<<目次へ 団通信1057号(5月21日)


前川 雄司 固定資産評価で納税者勝訴の判決
山崎 徹 ヴァルガス教授(コスタリカ)を囲む法律家集会に参加して
松岡 肇 中国人強制連行・強制労働事件福岡訴訟判決報告
中野 直樹 五月集会プレ企画「これからの団を考える」に向けて(下)
篠原 義仁 司法改革推進本部「丸投げ」審議に申入行動(四回目)
城塚 健之 大阪の有事法制反対の取り組み
松島 暁 「防御型」有事法制から「攻撃型」有事法制へ
斉藤 園生 有事法制リーフ近日発売!

固定資産評価で納税者勝訴の判決


東京支部  前 川 雄 司


 東京地方裁判所は、港区赤坂みすじ通りの商業地の宅地について固定資産評価額が高すぎるとして減額を求めた訴訟で、二〇〇二年三月七日、被告である東京都固定資産評価審査委員会の決定を取消し、審査のやり直しを命ずる判決を言い渡しました(民事第三部 藤山雅行裁判長 村田斉志裁判官 廣澤諭裁判官)。

一 都知事の標準宅地の選定は誤り

 判決は、第一に、都知事が選定した標準宅地について、その周辺地域は角地が標準的ではなく中間画地が標準的であるとし、角地を標準宅地に選定したことは誤りであると判断しました。

二 角地の中間画地への補正が不十分

 また、判決は、第二に、仮に標準宅地の選定が正しいとしても、角地の中間画地への補正が不十分でかなり割高な評価額となっていると認定しました。

三 基準地価格・標準宅地の評価額も不適正

 さらに、判決は、第三に、都知事が標準宅地の価格を算定した際に用いた基準地価格について、適正価格を示したものとは認められず、標準宅地の評価額も適正なものとは認めがたいと判断しました。

 その理由は、その基準地価格を決定する際にされた鑑定が、次の三つの点で妥当性を欠くと判断されたためです。

 @ 採用すべき直近かつ至近の取引事例を欠落させたこと。
 A 採用した取引事例について行うべき減額補正を行わなかったこと。
 B 規準する公示価格を誤ったこと。しかも、その点についての当該鑑定士の意見書によると、鑑定の中核をなす取引事例比較法において行われた補正の適否全般についても疑問が生じざるを得ず、いずれにしても当初から四八〇万円という結論があり、それに合わせた価格算定を行っているようにすら感じさせるもので、かえって鑑定の妥当性に疑問を抱かざるを得ないこと。

四 被告の決定は重大な審理不尽

 そして、判決は、第四に、被告が基準地価格の誤りの有無については判断できないと決定したことについて、全く審理判断を放棄しているに等しいとし、被告には基準地価格を標準宅地の評価に用いる義務もないのだから、その基礎となる鑑定に疑問が呈された以上、その内容を吟味し、必要に応じて再鑑定をしたり、標準宅地の選定を改めるべき義務があるとし、これを怠った被告の決定には重大な審理不尽があると判断しました。

五 判決の背景事情

 一九九四年から土地の固定資産評価額が公示価格の七割水準に引き上げられました。東京では、一九九一年当時、土地の固定資産評価額は公示価格の一〜二割と言われていましたから、公示七割化によって土地の固定資産評価額は大幅に上昇したことになります。それにもかかわらず税率は下げませんでしたから、大増税に他なりません。当局は、課税標準が一二年後に評価額に追いつくように段階的に上げていくことと住宅用地の特例幅を拡充することによって、納税者の反対運動を分断しているのです。

 バブル崩壊後の地価の大幅な下落の中で、都心商業地では地価も賃料収入も大幅に下落しているにもかかわらず、固定資産税は下がらないということで、高い固定資産税に苦しむ事態が広範に発生しています。

 東京の港区では、一九九七年に「高い固定資産税から営業と住まいを守る会」を結成し、以来毎年百件〜百五十件の集団的な審査申出を行ってきました。その中で、赤坂みすじ通りの路線価を一割下げさせたり、数多くの修正を勝ち取ってきましたが、本件は一九九七年の評価替えに対する審査申出で、基準地価格を鵜呑みにした標準宅地の評価が間違っているとして審査を求めたのに、東京都固定資産評価審査委員会が基準地価格については審査できないとして棄却したので提訴したものです。

 本件では、東京都知事が選定した標準宅地は角地で、基準地と同一地点でした。本件の対象地は赤坂みすじ通りという商店街にあり、角地は少なく中間画地が標準的なのに、角地を標準宅地に選んだ上、角地補正は一〇三分の一〇〇しかしていませんでした。私たちは少なくとも一〇%補正すべきだと主張しましたが、判決は少なくとも一〇六分の一〇〇程度の率を乗じるべきであったとしました。

 また、東京都知事は、標準宅地の適正な時価を、一九九五年七月一日時点の基準地価格一平方メートルあたり四八〇万円に一九九六年一月一日までの時点修正を行って一平方メートルあたり四〇一万円とし、その七割程度の価格として適正な時価を一平方メートルあたり二八〇万円としました。

 ところが、本件標準宅地と側道をはさんで隣接している土地で、本件標準宅地と同じ条件の角地が一九九四年一二月九日に一平方メートルあたり三七九万円で売買されていました。一九九五年七月一日時点の基準地価格一平方メートルあたり四八〇万円はどう考えても高過ぎるものでした。

 公文書開示請求で入手した基準地価格の鑑定評価書には、この直近かつ至近の売買実例が全く採用されていませんでした。

 私たちは、右の売買実例を含め三つの売買実例の背景事情を売買当事者の陳述書等で立証するとともに、不動産鑑定士の鑑定評価書を提出し、基準地価格の鑑定評価書を作成した不動産鑑定士と原告側の不動産鑑定士を含む証人の尋問を求めましたが、裁判所は人証を採用せず、書面審理のみで判決となりました。

 固定資産評価額は、地方税法上「適正な時価」でなければならず、売買実例から求めることになっていますが、実態は公示価格と基準地価格を鵜呑みにするものとなっており、全く形骸化しています。公示価格や基準地価格には不服申立手続もなく、間違っていても是正させるシステムがありません。そして、固定資産評価審査委員会に審査申出をしても、適正な時価についての実質審査は行われず、この手続も形骸化しています。一九九四年には全国で多くの審査申出がなされましたが、形骸化した審査に対する失望の中で審査申出件数は年々減少し、当局がこの現象を公示七割化の定着の証左として利用する有様です。

 本件判決は、標準宅地の価格の不適正のみならず、基準地価格の不適正にまで踏み込んで判断した点においても、被告にその実質審査を求めた点においても固定資産評価とその審査のあり方に重大な見直しを求めるものとなっています。被告は控訴しましたが、来年度の評価替えでは、この判決を活用して各地で大いに審査申出をしていただき、違法な評価を是正させるとともに、公示七割化による大増税という矛盾に満ちた事態を打ち破るきっかけにしたいものだと思います。


ヴァルガス教授(コスタリカ)を
囲む法律家集会に参加して


事務局次長  山 崎   徹


 私たちが憲法九条の非軍事平和主義を語るときに悩ましいことが二つある。ひとつは、万が一でも他国が攻めてきたときにはどうするのか、もうひとつは、イラクの軍事侵攻あるいは発展途上国の内戦など国際的に軍事力が必要とされるときに日本は何もしなくていいのかという疑問である。いずれも国民の意識のなかに浸透し、これを払拭するのはそんなに容易いことではない。しかし、このことについて事実をもって答えてくれるのが、中南米にあって一九四八年から五三年間にわたって非武装を続けている「コスタリカ」という国の存在だ。

 そのコスタリカの国際法学者であるカルロス・ヴァルガス氏が来日し、この間、各地で講演や集会が持たれている。団をふくむ法律家五団体(反核法律家協会など)においても、五月七日、四谷プラザエフにおいて法律家対話集会を企画し約三〇名が参加した。

 当日は、はじめにヴァルガス教授から、何故、コスタリカは軍隊を廃止することができたのか、そして、何故、軍隊を廃止して国として存続できたのかということを語ってもらい、その後、お互いに質疑応答をして交流を深めた。

 教授の話によれば、コスタリカが軍隊を廃止することができたのは、直接には、ときの為政者ホセ・フィゲレスの決断だったが、その背景には、コスタリカの歴史、地理的条件、人口などいくつかの要素が重なって、戦争よりも教育や福祉を重視する文化が醸成されていたことがあったらしい。軍隊の廃止に先だって、一八八二年には死刑制度が廃止され、一八八六年には初等教育の義務化、無償化が実施されている。

 そして、軍隊を廃止した後は、国民に対する平和教育を重視するとともに、国の予算を教育や福祉に回すことによって、国民が軍隊を廃止する利益を実感し、他方、対外的には、永世中立を宣言し、中南米の紛争解決、和平交渉には積極的に関与して国際社会における評判を高め、それによって外部からの軍事的プレッシャーを跳ね返す政策をとったと言うことである。難民の受け容れにも寛容な態度をとっている。教授は、「軍縮を進める国」は攻められないということをことのほか強調された。「製品」の輸出ではなく、「平和」の輸出が国の方針だという。コスタリカに「一国平和主義」の批判は当たらないようだ。

 コスタリカは、人口約三五〇万人、狭い国土など日本と異なる条件を持つ。日本がアメリカのアジア戦略上の要石であることと比較すると、アメリカの世界戦略にもさしたる影響のない国かもしれない。しかし、問題は、国の大小などではない。コスタリカは、ニカラグアとパナマを両隣にしている。中南米の政情不安な地域にコスタリカのような国が存在することが、現在の国際社会において、憲法九条が決して「理想」ではないことを教えてくれるのである。

 質疑応答の終りには、教授から、日本は第二次大戦から何も学んでないのではないか、特に若い世代に体験が伝わってないのではないか、九条を世界にと言っても自衛隊を持っていたのでは誰も信用しないなど厳しい指摘を受けた。「平和」を輸出するために来日した教授からすれば当然の指摘ということになろう。(参加者の側も日本の事情を説明し、それなりに弁解はしたが、穴があったら入りたい思いをしたのは私だけではないと思う。)

 私たちの当面の課題は、有事立法を阻止し、憲法改悪を許さないことである。が、そのためにも、「戦争をしない国」のモデルとして「コスタリカ」についてもっとよく知りたい。そんな思いを強くした集会であった。


中国人強制連行・強制労働事件
福岡訴訟判決報告


福岡支部  松 岡  肇


 団通信一〇四八号に報告しました福岡訴訟は、去る四月二六日に画期的な勝利判決を得ました。判決は三井鉱山に勝訴し、国に敗訴するという結果でしたが、その内容は事実上全面的な勝訴判決と理解しています。

 福岡地裁第三民事部(木村元昭裁判長)は、戦時中の中国人の強制連行と強制労働の事実を詳細に認定し、この事実を国と三井が共同して計画し、実行した共同不法行為と認定しました。

 判決は、「日本政府は・・・産業界と協議し・・・閣議決定により、国策として中国人労働者の日本国内への移入を決定し、これを実行に移した」。その「実体は、欺罔又は脅迫により・・・中国人労働者の意思に反して強制的に連行したものである」。「被告会社は、戦時下における労働力不足を補うために、被告国と共同して、詐言・脅迫及び暴力を用いて本件強制労働を行い、過酷な待遇の下で、本件強制労働を実施したものであって、その態様は非常に悪質である」と指摘しました。昨年の劉連仁判決に引き続くものですが、戦時中の強制連行・強制労働の実態をここまで詳細かつ明確に指摘し認定したのは初めてです。更にそれを国と企業の共同不法行為と断定したのはこの判決が初めてで、現在の司法状況を考えれば、木村裁判官は歴史的事実を直視し、勇気ある正義の判断をしたと思います。

 しかし判決は、三井については民法上の不法行為責任を認め、原告全員に一人一一〇〇万円(総額一億六五〇〇万円)の支払いを命じたものの、国に対しては「国家無答責」の法理を理由にこれを免責しました。また原告らが切に望んだ謝罪についても認めませんでした。国と企業の共同不法行為を前提に考えれば、これは極めて不当な判断と言わざるを得ません。画期的な勝訴判決としながらも、弁護団もこの点極めて不本意な判決だと考えています。原告たちもこの勝訴判決を喜びながら、国が免責されたことと謝罪がないことに不満と怒りを抱いています。当然のことです。原告たちは、「私たちは物乞いではない。国と企業が事実を認めて謝罪することを求める」と言い続けているからです。

 弁護団は、客観的証拠に基づいて、国と企業の共同不法行為が認められた以上、国の責任を問うのはもう一歩と考えています。マスコミも国と企業のねじれ現象に疑問を投げかけています。判決は、三井の時効・除斥の主張を劉連仁判決に引き続いて「正義・衡平の理念に著しく反する」として排斥しました。このことを考えると、「国家無答責」と言う帝国憲法下の亡霊のような法理を用いて国の責任のみを免れさせることが、如何に「正義・衡平の理念に反する」かは明らかです。弁護団がもう一歩とする理由です。

 判決は、三井が原告らには一円の賃金も支払っていないのに、国から現在の貨幣価値にして数十億円に相当する損失補償を得ている事実や国が外務省報告書などの基礎資料を廃棄処分にして原告らの権利行使を著しく困難にした事実も厳しく指摘しました。これもまた画期的判決とする所以です。

 福岡では、五月九日に国の責任と謝罪を求めて控訴しました。控訴審では更に弁護団を補充強化して、残されたハードルを克服する所存です。団員各位の更なるご支援をお願いして報告とします。


五月集会プレ企画
「これからの団を考える」に向けて(下)


事務局長  中 野 直 樹


 全国の支部と集団事務所にたいし実施したアンケートは二八都道府県から五三通の回答をいただいた。

アンケート項目は、新人弁護士の採用に関するもの、後継者問題、弁護士任官、ロースクールに関するものであった。

1 新人弁護士に関するもの

 事務所に結びついた端緒については、就職訪問一六、弁護修習一三、知人関係一一、青法協の企画五、大学四、プレ研修三との回答であった。団の企画からという回答はなかった。プレ研修とは、合格後研修所に入所する前に、一週間程度法律事務所で受け入れ、弁護士の業務に触れてもらう企画である。プレ研修が実施されているとの回答をしてきた支部は、東京、神奈川、富山、金沢、愛知、岐阜、福岡の一部であった。地元の合格者を把握するルートがないと企画しようがないが、入所前の合格者どうしのつながりをつくっていく場ともなりえるし、さらなる活用の追求について意見交換したい。

 団支部として修習生と接触する企画を取り組んでいるところは多くない。埼玉支部では、支部例会・総会への誘い、神奈川支部では、現地調査型例会(年二回)、当事者を含む学習会(年数回)、新人歓迎会などを実施、東京支部では年三〜四回事件学習会、京都支部では二〇〇二年一月から月一回労働法実践講座を設け、修習生の参加も得ている、奈良支部では学習会実施、という回答であった。

2 後継者問題

 将来五年間の新人採用希望者枠を質問してみたところ、(一〜二名)一五、(二〜三名)一五、(三〜五名)三、(五名)一、(八〜一〇名)二、(一〇名)三であった。この人数を合計すると一四五名となり、一年間で約三〇名となる。

 東北からは、修習生情報が来ないことを嘆き、ブロック単位で修習生と触れ合う企画の提言があった。東京、愛知からは、事件活動を通じた接触・交流を設定することとその継続が大事で、そのことに意義と楽しさを感じる若手団員の後継者問題に取り組む活動を物心両面で支えることの大切さを強調する意見が寄せられた。奈良からは、弁護士会活動に団員が積極的に参加し、団員の事務所メンバーが生き生きと活動している姿をアピールし、会活動についても責任ある立場で支えていることを理解してもらえば、修習生の団アレルギーが解消できるとの実践的な意見がきている。

3 弁護士任官

 アンケートの範囲では、現時点で討議をしているところがほとんどない。プレ企画の討議テーマとすることはむずかしそうである。

4 ロースクール

 回答では三〇大学で設立に向けた動きがあり、弁護士会側の担当者として団員がかんでいる支部が一二支部である。弁護士会が中心となりながら基本的理念の策定やカリキュラム作りに関与しているところが数校あるようだ。団員が実務家教員として参加する可能性のあることろが六支部であった。

 回答者はすべて、ロースクールの学生に社会問題・人権課題について関心を抱いてもらい、将来「民衆の弁護士」に育てることについての方針を団がもつべきであることに同意している。

 その方策について選択枝の設問をもうけたところ、

 @団員が積極的に教官になる   三三
 A社会的関心を呼ぶテーマについて学生の自主的なサークルを組織・支援する 二九
 Bカリキュラムつくり  二六
 C青法協その他の団体と連携して対策にあたる  二五
 D学生に(準)団員資格を認め団の支部を組織する  一一
という結果であった。

 これをどのように実践していく道筋をつくるのかがプレ企画の重要なテーマである。

二 入所前から就職活動

 執行部では先日、実務修習中の五五期修習生数名と懇談し、実情の一旦を直に知る機会をえた。千人の合格者は研修所では七〇人ずつ一四クラスに編成される。三ヶ月となった前期修習では五時までびっしり講義で埋まり、自宅起案日は一日程度しかないとのこと。一〇〇人が裁判官、八〇人が検察官に任官する。弁護士志望者の過半数が渉外事務所に就職していくそうである。彼らは研修所に入る前の三月から渉外系事務所への就職訪問を始め、前期終了時にはほぼ就職内定しているという。渉外事務所はリクルート担当弁護士を配置し、司法試験予備校の合格祝賀会で名詞を配り、事務所訪問を組織化しているようである。この過程で、研修所に入る前に、多くの修習生は青法協などの組織に対する一定の先入観を植え付けられているのではないか、と懇談した修習生は語っていた。改めて自分の修習生時代の経験の範囲で考えることは誤りであることを自覚した次第である。

 プレ企画は次の内容での進行を考えている。

1 報告と質疑
(1) 団の後継者問題の現状
(2) 修習生運動の取り組みと現状
(3) 民医連の後継者の取り組み紹介
(4) 国際問題委員会からのロースクール調査報告と提言
(5) 法科大学院をめぐる現在の状況
(6) 東大・「法と社会と人権」ゼミの実践
2 意見交換・討議
3 今後に向けた論点整理と検討体制


司法改革推進本部
「丸投げ」審議に申入行動(四回目)


幹事長  篠 原 義 仁


 自由法曹団は、「刑事司法改革・裁判員制度の検討の在り方に対する意見」を作成し、四月一九日、司法制度改革推進本部に申入行動を行いました(参加者、四位司法民主化推進本部副本部長、野澤同事務局長、伊藤同担当事務局次長、篠原)。

 司法改革推進本部は、二月二八日に第一回「裁判員制度・刑事検討会」を開き、刑事司法改革・裁判員制度に関する検討を始めました。「絶望的」といわれる現在の刑事司法に対し、その抜本的改善と国民参加は、真の司法改革にとって最重要の課題と位置づけられています。従って、この検討会の審議がどう進められるかがきわめて注目されていました。ところが、この第一回検討会では、議事録・議事概要について発言者名を非公開とする方針を決め、「名誉・プライバシーの保護や捜査の秘密」を理由に議事の非公開を認める申合せをしました(傍聴は、マスコミに限定し、一般市民の傍聴を排除)。

 さらに大きな問題は、事務局が作成、提出した「裁判員制度・刑事検討会での主な検討事項」は、第一に裁判員制度の導入を掲げ、第二に刑事裁判の充実・迅速化(@新たな準備手続の創設、証拠開示の拡充、A連日的開廷の確保のための関連諸制度の整備、B直接主義・口頭主義の実質化を図るための関連諸制度の在り方、C裁判所の訴訟指揮の実効性を担保する具体的措置)を、第三に公訴提起の在り方(検察審査会の議決への法的拘束力付与)を掲げるところとなりました。

 これに対し、団は第一回検討会での議事非公開の申合せは、情報公開の要求に逆行し、国会の付帯決議にも反するところであり、速やかに白紙撤回するよう求めました。

 第二に、事務局作成―まさに官僚的事務局主導の典型―の「検討事項」は、司法制度改革審最終意見が明記した改革提言、「被疑者・被告人の不適正な身柄拘束の防止・是正」「被疑者の取調べの適正確保」の検討をそもそも対象外とするもので、現在の刑事司法の抱える最大の問題点の検討を放棄し「裁判の迅速化」のみを推進しようとするもので、絶対容認できないものとなっています。

 団は、かねてから「自白中心主義」「人質司法」「調書裁判」の現行刑事司法の改善なくしてこの分野での司法改革はありえないとしているところであり、この最重要課題の検討を抜きにした「検討会」審議は黙過しえず、四月一九日付意見ではこのことを厳しく批判しました。

 ところで、事務局作成資料によると前記重要課題の検討は、検討会の対象事項にせず、法務省・警視庁などの「自主的」検討に委ねるとしました。それは、まさに改革の対象者にその検討を「丸投げ」するもので、到底その改善に期待できないことは明白です。「丸投げ」を中止し、検討会の審議対象にすべきことは当然です。

 申入参加者は、こうした視点から推進本部事務局に要請し、ときに議論し追及しました。当初、事務局は「丸投げ」論を否定し、前記議題を法務省・警察庁に第一次検討を委ねても、最終的には顧問会議・検討会に戻し審議し、その上で制度化を図るのであるから、それでいいではないか、問題はないではないかと抗弁しました。

 しかし、申入参加者のくり返しの説得、道理ある追及の前に「丸投げ」と言われても仕方がないことを渋々、そして遠まわしに認めるところとなり、それをうけて、申入参加者は、時間の制約があるなかで、検討会メンバーにこの意見書を渡し、再度検討会として申入の趣旨にそって議論するよう強調して、申入行動を終了しました。

 刑事司法問題だけでなく、事務局主導の、官僚的議論の誘導は、つづいています。

 団は、問題が起こるたびに長短いろいろあっても意見書を発表し、その都度司法改革推進本部への申入を行ってきました。

 それとの関連でいうと、かつて司法改革審へ向けての要請、申入は、団はもとより諸団体で相当程度の取組みが組織されていました。

 それに比べ、推進本部への申入は、少なくなっているように思われます。国民の民主的監視なしに推進本部のあり方、議論の方向をただすことはできないでしょう。

 その意味で、もっともっと国民の声を推進本部に集中する必要のあることを実感しました。

 国民の声をもっともっと推進本部に!


大阪の有事法制反対の取り組み


大阪支部  城 塚 健 之


 有事法制をめぐる動きが余りにも早いので、取り組みが遅れがちだったが、大阪でも、法律家では団支部・民法協を中心に活動を進めている。団通信では、「こんな取り組みをしました」という紹介が普通なんだろうが、それでは情勢に間に合わないので、五月一一日時点での今後の予定を含めて報告する。

一 有事法制に反対する大阪連絡会の結成

 大阪では、かつて周辺事態法のときに「ガイドライン法反対連絡会」が結成され、路線を異にする労働組合や生協・YWCAなども含めたかなり広範な運動を展開していたが(足しげく要請行動を繰り返した成果だそうである)、今回、この組織をそのまま横滑りさせることはできなかった。そこで改めて有事法制問題での広範な連絡会を立ち上げるべく、調整が進められてきたが、事態の進展の速さに追いつかず、やむをえず、大阪安保、憲法会議、大阪労連(及び傘下の単産)、関西MICなどに団支部、民法協を加えた、いわばおなじみのメンバーでの立ち上げとなった。三月七日、準備会による学習集会を開き、四月一六日、結成総会を開いた。講師はこの分野では右に出るものがいない藤木邦顕団員。

 連絡会は、四月三〇日になんばなどで府下一斉宣伝活動(第一次)を展開した。いつものことながら、ビラの受取りはよくない。しかし、それはもっと前に出る必要があるということである。五月一七日(第二次)、三〇日(第三次)、そして六月一〇日〜一五日(第四次 集中行動週間)の宣伝行動も予定されている。

 また、各地域や職場での網の目学習会を呼びかけ、これをバックアップするために弁護士が統一レジュメを作成し、五月八日には昼夜二部制で「講師養成講座」を開催し、藤木団員が解説した。私としては、講師となるみなさんに、話の厚みを持たせるための素材として、浅井基文「集団的自衛権と日本国憲法」(集英社新書)や、(手前味噌だが)新刊の団支部・民法協・青法協支部編「市民がつくる二一世紀の日本国憲法」を勧めている。

 このほか、連絡会では、自治労連を中心に、大阪府下自治体首長、議長への要請行動、指定公共機関(NHK、JR西日本など)や大阪府医師会などへの申し入れ活動も予定している(すべてに弁護士が同道できるわけではないが)。

 もちろん、五・二四国会請願・中央共同集会にも大勢参加する構えである。

二 法律家六団体共同声明

 連絡会とは別に、法律家の中で幅広い行動を提起すべきと考え、民法協から団支部、国法協関西支部、青法協大阪支部、さらには潮流を異にする大阪社文センターや大阪労働者弁護団(旧大阪地評弁護団)にもよびかけ、四月二三日、在阪法律家六団体による有事法制反対共同アピールを出した。昨年、テロと報復戦争反対で共同アピールを出したときは、「テロ糾弾」をめぐる温度差(ある団体の一部から、そもそもアメリカが悪いのだから九・一一事件はいわば「自業自得」だといわんばかりの意見があった)ゆえに調整に苦労したが、今回は、有事法制がアメリカの世界戦略に則って戦争を仕掛けるためのものだとの位置づけではすんなり共通の理解が得られた。

 これとは別に、日弁連理事会決議にならって、大阪弁護士会会長声明をださせるべく、中西裕人団員などが奮闘されている。

三 法律家六団体共同による市民集会

 さらに、右の法律家六団体が共同して、五月一六日夜、「ストップ!戦争遂行法 有事三法案に反対する市民集会」と題して大阪弁護士会館六階ホールで市民集会を行うことにした。これはもともと社文センターが「平和と人権センター」(旧護憲連合)に働きかけていたが動いてくれなかったので、私たちに共催の呼びかけがあり、これに乗ったものである。メイン講演は、ジャーナリストで軍事評論家の前田哲男氏。もっとも事前レクでの司法記者クラブの記者の関心は今ひとつだった。何とか報道されればよいが。

四 「有事法制反対五・二〇関西集会」

 続いて、五月二〇日には、全港湾、国労、建交労、自交総連、航空連など、全労連・連合・全労協など系統の違いを超えた陸海空交通運輸関係一四労組の呼びかけによる「有事法制反対五・二〇関西集会」(扇町公園)も予定されている。これは、東京の四・一九日比谷集会を受けた大阪における取り組みであり、五・二四明治公園集会につなげていきたいと考えている。

 政府は「備えあれば憂いなし」などといった(分かりやすい)俗論で一気に成立をねらっているが、法案の危険性が広く知られていけば、反対運動はいくらでも大きくなる可能性がある。まさに時間との勝負である。笹森氏は連合メーデーで今回の法案には反対と述べたそうであるし(海員組合の幹部が連合内で熱弁を振るったためという)、民主党の鳩山代表の発言もかなり変化してきている。私たちの取り組み次第で情勢は大きく変わりうるのである。


「防御型」有事法制から
「攻撃型」有事法制へ


東京支部  松 島  暁


 自由法曹団編『有事法制のすべて』執筆のために、武力攻撃事態法(案)の条文を読み込む作業を行った。そこから見えてきたもの、それは「防御型」有事法制から「攻撃型」有事法制への法体系の変質ともいうべき、今回の有事法制関連三法制定の企てである。

二 周辺事態を含む武力攻撃事態

 武力攻撃事態とは、「武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む。)が発生した事態又は事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう」(二条二号)とされた。

 現行法の防衛出動の要件である、武力攻撃とそのおそれに加えて、その「予測」が新たに加わった。防衛出動に際し、「おそれ」という主観的要素が含まれていたことには、必然的に曖昧さがつきまとっており、恣意的に判断される危険がそもそもあったのに、さらに将来に対する「予測」という曖昧な概念が二重に加わり、判断者がどのようにでも認定しうる構造となってしまった。確かに、防衛出動待機命令についての自衛隊法上の規定では「予測」が使われている。しかし防衛出動待機命令(自衛隊法七七条)は、「防衛出動命令」が予測される場合であって、「武力攻撃」が予測される場合ではない。また、防衛出動待機命令は、あくまでも自衛隊の中での準備行動(隊員に対する「禁足令」の意味)である。つまり、「予測」段階では「動くな」というのが現行法の立場である。ところが武力攻撃事態法は「予測」段階から、陣地構築命令など「動け」ということにされている。

 四月四日の衆院安保委員会において、中谷元防衛庁長官は、「周辺事態はわが国にとって武力攻撃の事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態だ。当然、周辺事態のケースは、この一つではないかと思う」と述べた。つまり周辺事態の場合に自衛隊等が「動く」ために「予測」を加えたものである。

三 集団的自衛権のなし崩し的行使

 従来政府は、わが国が、国際法上、集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法九条の下においては、集団的自衛権を行使することは、憲法上許されないとしてきた。アーミテージ報告では「日本が集団的自衛権を禁じていることが両国の同盟協力を制約している。この禁止を解除すれば、より緊密かつ効果的な安保協力が見込まれる」「今や責任の分担から力の共有へと進化すべき時が来た」とされ、集団的自衛権へ踏み込むことが、ブッシュ政権から強く求められていた。今回の武力攻撃事態法は、この集団的自衛権行使の要求に実質的に応えるものである。

 つまり、乱暴者のタケシ君が殴りかかってきた。その時自分の身を守るために、殴り返すことを認めるのが、いわば個別的自衛権である。他方、タケシ君が仲良しのヒロシ君と殴り合いの喧嘩をしているとき、自分に対して拳は向けられていないが、(同盟関係にある)ヒロシ君を守るために、タケシ君に殴りかかることを認めるのが、いわば集団的自衛権であり、ところが、仲良しのヒロシ君を助けるという名目ではなく、仲良しのヒロシ君と喧嘩をしているタケシ君は、ヒロシ君と同盟関係にありその喧嘩を応援している自分に、将来殴りかかってくるかもしれない、そのことが「予測される」ときには、自分を守るために、タケシ君を殴ってもよい、少なくとも殴る準備をしてよいということになれば、自分の身を守ることを理由に、集団的自衛権を駆使したと同様の結果を招いてしまう。

 今回の武力攻撃事態法は、政治的にはこのような狙いをもつ法案だといえる。日本における有事、日本に対する武力攻撃を名目に、周辺有事、米軍の極東での軍事行動を軍・官・民あげて支援することを本質とする法案である。その結果、日本を守るための「防衛型」有事法制から、米軍のアジア侵略加担のための「攻撃型」有事法制への質的転換が図られようとしている。


有事法制リーフ近日発売!


担当事務局次長  斉 藤 園 生


 有事法制タブロイドは好評のうちに三万部が、なんと一〇日で売り切れてしまいました。

 各地での有事法制反対の運動が、急速に広がっていることが実感できます。国会でもいよいよ審議が本格化し、法案の内容にそって、批判を加える宣伝物が求められていました。

 そこで、第二弾として有事法制リーフ「STOP!有事法制」を緊急に作製することにしました。大きさはA3の大きさですが、ちょっと折り方を工夫して、街頭宣伝でも目立って受け取りやすい宣伝物に仕立てました。法案の内容にそって、地方自治体や民間企業、国民個人それぞれに有事法制がどう影響するのか、有事法制が米国の先制攻撃に協力する内容となっていることなど、簡単且つ解りやすい内容になっています。今回も五四期の新人成見暁子団員のイラストをふんだんに入れて、目を引くものにしています。街頭宣伝でも、小学習会でも使えます。是非活用して下さい。

 今回も一部一五円、五〇〇部以上だと一部一〇円とします。注文は一〇〇部単位でお願いします。注文は団本部まで。発行は五月二一日の予定です。団本部までFAXでお申し込みください。