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名和田 陽子 佐賀・唐津総会プレ企画のご案内
―佐賀の環境を守る取り組み―
高 木 輝 雄 ストップ・リニア!訴訟について
相 曽 真知子 マネキンフラッシュモブ訴訟
馬奈木 厳太郎 裁判所が「来年三月の結審を目指す」と明言しました 〜「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟第二〇回期日の報告
大久保 賢一 外務省に喝!!(上)
金 竜 介 自由法曹団は何を核として部落差別解消法案に取り組もうとしているのか
後藤 富士子 婚姻の成立――憲法と民法の間隔
和合 佐登恵 団滋賀支部八月集会報告



佐賀・唐津総会プレ企画のご案内

―佐賀の環境を守る取り組み―

佐賀支部 名和田 陽子

 佐賀・唐津総会のプレ企画では、「佐賀の環境を守る取り組み」と題し、団員が関わる地元佐賀県を中心とした環境問題に関する訴訟・運動について取り扱います。
 佐賀県では近時環境に関する訴訟・運動が多数行われていますが、その中から、まず昨年原告数が一万人を超えた「原発なくそう!九州玄海訴訟」について、弁護団より訴訟の概要や争点・現在の到達点や今後の課題についてご報告いたします。なお、総会の半日旅行・一泊旅行では、九州電力玄海原子力発電所、玄海エネルギーパークの見学、住民対策会議のお話も予定しています。是非こちらも併せてご参加ください。
 また、諫早湾干拓を巡る「よみがえれ!有明訴訟」弁護団からは、弁護団長である馬奈木昭雄団員からこれまでの運動・訴訟の現状についてお話しいただく予定です。有明訴訟では、潮受け堤防の水門の開閉を巡って相反する司法決定が両立するという希有な事態に陥っていますが、このような状況の中で今後どのようにたたかっていくか、皆様の活発なご意見をいただければと思います。
 「吉野ヶ里メガソーラー発電所の移転を求める佐賀県住民訴訟」弁護団からもご報告を行います。佐賀県神埼郡吉野ヶ里町と神埼市にまたがる吉野ヶ里丘陵に位置する吉野ヶ里遺跡は、およそ50ヘクタールにわたって広がる我が国最大の弥生時代の環濠集落跡であり、我が国の「クニ」のルーツを辿るうえで極めて重要な歴史遺産です。吉野ヶ里では、昔から畑を耕せば土器が出てくるといわれるほど濃密な遺跡集中地域でした。ところが、佐賀県は、吉野ヶ里地域にメガソーラー発電所建設計画を打ち出しました。プレ企画では、吉野ヶ里遺跡の景観や歴史的価値を破壊する吉野ヶ里メガソーラーの建設工事に反対するこれまでの訴訟・運動についてお話します。
 そのほかに、佐賀空港の軍事利用(オスプレイ配備)反対運動についてもお話しする予定です。
 全国的にも大きな問題となっている、原発や諫早干拓といった環境問題にする重要な訴訟の関係者が一堂に会する貴重な機会です。是非ご参加いただき、団員の皆様で議論をお願いします。


ストップ・リニア!訴訟について

愛知支部 高 木 輝 雄

一 二〇一六年五月二〇日、JR東海が二〇一四年八月二六日に行 ったリニア工事認可申請について国土交通大臣が同年一〇月一七 日に出した認可処分に対して、その取消を求めて、東京から愛知 までの沿線住民ら七三八人が国を相手に東京地裁に訴訟を提起し ました。
 その第一回口頭弁論が九月二三日に開かれます。
二 このリニア新幹線は、超電導磁気浮上方式という新しい工法を 用い、車体を一〇センチ浮上させて時速五〇〇キロを超える高速 で走行させるものです。現在の認可の対象は、東京・名古屋間を 四〇分で結び二〇二七年に完成させるというものですが、その後、 大阪まで延長し、東京・大阪間を六〇分で結び二〇四五年に完成 させる計画です。
 高速走行、短時間到着のため、ルートは直線で、八六%がトン ネル(その多くが四〇メートル以上の大深度地下)です。
三 私は東海道新幹線の走行に伴う騒音・振動公害訴訟を担当しま した。
 東海道新幹線は、一九五九年に工事が始まり、一九六四年一〇月一日に開業しました。東京オリンピックに間に合わせるための突貫工事でした。
私は軌道直近に住んでいましたが、朝から晩までの工事に悩ま されました。住民は国鉄に工事や 走行後のことについて苦情や 心配を申し出ましたが、国鉄の説明は「しばらくご辛抱下さい。 走り出せばスーと来てアッという間に通り過ぎますから大丈夫で す。夢の超特急です」というものでした。
 一〇月一日、走り出したら、それは「悪夢の超特急」でした。 三六五日、早朝から深夜まで激しい騒音・振動に襲われ続けまし た。
 住民は新幹線公害対策同盟を結成し、国鉄と交渉し、地元自治 体も国鉄に対し要請しましたが、 改善されず、名古屋七キロ区 間の沿線住民五七五人が一九七四年三月三〇日訴訟を起こしまし た。
 訴訟提起後の一九七五年七月二九日、国は新幹線騒音環境基準 を告示し、一九七六年三月一二日新 幹線振動緊急指針値を定め ました。
 訴訟が最高裁判所に係属していた一九八六年四月二八日、自主 和解が成立し、国鉄は騒音、振動の発生源対策に最大限の努力を することを約束しました。
 和解成立以来三〇年になりますが、現在でも国鉄(現JR東海) と原告団・弁護団は定期協議を行っています。
四 リニア新幹線の建設・走行については、健康への悪影響、環境 破壊、生活妨害、安全性などの深刻な問題があります。
 電磁波の曝露による小児白血病をはじめとする癌の発症率の上 昇という人命・身体にかかわる被害、騒音・振動・微気圧波・低 周波による人体・生活への悪影響、ウラン鉱床の存在による危険 性、大規模な建設工事や地下軌道・高架軌道の存在による様々な 生活環境・自然環境の破壊といった重大な被害の発生が明らかで す。
 また、その軌道構造、走行方法による安全性に対する不安・危 険性はきわめて大きい。わが国では、大きな地震が発生する可能 性が高く、また何らかの原因でトンネル内・列車内で火災が発生 するおそれもあります。このような危険な事態を当然想定しなけ ればなりません。
 私たちは、このようなリニアの建設を認めることはできません。 このような状況下で、リニアの建 設を強行しようとすることは、 社会的合理性に欠けるといわなければなりません。時速五〇〇キ ロで、品川・名古屋間四〇分に一体どのような社会的必要性があ るのか。それは、社会的必要性に欠けるだけでなく、社会や人間 のあり方を破壊しかねない大きな問題だと思います。


マネキンフラッシュモブ訴訟

神奈川支部 相 曽 真知子

 そもそもマネキンフラッシュモブとは何か、皆さんはご存知でしょうか。
 マネキンフラッシュモブとは、市民らが黒・白・赤・デニム等とドレスコードを決めて服装を統一し、全員サングラスを着用した上で、「アベ政治を許さない」「自由なうちに声をあげよう」「VOTE FOR CHANGE」等と書かれたプラカードだけをもって街頭に突然現れ、無言で動かずに数分間ポーズをとる、というものです。この数分間のポーズを数か所で繰り返し行いますが、移動中はプラカードをあげたり、声を発したりすることはなく、あくまでもポーズ地点でのみプラカードを掲げてアピールを行います。ちなみに、サングラスをするのは、目の動きを隠せることでよりマネキンっぽさが出せるのみならず、マネキン側も道行く人と目が合っても気まずい思いをすることもなく、反対に道行く人も目が合わないことでマネキンをじっくりばっちり見ることができるという効果があるからです。
 このマネキンフラッシュモブは、国民らが現在の政治に危機を感じ、内閣の施政方針にささやかな異議を唱えるために考え出したものであり、自らのメッセージを発信するための現代的な新しい表現行為の一つです。
 今回の訴訟は、海老名駅自由通路上で行ったマネキンフラッシュモブについて、海老名市長が「海老名駅自由通路設置条例」に違反する行為であるとして、参加者の一人でかつ海老名市議会議員である原告に対し、マネキンフラッシュモブを行う際には予め承認を受けることやそもそもマネキンフラッシュモブを禁止する旨の命令をしたことに対し、その命令の取消しを求めるものです。また、併せて、他の参加者である原告らに対して同様の命令がなされることのないよう、処分の差止めを求めています。
 このような海老名市長による命令は、原告らの表現行為を不当に侵害し、憲法二一条に違反するものであるとともに、今後マネキンフラッシュモブを行おうとする国民に対しても、その表現行為を委縮させるという効果を及ぼし得る重大な意味を持つものといえます。
さらに、そもそも海老名駅自由通路設置条例自体が法の趣旨に反して道路上での政治活動を過度に制限しており、国民の政治的表現の自由を不当に侵害するものとして憲法二一条に反しているとの主張もしています。
 先日、第一回口頭弁論が行われましたが、そこで原告が述べた「名も無き市民が『私たちはここにいる、無視するな』と発信するために見つけた大切な手段、ささやかな抵抗を奪わないでいただきたい。」という思いを実現できるよう、表現の自由を守る闘いとして弁護団も頑張っていきたいと思っています。
 皆さまにもぜひこの訴訟を応援して頂きたいですし、ぜひ一度、実際にマネキンフラッシュモブを見て頂けたらと思います。すごくかっこいいですよ!!


裁判所が「来年三月の結審を目指す」と明言しました 〜「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟第二〇回期日の報告

東京支部 馬奈木 厳太郎

一.残暑のなかの期日
 八月二四日、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の第二〇回期日が、福島地方裁判所において開かれました。この日、国と東電から新たな書面が提出されました。
国の書面は、佐竹証言が長期評価の方が津波評価技術よりも優れていると認めたものではなく、津波評価技術による設計津波水位の評価手法が誤っていたとする原告の主張は失当であること、長期評価には重大な誤りがあり、これに信頼性を認める原告の主張は失当であること、事故当時、比較沈み込み学により福島県沖で巨大地震は発生しないと考えられていたことなど、国の過失に関する原告の主張に反論するものです(準備書面一五)。
 東電の書面は、中間指針などに基づく精神的損害にかかる賠償支払いについて、裁判所からの釈明に回答するものです(準備書面一九)。
 原告側からは、長期評価の信頼性を否定する国の主張に反論し、補充の主張を述べるもの(準備書面四三)、被害立証の到達をふまえて、原状回復請求や慰謝料請求にかかる被侵害利益について整理をするもの(準備書面・被害総論一四)、尋問を終えた原告二一名の尋問結果などに基づき原告らに共通する被害事実を主張するもの(準備書面・被害事実一)などの書面を提出しました。
 当日は、残暑のなかでの期日となりましたが、一五〇名ほどの方に参加していただきました。元ラジオ福島アナウンサーの大和田新さん、かもがわ出版の松竹伸幸編集長、井上淳一監督、東京演劇アンサンブル、劇団さんらん、「原発なくそう!九州玄海訴訟」弁護団の東島浩幸団員といった常連メンバーのほか、今回は原発事故により大阪など関西地方に避難した方々が原告となっている関西訴訟原告団と、同じく兵庫に避難した方々が原告となっている兵庫訴訟原告団から二名の原告の方も応援に駆けつけてくださり、傍聴席に入りきれなかった方々向けの企画では、講談社現代新書『原発労働者』の著者でシンガーソングライターの寺尾紗穂さんによる弾き語りや大和田新さんの講演も行われ、大変好評でした。

二.五回目の原告本人尋問
 この日は、五回目の原告本人尋問となり、福島県内各地の七名の方がそれぞれの被害を訴えられました。また、前回期日で実施された中通りでの検証を受けての尋問でもありました。
 震災時に家を建て替えるための工事中だったところ、事故により被ばくした基礎のうえに建築したため、床下の放射線量が毎時〇・五マイクロシーベルトもあるという汚染された新築の家について悔しさをにじませながらの証言、専門家や保護者、スタッフたちの間で悩み、相談し、合意形成を図りつつ事故後も保育を続けてきたなかでの苦労や葛藤、保育している子どもの口から「ホウシャノウ」という言葉が発せられたときの不条理さを涙ながらに語る元保育園長、事故後に妊娠がわかったものの喜びよりも妊娠生活を無事に過ごせるのかという不安が先行し、県内の母親の母乳から放射性物質が検出されたという話を聞いたことから母乳を与えず育て、外遊びなども制限させたという母親の証言など、それぞれ自身の言葉で被害や事故後の生活状況などが語られました。どの原告の方からも家族や子どもたちへの愛情いっぱいの想いが語られ、法廷ではすすり泣く音が途切れませんでした。

三.結審に向けたスケジュール
 尋問に先立った当日の進行協議においては、裁判所から「来年三月の結審を目指す」との発言もあり、来年一月以降の期日も確保されました。
 今後の審理ですが、原告本人尋問は次回の一〇月期日までとなります。結審までのカウントダウンも始まりました。被害を余すことなく明らかにすべく、引き続き全力で取り組む決意です。


外務省に喝!!(上)

埼玉支部 大久保 賢一

 先日、ジュネーブで開催されていた「核軍備の縮小・撤廃に向けた多国間交渉の前進を図る国連作業部会」(OEWG)について、外務省から説明を受ける機会があった。外務省の担当者は、軍縮不拡散・科学部審議官と軍備管理軍縮課長と日米安全保障条約課長の三名である。

説明の概要
 作業部会は、二〇一五年の国連総会決議に基づいて、今年二月、五月、八月と三回開催された。会議には約一〇〇か国と市民社会が参加している。米国など核兵器国は参加していない。日本は、コンセンサスでの採択を目指して積極的に参加した。八月五日から一九日の間開催された第三回会合では、「国連総会が、二〇一七年に、すべての加盟国に開かれ、国際機関と市民社会の参加と貢献を得て、完全廃絶につながる核兵器を禁止する法的拘束力のある措置を交渉する会議を開催するよう、幅広い支持を得て勧告した。」との文言を含む報告書を、賛成六八、反対二二、棄権一三で採択した。日本は棄権した。その理由は、「核兵器のない世界」の実現のためには核兵器国と非核兵器国の協力が不可欠であり、採択が投票に持ち込まれたことは遺憾である、というものである。ちなみに、主な反対国は、オーストラリア、ドイツ、イタリア、カナダ、韓国など。オランダ、ノルウェー、フィンランド、スイスなどは棄権であった。

日本政府の行動の特徴
 日本政府は、「完全廃絶につながる核兵器を禁止する法的拘束力ある法的措置の交渉開始の勧告」に賛成していない。ただし、担当者の説明によれば、勧告の内容についての賛否ではなく、コンセンサス方式ではないので棄権したのだということである。内容についての賛否ではないということであるが、交渉開始に賛成していないことははっきりしている。もちろん、内容に賛成しているわけでもない。

 私は、担当者に、日本政府はどのような内容のコンセンサスを追求したのかと質問した。担当者の答えは、外交交渉の中味になるので答えられないというものであった。そして、各国の意向を確認しながら、各国が同意できるところを探していたというのである。結局、何か具体的な内容を提案してコンセンサスを求めたわけではないようである。

 また、同席したNGOのメンバーの「この作業部会を受けて、国連総会でどのような態度をとるのか」という質問については、諸外国がこの勧告がどのように受け止められているのかを確認した上で決めていきたい、まず、話を聞くことから始め、何ができるのかを探っていきたいとの答えであった。この態度に、核廃絶に向けて、主体的に積極的提案をする意思を見て取ることはできない。

  そして、担当者が強調するのは、日本は「核兵器のない世界」の追求を米国と共有しているということであった。また、米国が今回の勧告を拒絶するとしていることについては、「核抑止論」の立場からの反応だろうと、日米安全保障課長がコメントしていた。要するに、外務省は、米国がこの勧告を拒絶していることを知りながら、米国と歩調を合わせて「核兵器のない世界」を追求するとしているのである。結局、米国の意向を無視して動くことはしないということなのであろう。

(以下次号)


自由法曹団は何を核として部落差別解消法案に取り組もうとしているのか

東京支部 金  竜 介

一 部落差別と他の差別を分けて考えることの問題
 団通信一五六三号で、杉島幸生さんは、障害者差別や女性差別、外国人差別などはその違いを認めること、部落差別は同じ市民として扱い続けることで解消に向かうとします。確かにそういう点はあるでしょう。しかし、これは、差別解消の手段の二面性(同じものを同じと扱われる権利、違うものを違うと扱われる権利)をいうものであり、対象となる被差別者によってくっきりと区別されるものではありません。
 たとえば広島・長崎の被爆者の二世・三世はどうでしょうか。放射能とは何の関係もない戦後生まれにも関わらず、親が被爆者であることから被爆者の娘と言われて結婚できなかった、就職できなかったという被差別体験を多く聞きます(ハンセン病患者の家族も同様の経験を訴えます)。そういう人たちについて「同じ市民として扱い続ける」ということだけで差別が解消されるのかといえば、そうだと言い切ることには躊躇します。現に排除された経験を持つ人たちがいる社会で、同じ市民として扱いさえすれば、差別が解消に向かうというのは、あまりにことを単純化しすぎています。
 被爆者の子や孫であること、ハンセン病患者の家族であること、そして、「部落民」と差別された経験を持つ親の子であることを含めて、その人たちが、私たちと同じであること、違うことの双方を尊重することによってこそ差別が解消されるのではないかと強く感じます。
二 現存する部落差別
 在特会(在日特権を許さない市民の会)が行った不法行為として、京都朝鮮学校襲撃事件、徳島教組業務妨害事件、ロート製薬強要事件などと並んで水平社博物館前街宣事件が挙げられます。これらの事件について後者のみは弁護士が看過してもよい事件だと考える団員はいないでしょう。「全国部落調査」出版等差止仮処分決定(『青年法律家』二〇一六年六月二五日号)は、深刻な部落差別が現在も残っていることを示すものであり、弁護団の活動は大いに参考になるものです。
 「部落民」など本来は存在しないという意見は首肯できるものの「部落民」と言われて差別される者、差別する者が現に存在するということは否定できないはずです。本法案によって「部落」が特定されて新たな差別が生じるということを危惧するのであれば、「部落」を特定しようとする私人から被差別者を守るという取り組みもまた自由法曹団員が担ってよい役割であると思います。
三 自由法曹団は何を核としてこの法案を止めようとするのか
 私が危惧するのは、自由法曹団内で語られる言葉が、部落差別解消法案に反対するという動機のあまり、差別に苦しむ多くの被差別者の取り組みをも否定しかねないということです。部落差別解消法案を語る団員の言葉を他の被差別者の集まりで述べたときにどう受け止められるのか、大変な危うさを感じます(「知的障害者は生きる価値がない」とのネットの書き込みに苦しむ人たちを前に「差別意識を持つ人間はいつの時代にもどこにでもいるものです」と語り、その被害を過小評価する団員を想像してみてください)。
 人種差別を含めたあらゆる差別を根絶するという大きな活動の一環としてこの法案には反対するということであれば、多くのマイノリティの支持を受けることが可能かもしれません(自由法曹団が差別撤廃のための大きな活動をしながら部落差別解消法案には反対するというのであればです)。しかし、解放同盟が暴力的な糾弾をした、利権あさりや行政の私物化をしてきたということのみを強調し、一方では、被差別部落出身者への差別が現存しないかのように行動するのであれば、マイノリティの支持を受けることのない極めて狭い活動で終わるでしょう(自由法曹団の意見にあえて反対はしないが、積極的に賛同もしない、共に行動もしないという反応が予測されます)。
 自由法曹団は何を核としてこの法案を止めようとしているのかを真剣に考える必要があります。


婚姻の成立――憲法と民法の間隔

東京支部 後藤 富士子

一 「合意のみ」について
 憲法二四条一項は「婚姻は、両性の合意のみによりて成立」と規定している。これに対し、自民党憲法改正草案二四条二項では「婚姻は、両性の合意に基づいて成立」とされている。この「のみ」を削除した点について、護憲派からは「結婚は家の合意でするもの」という感覚なのだろうと批判されているが、当っているだろうか?
 そこで、民法の規定をみてみよう。
 民法七三九条一項は「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。」とし、第二項で「前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。」と定めている。すなわち、所定の婚姻届に記載し、署名・押印して提出しなければ、婚姻は成立しないのである。これは、「合意のみによりて成立」と定めている憲法二四条一項に違反しないのか?
 さらに、民法七四〇条は、「婚姻の届出は、その婚姻が第七百三十一条から第七百三十七条まで及び前条第二項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができない。」としている。七三一条は婚姻適齢、七三二条は重婚禁止、七三三条は女性の再婚禁止期間、七三四条は近親婚の禁止、七三五条は直系姻族の婚姻禁止、七三六条は養親子等の婚姻禁止、七三七条は未成年者の婚姻について父母の同意、である。すなわち、「家」とは関係なく法律婚の要件が定められていて、これに違反する場合には、届出も受理されない。これは、「合意のみによりて成立」と定めている憲法二四条一項に違反しないのか?
 こうしてみると、現行制度でも、「婚姻は、両性の合意に基づいて成立」ということであろう。つまり、自民党憲法改正草案は、憲法と乖離した現行制度を追認するに過ぎないのである。

二 「合意のみ」で成立するのは「事実婚」ではないのか?
 「選択的夫婦別姓」や「再婚禁止期間の短縮」は、婚姻を「法律婚」の枠内に押し込む制度である。民法七三一条〜七三七条に違反する場合、法律婚はできない。それでも、婚姻当事者だけの問題で済めばいいが、重婚的内縁関係や婚姻適齢前、直系姻族間や養親子間の婚姻により生まれた子は、戸籍上、あるがままの存在を許されない。こういう法制度は、非人間的である。生前退位が認められない「人間天皇」と同じことである。
 一方、「同性婚」をみてみよう。性転換手術を要する厳格な要件の下で認められる「法律婚」で生まれた子は「嫡出子」の身分を与えられることになった。これも、生身の人間を「法律婚」の枠に押し込む非人間性を顕にしている。これに対し、そんなことにお構いなしに、生命保険、同居住居取得、家族手当等々、「事実婚」として「同性婚」が社会的に認知されるようになった。まことに頼もしい限りである。ところで、「同性婚」が現憲法で禁止されていないというなら、民法の「法律婚」制度との整合性を、どのように説明するのだろうか?
 結局、夫婦別姓、非嫡出子差別、再婚禁止期間等々の問題を、憲法二四条一項に基づいて解決するには、民法の法律婚優遇主義をやめる必要があるのではないか? あるいは、やめれば足りるように思われる。

(二〇一六年八月九日)


団滋賀支部八月集会報告

滋賀支部 和合 佐登恵

 本年八月二五日(木)午後、滋賀弁護士会にて自由法曹団滋賀支部の八月集会(今年で一〇回目)が行われました。参加者は、弁護士のみならず各事務所の事務員も参加するというところに滋賀支部の特徴があります。女性の事務員が多く参加しており、華やかな集会となりました。団員以外の弁護士や民主団体の役員を含め、合計三五名の参加でした。
 前半の部では、数名の弁護士による活動報告が行われました。生活保護問題、年金問題、いじめ問題等どの弁護士もまさに社会的弱者のために活動をしていることがよく分かりました。
 続けて、労働事件についての意見交換が行われました。ここでは意見交換ということでしたが、ベテランの先生方の発言が多く、私自身なるほどと思うところがありました。このようにたくさんの経験に基づいた意見を聞けるだけで貴重な体験ができました。
 後半の部では、神奈川弁護士会の岡田尚さん(個人的には、「先生」とお呼びしたいのですが、神奈川弁護士会では期に関係なく「さん」と呼び合うとのことでしたので、そちらに合わせております。)にお越しいただき、講演をしていただきました。岡田尚さんは、長時間の講演にもかかわらず、姿勢良く立ったまま講演を最初から最後までなされており、その立ち姿からもエネルギーが伝わり、日頃の熱血的な弁護士活動が垣間見れたような気がしました。
 「今、ここに、共に、生きる」というタイトルのもと、人と人との関わり合いの中で、守りあうこと、助け合うことが大事である、それが人権感覚というものだと述べられ、大変感銘を受けました。坂本堤弁護士の事件、護衛艦「たちかぜ」乗組員自殺国賠事件のお話の中から、まさに守りあうこと、助け合うことの重要性が強く伝わりました。他にも、参院選、政治、戦争法等様々な講演をしていただきました。時間が限られていたことが惜しい限りです。
 このように、充実した八月集会が開催できました。集会後は講師の岡田さんを交えて懇親会も行い、二九名の参加で盛り上がりました。集会の最後には、岡田さんが自ら作詞された歌「もし あなたに出逢ってなかったら」を披露され、参加者一同感動しました。
 職種、事務所、地域を超えて、同じ意識の人が集まり議論し、研修し、食事を共にし、懇談して楽しむ、滋賀支部にとって八月集会は大事なイベントに位置づけられています。