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労働者派遣法、職業安定法「改正」をめぐる10の疑問と私たちの見解


  1. 遣や短期雇用など「多様な働き方の新しいライフスタイル」は労働者のニーズというのは本当でしょうか?
  2. 派遣労働の実情はどうなっているのでしょうか?
  3. 違法派遣がひろがっているといわれていますが、その実態はどのようなものでしょうか?
  4. 派遣労働の原則自由化で労働者の働き方はどう変るのでしょうか?
  5. 今回の「改正」はILO181号条約をふまえたものというのは、ほんとうですか?
  6. 改正案では派遣期間が1年に制限されているので、問題はないといわれていますが?
  7. プライバシー保護など派遣労働者の権利の保障は十分でしょうか?
  8. 登録型派遣労働者に生じている問題点と、その解決の方策は?
  9. 有料職業紹介の自由化はなにをもたらすのでしょうか?
  10. 派遣労働の原則自由化は深刻な不況にどのような影響をえるのでしょうか?

はじめに

 労働者派遣法改正案と職業安定法改正案があいついで上程され国会審議がはじまろうとしています。国民の人権擁護を目的として活動してきた1500人の弁護士の団体である私たち自由法曹団は、すでに労働者派遣法改正案について批判する意見書を公表し、先日は職業安定法改正案に反対する幹事長談話を発表してきました。
 私たちは、この二つの「法案」は正規常用労働を低賃金・無権利の派遣労働などにおき換え、戦後長きにわたって形成されそれなりに安定してきた雇用を破壊し、5400万人の労働者の働き方を著しく悪化させ、その家族を含め国民の4分の3の生活を根底から破壊するものと考えます。
 この私たちの見解は、日本弁護士連合会や各地の弁護士会の意見書・会長談話とも基本的に合致しており、「連合」や「全労連」など労働組合のナショナルセンター、さらには全労協や多くの女性・市民の「ネットワーク」の意見とも一致しています。
 国会の審議では、派遣労働者の差別的低賃金と無権利の実情、そして自動車や電機などの違法派遣の実情に基づいた検討が求められています。なによりも派遣労働の原則自由化で労働者の働き方がどう変わるのかについて、慎重な審議が必要とされます。さらに一時的臨時的なものに制限され正規常用労働に代替されることのないヨーロッパの派遣労働と、これを規制する国際労働基準をふまえた検討を欠くことはできません。
 かつてない深刻な不況のもとにある今日、派遣労働と有料職業紹介事業の原則自由化が、わが国の国民経済にどのような影響を与えるかについて議論が深められなければならないと考えます。
 私たちは、二つの法案はあれこれの修正で成立させるものではなく、廃案にされるべきものと確信し、その立場から、審議にあたって重要と考えられる10の疑問点について、法律家の立場から問題を整理し、各党各議員とマスコミの皆さんに公表することとしました。

第1.派遣や短期雇用など「多様な働き方の新しいライフスタイル」は労働者のニーズというのは本当でしょうか?

 「戦後半世紀経って、日本経済をとりまく環境も労働者の働き方も大きく変わった。労働者のなかに転職志向がたかまり、派遣や有期雇用など多様な働き方と自由な時間を求める新しいライフスタイルがひろがっている」と一部でいわれています。労働大臣も労働基準法を審議する国会で同趣旨の答弁をし、あたかも今回の「改正」が労働者のニーズ(要求)に応えるものであるかのようにいっています。しかし派遣やパートなどが拡がっているのは、労働者が心からこれを求めたからではありません。正社員の道を閉ざされて働きたくともまともに働けないことが最大の理由です。また正規労働者の多くに過労死まで生ずる長時間過密労働など非人間的な働かせ方がつよまっていることへの嫌悪、反発からのことです。だが、やむを得ず選択した――実際には選択を強いられている――「新しいライフスタイル」の派遣やパートでは、低賃金と不安定な雇用のため、労働者はまともな生活設計がたたないのが実際です。

1. 正社員の道を閉ざされたためにつくられた「ニーズ」
 ほんらいなじみの職場で働き続け仕事のうえでの技術や技能をたかめることは、かけがえのないことです。また職場の同僚との人間関係は家庭と地域のそれとともに価値あるものです。だから人はなじみの職場に定着して働き続けることを一般に望むのです。
 このほんらいの望みを捨てて、派遣や短期雇用など「多様な働き方」に従う労働者がふえてきている最大の理由は、正社員の道を閉ざされ働こうにもまともに働くことができないためです。企業の倒産とリストラ「合理化」によって失業者は著しく増え、2月の完全失業率は4.6%、313万人となり、調査を始めた1953年以来最悪を更新しています(総務庁の労働力調査)。解雇された多数の労働者とくに中高年労働者にとって再就職の道は厳しく、何時でも容易に解雇される短期雇用、派遣などしか求人はないのが実情です。
 また女子の正社員採用は、もともと男子に比べて少なかったうえに、ここへ来て、大企業らは意図的にその枠をいっそう狭めてきています。「超氷河期」といわれている大卒女子新採用の厳しい事態は、長びく深刻な不況に起因するのみではなく、大企業による政策的な新採用中止によってもたらされた面も大きいのです。大手商社は軒並みに女子一般職(事務職)採用ゼロを打ち出し、派遣労働者の採用に切りかえています。各商社がいっせいに人材派遣会社をつくり、退職社員を登録制で募集し、低賃金の派遣社員として元職場へ戻していることなどは、その端的な現れです。
 こうした事態は銀行などにもひろがっています。ある銀行に勤務していた女子労働者が退職勧奨の肩たたきを受け退職し、まもなく退職をすすめた上司の強い働きかけで、派遣社員として元職場へ戻ったところ、給与は正社員時の年収500万円から5分の1にダウンした例が報告されています(この銀行ではこの2年間女性正規社員を採用していません)。
 さらに正社員採用の年令制限もあります。たとえば公務員の採用はおよそ30才くらいまでですし、民間でもおおくの場合同じような年令制限があります。こうした制限をとり払い、あるいはゆるめることなしには、転職をした労働者や子育てが一段落した女性が職を求めても、正社員としてまともに働く道はないのです。

2. 非人間的な働かせ方への反発の逆用
 いま一部の若者に、正社員として働くことを避けて「軽やかに、自分の働きたいときに自由に働きたい。自分の時間を大切にしたい」という声が聞かれます。
 これはしかし、若者のほんらいの要求ではありません。自分の時間を奪われてしまう長時間過密労働を嫌悪し、また企業に全人格的忠誠を求められることの多い正社員の息苦しく非人間的な働き方に耐えられないと考え、そこから生まれている「要求」です。
 わが国の労働者の年間総労働時間は依然として1900時間台で、1500時間台のドイツをはじめ西欧の労働者に比べて著しく長くなっています。そして300時間前後のサービス残業がこれに加わるのですからたまったものではありません。定時後も残業を断ることが難しく、年次有給休暇を取ることもままならない、深夜勤務や単身赴任もある、そのうえに人事考課を通じて企業に人格的忠誠を求められる。こういう現実を見て、「こんな働き方を避けよう」と「いっそうフリーの方が…」という気持ちになる若者がでるのは無理もありません。でも、こうした若者の「要求」は実際の問題として満たされるのでしょうか? 以下3でのべるように、結局は、つぎつぎにシフトダウンされ、使い捨てられていく道なのです。そうなることを知って、なお若者が心から不安定雇用を求めているというのは事実に反します。

3. 「新しいライフスタイル」は労働者に幸せをもたらすか
 重要なことは、とにもかくにも派遣や短期雇用など「多様な働き方」は労働者に充実した生活と幸福をもたらしているかということです。冷たく厳しい現実はこれを否定しています。派遣や短期雇用は雇用が不安定なうえに、ごく一部の専門職を除いてはなかなか結婚もできない低賃金です。大まかにいって、同じ仕事をしている正社員の賃金の2分の1、3分の1以下なのです。かりに結婚しても子供が生まれるとその養育と教育に困難をかかえることになります。雇用が不安定なため雇用保険、社会保険に加入できない人も多く、ローンも組むことができないので生活設計が立ちません。しかも職を変えるたびに賃金など労働条件が低下していく傾向を逃れられないのが現実です。
 派遣や短期雇用の増大を労働者のニーズによる積極的なものと声高に言うのは、こうした現実をことさらに覆い隠す作為的なものです。  今求められるのは派遣や短期雇用など不安定雇用を拡大することではありません。そうではなく、正社員の長時間過密労働をなくして、非人間的で息苦しい働き方を変え人間らしくより自由な働き方をとり戻すことです。労働時間を短縮することによって働く機会をもっと増やす、それも正社員として安心して働けるようにすることです。それこそが若者たちのほんらいの要求を実現することであり、二十一世紀を前にして日本の未来をきり開くために避けて通れない課題です。

第2.派遣労働の実情はどうなっているのでしょうか?

1.直接雇用の原則と「専門的労働市場」に限定された派遣労働
 憲法27条の労働権を実際に保障するために労働基準法や労働組合法とともに職業安定法が定められました。職業安定法は、労働関係において労働者を実際に指揮命令する者を使用者とし、その者に使用者としての責任を負わせる直接雇用の原則を確立して、労働力を提供するのみの業務を労働力供給事業として禁止しました。これは中間搾取の禁止(労働基準法6条)、賃金の全額・直接払(同法24条)とあいまって、中間搾取による無権利状態に労働者を追いこんだ雇用慣行を排除するためのものでした。それとともに、使用者に民事上の責任を負わせるだけでなく、監督行政をつうじて、賃金、労働時間から安全衛生まで、適正な労働基準を守らせることにしたのです。
 1986年に施行された労働者派遣法は、「専門的な知識、技術または経験を必要とする業務」と特殊な雇用管理を必要とする業務(同法4条1項)について、対象業務を限定して例外として派遣労働を認めました。派遣労働は、労働者が派遣元に雇用されて、派遣先に派遣され、派遣先が指揮命令し使用するもので、雇用と使用が分離されています。ここではあくまでも直接雇用の基本原則の例外として「専門的労働市場」に限定して派遣労働が認められたのです。その後1996年6月の法改正で適用対象がひろげられ、ソフトウェア開発、機械設計、業務用機械操作、ビルメンテナンスなど26業種が対象とされています。

2.正規常用労働の代替と雇用調整
 労働者派遣法施行以降、派遣労働者は年々増加し1997年度で約86万人(うち登録型労働者約70万人)、28万件、売上高1兆3335億円となっています(労働省「労働者派遣事業の平成9年度事業報告の集計結果について」)。26業種に限定されている現行の規制のもとでさえ86万人まで広がり、雇用者総数に占める割合は1.35%(1996年度)になっています。
 いまの派遣労働の特徴は、派遣先がどのような理由で派遣労働者を受け入れているかを見ると明らかになります。労働省が1997年5月に実施した労働者派遣事業実態調査よると、人件費が割安とするのが25.3%、正規従業員の数の抑制のためとするのが26.7%、雇用調整が容易なためとするのが14%です。現行の労働者派遣法の立法目的とされた「専門的な知識、技術」に関心はなく、もっぱら正規労働者を低賃金の派遣労働者におき替えることと、雇用の調整弁として使い勝手のよいことが、派遣労働のメリットとされているのです。
 実際に労働者の収入を見ると、同じ調査によれば、平均年収でわずか245.7万円(男性395.5万円、女性199.6万円)という低水準に止まっています。「専門的労働市場」26業種は比較的高収入を派遣労働者に保障するといわれてきましたが、一般労働者の平均年収が男性564.8万円、女性229.2万円であることと比較すると、その収入は著しく低く押さえられているのです。派遣会社は、派遣先企業にとって人件費が大幅に軽減されることを派遣のメリットとして宣伝しています。
 また同じ調査によると「派遣労働者が行っている業務の派遣受入れ以前の担当者」は常用労働者が81.3%であり、ここでも派遣労働者による正規常用の代替が進んでいることが明らかにされています。

第3.違法派遣がひろがっているといわれていますが、その実態はどのようなものでしょうか?

1.「請負」を装った偽装派遣
 今日の派遣労働をめぐる根本問題は、自動車や電機など派遣を許さない対象業務について「請負」「業務委託」の形を装う違法派遣が横行し、そこで正規労働者と同じ仕事をしている労働者が、差別的に異常な低賃金と無権利の状態においやられていることにあります。
 たとえば、日本アイビーエム藤沢工場でパーソナルコンピューターの製造現場は、社員30人に対しアルバイトと派遣労働者が20倍を超える740人に達していますが、専門的知識等を要しない生産ラインへの派遣は対象業務の制限を逸脱する違法なものです(全労連、自由法曹団、労働現場からの告発証言集その1、10頁、「日本アイビーエム恒常化する有期雇用・派遣労働違反」)。
 また、正規雇用労働者を大幅に削減したトヨタ関連のダイハツ自動車の職場では、数社の派遣会社から約1000人の派遣労働者が働いています。形式的に「請負」を装った明らかな偽装派遣です。生産ラインに派遣されている労働者の賃金は日給1万円前後、基本給だけみると月20万円前後、税金、食事代、寮費などをさし引くと14万円前後という低賃金です。しかも健康保険に入っていないので病気になっても医者にかかれないといいます(全労連、自由法曹団ほか、労働現場からの告発証言集その3、25頁「トヨタ自動車−『新日本的経営』と女子保護撤廃・派遣労働」、同18頁、「ダイハツにおける派遣労働者の実態について」)。
 このように違法派遣(偽装派遣)がほしいままに拡大しているのは、法の禁止をかい繰っても低賃金労働者を導入して、人件費を低額に押さえる意図からです。

2.派遣を禁止された業務にも
 また認められた範囲を超えて、派遣が禁止されている仕事に従事させる例も広がっています。
 たとえば銀行においては、総人件費削減のために、パート、派遣労働者が正社員にかわって本来業務の中心となろうとしています。銀行の本来業務として派遣を禁止されている受付、ローンの相談窓口、外交の個人顧客担当の業務までに派遣労働者が配置されています。彼女らの出勤日数は若干少ないものの、1日の所定労働時間は正社員とほとんど変わらず、業務内容はベテラン行員の水準が要求されるのに、その賃金は高卒新入者の年収より低い水準におかれています(証言集その3、26頁、「銀行におけるパート、派遣労働者の実態」)。また退職勧奨を受けて銀行を退職した女子労働者が求められて派遣労働者としてその銀行で働くと、正規の行員の年収500万円から5分の1にダウンした例も報告されています(証言集その1、36頁の<事例5>)。

第4.派遣労働の原則自由化で労働者の働き方はどう変るのでしょうか?

1.日経連の要求に応える原則自由化――正規常用労働の代替
 法案は、専門的知識、技術、経験を必要とする業務について、例外として認められた現行の規制をとり払って、港湾運送業務、建設業務、警備業務および当分の間製造業務で労働省令で定めるものを除いたすべての業務を派遣労働の対象として原則自由化しようとしています。この法改正は、日経連の要求にそのまま応えたものです。
 中央職業安定審議会に提出された日経連の意見書は「競争力、企業活力を維持していくために、派遣労働者の上手な活用は企業の命運を決める」「派遣労働を二次的なものと捉えず、就労確保の一方策として積極的に位置づけて活用されるべきである」「常用労働と派遣労働を対峙してとらえるのは実態を反映していない」「別の派遣労働者を派遣することにより常用雇用代替回避のための期間制限は実質的に無意味となる」等と述べて、適用対象業務の原則自由化と派遣期間制限の撤廃を求めています。
 最近も日興證券で、女性事務職全員を人材派遣子会社日興ビジネスサービスに移籍させて、派遣労働者として従前と同じ業務に従事させることを検討していることが報道されています。
 日経連などが強く求めている派遣労働は常用労働に置きかえられる低賃金の恒常的派遣であり、今回の法改正案はこの要求にそのまま応えるものです。
 派遣労働の対象業務の原則自由化は、すべての業務について、正規常用労働者の低賃金で無権利の派遣労働者へのおき換えをもたらすことになります。また日興證券の例が示すように、正規常用労働者は職場を追われ、派遣、短期雇用など低賃金で不安定な雇用にしかつけない事態に追いこまれることとなります。
 また専門的知識等を要する業務に限定されていたことによりそれなりの水準を維持していた派遣労働者の賃金も、すべての業務に無制限に広がるなかで、大幅に低下することも必至です。

2.人間カンバン方式――低賃金・無権利の不安定雇用
 正規常用労働におき換えられる派遣労働者の地位はまったく不安定なものです。企業が必要とする間は脱法的に契約を更新して働き続けることになりますが、ひと度不要となれば、その労働者と家族はたちどころに路頭に迷うこととなります。前述の日経連の意見書など、大企業は「必要なときに必要な労働力を安上がりに確保したい」という願望を露わにしています。派遣労働の原則自由化はこうした「人間カンバン方式」の欲求に応えるもので、労働者にとっては低賃金・無権利の不安定雇用の押しつけを意味します。トヨタの悪名高い「カンバン方式」はそれでも部品などが対象だったのですが。ここでは生身の額に汗して働く人間を「ジャスト・イン・タイム」でみつくろうというのです。

3.正規常用雇傭の崩壊――雇用のあり方の根本的な転換
 いま派遣の対象とされている26業務に従事する労働者は全労働者の8分の1で、うち約86万人が派遣労働者となっています。今回の法案どおり原則自由化されれば労働者全体の約3分の2までが派遣対象業務に就労することになり、派遣労働者も比例して増加するものとして単純計算すれば、現在の5倍、425万人以上になることが推計されます。
 日経連が雇用三分化策をとり、とくに派遣の拡大を積極的に進めようとしており(「新時代の日本的経営」)、労働省がこれを積極的に促進しているもとで、その原則自由化を法定するなら、一気に派遣労働者が飛躍的に増加すことになります。
 派遣労働の自由化は、新規学卒から定年までの終身雇用を基本に大企業と公務員、そしてその周辺に形成された、それなりに安定した雇用のあり方を崩壊させ、低賃金・無権利・不安定雇用を雇用の基本にしようとするものです。政府と財界が、雇用をめぐって、有料職業紹介事業と労働者派遣事業の自由化を規制緩和のいの一番に挙げているのは、正規常用労働をごく例外的なものとして、これを前提とした労働法の規制を根本から覆そうという意図からのことです。
 こうした労働者派遣事業の対象業務の原則自由化は、労働者の権利を奪いその生活を危機に陥らせ、耐え難い苦痛をもたらすものです。

第5.今回の「改正」はILO181号条約をふまえたものというのは、ほんとうですか?

1.ILO181号条約の趣旨
 政府と労働省は、ILO181号条約(民間職業紹介所条約)が労働者派遣や有料職業紹介について対象業務を限定していないことを、派遣労働の原則自由化の口実にしています。
 しかし諸外国では直接・常用雇用が原則となっており、派遣労働はあくまでも一時的臨時的必要に応じたものとされ、従ってその就労期間もごく短い期間に規制されています。また日本のような著しく差別的な賃金格差もないため、常用労働の派遣労働へのおき換えも行われていません。ILO181号条約は、あくまでもこうした一時的臨時的必要に応える短期間の派遣労働を前提にして、雇用と使用が分離されることからくる派遣労働者の不安定な地位をふまえ、その権利を保護する諸々の制度的保障を求めているのです。この条約を口実に常用労働に代替する派遣労働を制限なく拡げることを求めるなどは、事態を逆さまに画くものです。
 ILO181号条約をいうなら、条約に従って、派遣労働者についても自からが結社の自由と団体交渉を通じて労働条件を改善する権利を認めるべきです。また条約に従った派遣先労働者との差別の禁止、さらには個人情報の保護と諸権利の保障が求められています。

2.諸外国における派遣労働の厳しい制限と同等待遇
 諸外国では派遣労働の対象業務とこれを導入する事由を厳しく制限しています。たとえばイタリアでは対象業務が制限されているほか、例外的職種で一時的利用の必要がある場合と休業中の労働者の代替の場合に限られています。フランスでも欠勤等代替要員の補充や企業の業務量の一時的変化への対応、失業対策などに制限され「派遣先企業の通常かつ恒常的業務に関わる雇用を継続的に充足すること」は明文で禁止されています。さらにイタリアや韓国では、人員削減を行った事業所では一定期間、派遣の導入を禁止されています。
 そして、派遣先で一定期間を超えるときには正規直接雇用への自動的な転換を法律で定めるのが一般的です。ドイツでは期間は9カ月でこれを超える場合は正規直接雇用となり、フランスでも派遣の更新は1回で18カ月以内とされ、違反すれば直接雇用とされています。正社員のリストラとその代替のために派遣を導入しようとする日本とはまったく異なる事情にあります。
 またEU諸国で派遣労働の比率が低水準に止まっているのは、企業を超えた全国労働協約がほぼ共通して80%以上の労働者に適用され、産業別の労働条件が規制されているため、派遣労働について日本のように差別的に著しく低い賃金や劣悪な労働条件を押しつけられることがないからです。
 またフランスなどでは派遣労働者と派遣先の労働者の同等待遇を法律で定めていますが、それ以外のEU諸国でも同一労働同一待遇の基本が維持されています。なお、イギリスでは、特別な規制はなかったがブレア政権の下で労働者派遣事業に対する法規制の動きがあります。
 こうした諸外国の実情と異なって、日本では同じ労働に従う派遣労働者の低賃金が正規労働を派遣におき換える誘因になっており、また請負を装った偽装派遣がひろがる原因となっているのです。
 こうした日本の状況のもとで、唯一意味のある規制が26業務への限定です。この唯一の規制をとり払うことは、今日はばひろく広がっている違法派遣を追認し、規制の緩和をこえて事実上すべての規制の撤廃をもたらすことになります。

第6.改正案では派遣期間が1年に制限されているので、問題はないといわれていますが?

1.実効性を欠く尻抜けの規制
 労働者派遣事業は臨時的・一時的な労働力の需給調整に関する対策のために設けられたものとされていますが、常用労働者との安易な代替を許さぬためには厳格な期間制限を設けなければなりません。
 この点、今回の法案では、@派遣先の事業所その他派遣就業場所ごとの同一の業務について1年を超える期間継続して労働者派遣を受けてはならず(法案40条の2第1項本文)、 A派遣元は@の規定に抵触することになる場合には抵触することになる最初の日以降継続して労働者派遣を行ってはならず(法案35条の2)、B派遣先は同一の業務に継続して1年間従事した派遣労働者が同一の業務に従事することを希望する旨を派遣先に申し出た場合には遅滞なく雇い入れるように努めなければならない(法案40条の3)、C期間制限に違反した場合に労働大臣は必要な措置を勧告することができる(法案49条の2)とされています。
 しかし、これは実効性のない尻抜けの規定です。@派遣期間が限定されるには「当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの」、「同一の業務」という要件があるため実際には「事業所」や「業務」を形式的に変更してしまえば何度でも事実上の繰り返しが可能であり期間制限を簡単に免れることができ、A期間制限に違反した場合に取りうる措置が労働大臣の勧告だけでは取り締まりの実効性に乏しく、B派遣期間終了に当り派遣労働者が派遣先に同一の業務に従事することを希望した場合の派遣先の雇用継続の努力義務を定めるだけでは1年の期間制限が守れないからです。

2.求められる規制
 派遣期間を実際に1年に規制するためにはつぎの3点が必要です。
 第1に、派遣期間を過ぎて労働者が希望する場合には、法案のような単なる努力義務ではなく、派遣先に直接雇用を義務づけるべきです。現にドイツやフランスでは、派遣期間を過ぎて派遣労働者が希望する場合には派遣先に直接雇用を義務づけています。
 第2に、期間制限に違反した場合には罰則公表制度などにより強力な措置を規定すべきです。法案のように労働大臣の勧告だけでは取り締まりの実効性に乏しいと言わざるを得ません。
 第3に、そもそも派遣事業が臨時的・一時的な労働力の需給調整に関する対策のために設けられたものとの趣旨は現行法で認められている派遣にも妥当しますから、現行法上の26業種の派遣にも期間制限を導入すべきです。

第7.プライバシー保護など派遣労働者の権利の保障は十分でしょうか?

1.個人情報の流出
 派遣元には、必然的に大量の労働者の個人情報が集中します。しかし、現行派遣法には労働者のプライバシー保護の規定が一切ないため、かねてからその問題点が指摘されていました。
 その問題点が現実化したものが、1998年1月に明らかになったテンプスタッフ情報漏れ事件です。大手派遣業者テンプスタッフに登録している女性約9万人分のデータが、その杜撰な情報管理のために盗まれ、「容姿ランク付リスト」としてインターネットのホームページで売り出されるという前代未聞の事件でした。この事件は、民間の派遣業者に大量の個人情報を管理させることになる労働者派遣制度の問題点と、労働者のプライバシー保護のための具体的規制の必要性を浮き彫りにしました。
 こうしたことから、法案には「派遣元事業主等は、正当な理由がある場合でなければ、業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。」(24条の3)という規定が新設されました。
 しかし、労働者の個人情報が派遣元(派遣先にも)に集中し、しかもそれが電子情報化され、漏洩や盗難などの危険性が飛躍的に増大している現在、一般的抽象的に守秘義務の規定を設けただけではおよそ実効性はありません。法案は、守秘義務を定めるだけで、これに違反した場合の罰則規定がないため、守秘義務違反であっても効果的な制裁措置はありません。これ自体、法案の重大な欠陥といえるでしょう。
 また、労働者のプライバシーを保護するためには、入り口の情報の収集段階で、派遣事業の目的に不必要な情報を収集すること自体を禁止する必要があります。前述のテンプスタッフ事件では、派遣元で女性の容姿についてのランク付がなされていたことも明らかになっています。こうした明白な人権侵害を防止するために、情報収集段階での規制は急務となっています。
 さらに、派遣労働者の個人情報は、派遣元だけにとどまるものではなく、派遣先等にも当然に蓄積されていきます。したがって、労働者のプライバシー保護のための規制は、派遣元に止まらず派遣先に対しても及ぼさなければならないことは当然です。
 法案は、こうした問題点について何らの手当もなされていません。法案は派遣元の守秘義務を新設しましたが、派遣労働者のプライバシー保護については、およそ不十分で実効性に乏しいと言わざるを得ません。

2.プライバシー保護のため必要な規制
 ILO181号条約は、6条で、労働者の個人情報の保護・プライバシーの尊重を求めており、ILO188号勧告は次のような具体的な措置をとることを求めています。
 「求職者の職務への適性を判断するために必要でない個人情報の記録禁止」(11項)「正当な収集目的があるか登録希望のあるときに限っての個人情報の保管」(12項1)「派遣労働者による個人情報の閲覧・調査・削除・訂正の権利」(12項2)「目的外情報の使用禁止・健康情報の使用禁止」(12項3)などです。
 派遣労働者のプライバシー保護のためには、このような国際基準を盛り込んだ法規制を導入することが不可欠であると共に、それに違反した場合の効果的な罰則規定を設けることが必要です。

3.派遣労働者の権利保障のため求められる規制
 法案では、派遣労働者の就業条件確保のための措置として、@派遣元や派遣先が法律や命令の規定に違反する場合には、派遣労働者がその事実を労働大臣に申告することができ(49条の3第1項)、派遣元や派遣先は派遣労働者がこの申告をしたことを理由に解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならない(同条第2項)、A公共職業安定所は派遣就業に関する事項について、労働者などの相談に応じたり、必要な助言その他の援助を行うことができる(52条)との規定が新設されました。
 しかし、これらの規定は、派遣労働者の保護としてまったく不十分です。  現在の派遣労働者のおかれている現実は極めて厳しく、@違法派遣の横行、A雇用の不安定、B正社員との労働条件の格差、C集団的権利の行使が困難等々の様々な問題点が指摘されており、「不安定」「差別」「孤立」というのが派遣労働者の共通した特徴であるとさえ言われています。
 法案での新設規定自体については賛成ですが、こうした具体的な問題点について抜本的な改革をせずに、「申告制度の創設」や「職安での相談・援助」という規定を設けても「ないよりまし」程度の意味しか持ち得ないでしょう。
 そもそも派遣労働者が「申告」や「相談」をしなくても済むような抜本的な規制をすることが急務なのです。
 派遣労働者を保護するためには、以下に述べるような具体的な法整備が必要であると考えます。

  1. 適用対象外の業務について派遣労働者を受け入れることを刑事罰で規 制するとともに、その場合に派遣先との直接の労働契約関係の成立を認めること
  2. 派遣先に団交応諾義務を明示すること
  3. 派遣契約の解除には正当な理由を要することとする
  4. 派遣労働者と派遣先企業の正規労働者との同一労働同一賃金を保障し、その他の労働条件についても平等待遇とすること
  5. 労働者からの料金・経費の徴収の原則禁止
  6. 外国人労働者、児童労働者を保護するための措置をとること
  7. 派遣元と派遣先との連帯責任制度を導入し、派遣労働者の権利保護を実効化すること
  8. 違反の取り締まりの組織・人員を整備すること

第8.登録型派遣労働者に生じている問題点と、その解決の方策は?

 1985年の派遣法制定時に常時派遣会社が労働者を雇用してその生活を維持していく常用型のほかに、登録された労働者を派遣会社が派遣期間のみ雇用して派遣する登録型派遣が認められました。1997年に派遣労働者86万人のうち登録型労働者は70万人を占めています。この登録型派遣労働者については、短期雇用の反復更新や間欠的な雇用であることから、労働者の権利行使が極めて困難となっています。
 具体的には、@産休・育休、年次有給休暇を取得することが困難、A現行の雇用保険法では1年以上の雇用継続の見込みがあることを資格取得の要件としていることからくる雇用保険への不加入、長期安定的な雇用を前提としている厚生年金、健康保険の不加入、B交通費の不支給、C労働者の個人情報の杜撰な管理によるプライバシー侵害、D有料講習と派遣紹介不履行などがあげられます。
 このような弊害を抜本的に解消するためには、常用型しか認めていないドイツの労働者派遣法の例にならって、登録型派遣を廃止するべきです。当面、登録型派遣を残すとしても、労働者の保護に特別な配慮をすることが不可欠であり、派遣会社に対し、以下に述べる法的義務を明確にする必要があります。

  1. 一つの企業での長期の継続雇用を前提にしている労働法・社会保障法の各種制度(年次有給休暇、産休・育児制度、社会保険、雇用保険、退職金制度等)について、登録型派遣労働者にも適用すること。
  2. 登録労働者と派遣会社との間の契約上の義務として、@派遣就労斡旋義務、A派遣労働者の個人情報保持義務、B技能訓練義務などを労働者派遣法上の義務として明確にすること。
  3. 登録しても派遣就労できないときは、一定の所得保障(休業手当等)を派遣元に義務づけるか、雇用保険上の給付を義務づけること。
  4. 加入要件を満たしながら、派遣会社の責任で社会保険に加入できない労働者については、派遣会社やそれを黙認してきた行政の責任を踏まえて、保険料の遡及納付については労働者負担とせず、派遣元や派遣先の企業の負担とすること。
第9.有料職業紹介の自由化はなにをもたらすのでしょうか?

1.有料職業紹介事業の原則自由化
 現在の職安法では、一部の例外を除いて有料の職業紹介を行うことを禁止しています(法32条1項本文)。有料職業紹介事業を港湾運送・建設等を除いて原則自由化する今回の法案は、労働者の雇用機会の拡大や職業選択の自由の拡大などといううたい文句とは逆に、正規雇用から非正規雇用へのおき換えを促進し、人件費コストを大幅に削減しようとする経営者側の要求を実現するものです。法案の最大の問題は、職業紹介事業への民間業者の原則参入自由化(法案第30条以下)と民営職業紹介事業の取扱職業の原則自由化(法案第32条の11)にあります。これは、強制労働や中間搾取、人身売買など、有料職業紹介事業が惹起しがちであった弊害から労働者を保護するとともに、職業選択の自由や職業紹介における均等待遇を実質的に担保する現行職安法の制度趣旨を全面的に没却するものです。
 自由化で求人の情報が多く出まわるのですから、一見すると就職のチャンスが増えるように思われます。しかし、最近の有効求人倍率が0.5倍前後に固定していることに示されるように、民間の職業紹介所がたくさんできても、世の中の求人数が増えるわけではありません。たくさんの情報がでてもたくさんの人が見るわけですから、一つの求人に対して応募者が増え、いま以上に競争が激しくなります。たくさんの情報がでて、有利になるのは職を求める人ではなく、企業側です。採用する・しないを決めるのは企業であって職を求める人ではありません。

2.職業安定所と民間の職業紹介事業
 憲法第27条では国民の勤労の権利が保障されています。これは、国が責任を持って、国民の働く権利を保障しなければならないということです。それには、当然、無料で国が職業紹介をしなければなりません。このために設けられた職業安定所と営利を目的とした民間の有料職業紹介所とは基本的に違うものです。
 公共職業安定所は、求人会社より立場が弱い求職者の保護を第一義と考え仕事を紹介しています。採用条件が労働基準法や最低賃金法に違反していたら、求人会社を指導します。また、求職者が働きたい会社の採用条件にあわない場合は、求人会社に採用条件をゆるめてもらうなど指導をしています。これに対し、民間の職業紹介所の場合、まず利益をあげなければなりません。その紹介所が利益をあげるためには、ひとまず求職者を就職させなければなりません。つまりは、民間の職業紹介所にとっての一番のお客さんは、求職者ではなく手数料を払ってくれる求人会社なのです。そうなると就職を成立させるために、求職者の希望の賃金や働く時間などの条件が下がっても、求職者の方を納得させて職を紹介してしまうことが当然考えられます。

3.無料職業紹介事業、そして派遣会社との兼業も
 法案では、営利法人による無料職業紹介事業も認めることとしています(法案第33条1項)が、これはリストラを望む企業自身が職業紹介事業を行うことに道を開くもので、移籍出向(事実上の解雇・再就職あっせん)の強要を合法化することになり、大企業を中心に行われているリストラ「人減らし」をいっそう促進することになります。中職審「建議」では、「社会貢献等の目的から無料職業紹介事業を行う場合も想定される」ことを容認の理由としていますが、実際にはそれとは逆に、正社員の追い出し策として悪用される危険性を持つものと言わざるを得ません。
 また法案では派遣会社と職業紹介所を兼ねて営業することが認められています。幅広く求人情報を提供するふりをしながら仕事を求める人を集め、自分の営む派遣会社に就職させて派遣社員として別の会社で働かせることが、この場合、行われます。求人する会社は、一般社員だろうが派遣社員だろうが、仕事をしてくれればどちらでもかまわないはずです。むしろ、必要でなくなったら一方的に契約を解除でき福利厚生費もかからない派遣社員をとることが、十分考えられます。

4.求められる労働者の権利保護
 法案にはいくつかの労働者保護規定が設けられていますが、全く不十分な内容に止まっています。
 第1に、今回の法案の最大のポイントとされる個人情報の取り扱いについて、罰則によって禁止されているのは個人情報の漏えいのみ(法案第51条、51条の2)で、個人情報の収集や保管についてはその具体的内容を法的強制力を持たない指針で定めることとしています。
 第2に、労働者保護を真に実効あるものにするためには、中間搾取の排除(紹介手数料の適正な設定)や職業紹介を行う民間業者に十分な情報(特に求人情報)開示義務を課すなどの措置が不可欠ですが、これらについての明確な規定を欠いています。
 第3に、現在でも虚偽あるいは不正確な情報をめぐってのトラブルが生じている文書募集(求人情報紙誌)に関して、法案では現行法第42条の「平易な表現を用いる等その的確な表示に努めなければならない」を超える新たな規制は盛り込んでいません。
 労働者保護措置を実効あるものとするためには、公共職業安定機関の体制と権限が決定的に重要です。しかし、実際の行政体制はこれとはほど遠いものである上に、「行政改革」の流れの中で現状維持さえ厳しい状況にあります。日本では、ヨーロッパ諸国で民営職業紹介事業や労働者派遣事業に関する規制が緩和されていることは紹介されますが、他方で、これらの国では労働者保護のための規制が日本とは比較できないほど高い水準にあること、さらに日本の職業安定行政機関と比べると実質的には数倍の職員を擁し、労働者保護措置を実効あるものとして担保していることなどは、ほとんど顧みられることがありません。ILO第181号条約採択の重要な要因として、民間職業紹介事業による弊害から労働者を保護することがあったことを考えれば、とりわけ日本においては、労働者保護のための法制度を充実させることと、これを実効あるものとするために公共職業安定機関を抜本的に体制強化することが不可欠です。
 いま本当に必要なことは、上に述べたような問題点を持つ職業安定法や労働者派遣法の「改正」を行うことではなく、職業紹介の場における労働権保障が徹底されるよう、労働者保障規定を少なくともILOの定める水準に到達させることです。

第10.派遣労働の原則自由化は深刻な不況にどのような影響をえるのでしょうか?

 正規常用労働者を派遣労働者におき換える派遣労働と有料職業紹介の自由化は、労働基準法の改悪とあいまって大企業中心に30兆円の人件費削減をもたらします。しかしこのことは消費を極限まで冷えこませ、不況をいっそう深刻なものとし、国民経済にとり返しのつかないマイナスをもたらします。また同時に労働保険や社会保険から事実上排除されている派遣労働者の著しい増大は、わが国のセーフティネットシステムを崩す危険を現実のものとします。

1.大企業は大もうけ
 派遣労働と有料職業紹介の自由化は、正規常用労働者を派遣労働者におき換えるものです。二分の一ないし三分の一の低賃金を労働者に押しつけ、自らは社会保険料や退職金なども負担しないですむ大企業に、大もうけをもたらすことになります。
 すでに二度にわたる労働基準法「改正」で大企業は、@新裁量労働制や変形労働時間制の要件緩和によって、より過密に長時間働かせても時間外手当を支払わなくてもすむ、Aもともと低賃金の女性労働者を深夜まで働かせることができる、B一人の労働者により長時間過密労働を押しつけることができるので、余った労働者をクビにして人件費を浮かすことができるといった道筋が開かれています。
 そのうえで派遣労働と有料職業紹介の自由化により、不安定雇用労働者を拡大して正規常用労働者におき換えようというのです。前述のように差別的低賃金・無権利の派遣労働者は今日の86万人から一挙に400万人を超えることが推計されます。
 篠塚裕一氏は、労働基準法改正と労働者派遣法改正による「人件費節約」は総額で年間30兆円を超えるものと試算しています(『労働運動』98年2月号)。これは一年間に労働者全体の懐から30兆円もが企業に移されることを意味します。

2.さらに冷えこむ景気
 しかし労働基準法と労働者派遣法そして職業安定法の「改正」による「人件費節約」が、かつてない深刻な不況に悩む日本経済の行方にどのような意味をもつかを、真剣に考えてみる必要があります。
 2月の完全失業者は初めて300万人を突破して一気に313万人となり、完全失業率も比較可能なデータのある1953年以降最悪の4.6パーセントに達しました。こうした事態を招いている根本には大企業による雇用調整=人減らし「合理化」があります。
 しかも有効求人倍率は依然として0.49倍に止って、求人が絶対的に不足しています。こうした状況のもとでの派遣労働と有料職業紹介の自由化は、正規常用労働の低賃金・無権利の不安定雇用へのおき換えを一気に進めることになっても、雇用の拡大には結びつかないのは、明らかです。
 そして正規常用労働の激減と低賃金の派遣労働などへの代替は、今日の不況をいっそう深刻なものにします。一昨年、消費税率の引上げをはじめとする9兆円の国民負担増が消費購入力を減少させ、今日の不況を招いたことはおおきな政治問題となっています。それに加えて労働法制の全面的「改正」で30兆円もの人件費削減を進めることが、いっそう消費を冷えこませ国民経済にとり返しのつかないマイナス効果をもたらすことも、あまりにも明らかなことでないでしょうか。
 さらに将来の不安をかかえる不安定雇用労働者がいっそうサイフの紐をしっかり結ぶことも当然のことです。3年先、5年先の生活がどうなるかを予測できない派遣労働者などが、一生のこととして家を買うローンを組むことはできませんし、銀行なども貸出しをするはずもないのです。安定した収入を見こむことができず、しかも雇用保険や社会保険に加入できず将来におおきな不安をかかえる登録型の派遣労働者の割合が著しく高いわが国の派遣労働の実情も、いっそう消費を冷えこませる重石として働いています。

3.セーフティネットを崩壊させる社会的不公正
 今回の法案で自由化され、一気に拡大されようとしている派遣労働者は、つねに失業の危険にさらされることになります。他方で現行の雇用保険は一年以上雇用を継続することを制度の前提としているので、一年以内の登録型派遣労働者は雇用保険の保険者となることが困難なまま放置され、ひと度解雇されるとなんの保障もないまま放り出されることになります。
 これに加えて厚生年金や健康保健も長期安定的な正規常用労働を制度の前提としていますから、その対象外の不安定雇用労働者で常用労働者に代替していくことは、制度の基盤をほり崩すものとなりかねません。
 失業、疾病、高齢化など、労働者と国民のライフプランを保障するため長年にわたって整備されてきた労働保険や社会保障のセーフティネットシステムが崩される危険は現実のものとなっています。
 しかもこの危険は、労働保険や社会保険の企業負担コストを大幅に削減し、派遣労働者などの失業や病気による生活危機を本人と生活保護制度など国と自治体に押しつけようとするよこしまな大企業の欲望によってもたらさられるものです。社会的不公正も極まるこうした大企業の横暴を許してはならないと考えます。