<<目次へ 【意見書】自由法曹団


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第9、「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について

1、はじめに

 刑事司法(裁判)についての改革を検討するにあたっては、現状の刑事司法の実態を十分に把握しその問題点を摘出し、その上で改革の方向性が議論されなければなりません。正確な現状認識こそが、改革の出発点であることは当然です。
 とりわけ刑事司法の分野においては、平野龍一教授が「絶望的」と指摘したように、憲法・刑訴法の理念と現実の運用とが著しく乖離していることは、残念ながらもはや常識となっているといっていいでしょう。こうしたわが国の刑事司法の病理は、わが国の国内の認識に留まらず、広く国際的にも指摘されている事柄であって、後に詳しく述べるように国際人権(自由権)規約委員会からも再三の勧告を受けています。
 中間報告での刑事司法の改革案は、こうした実態把握がまったく不十分であると指摘せざるを得ません。そのため後に述べるように極めて不十分な改革内容となっています。
審議会において、最終報告を取りまとめるに際して、今一度、刑事司法の実態を正確に把握された上で、「国民の期待に応える」ための改革の正しい方向性を打ち出すことを強く要望します。

2、現状の刑事司法の実態と問題点

刑事司法の目的は、「公共の福祉の維持と基本的人権の保障をまっとうしつつ、事案の真相を明らかに」する(刑訴法1条)ことにあります。基本的人権の保障のために、刑事手続において適正手続を保障すべきことは憲法上の要請です。したがって、実体的真実の発見と適正手続の保障は、決して並列的なものではなく、あくまでも憲法・刑訴法の定める適正手続の保障の上での真実の発見ということを意味します。これが憲法・刑訴法の予定する刑事司法の姿です。しかしながら、現状の刑事司法は「絶望的」といわれる程、こうした理念からはほど遠く、被疑者・被告人の手続保障は後景に追いやられているのが実状です。

(1) 捜査のあり方の後進性と令状主義の形骸化
その要因の一つは、捜査機関の捜査のあり方にあります。我が国においては、国際的にも批判の強い代用監獄制度が依然として維持され、逮捕・勾留された被疑者は、基本的に警察のコントロール下に置かれています。そこで、自白偏重の捜査−身柄拘束を利用した自白の強要−が一般化しているのです。すなわち、警察では密室での取り調べがなされ、それを監視するための制度的な保障(弁護人の立会権・テープ録音・ビデオ録画等)は何もありません。また被疑者国選弁護制度がないこと、弁護人との接見交通が制限されること等により、身柄拘束を受けた被疑者が十分に弁護人の援助を受ける保障もないのです。さらに、警察による接見妨害、証拠隠滅、被疑者の権利行使に対する圧力等も依然として後を絶ちません。
本来、こうした捜査機関の活動に対しては、令状主義によって、裁判所が司法的にチェックすることが期待されているのですが、裁判所の令状審査は形骸化し、およそ捜査機関に対するチェック機能は果たされていません。1996年の統計では、裁判所の令状発布に対する却下率の割合は、わずか0.12%ですから、ほとんど捜査機関の請求がフリーパスとなっているといわなければなりません。さらに、起訴後の保釈請求に対しても、権利保釈の除外事由の「罪証隠滅のおそれ」を極めてルーズに解釈するため、被告人が事実を争っているだけで保釈が認められないなど、まさに「人質司法」と呼ばれる実態がまかり通っているのです。

(2) 調書裁判と異常な有罪率
さらに、公判においても、伝聞法則が形骸化し、捜査機関が作成した調書の取調が中心となり、直接主義・口頭主義の要請はほとんど機能していません(いわゆる「調書裁判」)。また、検察官手持ち証拠の開示のための法律上の制度が存在しないため、被告人・弁護人と検察官の武器対等の原則も実現していません。こうした中で、99%を超える異常に高い有罪率が維持されているのです。まさに刑事裁判は「有罪確認の場」と化しているといっても過言ではありません。
 このように自白中心主義・人質司法・調書裁判と呼ばれるのが現在の刑事司法の実態であり、憲法・刑訴法の理念とおよそかけ離れています。「絶望的」という指摘は、残念ながら的を射ていると言わざるを得ません。そして、何よりこうした実態が、誤判・冤罪を産み出す基礎となっているのであり、その是正・改革は急務です。

(3) 国際人権規約違反
 ところで、こうした我が国の刑事司法の問題点のほとんどは、国際人権(自由権)規約委員会の審査及び勧告において、たびたび指摘されている事柄です。1998年10月の第64会期・国際人権(自由権)規約委員会における日本に対する最終見解では、わが国の刑事司法について、次のように厳しく指摘し、勧告をしています。
「委員会は、未決勾留が警察の管理の下で最大23日まで延長でき、早急に、効果的に司法の管理に入らず、被疑者は23日の間に保釈が許されないこと、尋問の時間や長さを規制する規則がないこと、勾留されている被疑者に対して助言、援助する国選弁護士がいないこと、刑事訴訟法39条第3項の規定により弁護人の接見に重大な制限のあること、取り調べに被疑者の選定による弁護士の立ち会いが認められていないこと、(国際人権B)規約第9条、第10条、第14条に規定された権利が未決勾留について十分保障されていないことに深く懸念する。委員会は、日本の未決勾留制度を規約第9条、第10条、第14条に適合するようただちに改正するよう強く勧告する。」
 「委員会は、代用監獄制度は、警察の捜査に関与しない部署の管轄となるとはいえ、別個の管轄ではないことに懸念する。これは規約9条、14条に規定された被拘留者の権利が侵害される機会が増える可能性がある。委員会は、代用監獄制度は規約のすべての要件に適合するように改善することという第3回定期報告書審査後表明した勧告を再度行う。」
「委員会は、刑事裁判での多数の有罪判決が自白に基づいている事案を深く懸念する。強要によって自白を引き出す可能性を除去するため、委員会は警察による拘束下、または代用監獄に拘束されている被疑者の尋問は厳重に監視し、電子的手法で記録することを強く勧告する。」
「委員会は、刑事法では検察側が捜査段階で入手した証拠を裁判において提出する意図を持つもの以外は開示する義務はなく、弁護側が裁判のどの段階においてもこれら証拠の開示を請求する一般的権利がないことに懸念する。委員会規約第14条第3項の保障に従い国は弁護権が妨げられないよう弁護側が関連資料すべてにアクセスできるよう法律並びに規則を整備することを勧告する。」
審議会の論点整理は、「公正な国際的ルールの形成・発展に積極的にかかわっていかなければならない」と述べていますが、我が国の司法の中で、こうしたいわゆるグローバルスタンダードに最も立ち遅れているのは刑事司法の分野です。「論点整理」の立場に立つとしても、我が国の刑事司法に対するこうした国際的な勧告を真摯に受けとめる必要があることは、言うまでもありません。
このようにわが国の刑事司法については、構造的ともいえる問題点が随所にあり、改革すべき点は多岐にわたっています。そして、これらが国際的にも強く非難されているのも前述のとおりです。
以下、こうした刑事司法の実態を踏まえて、中間報告の主だった論点についての問題点を検討していくことにします。

3、刑事裁判の充実・迅速化について

(1)刑事裁判の充実・迅速化の根本的な阻害要因は何か
中間報告は刑事裁判の充実・迅速化の基本的な方向として「真に争いのある事件につき、当事者の十分な事前準備を前提に、集中審理の下、裁判所の適切な訴訟指揮を背景として、明確化された争点を中心に当事者が活発な主張立証活動を行い、効率的かつ効果的な公判審理の充実を図ること、そのための人的体制の整備及び手続的見直しを行うこと」と述べています。
しかしここでは、刑事裁判の充実・迅速化を阻害する根本要因は何かという問題意識が決定的に欠落しており、したがってその後に示されている改革案も抜本的なものとは到底言えません。
現状の刑事裁判の充実・迅速化を妨げている根本要因は、前述の「刑事司法の実態と問題点」で述べた自白中心主義・人質司法・調書裁判ということのすべてが妥当するのであって、この点を改善していかなければ刑事裁判の充実・迅速化は実現できないのは当然です。例えば、事前準備を充実するといっても、被疑者・被告人が代用監獄での不当な身柄拘束を受け、弁護人との接見交通権も制限され、保釈請求も制限されている実態の中で、どのようにして事前準備を充実させるというのでしょうか。また、伝聞法則が形骸化し、捜査段階での供述調書がいとも簡単に証拠採用され、その調書の取り調べが中心となっている公判の実態を放置しておいて、どのようにして当事者が活発に主張立証を行うというのでしょうか。また、取り調べ過程が可視化されず密室で行われているため、自白の任意性・信用性を争う場合は、被告人と取調官の双方から取り調べ状況についての供述を求め、さらに供述内容と他の証拠との矛盾や整合性といった観点から判断せざるを得ないために審理期間が長期化するのです。
したがって、こうした問題点を克服することこそが、刑事裁判の充実・迅速化を導くための抜本的な改革ですが、後に詳しく述べるように、中間報告ではこうした点の改革が極めて不十分といわざるを得ません。

(2)第1審の審理期間や公判期日の開廷間隔(上限)の法定について
中間報告は「第一審の審理期間や公判期日の開廷間隔を法定化することは、審理の迅速化につながる有力な方策であるとの見方もある。しかしながら、その実効性に対する疑問や被告人の防御権への影響が懸念もあり慎重に検討すべき」としています。
裁判が適正かつ迅速に行われることは、憲法上の要請でもあり、当然必要なことです。しかし、刑事裁判においては、被告人が事実を争っているか否か、どのような争点があるのか、当事者や関係者がどの程度いるのか、検察官が手持ち証拠をどの程度開示するのか等々によって、審理の内容は大幅に異なります。
こうした個別事件の特性を無視して、審理期間等を予め法定しておくことは、単なる「拙速化」であって、裁判の充実とは正反対のものです。また被告人に十分な防御の機会を与えることが、被告人の人権を守り誤判を防ぐ上で極めて重要であることはいうまでもありません。したがって審議会で示された懸念は当然であり、このような方策はとるべきではありません。

(3)証拠開示について
わが国では、証拠開示が制度化されておらず、国際人権(自由権)規約委員会からも「弁護側が関連資料すべてにアクセスすることができるよう法律並びに規則を整備すること」との勧告を受けていることは先に述べたとおりです。検察官手持ち証拠の開示については、中間報告でも「時期・範囲・裁判所の役割を含めルールを法令により明確化し、その拡充を図る必要がある」と述べられています。
何らかの方法であれ、証拠開示を法令によって制度化することは大きな前進であり、積極的に実現が図られなければなりません。その上で問題となるのは、どの範囲で証拠開示を認めるかにあります。
証拠開示の範囲・方法を巡っては、審議会内部でも厳しい意見の対立があり、第三者の名誉・プライバシーを理由に、開示されるべき証拠の範囲を限定しようという意見も有力に主張されています。中間報告では、証拠開示の拡大に伴う弊害の防止を指摘する一方で「ルールの具体的内容については、更に立ち入った検討を要する」とするのみで、具体的な方向性は明らかにしていません。
刑事裁判における被告人・弁護人と検察官の圧倒的な力の差を考えれば、証拠開示の範囲・方法は、原則として事前全面開示がなされなければ、武器対等の原則は実質化されません。また、現状では、検察官は公判廷で取り調べる予定の有罪立証に必要な証拠しか開示しないため、実体的真実発見の観点に立っても重大な支障があります。こうした中で、検察官の開示すべき証拠を限定的にすることは、証拠開示の実効性そのものを危うくするといわざるを得ません。
検察官手持ち証拠の全面開示を原則として、その中で第三者の名誉・プライバシー保護等の合理的方策が別途検討されるべきです。

(4)直接主義、口頭主義の実質化(公判の活性化)のための方策
中間報告は、伝聞法則の「運用を誤った結果として書証の取調べが裁判の中心を占めるようなことがあれば、公判審理における直接主義、口頭主義を後退させ伝聞法則の形骸化を招くこととなりかねない」と指摘しています。この指摘そのものに、審議会の刑事裁判に対する実態認識の不十分さが端的に表れています。
既に述べたように、現状の刑事裁判は「書証の取調べが裁判の中心を占めるようなことがあれば」とか「伝聞法則の形骸化を招くこととなりかねない」というようなものではなく、「書証の取調べが裁判の中心を占めていて、伝聞法則は既に形骸化している」のです。中間報告にはこうした危機的状況の認識が欠如しているために、改革についても「関連諸制度の在り方を検討しなければならない」というほとんど何も言っていないに等しい抽象論にとどまってしまっています。
伝聞法則を実質化していくためには、検面調書の特信性や自白調書の任意性の立証には、後に述べるような取り調べ状況の録音・録画等の客観的証拠によらなければ、これを認めてはならない等の立法提言を含めた踏み込んだ改革が不可欠だといわなければなりません。

4、被疑者・被告人の身柄拘束に関連する問題

被疑者・被告人の身柄拘束についての現状の問題点は、被疑者・被告人の基本的人権の確保、刑事裁判における適正手続の保障の問題であると同時に、刑事裁判の充実・迅速化を実現するためにも不可欠の課題であることは先に述べたとおりであり、抜本的な改革が急務です。
しかしながら、この問題について中間報告は「被疑者・被告人の身柄拘束に関しては、代用監獄の在り方、起訴前保釈制度、被疑者と弁護人の接見交通の在り方、令状審査、保釈請求に対する判断の在り方など種々の問題の指摘がある」というのみにとどまり、「直ちに具体的結論を得ることは困難である」としています。中間報告は結局のところ、これらの点については、すべて問題を「先送り」してまったく手を付けようとしていません。しかし、ここであげられている「問題点」は、先に述べた「人質司法」の内容そのものであって、現在の刑事司法の病理の一つの中核をなす問題点であると同時に、先に述べた国際人権(自由権)規約委員会からも厳しくその改善を指摘されている事柄です。こうした重要問題について、審議会が「結論を得ることは困難」として切り捨てる態度は、現状を追認することにほかならず、その任務を放棄するもので、私たちは到底容認することはできません。
代用監獄の廃止、起訴前保釈制度の導入、接見妨害をなくすための実効ある措置の導入、令状審査・保釈請求の判断の抜本的改善等は、早急に実現されるべき事柄であり、例えば権利保釈の除外事由から罪障隠滅のおそれを削除するなどの立法提言まで踏み込んだ実効性のある改革の具体的提言を行うことを強く求めます。

5、被疑者の取調べの適正を確保するための措置について

中間報告は「被疑者の自白を過度に重視する余り、その取調べが適正さを欠く事例が実際に存在する」「わが国の刑事司法が適正手続の保障の下での事案の真相解明を使命とする以上、被疑者の取調べが適正を欠くことはあってはならず、それを防止するための方策は当然必要となる」という認識を示したのは正当です。こうした認識を前提として、取調べの適正化を積極的に押し進める必要がありますが、問題なのは、抽象的な論評にとどめずに、そのための具体的方策をどう提案するかです。
 中間報告は「取調べ過程・状況の書面による記録を義務づけることについては最低限必要な措置」としています。しかし、この程度のものにとどまっているのでは、抜本的改革にはほど遠く「やらないよりまし」程度のものでしかありません。むしろこれだけでは、自白を強要した捜査官自らが、被疑者が任意に供述したという作文による「記録」をすることによって、自白の任意性の争いがより困難になることが逆に危惧されます。
ところが中間報告は「それだけでは不十分であるとして、取調状況の録音・録画や弁護人の取調べへの立会いを認めるべきとの意見があったが…結論を得るに至っていない」と指摘するにとどまっており、結局のところ、先の「被疑者・被告人の身柄拘束における問題点」と同様、意見の不一致を理由に何も改革をしないということを宣言するに等しいものです。審議会のこうした態度は、結局現状を追認するだけのものであり、審議会の任務を放棄するものといわなければなりません。
 現在、取調べの適正を確保するための制度的な措置がないため、結果として被告人が自白の任意性を争うことが極めて困難になっているのが実状ですし、そのために審理が長期化する弊害を生じていることも既に述べたとおりです。
 取調べの適正を確保することは、こうしたことを抜本的に是正することに繋がるものですから、そのためには、取調状況の録画・録音、弁護人の立会が不可欠であり、さらには弁護人選任権の実質化、被疑者への権利告知の実効化のための方策が検討されなければなりません。

6、公的費用による被疑者弁護制度について

(1) 公的費用による被疑者弁護制度導入は急務の課題
公的費用による被疑者弁護制度については、「論点整理」においても「被疑者・被告人に対する公的弁護制度の整備とその条件につき幅広く検討することが必要である」とされていましたが、中間報告においても「少年事件をも視野に入れつつ、被疑者に対する公的弁護制度を導入し、被疑者・被告人の弁護体制を充実させる方向で、具体的な制度の在り方とその条件につき幅広く検討すべきである」と述べられています。
 逮捕・勾留された被疑者段階において、弁護人による援助がなされないために、虚偽の自白を強要されるなどの問題点は古くから指摘されており、そうしたことが冤罪を生む構造的な問題点のひとつとされています。弁護士会では、当番弁護士制度を発足・運用し、自主的にこの問題に対処してきましたが、審議会において被疑者に対する公的費用による被疑者弁護制度の導入に踏み切ったことは、大きな前進として歓迎すべきことです。

(2) 弁護活動に対する権力的コントロールは絶対に許されない
 しかしながら、ここでも問題なのは導入のための具体的制度をどのようにするかにあります。
刑事弁護の基本的な使命は、被疑者・被告人の基本的人権の擁護にあることはいうまでもありません。そのために、必要に応じて捜査機関や検察などの活動をチェックし、憲法・刑事訴訟法等に依拠しながら権力側と対峙していくことは必要不可欠です。こうした自主的で、権力から独立した弁護活動が豊かに展開されてこそ「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかに」する(刑訴法1条)という刑事訴訟の目的を初めて達成することができるのです。したがって、公的費用による被疑者弁護を実施するにあたっても、弁護活動の自主性・独立性を保障するための弁護士自治が不可欠であり、弁護の内容そのものを国家機関が管理監督するようなことがあっては絶対になりません。公費投入の名のもとに、刑事弁護活動が権力によるコントロールを受けるようなことになっては、刑事司法は死滅するといっても決して過言ではありません。
 この意味で、公的費用による被疑者弁護の運用は、これまでの被告人国選弁護制度と同様に弁護士会の自主的運営に委ねられなければなりません。弁護活動の質の確保の問題も、弁護士会の自治に委ねられるべきもので、公権力による「ガイドライン」の制定等の方法によってコントロールを受けてはならないことは先に述べたとおりです。

(3) 弁護活動に対する権力的コントロールを排除する運用を
 この点につき、中間報告は「運営主体やその組織構成、運営主体に対する監督などの検討にあたっては、公的資金を投入するにふさわしいものとするとともに、個々の弁護活動の自主性・独立性が損なわれないようにすること」としており、具体的にどのような運用をするのかについては明確には述べていません。但し、弁護活動の質の確保について、弁護士会が責任を持つことを明確にしている点は重要であり、その見地を堅持する必要があります。
 しかしながら、審議の中では「運営主体を法務省の監督下に置くべきである」、あるいは「公費投入に見合った弁護活動の評価・コントロールが必要」等の意見も出されているように、「公的資金を投入するにふさわしいもの」という名の下に、弁護活動を権力的にコントロールするシステムと抱き合わせにしようとする指向があることも否定できず、この点に関して重大な危惧を抱かざるを得ません。
先にも述べたとおり、憲法・刑訴法の予定する刑事訴訟の目的を達成するためには、公権力から独立し、時に公権力と対峙する弁護活動が不可欠です。したがって、公費による被疑者弁護制度は、基本的に弁護士会の自主的運用に委ねるべきであり、弁護活動を権力的にコントロールするようなシステムとの抱き合わせは断じて容認できません。
また、中間報告は「少年審判手続への公的付添人制度の導入についても積極的に検討すべきである」としています。少年審判手続に付添人がつく割合は極めて少ないのが実状ですから、この点も是非積極的に実現すべきです。しかしながら、具体的制度の運用については 公的費用による被疑者弁護制度と同様、付添人の活動を権力的にコントロールするようなことがあってはならないことは当然です。

7、検察官の起訴独占、訴追裁量のあり方

中間報告は「検察審査会の機能強化を検討する」とし、また国民の司法参加項目では、「検察審査会の議決への法的拘束力の付与する方向で」検討すべきとしています。
 現在は、検察官が公訴権を独占していますが、検察官の公訴権行使についてのチェック機能を強化することは必要です。また、国民の司法参加という観点からも、この点は積極的に進めるべきものと考えます。しかし、より抜本的には大陪審(起訴陪審)の導入が検討されるべきでしょう。

8、まとめ

以上のように、中間報告においては、現状の刑事司法の中で構造的に発生している人権侵害の根絶や冤罪・誤審の防止のための抜本的で効果的な改革の方向性は残念ながら示されていないといわざるをえません。こうした現状を放置したまま、第一回公判前の争点整理の充実、裁判所の訴訟指揮権の実効化や捜査機関の権限強化(刑事免責制度、おとり捜査の拡充、参考人の勾引ないし出頭強制の制度等)を論じることは、憲法の保障する基本的人権をないがしろにした治安維持強化のための「改革」になってしまう危険が強く、私たちは容認することはできません。
そればかりか、公的費用による被疑者弁護制度のところで触れたように、公費投入の名の下に、刑事弁護活動が権力的なコントロールを受けるようなことになれば、「絶望的」な状況はさらに加速し、国際水準からますますかけ離れていくことになるでしょう。
既に何度も述べてきたように、憲法・刑訴法の掲げる刑事司法の目的は、基本的人権の擁護(適正手続の保障)の上に立った実体的真実の発見にあります。審議会が、常にこの原点に立ち返り、国民のための改革が実現するための審議をすることを強く求めます。