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小林 明人 大垣警察市民監視事件提訴のご報告
石島 淳 豊洲新市場移転問題についての東京支部の取組み
大久保 賢 「核兵器禁止条約」交渉を成功させよう



大垣警察市民監視事件提訴のご報告

岐阜支部 小 林 明 人

一 一二月二一日、「大垣警察市民監視国家賠償請求」の訴状を岐阜地裁に提出しました。約五〇名の支援者による裁判所前行進と記者会見の様子が当日夜のニュース番組や翌日の朝刊新聞で報道されました。
 今回の提訴のきっかけは、二〇一四年七月に朝日新聞が、「岐阜県警が個人情報を漏洩」との見出しの記事を報道したことにあります。
 二 当時、シーテック社(中部電力の子会社)は、岐阜県内で大規模な風力発電施設の建設計画を進めていました。風力発電は、近時エコ・エネルギーとして注目を集めています。しかし他方で、土木工事が土砂災害の原因になったり、風車が発する低周波音が健康被害を引き起こすといった懸念も指摘されています。そのため近隣地域では、問題意識を検討するための勉強会が自発的に開催されました。
 これを知った大垣警察の警備課職員は、シーテック社の担当者らを警察署に呼出し、勉強会を主催する地域住民二名(本件の原告)について、その氏名を挙げて、彼らが大垣市内の市民運動家とされる人物二名(本件の原告)や法律事務所と連携することで、計画に反対する動きが全国的な市民運動に展開する可能性があるなどと伝えました。警察職員は、「大々的な市民運動に展開すると御社の事業も進まないことになりかねない」、「大垣警察としても回避したい行為である」、「平穏な大垣市を維持するため協力をお願いしたい」などとも発言し、市民運動の発生・展開を妨害する意図を吐露しました。
 こうした警察とシーテック社との密会は少なくとも四回持たれ、原告らの病歴、職歴、学歴、政治的な活動歴、人間関係などのプライバシーあるいは思想信条に関わる情報が提供されました。警察が二〇年以上も前の事実や、日常生活の動向まで把握していることから、長年にわたり原告らに対して監視とも言うべき情報の収集・管理が行われてきたことが窺われます。
 なお、シーテック社は意見交換の議事録を作成しており、これが記者の手に渡ったことが新聞報道に繋がりました。
三 報道を受けて、原告団・弁護団が記者会見を開き、国賠訴訟を提起する方針を明らかにしました。ここから提訴までの長い道のりが始まったのです。
 証拠といえるものは証拠保全で入手した議事録だけで、情報収集の実態について詳しい状況は分かりません。地方公務員法(守秘義務)違反で刑事告発するも、こともあろうに「嫌疑なし」で不起訴とされてしまいました。岐阜県に対し警察が保管している個人情報の開示請求をしましたが、「情報の有無すら答えません(存否応答拒否)」との結論でした。思うように事実解明は進みませんでした。
 法律面でも問題山積でした。本件は情報提供の違法性を問うだけでは不十分であり、際限のない情報収集・管理の問題を訴訟のメインテーマに据えるべきです。ところが、類似裁判例である自衛隊情報保全隊事件やムスリム違法調査事件を分析すると、公権力の情報収集による権利侵害は容易に認められない傾向が見て取れました。「警察は市民運動を妨害する目的で情報収集・提供をしたことが窺われるが、原告らはこれといって実害を被っていない。」という本件の特徴をどう生かし、乗り越えるか、幾度も弁護団会議が開かれ、議論が交わされました。
 当初は新聞報道から一年くらいで提訴する計画でしたが、そんなこんなで延び延びになり、約二年半後の今回の提訴にこぎつけました。
四 時間をかけた分だけ、裁判に向けての準備は進みました。支援団体である「もの言う自由を守る会」が結成され支援の輪を広げつつあります。本件に興味を示してくれる学者が続々と表れており、理論面でのバックアップも期待できます。
 どうぞ応援よろしくお願いします。


豊洲新市場移転問題についての東京支部の取組み

東京支部 石 島   淳

一 豊洲移転問題の急浮上
 二〇一六年六月、舛添前都知事は、高額な海外出張費や別荘への公用車の利用など「政治とカネ」をめぐる問題で都民の批判を浴び、ついに辞職に追い込まれました。都知事が三代続けて任期の途中で職を投げ出すという事態になったのです。
 七月三一日に投開票の都知事選挙では、膨らむ五輪開催費問題、保育園の待機児解消問題などとともに、一一月に予定されていた築地市場の豊洲移転計画も争点として浮上しました。

二 石原都政からの根深い問題
 築地市場は、東京都中央区にある卸売市場で、「東京の台所」として都民の暮らしに深いかかわりを持ってきました。ところが、石原都知事の時代の二〇〇一年に、老朽化した築地市場を江東区の豊洲へ移転・再整備する計画を正式に発表したのです。
 これより前の一九九〇年代は、築地市場は現在地で再整備をするというのが都の方針でした。一九九九年に石原都政が誕生したことでこの方針が一転し、現在まで続く問題となったのです。
 豊洲新市場として移転の予定地となったのは、もともとは東京ガスの工場の跡地でした。ガスの製造過程で発ガン性のあるベンゼンや猛毒のシアン化合物が生成され、土壌が汚染されていることが分かっていました。本来であれば、生鮮食品を扱う市場とするには不適切な土地だったといえます。
 東京都は土壌の入れ替えや盛り土による土壌汚染対策を施すとしていましたが、環境基準値の四万三〇〇〇倍にも及ぶベンゼンをはじめとするさまざまな汚染物質が検出されたり、有害物質を無毒化したとの「安全宣言」がデータを隠したままなされたりと、食の安全のうえでの根本的な疑念が解消されないままでした。他にも、土地取引の不透明さや施設の構造上の利用しにくさなど多くの問題が指摘されてきました。

三 転機となった「盛り土問題」の発覚
 さらに決定的となったのは、いわゆる盛り土問題です。東京都は、汚染された土壌を入れ替えたうえで四・五メートルの盛り土をして汚染を封じ込めるとしていましたが、盛り土がなされず地下空間となっていることが発覚しました。連日メディアでも取り上げられ関心の高まりをみせたことは記憶に新しいと思います。
 その後も、高額となった主要三棟の建設費の入札がいずれも予定価格の九九・五パーセント以上という官製談合が疑われる異常なものであったことも明るみになりました。

四 支部の取組み
 九月二一日の支部幹事会では、東京中央市場労働組合委員長の中澤誠さんと、東京都議会議員(日本共産党)の尾崎あや子さんを招いて豊洲移転問題の学習会を行ないました。強引な移転による設備投資の問題や豊洲に移転した場合の風評の問題などは現場にいる中澤さんの実感のこもったお話しとなりました。また、石原都政の頃からこの問題について粘り強く追及してきた共産党都議団の役割が大きかったことも分かりました。この夏に行われる都議選では議席の前進を果たして、移転の中止に向けていっそうの力を発揮してほしいと思います。
 翌月の一〇月二六日の支部幹事会では、学習会を踏まえ、築地市場の豊洲移転の中止と真相究明を求める決議を採択しました(東京支部HPに掲載)。決議では、土壌汚染の問題のある豊洲への移転は食の安全と健康確保の点で不適切であることとともに、都民の税金の使い方という面でも解明されてない問題があることを指摘しました。そして、この決議は、一一月一一日に、支部の執行部が都庁に直接出向いて手渡して、支部としての申入れを行なってきました。
 豊洲移転の問題は来たる都議選でも大きな争点になることが予想されるので、支部としても引き続き取り組んでいきます。


「核兵器禁止条約」交渉を成功させよう

埼玉支部 大久保 賢 

 国連総会は、一二月二三日、核兵器を禁止し、完全廃絶につながるような法的拘束力のある措置(「核兵器禁止条約」)について交渉する会議を招集することを決議した。賛成一一三、反対三五、棄権一三という票数である。核兵器が使用されれば、壊滅的な非人道的事態が発生することになるので、それを避けるための根本的な方策は核兵器をなくすことであるとする潮流が多数を占めたのである。核兵器国のうち、中国・パキスタン・インドは棄権、北朝鮮は欠席、その他は反対である。日本も反対票を投じている。
 この結果、二〇一七年三月二七日から三一日、六月一五日から七月七日の二会期にわたって、「核兵器禁止条約」についての交渉が行われることになる。決議は、加盟各国に参加を呼び掛けるだけではなく、市民社会(NGO)にも参加と貢献を求めている。国連において「核兵器禁止条約」の交渉が開始されることは、「核兵器のない世界」に向けて、新たな一歩が踏み出されることを意味している。私たちは、この会議の成功のために貢献しなければならない。

 しかしながら、この交渉が成功するかどうかは決して予断を許さない。なぜなら、核兵器国や核兵器依存国は、この交渉に消極的どころか、妨害工作に出ることが予測されるからである。ロシアのプーチン大統領は、「戦略的核戦力の能力を強化する必要がある」としているし、トランプ次期米国大統領は、「世界が分別を取り戻すまで、米国は核戦力を強化、拡大する」としている。核兵器の使用を排除しないとしているトランプに「分別」を説かれたくないと思うし、プーチンは、クリミヤを併合するときに「ロシアが核兵器国だということを忘れるな」と恫喝した男であるということも忘れたくない。
 現在、世界には約一万五千発の核兵器があるとされているが、そのうちロシアは七三〇〇発、米国は七〇〇〇発を保有している。この二カ国の政治指導者には核兵器廃絶など全く眼中にないのである。そして、米国は、この国連決議に反対するよう、NATO加盟国や日本など同盟国に働きかけたのである。

 もともと日本は、核兵器禁止条約制定を呼び掛ける国連決議には棄権してきたけれど、ここにきて反対の姿勢を明確にしたのである。この態度変更に米国の影響がどの程度あったかはともかくとして、唯一の戦争被爆国を標榜する日本政府が、「核兵器禁止条約」の交渉開始に反対しているのである。
 その反対の理由は、核兵器廃絶は核兵器国の賛成がないと不可能なのだから、核兵器国の賛成を得られるようにステップを踏むべきである。日本は、核兵器国と非核兵器国の懸け橋として核なき世界の実現に努力する。などというものであるが、根本的には、日本の安全保障は最終的には米国の「核の傘」に依存しているので、米国の手を縛るようなことはしないという政策選択に理由があるのである。

 戦時下における法規範である国際人道法は、無差別兵器の使用や、残虐な兵器の使用を禁止している。一九六三年の東京地裁「原爆裁判」判決は、国際人道法を援用して米国の原爆投下は国際法上違法としている。一九九六年の国際司法裁判所の勧告的意見は、核兵器の使用や使用の威嚇は、一般的に違法であり国家存亡の危機に際しての使用については違法とも合法とも判断できないとしている。この勧告的意見は、国家存亡の危機においての使用も違法性を阻却するとはしていないことに留意しておきたい。この様に、核兵器の使用は違法であるとの法的見解は既に存在しているのである。国際人道法は、武力の行使が正当かどうかとは別に、害敵手段として禁止される方法や手段に関する規範である。自国の安全保障のために、核兵器を使用することが許容されるとする見解は、国際人道法の存在と到達点を無視するものといえよう。そして、使用が禁止される兵器の開発、製造、実験、保有などを違法とすることは理の当然であるし、その廃絶を命ずることになるであろう。

 今、日本政府に求められていることは、トランプやプーチンに振り回されることではなく、「核兵器が再び、いかなる状況下においても使用されないことに、人類の生存がかかっている。」とする二〇一五年の国連総会の決議を想起し、一刻も早く「核兵器禁止条約」の交渉を進め、「核兵器のない世界」の実現に貢献することである。

 私たちに求められていることは、日本政府の姿勢を転換することと、核兵器の禁止とその廃絶のための「核兵器禁止条約」制定のための運動である。「ヒバクシャ国際署名」の成功は、その運動の重要な構成要素となるであろう。(二〇一六年一二月二八日記)