<<目次へ 団通信1049号(3月1日)


内藤 功 有事法制をめぐる情勢と論議 (二・一五団有事法制全国活動者会議での発言)
齊藤 園生 三月四日〜八日までに 有事立法阻止の一斉宣伝を
松村 文夫 住民監査請求 県会議長「海外視察」返還させる
守川 幸男 明治乳業賃金差別不当労働行為救済申立事件で都労委に続き中労委が不当命令!
鈴木 亜英 ロースクール時代を迎え、団の後継者養成はどうあるべきか
松波 淳一 松波団員からの手紙の紹介
山田 泰 白熱した徹底討論「どうする、どうなる裁判員制度」
中野 直樹 司法制度改革推進本部への申入れ(二回目)
小賀坂 徹 今日までそして明日から 極私的自由法曹団物語〈序章〉−その6
団本部事務局 三・三〇「リストラ反対、雇用と地域経済を守る全国交流集会」の案内

有事法制をめぐる情勢と論議


(二・一五団有事法制全国活動者会議での発言)


東京支部  内 藤  功


 一五四国会の有事法制をめぐる攻防は、衆院予算審議終了後の三月、重要な段階に入るでしょう。米大統領の「一般教書演説」に表明された、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」ときめつけ、ソマリア、フィリピン、等を名指しての無法な戦争拡大は各国の反対を招いています。米国防総省が昨年九月三〇日発表した「国防戦略の四年ごとの見直し」に、米国の介入を拒否する国家への「強制介入戦略」が示されています。国際法の原則を無視して他国に武力干渉する横暴な戦略です。小泉政権は、これに追随加担の道を歩もうとし、与党議席の多数を恃んで、有事立法を提出しその成立を策しています。アメリカの無法な戦争拡大への日本国民動員の法制が有事法制です。こういう時こそ、情勢を全面的に、歴史的に、冷静にみて、しかも気迫をこめて積極的に行動することが大事です。

 〇一年一〇月、米軍の報復戦争開始以降、在日米軍基地では、米軍と自衛隊による戦時状態の物々しい警備が行なわれています。なぜか。米軍と防衛庁の眼中には、純然たる「日本有事」「武力攻撃事態」などはなく、米軍作戦の結果として、戦火が沖縄と日本本土、とりわけ米軍基地に及ぶ事態を中心に考えているからです。一月二二日、内閣官房が自民党政調の国防関係三部会に提示した「有事法制の整備について」と題する基本方針(「赤旗」一・二三)は、国会開会時点での政府の一応の到達点でした。そのなかで「有事法制は、武力攻撃の事態が中心」[2・(1)]であるが、「武力攻撃に至らない段階から適切な措置をとることが必要」[2・(2)]だとしている箇所は重要です。「武力攻撃に至らない段階」としてまず想定されるのは「周辺事態」、つまりアジア太平洋で米軍が軍事行動に出撃する事態です。とりわけ周辺事態法一条にいう「そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」です。そのような事態においては「防衛出動待機命令」下令がありえます。武力攻撃はないのに、事態が緊迫し、防衛出動の発令が予測され、防衛庁長官が必要と認めれば「防衛出動待機命令」を発すると自衛隊法七七条にあります。二月五日、政府が与党三党に示した「有事法制の基本方針」は、「有事法制の対象」として、自衛隊法七六条の防衛出動にいたらない、国会承認を要しない七七条の出動待機命令の事態をもって「武力攻撃事態」としています。ちなみに三矢研究では、第三動で、米太平洋軍が、韓国救援作戦開始を発令した時点で自衛隊に「待機命令」が下令されています。その段階から、有事法制を適用するのです。その場合、自衛隊法第一〇三条が発動されます。知事または防衛庁長官と自衛隊各級指揮官の「公用令書」により、@土地・建物・施設の収用使用命令、A軍需物資の保管命令、B医療・土木建設・運輸の関係者への従業命令を出す。自衛隊法一〇三条の適用時期を早める、罰則を付ける、命令の手続きを決めた政令をつくる、との狙いが明らかです。その他、予備自衛官の招集、陸海空統合部隊の編成、海上保安庁を自衛隊の統制指揮下におく、電気通信施設の利用、公共秩序維持のための行動、部隊緊急移動の際の土地の通行、工作物の撤去、要員保護のための武器使用等ができるようにする。このような臨戦態勢の早期前倒し実施の法制化が突破口です。かような自衛隊の臨戦態勢の早期実施は、自衛隊の作戦上の要求だけでなく、日米共同作戦準備のスピードを両軍で整合統一するという、米側の積年の強い要求にこたえるためです。米軍との共同作戦の準備を統一しようというのです。世界規模での米軍の危険な作戦に一層巻き込まれるおそれがあります。米軍の行動のための有事法制も引き続き提案するとしています。日米ガイドライン(九七・九)は「中央政府、地方公共団体の権限能力並びに民間の能力を適切に活用する」ことを約束しましたが、現周辺事態法九条は、政府は自治体・民間に、必要な協力を求めるまたは依頼する」という条文にとどまり、罰則がないので付けようというのです。九九・三・二六衆院ガイドライン特別委での志位議員追及の統幕会議資料は重要です。米軍対日要求事項は一〇五九項目にのぼります。たとえば・・・神奈川、沖縄での大量軍需物資の輸送。川上弾薬庫からの弾薬輸送(一〇トントラック一四八台)。相模補給廠(給水。給電。ゴミ処理。汚水処理)。民間港湾使用。避難民後送支援(簡易寝台、毛布三万セット)。民間空港(二四時間通関体制)。民間空港(施設、通信、労務、宿泊給食)。岩国(トラック。トレーラー一三七〇台。荷役器材。クレーン。フォーク。一一四台)。コンテナ(沖縄八六五。佐世保二四〇。岩国二二八)。これらの物品役務を自衛隊は米軍に提供します。同時に自衛隊は自治体民間に物資土地労務を徴集動員します。有事法制とは「周辺事態」における米軍の世界規模の作戦支援のための罰則つきの立法です。

三 有事法制反対の論議は、民主勢力が意識的に主動的に積極的にまきおこす必要があります。以下、論議の観点を列記します。@有事法制は、平和、憲法、人権、民主主義の根本にかかわる深いテーマです。ひとそれぞれに、思いと語り口は違って当然です。「語り口」の「定式」はありません。縦横無尽に、色々な角度から、論理と情感とにより自在に論ずることが可能です。A政府の論法だけに振り回されず、われわれの立脚点をしっかりふまえた論議が大事です。立脚点は国連憲章の原則(前文。第一、二条)であり、日本国憲法(前文、九条、一一条、一二条、一三条。九七条。九九条。一八条。二五条。三一条。二九条。九二条など)です。B「外国からの武力攻撃の備え」とは虚構の口実です。結局アメリカの無法な戦争への日本国民動員のための法制です。米国防総省が〇一年九月三〇日発表した「国防戦略の四年ごとの見直し」で示された、米国の介入を拒否する国家への「強制介入戦略」をみますと、まさに、他国の内政に武力で干渉する国際法無視を正当化する横暴極まる戦略です。日本軍国主義の一九四〇年、四一年の「北部仏印進駐」「南部仏印進駐」を想起させるものがあります。Cそれは罰則をともなう法制です。軍事優先の基本的人権侵害の法律です。戦争のため、軍隊のために、人、物、カネが動員・協力させられる法制です。D有事立法の典型、原点としての自衛隊法一〇三条(第一分類)を強調すべきです。一〇三条に罰則をつけ、適用時期を早める法文改定をし、命令下令の具体的手続きを政令で整備して、張り子の虎に、魂を吹き込み動かそうというのが第一の狙いです。Eそれはとりわけ、航空、海員、自動車、港湾、医療、通信、自治体などの労働者・労働組合の生命安全にかかわってくる問題です。F政府の主張とかみあわせての反論としては、政府のふりまく「有事法制は、国民の生命・財産・安全を守る」という大ウソを打ち破ることがポイントです。有事法制は、逆に、軍隊優先、国民収用と動員の法制です。軍隊は国民の安全を守れないし、守りません。有事立法と軍隊は、所詮、軍隊自身と、軍隊の施設・武器・装備自体を守るためのものです。太平洋戦争末期の「満州」での関東軍の潰走、沖縄戦での日本軍による住民犠牲などは忘れることのできない歴史的事実です。

 「第三分類」は住民の避難保護誘導をうたいますが、「第一、第二分類」の動員・徴集とは両立しません。大規模災害対策とは違います。国土狭小、全土戦場、米軍との共同作戦という日本の条件の下で作戦遂行と避難保護は両立できません。第三分類の所管省庁が決まらず、作業が進まないのは、有事立法は住民保護を目的としていないからです。G有事法制は、周辺事態法、報復戦争参加法、PKO法など自衛隊の行動範囲を拡大する法律よりも一歩踏み込んで、軍隊が市民の日常生活と私権のなかに軍靴で侵入し入り込んでくるという法制です。Hどうしたら有事をおこさないことができるかの論議も大事です。アメリカ中心の横暴勝手な支配秩序は許さず、国連憲章の原則に基づく平和秩序をめざすこと。日本国憲法に立脚した自主平和外交を展開する。侵略戦争の反省のうえにアジア諸国民との友好をはかる。日本国憲法前文の「恐怖と欠乏から免れ平和のうちに生きる権利」にもとづく最も効果的なNGO活動の支援をはかる。日本国民の選択する道についての大きな議論が必要です。以上のようなことを自分のことばでよく話し、それが日本中に広がれば、反対世論はかならず多数をしめるはずです。

 一九七七から七八年にかけて日本の平和民主護憲勢力は、広範な国民と共同して、福田内閣の有事立法提案に反対する大闘争を展開し、彼らをひるませました。防衛庁は「八項目」の検討項目を撤回し、一九七八年九月二一日、内閣は「有事立法の研究は近い将来の法制化を前提としない」との見解を出しました。しかし、二四年たって、小泉政権は積年の宿願、有事立法の国会提出を強行してきました。平和を愛する国民の世論に依拠してこれを阻止し、あわせて、われわれの陣営を拡大する好機としましょう。


三月四日〜八日までに 有事立法阻止の一斉宣伝を


有事法制阻止闘争本部 担当事務局次長  齊 藤 園 生


 有事法制の課題は、地域においてはまだ足が出ていない状況です。各地でまずは宣伝活動で、問題点を大きく広げ、訴えてください。闘争本部では二月一五日の有楽町マリオン前宣伝に続き、三月五日午後六時〜七時に新宿駅西口で宣伝行動を行います(可能な方はふるってご参加をおねがいします)。

 さらに三月四日から八日の一週間、各支部、各事務所での一斉宣伝行動を呼びかけています。ぜひ各支部、事務所で具体化していただき、決まりましたら日程、内容を本部までFAXでのお知らせをお願いします。

 宣伝用に大量にビラを作りました。無料でおろしますのでご活用ください。注文はFAXでお願いします。


住民監査請求


県会議長「海外視察」返還させる


長野県支部  松 村 文 夫


、長野県議会では、県会議長が任期中ヨーロッパに「視察旅行」に行くことが慣例となっています。議長は、通常一年交代ですので、毎年行っていることになります。

 長野県民オンブズマン会議(代表松村・事務局長内村団員)では、一昨年一二月行われた議長(現参議院議員)のイタリア視察について昨年末住民監査請求をしました。

 その結果、県監査委員会は、この二月一八日議長について費用二三四万六八二〇円のうち一六七万円、随行職員について費用一四八万三〇九五円のうち五一万七九〇〇円を返還することを命じる監査結果を出しました。

、「行政視察」と言いながら、中田選手出場のサッカー試合を試合日が変更されたのに従って、視察行程を変更してまで、観戦し、報告書には「中田選手出場せず、残念」などと記載しています。また、ローマ市役所視察を土曜日に設定し、休館のために庁舎内に入ることもできないありさまです。

 さすがに、監査委員も、この全てを肯定できず、部分的に(例えば、航空費の半分など)返還を命じたものです。

、長野県で監査委員が返還を命じたのは初めてです。

 私が、一月一五日に行われた意見陳述において、本件事案については内村団員にまかせて、「私が担当している住民訴訟からみると、過去の監査結果は、県当局の言い分を上乗りするだけである」ことを力説しました。聞いていた監査委員は顔を紅潮させ、翌日の新聞では、「異例の意見陳述」などと書き立てられました。

 一部しか返還を命ぜなかったことから、住民訴訟提起や他の議員(日本共産党を除く)による東南アジア「視察」に対する住民監査請求も検討中です。

 田中知事に対してあれこれと難癖をつけている自民党系から社民党系までの県会議員も戦々恐々となっているようです。


明治乳業賃金差別不当労働行為救済申立事件で都労委に続き中労委が不当命令!


千葉支部  守 川 幸 男


 本年二月四日、中央労働委員会は、明治乳業株式会社に対する賃金・昇格差別不当労働行為救済申立事件について、結審当時同社に働いていた二九名に対する賃金・昇格差別を不当労働行為と認めず、東京都地方労働委員会の不当命令に続き、救済申立をすべて却下ないし棄却する不当命令を行った。中労委の果たすべき役割が問われる。

1 事案の内容

 この事件は、大「合理化」を強行しようとする会社が、労働条件の向上をめざして旺盛で民主的な労働組合活動を行ってきた労働者らに対して、全国的に差別と分断の攻撃をしかけ、市川工場においてはインフォーマル組織「明朋会」を結成させてアカ攻撃や役員選挙介入を行ったうえ、昭和四四年には労使一体で、差別攻撃の頂点として試験制度を含む職分と賃金制度の大改悪を強行して、その後今日に至るまで賃金・昇格差別を継続してきた事件である。

 これに対して会社は、会社の不当労働行為政策の存在を争い、仮に格差があるとしても、それは申立人らが試験を受験しなかったことと公正な査定の結果であるなどとして争ってきた。

2 命令の内容と不当性

 本命令は、最大の争点となっていた試験の不受験について、都労委に引きつづき、事業所採用者コースに属している申立人らと上位職分に属する従業員との比較自体を「不適切」と断ずるなど会社の主張を容れ、さらに、移行格付試験が公正に行われたとする点などの補強を行って、これを格差の合理的理由として認める不当な判断を行った。

 中労委では、移行格付試験自体を正面から不当労働行為であるとして、都労委での主張、立証を整理するとともに、職分・賃金実態に基づく立証の補強も行った。また、全国から三名の証人を、会社の反対を押し切って採用させるなど、大きな成果を勝ちとった。しかし中労委は都労委に引き続いて、試験制度の仕組みなどの形式的な検討だけで、職制たちの不当労働行為の作戦会議録などの直接証拠とその忠実な実行など、数々の不当労働行為を明らかにする圧倒的な証拠を一切無視した。

 審理の終結後に公益委員と担当事務局が交替したことも異常であった。さらに、この事務局は昨年配転された。

3 今後のたたかい

 申立人らは行政訴訟を提起すべく準備中である。また、全労連が争議解決のために前面に乗り出してきており、本社の江東区への移転に伴って、江東区労連が支援を強化するなどの変化も大きい。食品企業などの社会的責任が問題となっている時期でもあり、職場を含めて下からの闘いを含めてさらに支援の輪を広げて全面解決をめざしたいので、引きつづきよろしくお願いしたい。

(弁護団は都労委段階からの、倉内節子弁護団長、湯川芳朗、渡會久実、中丸素明、私であったが、中労委から、松井繁明、菊池紘、岡田克彦、金井克仁、瀬野俊之が加わっている。)



ロースクール時代を迎え、


団の後継者養成はどうあるべきか


東京支部  鈴 木 亜 英


ロースクール時代の到来を迎えて、自由法曹団が輝かしい伝統と実績の上にこれまで以上に国民のなかに根を張り、素晴らしい活動をしてゆくには後継者養成をどう考え、どう実践していくかが問われています。

団員はこれまで全弁護士のほぼ一割を占め、様々な分野で大きな影響力を持ってきました。しかし、今日では全弁護士の七%を占めるに過ぎず、最近の新入団員の新人弁護士比は五%に落ちています。法曹人口の増大とロースクール制度導入は何がしかの努力それも相当の努力をしなければ、この傾向を一層押し進めることになりそうです。法曹人口が倍になれば団員も倍になるといった見方はやはり楽観論だといっていいでしょう。

 国際問題委員会はそんな問題意識から米国ロースクールを調査し、そのなかでナショナルロイヤーズギルドの弁護士が進歩的法律家獲得のためにどんな努力をしているのかを見てきました。調査の内容は後述のとおりです。

 ここでは、こうした調査を踏まえて、団の後継者養成としてどんなことを提案できるかの概略を箇条的に述べてみたいと思います。団の組織問題として、いずれ全国的な討議をしなくてはならないと思われます。

ロースクール学生を進歩的法律家として成長させてゆくためにはいくつかの特別の努力が必要です。三点を挙げます。

そのひとつはカリキュラムの問題です。米国では法曹教育の中に公益的活動を重視するカリキュラムやコースを取り入れています。公益的活動とは移民など貧困や社会的困難のなかで権利救済を求める人々に手をさしのべる活動を広く指します。こうした社会の実相に迫り、社会の矛盾を体験することによってそうしたことに関心をもち、問題解決に身を投じる必要を認識することが大切です。米国ではロースクールによって強弱はありますが、カリキュラムやコースに「臨床教育」「課外教育」を設けこうしたことを体験する機会を与えています。ギルド出身の教官は公益活動をプログラム化することに非常に熱心であり、ロースクールの中では必ずしも多数派でないギルド出身の教官がイニシアティブを発揮し、そのために果たす役割は非常に大きいのです。ギルド出身の教官は学生の目を社会に向けさせる努力を積み重ねています。ロースクール教官の中で果たす進歩的教官の役割は非常に大きいのです。私たちは団員がロースクールの教官になっていくことを大いに勧める必要があります。

 二つ目は学生の自発的組織と進歩的教官の結びつきの問題です。学生が社会秩序に目覚め、成長して行くうえで学生同士の交流とこうした学生に対する進歩的教官の援助が大切です。ギルドはロースクールに支部をもっています。ロースクールの学生がギルドの会員になれるのです。学生と学生、学生と教官そしてそれを結びつけるカリキュラムこれらが一体となって学生の成長を助けます。団員の中にはすでに法学部の学生にそうした角度から接触している方が何人かいます。しかし、ロースクール時代となれば、もっと大規模にそれが行われる必要があります。将来の法曹としてのロースクール学生の自発的成長を助けるうえで団と団員はもっとこの問題にコミットして行く必要があります。団のロースクール支部は将来の課題だとしても、団が青法協などと共同で或いは単独ででもこの課題に真面目に取り組む必要のあることを強調したいと思います。

 三つ目に学費の問題は切実です。米国ではロースクールの学生が三年間に負う学費の借金は一般に八万ドル、約一〇〇〇万円です。これを毎月一〇〇〇ドル乃至一五〇〇ドルずつ返済して行かなければなりません。三〇年間かかるというのです。一九九九年の出版物の統計によれば全米の弁護士の平均年収は五万五〇〇〇ドルつまり、平均年収は約七〇〇万円といったところだそうです。

 そうすると、年間一〇〇〇万円くらいの収入になる法律事務所に勤めないと学費ローンは順調に返済できないのです。年間三〜四万ドルの収入で「亡命」の仕事に従事していては、ローン返済はおぼつかないのです。

 ギルドの総会でロースクール時代五〇パーセントの学生が正義感に燃え、パブリックインタレストの活動に従事したいと考えているが、借金のためにパブリックインタレスト活動に従事するのは、ほんのわずかの人になってしまうというはなしを聞きました。二年前のギルド総会では「借金を払いながら、いかに進歩的スタンスを維持するか」が真面目に討議されていましたが、進歩的法律家養成の前に立ちはだかる、借金返済は深刻な壁なのです。奨学金制度その他公的援助が必要となっています。ロースクールを考える場合、この学費の問題を抜きには考えられないのが米国の実情です。日本でも必ずこの問題が起こってくると思われます。制度要求として考えてゆくことが団に求められると考えます。


松波団員からの手紙の紹介


北陸支部(富山県)  松 波 淳 一


拝啓 酷寒の折、お変わりなくご活躍のことと存じます。

 さて、ご存じかと思いますが、心身とも不十分のために、弁護士の職を辞する手続きをとりましたところ、昨年一二月二八日付けで日弁連に受理されました。

 長年のご指導に御礼申し上げます。

 さて、富山中央法律事務所の先生から、同封のビデオを借り受けることができ、複製しました。これは、二〇〇〇年一〇月に富山県宇奈月町で催された自由法曹団の年次総会の際に行われた新人学習会での報告担当者の一人として、地元の古参会員の私に求められた体験報告を、前記事務所の木沢・青島両団員のご配慮で録画されたものです。

 画面は、まず団長であられた豊田誠先生の懇切な紹介に始まり、私の話が続きますが、OHPを使用するために室内の照明を全て消しているので、画面は暗く、鮮明さを欠き、かつ、私の声が大変に小さいことから、理解しがたい部分が少なくありません。

 また、報告は二時間に及ぶもので、ご多忙極まる皆様方にご一覧くださいなどとは、到底お願いできませんが、社会科の教科書等でしか公害の実情を知らない若い人々には、或いは、部分的に参考にしていただける箇所があるかも知れません。

 そのような機会があるのではないかと思い、送付させていただきました。

 団および皆様方の益々の発展を祈っております。

〈ご希望の方にはビデオの貸し出しをしますので団本部までご連絡ください。〉


白熱した徹底討論

「どうする、どうなる裁判員制度」


神奈川支部  山 田  泰


 有事法制阻止の闘いが急速に立ち上がっています。司法民主化の課題がなんだか弾き飛ばされそうな勢いですが、推進本部の一〇の検討会も次々と開催されています。また三月中には推進本部の推進計画、日弁連計画、最高裁計画が一体となって公表される予定となっています。

団としては、司法民主化のため具体的制度設計を提言していくとともに、これを実現するための国民運動を進めるという二本の柱で活動を進めています。

そして具体的制度設計については、とりあえず@裁判員制度・刑事司法 A労働裁判 B裁判官制度 につき討議を進め、五月集会で提言を練り上げ(@、A)、また論点整理(B)を行いたいと考えています。そのための「徹底討論」第一弾として、一月一九日裁判員制度・刑事司法をテーマに討議が行われました(なおこの討議のメモは一月常幹討議資料としてお配りしています)。

まず陪審制実現運動に携わってきた四宮啓日弁連司法改革調査室長、秋山賢三元裁判官、伊藤和子事務局次長から報告や問題提起を受けました。 

 四宮さんは、国民参加により裁判員が法廷で分かる裁判が求められることになり、刑事司法に多面的で大きな変革がもたらされることを訴えました。

秋山さんは、「改革審意見書の裁判員制度の本質は、官僚刑事司法を市民参加の外形を借用しつつ二一世紀治安体制の一環として裁判所を組み込むための体制づくりである」との基本認識から、批判しつつ参加するという視点の重要性を指摘して、裁判員制度を導入するとすれば刑事訴訟をどう変えるべきかという視点から、具体的提言を披瀝しました。

伊藤さんは団意見書の概要をあらためて紹介しながら問題提起を行いました。その後大阪、千葉、東京、静岡、北海道等各地の模擬裁判劇の取り組み(弁護士会主催のものなど)が紹介されました。裁判官ネットワークの裁判官が出演したり、参加者も一〇名程度に分かれて裁判員となってその結果を交換しあうなど創意ある企画が印象的でした。そののち討議に入りましたが、白熱したものとなり、〇一年一二月に発表された制度設計に関する日弁連第一次案も紹介されました。

 基本的スタンスをしっかり持ちながら具体的制度設計を提言するとともに、運動の重要性が再確認される「徹底討論」であったかと思われます。


司法制度改革推進本部への申入れ(二回目)


事務局長  中 野 直 樹


一 検討会のスタート

 司法制度改革推進本部に設置された一〇の検討会が一月〜二月にスタートしている。予想される工程表との関係で足並みは不揃いで、法曹養成検討会などは早い動きである。

 この立ちあがり段階で二つの問題が顕在化した。

 @検討会の位置付け

いくつかの検討会の第一回会合で、事務局から「立法作業は事務局が行い、検討会はそのためのご意見を伺う場にすぎない」、「検討会は顧問会議に提出する案を作るのが任務であり、答申を出す機関ではない」などとの説明があったとのことである。

 A公開

  顧問会議は発言者の氏名を明記した(顕名)議事録の公開を決めた。これに対し、検討会については事務局は、各検討会の自主性に委ねる扱いをした。二月半ばの時点で、法曹養成、司法アクセス、仲裁の三検討会は公開する議事録に顕名しない取り扱いを決め、法曹制度、国際化、労働、ADRの検討会では顕名を合意した。

二 申入れと説明
 二月二〇日、団本部執行部と司法民主化推進本部で、一二月二一日に続き二回目の申入れを行った。

 申入れ事項は、@検討会の位置付けに関する事務局の発言は、法務・裁判官官僚で固めた事務局主導の最たるものであり、国会の附帯決議・顧問会議の確認に反すること、A全検討会について顕名による公開となるようにすべきであること、であった。

 応接したのは川原隆司企画官(出向元・検察)であった。前回の申し入れの際に、官僚主導だという私たちの批判に気色ばんで声を荒げていた松永参事官(総務省)は渉外から外れたとのこと。

 川原企画官の説明は次のとおりであった。

@ 検討会については、事務局と一体となって立案作業をするという位置付けであり、最後に出てくる法律案は事務局と検討会の共同作業の成果物と考えている。検討会のメンバーを通してバックグランドの声ができるだけ検討会に反映されることが大事と考えている。

A 公開の顕名については、各種審議会でもバラバラの現状にあり、事務局としては扱いを統一にせず、各検討会の判断に委ねた。ただ、記者クラブに所属しない報道機関の傍聴も認めるなど従前の役所よりも前進させていることはみてほしい。

三 今後に向けて

 川原企画官の話しでも、事務局は検討会の総意とかけ離れる立案はできないだろう、そして検討会のメンバーを通じてバックグランドの意見がどれだけ伝わってくるかがポイントだろうということである。そこには当然、最高裁、法務省、そして財界の意見も洪水のごとく注入されるということである。私たちの立場からの制度設計の具体的提案を的確な時期に流し込み、切り結んでいかなければならない。

 そのことを適切に進めるためにも検討会の議事公開の顕名は不可欠である。誰がどのような発言をし、討論の中で、どのように変わっていくのかを人毎に検証できないと、攻めぎ合いにおいて迅速・適確な対応がとれない。

 川原企画官は、資料は配布先の部数を揃えて自分に出してもらえれば、指定された配布先に責任をもって届けるシステムになっていることを明言した。検討会の個々のメンバーを特定した配布も受け入れているとのことである。

 全国から、非顕名としている検討会あてに、批判と顕名に改めるよう申し入れを行っていただきたい。

 また、事務局の準備する資料で検討会のペースをつくられることを放置するわけにはいかない。司法の現状と私たちのめざす司法改革の内容をテーマごとに練り上げ資料として、検討会メンバーに届ける運動を強める必要がある。


今日までそして明日から


極私的自由法曹団物語〈序章〉−その6


神奈川支部  小 賀 坂  徹


〈お詫びと訂正〉

 千葉一美団員から、「自動食器洗い器を買った話をしたのは、私ではなく小笠原さんである。私はその話に同調しただけだ。」という抗議を受けました。詳しい事実関係についての調査はしておりませんが、本人がそういうのだからきっとそのとおりだと思います。謹んでお詫びして訂正させていただきます(何せ記憶だけに頼って書いているものですから、すいません)。

 また財前昌和団員から一〇四七号の「普段しょうもない冗談を連発して顰蹙を買っていた」というくだりに対して、「この団通信を全国の団員が読み、僕のことを誤解するかと思うと残念でなりません。僕が弁護士になって築いてきた地位と名誉、名声が足元から崩れ落ちる思いがしました。訂正原稿を出されない場合には、当職から団本部のホームページ広報委員会に、ホームページへのアップロード差し止めの仮処分を申し立てます。」という内容証明郵便をいただきました(ウソ。ホントはメールです)。財前さんが築いてきた「地位と名誉と名声」というものが何であるのかについて具体的に疎明していただきたいとも思いましたが、仮処分を出されてもかなわないので次のとおり訂正します(それにしても、仮処分を申し立てるとすれば、債務者は宇賀神団長なんだろうな。同じ事務所で闘うのかなあ)。

 「財前さんは普段一見しょうもない冗談を連発して、座の雰囲気を盛り上げるためにいつも多くの気遣いをしていた。それを顰蹙を買っていたとみる向きもないではないが、それは悪しき客観主義というべきもので、彼が十数年にわたって築き上げてきた地位と名誉と名声をも合わせ鑑みるときは、極めて皮相な見方であるという批判をしなければならない。彼のこうした一見しょうもない冗談の連発は、おそらくやロースクールの学生たちからも絶大な賛辞をもって受け入れられるに違いない。そのことが財前さんの地位や名誉や名声を一層光り輝くものにしていくだろうことを私は確信する次第であります。全国の団員の皆さん、私はここに財前昌和団員の輝かしい地位と名誉と名声を後世に伝えるべく、全力を尽くす決意を表明したいのであります。ガーンバーロオー、突き上げる空にー。」どう?

13 強腕篠原の実力

二〇〇〇年の宇奈月総会で、我が神奈川支部から篠原義仁幹事長が誕生した。篠原さんは支部の幹事長を五年も務めていたのだが、私自身が支部活動にあまり結集しなかった不良団員であり、また事件を一緒にやった経験もなかったので、実のところどういう人なのかあまりよく知らなかった。まあ飲み会の時に人の話に間髪を入れずにヤジるうるさいおっさんだなあという程度の認識でしかなかった。ただ公害事件やオンブズマン活動などでの「名声」は大いに伝え聞いていたので、一緒に仕事をするのは楽しみだなあとは思っていた。

篠原さんは、実にバイタリティーにあふれていて、しかもやることがすべてにおいて素早かった。結構面倒な連絡調整なども、どんどん自分から買ってでて行うタイプで、そういう仕事をまったく厭わなかった。彼は小学校の時に「上州かるた」のチャンピオンだったそうで、なるほどその素早さはそこからきているのかと思われた。因みに上州かるたというのは「(いろはの)い……伊香保温泉、日本の名所」という風に始まるものだそうだ。

 篠原さんの群馬自慢、桐生自慢も大いに聞き飽きた。まあ郷土愛というのもいいものではあるが、何事も度を超すと鬱陶しいものである。でも、どういうわけか、篠原さんが群馬の自慢話をしているとき、群馬支部からきている柿沼事務局次長や群馬出身の吉田健一沖縄改憲対策本部事務局長は、いい顔をしていないのだ。そういうお前が群馬の評判をおとしめているのだという気持ちだったのだろうか。それとも篠原さんと同郷と思われることに何らかの抵抗があったのだろうか。彼らの何とも困った顔が印象に残っている。

 篠原さんはよくしゃべる。まあ、何というかホントによくしゃべる。鯖やアジなどの回遊魚は、泳ぎ続けていないと死んでしまうという話を聞いたことがあるが、篠原さんもしゃべり続けていないと死んでしまうのかもしれないと思えたほどだ。そんな彼が小学校四年までは無口で学校の教師に心配されていたというのは信じられない。自分でそういっているだけかも知れないが、もしそうであったなら心理学的、医学的、自然科学的分析の対象になるのではなかろうか。しかし年をとったからなのか、酔うと、思考に口がついていかないらしく、「それがあーーーーーなって、それからこーーーーーなって、えーーーーー、うーーーーー、そうなんだ」と、よくなる。ただでさえ何を言っているのかよく分からないのに、こうなるともはやお手上げである。喋っていることが、彼の達筆な文字のようにならないことを強く望む。

 また彼はよく人を「馬鹿だ。馬鹿だ。」という(嫌みはないんだけどね)。それを改めた方がいいと指摘すると「俺は本当の馬鹿には馬鹿とはいわない。俺の配下の何某は、俺に馬鹿といわれて『篠原さんに馬鹿と言っていただいて、やっと一人前になりました。ありがとうございました。』といって頭を下げているのだ。」と言っているが、これはホントか?

 幹事長の仕事は多忙であり、しかも篠原さんのようにいろんな事を提案しつつ引き受けているとその忙しさは半端ではなかったと思う。しかも、それだけでなく事務所の仕事や公害運動などを精力的に行い、川崎市長選にも中心的に関わっていた篠原さんには心底感服した。それだけの能力があり、しかも人任せでなく率先して自分から動くから、何とも凄いなあと思っていたのである。彼は褒めると照れ隠しで「俺はもっと凄いんだ」というのだが(本気でそう思っているのかもしれないけれど)、実はシャイな人である。彼は飲むときに、いつも糖尿病の薬をビールで流し込んでいて、そのことが医学的にどのような意味を持つのかよく分からないのであるが、いつまでも元気でいてほしいものである(こう書くと「人を年寄り扱いするな」といわれるのが目に浮かぶけれど)。

14 八〇周年記念レセプション

 私が次長を退任する時は、団の創立八〇周年の記念行事と重なっていた。私の最後の仕事は、東京ドームホテルで行われた記念レセプションの司会だった。このとき一緒に司会をしたのは伊藤和子事務局次長だったのだが、当日、彼女は私を見るなり「小賀坂さん、その格好で司会するの?」というのだ。実は、私はその時たまたまではあったのだが、買ったばかりのスーツを着ていた。「なんじゃ、それは」と思ったのだが、レセプションの時の伊藤さんの姿をみて納得した。彼女はレセプション用にきらびやかなドレスを用意していて、それに着替えて颯爽と現れたのだ。これに対抗するためには、ラメのスーツかなんか着て「ジャパーン!」とかやらなきゃならないような感じであり、さすがにそこまではできなかった。

伊藤さんとは、三年目の年に司法問題を一緒に担当し、それ以外に彼女は憲法問題も担当していた。独特の感性の持ち主で、それがうまくはまった時は絶大な力を発揮していた。今年彼女はパキスタンの調査にも行っていて、また行きたいといっているが、そうした行動力が彼女の魅力だろう(どうも女性のことを書くのはうまくできない。とほほ)。   (すまぬが後一回だけ続けさせて下さい)


三・三〇「リストラ反対、雇用と地域経済を守る全国交流集会」の案内


団 本 部 事 務 局


 吹き荒れるリストラ・合理化、その結果もたらされる雇用と地域経済の崩壊の深刻な事態が進行しています。同時にこれに果敢に反撃する運動も巻き起こりつつあります。

 自由法曹団は労働問題委員会を中心に、全国の支部に、NTT一一万人大リストラに反撃するたたかいを支援するネットワークつくりに取り組んでいます。さらに五月集会で「リストラ・合理化」問題をテーマとする分科会をもうけ、各地の経験をもちより実践的な討論を深めたいと考えています。

 こんな折、表記のテーマの交流集会が開催されることになりました。呼びかけ団体は、全労連、共産党、全商連、新婦人そして自由法曹団です。

 議題の焦点は、@大企業の空前のリストラが雇用破壊・労働条件の一方的切り下げをもたらし、さらに関連企業の倒産・工場閉鎖をまねいている実態を明かにし、大企業の横暴を批判し、そこから国民的共同の運動を発展させる道筋を模索すること、Aサービス残業や年休取得率引き上げなどによる雇用の確保、企業に法と判例そして国際人権基準による「働くルール」を守らせることなどの運動つくりの発展です。

 多くの自由法曹団員の参加と発言が求められています。

 ぜひ、各地で反撃のたたかいに参加しておられる団員の皆様の積極的な参加を呼びかけます。

  日時   三月三〇日(土) 午前一一時〜午後四時
  会場   日本青年館「中ホール」(最寄駅 JR千駄ヶ谷駅)
  規模   三〇〇名以上
        【文責 事務局長 中野直樹】