過去のページ―自由法曹団通信:1541号      

<<目次へ 団通信1541号(11月1日)


山口 真美 *宮城・蔵王総会特集*
二〇一五年宮城・蔵王総会が開催されました
樋川 雅一 プレ企画に参加して
永田  亮 「暑い夏の後、秋の宮城にて」
足立  悠 自由法曹団蔵王総会に参加して
井上 正信 抑止力論のウソとごまかしを斬る
玉木 昌美 団員は出張授業で主権者教育を
中丸 素明 有期雇用契約であることによる差別をなくす千葉での取組み
原  和良 所沢市育休退園処分執行停止決定
渡邊 靜子 明日につながる八月集会
近藤 里沙 女性部総会に参加して
中野 直樹 戦後七〇年の秋 山燃ゆる蔵王を歩く(その一)
今泉 義竜 六九期向け四団体合同事務所説明会へ是非ご参加を



*宮城・蔵王総会特集*

二〇一五年宮城・蔵王総会が開催されました

前事務局長  山 口 真 美

 二〇一五年一〇月一八日、一九日の両日、宮城県・蔵王市の宮城蔵王ロイヤルホテルにおいて、自由法曹団二〇一五年総会が開かれました。本総会では、延べ二九二名の団員が全国から集まり、活発な議論が交わされました。
 全体会の冒頭、西田穣(東京支部)、阿部潔(宮城県支部)両団員が議長団に選出され、議事が進められました。
 荒井新二団長の開会挨拶、地元宮城県支部の小野寺義象支部長からの歓迎挨拶に続き、仙台弁護士会・北見淑之副会長、全国労働組合総連合・井上久事務局長、日本国民救援会中央本部・坂屋光裕事務局次長、日本共産党・仁比聡平参議院議員、東日本大震災復旧・復興みやぎ県民センター・綱島不二雄代表世話人、蔵王町・村上英人町長の各氏から、ご来賓のご挨拶をいただきました。また、本総会には全国から合計六四本のメッセージが寄せられました。
 ご来賓のご挨拶に続き、恒例の古稀団員表彰が行われました。今年の古稀団員は三八名で、うち九名の古希団員が総会に参加されました。参加された古稀団員には、荒井新二団長から表彰状と副賞が手渡されました。また、古稀団員を代表して豊川義明団員(大阪支部)、窪田之喜団員(東京支部)、岡田尚団員(神奈川支部)からご挨拶をいただきました。
 続いて今村幸次郎幹事長から、本総会にあたっての議案の提案と問題提起がなされました。
 議案書の第一章に基づき、その後の情勢の変化も加味しながら、現在全国民的な課題となっている(1)戦争法制阻止のたたかいと改憲をめぐる問題、(2)沖縄・辺野古新基地建設をめぐるたたかい、(3)密告・監視社会をもたらす盗聴法の拡大と司法取引の導入をめぐる問題、(4)労働者派遣法など労働法制改悪をめぐる問題等について問題提起し、あわせて各分散会で討議されるべき主要なテーマについて解説しました。さらに予算・決算報告の報告がなされました。
 次に、山添健之団員(東京支部)から会計監査について報告がなされました。続いて、選挙管理委員会の齋藤信一団員(宮城県支部)から団長に荒井新二団員(東京支部)が無投票で選出された旨の報告がなされました。
 一日目の全体会終了後、四つの分散会に分かれて議案に対する討論が行われました。
 今年は、各分散会の共通テーマとして、(1)憲法と平和・民主主義をめぐるたたかい、(2)沖縄・辺野古と新基地建設阻止に向けたたたかい、(3)盗聴法拡大と司法取引の導入の動きや弾圧事件など治安警察分野でのたたかい、(4)労働者の生活と権利を守り、格差・貧困をなくすとりくみ、(5)東日本大震災からの復興と原発事故被害の回復と原発ゼロを目指すとりくみなどのテーマに沿って討議が進められ、この間の実践の報告を含めて、各分散会で活発な議論がなされました。
 各分散会の議論を受けて、二日目の全体会では以下のテーマで各団員から発言がなされました。
○田中隆団員(東京支部)・・・戦争法制阻止のたたかいから明日へ
○中谷雄二団員(愛知県支部)・・・戦争法制阻止闘争を愛知においてどう構築したか
○諸富健団員(京都支部)・・・京都における戦争法関連のとりくみ、及び、そこから得られた教訓と今後に向けての提案
○高木吉朗団員(沖縄支部)・・・辺野古新基地建設問題について
○竹村和也団員(東京支部)・・・首都圏における若手弁護士を中心とした辺野古新基地建設反対のとりくみについて
○三澤麻衣子団員(東京支部)・・・盗聴法拡大・司法取引等法案改正阻止への運動
○上田月子団員(埼玉支部)・・・団の労働関係の今期の活動報告と時期の活動に向けての呼びかけ
○大住広太団員(東京支部)・・・大田区における教科書採択問題のとりくみについて
○佐野雅則次長(本部)・・・原発再稼働と被害切り捨ての状況について
○松浦健太郎団員(宮城県支部)・・・被災者・被災地の切り捨てを許さない決議について
○菊地修団員(宮城県支部)・・・宮城県の加美町における放射性汚染物質の最終処分場の建設に断固反対するとりくみ
○田村陽平団員(千葉支部)・・・千葉県銚子市経営住宅追い出し母子心中事件現地調査報告について
○石川元也団員(大阪支部)・・・松川事件・ユネスコ世界記憶遺産登録運動について
 これらの発言以外に、弓仲忠昭団員(東京支部)から「盗聴法拡大・司法取引等刑事訴訟法等一括『改悪』法廃案を勝ちとるために 〜冤罪被害者等支援の市民団体、心ある国会議員との連帯を深めるとともに、日弁連執行部の姿勢を正そう〜」、小池振一郎団員(東京支部)から「刑訴法案廃案のために〜たたかいをふりかえって」、川口創団員(愛知県支部)から「安保法に対する違憲訴訟について」の各発言通告がありました。
 討論の最後に今村幹事長がまとめの発言を行い、議案、予算・決算が採決、すべて承認されました。
 続いて、以下の一一本の決議が採択されました。
○戦争法制(安保法制)の強行採決に抗議し、違憲立法の速やかな廃止を求める決議
○辺野古新基地建設に係る「埋立承認」の取り消しを強く支持し、国の対抗手段に抗議し、同新基地建設の中止を求める決議
○盗聴法の拡大と司法取引の導入を含む刑事訴訟法等の一括改正法案の廃案を求める決議
○安倍政権の進める労働法制大改悪に反対し、労働者派遣法の抜本改正、長時間労働と解雇の規制強化を求める決議
○被災地・被災者の切り捨てを許さない決議
○加美町最終処分場建設計画を断念するよう求める決議
○福島第一原発事故による被害の全面救済の実現及び原発政策からの即時撤退・原発のない社会の実現を求める決議
○教育公務員の政治的活動への罰則創設等の教員の管理強化に反対し、子どもたちに主権者教育を積極的に推進することを求める決議
○少年法の適用年齢を一八歳未満に引き下げることに反対する決議
○司法修習生に対する給費制復活を求める決議
○TPPの「大筋合意」に強く抗議するとともに、交渉からの撤退を求める決議(案)
 選挙管理委員会の久保田明人団員(東京支部)から、幹事は信任投票で選出された旨の報告がなされました。引き続き、総会を一時中断して拡大幹事会を開催し、規約に基づき、常任幹事、幹事長、事務局長、事務局次長の選任を行いました。
 退任した役員は次のとおりであり、退任の挨拶がありました。
   事務局長     山口 真美(東京支部)
   事務局次長   佐野 雅則(静岡県支部)
   同         田井  勝(神奈川支部)
   同         辰巳 創史(大阪支部)
   同         本田 伊孝(東京支部)
   同         横山  雅(東京支部)
新役員は次のとおりであり、代表して新たに選出された西田穣新事務局長から挨拶がなされました。
   団長       荒井 新二(東京支部 再任)
   幹事長     今村幸次郎(東京支部 再任)
   事務局長    西田  穣(東京支部 新任)
   事務局次長  増田 悠作(埼玉支部 再任)
   同        藤岡 拓郎(千葉支部 再任)
   同        岩佐 賢次(大阪支部 新任)
   同        久保田明人(東京支部 新任)
   同        種田 和敏(東京支部 新任)
 閉会にあたって、二〇一五年五月集会(五月二九日〜三〇日、二八日にプレ企画を予定)開催地である北海道支部・佐藤哲之支部長からの歓迎のメッセージが紹介され、最後に、宮城県支部の庄司捷彦団員による閉会挨拶をもって総会を閉じました。
一〇 総会前日の一〇月一七日にプレ企画が行われました。今回のプレ企画は、「三・一一の今」と題して二部構成で東日本大震災からの復旧・興問題をテーマにしました。第一部は、「東日本大震災 宮城県の復旧・復興の現状」と題し、小川靜治東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センター事務局次長にお話しいただき、第二部では、「指定廃棄物最終処分問題を考える」と題して綱島不二雄東日本大震災復旧・復興みやぎ県民センター代表世話人と弁護団の報告を受け、全体で六五名の団員が参加しました。
一一 今回も、多くの団員・事務局の皆さんのご参加とご協力によって無事総会を終えることができました。総会で出された旺盛な議論を力に、新たな情勢の下、大いに実践に取り組みましょう。
 最後になりますが、総会成功のためにご尽力いただいた宮城県支部の団員、事務局の皆様、関係者の方々に、この場を借りて改めてお礼申しあげます。ありがとうございました。


プレ企画に参加して

埼玉支部  樋 川 雅 一

 私は、今回の蔵王総会のプレ企画に参加した。私は、六七期の新人であるため、団総会への参加自体もこれが初めてであった。
 一つ目の報告は、「東日本大震災 宮城県の復旧・復興の現状」と題して、東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センターの小川靜治氏によって行われた。同センターは、二〇一一年五月に発足した団体で、被災者・被災地が主役の復旧・復興を一致点として、様々な団体・地域代表・個人が加盟している。
 小川氏の報告では、各種のデータを基にして、復興予算の流用がなされ真にこれを必要とする被災者の手に渡っていないこと、被災者の健康状態が悪化していること、仮設住宅の劣化により住環境が悪化していること、最終処分場建設問題に揺れる現地の現状等について、詳細な解説がなされた。
 震災から四年半以上が経過しているが、復興に対する国及び県の姿勢は不適切であり、被災者が置かれている現状は、復興から未だ遠いところにある。例えば、復興予算についてみると、二〇一三年度の復興予算の使い残しは、入札不調等の影響により、二・七兆円にものぼる。また、復興予算の流用も甚だしく、鳥取県のご当地アイドルの人件費名目で、復興予算として四〇〇〇万円を計上し、「被災者優先雇用」で募集をかけたものの、被災者からの応募はなかったという。このように、被災地以外の地域に対して、被災地復興という目的との関連性が極めて疑わしい事業への支出が多くなされている。
 また、県の姿勢についてみても、村井知事は、「創造的復興」を基本理念として、産業構造の改革や規制緩和といった施策(仙台空港民営化、国際リニアコライダー誘致等)を重点施策としている。これは、岩手県の復興計画と極めて対照的である。岩手県では、復興委員会メンバーをオール岩手で組織したうえで、その基本理念として、(1)被災者の人間らしい「暮らし」「学び」「仕事」を確保し、一人ひとりの幸福追求権を確保する、(2)「犠牲者の故郷への思いを継承する」を掲げ、また、復興テーマについても、「『なりわい』の再生」としている。
 以上のように、被災者の生活は厳しく、復興からほど遠い現状にあるにもかかわらず、国及び県の不適切な姿勢・対応によって、宮城県の復興が停滞している現状が明らかにされた。
 二つ目の報告は、指定廃棄物最終処分場問題についてであった。
 上記最終処分場建設の候補地として、宮城県の加美町、栗原市及び大和町の三市町が取り上げられている。二〇一四年一〇月、各地への現地調査が行われようとしたが、加美町の現場前での住民の反対運動により中断し、他の二市町についても、加美町での強い反対運動をうけて、現地調査が中断となっていた。しかし、二〇一五年一〇月上旬、環境省は、再度現地調査を強行しようとした。これについても、住民の反対で中断した状態である。
 このような現状に対して、仙台支部の複数の団員より、最終処分場の建設阻止を法的側面から実現するために、弁護団が行っている活動について報告がなされた。弁護団からは、水資源・積雪管理・風評被害等の各論点について、現在検討されている事項について、解説がなされた。
 夕方の懇親会においても、仙台の各団員から挨拶がなされ、私と同じ六七期の新人から大ベテランまでが、仙台において団総会が開催されることの意義、被災地の現状に対する思い、国や県に対する怒り等を思い思いに語っていた。
 私は、総会二日目が差支えであったため、プレ及び一日目の途中までの参加となってしまい、早々に帰路に就かざるを得なかったが、二日間だけとはいえ、有意義な総会であったと感じる。


「暑い夏の後、秋の宮城にて」

神奈川支部  永 田   亮

一 はじめに
 二〇一五年一〇月一七日から一九日、さわやかな秋晴れの下、紅く色づいた山並みを望む蔵王の地で、自由法曹団の宮城・蔵王総会が開催されました。
 弁護士となって丸二年となろうとする中、温泉につられつつ全国の活動や取り組みを学ぶため、今回も団総会に参加しました。
二 ここ半年の活動
 この一年、特に五月以降安保法案の成立を阻止すべく行ってきた活動は、これまでの人生において感じたことのない刺激的な日々でした。私の所属する神奈川支部においては、横浜地裁と横浜スタジアムそばの関内駅頭において「ほぼ連日街頭宣伝」と題して、各団員が協力しながら、平日ほぼ毎日(行えない日は雨がひどいか、国会前で行動する日くらいです。)駅頭に立って、団のリーフレットを配布し、安保法案反対の声を挙げました。みんなで頭をひねってどうすればもっと受け取ってもらえるかを考え、スピーカーから音楽を流しながら配布をするなど、自分の頭で考えて一歩一歩活動をしているという実感もありました。
 また、国会前のデモにおいて警察等とのトラブルがないように弁護士が行う見守り活動にも多くの団員が参加していました。八月三〇日の国会前一二万人デモ、安保法案成立直前の九月一四日から一九日まで連日行われたデモ活動など、非常に大きな市民の声、そして憲法を守りたいという強い思いを、まさに目の当たりにするとともに、弁護士としてその手助けが出来ていることを誇らしくも思いました。
 安保法案の「成立」後も、神奈川県での学生デモやママの会のイベントへの見守り要請が続いており、これまでの活動は、弁護士への大きな信頼感の源となっているものと感じています。
 この夏の経験は、忘れることはありませんし、これからの活動においても大切な財産になりました。
三 団総会に参加して
 そのような濃い半年を経て、今回の総会は、憲法を守るための活動の総括を行うとともに、憲法を守るための新しい活動を進める第一歩となる貴重な機会となりました。
 全体会の壇上で話される内容は、ほとんどが安倍政権による憲法破壊を指摘するものである一方、安保法案が「成立」したとしても悲観的になることなく、市民の中に芽生えた新しい民主主義への手応えを強く語るものでした。
 市民の側からの運動の盛り上がりは、神奈川の森団員、岡田団員をはじめとする古稀団員による、長きにわたる憲法尊重の活動が結実したものです。私たち若手団員も、先輩団員に負けないよう取り組みを行っていかなければなりません。
 もちろん、憲法問題だけではなく、盗聴法改悪阻止、原発を巡るたたかい、労働法改悪阻止、教科書採択への取り組み、TPPによる産業破壊など、私たちが直面している課題は枚挙に暇がありません。
 それでも、例えば大田区の育鵬社教科書の逆転不採択は、育鵬社の教科書が維持されてしまった横浜の私にとって、非常に刺激になり、勇気づけられるものでした。課題が山積みの中でも、団総会に参加することで、このような各地の取り組みを学び、今後自分の支部での取り組みに生かしていく機会を得ることが出来たように感じます。
 田井団員のご挨拶にもありましたが、昨年急逝した神奈川支部の先輩の阪田団員に恥じないよう、これまでの経験と自由法曹団で学んだことを踏まえて、これからも憲法の大切さを意識しながら活動を続けていきます。


自由法曹団蔵王総会に参加して

神奈川支部  足 立   悠

 本年の団総会は蔵王で開催されました。蔵王は自然豊かなところで思ったよりも木々が紅葉しており、とても空気が良かったです。
 私は、主に全体会の感想をつづりたいと思います。
 全体会の一日目のメインは何といっても、古稀団員の表彰でした。私は神奈川支部に所属しておりますので、森卓爾団員と岡田尚団員には日ごろからお世話になっております。お二方ともとても人権活動に積極的で、そしていつも優しくあこがれの先輩です。しかし、その先輩方のこれまでの功績や生い立ち等を知る機会は乏しく、今回の総会は大変良い機会となりました。古稀団員記念文集や古稀団員表彰状を併せ読むと、より先輩方のお人柄や活動歴がわかり、私も表彰を受けるまで長く活動をしていきたいと思いました。森団員がおっしゃっていた、「今年の古稀団員は、戦後初めての古稀団員」という言葉にははっとさせられました。長く人権活動に携わっておられる大先輩と一緒に活動できていることに感動すると同時に、現在の危機的状況下で絶対にこの長く続いてきた「戦後」を終わらせてはならない、「最初で最後の古稀団員」にしてはならないと思いました。
 この間の国会における安保法制の審議は、その内容も手続きも違憲かつ不当なものばかりでした。こんなことがまかり通ってはならない、そんな思いから全国各地に活動が広がったのだと思います。私も数え切れないほど路上に出て、時に様々な人と一緒に声をあげ、時に表現の自由の場を守る見守りをし、時にその場にいた見ず知らずの人とも語り合いました。そこに来ていた人たちの多くは、この現状を見て「居ても立っても居られない」という思いで来たと言っていました。それほどの状況だったに陥っているということです。
 分散会や二日目の全体会では、安保法制に関する各地の運動報告が多数ありました。都道府県単位どころか区やもっと小さな地域単位ですらそれぞれ特徴があり、その地域特性に合わせて運動の仕方もさまざまだと言うことがわかりました。中でも、愛知支部の中谷団員の報告にあったように、「肩書をつけては共闘できない」ということは大なり小なりどこの地域でもあって、それを超えなければ、安倍政権を倒すことはできないのだろうと思いました。
 ALL沖縄は、その意味で素晴らしい見本なのだと思います。これまでには色々対立や方向性の違いがあったかもしれない、今でも意見が違うところはたくさんあるのかもしれない、しかしどうしても譲れない一点で共闘できれば、絶対に勝てると信じています。
 「沖縄の声を日本中の声に」するために、首都圏の若手弁護士が呼びかけ人となって、辺野古新基地建設に反対するNo More Base Fesという連続企画を行ってきました。(団体名としては今後NBFesとなる予定です。詳しくは別稿に譲ります。)私もその運営側として携わってきました。全体会では竹村団員が活動報告してくれました。沖縄の問題と安保法案の問題は同時に取り組まなければ解決できません。ALL沖縄をお手本にするだけでなく、沖縄の声を日本中の声にし、日本中を巻き込んだ運動づくりが求められているのだと思います。
 安倍政権への怒りで疲弊しきっていた体には、蔵王の空気と温泉は本当によく効き、おかしいことにおかしいと言い続ける決意を新たにしました。


抑止力論のウソとごまかしを斬る

広島支部  井 上 正 信

 一〇月一八日、一九日の団総会第四分散会で、長野県支部の毛利さんが「抑止力論」批判の重要性について発言があった。私も毛利さんの問題提起に全面的に賛成である。なぜなら、安保法制法案の国会審議の中で、安保法制の必要性について安倍首相が「壊れたレコード」のように繰り返していた「避難する邦人が乗船している米艦船の防護」、「ホルムズ海峡機雷掃海」がことごとく破綻したので、安保法制で日米同盟の抑止力を強化して、中国・北朝鮮を抑止するということだけが残ったからである。
 しかしながら、抑止力論には多くの曖昧さや、もっと言えばウソとごまかしがあると考えている。以下に、私がこれまで各地の学習会や講演会で「抑止力論のウソとごまかし」について話してきたことを紹介する。
 その前に、安保法制で日米同盟の抑止力を強化して日本の平和と安全を守るという安全保障政策が、安全保障政策の名に値しないお粗末なものであるかを指摘する。
 日本が安保法制で米国に対して軍事的協力関係を強化すれば、米国は日本が万一の際には日米同盟により日本を守ってくれるということが確実でないと安全保障政策としては成り立たないはずである。これが安全保障政策として意味のあるものになるには、集団的自衛権を行使・米軍の武器を防護・後方支援をしなければ米国は日本を守ってくれいないことを前提にした上で、これらのことを日本が実行すれば、米国は日本を確実に防衛してくれるということを立証できなければならない。さらに安保法制により得られる平和と安全の量と、リスクの量とを天秤にかければ、平和と安全の量ががぜん多くて、リスクはさしたるものではないとの確実な推計ができなければならない。
 日米安保条約では、日本が集団的自衛権を行使しなくても米国は第五条で日本防衛義務があるのだから、政策の前提条件がそもそも欠ける。次に例えば万一尖閣諸島が中国に占領された場合、米軍が防衛してくれるであろうか。一〇月二一日付朝日新聞記事に、興味深い日米中韓の共同世論調査の結果がある。尖閣諸島を巡り日中が軍事衝突をした場合、米軍派遣の是非について米国の世論は、派遣反対が六四%、賛成が三三%であった。
 二〇一四年四月オバマが来日して行われた日米首脳会談後の共同記者会見で、尖閣諸島問題を問われたオバマは、尖閣諸島へ安保条約は適用される(防衛するとは言わず、持って回った言い方だ)、問題を平和的に解決することの重要性を強調し、安倍首相には、事態がエスカレートし続けることは正しくないと伝えた、中国は米国と世界にとって重要な国だ、などと発言した。尖閣諸島問題での安倍首相の強硬な姿勢に懸念を示して、挑発するなと抑えたのだ。これでは、安全保障法制で日本の平和と安全が守られると考える方がおかしい。平和・安全とリスクとの衡量は、以下の「抑止力論のウソとごまかし」をお読みいただければ結論は明らかであろう。
ごまかしその(1)
 抑止力という概念は極めて主観的なもの。抑止力を主観的要素の面から表すと次のような説明ができる。
 相手国がこちらを攻撃した場合、攻撃による利益よりももっと大きい打撃をこちらから受けると相手国が理解しているとこちらが認識でき、それにより、相手国はこちらを攻撃しないであろうとこちらが考えることができる場合、抑止が効いていると判断できる。
 下線部が主観的要素になる。抑止力とは何重にも主観的要素を重ねた判断であるから、平和の維持と抑止力との因果関係は客観的に立証できない。
ごまかしその(2)
 抑止力が働く前提がある。相互に相手の能力(軍事力)と意図(軍事戦略)が正確にわかること、互いに相手も自分と同じように理性的に判断するであろうと信頼できること。
 北朝鮮の金正恩は何を考えているかわからない危険な人物だとか、中国の軍事力、軍事的意図は不透明だと言えば、それは抑止が働かない可能性を認めることだ。抑止力の前提条件は危ういものなのだ。
ごまかしその(3)
 抑止論は抑止が破れた時のことは語らない。実はとても破れやすいのが抑止力だ。政治家は国民に対して、抑止力で安全であるとばかり説明したのでは政治家失格だ。破れないためにどうするのか、破れた時にどうするのかということこそが外交、政治で問われることだ。これに対して軍事的抑止力は答えにならない。日中間の紛争を考えた場合、歴史問題によるナショナリズムの高まりは、日中間の相互抑止をきわめて不安定にするであろう。その結果事態のコントロールができなくなり、破滅的な武力紛争になりかねない。
ごまかしその(4)
 実は抑止力論は平和を維持するためのものではないのだ。抑止力は、相手に不測の事態を起こさせないように力で抑えること。そのためには相手よりも強い軍事力を求めるし、いざとなったらその軍事力を使用するという態勢となる。いつでも戦争をしますよという意思と能力を持たなければ抑止力は働かない。また、抑止力は小規模な武力紛争を防ぐことはできない、むしろ起こしやすくさせるとも言われている(安定―不安定のパラドックス)。小規模な武力紛争が起きても互いの国が破滅的事態には至らないようにするのが抑止力というのだ。日米韓で抑止されているはずの北朝鮮による核開発、弾道ミサイル開発は防ぐことができなかった。北朝鮮軍による大延坪島砲撃事件、哨戒艦天安撃沈事件を防ぐことはできなかった。尖閣諸島を巡る日中間の小規模な武力紛争も防ぐことはできない。その場合抑止が破れたら破滅的事態だ。
ごまかしその(5)
 抑止力を高めればその国の国民はそれだけ安全になるのであろうか。もしそうであれば、世界中で一番安全な市民は米国市民であるといえるが、本当はその逆だ。テロの脅威に一番おびえている市民は米国人なのだ。
ごまかしその(6)
 現在最も脅威とされている国際テロは、抑止が効かない相手だ。抑止力が強い国ほど国際テロの脅威にさらされているのは実に皮肉なことだ。安倍首相はこう言うべきであった。「抑止力で平和と安全が守られる。ただし国際テロの脅威はこの限りにあらず。」と。
ごまかしその(7)
 抑止力論は相手の脅威ばかり強調し、自分の国が相手の国にとっていかに脅威となっているかを語らない。その結果、相手の脅威に対抗するために軍事力強化に走りやすくなる。今の安倍政権がそうだ。しかし相手国にはこちらの脅威が高まるわけだから、それを上回る軍拡に走ることになる。とめどもない軍拡のスパイラルに陥る危険性がある。その結果互いの国の安全は一層危機にさらされるという「安全保障のジレンマ」に陥るのだ。 
 私は軍事的抑止力論が幻想だというつもりはない。それに過度に依存する安倍内閣の安全保障政策が間違いであることを主張している。経済的な関係の強化、様々な分野や人の交流などを通じた外交関係の改善、軍事的信頼醸成措置、安全保障上の共通の脅威(自然災害、国際テロリズムや核兵器の脅威、環境破壊、新しい伝染病など)に対する共通の取り組み、これらの取り組みと併せて、地域的協調的な安全保障の枠組みを構築する努力こそが、日本を含む地域と世界の平和と安全を保障するもっとも有効な安全保障政策になるであろう。これこそが憲法第九条が指向する安全保障政策だと思う。


団員は出張授業で主権者教育を

滋賀支部  玉 木 昌 美

 滋賀弁護士会は日弁連の中でも法教育を推進するモデル県になっており、杉本団員に続いて石川団員が委員長を担うなど団員が活躍している。そうした中、私もたまに出張授業を引き受けている。二〇一五年一〇月五日、ある高校から一年生四クラスに、一八歳選挙権をテーマに授業をしてほしいとの要請があり、四名の弁護士が派遣された。
 私は、それなりの準備をして、なぜ、七〇年ぶりに選挙権の年齢を引き下げたのか、一八歳が成熟して判断能力があるといえるのかを中心に授業を行った。一番重視したのは、民主主義とは、「ものごとを主体的に作っていく」という思想であり、自分の手で幸福をつかむという考え方であることを強調し、憲法一三条の位置づけを明確にして展開した。また、その前提として、政治活動の自由、国民の言論活動の自由が大事で、議論を通じて理性的な判断をしなくてはならないことを述べた。「憲法と法律の違い」、「立憲主義とは」「九条の重要性」から「なぜ、高校に来て将来具体的には役立つと思えない勉強をするのか。」と話していき、自分の頭で考えることの重要性を強調した。四〇分という限られた時間で展開するにはやや無理がある内容であった。
 生徒たちの反応はいまひとつで、後半居眠りをする生徒も現れた。「あーあ、生徒たちに言いたいことが伝わらない。」と愕然とし、授業終了後には「今日は三〇点くらいの出来。」と落ち込んだ。一緒に行った坂梨団員も全く同様の感想であった。
 ところが、生徒達からの感想文が後日送られてきて、それなりに言いたいことが伝わっていることがわかり感動した。
 感想文の中には、「最近の若者は考えがあさはかなのであまりいいとは思いませんでした。」などと一八歳では荷が重いとする意見もあったが、「選挙権が一八歳になった以上なった時はしっかりと考えないといけないと思った。」「一八歳になって参政権をもらったら積極的に投票していきたいです」「若者の声が政治の場にとどけられることはすばらしいことだとおもいます。」「一八歳以上もおとなのなかまだと思います。」「選挙権が一八歳に下がるについて、選挙権が下がることの重さや、一票の大切さなのが、よくわかる授業で、選挙について少し興味をもてたので良かった。」「しっかりと考えて投票したいと思いました。」等と積極的な意見があった。
 また、憲法についても、「憲法は国務大臣などに守ってもらうための法だとはしりませんでした。」「憲法というもの、国の中で最も重要なもので将来僕たちにもかかわってくることです。」「憲法第九条、第十三条が大切なのだと知りました。」「政治はたったひとりの意見でも大事なんだと思いました。一八才と二〇才で二年しかかわらないけど、それだけでも一人一人の票や意見は政治を大きく変えるのかなあと思いました。」「僕てきには、第九条は守りきっていきたいと思いました。すごい大事なことを学べたのでよかったです。」「日本国憲法はとても大事だと思います。」「憲法九条の大切さについてよくわかった。国の決まりは、私たちが幸せに人間らしく生きていくために大切なことだとあらためて感じた。わざわざきてくれてしゃべってくれて、これをあたまのかたすみにおいときたい。」とあり、立憲主義、憲法の重要性等もしっかり伝わっていた。
 また、勉強についても「学校に来ている理由を考えてみると何もわかりませんでした。将来のこと、これからのことをしっかり考えていきたいと思います。」「法律だけでなく、生き方についても教えていただいたので、とても勉強になる授業でした。」等前向きの感想も寄せられた。
 一番の収穫は、こうした感想を寄せる若者であれば、一八歳選挙権の実施は大丈夫である、と確信が持てたことであった(尚、この高校は学力的には高くなく、感想文を書く用紙に「授業を受けての感想を五行以上書きなさい」という先生の指示があった。)
 もっとも、そのためには、若者に対するしっかりとした教育、働きかけが必要になる。総会の議案書の第三章の第四には、「若者への参政権への拡大は歓迎されるべきである。」としか書いていない。私は、団員が全国で出張授業を旺盛に展開し、主権者教育を担うべきであると思う。全教や高教組の教師に働きかけ、あらゆる学校で憲法や民主主義を教える出張授業をすべきではないか。シールズ等若者による自主的・自覚的な運動が展開される中、団はさらに民主主義の担い手を作るべきではないか。「政治的中立性」による圧力を跳ねのけ、私たちが若者の心をつかむべきである。
 尚、授業の前に高知の谷脇団員からレジュメを入手して参考にさせてもらったが、団の仲間は先駆的に活動しており、大いに活用すべきである。また、団総会の懇親会で大阪の新人井上将宏団員が出張授業の経験を報告したが、うれしく思ったところである(ちなみに彼は大津修習であった)。


有期雇用契約であることによる差別をなくす千葉での取組み

千葉支部  中 丸 素 明

一 郵政の職場の実態を知った驚き
 ことの発端は、日本郵便の有期雇用労働者であるYさんが、停職二か月の懲戒処分を受け、かつ、その直近の雇用期間をもって雇止めされた事件を受任したことにあった。この事件は、二〇一三年九月に、Yさんが勤務時間中に同僚を殴って怪我を負わせたことを理由とするもの。事実関係自体については、原・被告間に大きな主張の違いはない。
 Yさんの経歴を見ると、一九九五年六月に非常勤の国家公務員として採用された。千葉中央郵便局に配属され、「ゆうパック(小包)」の区分け・発着業務に従事。民営化後は、そのまま日本郵便の「期間雇用社員」となった。民営化の前後を通じて、六か月間の有期雇用契約となっていた。二〇一三年九月末日をもって雇止めされるまでに、通算すれば雇用期間は一八年四か月にもおよび、三六回の更新を重ねていた。
 職場の実態を知るに従い、驚くことの連続であった。第一に、Yさんは、この一八年余の間、一貫して夜勤(夜七時から翌朝六時が標準)に従事していた(同僚らも同じ)。人間を夜行性動物まがいの扱いをする職場があること自体、驚きであった。しかも、千葉中央郵便局で夜勤のゆうパック業務に従事している約四〇名のうち、管理者(一、二名)を除く全員が六か月契約の「期間雇用社員」である。賃金を見ると、一八年間余勤務してきたYさんですら時給が九九〇円(基本給八四〇円・加算給一五〇円)であり、深夜手当(月額約五万円)を含めても、手取額は月額二〇万円前後となっていた。夏・冬の一時金も、「雀の涙」にすぎない。
 この事件については、郵政産業労働者ユニオンや地元の千葉スクラムユニオンを中心に「Yさんを職場に戻す会」が結成された。支援者などからいろいろと教わる中で、正規社員と「期間雇用社員」との間には、基本賃金・一時金のみならず、諸手当や休暇などの面でも理不尽な著しい格差があることを知った。郵政や東京メトロコマースの仲間達が、「労働契約法二〇条裁判」を提起してたたかっていることも。
 ちなみに、Yさんの事件については、二〇一五年六月三〇日、千葉地裁は、懲戒処分無効、雇止め無効(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認)の完全勝訴判決を下した。会社が控訴し、現在東京高裁に係属中である。
二 「労働契約法二〇条を活かす会」の結成
 現在、非正規労働者の数は約二〇〇〇万人、雇用者全体の三七・六%にものぼる(二〇一四年厚労省調査)。「非正規」のうち、有期労働契約の労働者は約一二〇〇万人であり、そのうち約三割が通算五年を超えて継続勤務している実態にある(厚労省作成のパンフ)。その多くが、たえず雇用不安を抱えての労働を強いられ、賃金をはじめ低劣な労働条件の下で働くことを余儀なくされている。郵政や一部の職場での問題に、留まるはずがない。千葉県でも、Yさんの雇止め事件を一つの契機として、非正規の問題に本腰を入れて取組む必要が語られはじめた。なかでも、喫緊の課題として、労働契約法二〇条を職場で活かし、有期雇用労働者差別を無くす活動の重要性が、多くの労働者・労働組合の共通認識になっていった。
 本年六月十一日、「労働契約法二〇条を活かし均等待遇を実現する千葉の会」の結成総会が開かれた。当初は、「労働契約法二〇条裁判を支える会・千葉」が構想されていた。しかし、裁判支援では不十分だとの圧倒的な声によって、「千葉県内における労働契約法二〇条を活かした闘いや非正規労働者との連携・共闘を目的とする」(規約から)こととなり、上記の会の結成に至った。この会のもう一つの大きな意義として、これまでになかったような共闘のひろがりがある。これまで、なかなか実現しなかった千葉労連(全労連のローカルセンター)と「千葉県共闘会議」(全労協系)との共闘体制が実現できた。そればかりか、結成総会には連合に加盟する「なのはなユニオン」(「非正規」問題に精力的に取り組んでいる)の代表者も参加し、ともにたたかう決意表明があった。
 その後、市川・浦安労連で、この問題を取り上げるなど、少しずつではあるが「活かす会」の趣旨に則った活動がひろがってきている。「活かす会」の結成後に、県内の、バス関係の職場で、新たに訴訟も提起されている。
三 職場総点検運動の提起 第二五回千葉県権利討論集会
 来る一一月二三日、第二五回千葉県権利討論集会が開かれる(実行委員長は小林幸也団員)。故田村徹団員の熱意で始まったこの集会も、今年で二五周年を迎えることになる。今回のテーマは、「さらば! 雇用破壊」・「めざせ! 均等待遇」と決まった。準備を進める中で、自分たちの職場に正規社員と期間雇用社員との間に、どのような格差(相違)があるのかを正確に掴んでいないところが案外多くはないかとの指摘があった。確かにそのとおりの面があるようで、これを機会に、まずはその実態を把握しようということになった。そして、「職場総点検」活動を一斉に行うことを提起するとともに、そのための「チェックリスト」をつくり、それにもとづいて調査を実施することとした。「チェックリスト」は、郵政でまとめていただいた資料を参考にしながら、賃金(基本給・一時金・諸手当・退職金)、諸休暇制度、安全衛生面、福利厚生面を対象にしている。まだまだ不十分なものであるが、実態をある程度つかめるのではないかと期待している。
 労働契約法二〇条を活かす取組みは、これまで無権利状態に置かれてきた多くの有期雇用労働者の権利を確立するうえで、大きな意義を持つと考える。いわば、「攻め」のたたかいが可能となる。今回の職場総点検によって、「不合理」な「相違」だと考えられるものについては、「正規」と「契約社員」とが一体となって是正を求めていくことにしている。

(一〇・二二記)


所沢市育休退園処分執行停止決定

東京支部  原   和 良

 埼玉県所沢市は、四月一日から、上の子が保育園に通う母親が下の子を出産し育児休業を取得した場合、〇、一、二歳児クラスの上の子を原則として出産の二か月後の月末をもって退園させる制度改悪を行った。
 六月二五日、母親が妊娠し育児休業取得を予定している八世帯の保護者が、埼玉地方裁判所に、保育実施解除差止め訴訟を提起し、同時に仮の差止めを申し立てた。翌週には、さらに六世帯が同様の訴訟を提起した。
 差止め訴訟は、現在継続中であるが、仮の差止めについては、七月二三日、申し立てを棄却する決定が出された。その理由は、本件処分がされる蓋然性がないこと、その傍論として所沢市長による法の趣旨に沿った適切な制度運用がなされることが期待される、というものであった。
 ところが、八月に入り差止め訴訟の原告であったAさんに、一三日付けで保育継続不可の決定が届き、Aは、差止め訴訟を取り下げた上、保育継続不可決定に対する取消訴訟及び執行停止の申し立てを行った。申し立ての中で、私たちは、(1)本件制度及び決定が、子どもの保育を受ける権利を侵害し、児童福祉法、子ども・子育て支援法の趣旨に反する違法なものであること、(2)実施中の保育を突然解除する重大な不利益であり、告知期間・猶予期間等もなく、市民・保護者らとの協議もないまま導入された制度でありその手続き的瑕疵は重大であり、行政の裁量権の逸脱・濫用があること、(3)許可・不可決定の基準があいまいで平等原則に反すること、(4)不可決定処分(及びその後の「解除通知」)は、行政法二条四項の「不利益処分」にあたり、行政手続法が要請する聴聞手続きが必要であるところ、聴聞手続きが行われておらず違法であること、などを主張した。
 九月二九日付けの決定は、子どもの保育を受ける権利の重要性を正面から認めたうえで、(1)本来許可決定を出すべき事情がある申立人に十分な調査を行わず不可決定を出した疑いがある、(2)不可決定処分の後に出された解除通知が、行政法二条四項の不利益処分にあたり、聴聞手続きを経ずに行われた処分は、違法の疑いがある、ことを理由として、退園処分の執行停止を認める画期的決定を行った。
 所沢市の保護者らのたたかいは、全国の子育て世代を励ます一方、同様な育休退園制度を導入していた自治体に制度の見直し、廃止を検討するようになったという貴重な成果を生み出した。本気で少子高齢化を食い止め、女性が社会で輝ける社会をつくるのであれば、子どもの保育請求権を国が保障し、希望すればだれでも保育園に入所できる施策をとるほかない。保育施設の物的拡充とともに、そこで働く保育士その他の職員に専門職にふさわしい待遇を保障しながら、職場での子育て支援、雇用の安定を図ってこそ、この国の未来がある。
 この裁判には、当初の差止め・仮差し止めの裁判に、団員のみなさんをはじめ、全国一五六名の弁護士が代理人就任を快諾いただいた。全国の団員のご協力にこの場を借りてお礼を申し上げたい。


明日につながる八月集会

滋賀第一法律事務所  渡 邊 靜 子

 九年目となる滋賀支部の八月集会は、まさに安保法制反対の闘い真最中、八月二七日に弁護士一九名、事務局一五名、他四名合計三八名の参加で開催されました。
 生活保護訴訟をはじめとする九本の事件報告、弁護士内藤功先生の「戦争法案を斬る これまでの憲法裁判を踏まえて」の講演を行い、いつの間にか恒例になった参加者全員スピーチのある懇親会も盛況でした。
 特に、講演会の内藤先生のお話は、五月集会の憲法分科会で発言を聞いていた私にとって、じっくりと続きが聞けるとわくわくしながら待ち望んでいました。
 砂川・恵庭・長沼・百里・イラク派兵の憲法九条裁判闘争の体験を弁護士として、国会議員として活躍されてきた内藤先生のお話は、原典を紐解くかのように聞くことができ、参加者にとって大いに刺激になりました。なにより、一つ一つの事を鮮明に語られる姿に、翌日事務所に早々に届けられた、団員以外の弁護士からの感想が「昨日はありがとうございました。四〇年ぶりに内藤先生におめにかかりました。昔と同じで、楽しいお話でした。八四歳と聞いてびっくりしました。私より一回りも上なのに元気でしたから(心身ともに)私も頑張らねばならないと思いました。日本の平和のためにね。これ本気です。次の機会があればまたご連絡ください」とあり、ラブレターを頂いたように嬉しかったです。
 また、「その時代を生きて体験された内藤先生しかしゃべれないリアルな話に聞き入りました。憲法を守る闘いが成功していることを知りました。新安保法制の反対運動がこれまでの憲法を守る闘いの積み重ねの上にあることが実感を伴って理解できました」「今後の講師活動に活かします」という団員の感想もありました。
 私は、もっと歴史の勉強もしていかないと、時代背景があまり理解できていない自分自身に歯がゆい思いをしました。
 講演の結びで、闘いの展望をどう切り開いていくかは、世論と運動を広げる無限の可能性があり、憲法を定着するチャンスだと指摘されたことに、昼・夕方となく続いたこの間の街頭宣伝活動に疲れ果てていた者に栄養ドリンクとなったこと間違いありません。
 今回の八月集会の収穫は、団員以外の弁護士にも参加呼びかけをいつも以上に強化し、団の姿を体感してもらえたことです。団を知らせる活動に様々なチャンネルを持つことが大切だとあらためて思いました。また、八月集会では一貫してベテラン団員から講師になっていただいています。鳥瞰図のように折々の事案を「しかけ」「からくり」という形でこれまでの団の活動と絡めて語られることは、自由法曹団ここにあり、この先輩団員に続く団員でよかった、その事務局でよかったと思う瞬間です。
 さて、来年、八月集会は一〇周年を迎えます。五月集会の延長線上からはじまった滋賀支部の八月集会は、単なる地方の縮小版ではありません。続いたわけには、会場手配をはじめとする準備に至っても各事務所で分担して、輪番体制で行い、互いの荷を分かち合っているところです。各事務所の交流がつくられ、協力し合える関係を弁護士と事務局で作り出してきました。
 自由法曹団を体感できる滋賀支部の八月集会、憲法カフェのような感覚で、各地でも広がれば、明日の団物語に多くの仲間が登場することにつながると思います。


女性部総会に参加して

埼玉支部  近 藤 里 沙

 九月一一・一二日、佐賀県唐津市で女性部の総会が開催されました。
 唐津というと唐津焼が有名ですが、それ以外にも、唐津城や虹ノ松原など素晴らしい観光スポットのある、風光明媚な素敵なところでした。
 総会では、全国各地の部員の方々の憲法活動について報告しつつ意見を求めたり、女性弁護士の働き方について自由に討論したりと、この規模だからこそできる、活発な意見交換をすることができました。
 また、ゲストスピーカーに、福岡県久留米市の男女平等推進センターの石本宗子さんをお招きし、講演していただきました。主に、久留米市でのDV被害者に対するサポートの仕組み等についてお話していただいたのですが、その手厚さに感心致しました。現在の久留米市のようなサポートの仕組みができるまでには、福岡支部の原田直子先生がご尽力されていると聞き、納得致しました。弁護士と自治体とが連携し、本当に困っている人たちのための仕組みを作っているという素晴らしい例を勉強させてもらいました。自分たちの地域でも、このような仕組みを作っていきたいと思ったのは私だけではなかったと思います。
 翌日は、國府先生から北九州の生活保護実態の報告をしていただき、各地で生活保護裁判に関わっている先生方から報告等がなされました。また、女性弁護士としての働き方について、妊娠・出産・育児について各事務所の例の報告や意見交換がなされました。こういうところも女性部ならではだと思います。
 総会終了後は、オプショナルツアーとして、呼子観光・玄海原発のエネルギーパークの観光に参加致しました。あいにくの天気で、途中から大雨に降られてしまいましたが、おいしいイカを堪能し、呼子の景色も楽しむことができました。エネルギーパークは、職員がたくさんいてグループごとに案内をしてくれ、パンフレット等もたくさん渡してくれ、全て無料という手厚さでした。こういうところにお金をかけているんだなと強く感じる場所でした。
 総会には、三六名の女性部員が参加し、荒井新二団長、佐賀支部から宮原貞喜先生、福岡支部から支部長の山本一行先生にもお越しいただきました。お忙しい中、お越しいただいた先生方、本当にありがとうございました。団の総会と比べると、小規模ではありましたが、北は北海道から南は九州までの部員の先生に参加していただき、活発な議論をすることができました。私は、今年初めて参加しましたが、全国各地の先輩女性弁護士のお話を色々とうかがうことでき、勉強になりましたし、とても良い経験をすることができました。
 来年の総会も今年以上に多くの女性部の先生方にお越しいただきたいと思っております。よろしくお願い致します。


戦後七〇年の秋 山燃ゆる蔵王を歩く(その一)

神奈川支部  中 野 直 樹

宮城県蔵王の温泉
 一〇月半ば、京都の浅野則明弁護士の「呼出し」を受けて、午前八時前に遠刈田温泉のホテル入口に自動車を着けた。用件は、浅野さんの八九番目の百名山の旅の相棒と自動車支援であった。午前二時五〇分に自宅を出発して、深夜から黎明の東北道を走ってきた。関東は雨模様であったが、福島を過ぎ、秋真っ盛りの蔵王山麓を上ってきたときには快晴となった。
 蔵王山は、宮城と山形にまたがる長大な山脈であるが、稜線部の標高差は二〇〇メートルほどしかなく、俺がと威張るような盟主がいない。中央部が相対的にもっとも高く、熊野岳(一八四〇メートル)と刈田岳(一七八七メートル)その間に御釜がある、現在火口周辺警報対象の火山である。蔵王という名は、釈迦如来の化身といわれ修験道の本尊である蔵王権現から由来している。
 宮城山麓と山形山麓は蔵王エコーラインで結ばれ、この最高点の駐車場は刈田岳の直下にあるので、今の時代は車が百名山に登ったも同然である。この味気のない蔵王山にどう魅せられて、どんな発見をしながら歩けるか、がこの山行の課題であった。
 出発して紅葉に包まれた道路を一〇分ほど上ると青根温泉に出てしまった。エコーラインにいかなければならないところ、冒頭から道を間違えてしまった。私は二〇年近く、青根温泉の不忘館・岡崎旅館を東北の渓流釣りのベース宿としてきているので、無意識にこちらの道を選んでしまったのだった。間違ってのついでに脇道にそれると、青根温泉には江戸時代伊達藩の御殿湯があった。山本周五郎作「樅の木は残った」は、伊達藩の内紛を描いたものだが、その主人公原田甲斐がこの青根温泉で逗留しているときに、大シカと闘うシーンがある。この小説は一九七〇年NHK大河ドラマとなり、平幹二郎が原田甲斐役を演じた。青根温泉では旅館名に「不忘」と付しているところがほかにもある。この「不忘」は後にも登場する。
滝見の名所ライン
 いったん遠刈田温泉まで下ってエコーラインに入り、山頂駐車場までの標高差一四〇〇メートルのドライブとなった。阿武隈川に合流する白石川の支流松川は遠刈田温泉で澄川と濁川に分かれ、蔵王山に突き上げていく。エコーラインは、この澄川と濁川の間の尾根に付けられている。道の両側は最高潮の紅葉に彩られ、目と心をとらわれながらの運転となった。左手には、今日歩く予定の南蔵王の稜線とみやぎ蔵王スキー場のゲレンデとなっている山斜面が広がってきた。一つめの滝見台で車を降りた。澄川を流れ落ちる白龍の滝、不動の滝、地蔵の滝が、朝陽に染まる山肌を、真っ白いしぶきをあげて落ちている自然があった。黄色を基調とし、点在する赤が炎をあげ、夏まで山を独占し今は少数派となった緑色が陰影をつくって錦を映えさせていた。浅野さんも私も夢中でカメラのシャッターボタンを押した。
 道草をおえて再びエコーラインを上ると、右手方向に峩峩温泉の道案内が出た。浅野さんによると、標高八〇〇メートルのところに日本秘湯を守る会会員の宿一軒があり、そこは私が釣りの定宿とする青根温泉の宿賃の三倍ほどの値段だそうだ。
 再び滝見台があり車を止め、寄り道だ。今度は、右側の濁川の最源流で刈田岳から流れ落ちる不帰ノ滝を展望した。上部は溶岩と火山灰と硫黄に覆われた生命の存在を感じさせない山容、目線の高さは低木で赤紅葉が強烈な印象を与える絶景であった。地形の構造に紅葉の進行と澄み渡った青空と朝陽の斜光の加減が組み合わさって織りなす美の一瞬であった。
南蔵王縦走コース
 道草をしながらも予定どおり九時に刈田峠(一五八〇メートル)の車道脇の空地に車を止め、歩き始めた。浅野さんの計画書では片道七・五キロメートルをピストンすることになる。実際に歩いてみてわかったが、ここを縦走して戻ってくるハイカーは少ない。地図を見ると、主稜線は前山、杉ヶ峰、屏風岳、南屏風岳とあるが、外形上わかる頂があるわけでもない。登山と言うよりトレッキングである。快晴で気温も適度であることから、気持ちよく、樹氷の芯となるアオモリトドマツ林に歩を進めた。特記事項がないばかりか、屏風岳(一八一六メートル)に差しかかると霧に包まれ、南側の展望がなくなった。こんないい天気に参ったねと言い合いながら、南屏風岳に向けて少しの下りを歩むと、うれしいことに霧が晴れ、南屏風岳への雄大な尾根、そして目的地の不忘山が一望できるようになった。
 この扁平な縦走コースの脇に位置する後烏帽子岳、水引入道が独立した姿を見せる。目的とする不忘山(一七〇五メートル)が主稜線で唯一三角錐の山容を見せている。ガレ場を下って今日初めての山登りらしい登りをして一一時五〇分、不忘岳の山頂に着いた。山頂は一〇数名の登山客が昼食をとっていた。ほとんどがみやぎ蔵王スキー場を登り口にしているようだ。私たちも湯を湧かして昼飯とした。浅野さんはカップメンとコンビニおにぎり、私は持参の野菜を刻んで入れた佐賀の豚骨出汁棒ラーメンと朝食用に握ってきたおむすびの残りである。手作り感でわずかに優である。
 穏やかな日差にぬくもりながら、山頂直下で目にした新しい小さな黒御影石の碑が気に掛かった。登山道に向いた面には「二〇一五年八月二日 不忘平和記念公園建設委員会建立」と刻まれていた。通常山で見かける遭難碑ではない。戦後七〇年の節目に関わるものだろうが、どうしてこのような山頂に碑を建てたのだろうか。昼食を終えて下り始めに、もう一度気になった碑を今度は四面とも見た。そこには意外が事実が書かれていた。(続く)


六九期向け四団体合同事務所説明会へ是非ご参加を

東京支部  今 泉 義 竜

一 四団体事務所説明会のご案内
 恒例の四団体(自由法曹団、青法協、日民協、労働弁護団)事務所説明会を、以下のとおり開催します。
 日時:一二月一二日(土)、午後一時〜
 場所:主婦会館プラザエフ「カトレア」
         (JR四谷駅から徒歩一分)
 六九期は、今年一一月下旬から一年間の司法修習を行い、来年一二月登録予定の期です。昨年から復活した和光集合修習期間中に説明会を開催するため、多数の修習生の参加が予想されます(八〇名程度)。多くの事務所に参加していただき、新しい出会いが生まれる機会にしたいと思います。
 ぜひふるってご参加ください。今年の四団体説明会は一回のみの開催ですので、全国からのご参加をお待ちしております。
 なお、都合により参加できない遠方の事務所で、是非新人をという事務所につきましては、メールまたはFAXにて、詳しい募集要項(事務所名、採用担当者、連絡先、採用予定人数、勤務条件、事務所の特色等)をファックスまたはメールにて送付下さい。当日参加した修習生に紹介致します。
二 当日の予定
 一二時半 会場
 一三時   開始(学習会)
 六九期司法修習生を対象にした学習会を行う予定です。この時点では、事務所側は参加していただかなくても結構です。
 一四時  事務所説明会開始←遅くともこの時間までにお越しください。
 一七時半〜懇親会
 説明会の参加費用として各事務所一万円を頂戴いたします。懇親会には別途弁護士一人あたり一万円をいただきます。
三 質問・参加受付
 参加される事務所は、事務所名、参加者名をご記入の上、下記宛先まで FAXまたはメールで一二月七日までに御連絡下さい。
東京法律事務所
 電 話 〇三-三三五五-〇六一一
 FAX 〇三-三三五七-五七四二
 メール imaizumi@tokyolaw.gr.jp