この調査報告書では、行政当局や裁判所に幾つかの提言をしている。千葉県弁護士会でも市と県に「生活保護申請窓口等において適切な対応を求める」意見書を本年七月三〇日に出しているが、この団の意見書は弁護士会よりもさらに一歩も二歩も踏み込んで再発防止の改善策を提起している。行政のほうもこの間、家賃減免制度の周知方法を一部改めるなど幾つかの運用改善をしているが、不十分でさらに改善すべきことも多い。団としては、近々この調査報告書をもって関係団体と協議のうえ、さらに行政交渉などをする予定である。年頃の娘さんを抱えながら住んでいる場所を失うことの戸惑い、窓口で生活保護をすすんで求めようとしない一抹の矜持など、行政もわれわれも想像力を働かせて彼女らの身に添って、「事件」を見て再発防止に向けて様々な手を打っていくことが必要だろう。
 安倍首相は集団的自衛権の正当化のために、米艦に乗艦する母子のポンチ絵を見せ「幸福追求の権利」を守るのが国の当然の責務と大風呂敷を広げた。死んだ娘さん、愛するわが子に手をかけ刑事被告人になった母親の幸福追求は、どこに抛り投げ棄てられたのか。 安保法制がこのまま推移すれば、必ずや悲劇は再発するだろう。その背景として存在した貧困が増え、格差もより広がり、社会的な亀裂は一層深くなるだろう。「経済的徴兵制」もひろく懸念されている。社会のなかに根をもっているこのような事件が起こらないよう団としても、この分野ー貧困・生活・社会保障の問題群ーの仕事を広く進めていきたい。銚子市母子事件の調査報告書は、団のHPに載せる予定である。


*宮城・蔵王総会特集*

加美町最終処分場建設阻止運動の動向について

宮城県支部  長 沼   拓

一 はじめに
 現在、宮城県加美町の田代岳は、福島第一原子力発電所の事故により宮城県内に発生した八〇〇〇ベクレル以上の放射性廃棄物を焼却して埋め立てる施設(最終処分場)の最有力候補地になっています。
 本件最終処分場の候補地である田代岳一帯は、宮城県民の生活用水の供給源となっている場所です。また、加美町及びその周辺においては第一次産業、観光業が栄えているため、本件最終処分場が建設されれば風評被害などによって周辺住民に重大な損害が生じることが明らかです。
 そのため、加美町及び住民は本件最終処分場の建設に断固反対しており、その運動はますます大きくなってきています。
 また、万が一、国が本件最終処分場に着工した場合に備え、本件最終処分場差止の仮処分を申し立てることができるように弁護団が結成されています。
二 本件最終処分場建設の問題点
(1)本件候補地が水源地帯であること

 本件候補地付近には、鳴瀬川に通じる長沼沢、江合川に通じる岩堂沢、奇妙沼があり、これらは宮城県民の生活用水の水源となっています。そのため、田代岳付近一帯は、ふるさと宮城の水循環保全条例によりその地域の良好な水環境の保全を図る上で特に重要と認められる区域として宮城県水道水源保全地域の第一号に指定されている。)。従って、本件最終処分場から放射性物質が漏れた場合、それらの水源が汚染されることになります。鳴瀬川は二市四町、江合川は二市一町を流れている為、水源が汚染された場合、加美町だけではなく、大崎市、美里町、涌谷町、色麻町、石巻市、松島町、東松島市にまで被害が及ぶことになります。
 これらの河川が汚染されれば、住民は、直接飲料することや食物を介して内部被爆することとなり、その健康被害は甚大です。
 特に、地下水などは水量が少ないため、放射性物質により汚染された場合でも希釈化されません。そのため、水源地に最終処分場を建設することは非常にリスクが大きいものであるといえます。
(2)本件候補地は豪雪地帯・暴風地帯であること
 本件候補地は、豪雪地帯であり放射性物質が漏洩していないかを常時管理することが困難な場所です。本件候補地付近の県道は、冬場は道路標識が隠れるほどの積雪があり、管理上の問題が起こった場合でも迅速に対応することは不可能です。
 また、本件候補地は暴風地帯であり、仮に、焼却灰が飛散した場合などには、汚染が広範囲に広がることが予想されます。焼却した際に生じる煙に放射性物質が残っていた場合も同様です。
(3)本件候補地に最終処分場が建設されれば風評被害が発生すること
 鳴瀬川、江合川が流れる地域は、いずれも農業や観光業が盛んな地域であり、それらの産業なくしては当該地域が崩壊してしまうような重要なものです。
 平成二三年三月の福島原発事故後、放射能汚染により、宮城県内の本件候補地周辺地域において、農業や観光業を中心として甚大な風評被害を受けました。
 今回、放射性廃棄物を焼却して埋め立てる本件施設を建設すれば、人が食するものを生産するという農業の特色、数ある観光地からあえて放射能汚染のおそれがある観光地を人々は選択しないであろうこと、及び、福島原発事故での風評被害の実績からいって、再び、同地域は風評被害に遭うことは明白です。
三 詳細調査の阻止
 国が、本件最終処分場を建設するためには、候補地に対し詳細調査を実施しなければなりません。逆に、詳細調査が行われれば、その後、国は、一気に本件最終処分場の着工に入るおそれがあります。
 そのため、加美町及び住民は、国が詳細調査を本件候補地に対し実施することに強く反対しています。国は、加美町の他栗原市、大和町にも詳細調査を実施しようとしていますが、いずれも住民の反対運動により実現していません。
 田代岳は豪雪地帯ですので、冬場は詳細調査をすることができず、今のところ、雪解けまでは、国が詳細調査する目途は立っていません。
 今後も、引き続き反対運動を進めていくことによって、国の加美町への詳細調査実施及び最終処分場建設を断念させることが肝要です。宮城県知事は、「反対する人たちは納得がいかないなら司法の場に訴えればいい」などと言って、詳細調査を受け入れるように求めていますが、多数の住民の声を無視したものであり、宮城県民の代表の言葉とは思えません。
 今後は、特措法の改正を求める等さらなる運動が展開していくことになると思います。
四 最後に
 最終処分場問題は、原発事故により発生した放射性物質を最終的にどこが(誰が)負担しなければならないのかという問題を含んでおり(通常の原子力発電により発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分場についても候補地が決まっておらず、同様の問題があります。)、脱原発を考えるうえでも非常に重要な問題です。
 安易に東京電力及び国の責任を宮城県民に押しつけ、原発事故問題を風化させようとする本件最終処分場建設は、必ず阻止しなければなりません。
 なお、今年の宮城・蔵王総会のプレ企画では、この加美町最終処分場問題について綱島先生をお招きしてご講演頂きますので、振るってご参加下さい。


姫路市駅前文化祭中止命令国家賠償訴訟
―姫路市の全面謝罪により早期解決―

兵庫県支部  吉 田 竜 一

 姫路市の使用許可を得て、JR姫路駅前にある姫路市が管理する姫路駅北にぎわい交流広場で七月二四日に実施していた姫路駅前文化祭と銘打った西播地域の文化団体の活動発表会を、「安倍批判がある。個人を批判している」などという理由で姫路市から途中で中止させられた兵庫労連傘下の西播労連は、八月一一日、かかる中止命令が憲法二一条等に違反するとして姫路市を被告とする国家賠償訴訟を提起していたが、姫路市から全面的な謝罪があったことを受け、訴訟を一〇月七日に指定された第一回期日前(九月三〇日)に取り下げた。
 中止命令を発した直後は、姫路市の参事が、「批判的なことは全てだめ?」とのテレビのインタービューに、「そうです。好ましくないと判断します」と堂々と答える姿が映し出されるなど、姫路市は事の重大性を認識していなかったようであるが、市民からの抗議の声が姫路市に殺到したからであろう。八月四日、突然、市長は定例会見で「中止になったことは申し訳なかった」として、西播労連に謝罪する方針を明らかにした。しかし、記者会見における市長の発言は「申請目的にない行為だったが、きつい言葉遣いで注意したことや説明が不十分だったことを陳謝する」といったもので、姫路市が議員に配布した経緯を説明するペーパーにも「申請内容と、実際に行われた行事の内容が著しく異なるものと判断した」から中止を要請したと記載されるなど、そこでは、姫路市が憲法の保障する集会の自由、表現の自由を侵害するという違憲の行為を行ったという認識はまったく示されず、逆に、西播労連のやり方にも問題があったのだなどという事実を捻じ曲げた弁解がなされ、さらに市長は「不特定多数が不愉快な思いをするものは制限したい」などと、広く集会目的のための使用を認め、政治目的か否か、不愉快な思いをさせるか否かなどという理由で使用を制限していない条例、規則の見直しを始めるかのような発言までしていた。
 このような状況下、西播労連は、本件中止命令が違憲・違法の中止命令であったことを棚上げした形だけの謝罪はいらないとの思いから、八月一一日、国家賠償訴訟を神戸地裁姫路支部に提起したのであるが、提訴と合わせて、姫路市に対し、(1)本件中止命令が憲法違反であることを認めた上での謝罪、(2)姫路市及び三セクの職員らに対して憲法教育の実施等の再発防止策を講じること、(3)その前提として、条例、規則について、最高裁判例のもとで認められない集会の自由、表現の自由を不当に侵害するような改正は行わないこと、少なくとも姫路市の側からそのような改正案を議会に提出しないこと、(4)姫路駅前文化祭をやり直す機会を与えること、以上、四点についての申入れを行い、姫路市がこうした要求に真摯に対応するのであれば、訴訟を取り下げ、金銭請求も放棄する旨の申入書を送付していた。
 提訴日が裁判所の夏休み中で、第一回期日がなかなか決まらなかったこともあって、上記申入れに対する回答もないままで、訴訟で決着を着けることを決断せざるを得ないと考えていた矢先の九月末、姫路市からの回答が送付されてきた。
 その内容は、(1)本件中止命令を発したことで憲法二一条に違反する事態が生じたが、そのような事態が生じた責任は専ら姫路市にあり、西播労連には、申請手続及び集会の内容において何らの問題はなかった、そのことについて西播労連と出演者に謝罪する、(2)泉佐野市民会館事件・最高裁判決が定立した基準は、公の施設等の管理運営を行う上で、非常に重要な意義を有するものであり、今後、庁内施設所管課の担当職員への徹底を図る、(3)参事及び市長の発言を撤回する。条例、規則について、市が好ましいか好ましくないかを判断して許可不許可を決めるような、集会の自由、表現の自由を不当に侵害する改正は行わない、そのような改正案を議会に提出することはしない、(4)西播労連から申請があれば、「駅前文化祭」のやり直しを許可し、使用料については、前回中止分の使用料の還付を検討する、というもので、西播労連の行った申入れにおける要望を、ほぼ全面的に、西播労連の要望どおりに受け容れるというものであった(唯一、やり直す駅前文化祭の冒頭で、担当者が会場にて謝罪することを求めた点についてのみ、口頭で「勘弁して欲しい」といわれ、これを了承した)。
 回答は本件に対する反省と西播労連に対する誠意を感じることができるものであり、元々、金銭目的の訴訟ではなく、申入書でも西播労連の要望を受け容れるのであれば速やかに訴訟は取り下げる旨を約束していたこともあって、西播労連は、九月三〇日、姫路市役所内にて正式な回答書を受け取るとともに担当者からの謝罪を受けると、同日、訴訟を取り下げた。
 本件は、単に集会を不許可にしたという事案ではなく、一旦は許可しておいた集会を、その内容に「権力批判がある」などというとんでもない理由で途中で中止させるという、まさに戦前の「弁士中止」を想起させる重大な違法性をはらんでいた事案であり、姫路市がこれを反省、謝罪したのは当然といえば当然のことである。
 一方で、全国では、「政治的中立性」を盾に、さいたま市が管理する公民館で九条俳句の公民館だよりへの掲載を拒否したり、福岡市が市民団体が企画した反戦企画展の後援を拒否するなどの問題が相次いでおり、兵庫県でも神戸市は数年前から憲法記念日における九条の会などが主催する憲法集会を後援しなくなった。その根底には、姫路文化祭を中止させた職員の発想同様、「反対の意見もあるのだから、そうした意見を持っている人の感情を無視できない」という考えがあるものと思われる。
 しかし、例えば福岡市では、百田尚樹の講演は後援しているようであるが、かかる対応自体矛盾であるというだけでなく、百田講演を後援して、反戦企画展を後援しないことの方が「政治的中立性」を阻害した処理であることも明らかであろう。
 そもそも、「政治的中立性」は、反対の立場の集会も平等に許可する、後援することで十分に守ることができるのであるから(もちろん後援については何でも後援してよいということにはならないのであろうが)、ここで持ち出されている「政治的中立性」というのは、結局のところ、集会等を主催する人たちの思想と反対の立場の人たちの感情を害することのないように配慮しなければならないという考えに他ならない。ある意見に反対する意見もまた憲法上、保護に値することはいうまでもないものの、正当な意見に対する単なる反感、嫌悪感の類は正当な意見を制約する理由になどなり得ないことは明らかである。
 憲法二一条が保障する集会の自由、表現の自由は、単に国、地方公共団体に集会の自由、表現の自由を侵害してはならないということだけでなく、集会の場、表現の場を広く国民、市民に保障する責務をも課した規定である(地方自治法二二四条二項参照)。公の施設の不許可処分を違法と判断した上尾福祉会館使用不許可処分事件・最高裁平成八年三月一五日判決が支持した、一審・浦和地裁平成三年一〇月一一日判決は、「市民感情に対する配慮は、現実に反対の声が上がった場合、あるいは上がる蓋然性が高い場合に、市民に対し、集会の自由の重要性を説明するなどの方法によって行うべきであって、単に市民感情に反するというような漠然とした理由で使用を不許可とすることは、何事も平穏無事にしかずといういわば事なかれ主義的発想の表れであり、許されないというべきなのである」と述べていた。
 さいたま市、福岡市、神戸市などに見られる対応は、まさに「政治的中立性」を盾にした「憲法上、許されない事なかれ主義」であり、こうした自治体の対応は厳しく批判していかなければならない。
今後は、姫路市が本件を教訓に回答書で示した反省をきちんと実践しているのかどうかということを、西播労連や本件中止命令を問題視してくれた市民と一緒に検証をしていきたい。


刑事訴訟法等の一括改正法案は臨時国会へ

事務局次長  横 山   雅

臨時国会へ持ち越し
 二〇一五年通常国会に提出された盗聴法(通信傍受法)の拡大と手続の簡易化、司法取引の導入を含む刑事訴訟法等の一括改正法案は、衆議院法務委員会での自民・公明・民主・維新の四党の修正協議を経て、衆議院で可決し、参議院へ送付されたものの、参議院法務委員会では、趣旨説明を行ったのみに止まり、実質審議に入らないまま継続審議の決定を経て会期末に至った。
 参議院法務委員会で実質審議にまで入れなかったのは、そもそも衆議院での法案通過に時間がかかったこと、戦争法案の審議の影響を受けたこと、ヘイトスピーチ規制法案の決議を求める民主と決議を避けようとした自民・公明とのせめぎ合いの影響を受けたこと等に原因がある。
 継続審議となったため臨時国会に持ち越されれることとなったが、臨時国会での審議は、参議院から始まることとなる。
 したがって、参議院での早期決議をされてしまいかねない状況にあるという点で予断を許さないことから、廃案に向けて今から反対運動を行っていく必要がある。
審議の対象となる修正案は当初の法案の危険性を払拭できていない
 参議院での審議の対象となるのは、自民・公明・民主・維新の四党の修正協議が反映されたものである。修正の概要は、盗聴法については、盗聴された当事者に傍受記録の閲覧ができることや、不服申立てができること等の通知の義務づけを行うこと、司法取引については、検察官との司法取引の協議について、弁護人の常時関与を認め、検察官が司法取引をすべきか否かの判断にあたって、被疑者の犯罪と他人の犯罪の関連性の程度を考慮事項に加える等の微修正である。
 盗聴された当事者に不服申立ができることを通知したからといって、一度、侵害されたプライバシーが回復するわけではなく、また、弁護人が関与し検察官が事件の関連性を考慮したところで、司法取引による第三者の引っ張り込みによる冤罪作出の危険性はなくならない。
 したがって、いずれの修正も、盗聴・司法取引の本質的な問題点に踏み込んだものではない。当初の法案が孕んでいた危険性を何ら払拭するものではない。
秋の臨時国会での廃案に向けて
 なお、秋の臨時国会では、どの法案から審議をするかを改めて決めるところから始まるそうであり、また、会期も一か月程度と言われていることから、刑訴法改悪案にどれだけの審議時間が割かれるのかは定かではない。法務委員会には、通常国会で成立させることのできなかった債権法改正、外国人技能実習の法案等が係属しており、ヘイトスピーチ規制法案も継続審議となっていることから、刑訴法に割り当てられる時間はそれほどないのではないかと考えられる。
 引き続き法案の徹底審議を求めることが現状で一番必要なことと思われる。
 もっとも、法案を廃案にするためには、日弁連の態度を改めさせることが不可欠であるというのが対策本部での議論の中心である。
 そのため、各地の単位会に所属する団員の先生方におかれましては、各単位会より引き続き、反対の意見表明を挙げていただくことをお願い致します。
 また、今後の反対運動につきましては、決まり次第、団通信やFAXニュース等でご紹介させていただきますので、奮ってご参加下さい。