<<目次へ 【意見書】自由法曹団


2000年10月

司法制度改革審議会に対する意見

ー国民のための司法制度改革の実現のためにー

自 由 法 曹 団
目   次

はじめに
第1  審議会審議の基本的・構造的問題点
  1 審議会の審議の在り方について―設置法と国会審議にてらして
  2 規制緩和に偏した「論点整理」
  3 社会的弱者保護の視点が欠落した審議内容
  4 裁判と裁判官のあり方に対する審議が不十分
  5 現在の中央集権的な官僚裁判官制度の問題点の認識が不可欠 
  6 現在の裁判と裁判官の実態を把握するための努力を行うべきである
  7 これまでの取りまとめで抜け落ちている点
第2 法曹一元の実現に向けて
  1 審議会の取りまとめ
  2 夏の集中審議での審議状況
  3 法曹一元導入を明確に打ち出すべき
  4 一部委員の姿勢と今後の審議の進め方について
第3 裁判官に対する中央集権的官僚統制の廃止、裁判官の独立の確保
  1 中央集権的官僚統制の実態とその弊害
  2 具体的な改革要求
第4 陪審制の実現に向けて
  1 審議会の審議状況
  2 審議会の経過、及び取りまとめに対する意見
  3 陪審制を基本にして国民の司法参加の具体化を図るべきである
  4 「専門参審制」はとるべきでない
  5 国民の司法参加に対する最高裁の敵意・反感の不当性
  6 現在の裁判のあり方に対する最高裁の無反省
第5 「国民の期待に応える刑事司法のあり方」について
  1 審議経過と問題点
  2 現状の刑事司法の実態と問題点
  3 被疑者・被告人の身柄拘束に関連する問題
  4 被疑者の取調べの適正を確保するための措置について
  5 第1審の審理期間や公判期日の開廷間隔(上限)の法定について
  6 証拠開示について 
  7 公的費用による被疑者弁護制度について
  8 検察官の公訴権行使へのチェック
  9 まとめ
第6 「国民の期待に応える民事司法のあり方」について
  1 審議会の審議状況について
  2 審議の問題点について
  3 主要な論点についての意見
第7 弁護士改革と弁護士自治の擁護
  1 弁護士の在り方に関する審議会の審議状況
  2 法曹人口の大幅増員に対する基本的考え方 
  3 国民が弁護士を利用しやすくなるための基盤整備
  4 国民が弁護士を必要とするような司法システムへの改革
  5 弁護士の在り方と国民に利用しやすい司法の実現との関係について
  6 弁護士の在り方の見直しと弁護士自治
おわりに− 設置法、および国会決議に即した審議を

はじめに

 わが国の司法制度をどう改革するかがいま大きな問題となっています。
 憲法は国民の基本的人権を擁護するため、国民に迅速で公平な裁判を受ける権利があることを保障しています。そして、国民に対してこのような裁判を行うべき裁判官の独立が保障され、裁判官は憲法と法律、及び良心にしたがって裁判を行う職責を持っていることが明記されています。
 憲法の規定に照らしても、後に第一で述べる審議会設置法の目的及び政府の国会答弁と附帯決議に照らしても、審議会がなすべきことは、主権者である国民の権利と利益が正当に保障される裁判制度への抜本的な実効ある改革であり、かつ、そのために必要な国民の司法への参加の道を開くことだと確信します。
 審議会は昨年7月以降、今日まで32回の審理及び夏の集中審理を行っています。昨年12月には論点整理を発表し、以後の審理の基本方向を決め、その後各論点についての取りまとめを順次発表しています。そして今秋には「中間報告」がされる予定です。
審議会の審議は、これまで原則としてすべて公開して行われています。審議の公開については、私たち自由法曹団もこれを強く求め「意見書」を提出しております。公開をめぐっては審議会内部でも激しい議論がたたかわされましたが、審議会がこうした議論を克服し、公開に踏み切ったことをまず高く評価し、今後とも国民に開かれた審議が続けられることを求めます。
しかし、私たちは、昨年12月に全員一致で取りまとめられた論点整理については、危惧を抱かざるを得ませんでした。後に第1で詳しく述べるように、論点整理の議論の方向とその基本は、戦前、戦後そして現在の裁判の実状を国民の目線で見ることに欠けるとともに、かねてから財界、そして自民党が強調してきた規制緩和実行のための「かなめとしての司法改革」に偏っているように思われるからです。
 私たちは、論点整理が積極的に評価している政治改革(小選挙区制と政党助成金制度)が、国民の意思にもとづく政権交代や金のかからない政治の実現どころかその逆の事態を招いたことをこの目で見ています。「規制緩和」がルールなき資本主義といわれるこの国の状況をさらに加速し、かつてないリストラ合理化を招き、失業の増大、果てはリストラ自殺の増加による男性の平均生存率の低下にまでいたっていることを日々の弁護士活動を通じてよく知っています。そのことは、私たちだけの経験や知識ではなく、多くの国民のほとんど常識になっていることだといっていいでしょう。
 こうした論点整理の立場からは、審議会設置法や、国会附帯決議が求めている「国民のための司法」、そしてそのための「国民による司法」のための実効ある抜本的な改革提案は生まれてこない危険があると私たちは考えざるを得ませんでした。
 こうした中で、9月26日に審議会が主として刑事事件を念頭に置いてではありますが、「一般の国民が裁判内容の決定に主体的・実質的に関与していく」制度が必要だし、そのための制度を検討し、提案すると発表したことを私たちはとりわけ注目し、ひきつづく審議の中で、私たちが一貫して主張してきた陪審制に大きく近づく制度改革を行う実効ある具体的提案がされることをつよく求めます。
 私たちは、いま審議会が「国民のための司法」「国民による司法」への改革の実現のために審議の方向をきちんと定め審議を尽くし、欠落している部分は補い、あいまいな部分は改革の内容を具体化して結論を導かれることを求めます。

 私たち自由法曹団は、1921年に創設され、今日まで79年の歴史を持ち、1500人の弁護士が結集している団体です。
 自由法曹団は、戦前は治安維持法の被告らの弁護をして、同罪で弾圧された歴史を持っています。団員は戦後も一貫して、松川事件などの謀略弾圧事件や数多くの死刑再審事件を含む冤罪事件、労働者の差別や不法解雇事件、女性差別是正事件、規制緩和による労働のルール破壊の下で生ずる過労死自殺事件をはじめとする労災職業病事件、公害、薬害事件、そして借地・借家事件からサラ金事件にいたる多様な数多くの市民の権利の救済にあたってきました。
 私たちはこうした実践を通じて、わが国の司法制度があまりにも国民の人権を守ることについて不充分であるとともに、しばしば人権侵害をする側−行政や大企業ら−のための裁判になっていることを歯がみする思いで痛感してきました。
 司法制度を一日も早く憲法と国際人権法の常識に合致したものに改革することは、私たちの切望するところです。憲法及び設置法そして国会審議と附帯決議に照らしても、審議会の本来の責務はそこにこそあるはずだと確信します。審議会がこうした責務を果たすことは私たち自由法曹団員はもとより、広範な法律家そしてなによりも圧倒的多数の主権者国民の求めるところです。
 私たちは、以上の立場に立って、審議会で国民の願いに応える「中間報告」を行い、さらに「最終報告」をされることを心から求めて、ここに意見を提出するものです。

第1 審議会審議の基本的・構造的問題点

1 審議会の審議の在り方について―設置法と国会審議にてらして

 これまでの審議会の審議の在り方を検討する前に、審議会の根拠となっている司法制度改革審議会設置法やこれを審議した国会論議が審議会にどういう審議を求めていたかを確認する必要があります。
 設置法案は昨年2月閣議決定されて国会に提出されましたが、法案では、審議会の所掌事務について「審議会は、21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議する。」というきわめて漠然とした内容になっていました。
 国会では、こうした審議会に白紙委任状を与えるような所掌事務の内容では許されないとの批判が起こり、審議項目を明確化する法案修正が行われました。その結果、「審議会は、21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし」の後に「国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他」の文言が加えられ、審議会の審議のあり方に対し一定の方向性が定められたのです。
 重要なことは、国会審議のなかで、司法改革は、国民の視点で、国民の人権が憲法の理念に沿って確保されているかという視点から現状を十分調査するべきことが確認されていたことです。たとえば、同法案に対する参議院での附帯決議では、「国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹一元、法曹の質及び量の拡充等の基本的施策を調査審議するにあたっては、基本的人権の保障、法の支配という憲法の理念の実現に留意すること。特に、利用者である国民の視点に立って、多角的視点から司法の現状を調査・分析し、今後の方策を検討すること。」との条件がつけられていました。政府も「司法制度の改革は、単に規制緩和などを推進していくために必要であるという観点からだけ行われるものではなく、これからの社会において司法制度の利用者としての国民にとって、身近で利用しやすくわかりやすい司法を実現するという観点から検討されなければならない」(陣内孝雄法務大臣)と答弁しています。
 こうした、国会審議の経過からすれば、審議会は、弱肉強食といわれる市場原理万能の規制緩和を推進するという観点から21世紀の司法をデザインするのではなく、国民の憲法上の人権が適正に確保されているかどうかという観点から、国民の目線に立って、司法の現状を調査、分析することが求められていることは明らかです。
 そして、「司法の現状」には、「現在の裁判の内容」が含まれることは国会審議の経過に照らして当然のことです。現在の官僚的職業裁判官の裁判が、国民にどのように受けとめられているか、果たして国民の権利、利益を正当に実現しているか、の現状分析こそ司法改革の重要な基点をなすものというべきです。
審議会の審議は、その基本的方向と内容、審議のやり方について、「国民のための司法」や「国民による司法」のための実効ある改革という点で、以下のような構造的な問題をもっていると考えます。

2 規制緩和に偏した「論点整理」

 審議会は1999年12月21日、「司法制度改革に向けて『論点整理』」を発表しましたが、それを読むと私たちは、審議会の日本社会に対する現状認識及び審議会の目指す司法改革の方向性に対して危惧を抱かざるを得ませんでした。
論点整理は、Uの2の「日本社会の変容と司法の役割」の項で、「この国が豊かな創造性とエネルギーを取り戻すために、政治改革・行政改革・地方分権推進・規制緩和等の経済構造改革が構想され、実施に移されつつある」としてこれら一連の流れを積極的に評価し、「今般の司法制度改革はその最後のかなめともいうべきものである。」と位置付けています。
しかしこれら一連の「改革」は、憲法に保障された国民の基本的人権をより一層保障する方向で行われたものではなく、「自由競争」「自己責任」の名において社会的弱者を切り捨てるものでした。従って、論点整理の以上のような認識に対して私たちは重大な疑問を抱きます。
また論点整理は、規制緩和が進行する下での司法の役割について、「弱い立場の人が不当な不利益を受けることのないよう、国民の間で起きるさまざまな紛争が公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決される仕組みを確立することが当然の前提」「政治部門の活動を監視し、その行き過ぎによって国民の基本的人権が不当に侵害されることのないようにする必要があることが想定されている。こうした文脈のなかで重要な役割を果たすことが期待されているもの、それはまさに司法(法曹)にほかならない。」と述べています。
日本社会において求められる司法の役割に関する以上のような認識について異論はありませんが、問題は、論点整理が各論として掲げる司法改革の方向が上記のような司法の役割を果たすためのものになっていないことです。このような改革の方向性では、国民が望む司法改革を実現できるか極めて疑問です。例えば、論点整理は、Wの1「司法の現状と改革の方向」において、国民が司法に期待する内容について以下のように述べています。
「国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができ、国民に開かれたプロセスにより、多様なニーズに応じた適正・迅速かつ実効的な司法救済を得られるということ、及び新しい時代状況に対応した適正な刑事司法手続を通じて犯罪の検挙・処罰が的確に行われ、国民が安全な社会生活を営むことができるということであろう。」
ここには、現在の裁判の内容が行政や大企業に偏し国民の常識からかけ離れていること、裁判所の審理の進め方が迅速だけを追求し丁寧で充実した審理がなおざりにされ拙速主義に陥っていること、日本の刑事手続が人質司法・調書裁判と呼ばれ、被疑者・被告人の人権が侵害されていることなどへの問題意識は全く欠如しています。
むしろその目指す方向は、自民党や財界が求める、際限なき規制緩和路線によってもたらされる様々な紛争を企業にとって「迅速」でより「効率的」「合理的に」処理することに役立つ司法、ガイドライン法、有事法制、盗聴法などに現れている、平和憲法を踏みにじり日本の軍事大国化、「戦争のできる国」造りのための治安維持に役立つ司法としか言わざるを得ません。
論点整理に示されたこのような司法改革の方向は、先に述べた審議会設置法及び国会の附帯決議からも逸脱しています。

3 社会的弱者保護の視点が欠落した審議内容

 第10回(1月18日)の会議は、実質審議の開始にあたって、審議の順序を決めました。ここで、佐藤幸治会長は、各委員から意見を求めた後、論点項目における「制度的基盤」と「人的基盤」の2つの大きなテーマのうち、「人的基盤」(人的インフラ)についてから審議をはじめることを表明しています。同会長は、人的インフラとして、具体的には「司法の拡充」と「法曹養成」をあげましたが、これは法曹人口の増大を審議の冒頭のテーマとするものです。佐藤会長は、審議の順序をこのようにする理由として、以下のような認識を示しています。
 「司法の拡充というのは、一見すると行政改革の方向と違う方向のように見えますが、根本はむしろ行政改革の趣旨を発展させることなのです。そういう観点から司法の拡充というのが、非常に重要だと思います。基本的な認識として、そのことをまず私どもの出発点とすべきではないかと思っているわけです。」
 同会長が言う「行政改革」とは、「事前規制型社会から事後チェック型社会への転換」を指しており、同会長はここで規制緩和に伴う法律紛争の処理機関としての司法の拡充を強調しているのです。ここには、行政改革=規制緩和が価値の高いものとして積極的に評価し、こうした政策実行の延長としての「司法の拡充」の観点ばかりが強調され、国民の人権救済、国民のための司法の実現という観点が欠落しています。しかし、佐藤会長のこの認識は、論点整理が委員の全員一致であることが示すように、審議会の基本方向なのです。
しかし、すでに「はじめに」で述べたとおり、規制緩和は弱肉強食の一面的な競争原理万能路線としてわが国では進められ、ルールなき資本主義日本の状態を一層悪化させているのです。審議会は、今や多くの国民の目に明らかになっているこうした現実に目を向けていません。このことは審議会の審議の重大な問題点だといわなければなりません。しかも、規制緩和によって生じる「弱者」−例えばリストラ合理化で激増している被解雇者や非正規雇用で無権利状態におかれているパート・派遣労働者らの権利救済を強化するための裁判の改善策は提起されていません。労働・公害・薬害裁判などにおける挙証責任の転換の法理の導入なども論じられていません。これでは「事後チェック」にもならず、「セーフティネット」もないことになります。「弱者」は司法改革から取り残されることになってしまうのですが、審議会はこうした重大な問題について論議しておらず、設置法の趣旨や国会の附帯決議に照らして極めて不十分であると指摘せざるを得ません。

4 裁判と裁判官のあり方に対する審議が不十分

 これまでの審議では、裁判の現状、特に裁判内容の調査、裁判官のあり方に関する議論が不十分といわざるを得ません。
 第11回会議では、「国民がより利用しやすい司法の実現」「国民の期待に応える民事司法の在り方」についてについて論議されました。しかし、右テーマについてリポートした竹下守夫会長代理の報告は、「裁判所へのアクセスの拡充」(具体的には、訴訟費用の負担の軽減、法律扶助の拡充、裁判利用相談窓口の設置、裁判所の管轄・配置、開廷日の柔軟化)、「民事裁判の充実・強化」(審理期間の制限、裁判官・弁護士の増員など)「専門的知見を要する事件への対応」(専門参審等)、「裁判外紛争処理」などでした。
 本来、利用しやすい司法にするためには、裁判所へのアクセスだけでなく、裁判そのものが国民の期待に応える内容になっていることが不可欠です。いくら、アクセスが容易になり、迅速になっても肝心の裁判が国民の期待に応えないものでなければ、国民は裁判を利用しません。竹下会長代理の報告は、国民が期待する民事裁判のあり方のごく一部を捉えたにすぎず、もっとも重要な裁判の内容にまったく触れていない一面的なものでした。
 この報告に対し、中坊委員が次のような批判をしていますが、これは審議会の基本的な意見対立を示す象徴的な発言です。「今の裁判というものが何故利用しにくい、あるいは期待に応えていないかということについては、やはり裁判沙汰という言葉があるように、少なくともそのひとつとしては、・・問題は官僚制にあった・・。そこに対する今日の竹下先生のこのお話を承る範囲で、全くその視点が抜けて、国民を納得させるために何をしてきたか。何が今必要なのか。何故、国民が裁判沙汰と言うのか、裁判沙汰というのは、裁判内の常識と裁判外の常識が余りにも乖離があり過ぎる。・・官僚制ということから問題はあるのかないのかという視点をこめたご報告であればいいと、私はそう思います。」
 これに対し、竹下会長代理は、中坊委員の指摘は「法曹一元の問題」であるとし、官僚司法の問題は法曹一元の論点の際にとりあげればいいとして議論を避け、結局、佐藤会長は「中坊委員のおっしゃったような深い問題は、これから議論すること」として議論を切り上げてしまいました。
 結局、「国民がより利用しやすい司法の実現」「国民の期待に応える民事司法の在り方」のテーマでの審議では、裁判内容、裁判官のあり方はほとんど論議されませんでした。わずかに、連合出身の高木剛委員が、同テーマでユーザーの立場からリポートをした際、労働裁判における判決を批判した程度です。高木委員は、第21回の会議で、ナショナル・ウエストミンスター事件を例に、東京地裁労働部の裁判が解雇は原則として自由であるとしてリストラの風潮をあおるよう判決を続けて出していることを取り上げ、「それじゃ、もうそんな裁判所にさばいてもらったってしょうがいないと思うようになる」と批判し、裁判の内容が国民を司法から遠ざけていると事実をもって示しました。これに対して、佐藤会長が「高木委員の問題提起の趣旨については、迅速な解決を可能にする仕組みを考えようと言う点では審議会として一致しているのではないか」と締めくくり、議論の深入りを避けています。高木委員のリポートには労働裁判所の設置等迅速な処理を提案している部分があり、その部分のみに論点を矮小化しています。
 審議会では官僚裁判官の弊害やその改革のあり方は「法曹一元」問題の一部とされ、この論議は本年8月の集中審議に持ち越されました。集中審議は、8月7日、8日、9日の3日間行われ、法曹一元については8日の一部と9日に行われました。
 この時は、佐藤会長が「国民が求める裁判官像とは(求められる資質・能力)」について報告した後討議に入っていますが、論議では「裁判には情も加味されるべき」「裁判官には温もりのある者が期待される」あるいは「裁かれる立場の経験が重要」などという抽象的な発言が多く、最高裁を頂点とする裁判官統制の実態や官僚制裁判による常識と乖離した判断、あるいは行政追随の判決など現に発生している問題は十分議論されていません。なおこの点については第2で詳しく述べます。

5 現在の中央集権的な官僚裁判官制度の問題点の認識が不可欠

 私たちは、現在の裁判所や裁判官の抱える問題の原因が最高裁事務総局による中央集権的な裁判官統制と裁判官不足による裁判官の負担過重にあり、司法の現状を改革するためには法曹一元や陪審制の導入による抜本的改革しかないと考えます。私たちがそう考える理由は以下のとおりです。
 第1に、国民がより利用しやすい司法、民事裁判のあり方と裁判内容、裁判官のあり方とは密接不可分の関係にあります。官僚裁判官制度が行政事件での行政追随判決を生み、そのことが国民に司法に救済を求めることを断念させ、司法を利用しない現状を形成する要因になっていることは動かしがたい事実です。
 私たちは零細企業の団体や労働組合などの要請で、各地で「無料法律相談」活動に参加しています。そこでは、しばしば実質赤字になるような低い費用で事件を受任しています。しかし、にもかかわらず、本来裁判で救済されるべき問題が当事者の「あきらめ」によって司法的救済を断念せざるを得ない実情を目の当たりにしています。このような現状は、弁護士の増員や弁護士へのアクセスの拡充によって改善されるものではありません。現在の最高裁による中央集権的管理のもとで、具体的事件での妥当な解決の創造的探求よりも最高裁判決と実務の先例・慣行にこだわる裁判官、裁判官不足のため300ないし400件もの事件を抱え、丁寧で充実した審理と適切な解決よりもいかに早く事件を終らせるかに汲々とする裁判官の現状では、「裁判を起こす気になれない」−これが一番大きな原因なのです。
第2に、法曹一元や陪審制の是非を論じる場合にも、その前提として現在の官僚裁判官制度がどれだけ国民を裁判から遠ざけているかを正確に認識していなければなりません。裁判の現状、官僚裁判官による裁判がいかなるものかの検証なしに、法曹一元の必要性の判断(単に、裁判官の給源や任用基準の改善で事足れりとするのか、官僚制そのもの廃止=判事補制度の廃止にまで進むのか)は本来できないはずなのです。裁判の内容の批判的検討に踏み込まないことは、裁判所の抜本的改革を回避することになります。
 以上により私たちは、今後審議会が、現在の裁判所・裁判官が抱える問題点とそれを生み出す官僚裁判官制度の弊害について十分な審議を行うことを求めます。

6 現在の裁判と裁判官の実態を把握するための努力を行うべきである

私たちは、審議会が今後裁判所・裁判官の抱える問題点とそれを生み出す官僚裁判官制度の弊害について十分な審議を尽くすためには、まず事実をよく調査し事実に基づいて審議を行うことが重要だと考えます。この点で審議会は、裁判所・裁判官の抱える問題点に関する資料・情報収集が決定的に不足しています。
 審議会は民事裁判を経験した国民を対象に利用者アンケート調査を9月に実施し、10月に調査結果を発表する予定であるとしています。これは16箇所の地方裁判所(札幌、秋田、福島、前橋、東京、富山、甲府、静岡、大津、大阪、松江、岡山、松山、福岡、宮崎、那覇)の民事訴訟事件のうち、6月5日から14日(東京、大阪両地裁)又は23日(上記のうち東京、大阪両地裁以外の地裁)までの間に判決や和解等で終了した事件の当事者(原告及び被告)の中から、審議会が選んだ者を対象とするというものです。
 これまで裁判の当事者に対するこのような調査が行われていなかったことからすれば重要な取り組みであるといえますが、期間、地域、事件内容(民事事件に限定)対象者等調査対象が限定され不十分です。しかも、こうした調査が審議の開始に先立って行われるのではなく、審議途中(中間報告直前)になって行われ、各委員が審議の前に十分検討する時間さえ保障されていません。これでは折角行った調査の意味を失わせるものなってしまいます。
 また、地方公聴会が7月までに4回開催されており、冤罪被害者、元裁判官、公害被害者などから裁判所や裁判官のあり方に対し事実に即した批判が寄せられています。これらの意見についても聞きっ放しにせず、審議会の審議に反映させるような工夫が必要だと考えます。
 さらに、裁判の現場で苦労している現職裁判官や元裁判官から意見を聞くことも必要だと考えます。裁判や裁判所の現状を踏まえた改革をするべきことは現職裁判官の要望でもあります。日本裁判官ネットワーク第3回シンポジウムでは、「改革審議に現場の裁判官の声を聞いてほしい」との要望が出されています。同シンポでは「裁判官は疲れている」「裁判官は少なすぎる」「裁判官人事の中央集権を廃し地方へ分権を」など最高裁事務総局を中心とした中央集権的裁判官統制への強い批判がなされています。裁判の現場で働く裁判官から裁判の現状を批判し、憂慮する声が上がっているのです。こうした声に耳を傾けず、裁判や裁判官の現状を踏まえない司法改革は改革の名に値しないと言っても過言ではありません。審議会は裁判官の「強力な管理者」である最高裁の意見を聞くにとどまらず、現場の裁判官の「生」の声を聞いて、現状をリアルにつかむことから出発すべきなのです。
 衆議院法務委員会の附帯決議4項は、「審議会は、その審議に際し、法曹一元、法曹の質及び量の拡充、国民の司法参加、人権と刑事司法との関係など司法制度をめぐり議論されている重要な問題点について、十分に議論すること」としています。したがって審議会は、裁判と裁判官の現状についての実態の把握に努め、実態を踏まえた上であるべき改革の方策について十分な審議を尽くすことを求めます。

7 これまでの取りまとめで抜け落ちている点

審議会のこれまでのとりまとめでは、多くの重要な論点が抜け落ちています。「国民が利用しやすい司法の実現」「国民の期待に応える民事司法の在り方」「国民の期待に応える刑事司法の在り方」のとりまとめには、現実の裁判の内容、裁判官のあり方に関する指摘はまったくありません。審議会はこの問題を法曹一元の問題の一部として議論していますが、裁判の内容や裁判官のあり方の問題と国民が利用しやすい司法などのテーマとは密接に関連するのであり、両者を切り離して審議することは適切ではないと考えます。
 たとえば、労働裁判についても高木委員が指摘した東京地裁労働部の労働者の権利を省みない判決を行った裁判官の問題点は抜け落ち、労働委員会の救済命令を裁判所がひっくり返す事例が続いている問題についても、こうした事例を数多く生んでいる現在の裁判のあり方が、労働者の切実な権利の救済に照らして、また国民の常識に照らして妥当なのか、そこに改善すべき問題はないのかについてはまったく立ち入らず「事実上の5審制の解消」に問題を限定しています。
 また、官僚司法制度のもとで違憲立法審査権の行使がきわめて消極的である問題については、論点整理で「行政・立法に対する司法のチェック機能を充実させる方策について検討する必要がある」と記載され、取りまとめでも「司法の行政に対するチェック機能の強化という視点からの改革は不可避であることについて意見が一致し、具体的な改革の在り方については別途検討する」とされたに過ぎません。この問題も裁判の内容や裁判官の在り方と密接に関連する問題であり、両者を有機的に関連付けて初めて的確な改革の方策を打ち出すことができます。
労働裁判や行政裁判に関する改革については中間報告後に審議する予定であると聞いていますが、その審議に当たっては、まず裁判の内容や裁判官の在り方を十分に踏まえた上で現状の把握とその原因の分析を正確に行い、その上で抜本的な改革を打ち出すことを要求します。
 その他、法曹一元や国民の司法参加に関するとりまとめを見ると、いずれも曖昧で解釈に幅のある表現が多く使われ、審議会が今後どのような改革を打ち出すのか明確でありません。それが現時点での委員の間の意見の対立を反映したものであるのかも知れませんが、本意見書の第2、第4で詳しく述べるように、今後審議を尽くした上で法曹一元と陪審制の導入を明確に打ち出すことを強く求めます。

第2 法曹一元の実現に向けて

1 審議会の取りまとめ

 審議会は、8月8日、9日の集中審議で法曹一元について審議しましたが、そこでの取りまとめ結果について佐藤会長は8月9日の記者会見において、「法曹一元という言葉は多義的であり、この言葉にとらわれることなく(中略)、21世紀日本社会における司法を担う高い質の裁判官を獲得し、これに独立性をもって司法権を行使させるため、これを実現するにふさわしい、各種さまざまな方策を構築すべきことに異論はなかった。」と発表しました。
 さらに、今後の制度構築の方向性について、「裁判官の給源、任用方法、人事制度のあり方につき、給源の多様化・多元化をはかることとし、判事補制度を廃止する旨の意見もあったが、少なくとも同制度に必要な改革を施すなどして高い質の裁判官を安定的に供給できるための制度の整備を行うこと、国民の裁判官に対する信頼感を高める観点から、裁判官の任命に関する何らかの工夫を行うこと、裁判官の独立性に対する国民の信頼感を高める観点から、裁判官の人事制度に透明性や客観性を付与する何らかの工夫を行うことなどについて、大方の意見の一致をみた」としました。

2 夏の集中審議での審議状況

 両日の審議では、「法曹一元」導入の是非という形での議論の進め方ではなく、法曹一元制度が裁判官の給源、任用方法、人事制度に関連する問題であることから、そのそれぞれの点について現在の官僚裁判官制度の抱える問題点について議論されています。審議状況を見ると、現在の官僚裁判官制度が大きな問題を抱えていると評価しその抜本的改革を指向する委員と現状を概ね肯定的に評価し部分的な手直しで十分であると考える委員とに意見が分かれているように思われます。そしてそのことが法曹一元導入に対する意見の違いに反映していると考えられます。
 第1でも述べ、また第3でも再び触れますが、現在の日本の裁判所では、最高裁事務総局を中心として極めて中央集権的な裁判官統制が行われています。それに裁判官不足による現場の裁判官の負担過重があいまって、個々の事件における具体的な妥当な解決よりも最高裁判例や実務の先例に追随する傾向が著しく、個々の裁判官の独立が危機に瀕していると私たちは考えています。そして何人かの委員が、日本の裁判所の現状に対して私たちと同様な問題意識を持ち、夏の集中審議の中でその点を指摘する発言を積極的に行っていることを心強く思いました。
 たとえば高木委員は、キャリアシステムの現状が裁判官の独立に不当な影響を及ぼしているのではないか、任用、人事(評価)、給与体系の実態が極めて閉鎖的になっている。また裁判所という組織・機構を防衛するために、政治的中立性の名の下に個人の裁判官を組織の中に封じ込め、あるいは統制し、その独立性を侵していると感じられると発言しています。
 裁判官の給源に関しては、判事補制度の是非について委員の間で激しく意見が対立しましたが、判事補が裁判官のほとんど唯一の給源となっている現状を改善する必要があること、従って裁判官の給源の多様化・多元化を図ることで委員の間で意見が一致した点は評価できると考えます。
 裁判官の任用方法に関しては、@下級審裁判官の任用が最高裁の指名した者の名簿に基づいて内閣が任命することになっているが、最高裁の裁判官会議が形骸化しているため実際には最高裁長官と最高裁事務総局がすべて作成している、これを改善し国民とのつながりを実質化すべきこと(中坊委員、鳥居委員、吉岡委員)、A最高裁判事の任命や国民審査のあり方についても見直すべきこと(高木委員、吉岡委員)、B裁判官の頻繁な転勤が裁判に悪影響を与えていること(吉岡委員、中坊委員)などが何人かの委員から指摘されました。
 裁判官の人事制度に関しては、@最高裁長官と最高裁事務総局が事実上すべての人事権を行使しているが、行政官と同じようなこのような人事の在り方が裁判官人事の理想に照らして疑問であること(鳥居委員)、A客観性・透明性を確保する必要があること、B裁判官に対する人事考課を透明化し本人への告知もすべきこと(高木委員)などが指摘されました。
 何人かの委員の奮闘によって、日本の裁判所の在り方を歪めている問題点が審議会で議論され、取りまとめにおいても今後その点の見直しを行うことが確認されたことは裁判所の改革にとって大きな意義を持っていると考えます。

3 法曹一元導入を明確に打ち出すべき

 前述したように、私たちは8月8日、9日の法曹一元に関する審議は裁判所の在り方の改革にとって一歩前進したと考えますが、他方で、残念ながら判事補制度を廃止し、裁判官の主たる給源を弁護士とする法曹一元制度を導入する点については委員の間で意見の一致を見ず、取りまとめには盛り込まれませんでした。集中審議後の佐藤会長の記者発表でもその点は曖昧です。
 今後審議会は10月31日に法曹一元について再度審議の上取りまとめを行う予定ですが、私たちは、現在の裁判所の抱える根深い問題を改革するには、判事補制度を存続させたまま弁護士任官を増やすというような官僚的裁判官制度を前提とした方策では不可能だと考えます。それを改革するには、判事補制度を廃止して裁判官の給源を主として弁護士とし、かつ、裁判官の任用及び人事の在り方を裁判官の独立に十分配慮したものに改めること、すなわち法曹一元制度導入を明確に打ち出すことが必要不可欠だと考えます。なお、夏の集中審議でも議論されたその他の各論的な制度改革の方策についての私たちの考えは第3で述べることとします。
 ところが今回の夏の集中審議では、臨司意見書で確認された法曹一元の意義についてすら委員の間で意見の一致を見ず、また、1964年の臨司意見がいまだ整備されていないとした「制度実現のための基盤となる諸条件」がその後36年を経てどの程度整備されたかを議論した様子も見受けられません。
 しかし、審議会は、自ら作成した論点整理の中で、「臨司意見書の趣旨とその後の努力の成果を踏まえ」裁判官制度の在り方について検討することが必要であると確認しています(Vの3の(2))。従って審議会は、法曹一元制度を「一つの望ましい制度である」として評価した臨司意見書の趣旨を踏まえること、そして法曹一元「制度実現のための基盤となる諸条件」の整備状況について真摯に審議することがその役目であるといわざるを得ません。そして審議の中で中坊委員も指摘したとおり、臨司意見書後弁護士人口は3倍近くに増加し、その他の諸条件もかなり整備されて来ました。すでに法曹一元導入の機は熟しているといえます。もし仮にいまだ不十分な点があったとしても、それは法曹一元導入という基本的方針のもとで今後計画的に整備していく課題に過ぎません。
 もし万が一審議会が最終的に法曹一元を導入しないとの結論を出した場合、それは、法曹一元制度を「一つの望ましい制度である」とした1964年の臨時司法制度調査会意見書からも後退したものと言わざるを得ません。鳥居委員が発言したとおり、法曹一元について突っ込んだ議論をした臨司意見書を「乗り越える改革の議論」をするのが審議会の任務であり、「これより手前で止まったら」、司法制度「改革」審議会の名に値しません。
 また審議会が、法曹人口の大幅増員、そのために必要な法曹養成制度、弁護士のあり方などを検討してきた際にも、それらが法曹一元実現のための基盤整備としての一面を有すると位置付けてきたはずです。そのことは論点整理の中で法曹一元が法曹人口、法曹養成、弁護士の在り方などと関連していることを確認していることからも明らかです。

4 一部委員の姿勢と今後の審議の進め方について

 審議会設置法案の国会審議の際、衆議院法務委員会は、「審議会は、その審議に際し、法曹一元(中略)など司法制度をめぐり議論されている重要な問題点について、十分に議論すること」との附帯決議を挙げています(同4項)。また参議院法務委員会も、「法曹一元(中略)等の基本的施策を調査するにあたっては、基本的人権の保障、法の支配という憲法の理念の実現に留意すること。特に、利用者である国民の視点に立って、多角的視点から司法の現状を調査、分析し、今後の方策を検討すること」との附帯決議を挙げています(同2項)。
 以上のように国会は審議会に対して法曹一元の導入について十分な審議を尽くすことを求めています。
 ところが夏の集中審議を見ると、裁判官出身の藤田委員などは、現在の裁判官が国民の信頼を得ていないとか、世間知らずの非常識との批判を受けていることに対して、「どうしてそういうような批判を受けなければならないのか。」「エリート意識で、実際の社会経験なしに裁いているんだということは、果たして実態に合っているのかどうかと、現場の若い裁判官たちは訴えているわけであります。」「判事補制度があるから裁判所が国民の信頼を失っている、あるいは判事補は世間知らずの非常識だとか、エリート教育で固まっていて、庶民の心情を理解できないとおっしゃるけれども、もうちょっと実態をよく見ていただきたいと現場の若い連中が申しておりますので、この連中の気持ちは、ぜひ私としてはお伝えしなきゃならんと思いまして」などと発言している。
 ここには国民からの批判に謙虚に耳を傾けるという姿勢は一切なく、法曹一元導入について十分に議論することが審議会委員としての務めであることも忘れ、ひたすら裁判所の利益代表として現在の裁判所を擁護する態度しか見受けられません。このような一部委員の「頭から法曹一元反対」という態度は、設置法案に対する衆参両法務委員会の附帯決議にも、また、審議会が作成した論点整理にも明らかに反するものであり、審議会委員として不適格と言わざるを得ません。そのような委員の意見に引きずられて審議会が「委員の間で意見の一致を見なかった」として法曹一元導入を先送りする中間報告を出すようなことなく、審議会設置の趣旨にのっとり法曹一元導入を明確に打ち出すべきです。
 なお、私たちは、夏の集中審議の中で高木委員が指摘したように、最高裁判事の構成の問題、裁判所の運営の問題、裁判官会議の形骸化の問題、最高裁事務総局の問題など現在の裁判所の司法行政が抱える問題点や最高裁判所を初めとする裁判所の機構の問題について審議する機会を設けるべきであると考えます。その審議を通じて現在の日本の官僚裁判官制度の実態、とりわけ、最高裁事務総局によって中央集権的に統制され裁判官の独立が危機に瀕している実態を正確に認識し、裁判所の現状を改革するには部分的な手直しでは不可能であり、法曹一元導入という抜本的改革によるしかないとの結論に到達することを求めます。

第3 裁判官に対する中央集権的官僚統制の廃止、裁判官の独立の確保

1 中央集権的官僚統制の実態とその弊害

 審議会において、現在の裁判官の給源・任用・人事制度に問題があるとの意見が一部の委員から出され、今後あるべき裁判官制度について審議検討することになった点は評価します。今後この点について今後十分な審議を行い、中間報告では具体的な改革の方策を提案することを求めます。
 陪審制が導入された場合にも職業裁判官は審理の進行役・法的問題の判断者としてその役割は依然重要であり、そのあり方について改革を進めていく必要がありますし、法曹一元が実施されるまでの間、現在の裁判官制度の抱える問題を放置することも出来ません。
 また審議会設置法案に対する衆議院法務委員会の附帯決議6項も、「審議会の調査審議と並行して(中略)裁判所の人的・物的拡充に努めるとともに、既に一定の方向性の示されている法律扶助制度等の諸制度の充実を図ること。」としています。
 従って、法曹一元・陪審制という抜本的な改革について審議しながら、同時併行で今すぐできる裁判官制度の改革は直ちに進めるべきです。なお、審議会が法曹一元の導入の代わりに現在の裁判官制度の部分的手直しをすることによって裁判官制度改革を終らせるつもりでならば、それは大きな誤りです。両者は同時併行で進められるべきものです。
 審議会が法曹一元や裁判官制度のあり方について審議するに当たって、現在の裁判官制度の実態と問題点について充分調査し認識することを求めます。残念ながら審議会の取りまとめの内容は非常に曖昧であり、現在の裁判官制度にどういう問題があると審議会が考えているのかが見えてきません。そのため審議会が改革の方策として挙げている「裁判官の給源の多様化・多元化を図る」、「裁判官の任命に関する何らかの工夫を行う」、「裁判官の人事制度に透明性や客観性を付与する何らかの工夫を行う」というその具体的内容・方向性が全く明確ではありません。
 従って審議会は、中間報告においてはまず、現在の日本の裁判官制度のどこにどのような問題点があるのかという認識を明確にした上で、それを改革するための具体的方策を明確に打ち出すべきです。
 現在の裁判所制度の抱える問題の根本的な原因は、前述のとおり、職業裁判官制度を採用し国民的基盤が存在しないという点に加えて、最高裁、具体的には最高裁事務総局という特権的司法官僚が他の裁判官に対して、人事権、裁判官会同・裁判官協議会などあらゆる制度を利用して官僚的統制を強め、極めていびつな中央集権的官僚裁判官システムを作り上げたことにあります。
 そしてそのことが裁判内容にまで大きな弊害をもたらし、極度に政府や企業側の立場に立った判断内容、事件の具体的な適切な解決よりも最高裁判決や先例を盲従する傾向を生んでいます。
 映画『日独裁判官物語』などを見ても、同じ職業裁判官制度を採用しているドイツと比較した場合、日本的官僚裁判官制度の持つ異常さは明らかだと思います。

2 具体的な改革要求

 従って、法曹一元、陪審制の導入という抜本的改革とともに現在の日本の中央集権的官僚裁判官制度の改革のために以下のような今すぐにでもできる制度改革を同時併行で行っていくべきです。審議会は、この点について今後検討すると明言した以上、中間報告においては具体的に踏み込んだ改革の方策を出さなければならないと考えます。
 以下、私たちが考える改革案を述べます。

(1) 司法行政のあり方の改革

a 裁判官の任命制度の改革

 任命手続の透明化、採用基準の公開・客観化、不採用の場合の理由の本人への通知・説明と異議申立手続の整備など行うべきです。

b 裁判官に対する勤務評定の改革

 勤務評定手続の透明化、評価基準の公開・客観化、評定結果の本人への通知・説明、不服申立手続の整備などを行うべきです。

c 裁判官に対する差別的・恣意的人事の改革

 現在問題となっている判事3号俸以上の昇給における差別、任地・配属差別をなくすため、裁判官の昇給・転任・配属などの人事の決定手続の透明化、昇給・転任・配属などの基準の公開・客観化、本人への事前に意見を述べる機会の保障、不服申立手続の整備などを行うべきです。
 また後述のとおり、人事権を最高裁事務総局が全面的に掌握している現状を改革し、各下級裁判所の裁判会議の権限とすることなども必要です。

d 裁判官に対する様々な統制の改革と市民的自由の保障

 過剰なまでの裁判官に対する統制・規制を改革し、裁判官が市民的自由を享受し得る環境を作るよう配慮することが必要です。

(2) 最高裁判所の機構改革

a 最高裁判事の人選のあり方の見直し

 最高裁判事の人選手続の透明化、人選に国民の声が反映される制度の整備を求めます。

b 最高裁裁判官の国民審査のあり方の改革

 現在の最高裁裁判官に対する国民審査制度には、国民にとって審査対象の裁判官に関する情報がほとんどない、それにもかかわらず積極的に×印を付けない場合(つまり白紙投票)にはすべて信任と扱われるなどの問題点があります。
最高裁裁判官に対する国民の民主的コントロールを充実するため国民に分かりやすい制度とする必要があります。具体的には、審査対象の裁判官に関する情報提供を充実させること、信任票と棄権投票とを区別できる制度にすることなどを検討すべきです。なお、棄権投票が多い結果生じる弊害を理由に現状を肯定する意見もありますが、国民審査の重要性に鑑みれば、防止策については別途講じることとすべきです。

c 最高裁調査官制度の見直し

 最高裁調査官は最高裁判事の判断に非常に大きな影響を与えていると言われていますが、調査官にエリート裁判官を当てるという現在の制度では、最高裁の判断がどうしても今の裁判所実務を前提にしたものとなりがちです。
そこで調査官の人選を裁判官以外にも広げること、調査官を個々の最高裁判事のスタッフとして充実させることなどを検討すべきです。

d 最高裁事務総局の廃止と裁判官会議の復権

 本来事務総局は裁判の裏方として庶務的仕事に従事するための部署だったはずです。それが人事権などの大きな権限を持ち、事務総局への異動が出世コースと見なされるようになっています。
 従って、人事権等の権限は最高裁及び各高裁・地裁・家裁・簡裁の裁判官会議に属することを改めて確認し、現在の最高裁事務総局は廃止すべきです。裁判の裏方としての庶務的仕事については、そのための権限に限定した部署を新設し、そこには裁判官以外の裁判所職員を当てるべきです。

e 裁判官会同、裁判官協議会のあり方の見直し

 これまでの内容を公開するとともに、今後は、最高裁事務総局が参加者を一方的に決めている状況からすべての裁判官に開かれたものとし、かつ、内容を裁判所外にも公開することが必要です。

f 判検交流の廃止

 裁判官が法務省に出向し、国を当事者とする訴訟で国側代理人を務めたり、検察庁や国税不服審判所で国側の立場の職務に就くいわゆる判検交流は一刻も早く廃止されなければなりません。

(3) 裁判官及びその他の裁判所職員の大幅増員

 現在の裁判官制度のもうひとつの大きな問題は、極端な裁判官不足による裁判官の負担過重です。1人の裁判官が300件ないし400件もの事件を抱え日々事件処理に追われているため、裁判官は、一つ一つの事件を丁寧に審理し、当事者の言い分を充分に聞いて、その事案に即した適正な解決に心を砕くよりも、どうしても、いかに早く事件を処理するかに心を奪われる拙速主義に陥っています。
 このことが国民から見た場合、「不親切でずさんな審理しかしてくれない裁判所」、「事件の真相を見極めようとせず表面的な判断しかしない裁判所」「判例や先例に盲従し、事案の特殊性やその事案における適切な判断を無視する裁判所」「強引に和解を押し付ける裁判所」という不満に繋がっています。
 審議会は、8月8日の集中審議の結果、「計画的にできるだけ早期に、年間3000人程度の新規法曹の確保を目指していく、という方向」を打ち出しました。この年間数値目標は、日本の法曹人口を10数年後にはフランス並みに5〜6万人にするという目標から出てきたもののようです。
 ただ、国民の裁判を受ける権利の充実のためには、単に弁護士のみを大幅増員するだけでなく、裁判官を大幅増員することが必要不可欠です。現在の裁判官の負担過重な状況を一刻も早く改善することはよりよき裁判の実現にとって急務です。
 審議会はこれまでの審議において裁判官の大幅増員を確認していますが、法曹人口を年間3000人増員するとの数値目標を掲げるのであれば、裁判官についても、1年間の増員人数の数値目標を掲げるべきだと考えます。
 また、最高裁が養成を中止した速記官制度の復活・拡充も含め、裁判官以外の裁判所職員の人員増も必要です。

第4 陪審制の実現に向けて

1 審議会の審議状況

 審議会は、2000年9月12日(第30回)、同月18日(第31回)に国民の司法参加について審議を行い、9月26日の第32回審議会で以下の通り取りまとめを行ったと伝えられています。
 「司法の分野においても、主権者としての国民の参加を拡充する必要があり、法曹は、こうした国民とともに、司法を真に実のあるものとして発展させるべき責務がある。」
 「司法制度全体の中で、国民の参加を拡充すべきものと考える。」
 「訴訟手続への参加については、陪審・参審制度にも見られるように、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、訴訟手続において裁判内容の決定に主体的・実質的に関与していくことは、司法をより身近で開かれたものとし、裁判内容に社会常識を反映させて、司法に対する信頼を確保するなどの見地からも、必要であると考える。
 今後、欧米諸国の陪審・参審制度をも参考にし、それぞれの制度に対して指摘されている種々の点を十分吟味した上、特定の国の制度にとらわれることなく、主として刑事訴訟事件の一定の事件を念頭に置き、わが国にふさわしいあるべき参加形態を検討する。」

2 審議会の経過、及び、取りまとめに対する意見

 9月12日(第30回)、同月18日(第31回)の2回の審議では、法曹三者からのヒアリング、3人の「司法ユーザー」委員のレポート、そして意見交換が行われました。  法曹三者では、日弁連が国民の司法参加の観点から陪審制の導入を強く主張したのに対して、最高裁は陪審制導入に強く反対しました(なお法務省は賛否を表明しませんでしたが消極的姿勢が窺えます)。
また「司法ユーザー」委員では、労働組合出身の高木委員と消費者団体出身の吉岡委員が陪審制導入を積極的に主張したのに対して、企業経営者出身の石井委員は強く反対しました。
 これまでの審議での意見の対立状況自体から、誰が国民の司法参加を望み、誰がそれを敵視しているかが明らかになったと言えます。最高裁が陪審制はおろか参審制導入に対してすら反対し、参審員に評決権を与えない名ばかりの国民の司法参加しか提案しなかったという事実に、今の裁判所の国民に背を向けた非民主的・官僚的性格が如実に現れています。
 その点で審議会が今回の取りまとめで、国民が主体的・実質的に司法に参加する方向を明確に打ち出し、最高裁の考えを事実上否定したことは高く評価したいと考えます。
 ただ、国民の司法参加の具体的な制度の内容については、今回の取りまとめが「欧米諸国の陪審・参審制度をも参考にし、それぞれの制度に対して指摘されている種々の点を十分吟味した上、特定の国の制度にとらわれることなく、(中略)わが国にふさわしいあるべき参加形態を検討する。」とし、佐藤会長も記者会見で「陪審制や参審制などの長所短所を検討しながら、よりよき制度を作っていきたい」と述べたように、未だ具体的になっていません。
 今後審議会は11月の中間報告の後、来年5月の最終答申に向けて国民の司法参加の具体的な制度の在り方を審議することになりますが、佐藤会長が記者会見で、国民の判決への関与は「中途半端な関与であってはならない」「国民の参加が形式的なものとなってはならない」と明言していることろを審議会全体としても貫き、国民の司法参加をより徹底した制度である陪審制の導入を基本に据えて今後審議し、その実現を提言することを求めます。
 また、陪審制を導入する対象についても、取りまとめでは「主として刑事訴訟事件の一定の事件を念頭に置き」となっていますが、今後の審議ではこれに限定することなく、裁判所の在り方に批判が強い労働事件や行政事件への導入についても積極的に審議すべきだと考えます。なお審議会は、労働事件や行政事件などについて専門性が強く要求されるとして「専門参審制」を検討することを決めましたが、「専門参審制」には後述のような重大な問題点があること、また労働事件や行政事件における取りまとめが指摘するように「裁判内容に社会常識を反映させて、司法に対する信頼を確保」すべき観点からも、専門参審制の導入については反対です。今後の審議において再考することを強く要求します。

3 陪審制を基本にして国民の司法参加の具体化を図るべきである

 審議会は今後国民の司法参加のための具体的な制度について審議することになりますが、今後の審議においても、陪審制を基本に考えるか参審制を基本に考えるかで委員の間で激しい意見の対立が続くものと思われます。
 しかし、以下に述べるように、これまでの審議を通じて、陪審制が国民の司法参加という点で最も徹底した制度であり、かつ、現時点で充分導入可能であることが明らかになっている以上、審議会は、高木委員や吉岡委員が強調したように、様々な技術的な問題は今後の検討課題とした上で、陪審制を基本にして制度の具体的内容を検討すべきだと考えます。
 第1に、そもそも司法制度改革審議会は、後述のとおり国民の司法参加を充実・拡大するための改革を行うことがその重要な任務のひとつであり、その意味からもより国民の司法参加を徹底した陪審制を基本に据えなければなりません。
 例えば審議会設置法第2条1項は、審議会の所掌事務について、「二十一世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議する。 」と定め、「国民の司法制度への関与」を調査審議すべき重要課題として挙げています。
 また、衆議院法務委員会附帯決議4項は、「審議会は、その審議に際し、法曹一元、法曹の質及び量の拡充、国民の司法参加、人権と刑事司法との関係など司法制度をめぐり議論されている重要な問題点について、十分に論議すること」として、国民の司法参加の課題の重要性を強調しています。
 また、審議会自らが委員の全員一致で取りまとめた論点整理でも、Vの 2 の「(4) 国民の司法参加」において、「 21 世紀の我が国社会においては、国民は、これまでの統治客体意識に伴う国家への過度の依存体質から脱却し、自らのうちに公共意識を醸成し、公的事柄に対する能動的姿勢を強めていくことが求められている。」「主権者たる国民の公的システムへのかかわり方も多面的な広がりをみせようとするなか、司法の分野においても、主権者としての国民の参加の在り方について検討する必要がある。」として、国民の司法参加の重要性を強調しています。
 さらに引き続いて、「現在、我が国では、調停委員、司法委員、検察審査会等の国民の司法参加制度があるものの、司法の中核をなす裁判手続そのものへの参加はかなり限定的である。司法を国民により身近で開かれたものとし、また司法に国民の多元的な価値観や専門知識を取り入れるべく、これら現行制度の在り方について見直すことはもとより、欧米諸国で採用されているような陪審・参審制度などについても、その歴史的・文化的な背景事情や制度的・実際的な諸条件に留意しつつ、導入の当否を検討すべきである。」としています。
 さらに、審議会が行った4回の地方公聴会でも、第1回の大阪では公述人6人中3人が陪審制に言及し、第2回の福岡では6人中4人が、第3回の札幌では1人が、東京では2人が陪審制に触れているように、陪審制導入を求める意見が多数ありました。このことは国民が陪審制に寄せる期待・関心がいかに強いかを明確に示すものです。
 第2に、これまでの審議の中で出てきた反対理由はいずれも導入しない理由とはならないと考えます。
 審議会の中で、「日本人の国民性」や「陪審員の負担が大きい」などを理由とする反対意見がありましたが、そのような理由は国民の司法参加の実現にとって非本質的なものであり、そのような反対意見の存在によって「意見の一致をみない」として陪審制導入を先送りしたならば、自らが取りまとめた司法改革の理念にも背くことになり、審議会の存在意義すら疑われることになります。
 また、最高裁や法務省が主張していた陪審制導入に当たっての技術的な問題は、陪審制導入を決定した上でその実施のための準備過程において克服されるべき問題ですし、十分克服可能です。

4 「専門参審制」はとるべきでない

 「専門参審制」は国民の司法参加のための制度とは到底言えず、「一般市民」とは区別された「専門家」を司法に参加させようという制度に過ぎません。このような制度は裁判に民主的基盤を与えるものでもなく、主権者である国民の常識と社会経験を裁判に生かすものでもありません。
 そればかりか「専門参審制」は、裁判官による心証形成過程を不明確にし、裁判の公正を損なうものです。とりわけ医療過誤事件のように、一方当事者が医療に素人の患者側で、相手方当事者が医師・病院という医療の専門家という当事者相互に立場の互換性のない類型の事件の場合、専門家が裁判に加わることによって専門家である一方当事者に偏した判断が下される危険性が極めて高くなります。
 従って裁判の公正を害する「専門参審制」は導入すべきではなく、専門家の知見を裁判に利用するのは、当事者双方にその意見が公開され、その批判にさらされる鑑定制度によるべきです。
 この点で今回審議会が、労働事件や行政事件など専門性が高く要求される裁判に「専門参審制」導入を検討することを決めた点については反対であり、容認できません。

5 国民の司法参加に対する最高裁の敵意・反感の不当性

 国民の司法参加をめぐる審議を通じて明らかになったことは、最高裁が、国民が司法に参加することに対して敵意ないしは反感を抱いていることです。高木委員から厳しく批判されたように、最高裁は、「裁判は多数の者の利害や感覚によって左右されるべきものではなく、論理と証拠に基づいた理性的かつ合理的な判断でなければならない」などと述べ、自分たち職業裁判官のみが合理的な判断をなし得るのであり、一般の国民にはそれは不可能だと言わんばかりの意見を表明しています。
 これはまさに愚民思想であり、国民の司法参加を極力排しようという非民主的思想の現れです。国民の司法参加に消極的な最高裁の姿勢は、国民の司法参加を重要な審議課題とした司法制度改革審議会設置法2条1項や国民の司法参加について充分に議論することを求めた衆議院法務委員会附帯決議4項にも反するものです。
 私たちは最高裁のこの姿勢に、大多数の国民から遊離し、行政や大企業など社会的強者に偏する今の中央集権的官僚裁判官制度の問題点が如実に現れていると考えます。この事実からも、法曹一元と陪審制を導入し、現在の国民から全く遊離した官僚裁判官制度を抜本的に改革する必要性が明らかになったと考えます。

6 現在の裁判のあり方に対する最高裁の無反省

 審議を通じて明らかになったもう一つの事実は、最高裁が現在の裁判のあり方を無批判に肯定し、その維持・存続に汲々としていることです。
 最高裁は、陪審制は誤判の危険性が強い、「陪審員の判断はしばしば不安定であり、かなり高い比率で誤判が生じている」と非難する一方、現在の職業裁判官による裁判を「真実を解明し、その結果を国民の前に明らかにすることが期待され、それに向けて審理と判断が行われている裁判」などと手放しで自画自賛しています。ここには、現在の裁判に対する多くの国民からの批判に耳を傾ける姿勢も、現在の裁判所・裁判官のあり方を改革しようという問題意識も微塵もありません。
 しかし現在の裁判は、最高裁が自画自賛したように、真実を解明しているでしょうか。その結果を国民の前に明らかにしているでしょうか。国や地方自治体を相手とする行政事件における国民の側の極端に低い勝訴率、たった1度残業命令を拒否したことを理由とする解雇や小学生を抱える女性労働者が家族と別居し単身赴任せざるを得なくなる遠隔地への配転命令すら有効とする労働事件での使用者側偏重の姿勢、警察官による証言を鵜呑みにし、捜査の違法に対してはあらゆる論理を使って救済しようとする刑事事件での必罰主義、被疑者・被告人の人権の軽視、そしてその結果として、死刑囚に対する4度もの再審無罪判決に象徴される冤罪を生む現在の刑事裁判など、現在の裁判には数多くの問題が存在します。
 陪審制はその問題に対する改革の方策として提案されたものですが、今回の最高裁の意見表明で明らかになったことは、最高裁には現在の裁判のあり方に対する反省や問題意識は全く欠如しており、そのような最高裁に裁判所改革を期待することは不可能だということです。従って、現在の裁判制度を抜本的に改革する法曹一元と陪審制を導入するしか改革の道はありません。

第5 「国民の期待に応える刑事司法のあり方」について

1 審議経過と問題点

審議会において、刑事司法については、「国民の期待に応える刑事司法の在り方」というテーマの下、水原委員(4月25日・第18回会議)、高木委員(7月11日・第25回会議)、山本委員(7月11日・第25回会議)の各レポートがなされ、第26回会議(7月25日)において、日弁連・最高裁・法務省からのヒアリング及びこれに基づく意見交換、第27回会議(8月4日)において、その取りまとめに向けた意見交換が行われました。
その後、9月26日付けで、「『国民の期待に応える刑事司法の在り方』に関する審議結果の取りまとめ」(以下「取りまとめ」という)が公表されています。
 既に述べたように、すべてのテーマについて共通することですが、刑事司法(裁判)についての改革を検討するにあたっては、現状の刑事司法の実態を十分に把握しその問題点を摘出し、その上で改革の方向性が議論されなければならないことは当然です。個別には実態を踏まえた上で意見を述べている委員もいますが、審議会の全体の議論においては、こうした実態把握がまったく不十分であると指摘せざるを得ません。
例えばある委員は「『精密司法』と言われる現行刑事司法のあり方は、現在でも国民から支持されているものと考えている」(山本委員のレポート)という認識を示しているのに対し、別の委員は「新刑訴の運用については、憲法・刑訴法の理念から著しく隔たったものになり・・・当事者主義等の形骸化が進み、まさに『死んでしまった』と受けとめられている」(高木委員のレポート)という認識を示しています。こうした根本問題についての認識が180度異なるのは、審議会において、現状の刑事司法の実態の把握が欠落していることに起因しています。
このように刑事司法の現状に対する共通認識もないまま審議を進めても、どれほど実効性のあるものになるかについては強い懸念を抱かざるを得ませんし、後に具体的に述べますが、「意見の不一致」を理由に、改革すべき重要な問題について先送りにされてしまっていることが少なくないのも、実態についての調査と論議不足が大きな原因になっていると考えます。
審議会において、中間報告・最終報告を取りまとめるに際して、今一度、刑事司法の実態を正確に把握された上で、「国民の期待に応える」ための改革の正しい方向性を打ち出すことを強く要望します。

2 現状の刑事司法の実態と問題点

刑事司法の目的は、「公共の福祉の維持と基本的人権の保障をまっとうしつつ、事案の真相を明らかに」する(刑訴法1条)ことにあります。基本的人権の保障のために、刑事手続において適正手続を保障すべきことは憲法上の要請です。したがって、実体的真実の発見と適正手続の保障は、決して並列的なものではなく、あくまでも憲法・刑訴法の定める適正手続の保障の上での真実の発見ということを意味します。これが憲法・刑訴法の予定する刑事司法の姿です。
しかしながら、現状の刑事司法は「絶望的」といわれる程、こうした理念からはほど遠く、被疑者・被告人の手続保障は後景に追いやられているのが実状です。

(1) 捜査のあり方の後進性と令状主義の形骸化

その要因の一つは、捜査機関の捜査のあり方にあります。我が国においては、国際的にも批判の強い代用監獄制度が依然として維持され、逮捕・勾留された被疑者は、基本的に警察のコントロール下に置かれています。そこで、自白偏重の捜査−身柄拘束を利用した自白の強要−が一般化しているのです。すなわち、警察では密室での取り調べがなされ、それを監視するための制度的な保障(弁護人の立会権・テープ録音・ビデオ録画等)は何もありません。また被疑者国選弁護制度がないこと、弁護人との接見交通が制限されること等により、身柄拘束を受けた被疑者が十分に弁護人の援助を受ける保障もないのです。さらに、警察による接見妨害、証拠隠滅、被疑者の権利行使に対する圧力等も依然として後を絶ちません。
本来、こうした捜査機関の活動に対しては、令状主義によって、裁判所が司法的にチェックすることが期待されているのですが、裁判所の令状審査は形骸化し、およそ捜査機関に対するチェック機能は果たされていません。1996年の統計では、裁判所の令状発布に対する却下率の割合は、わずか0・12%ですから、ほとんど捜査機関の請求がフリーパスとなっているといわなければなりません。さらに、起訴後の保釈請求に対しても、権利保釈の除外事由の「罪証隠滅のおそれ」を極めてルーズに解釈するため、被告人が事実を争っているだけで保釈が認められないなど、まさに「人質司法」と呼ばれる実態がまかり通っているのです。

(2) 調書裁判と異常な有罪率

さらに、公判においても、伝聞法則が形骸化し、捜査機関が作成した調書の取調が中心となり、直接主義・口頭主義の要請はほとんど機能していません(いわゆる「調書裁判」)。また、検察官手持ち証拠の開示のための法律上の制度が存在しないため、被告人・弁護人と検察官の武器対等の原則も実現していません。こうした中で、99%を超える異常に高い有罪率が維持されているのです。まさに刑事裁判は「有罪確認の場」と化しているといっても過言ではありません。
 このように自白中心主義・人質司法・調書裁判と呼ばれるのが現在の刑事司法の実態であり、憲法・刑訴法の理念とおよそ懸け離れています。「絶望的」という指摘は、残念ながら的を射ていると言わざるを得ません。そして、何よりこうした実態が、誤判・冤罪を産み出す基礎となっているのであり、その是正・改革は急務です。

(3) 国際人権規約違反

 ところで、こうした我が国の刑事司法の問題点のほとんどは、国際人権(自由権)規約委員会の審査及び勧告において、たびたび指摘されている事柄です。1998年10月の第64会期・国際人権(自由権)規約委員会における日本に対する最終見解では、わが国の刑事司法について、次のように厳しく指摘し、勧告をしています。
「委員会は、未決勾留が警察の管理の下で最大23日まで延長でき、早急に、効果的に司法の管理に入らず、被疑者は23日の間に保釈が許されないこと、尋問の時間や長さを規制する規則がないこと、勾留されている被疑者に対して助言、援助する国選弁護士がいないこと、刑事訴訟法39条第3項の規定により弁護人の接見に重大な制限のあること、取り調べに被疑者の選定による弁護士の立ち会いが認められていないこと、(国際人権B)規約第9条、第10条、第14条に規定された権利が未決勾留について十分保障されていないことに深く懸念する。委員会は、日本の未決勾留制度を規約第9条、第10条、第14条に適合するようただちに改正するよう強く勧告する。」
「委員会は、代用監獄制度は、警察の捜査に関与しない部署の管轄となるとはいえ、別個の管轄ではないことに懸念する。これは規約9条、14条に規定された被拘留者の権利が侵害される機会が増える可能性がある。委員会は、代用監獄制度は規約のすべての要件に適合するように改善することという第3回定期報告書審査後表明した勧告を再度行う。」
「委員会は、刑事裁判での多数の有罪判決が自白に基づいている事案を深く懸念する。強要によって自白を引き出す可能性を除去するため、委員会は警察による拘束下、または代用監獄に拘束されている被疑者の尋問は厳重に監視し、電子的手法で記録することを強く勧告する。」
「委員会は、刑事法では検察側が捜査段階で入手した証拠を裁判において提出する意図を持つもの以外は開示する義務はなく、弁護側が裁判のどの段階においてもこれら証拠の開示を請求する一般的権利がないことに懸念する。委員会規約第14条第3項の保障に従い国は弁護権が妨げられないよう弁護側が関連資料すべてにアクセスできるよう法律並びに規則を整備することを勧告する。」
審議会の論点整理は、「公正な国際的ルールの形成・発展に積極的にかかわっていかなければならない」と述べていますが、我が国の司法の中で、こうしたいわゆるグローバルスタンダードに最も立ち遅れているのは刑事司法の分野です。「論点整理」の立場に立つとしても、我が国の刑事司法に対するこうした国際的な勧告を真摯に受けとめる必要があることは、言うまでもありません。
このようにわが国の刑事司法については、構造的ともいえる問題点が随所にあり、改革すべき点は多岐にわたっています。そして、これらが国際的にも強く非難されているのも前述のとおりです。
以下、こうした刑事司法の実態を踏まえて、審議会で論議された主だった論点について、設置法の趣旨、国会での付帯決議にそった改革論議がなされているかについて、検討していくことにします。

3 被疑者・被告人の身柄拘束に関連する問題

この問題について、取りまとめは「被疑者・被告人の身柄拘束に関連して指摘されている問題点(代用監獄の在り方、起訴前保釈制度、被疑者と弁護人の接見交通の在り方、令状審査・保釈請求に対する判断の在り方)は、現状の評価についても種々の異なった見方があり、個々の論点につき結論を得ることは困難であった」とし、結局これらの点については、すべて問題を「先送り」してまったく手を付けようとしていません。しかし、ここであげられている「問題点」は、先に述べた「人質司法」の内容そのものであって、現在の刑事司法の病理の一つの中核をなす問題点です。先に述べた国際人権(自由権)規約委員会からも厳しくその改善を指摘されている事柄です。こうした重要問題について、審議会が「結論を得ることは困難」として切り捨てる態度は、現状を追認することにほかならず、その任務を放棄するもので、私たちは到底容認することはできません。
代用監獄の廃止、起訴前保釈制度の導入、接見妨害をなくすための実効ある措置の導入、令状審査・保釈請求の判断の抜本的改善等は、早急に実現されるべき事柄であり、実効性のある改革の具体的提言を行うことを強く求めます。

4 被疑者の取調べの適正を確保するための措置について

取りまとめは、「被疑者の自白を過度に重視する余り、その取調べが適正さを欠く事例が実際に存在することにつき種々懸念を示す意見があり、・・・それを防止するための方策は当然必要という点において、大方の意見が一致した」としています。こうした認識は当然であり、取調べの適正化を積極的に押し進める必要がありますが、問題なのは、抽象的な論評にとどめずに、そのための具体的方策をどう提案するかです。
 取りまとめにおいては、「取調べ過程・状況の書面による 記録を義務づけることについては最低限必要な措置」であることは特段の異論はなかったとしています。しかし、この程度のものにとどまっているのでは、抜本的改革にはほど遠く「やらないよりまし」程度のものでしかありません。むしろこれだけでは、自白を強要した捜査官自らが、被疑者が任意に供述したという作文による「記録」をすることによって、自白の任意性の争いがより困難になることが、逆に危惧されます。
「このような書面による記録の義務づけでは不十分であるとして、取調状況の録音・録画や弁護人の取調べへの立会いを認めるべきとの意見があったが・・・消極意見もあり、結論を得るに至らなかった」とする取りまとめも、先の「被疑者・被告人の身柄拘束における問題点」と同様、意見の不一致を理由に何も改革をしないということを宣言するものです。審議会のこうした態度は、結局現状を追認するだけのものであり、審議会の任務を放棄するものといわなければなりません。
多くの否認事件では、自白の任意性・信用性が争われ、そのために捜査官と被告人の双方から取調状況に対する供述を求め、また供述内容と他の証拠との矛盾や整合性といった観点から、その任意性・信用性を判断するというプロセスを経ることにより、審理期間が長期化するという弊害もあります。そして、結果として被告人が自白の任意性を争うことが極めて困難になっているのが実状です。
 取調べの適正を確保することは、こうしたことを抜本的に是正することに繋がるものですから、そのためには、取調状況の録画・録音、弁護人の立会が不可欠であり、さらには弁護人選任権の実質化、被疑者への権利告知の実効化のための方策が検討されなければなりません。

5 第1審の審理期間や公判期日の開廷間隔(上限)の法定について

取りまとめでは「第1審の審理期間や公判期日の開廷間隔を法定化することは、審理の迅速化につながる有力な方策であるとの指摘があったが、その実効性に対する疑問や被告人の防御権への影響が懸念が示された」とされています。
裁判が適正かつ迅速に行われることは、憲法上の要請でもあり、当然必要なことです。しかし、刑事裁判においては、被告人が事実を争っているか否か、どのような争点があるのか、当事者や関係者がどの程度いるのか、検察官が手持ち証拠をどの程度開示するのか等々によって、審理の内容は大幅に異なります。
こうした個別事件の特性を無視して、審理期間等を予め法定しておくことは、単なる「拙速化」であって、裁判の充実とは正反対のものです。また被告人に十分な防御の機会を与えることが、被告人の人権を守り誤判を防ぐ上で極めて重要であることはいうまでもありません。したがって審議会で示された懸念は当然であり、このような方策はとるべきではありません。

6 証拠開示について

わが国では、証拠開示が制度化されておらず、国際人権(自由権)規約委員会からも「弁護側が関連資料すべてにアクセスすることができるよう法律並びに規則を整備すること」との勧告を受けていることは先に述べたとおりです。検察官手持ち証拠の開示については、審議会でも「時期・範囲・裁判所の役割を含めルールを法令により明確化し、その拡充を図る必要がある」ということについては「大方の意見が一致した」とされています。
何らかの方法であれ、証拠開示を法令によって制度化することは大きな前進であり、積極的に実現が図られなければなりません。その上で問題となるのは、どの範囲で証拠開示を認めるかにあります。
証拠開示の範囲・方法を巡っては、審議会内部でも厳しい意見の対立があり、第三者の名誉・プライバシーを理由に、開示されるべき証拠の範囲を限定しようという意見も有力に主張されています。
しかしながら、被告人・弁護人と検察官の圧倒的な力の差を考えると、原則として事前全面開示がなされなければ、武器対等の原則は実質化されません。また、現状では、検察官は公判廷で取り調べる予定の有罪立証に必要な証拠しか開示しないため、実体的真実発見の観点に立っても重大な支障があります。こうした中で、検察官の開示すべき証拠を限定的にすることは、証拠開示の実効性そのものを危うくするといわざるを得ません。
検察官手持ち証拠の全面開示を原則として、その中で第三者の名誉・プライバシー保護等の合理的方策が別途検討されるべきです。

7 公的費用による被疑者弁護制度について

(1) 公的費用による被疑者弁護制度導入は急務の課題

公的費用による被疑者弁護制度については、「論点整理」においても「被疑者・被告人に対する公的弁護制度の整備とその条件につき幅広く検討することが必要である」とされていましたが、取りまとめにおいても「(公的費用による被疑者弁護)制度導入の意義・必要性が改めて確認された」とされており、審議会として公費による被疑者弁護制度の導入を提言することは合意事項とされています。
 逮捕・勾留された被疑者段階において、弁護人による援助がなされないために、虚偽の自白を強要されるなどの問題点は古くから指摘されており、そうしたことが冤罪を生む構造的な問題点のひとつとされています。弁護士会では、当番弁護士制度を発足・運用し、自主的にこの問題に対処してきましたが、審議会において被疑者に対する公的費用による被疑者弁護制度の導入に踏み切ったことは、大きな前進として歓迎すべきことです。

(2) 弁護活動に対する権力的コントロールは絶対に許されない

 しかしながら、ここでも問題なのは導入のための具体的制度をどのようにするかにあります。
刑事弁護の基本的な使命は、被疑者・被告人の基本的人権の擁護にあることはいうまでもありません。そのために、必要に応じて捜査機関や検察などの活動をチェックし、憲法・刑事訴訟法等に依拠しながら権力側と対峙していくことは必要不可欠です。こうした自主的で、権力から独立した弁護活動が豊かに展開されてこそ「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかに」する(刑訴法1条)という刑事訴訟の目的を初めて達成することができるのです。したがって、公的費用による被疑者弁護を実施するにあたっても、弁護活動の自主性・独立性を保障するための弁護士自治が不可欠であり、弁護の内容そのものを国家機関が管理監督するようなことがあっては絶対になりません。公費投入の名のもとに、刑事弁護活動が権力によるコントロールを受けるようなことになっては、刑事司法は死滅するといっても決して過言ではありません。
 この意味で、公的費用による被疑者弁護の運用は、これまでの被告人国選弁護制度と同様に弁護士会の自主的運営に委ねられなければなりません。弁護活動の質の確保の問題も、弁護士会の自治に委ねられるべきもので、公権力による「ガイドライン」の制定等の方法によってコントロールを受けてはならないことは先に述べたとおりです。

(3) 弁護活動に対する権力的コントロールを排除する運用を

 この点につき、取りまとめは「運営主体やその組織構成、運営主体に対する監督などの検討にあたっては、公的資金を投入するにふさわしいものとするとともに、個々の弁護活動の自主性・独立性が損なわれないようにすること」としており、具体的にどのような運用をするのかについては明確には述べていません(但し、取りまとめ(案)と比べると弁護活動の質の確保について、弁護士会が責任を持つことを明確にしており、重要な進歩といえます)。しかしながら、審議の中では「運営主体を法務省の監督下に置くべきである」、あるいは「公費投入に見合った弁護活動の評価・コントロールが必要」等の意見も出されているように、「公的資金を投入するにふさわしいもの」という名の下に、弁護活動を権力的にコントロールするシステムと抱き合わせにしようとする指向があることも否定できず、この点に関して重大な危惧を抱かざるを得ません。
先にも述べたとおり、憲法・刑訴法の予定する刑事訴訟の目的を達成するためには、公権力から独立し、時に公権力と対峙する弁護活動が不可欠です。したがって、公費による被疑者弁護制度は、基本的に弁護士会の自主的運用に委ねるべきであり、弁護活動を権力的にコントロールするようなシステムとの抱き合わせは断じて容認できません。
また、取りまとめでは、「少年審判手続への公的付添人制度の導入についても積極的に検討すべきであるとの点で大方の意見が一致した」とされています。少年審判手続に付添人がつく割合は極めて少ないのが実状ですから、この点も是非積極的に実現すべき事柄です。
 しかしながら、具体的制度の運用については 公的費用による被疑者弁護制度と同様、付添人の活動を権力的にコントロールするようなことがあってはならないことは当然です。

8 検察官の公訴権行使へのチェック

検察審査会の議決への法的拘束力の付与を含めた機能強化について検討すべきことは、概ね意見の一致を見たようです。現在は、検察官が公訴権を独占していますが、検察官の公訴権行使についてのチェック機能を強化することは必要です。また、国民の司法参加という観点からも、この点は積極的に進めるべきものと考えます。

9 まとめ

以上のように、審議会の全体的な議論においては、現状の刑事司法の中で構造的に発生している人権侵害の根絶や冤罪・誤審の防止のための抜本的で効果的な改革の方向性は残念ながら示されていません。こうした現状を放置したまま、処罰の迅速化や捜査機関の権限強化(刑事免責制度、おとり捜査の拡充、参考人の勾引ないし出頭強制の制度等)を論じることは、憲法の保障する基本的人権をないがしろにした治安維持強化のための「改革」になってしまう危険が強く、私たちは容認することはできません。
そればかりか、公的費用による被疑者弁護制度のところで触れたように、公費投入の名の下に、刑事弁護活動が権力的なコントロールを受けるようなことになれば、「絶望的」な状況はさらに加速し、国際水準からますますかけ離れていくことになるでしょう。
既に何度も述べてきたように、憲法・刑訴法の掲げる刑事司法の目的は、基本的人権の擁護(適正手続の保障)の上に立った実体的真実の発見にあります。審議会が、常にこの原点に立ち返り、国民のための改革が実現するための審議をすることを強く求めます。

第6 「国民の期待に応える民事司法のあり方」について

1 審議会の審議状況について

 審議会の民事司法についての審議は、竹下会長代理が整理した論点項目(第11回)を前提にして、利用者(ユーザー)の立場から、高木委員、山本委員、吉岡委員がレポートをし、審議する(第19回、第20回)という形で進められました。この3委員はいずれもユーザーの視点が重要だとしていますが、その具体的内容には大きな隔たりがあります。
 高木委員と吉岡委員は、民事司法の現状を抜本的に改革することが必要であるという立場に立っている点で共通しています。
 高木委員は、改革のグランド・デザインを骨太に描くべきとの立場から、民事司法が国民に対するサービスとしてだけでなく、法の目的を実現するための一手段として積極的な評価が与えられる必要があり、そのため民事司法は国民による訴訟提起を促進する方向で再編成されなければならないとして、懲罰的損害賠償・クラスアクションなどの導入について、積極的な態度をとっています。また、同委員は、労働裁判・労働委員会についての具体的な改革提案をされ、さらに現状の行政訴訟について「死に体になっている」との評価をした上で、行政権の裁量権の範囲の限定、当事者適格の拡大などを具体的に提案しています。
 吉岡委員は、司法制度を国民の生活、幸福追求のための道具と考える立場に立って、民事司法の現状について、多くの国民が裁判所を遠い存在と考え、トラブルに遭遇しても裁判の利用につながらないとした上で、裁判所及び弁護士へのアクセスの困難性の解消が第一要件であり、さらに、利用者である国民の視点、殊に弱者の視点に立った司法の実現が不可欠であると指摘しています。その観点から、法曹人口、とりわけ、弁護士人口の大幅増員、司法に関する情報に容易にアクセスできる仕組みの検討、夜間・休日の開廷などを取り上げていて、ディスカバリー、クラスアクション、懲罰的損害賠償の導入についても積極的な立場に立っています。
 これに対し、山本委員は、現状の民事裁判に「基本的な信頼が失われているわけではない」が、「ユーザーにとって欠けている機能、不足している機能」が多いとして、現行制度の部分的な「改善策」を提案するにとどまっていて、ディスカバリー、クラスアクション、懲罰的損害賠償の導入については、極めて消極的です。

2 審議の問題点について

 民事司法に関して審議会で取り上げられている論点は多岐にわたりますが、現在の裁判・判決の内容(訴訟指揮なども含む)の問題点については、ほとんど取り上げられていません。その他のテーマにも共通することですが、この点が審議会の審議における最大の問題であることは前述のとおりです。したがって、現在の裁判・判決の内容について、訴訟当事者であった人などからの意見聴取、関係資料を収集した上での審議を強く求めます。地方公聴会だけではなく、この点を審議会における審議そのものに是非反映すべきです。
 そして、上記1の議論を前提とした上での意見の取りまとめ方をみると、全体として、民事訴訟の審理の促進に重点が置かれており、他方、新しい制度(懲罰的損害賠償、クラスアクション・団体訴権、ディスカバリーなど)の導入については上記のような意見の対立もあるためか取りまとめ方に消極的な傾向が顕著であり、また、行政に対する司法のチェックについては、行政訴訟などの改革の必要性は認めるものの「別途検討」として先送りされる強い危惧を持たざるを得ません。
 しかし、一般の民事訴訟は、平均審理期間をみても分かるとおり、大幅に遅延しているわけではないのが実態です。遅延が顕著なのは、労働事件、公害事件などの集団事件なのであって、その遅延の原因は主として、国や企業が事案の解決に必要な証拠を提出しない、逆に証拠隠しをする、被告側証人が明白な偽証をする、それにもかかわらず、裁判所は適切な訴訟指揮をせずにこれらの事態を放置しているなどの点にあるのであって、その点の実態把握と分析をした上で適切な制度を構築しない限り、訴訟の促進を図ろうとしても無意味です。
 しかも、上記のような審議会の取りまとめ方だと、訴訟の遅延の真の原因を除去しないまま、審理の促進に外形的に役立つように見える制度のみを取り入れることになりかねず、そうすると、とりわけ経済的・社会的弱者の権利・利益が切り捨てられる中で審理だけが促進される危険が大きいと考えます。
 いずれにせよ、審議会で意見の一致が見られたという点は制度の部分的な手直しにすぎず、これでは司法制度改革の名には値しないと考えます。審議会は制度改革の根幹に関わるような制度の創設について「意見の一致が見られない」として先送りすべきではありません。

3 主要な論点についての意見

 個々の論点について、とりわけ問題になるのは、弁護士費用の敗訴者負担、専門参審制(詳しくは第三で述べたとおりです)、証拠収集手続の充実、計画審理の充実と審理期間・開廷間隔等の法定、行政訴訟の改革であると考えます。
 その他、提訴手数料など訴訟費用の負担の軽減、訴訟費用額確定手続の簡素化、民事法律扶助の充実、裁判利用相談窓口の拡充、裁判所の開廷日・開廷時間の柔軟化等は特に異論があるとは思われませんので、これらの点について意見を述べます。

(1) 弁護士費用敗訴者負担について

 弁護士費用敗訴者負担については、審議会で今後細目をどうするかはともかくとして、いずれの委員も原則的に導入に賛成の方向です。
 この点につき、弁護士費用を透明化する必要性は認めますが、弁護士費用の一般的敗訴者負担については強く反対します。
 審議会では、敗訴者負担の根拠として、現行のように弁護士費用の敗訴者負担が認められない制度の下では、訴訟が費用のかかるものとされるなどの理由から訴えの提起をためらわせ、他方、不当な訴訟を誘発するおそれが生じることなどが理由としてあげられています。
 しかしながら、訴訟に費用がかかることで訴えの提起をためらわせるのを防止することは法律扶助制度の拡充・強化によって対処するのが本筋であり、他方、不当訴訟などに対しては現行制度のもとでも適切な訴訟指揮や損害賠償により、ケース・バイ・ケースで解決することが可能です。早期に終結させる制度の創設も考えられます。いずれにせよ弁護士費用を敗訴者に負担させることによって解決できるものでは決してありません。
 現在、我が国が濫訴という状況にはまったくないにもかかわらず、弁護士費用の一般的敗訴者負担制度を導入すれば、逆に敗訴の結果を恐れて訴訟提起を躊躇するという萎縮的効果の方が大きいというべきです。

(2) 専門参審制について

 専門参審制は、第3で述べたとおり、国民が司法判断に関与するという本来の意味での参審とまったく異なるものであり、国民の司法への参加という意味を何ら持たず、結局のところ、キャリアシステムを補完するものでしかありませんので、強く反対します。

(3) 証拠収集手続の充実について

 証拠収集手続については、新民訴の当事者照会などでは不十分ですから、アメリカのディスカバリー(事前の証拠開示)を参考にした制度については導入の方向で積極的に推進すべきです。
 大企業を相手方とする訴訟においては、前述のとおり、企業側が証拠を隠すという事態が常態化しており、これを打破する上でディスカバリーのような制度は極めて有効だからです。例えば、賃金差別事件について、会社側が同期同学歴入社の他の従業員の賃金に関する証拠をまったく提出しないため労働者側が他の労働者の賃金等の調査に苦労し、その結果審理が大幅に遅延している実態が数多くあります。このような実態を考えれば、力関係のまったく異なる当事者間の公平のためにも、充実した審理のためにも、訴訟の迅速化のためにも、事前の証拠開示は必要不可欠です。審議会として、明確にディスカバリーを参考にした制度の創設を打ち出すべきものと考えます。

(4) 審理期間・開廷間隔等の法定について

 審理期間・開廷間隔の一律の法定化には反対です。
 各事件は事件毎に争点、証拠などがまったく異なる以上一律の法定化は不合理であるし、審理期間が長くなる要因としては、短期間に裁判官が異動する、会社側が証拠隠しをする、前述のように証拠開示が不十分であるなど、主に現在のシステム上の問題があるのであり、このようなシステム全体の改革を抜きにしたままで、審理期間のみを法定化することは、拙速化につながるだけです。
 また、計画審理の充実については、一般論として異論はありませんが、審理期間の法定化の問題と同様にシステム全体の改革抜きでは問題が多いと考えます。原因の改善に手をつけずに審理促進のみを強調することは、不親切な裁判、誤った裁判を生み「弱者」の権利を切り捨てる結果となることはすでに述べたとおりです。

(5) 行政訴訟の改革について

 行政訴訟の改革については、昨年の論点整理において、行政に対する司法のチェックが取り上げられているにもかかわらず、審議会においては、塩野教授からのヒアリング、高木委員によるレポートなどしか行われておらず、審議が不十分な上に、取りまとめにおいては改革の方向性がまったく示されないのは到底賛成できません。行政訴訟については改革が必要であることが確認されているのですから、問題点を解決し抜本的改革を打ち出すべきです。
 現在の行政訴訟における裁判所の消極的な姿勢が裁判官のキャリアシステムそのものの問題点をよく示しているだけでなく、行政訴訟固有の問題としても、行政に対する司法のチェックを重視するのであれば、行政権の裁量を広く認めている行政実体法規の改正をして裁量を限定すること、そして、広く国民が行政権の行使の違法を争うことを可能にする意味で当事者適格を大幅に拡大することは、どうしても必要であると考えます。

第7 弁護士改革と弁護士自治の擁護

1 弁護士の在り方に関する審議会の審議状況

 審議会は、8月8日の夏の集中審理2日目に「弁護士の在り方」について石井委員と吉岡委員がレポートし、「隣接法律専門職種」について北村委員がレポートしました。その後8月29日(第28回)に「弁護士の在り方」について法曹三者からヒアリングと意見交換を行い、9月1日(第29回)には、各委員から出された意見をまとめた「『弁護士の在り方』に関する提言内容の整理」に基づいて意見交換を行いました。
 上記「提言内容の整理」を見ると、弁護士改革の人的側面として、弁護士人口の増加、公益性に基づく社会的責務の実践等、弁護士の活動領域の拡大、隣接法律専門職種等との関係、弁護士の国際化、外国法事務弁護士等との関係などが挙げられ、弁護士改革の制度的側面として、法律相談活動の充実、弁護士費用(報酬)、弁護士情報の公開、職務の質の向上・弁護士執務態勢の強化、弁護士自治と弁護士倫理などが挙げられています。
 これらの提言の中には私たち弁護士として耳を傾けるべきものも含まれている一方で、重大な懸念をもたざるを得ないものも多数含まれてています。また、第28回審議会に提出された法務省・最高裁の意見の中には看過できない重大な問題があります。
そこで以下では、特に重要と思われる点に絞って意見を述べます。

2 法曹人口の大幅増員に対する基本的考え方

 私たち自由法曹団は、1998年10月に発表した「21世紀の司法の民主化のための提言案」において、法曹三者のどれを見ても、現状では法曹人口の不足は歴然としているとして、裁判官、検察官の増員とともに弁護士人口の大幅な増大が必要であると提言しました。
したがって私たちは、国民の法的サービスを受ける権利を充足し、その基本的人権が正しく守られるために必要な数の弁護士を増やすことに異議はありません。
 しかし他方で忘れてはならないことは、弁護士人口を増員するだけでは国民にとって利用しやすく、その権利を実現する司法は実現し得ないということです。この点で審議会のこれまでの審議は、弁護士人口の増加やその在り方に比重を置き過ぎているといわざるを得ません。

3 国民が弁護士を利用しやすくなるための基盤整備

これについては、法律扶助制度の大幅な充実、弁護士過疎地への法律事務所の開設とそれに対する国や地方自治体の支援などの基盤整備が不可欠です。例えば、弁護士の地域偏在の問題について現在弁護士会は様々な努力を行っていますが、経済的には事業者に過ぎない弁護士やその組織である弁護士会だけでは到底解決不可能な問題です。その解消のためには国や地方自治体などによる公的支援が不可欠です。なおこの問題について私たちは、前述の提言案において「裁判を受ける権利の経済的保障と司法予算の大幅な増大」として提案してきたところです。

4 国民が弁護士を必要とするような司法システムへの改革

 さらに国民が自己の権利を実現するために利用したいと思えるような実効性のある司法システムを作ることが必要不可欠です。その具体的内容を検討するためには、まず現在多くの国民が裁判その他の司法システムを利用していない原因を欧米諸国での利用実態と比較しながら分析することが必要だと考えます。  裁判官やその他の裁判所職員、そして検察官の大幅増員も国民の権利救済にとって実効的な司法システムの整備・拡充にとって重要な課題だと考えます。審議会ではこの点についても確認されていますが、審議会が法曹人口を年間で3000人増加させることを数値目標として掲げるのであれば、併せて、裁判官や検察官の増員についても年間数値目標を明確に打ち出すことを求めます。
 また、裁判所のその他の職員の問題については審議会で十分審議されていません。最高裁が養成中止を決めた速記官制度の再開・拡充も含めて今後実態の把握と問題点の分析を行うことを求めます。
 さらに次の5項で述べることとも関連しますが、現在の裁判官や検察官が国民のニーズに応えたものとなっているのかどうか、なっていないとした場合その原因はどこにあるのか、その改革の方策をどうするかについても、審議会として検討する必要があると考えます。したがって、弁護士の在り方を議論したように、今後は裁判官の在り方、検察官の在り方というテーマで審議を行うことを要求します。

5 弁護士の在り方と国民に利用しやすい司法の実現との関係について

審議会は、国民に利用しやすい司法の実現の中心的課題として弁護士へのアクセス拡充を位置付けて審議してきました。しかしこのような審議会の問題の捉え方は、弁護士の在り方に比重を置き過ぎており適切ではないと考えます。
現在の司法制度が国民に利用しやすいものとなっていない原因には、弁護士人口の不足や弁護士の地域偏在、情報不足などのため弁護士が国民の身近な存在となっていないという弁護士へのアクセスの問題とともに、これと並ぶ大きな原因として、裁判所を含む現在の司法システムが国民にとって権利実現のために実効的な制度になっていないため、国民の中に司法システムを利用して自己の権利を実現したい、そのために弁護士の援助を受けたいというニーズが潜在化しているという問題があります。この意味では、弁護士制度の現状をもたらした歴史的・構造的な原因が明治以来の「弁護士を必要としない社会づくり」政策にあるという中坊委員の指摘はまさに正鵠を得ていると思います、  例えば、税金に関する訴訟での国民の側の勝訴率は極めて低い現状にあります。それは裁判所が税務行政寄りの立場に立った訴訟指揮・事実認定・法律判断をし、税務行政に対して国民の立場に立った司法判断をしていないことに起因しています。このような裁判所の現状の下では、国民の中には、税金に関して弁護士の法的サービスを受けたいというニーズはほとんど顕在化せず、税金申告に関して税理士を利用するにとどまっていました。
 同様の問題は行政の分野全般に言え、国や地方自治体を相手とする行政訴訟においても国民の側の勝訴率は極めて低く、これまで国民の中には、申請などの行政手続において行政書士や社会保険労務士を利用することは考えても、行政に対する交渉や裁判のために弁護士を利用するという発想にまで至らなかったのです。
 これまで国民の側が勝訴した行政訴訟・税務訴訟などは、こういった厳しい状況の下で行政による不正は許せないとして立ち上がった一握りの国民とそれを無償に近い形で援助してきた弁護士による犠牲的活動によるものでした。
 したがって、司法制度を国民にとって利用しやすいものとすることは、弁護士人口を増やすなどして弁護士へのアクセスを拡充するだけでは実現できず、現在の裁判所が国民のニーズに応えていない現状とその原因を分析し、それを改革することが必要不可欠です。これまでの審議会の審議はこの点の実態把握と分析が欠落しています。
なお審議会では、弁護士を「社会生活上の医師」としてとらえ、市民の身近にいてそのニーズに応える存在となることを改革の方向性としています。こうした方向性が是認されるとしても、改革の具体的内容を検討する場合には、弁護士と医師との違いを見落としてはなりません。
 弁護士が医師と異なる点は、医師が基本的には患者との1対1の関係において治療などを行いその職責をまっとうできるのに対して、弁護士の場合には、依頼者・相手方間の紛争を解決するという職務の性質上弁護士だけの努力では解決できない場合が多く、最終的には裁判所等の司法判断を仰がなければなりません。その意味で弁護士の業務は裁判所等の司法制度に依存しており、弁護士が市民に提供できる法的サービスの水準は、基本的にその時々の司法システムの在り方や解決水準によって規定されざるを得ません。
 したがって、審議会の、弁護士を「社会生活上の医師」と見る捕らえ方は、改革の方策を検討する際に弁護士の背後にある司法システムの問題を見えづらくしているという懸念を抱きます。

6 弁護士の在り方の見直しと弁護士自治

(1) はじめに

 現在審議会では弁護士の在り方が議論されていますが、その中には、弁護士自治の在り方、弁護士会による綱紀・懲戒制度の見直しなど弁護士自治に関わる問題が含まれています。
 私たちは、国民に信頼される弁護士、弁護士会を築くために弁護士倫理の確立のための方策を行うこと、その一環として綱紀・懲戒制度の透明化・迅速化などを進めることは必要だと考えます。
 しかし後に述べるような弁護士自治の趣旨から考えて、弁護士自治・弁護士職務に対する国家的・権力的介入を認めるような改革には断固として反対します。この点で、法務省や最高裁が審議会に対して述べた意見の中には、弁護士自治・弁護士職務に対する国家的・権力的介入を意図しているとしか言わざるを得ないものも含まれています。

(2) 弁護士自治の意義

 これまで多くの弁護士そして弁護士会は「基本的人権の擁護と社会正義の実現」(弁護士法1条)のために尽力してきました。刑事弁護はもちろんのこと、その他の分野においても時として国や行政に対してその責任を追及したり、時々の政策を批判するといった、国や地方自治体との対立関係・緊張関係をはらむ問題についても弁護士及び弁護士会は国民の立場に立って活動してきました。
 弁護士や弁護士会がこれまで国や行政との対立も恐れず国民の立場に立って人権擁護の活動を行うことができた背景には、弁護士会に完全な自治が保障されていることがあります。もし仮に弁護士が裁判所や法務大臣等の監督に服していたのでは、これまで行ってきたような人権擁護のため時に権力と対峙し、厳しく批判するといった活動を行うことはできなかったでしょう。その点で弁護士自治はまさに弁護士による人権擁護活動のための制度的保障なのです。
また弁護士の職務は、国家の法務行政機関である法務省および公益の代表者としての訴追機関たる検察庁と、裁判権の行使をする裁判所との相互関係の中で遂行されます。法曹三者は司法制度の運営において互いに協力する関係にあるとともに時には激しく対立する関係にあります。したがって弁護士がその職責を果たすためには国家権力からの独立が必要不可欠です。弁護士自治はそのための制度的保障でもあります。

(3) 弁護士会の強制加入制度の見直しに反対する

 法務省は、第28回審議会(8月29日)において弁護士の在り方に対する意見を述べていますが、その中で、規制改革委員会による規制改革に関する第2次見解や論点公開、規制緩和推進3か年計画(再改定)などにおいて、「弁護士会の強制入会制を廃止すべき」「弁護士会の懲戒の在り方について抜本的な見直しを検討すべき」との指摘がなされていることを紹介しています。
 規制改革委員会での議論は、弁護士強制加入制度を単に経済的視点から検討して競争制限であるとみなし、規制緩和の一環としてその廃止を提案しているに過ぎません。しかし弁護士強制加入制度は弁護士自治の重要な内容であり、この制度によって弁護士会は組織としての活動を強化し「基本的人権の擁護と社会正義の実現」(弁護士法1条)という社会的任務を果たしてくることができたわけです。
 また弁護士強制加入制度は、審議会で議論されている弁護士倫理の確立や弁護士の公益性に基づく社会的責務の実践などのために弁護士会が個々の弁護士に対して指導監督していくためにも必要不可欠なものです。
 したがって弁護士強制加入制度は今度とも堅持すべき重要な制度であり、これを改変することは絶対に許されません。

(4) 弁護士会の綱紀・懲戒制度の見直しについて

この点については審議会でも議論され、法務省や最高裁の意見でも触れられています。
 私たちは、国民に信頼される弁護士、弁護士会を築くために、綱紀・懲戒制度についても、国民から見て分かり易く、納得のできる制度にすること、弁護過誤によって被害を受けた市民の方の被害が早期に救済される制度とすることには賛成です。そのために具体的にどのような方策を講じるべきかについては、今後、弁護士自治との関係などに配慮しながら検討を進めていくべきですが、その際、弁護士会の活動や弁護士の職務に対して綱紀・懲戒制度を利用して国家的・権力的介入がなされることはあってはなりません。
 このことは決して私たちの勝手な憶測ではなく、前述の規制改革委員会の論点公開(2000年7月26日)において、日本の弁護士制度は強制加入制の下で登録審査及び懲戒処分を弁護士会自ら行っていることから世界に類を見ない完全自治である、諸外国では登録審査及び懲戒処分の両方又はどちらかが裁判所又は州政府等の統制の下に置かれるのが一般であるとした上で、懲戒制度の見直しを求めていることからも明らかです。しかし規制改革委員会の議論が弁護士自治の持つ意義を十分理解せず、単なる競争制限としてとらえている点で重大な誤りを犯している点は既に指摘したとおりです。
 従って、審議会が今後懲戒制度の見直しについて審議するに当たっては、弁護士会の活動や弁護士の職務に対する国家的・権力的介入を招く危険のないものでなければなりません。

(5) 公的被疑者弁護制度の運営主体などの問題について

この問題については、すでに第5「国民の期待に応える刑事司法のあり方」のところで詳しく述べました。
 私たちは、被疑者に対する公的弁護制度の運営、及び弁護活動の水準・適正の確保については、弁護士会の弁護士自治に委ねられるべきであると考えます。

おわりに− 設置法、および国会決議に即した審議を

 自由法曹団は、幾多の冤罪事件、労働・公害事件、環境、消費者事件を弁護人・代理人の立場で経験してきました。戦前の人権が抑圧されていた過酷な時代にも果敢に裁判闘争に立ち上がった人々と共にたたかい、戦後の新憲法のもとで新たに保障された基本的人権の実現のため国民と大衆的裁判闘争をたたかってきました。こうした裁判闘争を通して最高裁の中央集権的管理のもとで、裁判官の独立が侵され、最高裁の意向に従い、行政・社会的強者(大企業など)に追随する判断が多く行われていることを自らの身をもって経験してきました。労働事件では、大企業や国の意向に偏し「解雇は原則として自由」「一回の残業拒否でも解雇は有効」などという労働者の痛みを感じない判決が出されています。特に、差別事件などでは企業が証拠を隠し、あるいは偽証を平気で行うなどの不当な行為が横行し、裁判がいたずらに引き伸ばされるという異常な状態が繰り返されています。一般民事事件でも書面証拠を重視し当事者の心を理解できない裁判や製造物責任が問われた裁判で企業の言い分を鵜呑みにし被害者である市民の言い分を否定する裁判などが存在しています。こうした裁判における不正義を許すことは,国民の裁判に対する信頼を失わせることは明らかです。こうした裁判の実態に目を向けない司法改革は真の改革の名に値しません。私たちは、審議会が設置法、および国会決議に則って十分な事実調査を行い、正確な実態把握を行うよう強く要求します。