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西田 穣 *五月集会特集*
鳥取・米子五月集会報告
高木 野衣 五月集会 初めて保育室を利用して
秋山 健司 議論もいいけど、「走り」もね!
〜五月集会非公式企画―ジョギング・ランニング企画に参加しました。
石川 智士 九条俳句訴訟 控訴審も「勝訴」
板井 俊介 初判断!熊本刑務所「カメラ室」
裁量権逸脱判決の報告
小林 善亮 地域の中学校道徳教科書の展示会にご参加ください。
永尾 廣久 団通信は読んで面白いか?
守川 幸男 自衛隊明記改憲案反対弁護士会総会決議と教訓
大久保 賢一 大国間の核兵器応酬の悪夢



*五月集会特集*

鳥取・米子五月集会報告

前事務局長  西 田   穣

一 はじめに
 本年五月一九日から二一日にかけ、鳥取・米子において、二〇一八年五月研究討論集会が開催されました。日報隠蔽・文書改ざん・データねつ造などが次々と露呈し、森友・加計疑惑の闇は深まるばかり、政府高官のセクハラ問題とそれを擁護するかのような大臣の無責任な答弁・・・、安倍政治は腐敗の極みにあるといっても過言ではありません。こういった逆風下にあるにもかかわらず、安倍政権は、憲法改悪に向けて邁進し、「働き方改革」一括法案については強行採決も辞さないといった暴走を続けています(二五日に衆議院厚生労働委員会で強行採決)。このような緊迫した情勢のもと、憲法、平和、人権を守るべく、全国から三七六名の参加者が集まり、熱心な討論が繰り広げられました。
 詳細はおって団報にて報告しますが、取り急ぎ概略につき、ご報告します。
二 全体会(一日目)
 全体会の冒頭、鳥取支部の煖エ真一団員と東京支部の森孝博団員が議長団に選出されました。船尾徹団長の開会挨拶に続き、鳥取県支部の松本光寿団員から歓迎の挨拶がありました。
 来賓として、米子市市長伊木隆司氏、地元鳥取県弁護士会会長駒井重忠氏、山添拓参議院議員(日本共産党)にご挨拶をいただきました。
 その後、加藤健次幹事長から、安倍政権への批判が強まっているものの政権支持率の低下はまだ不十分であり、改憲の危機は未だ続いていること、改憲阻止のため全国の団員のよりいっそうの取り組みが必要であることが訴えられました。また、過労死を促進させかねない安倍「働き方改革」一括法案成立の危機、アベノミクスの矛盾がもたらした経済的格差と貧困の問題、原発再稼働反対と原発被害者救済訴訟の現状と課題、少年法適用年齢引き下げ問題など、現在団が取り組んでいる重要課題や、今回自由法曹団で初めて分科会を持つことになったLGBT問題などの分科会討論へ向けた問題提起がなされました。
 また、今回の五月集会では、全体会講演を設けず、改憲阻止に向けた全国の団員からの報告を受けました。
 冒頭、四月一二日に発表した緊急意見書「『安倍改憲』は戦争への道―自民党改憲素案を批判する」に基づき、実際にどのように国民に広く訴えていくかとの観点から、久保木太一団員(東京支部)に報告をしてもらいました。
 その後、次の七名の全体会発言がありました。テーマと発言者は次のとおりです。
(1)京都府知事選挙のたたかいとわれわれのたたかいの展望
        京都支部・福山和人団員
(2)核兵器禁止条約と九条改憲阻止の課題
        大阪支部・愛須勝也団員
(3)市民連合とママの会の取り組みについて
        東京支部・長尾詩子団員
(4)三〇〇〇万人署名・三重支部の取り組みについて
        三重支部・伊藤誠基団員
(5)改憲阻止に向けた単位弁護士会の取り組みについて
        福井支部・海道宏実団員
(6)改憲阻止に向けた地域での取り組みと事務局の活動
        大阪・関西合同法律事務所・事務局 濱野尚子さん
(7)大阪支部の取り組み(ホームページの紹介)
        大阪支部・峯田和子団員
 全体会発言のあと、今回の五月集会には、アメリカ合衆国のナショナルロイヤーズギルド(NLG)から六名の弁護士が参加しました。代表してエリック・シロトキン氏に、トランプ政権下のアメリカの政治情勢を中心にスピーチをしてもらいました。
四 分科会
(1)憲法・平和分科会(一日目・二日目)

 一日目、二日目ともに、改憲阻止に向けた全国各地の取り組みの報告・討議を行いました。討論の中心は、情勢のほか、すでに公表されている自民党改憲素案・安倍改憲の危険性を学習会等でどのように訴えていくかという点と、三〇〇〇万人署名を集めるための取り組み、工夫をどのように行っているかという点です。
 一日目は、憲法を巡る情勢について報告がされ、国会を巡る情勢、朝鮮半島情勢を中心とする国際問題と日本の改憲について、日弁連・各単位会の動きと団員の働き、地方選挙と改憲阻止運動の連携、国民投票法になった場合の問題点などが報告されました。
 二日目は、憲法の価値をどう訴えていくのかという点において、学習会や宣伝について、各団員の取り組みも交えた実践的な報告・議論が行われました。また、全国各支部の改憲阻止の取り組み・三〇〇〇万署名への取り組み等も紹介されました。
 その中で、公共の場での宣伝等を制約する根拠のない張り紙を撤去させる神奈川の取り組み、警察による運動への介入対処等、運動を推進する上で必要な言論を確保する活動についても意見交換が行われました。
(2)労働・格差・貧困分科会(一日目)
 今年も昨年同様、労働問題と格差・貧困問題を合同で分科会を開催しました。講師には、東洋経済に「ボクらは貧困強制社会を生きている」を連載しているジャーナリストの藤田和恵さんをお呼びして、「『貧困強制社会』の現場を取材して」と題するご講演をいただきました。藤田さんは、貧困問題をはじめとする社会問題においてマスコミの果たすべき役割を冒頭に取り上げた後、取材を重ねた経験に照らし、貧困状態で暮らしている方々が、自己責任論のために自責の念に苛まれ、声を上げられない実態や、生活保護や労働運動のデマゴギーに惑わされていたり、政治や社会に展望を持てず、政治に対する希望として「安楽死施設を設けて欲しい」という声が多かったりといった絶望に落ち込んでいる実態をお話しいただきました。また、取材のためにご自身で住んでみたというシェアハウス体験のお話では、正規非正規問わず敷金・礼金等の費用が用意できないためにシェアハウスに居住している若者たちがおり、社会の出来事に関心を持ちがたい状況に置かれていること等の話がありました。今後の取り組みをいっそう発展させる上で、知っておくべき現実を理解できた講演でした。
(3)原発分科会(一日目、二日目)
 原発分科会一日目は、吉村良一立命館大学教授の基調報告を基に、福島原発事故損害賠償請求訴訟において出された一連の判決に対する評価、分析、討論を行いました。吉村教授から各判決の横断的な評価及び今後の主張のポイントについて講義をいただいた後、京都訴訟弁護団、首都圏訴訟弁護団、浜通り訴訟弁護団の各弁護団から、報告及び今後の展望について報告を受けました。特に、京都訴訟については、原告当事者からも発言があり、当事者の持つ苦悩や判決についての評価を、皆興味深く聞いていました。その後、今後の裁判闘争をいかに行うかにつき多くの発言があり、充実した議論がなされました。
 原発分科会二日目は、上園昌武島根大学教授の発表を基に、主に、脱原発、脱原子力エネルギー問題に関する議論を行いました。上園教授からは、環境経済学の立場から、原発の非生産性、地元島根における脱原子力エネルギーについての報告がなされました。その後、団員による脱原子力エネルギーに向けての取り組みの報告や、浜岡原発訴訟、大飯原発訴訟についての取り組みの報告がなされ、今後の脱原発訴訟に対する取り組みについての議論がなされました。
(4)教育分科会(一日目)
 教育分科会は、少年法適用年齢引き下げ問題をテーマに行いました。
 最初に、小林善亮団員から、法制審少年法・刑事法部会では現在、少年法適用年齢引き下げの是非は留保したまま、引き下げられた場合の若年者の処遇について議論しており、事実上、引き下げを既定路線として議論している状況であること、この夏にも議論がまとまる可能性があることが報告されました。
 続いて、元家裁調査官の日比野厚氏から、家裁の現場から見た少年の実態を話していただきました。とくに一八歳、一九歳の年長少年は多くの困難を抱えていて、福祉的な観点からさまざまな援助が必要とされているが、適用年齢が引き下げられると、適切な援助ができなくなるとの危惧を話されました。
 その他、神奈川支部からは道徳教科化に対する取り組みが報告されました。
(5)労働分科会(二日目)
 前半は、働き方改革法案についての討論を行いました。まず、東京支部鷲見団員から、働き方改革法案の問題点についての報告があり、その後、各地の運動取り組み、働き方改革法案に関する問題点・運動を行う際の視点についての意見が出されました。後半は、労働契約法二〇条、派遣、過労死事件等の裁判闘争の報告が行われました。神奈川支部の川岸団員からは、遺族の協力も得て、運動を広げて、和解を勝ち取った経過が報告されました。
(6)格差・貧困分科会(二日目)
 二日目の格差・貧困単独の分科会では、一日目に続いて藤田さんに出席いただき、(1)社会保障裁判に対する取り組みをどう発展させていくか、(2)各地で成果を上げている取り組みの経験交流をどうするか、の二つを軸に議論をすすめました。貧困が拡大し深刻化しているにもかかわらず、安倍政権が社会保障を改悪し、貧困層を切り捨てる政策を推し進める情勢のなかで、国会議員をはじめ多くの新しい連帯を作れる状況が生まれていること、社会保障裁判に取り組む弁護士が増え、各地のたたかいで取り組みの精緻さや権利闘争のやり方も発展していること等が各報告者の経験に基づいて報告されました。また、社会権が「憲法上の権利」と位置づけさせ、発展させてきた歴史や社会権規約の視点等を打ち出して、さらに主張を発展させるべきとの意見が出されました。
 また、林団員(東京)による生活保護ミニ講座では、経験した具体的な事例をとりあげて、困窮する依頼者に対する対応や気にかけるべき点といった、弁護士や事務局員に求められる対応について、みながそれぞれの立場で貧困問題に取り組むための実践的な報告が行われました。
(7)LGBT分科会(二日目)
 五月集会でLGBTをテーマに分科会を行ったのは今回が初めてです。
 最初に、水谷陽子団員から、LGBTは「新しい」問題ではなく、古くからある問題であること、LGBTを理解する上で、身体的な性別だけでなく、(1)性自認、(2)性的指向の二つの観点から見ること、しかし、大事なことはカテゴリーを覚えることではなく、性のあり方は多様であり、身体的な性別や見かけだけで判断しないこと、性のあり方を理由とした差別をしないことが重要であるとの報告がありました。
 その後、就労(服部咲団員)、在留資格(永野靖団員)、犯罪被害者給付金制度(矢崎暁子団員)、婚姻(加藤慶二団員)等の場面において当事者が直面する差別的事例が報告されました。
 最後に、主催者から、「人民の権利を守る」と規約に掲げる自由法曹団の一員として、知らない間に差別や侮辱の加害者にならないという観点からも、この問題に積極的に取り組んでいこうとの呼びかけで分科会を終了しました。
五 全体会(二日目)
 分科会終了後、全体会が再開され、次の一三名の全体会発言がありました。テーマと発言者は次のとおりです。
(1)労働法制・安倍「働き方改革」一括法案廃案に向けた取り組みについて
        東京支部・並木陽介団員
(2)グリーンディスプレイ青年過労事故死事件の報告
        神奈川支部・川岸卓哉団員
(3)沖縄問題の現状と課題
        沖縄支部・仲山忠克団員
(4)福島第一原発事故の被害者救済訴訟について
        東京支部・米倉勉団員
(5)LGBT分科会での討論の報告と今後の団の取り組みについて
        東京支部・水谷陽子団員
(6)神奈川における教育問題に関する取り組みについて
        神奈川支部・湯山薫団員(林裕介団員の原稿を代読)
(7)少年法適用年齢引き下げ問題についての討論の報告
        東京支部・辻田航団員
(8)給費制復活に対する取り組み―谷間世代の救済を中心に
        埼玉支部・上田月子団員
(9)種子法廃止の問題点とそれに抗う運動について
        神奈川支部・田井勝団員
(10)カジノ実施法の問題点
        京都支部・尾撫イ俊団員
(11)団女性部五〇周年にあたって
        東京支部・中野和子団員
(12)街頭宣伝活動の自由を守る神奈川支部の取り組み
        神奈川支部・森卓爾団員
(13)安倍九条改憲阻止に向けた東京支部の取り組みについて
        東京支部・野澤裕昭団員
 全体会発言に引き続いて、次の五本の決議が執行部から提案され、会場の拍手で採択されました。
(1)安倍九条改憲を阻止するため全力を尽くす決議
(2)「働き方改革」一括法案の廃案を要求し、労働者の命と健康、権利を守る働くルールの確立を求める決議
(3)福島第一原発による被害の全面的な救済及び脱原発社会の実現を求める決議
(4)「特定複合観光施設区域整備法案」(「カジノ実施法案」)の国会提出に強く抗議し、同法律案の廃案及び「特定複合観光施設区域整備の推進に関する法律」(「カジノ推進法」)の廃止を求める決議
(5)司法修習生に対する十分な経済的支援制度の確立を求め、いわゆる「谷間世代」の救済を求める決議
 以上の決議が採択された後、拡大幹事会が開催され、新人団員の入団が拍手で承認されました。また、先の総会にて留任となっていた事務局長に関し、規約に基づき選任を行いました。これにより、事務局長に、森孝博(東京支部)が就任し、西田穣(東京支部)は退任し、それぞれ就任・退任の挨拶をしました。
 続いて、今年一〇月の総会開催地である福岡支部の山本一行団員から、開催場所となる福岡・北九州への歓迎の挨拶が行われました。
 最後に、鳥取県支部の煖エ敬幸団員から閉会の挨拶が行われ、全てのプログラムが終了しました。
六 プレ企画について
(1) 支部代表者会議

 支部代表者会議には、三六人が参加しました。はじめに、改憲阻止の活動として主に三〇〇〇万人署名の取り組みについて報告・意見交換が実施され、次に、将来問題について、いかに若手が団事務所に入り、定着するかを各地域の実情も踏まえて議論しました。最後に、船尾団長、荒井前団長、篠原元団長から二〇二一年の一〇〇周年記念行事の取り組みについて、提案と問題提起があり、各支部の支部長らと意見交換を行いました。
(2) 新人学習会
 講師として、岡邑祐樹団員(岡山支部・六三期)から倉敷民商弾圧事件、竹村和也団員(東京支部・六五期)からJAL整理解雇・マタハラ事件、高木野衣団員(京都支部・六六期)から原発避難者京都訴訟につき、それぞれ取り組んできた弁護団事件についてそれぞれ報告をしてもらいました。後半は、まず、新人団員が、六つのグループに分かれて、講師への質問について一五分程度ディスカッションをした後、各グループから、一から二つ程度質問を出してもらい、講師がその質問に答える形式で議論をしました。証拠の読み方といった実践的な質問から、等業務と私生活のバランスのとり方に関する質問まで幅広く質問が出ていました。
(3) 事務局交流会
 今年の事務局交流会は、都合により、まず(1)新人事務局交流会、(2)活動交流会(憲法問題交流会)の二つの分科会に分かれ、それぞれ活発な意見交換がなされました。その後、全体会を開催し、東京支部の白神優理子団員から「憲法の原点(基礎)と九条改憲でどうなるか?」と題し、安倍改憲の危険性を訴える講演がありました。その後、同じく東京支部の舩尾遼団員を加え、二人の団員によるディベート「九条改憲に関わる争点ごとにディベートをして学ぶ」と題し、それぞれ改憲派・護憲派の立場に立って、世間で問題とされる安倍改憲のまやかしを、論点ごとに、問題提起・論破を繰り返すディベートがありました。
七 最後に
 冒頭にも述べたとおり、今回の五月集会はまさに安倍改憲をいかに阻止するか、全国の団員の力を結集すべく討議を行いました。また、全国的に、新人・事務局員の参加を強く呼びかけ、団員、団事務所が一体となって改憲阻止の運動に取り組むべきことを確認した五月集会でもありました。二〇一八年五月鳥取・米子研究討論集会では、全体会及び七の分科会において、いずれも大変熱心な討論が繰り広げられました。今回の討論集会が団員一人一人の全国各地での今後の活動に役立ちうるものになったのであれば、主催者側として大変嬉しく思います。
 最後に、今回の五月集会も、地元鳥取県支部の団員の皆さま、事務局員(支援者)の皆さま、大変多数の、多大なるご尽力によって成功しました。執行部一同、深く御礼申し上げます。ありがとうございました。


五月集会 初めて保育室を利用して

京都支部  高 木 野 衣

 六六期の弁護士の高木です。五月集会にご参加の皆さま、お疲れ様でした。
 五月集会は、諸問題につき奮闘する全国の弁護士の話が聞ける貴重な機会ですので、弁護士登録から欠かさず参加してきましたが、今年二月に第一子を出産しましたので、今年の参加は諦めていました。しかし、出産直後に本部から、原発避難者京都訴訟(三月一五日判決)について、新人研修会及び原発分科会で報告して欲しいという要請があり、私が話をすることで原発問題に取り組む弁護士が一人でも増えてくれたら嬉しいですし、この間相次いで言い渡された各地の判決に関する議論に参加したいとの思いで、衝動的に引き受けてしまいました。
 娘は、五月集会の当日時点で、生後三か月一三日でした。これまでにも、事務所の弁護士が子どもを連れて五月集会に参加していたので、団本部が保育室を用意してくれているということは知っていましたが、さすがに首すわり前の〇歳児は預かってもらえないだろうから、配偶者を同行させて面倒を看てもらうしかないかと考えていました。しかし、駄目で元々、電話で託児の可否について確認をしたところ、首すわり前の〇歳児でも受け容れてくれるとの答えが返ってきました。さらに驚いたことに、月齢や利用日数に関わらず利用者負担金は三〇〇〇円でした。〇歳児(特に首すわり前)は扱い方がデリケートで、お世話の手間もかかるので、基本的に保育士がマンツーマンで対応しなければならず、幼児に比べて保育料も高額なのが一般的です。そんな中での思いがけない返答に、思わず「えっ本当ですか!?」と確認してしまいました。
 五月集会前日の新人研修会に伴い、保育室を利用したのは私だけでした。そして、五月集会一日目、二日目もフルで託児をお願いしました。そのおかげで、私は五月集会の全日程に参加することができ、「子どもを産んだせいで、自分のやりたいことができなくなった」という思いを抱かずに済みました。また、新人弁護士の皆さんに、私が弁護士登録直後から力を注いできた訴訟について紹介することができましたし、「全力で頑張れ。でも倒れるなよ。」というエールを送ることもできました。さらに、原発分科会では三月一五日の判決について報告し、他地裁で同種訴訟を闘う弁護士から貴重なご意見を頂き、悩みに悩んで長らく筆が止まっている控訴理由書の作成を進めていくことができそうです。
 憲法や労働法制の情勢が厳しく、旺盛な活動が求められている中、子育て世代の団員も団の活動に参加できる体制を整えてくださっていることに感謝します。これからも精一杯活動して、団へ還元していきたいと思います。


議論もいいけど、「走り」もね!

〜五月集会非公式企画―ジョギング・ランニング企画に参加しました。

京都支部  秋 山 健 司

 鳥取県米子市皆生温泉で行われた五月集会にプレ企画から参加してきました。私は、大阪の小林徹也団員のキーボードサポートを受けて、「ザ・スッテンコローリングストーンズ」というバンドのミック・ジャガー役(バンド内コードネームは「ジャック・ミガー」)を務めている関係で、体力作りのため、土日祝日は一四キロメートル程ジョギングをしています。毎回、五月集会と総会では、その地の空気を味わいながらジョギングするのを楽しみにしています。今回も雄大な大山を眺めながら、二〇日早朝は弓ヶ浜と日野川沿いを、二一日早朝は弓ヶ浜を、それぞれ一五キロ程走りました。今回はマラソン好きの西田本部前事務局長と森本部新事務局長とが上記の非公式企画をご準備されたということで、「趣味を同じくする仲間と一緒に走るのも面白そう。」と思い参加させて頂きました。企画の案内文には「最低敢行人数二名」と書いてありましたが、男女それぞれ約五名ずつという一団が形成され、賑やかに敢行となりました。当節、「討論、お酒、だけでなく健康も」と志向する団員が増えているということでしょう。非常に良いことだと思いました。幸い天候にも恵まれ、普段一人で歯を食いしばって走り続けているときとは全く違う、談笑しながら新鮮な空気をたっぷりと吸うという、これまでの五月集会では味わえない感覚をたっぷりと楽しませて頂きました。ゴール近くでは、二年半の事務局長職に疲れ果てた西田団員が新事務局長となった森団員にバトンタッチするシーンを見ることができました。参加者全員で西田さんに慰労の眼差しを送り、フルマラソン二時間五九分記録をもつ頼もしい森新事務局長の姿を見つめました。この企画のお陰で気持ちの疲れも吹き飛び、討論にも元気に参加できました。「お寺を戸別訪問して憲法学習会開催や三千万署名の協力を訴えた。」「神奈川支部では五月集会までに七〜八割の議員要請活動を完了した。」「弁護士会の派閥の力を借りて若手会員の憲法を語るつどいを開いた。」「沖縄名護では基地建設工事現場にマヨネーズ状の大規模軟弱地盤が見つかるという工事の大きなブレーキが生まれた。今こそ基地建設反対に全国から声を!」「日本海新聞のように、地元メディアでは安倍改憲に批判的なところも少なくない。地元メディアにも安倍改憲反対要請行動を!」等、京都でもすぐに実践できそうな活動のヒント等を沢山頂きました。この五月集会参加で得た活動アイディアと英気を糧に頑張ろうと思います。次回の総会でも、ジョギング・マラソン企画を是非宜しくお願いします!


九条俳句訴訟 控訴審も「勝訴」

埼玉支部  石 川 智 士

 五月一八日、東京高裁で九条俳句訴訟の控訴審判決が言い渡されました。さいたま市の俳句不掲載行為を再び違法とする「勝訴」判決でした。そして、内容として一審判決を大きく前進させるものでした。
一 大人の学習権は憲法上の基本的人権
 控訴審判決は、大人の学習権を憲法上の基本的人権とした一審判決を維持しました。旭川学テ最高裁判決を踏まえた判示ですが、「大人」の学習権につき明示した判決は他に類をみません。
二 図書館判決を前進させ、公民館職員の依るべき規範を示す
 控訴審判決は、社会教育施設である公民館を、「住民の教養の向上、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与すること等を目的とする公的な場」とし、一審判決で抜け落ちていた公民館の性質論に踏み込みました。
 そのうえで、「公民館の職員は、公民館が上記の目的・役割を果たせるように、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の実現につき、これを公正に取り扱うべき職務上の義務を負う」とし、より具体的に、「公民館の職員が、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき、その思想、信条を理由に他の住民と比較して不公正な取扱いをしたときは、その学習成果を発表した住民の思想の自由、表現の自由が憲法上保障された基本的人権であり、最大限尊重されるべきものであることからすると、当該住民の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となる」としました。
 一審判決は、もっぱら公民館だよりに三年八か月掲載が継続されていた事実のみに着目し、作者の掲載への期待を人格的利益としたため、射程範囲が極めて限定されかねない危うい論理構成でした。これに対し、控訴審判決では、住民の社会教育活動の実現としての学習成果の発表行為自体に着目し、不公正取扱いを違法としたもので、社会教育施設における住民の学習活動全般に援用しうる論理となりました。住民の思想・表現の自由が憲法上「最大限尊重」されると明示した点とともに、一審判決を大きく前進させる内容といえます。
 控訴審判決は、船橋図書館判決(最判平成一七年七月一四日)を参照していますが、社会教育施設における職員の住民に対する一般的な職務上の注意義務を設定した点において、図書館判決の射程を広げる重要な判断をしたといいえます。
三 公平・公正・中立は正当化理由とならない
 さらに、控訴審判決は、「ある事柄に関して意見の対立があることを理由に、公民館がその事柄に関する意見を含む住民の学習成果をすべて本件たよりの掲載から排除することは、そのような意見を含まない他の住民の学習成果の発表行為と比較して不公正な取扱いとして許されない」とし、公平・公正・中立を不掲載の正当化根拠とするさいたま市の主張を、明確に排斥しました。
四 さらなるご支援を
 皆様のご協力のお蔭で、一定の意義ある判決を勝ち取ることができましたこと、この場をお借りし深謝申し上げます。一方、原告が求める俳句の掲載については、厳しい道のりが待っています。より良い社会教育行政、ひいては真っ当な民主主義社会の実現のために、引き続きご支援のほどよろしくお願い申し上げます。


初判断!熊本刑務所「カメラ室」

裁量権逸脱判決の報告

熊本支部  板 井 俊 介

一 刑務所にある「法的根拠なき」カメラ室
 刑務所がある都道府県の単位会の人権擁護委員会には、「刑務所内の『カメラ室』の運用がおかしい」という申立てがあるものと思う。
 本訴訟は、平成一八年六月二日に成立し、現在、我が国の受刑者に適用されている「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(以下「法」という)の下において、受刑者が、明文規定のある保護室(法七九条)、あるいは、法に明文規定のないカメラ付き個室に収容され必要以上のプライバシーの誓約を受け続けている実態を明らかにするとともに、法の適正な運用を逸脱した実態があることを問題提起する訴訟である。
 明治四一年に制定された旧監獄法は、戦前戦後を通じて長らく我が国の刑務所等の刑事施設に適用されてきたが、平成一四年のいわゆる名古屋刑務所事件(同刑務所の被収容者が保護房(監獄法下における保護室の名称)内において受けた所為により死亡した等の一連の事件)の発覚を契機として、いわゆる「保護房」(現行法における「保護室」)が懲罰の代替手段として利用され、受刑者に対して過度の人権制約を課する温床となっている実態が明らかになった。
 このため、政府は監獄法の改正に着手し、本来、受刑者の自傷行為を防止し、あるいは、刑務所内の秩序維持のために極めて限定的に使用されるべき保護房が、実際には、刑務所側にとっては懲罰の代替手段として使用されている実態を厳に戒めることが求められ、これを受け、法七九条は保護室収容のための実体的要件、及び、手続的要件を明確に定めたものである。
 ところが、改正法の施行後においても、実態としては、保護室収容の要件(法七九条)の認定は厳格化されておらず、また、あろうことか、法律上の明文規定(法七九条)のある保護室への収容ではなく、二四時間、受刑者をビデオカメラで撮影し続ける「カメラ付き個室(カメラ室)」なる部屋が懲罰の代替手段として使用されている実態がある。
 これは、本来、法改正により防止せんとした保護室の恣意的な利用という重大な目的を潜脱した運用としか考えられない事態であり、本訴訟は、実際に、そのような保護室、カメラ付き個室に長期間にわたって収容された受刑者が原告となって問題提起するものであった。
二 裁量権逸脱を認めた判決
 平成三〇年五月二三日の熊本地裁第三民事部判決(小野寺優子裁判長)は、
(1)刑務官の原告に対する「カスが、死ね」という発言を人格権侵害として一〇万円の慰謝料支払いを命じたほか
(2)いわゆるカメラ室への二一七日間に及ぶ長期収容に関し、「カメラによる監視には死角がなく、排泄行為を含む日常生活の一挙手一投足が監視可能」として受刑者のプライバシー権に配慮し、漫然と収用を継続した後半の三か月間の収容を「必要性もなく収容した」もので裁量権逸脱として三〇万円の賠償を命じた。
 本判決は、いわゆるカメラ室への収容を違法とする初の判決であり、実務的に影響の大きい判決である。
三 余論
 私は、弁護士一年目から三つの刑務所訴訟を手掛けた。本筋の議論ではないが、これまで苦労して得た教訓として、
@事実の争いがある場合、刑務官が証言した場合には必ず刑務官の証言が採用される(偽証罪の成立を恐れる裁判官の判断)
 そして、誤解を恐れずに率直に言うが、
A原告である受刑者に入れ墨がある場合には概ね敗訴する(暴力団関係者を差別的に捉える裁判官の判断)
ということが言えるのではないかと思う。
 もっとも、通常の刑務所訴訟では、@事実関係に争いがあるため、原告主張と国の主張が真正面から食い違った場合には、結論としては非常に厳しいものがある。
 また、平素、受刑者は長袖の受刑服を着ているが、刑務所内での本人尋問時、刑務官はここぞとばかりに長袖を脱がせて証言させるため、A入れ墨のある原告は裁判官に直接見られてしまいレッテルを貼られてしまう。
 このように考えると、@事実関係に深刻な対立がなく、A入れ墨の無い原告でなければ勝訴の可能性は厳しいとも思えるが、本件は、確かに、カメラ室収容の点に関しては、この@Aの条件に当てはまっていた。
 この点については、ご意見のある団員もあろうかと思う。しかし、これが私の率直な評価である。
 本判決は非常に貴重なものだと考えており、この判決を死守すべく尽力したい。


地域の中学校道徳教科書の展示会にご参加ください。

埼玉支部  小 林 善 亮

一 安倍政権が進める愛国心教育
 昨年三月、小中学校の学習指導要領が改訂され、道徳が正式教科として位置づけられました。小学校一、二年生からは我が国に対する愛着を、小学校三年生以上は、我が国を愛する態度を教えることが道徳の内容となり、正式教科である以上、子どもたちの道徳の学習状況などが評価の対象となります。さすがに内心に関わる道徳について、数値での評価は行わず、記述式の評価を行うとの方針ではありますが、それでも子どもたちに特定の価値観を持つよう強制する力は無視しえません。
 小学校については、昨年道徳教科書の採択が行われ、今年四月から正式教科の道徳がスタートしています。中学校は今年の夏に道徳教科書の採択が行われ、来年四月から正式教科の道徳が始まる予定です。
 安倍政権は、昨年から今年にかけて、幼稚園や保育園の指針も変更し、小学校入学前から「国旗・国家」に親しむことを求め、高校には「公共」という新設の必修教科を導入し、高校における道徳教育を推進することも決めています。まさに、幼児期から高校卒業まで、一貫して愛国心を子どもに教え込む体制を作ろうとしています。
二 合格した中学校道徳教科書について
 合格した中学校道徳教科書八社のうち五社が、子どもたちに道徳教科の内容の理解度を段階評価(五段階や四段階)で自己評価するページを設けています。本来、正解のないはずの内心の問題について、自己評価とはいえ、このような数値評価を子どもたちに行わせることは不適切ではないかと思います。
 また、今回新たに教科書制作会社として参入した日本教科書は、「新しい歴史教科書をつくる会」の中心メンバーである八木秀次氏(麗澤大学教授)が設立した会社です。現在の代表取締役は、「マンガ嫌韓流」というシリーズを発行している「晋遊舎」という会社の代表取締役と同じ人物であり、日本教科書の住所は晋遊舎のビルの中にあります。このようないわゆるヘイト本を出版している会社と一体化した会社が、中学校道徳の教科書を発行しているということも重大な問題です。
 もちろん、道徳が教科化されたこと自体が、子どもたちに一定の価値観を押し付けるものであるという問題の本質は、どのような教科書を採択するかに関わらず残ります。ただ、教科書の記述によっては、子どもたちへの価値観の押し付けの弊害がより大きくなる危険があります。その意味で、採択にかけられている教科書の内容についても、地域の市民として関心を払っていく必要があると思います。
三 中学校道徳教科書の展示会にご参加を
 今年三月、中学校道徳教科書の検定結果が公表され八社の教科書が合格となりました。今年の夏に、各地域の採択地区ごとに、この八社の教科書から一社の教科書を採択することになります。
 採択の前提として、各採択地域で教科書の展示会を行い、市民からの意見を募集します。展示会の期間、場所は各採択地域ごとに決められるので、市町村の教育委員会に問合せをしてください。通例であれば六月から七月に行われています。
 教科書展示会で市民が寄せた意見は、多くの教育委員会で教科書採択の際に紹介をされています。市民の意見を直接教育委員会に届ける重要な機会です。
 多くの方に、実際に道徳教科書を手に取ってみていただいて、感じた問題点を市民の意見として寄せていただきたいです。意見は長くなくとも構いません。例えば、「子どもに価値観の押し付けをしないように求めます」、「自己評価であって、数値や段階による評価は内心の問題にはなじまないと思います」、「内心の問題について、子どもたちを評価すること自体が間違いです」、「差別を助長するような本を出している出版社に関係している会社の教科書は相応しくありません」等、一言であっても良いです。道徳の教科に対する問題を指摘する声が大きければ、教育委員会や教育現場も子どもの内心を評価することに慎重になる効果も期待できます。是非、ご参加ください。


団通信は読んで面白いか?

福岡支部  永 尾 廣 久

一〇〇通も減った投稿
 米子・皆生温泉で開かれた五月集会に今年も参加しました。新人弁護士をふくめて若手団員の元気な姿に接すると大いに励まされます。
 いつものように団通信の現況をまとめた冊子を開いてみました。期別の執筆者でトップ争いをしている我が二六期と三一期では、今回も二六期が二五七通と三一期の二四九通を上回っています。本部の西田事務局長が、このところ投稿者が限られているのが問題なんですとつぶやいているのが聞こえてきました。たしかにそんな気がします。二六期でいうと「変人」コンビの私と守川幸男団員(千葉)が突出して多いですね。やはり、バラエティーに富んだ、読んで面白かったと言えるものを読みたいですよね。私も、また同じような内容じゃないのかと思われないように心がけています・・・。
 問題なのは、一五年に四二六通あったのに、一七年は一〇七通も減って三一九通になってしまったということです。これは由々しき事態というほかありません。そして、市民事件・労働事件関係の投稿がこのところ減少しているそうです。これは困ります。日本全国でどんな事件に団員が取り組んでいるのか、その特徴と学ぶべき教訓は何なのか、私はぜひ知りたいです。
 事件を担当している団員は、自分の事件をわざわざ全国に報告するまでもないと考えがちです。そして、忙しくて投稿する時間がとれず、先送りしているうちに報告しようという熱意がうすれてしまいがちになります。でも、報告するために書面にすると、自分の頭の中が整理され、反響があって刺激しあうこともできます。ですから、どしどし投稿してほしいと本部役員でもない私からも全国の団員に呼びかけます。
セツルメントと気骨ある官僚
 私が「新春ニュースのトピックス」と題して、全国の法律事務所ニュースの紹介とあわせて元セツラーのアイちゃんに関わる「河野学校」のことを書いたところ、これは珍しく大きな反響がありました。なにより、法律新聞社から転載許可を求められて驚きました(二月二三日号に一挙掲載)。
 アイちゃんというのは、私と同学年で同じ川崎セツル(古市場パート)に所属していたセツラーのことです。ただ、アイちゃんは法律相談部で、私は青年部(若者サークルに入って活動していました)でした。東大闘争の試練を経るなかで私をふくめて多くのセツラーが司法試験を目ざしましたが、アイちゃんはなぜか司法試験組ではなく、国家公務員上級職試験を受けて文部省に入りました。その後は、何の音沙汰もなく、すっかり忘れていたのです。それが、今年のはじめにFBで佐高信の『葬送譜』(岩波書店)にアイちゃんも追悼文の対象者になっていて、いま活躍中の前川喜平氏が河野学校で学んでいたというのを知りました。その後、同じくキャリア官僚だった元セツラーに頼んでアイちゃんの追悼集を入手して読むことができました。本文三四三頁の堂々たる追悼集で、アイちゃんが文部省でどんな活動をしていたのかを詳しく知りました。
 文部省がリクルート事件に直面したとき、アイちゃんは「不正に対して自分の生き方で闘っていく」と日記に書きました。文部省労働組合の中央執行委員になったこともあり、部下の手抜き仕事を見つけると、「いい加減なやり方は許さない」と叱りつけ、また、「いつから自分の好き嫌いで仕事を選ぶほど偉くなったの?」と問いただしたのでした。
 そして、独身のアイちゃんは自宅を「サロン・ド・愛」と名づけて開放し、キャリア官僚や新聞記者、教授その他一〇人ほどが集まり、毎回ワイワイガヤガヤと議論していたのです。そのなかに若き寺脇研氏や前川喜平氏もいました。
 「文部省も変わっていかなくてはいけない。従来の文部省のタイプの人間ばかり利用しているようではダメ。斬新な発想を、文部行政に反映させていかなくては」と、アイちゃんは熱っぽく語っていたそうです。
 前川氏は六年先輩になるアイちゃんについて、筋の曲がったことが大嫌いで、誠意や理想を捨てない人だった、そのような生き方が加計学園問題のときの発言に影響しているように思うと語っています。安倍首相に尻尾を振ってすり寄る官僚ばかりではないと知り、ほんの少しだけ安心しました。
セツル法相の機関誌
 アイちゃんは東大セツル法相の機関誌「歩む」に古市場でのケース・ワークの取り組みとして実践報告しています。
 セツルメント診療所の神経科特診日にやってきた人々の家庭を一軒一軒、訪問し、あがりこんで生活環境や生い立ちを洗いざらい引き出し、その人を精神病に追いやった背景を探っていきます。
 これは社会の現実の姿を掘り下げる第一歩。セツル法相は、法律を表看板にするのではなく、壁をつき破って地域の諸問題と取り組むなかで法律を有力な武器として使っていく方向を追求するのが今後のセツル法相の姿ではないか、アイちゃんはこのように問題提起したのでした。
河野水軍の末裔
 先の団通信で私は、河野学校の次に村上水軍についての園尾隆司元判事の小論文を紹介しました。ところが、何とアイちゃんは偶然にも伊予の河野(こうの)水軍の総帥の末裔、世が世なら河野水軍の御姫様なんだよと私と同世代の元セツラーから教えてもらいました。アイちゃんは愛媛県伊予市の出身らしいのです。
 さらに、河野水軍と村上水軍との関係も判明しました。河野水軍は伊予河野家の水軍部隊であり、四国でもっとも古くからの存在で、伊予水軍の頂点に立ち、村上水軍もその配下の一水軍でした。全国の八幡神宮の本拠である大三島の大山積神社は河野家の神社です。これは、園尾元判事に付加して教えてもらいました。アイちゃんのルーツ、故事来歴まで知ることができましたので、補足しておきます。


自衛隊明記改憲案反対弁護士会総会決議と教訓

千葉支部  守 川 幸 男

一 はじめに 反対決議のご報告
 二〇一八年五月一八日の千葉県弁護士会の定期総会で「『必要な自衛の措置をとるための実力組織としての自衛隊を保持する』との憲法改正案に反対する決議」が賛成一二九、反対五六、棄権二七で採択された(六割の賛成率、なお、委任状はない)。その内容は弁護士会のホームページを参照されたい。強固な反対意見も相次いだ。ただ、反対決議なら賛成はしないというだけの会員も多いはずだから、反対決議でなく慎重決議であれば(決議の理由にほとんど違いはないが)票数は異なっていたと思われる。
 日弁連が五月二五日の定期総会で憲法関連の決議を採択し、各地でも、同種の決議や声明が出され始めているが、なお抽象的であって、明確な反対決議は全国初である。今後、条件のある単位会でご検討いただき、全国各地から、日弁連の立場をもっと反対方向にシフトさせる動きを強める必要がある。
二 総会決議提案の経緯
 千葉では一年前に、執行部主導で「日本国憲法施行七〇年を迎え、あらためて恒久平和主義や基本的人権の尊重等の憲法の価値を実現するための決意を表明する総会決議」が、若干の反対があったものの、圧倒的多数で採択されていた。その後この問題でのQA方式のうらおもてのちらしを作成したり、伊藤真弁護士を講師とする弁護士会員向けの憲法特別講座を開講して、弁護士会での見解表明についても議論した。
 今年に入ってから、水島朝穂教授を講師とする憲法市民集会を行い、弁護士法一条一項、二項についてもくり返し触れてもらった。
 私は、昨年末から、憲法問題特別委員会の中で、二月定期総会なり五月定期総会で、自民党の改憲案に反対する決議を準備すべきだと訴えてきた。しかし、会内世論を考慮し、当面、改憲手続法の抜本的改正のないもとでの改憲反対の決議を準備することになった。若い弁護士と相談して作ってみたが、どうもしっくり来ない。そこで私は、事前に当時の会長と次期会長(現会長)の意向も探ったうえで、二月の委員会で、明確な改憲反対の短い決議案を作って提示し、その結果、委員会では、困難はあっても反対決議を提案することでまとまった。
 その後、三月の憲法委員会と、四月の時間を取った二度の常議員会、さらにそこで出された初歩的な疑問や誤解を解消するための二度の臨時憲法委員会を経て、複数の委員を中心に数回にわたる修文を行った。
 その結果、私が提示した当初案の数倍のていねいな決議案の総会への上程となった。常議員会では、総会への上程の賛否が問われ、その結果は一七対六対一であった(賛成率七割)。
 そして、討議がなお不十分との意見も踏まえて、執行部は(私の提起もあったが)、総会議案全体の送付の直前に、この決議案を全会員(約八〇〇名)にFAX送信して意見照会を行い、総会当日これを要約して配布した。
 事前に意見を寄せた会員は一四名であり、積極的な決議賛成一〇名、反対四名(後述する)であった。私もかなり長い意見書(当初六ページ、補充書二ページ)を提出し、あわせて、会員メールにも総会の一週間前にこれを投稿して、事前の議論を呼びかけた。
 会員メールには長文の反対意見(九ページ)が投稿されたが、誤解や論理矛盾もあり、私は、これを批判する文書(七ページ)を会員メールに投稿した(期限後なので、総会での要約配布はなかった)。
三 常議員会での議論と私の意見書の紹介
 常議員会での一回目の議論は、現在の情勢を理解しなかったり、決議案に対する初歩的な誤解が多かった。
 何が疑問として提出されたか、また、どんな議論をしたかは各地でも参考になるので、私が事前提出した二度にわたる意見書の目次を以下に紹介する。
 当初の意見書は次のとおりであった。

第一 はじめに――私の立場
第二 決議案に対する疑問等に対する私の意見
 1 はじめに
 2 三〇年前に克服された議論とは何か
    ―「政治的」だと見解表明できないのか
  (1)日弁連での議論
  (2)日弁連総会決議無効確認訴訟での東京高裁判決
 3 自民党の自衛隊明記案の本質は何か
  (1)安保法制との関係と明記案の狙い
  (2)提案されている明記案の問題点
 4 総会決議案の読み方
  (1)憲法に自衛隊を明記することにそもそも反対なのか
  (2)自衛隊を違憲と見るのか、専守防衛ならよいのか
  (3)国民投票法に関する項目は必要か
  (4)議論が不十分で、時期尚早ではないか
  (5)弁護士会が誤解され、議論ができなくなるか
  (6)決議の目的は何かについて
第三 最後に――弁護士と弁護士会の責務を果たそう

 補充意見書は次の三項目であった

1 決議案の第2、決議の理由の4、(1)項「…九条二項の空文化」の項
(まず2項と3項の矛盾を述べ、そのあとに後方優先の原則に及ぶ、という順序にした方がよかったとするもの)
2 決議が会員個々人の思想信条を侵害するかなどについて(東京地裁判決を紹介した)
3 国民投票法について、理由中で触れるのでなく、決議の趣旨にも掲げるべきか

四 総会での議論
 総会で、意見照会の結果が、ごく簡潔な概要としてペラ一枚うら表版で配布された。
 執行部の提案のあと、質疑に憲法委員会委員長が答えた。ほぼ想定内のやりとりであったが、その後の討論では一〇数名が発言したうち、半数程度の反対意見(強固なものもあった)が続き、冒頭の結果となった。
 執行部からの意見照会に対する反対意見の理由も含めたその特徴は、決議案の内容や今回の「改正」内容に関わるものはほとんどなかったことである。
 三項の目次からもおわかりいただけるが、憲法も弁護士法一条一項および二項の観点もなく、弁護士は政治的な問題に対して発言すべきではない、というだけでなく、決議に反対する会員の良心はどうするのだ、どこかの政党と同じで弁護士会が国民から不信感や反感を持たれる、懲戒申立てされる(朝鮮学校への補助金を求めた弁護士への一三万件の懲戒申立てを意識したもの)、といった類いの非論理的なものもあった。
 しかし、これらは、労働法制改悪や少年法改悪、弁護士人口増反対などとも共通なのであって、人権擁護を使命とする弁護士は、国民の中で少数であっても見解を表明して世論に訴えることが責務である。
 委任状を認めない千葉のよき伝統を理由に、参加していない会員の意見は無視するのかという発言もあった。
 当日の発言にはなかったが、事前の意見照会に対して、弁護士会は憲法九条の(解釈の)プロではない、国民投票で国民の意見を聞けとか、北朝鮮から攻撃対象になっていることを理解しない、弁護士会が反日と見られる、などというものもあった。まるで「統治行為」論の弁護士会版であったり、いわゆる平和「ボケ」批判、幻想だとの批判以上であり、これは抑止力論、「戦争による平和論」であって、それこそ幻想だと思った。
五 教訓
 常議員でも総会でも、強固な反対意見は、ある程度予想していたが、予想以上であった。反対決議でなく慎重決議にすることもあり得たと思う。この投稿の冒頭で私は、各地での検討を呼びかけたが、「会内合意」を重視する立場からは圧倒的多数の賛同が求められるから、全国どこでも、このような反応があることを踏まえて検討すべきであろう。
 かつて千葉では、一九九一年の湾岸戦争をきっかけに制定された(当初の、現在よりずっと「穏やかな」)PKO法に対してすら、一九六名の弁護士会員中有志アピールに一四六名が賛同した(なんと七五%近い。むろん残りの二五%は、単に賛同しなかったというだけである。)、今昔の感がある。
 思うに、弁護士層の意識も、現在の世相を反映しているのであり、弁護士会の活動に限らず、国民の意識に働きかけるにあたっては、このことをリアルに見ておく必要がある。


大国間の核兵器応酬の悪夢

埼玉支部  大 久 保 賢 一

 トランプ米国大統領は、一時間のうちに三回、「米国は核兵器を保有しているのに、なぜ使用できないのか」と外交専門家に質問したという(毎日新聞一月三〇日付夕刊)。理解力が欠落しているか、使用することに躊躇いがないかどちらかであろう。いずれにしても物騒な話である。その彼は「力による平和を維持する」ために、「最強の軍隊を堅持する」としている(「国家安全保障戦略」)。そして、核弾頭の運搬手段(大陸間弾道弾、戦略原子力潜水艦、戦略爆撃機)を強化し、小型核兵器と核巡航ミサイルを導入し、非核攻撃に対しても核兵器で対抗しようとしている(「核態勢見直し」・NPR)。この核態勢の見直しは「ロシアや中国に加えて、北朝鮮やイランの核保有の野心や、核を使ったテロは継続的な脅威だ」としており、ロシアや中国は引き続き「戦略上の競争相手」(「国家防衛戦略」)なのである。
 他方、ロシアのプーチン大統領は、複数のミサイルが米国を攻撃する動画をバックに、「探知されにくい低空域の巡航ミサイル(新型ミサイル)は、ほぼ無制限の射程距離に核弾頭を運ぶ。あらゆるミサイル防衛システムに対して『無敵』だ」と演説している(一般教書演説)。
 世界の核兵器一五〇〇〇発の内、五〇〇〇発はロシアが四七〇〇発は米国が保有しているとされる。その核超大国双方が、核兵器の近代化を競っているのである。「核兵器のない世界」への逆行であるだけではなく、新たな「相互確証破壊」(MAD)への道が再開されたかのようである。
 北朝鮮の核やミサイルも問題であるが、その核弾頭の数(一五ないし二〇)や運搬手段などを見れば、米ロなどとは比較にならないことは明らかである。「核兵器のない世界」を展望するとき、北朝鮮の核だけに目を奪われていては、その本質を見失うことになるのである。核兵器の近代化を図る米国やそれを「高く評価する」日本が、北朝鮮に対して核兵器を放棄しろと迫るのは、没論理的な強者の圧力でしかない。
 北朝鮮は、ビン・ラーディンやサダム・フセインが、米国によって亡き者にされたのは、核兵器がなかったからだと考えている。元々、北朝鮮はNPTに加盟していたのだから、核兵器を保有しないという意思を国際的に示していたのである。その意思を転換したのは、米国に睨まれれば、体制転覆をされてしまうという恐怖からである。米国のアフガンやイラクに対する軍事行動からの帰結である。そして、その恐怖心は、米韓合同演習によって、塗り固められてきたのである。私は、北朝鮮に肩入れするつもりはないけれど、米国の軍事行動は非難されるべきだと考えている。米軍の圧倒的戦力のもとで、多くの民衆が殺戮される光景を見たくないし、米国は国際法の到達点を無視していると考えるからである。米国の「力による平和」という欺瞞を看過することはできない。
 ところで、北朝鮮との対立を煽る安倍首相だけではなく、南北朝鮮の融和を快く思わない連中がいる。全核兵器の廃絶を語るのではなく、「北の独裁者」の核だけを問題視するという発想である。彼らは「民衆の困窮」とか「世襲」などを理由として「北の独裁者」を非難するけれど、武力衝突の危険性には目を向けないのである。戦争や経済制裁で最も困窮に陥るのは社会的弱者である。日本国の象徴も世襲である。彼らにはそんなことも、「北の独裁者」の存在が「安倍一極支配」の一助になっていることも念頭にないのである。北朝鮮を責めるだけで、日米政府の行動に異議を述べないことは、不公正である。
 北朝鮮の核兵器使用は、自らの崩壊との引き換えである。トランプやプーチンの核兵器使用は、人類社会の崩壊との引き換えである。私は、「北の独裁者」に目を奪われて、本当の危険を見失うようなことはしたくない。「武力による平和」の実現が、核軍拡競争を誘引し、人類社会を滅亡へと導くことを阻止しなければならない。

(二〇一八年三月五日記)