自由法曹団通信:1062号        

<<目次へ 団通信1062号(7月11日)


内藤 功 有事法制めぐる情勢
平 和元 有事法制阻止闘争本部からの訴え
三嶋 健 川崎市議会決議の報告
長澤 彰 廃案を勝ち取った
東京都「つきまとい」条例のたたかい
全国各地への波及の警戒を!
竹中 雅史 大成功!衆議院憲法調査会札幌公聴会・
市民がつくる公聴会
馬屋原 潔 二一世紀臨調に注意を
根本 孔衛 コスタリカと日本
ー毛利正道さんに応えて
石坂 俊雄 三重五月集会感想特集B
五月集会開催地支部顛末記
杉本 朗 たとえば弁護士法人自由法曹団
大野 博 特別寄稿
有事法制の危険性


有事法制めぐる情勢


東京支部  内 藤  功

 衆院での法案採決を許していない現局面に確信をもつことが必要です。しかし、七月九日ころ郵政法案が衆院を通過すれば、政府与党は、衆院では有事に集中できる状況になります。地方公聴会、参考人質問も含めて、何十時間審議したとの口実で、衆院委員会の法案採決を強行してくることが予測されます。これを許さず、強行採決の暴挙が、政府与党にいかに決定的打撃となるかを思い知らせる好機であります。
 急ぐ背景は、イラク武力攻撃の切迫です。今秋の米「国家安全保障戦略」で、ブッシュ政権は先制攻撃戦略を理論化正当化する段取りです。米政権の北朝鮮への構えも変化しつつあります。米政権が各国政権を巻き込む動きに、各国の憂慮が深まっているとき、日本政府は追随しています。
 政府は国会で「アーミテージ報告が契機ではないか」の質問に対して、「米国の要求にこたえるために整備するものではない」「武力攻撃事態への対処を中心に国全体としての基本的な危機管理体制の整備をはかろうとするもの」と懸命に否定しています(四月二六日衆院本会議での石井郁子議員への総理答弁)。米国との関係、これが政府の最大の弱点です。有事法制は、安保条約、ガイドラインに源を発し、ブッシュ政権の対テロ戦争・対イラク戦争支援のための日本国民動員法制であることは最重要の論点です。
 攻められたらどうする?という疑問もあります。しかし、「どこの国が攻めてくるのですか。何の利益があるのですか。外交と経済交流が得策ではないのですか。日本国民を統治する意志と能力があるのですか」との問には、反論ができません。根本は、有事法制は『攻められたら』の問題ではなく、『攻めたら』の問題だということです。日本は米軍とともに『攻める』立場にあるのです。その論証には、日本の米軍基地・自衛隊基地、日米両軍の部隊の性格と配置、共同作戦計画、共同演習、自衛隊の編成装備訓練、背景にある米戦略など、多くの的確な資料があります。平和・安保・基地・憲法・自衛隊をめぐる、長年の運動、論戦、裁判、学習の成果、半世紀にわたる闘いと知恵のすべてを一気に発揮するときです。国会論戦を活用し応援し補強する「国民的論戦」を起こし、今国会廃案にとどまらず二度と再び出せないところまで頑張りましょう。

(〇二・七・四記)




有事法制阻止闘争本部からの訴え


有事法制阻止闘争本部事務局長  平  和 元

1 あきらめていない与党
 有事法制について、マスコミ各社は今国会では断念との報道を流しています。しかし、政府与党は決して断念したわけではありません。六月二四日、防衛庁リスト問題で集中審議したことにより、特別委員会は再開したとの実績を作り、民主党を引き込んでの審議の進行を狙ってきています。六月一四日の団の全民主党議員に対する要請の際は一様に有事法制は廃案と答えていましたが、最近の各団体の要請に対しては歯切れが悪くなってきています。水面下での協議がなされているとの話もでています。
 このような状況のなかで六月三〇日に政府与党は、あと一回の地方公聴会をやり、中央公聴会の日程を設定したいと言い出しました。
 カナダサミットではアメリカ側から早期成立の要請が強く出されています(共同通信)。国会延長前には父ブッシュも来日し、小泉首相と面会しています。アメリカ側からの強い要請が伝えられたことでしょう。政府与党は、今国会での成立は難しいとしても秋には必ず成立させるとの策動のもと突き進んでくることでしょう。衆議院を通過させる、あるいは民主党との協議を進めてくる可能性が大です。継続審議を許したら秋の臨時国会までの間に政府与党はあらゆる策動を巡らすでしょう。今火種を根絶することが大事です。廃案にしなければなりません。一息いれている暇はありません。地域の各団体の動きにも協力し、廃案に向けて行動しましょう。
2 国会会期末に向けて行動を起こそう
 この間各地で反対集会が盛り上がってきています。大阪、愛知での大集会に続き、大阪弁護士会の四五〇名ものデモは大成功です。新潟、沖縄、京都でも大集会がもたれました。東京の町田では連合も含めてのデモに一〇〇〇名以上参加するなど工夫された行動も広がっています。自治体の動きも急です。六月一二日、全国知事会は緊急提言として慎重審議を求め、長野では一二〇自治体のうち一〇〇を超える自治体が反対・慎重審議の決議をしました。弁護士会単位会の決議・声明も四〇を超えました。これらの声を絶やさず、さらに大きくすることが必要です。
 東京では七月二三日に廃案を求める昼休み法律家デモ(日民協、青法協弁学合同部会、団、国法協他)を予定しています。デモの後大勢で国会要請する予定です。七月二〇日にはジャーナリスト会議などとの共催で有楽町マリオン前でリレートークも予定しています。七月一九日には明治公園での大集会も予定されています。
 全国各地で一斉に行動を起こしましょう。各地で廃案に向けて行動提起してください。地域の労働組合にも国会情勢を伝え行動を提起してください。全国でデモあり、街頭宣伝あり、学習会ありの状況を作りましょう。


川崎市議会決議の報告


神奈川支部  三 嶋  健

1、意見書決議を求める市民側の運動
 有事関連三法案が国会に提出された当初から、我が事務所が参加する平和と民主主義を守る川崎連絡会は川崎市議会に有事法制に関し意見表明の議決を求める運動に取り組んだ。連絡会の他に、新婦人、超党派の反核区民の会が活発に有事法制の意見表明を求める運動をしていた。
 連絡会は国会に対し慎重審議を求める統一要請書の団体署名を一六〇団体集め提出した。この数は川崎の諸団体が取り組んだ運動としては、過去最高水準の団体数となっている(通常は一〇〇〜一一〇団体)。連絡会の有力な構成団体である建築関係の組合は、連絡会の運動に協力しつつも、明確に有事法制に反対する立場の意見を出してもらいたいとの統一要請書を作成し、四〇団体の署名を集め、連絡会を通じて議会に提出した。
2、意見書採択までの川崎市議会の動き
 市議会の人数は六三、そのうち有事法制賛成派は自民、公明、市民同志会の三〇、反対派は共産一三、ネット三、無所属二の計一八名、キャスチングボードを握っているのは民主市民連合の一五である。民主市民連合は旧社会党と民主党の連合党であり、有事法制については是々非々の立場である。
 市民側の運動を受け、民主市民連合は議論の上、有事関連三法案の慎重審議を求める意見書を作成し、全会派に賛同するように申し入れをした。内容は現在国会で審議されている三法案が人権を侵害する危険性が高いと指摘した上で慎重審議を求める内容の意見書であったが、同時に有事法制を整備することは国の責務であるとしている点で問題があった。共産党は問題部分の修正を民主市民連合に求めた。他方自民党からも法案の危険性・問題点を指摘した点につきクレームがついた。調整の結果、有事法制の整備の必要性を認める表現と有事法制の問題点・危険性を指摘する表現が大幅に修正され、全会一致で慎重審議を求める意見書が採択された。
3、意見書採択は大きな成果
 有事関連三法案が提出された時点では、有事法制賛成派が多数を占めていると見られていたため、今国会での成立は必至と見られた。しかし、審議が進むにつれて法案の欠陥が露わになり、国会外では法案に不安や懸念を示す意見が多数になった。反対運動側も、「護憲の立場から反対」あるいは「有事法制には必ずしも反対ではないが、今審議されている法案に反対」する立場など様々な立場の人たちが、一致できる範囲で共同行動をとり、有事関連三法案の反対運動は今国会での強行採決を許さない情勢を作り出すことに成功している。  川崎市議会の意見書の内容は審議の過程で紆余曲折を経たが全会一致で慎重審議を求める意見書を採択した。川崎市は人口一三〇万人の政令指定都市である。かかる大都市の議会で全会一致の意見書採択にこぎつけたことは今の情勢においては大きな成果といえる。
4、廃案を目指して
 川崎連絡会はこの間、下記の通り活発な運動を展開した。
五月一日 メーデー会場でビラ配布
五月三日 新百合ヶ丘駅、武蔵小杉駅、溝の口駅、川崎駅で宣伝活動、五〇名参加、二〇〇〇枚のビラ配布
五月一七日 有事法制に反対する川崎区連絡会と共同で宣伝
五月二四日 川崎市各区リレー宣伝
五月二五日 「有事法制はゴメンです。報道規制は困ります。市民の集いとパレード」に参加
五月二九日 川崎市議会に統一要請書を提出
六月二九日 まちづくりフェスタに参加、スチュワーデス、パイロット、看護婦の皆さんと宣伝活動に参加。二〇〇〇枚のビラを配布する。
 今後とも有事関連三法案の廃案を目指して、闘い抜く決意である。


廃案を勝ち取った
東京都「つきまとい」条例のたたかい
全国各地への波及の警戒を!


東京支部  長 澤  彰

 石原東京都知事は、六月定例都議会に迷惑防止条例「改正」案を提出しましたが、警察消防委員会で、「つきまとい行為規制」関連条項を削除する修正案が全会一致で可決され、六月二六日の本会議でも修正案が採択され、実質的に廃案となりました。
 短期間のうちに廃案を勝ち取ることができた要因は、この条例案が基本的人権を侵害する憲法違反であるというだけでなく、日常市民生活の隅々まで、警察の規制が広汎に及ぶという致命的欠陥条例であることが誰の目にも明らかになり、反対を求める声が東京都のみならず、全国から寄せられたからです。廃案を求めてたたかってきた労働組合、市民団体、民主団体、自由法曹団を含む法律家団体など幅広い反対運動の成果です。
 警視庁が提案した人権関連条例案が都議会で削除修正されたのは都政史上初めてのことであり、その意義は大きいものがあります。
 団本部常任幹事会(六月一五日)において、団長声明を出していただき、全国から都議会に反対の声を寄せていただき、誠にありがとうございました。東京支部をあげて、心から感謝いたします。ただし、自民、公明は、つきまとい行為規制について「慎重に検討」するように意見を述べており、再び同じような条例案が提出される可能性は否定できません。
 東京都では、廃案を勝ち取りましたが、既に他府県で「つきまとい条例」が実施されており、今後、全国に波及するおそれがあります。全国で、警戒をおこたらないようにしていただきたいので、東京都条例の問題点と各地の条例について述べてみます。
【東京都「つきまとい」条例案の問題点】
 「つきまとい行為等の規制」(第五条の2)は、「職場、学校、地域社会等における関係」「売買、雇用、貸借等の契約関係」「交通事故等の不法行為関係」に起因する@つきまとい、待ち伏せ、立ちふさがり、見張り、押しかけ、A面会等の要求、B電話・ファックス、C文書・図画(チラシ・ステッカー・横断幕等)の送付・配布・掲示等(知り得る状態におくこと)を規制対象とし、常習の場合は一年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金、常習でなくとも六月以下の懲役又は五〇万円以下の罰金という重い処罰規定を設けるものでした。
〈あらゆる運動が対象とされる〉
 条例案は、規制の対象を限定せず、社会的原因によるトラブルを網羅的に取り上げているので、労働運動(解雇撤回、リストラ反対、不当労働行為反対等)、地域住民運動(マンション建設反対、ゴミ焼却場建設反対等)、消費者事件・運動(変額保険、悪徳商法の摘発、欠陥商品の是正、安全な食品の改善等)、環境(米軍基地撤去、米軍機夜間差止、ゴルフ場建設反対等)、公害(大気汚染訴訟等)、薬害(HIV、ヤコブ病、ハンセン病等)、マスコミ・ジャーナリストの取材活動などありとあらゆる運動・活動が規制の対象になります。
〈警視総監等「援助」は、紛争の一方当事者への加担となる〉
 条例案は、被害者からの援助の申出があれば、警察が「必要な援助をおこなうことができる」と定め、一方当事者が「被害」を告知するだけで、犯罪がないにもかかわらず警察が紛争に介入し一方当事者に加担することになります。労使紛争で、会社側が「被害の申出」をすれば、警察が会社側に立って「必要な援助」をすることができることになり、警察が一方的に会社側に立ち、労働者の権利を制限できることになっていました。
〈他府県の条例の中でも最悪〉
 他府県でも、「つきまとい行為・嫌がらせ行為」の処罰を定める条例がありますが、「正当な理由がないのに」「電話やファクシミリ・・・を利用して、虚偽の事項若しくは卑猥な事項を告げ、粗野若しくは乱暴な言語を用い、若しくは威圧し、執拗に、不安、迷惑又はしゅう恥心を覚えさせるような行為」(群馬県条例など)に限定していますが、東京都の条例案では、「拒まれたにもかかわらず、反復して電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること」自体も規制対象となっています。一度拒絶されれば、電話・FAXでの意思表明が規制対象とされるというのは、東京都がはじめてです。
【既に実施されている他の府県の「つきまとい規制」条例】
 警視庁の回答によると、既に、岩手県・福島県・群馬県・埼玉県・千葉県・新潟県・京都府・奈良県・広島県・香川県・宮崎県・大分県・鹿児島県で条例が成立・実施されています。
〈四つの規制類型に分類〉
 東京都を含め、実施されている条例の規制対象を分類すると四類型に分類可能です。但し、すべてを含むのは東京都だけであり、初期の条例は、「つきまとい行為」と「電話・文書」を規制するものが多く、京都府は「粗野、卑猥な通信」のみを規制対象としています。
@「つきまとい行為」規制
 ・「つきまとい、待ち伏せし、立ちふさがり、見張りをし、押しかけること」
A「面会」規制
 ・「面会等その他の義務なきこと行なわせる」「面談を求める」
B「電話・FAX」規制
 ・「電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信する」
 ・「電話その他の電気通信の手段により」(京都府)
C「ビラ・ステッカー・横断幕」規制
 ・「文書、図画その他のものを送付し、知りうる状態に置く」
〈行為規制の仕方による分類〉
 規制対象をどのように絞り込むかについて、「悪質行為」で規制する、「目的」で規制する、「正当理由」で規制する方法があります。正当理由での絞込方法は一般的ですが、東京都はこの絞込みすらなされていません。「悪質行為」と「正当理由」の絞込みが一般的です。
@「悪質行為規制」型
 ・「虚偽の事項、卑猥な事項を告げ、粗野・乱暴な言語を用い、威迫し、執拗に」
 ・「言いがかりをつけ、執拗に」
 ・「不安・迷惑を覚えさせる行為」(東京都・漠然かつ広汎で規制になっていない)
A「正当理由」型
 ・「正当な理由がないのに」
 ・「みだりに」(岩手県)
B「目的」型
 ・「ねたみ・うらみその他の悪意の感情を充足する目的」(東京都 ・漠然・広汎かつ主観的で規制にならない)
〈参考・ストーカー行為規制法〉
 「恋愛感情・好意の感情・怨恨の感情を充足する目的」
【今後の対策】
 条例の立法目的は「ストーカー規制法に該当しないつきまとい行為や迷惑電話の相談が増加しており、都民生活の安全と平穏が脅かされている」(警視庁の説明)ということであり、相談の増加は全国的傾向であり、今後、全国に波及することは必至です。
 その場合、法律を超えた条例による処罰の問題点と市民生活の安全を警察規制で実現するやり方の危険性の指摘が重要です。
 自由法曹団として、全国の状況を調査して対策を講じる必要を感じています。


大成功!衆議院憲法調査会札幌公聴会・
市民がつくる公聴会


北海道支部  竹 中 雅 史

 去る六月二四日、衆議院憲法調査会の札幌地方公聴会が開催されました。有事三法案が国会に提出されるという情勢のもと、公聴会では憲法改悪反対の世論を示し、同日夜には「憲法調査会は何を調査したのか?市民が開く公聴会」を開催するため、青法協北海道支部では事務局内にプロジェクトチームを立ち上げ、私達自由法曹団員が中心となって集中的な取組みを行い、その甲斐あって、昼も夜も、成功裡に幕を閉じました。詳細なご報告は、「青年法律家」七月号に掲載される予定なので、そちらを参照していただくことにして、ほんのエッセンスをご報告いたします。
 まず、地方公聴会では、六名の意見陳述者中、はっきりと再軍備、徴兵制などを主張したのはわずか一名(実態のない会社の代表取締役)で、その論旨も極めて分かりにくいものでした。
 そもそも、意見陳述者への応募が寄せられた六二通のうち、改憲を主張するものはわずか五通だったそうで、改憲派がまっとうな意見陳述者を組織できなかったことがありありと窺えました。一方、私達は、意見陳述者応募の〆切数日前から団本部などからの督励が相次ぐ中、あらゆる結びつきを生かして声を掛けた結果、札幌弁護士会の弁護士二名と、法学部在席の女子大生が見事採用されました。残る二名(憲法学者と農家)も、それぞれ、平和憲法を守り有事法制に反対する立場で地道な活動をされている方々で、これら五名が揃って、憲法の第九条や基本的人権には世界に誇れる先駆的な価値がある、憲法を変えるよりも憲法の理想・理念に現実政治を近づける努力をすべきだ、というスタンスで意見陳述をされました。
 出席委員との質疑応答でも、何とか改憲を容認する発言に誘導しようという思惑がありありの質問に対し、五名の意見陳述者が的確に反論し、中山太郎会長の制止にもかかわらず会場からの拍手が鳴り止まないという有様でした。
 あまりにも護憲の立場が圧倒的優位を占めた公聴会となったため、終了後の記者会見では、期待≠裏切られた中山会長や中川昭一委員らがキレ≠トしまい、北海道は情報が遅れているとか、北海道の恥ずかしい面が出たなどと口走った様子は、「しんぶん赤旗」六月二五日付や「朝日」六月三〇日付朝刊で大きく報道されました。
 この記事を見た参加者から、私達に対し、「意見陳述者のみならず道民を愚弄する発言で許せない。中山会長らに対する罷免要求や抗議行動をするので一緒に取り組んで欲しい」という声も寄せられています。
 同日夜の「市民公聴会」も会場が満員となる一二〇名余の参加者があり、意見陳述者六名のうち上記の五名全員が参加してくれ、国会議員本人の出席は日本共産党の春名議員のみでしたが、民主党・社民党の議員からも連帯のメッセージが寄せられるという画期的な取り組みとなりました。最初に、春名議員や意見陳述者から、ユーモアを交えて、昼の公聴会の様子がリアルに報告され、会場からも発言希望が相次いで寄せられ、時間ぎりぎりまで一二名が発言した上、最後に有事法制反対を含む集会アピールを採択して幕を閉じました。
 私達は、仙台から沖縄まで過去四回の地方公聴会に向けた各地の先生方のご奮闘ぶりに負けじと「ここでがんばらずしていつがんばるのか」という意気込みで、サッカーに例えれば、ブラジルの3R並みの個人技とドイツの組織力が融合したような(?)短期集中的な大奮闘により、大きな成果を挙げることができました。
 今後とも気を緩めることなく、有事法制の目を完全につぶすまで頑張りたいと、決意を新たにしています。


二一世紀臨調に注意を


担当事務局次長  馬 屋 原  潔

 現在、(財)社会経済生産性本部という民間のシンクタンク内に二一世紀臨調(正式名称=新しい日本をつくる国民会議)が設置され、提言活動を行っている。この提言活動は注意を要するので報告する。
 二一世紀臨調の前身は民間政治臨調である。かつて小選挙区制導入の旗振り役であった。それが一九九九年七月一二日に、政治改革のみならず、憲法改正等も視野に入れたより幅広い提言活動を行うために組織変更されて出てきたのがこの二一世紀臨調である。
 この二一世紀臨調には、国の基本法制検討会議(代表 赤澤璋一・内田健三)、二一世紀の政治をつくる国民会議(代表 佐々木毅・川島廣守)、国民生活再構築会議(代表 小倉昌男・得本輝人)の三つの分科会が設置され、さらに自民・民主・公明・自由などの超党派の若手議員とも連携を保っている。このうち国の基本法制検討会議については、さらに外交・安全保障・危機管理に関する検討部会(部会長 森本敏(拓殖大学教授))、国の統治機構に関する検討部会(部会長 西尾勝(国際基督教大学教授))、国民の権利と義務に関する検討部会(部会長 福川伸次(電通総研研究所長)、草野忠義(連合事務局長))の三つの部会が設置されている。そして、相澤光江(弁護士)、安藤俊裕(日経新聞論説委員)、岩井奉信(日本大学教授)、上島一泰(元日本青年会議所会頭)、宇治敏彦(東京新聞論説主幹)、牛尾治朗(ウシオ電機会長)、金子仁洋(桐蔭横浜大学教授)、北岡伸一(東京大学教授)、岸井成格(毎日新聞役員待遇編集委員)、木全ミツ(前イオンフォレスト相談役)、島脩(帝京大学教授・元読売新聞専務取締役編集局長)、島田晴雄(慶応大学教授)、曽根泰教(慶応大学教授)、飛田寿一(共同通信論説副委員長)、成田憲彦(駿河台大学法学部長)、花岡信昭(産経新聞論説副委員長)の各委員。各部会は、部会長以外はメンバーが固定されておらず、委員は各部会に自由に参加できることになっている。
 国の基本法制検討会議は、昨年一一月一九日に二一世紀の日本が目指すべき社会の概要を示した提言をし、今年の二月から三月にかけて、外交・安保、統治機構、人権の問題についての三つの中間報告を発表している。http://www.jpc-sed.or.jp/teigen/index.htmlにおいてすべて見ることができる。なお、最終報告が今年の五月に発表される予定であったが、作業が遅れているようであり、七月一日現在、発表されていない。これらの提言においては、集団的自衛権の行使に踏み込んだ憲法改正を提言したり、有事法制整備の必要性を説いたりするなど、小泉内閣の政策を下支えする内容となっている。単純小選挙区制の導入についても相変わらず主張している。
 二一世紀臨調の提言は社会や法制度のあり方についての包括的な内容となっており、政府の側の目指す日本社会の将来像全体を示すものとして重要な意味があると思われるので、今後とも注視していく必要がある。
 今後、沖縄・改憲対策本部は、この二一世紀臨調の提言内容と改憲推進派の主張内容との比較対比をすることなども考えている。


コスタリカと日本
ー毛利正道さんに応えて


神奈川支部  根 本 孔 衛

 自由法曹団通信一〇五九号に毛利さんの「コスタリカには、教師として学ぶ点と、反面教師として学ぶ点がある」がのせられています。去る五月集会で同旨のペーパーの配布をうけました。私も二〇〇〇年九月に国際民主法律家協会の第一五回大会がキューバのハバナで開かれた際にコスタリカを訪問し、さらにメキシコをまわってきましたので、この発言要旨を大変興味深く読みました。会場で毛利さんにお会いしたら、私の感想をお話したいと思っていましたが、あいにくお目にかかれませんでしたので、帰ってから一文を書き、毛利さんに私信としてお送りしたところお返事と資料をいただきました。団通信に毛利さんの文章が載せられた機会に、コスタリカをはじめとして私の見たり調べてきたコスタリカとラテン・アメリカ観について皆さんにいくらかお話しておくことも、日本の安全と人権の保障を考える上でなんらかの参考になるのではないかと思いました。毛利さんあての私信にいくらかの手を加えて小文にしてみました。
1、まず始めは、キューバ革命がラテン・アメリカ諸国に与えた、また現在に与えているインパクトの大きさのことです。ラテン・アメリカは、当時も現在もパックス・アメリカーナの世界です。革命前のキューバはその最たるもので、米国の従属下におかれ、冨と貧のかけ隔たりは甚だしく、政治は暴圧そのものでした。革命後は米国の支配を脱して社会主義への道を進んでいきましたが、ソ連の崩壊とその援助の停止後は、米国の経済封鎖もあって、経済的に大変むずかしい状態にありました。しかし最近はその苦境もしのぎつつあるようで、国民の教育、保健、身近の安全、最低生活保障、ことに老後については、ラテン・アメリカ諸国の中では群を抜いています。医師の養成など周辺諸国から若者を招き教育するかたちで、援助を与えています。キューバには失業問題など色々と矛盾はありますが、人々が、歌と踊りを愛好し、明るく楽天的であり、アマチュア野球では世界一であることは、日本でもよく知られています。 米国が、カストロを目の敵にして、折りがあればその社会主義をつぶしにかかっているのは、周知の通りです。それはアメリカが、自ら唱えているような流儀の人権と民主主義のほかにキューバのような生き方もあることを、世界ごとに周辺の国の人々に知られたくないからでしょう。ラテン・アメリカ諸国で政権の座にある人々の大方は、カストロとは考えを異にしていますが、米国がその圧倒的な軍事力、経済力を利用して反カストロの旗を振っていても、なかなか米国の思うとおりには動きません。
 それは、キューバをつぶしたら、米国の圧力が自分たちにモロにかかってくることを理解しており、キューバの存在を評価し、それが米国の勝手気ままな政策を押さえる結果になっていることをよく知っているからでしょう。
2、コスタリカは、米国のラテンアメリカ政策に対して、なかなかウンと言わない国ですし、しばしば米国に対して異議をとなえています。しかし米国がコスタリカに対して、米州の国でその気に喰わない政府に対していつもやる手である軍事介入やCIAによる転覆工作をやったということは、聞いたことがありません。コスタリカがその隙きを与えないということもありますが、米国にしてみれば、コスタリカはこの地域でのアメリカ流の民主主義のショウウィンドウの役割を果たしていると考えているからではないでしょうか。
 キューバ革命から四〇年以上も経っているのに、コスタリカは米州の中で数少ない革命政権未承認国(四か国?)の一つです。コスタリカがこのようなスタンスをとっていることは、米国のキューバ敵視政策を「正当化」するための「貴重」なバックアップとなっているのでしょう。裏からいえば、このことがコスタリカの対米外交のカードになっているのではないかと思います。
3、コスタリカの首都・サンホセに米州人権裁判所がおかれています。米国は、この米州人権機構に入っていません。その理由は、米国が米州でやっている軍事介入やCIAその他の策動がひきおこす人権侵害が、この場で裁かれるのを恐れていることが、この未加入の最大の理由でしょう。間もなく発効する国際刑事裁判所に対する態度と同様です。
 したがって、この裁判所の裁決による直接的な効力が米国に及ぶことはないのですが、それでも米国はここでの判断を無視することはできない、というのがこの裁判所の職員の見解でした。人権尊重を建前にかかげ、それを外交の手段にしている米国にとって、コスタリカにあるこの裁判所の存在とその判断を無視できないのはつらいところでした。この裁判所の設立を強く主張し、その首都に招致したのがコスタリカです。人権擁護と外交とは別の問題ですが、この裁判所が、コスタリカの対米外交の力になっており、それを有利に動かしていることは事実でしょう。
4、私が、コスタリカの人たちと話をする時に、気恥ずかしく思うことがあります。
 日本国憲法では一切の軍事力を放棄しており、軍隊を外交の手段には使わないということになっておりながら、現実に自衛隊があり、日米安保条約が動いていて、「周辺事態」や「テロ対策」といって米国の政策に協力しているというのが日本の現実です。私たちがこれを阻止できていず、その方針をとりつづけている政権が長々と続いていることを指摘されたならば、何んと答えたらよいでしょうか。日本とコスタリカとでは大分国情が違うと言ってもそれでは弁明にならないでしょう。 日本は「経済大国」であり、アジア地域をはじめとして世界の各地に権益を持っているのに対し、コスタリカは国外に経済進出しているわけではないし、国内にある米国資本が比較的少ないといったことはあります。だからとって、日本が憲法違反の軍隊をもち、それを海外に出動させてよい理由にはなりません。コスタリカがその安全保障を軍事的には米州機構に依拠していることは事実ですが、国内にあるのは警察力だけで、それを外に出すことはありません。
 それどころか、中米に多い革命、クーデターなどの政治的紛争から生じてくる難民を多数うけいれています。言葉、宗教、文化などが同じであるとはいっても、国の人口の二〇%にも及ぶ難民を受け入れ生活させるということは、中米一安定している国ではありますが、決して「豊かな国」とはいえないコスタリカにとっては大変重い負担です。現在の日本ではその何分の一も実行できないでしょう。しかしこのような人道的な努力がコスタリカの平和と安全を守っているのだといえます。
5、コスタリカに学ぶべきことは、このほかにも沢山ありましょう。米国は、これまで米州でやってきたやり口を、冷戦後は世界的にひろげてきているように見えます。昨今の米国のアジア・太平洋政策がその一環であることはいうまでもありません。
 「周辺事態」や「テロ対策」で米国に協力し、有事立法で一層深入りしようとしている日本の現状を考える時、コスタリカが行ってきた対米外交、周辺諸国への善隣政策がもっている意味合いを、私たちはよく検討すべきでしょう。
 アジアの事情は複雑です。ヴァルガスさんとサン・ホセのホテルで会談した時に、アジア人権裁判所の設立の話がでました。彼から、それはいつ頃できますかと問われて、「さあ」と口を濁すことよりほかはなかったのですが、それがそう遠くない日に設立されるのを是非この目で見たいものだと思いました。アジアでは乗りこえなければならない色いろ難しい条件はありますが、志を失うことなくその実現のために努力を続けたいと思っています。



三重五月集会感想特集B

五月集会開催地支部顛末記


三重支部  石 坂 俊 雄

1 全国の皆さんありがとうございました
 遠い志摩賢島の地まで全国から五〇〇名を超える団員・事務局の皆さんが集まって熱心に討論して頂きありがとうございました。三重県では、「有事法制反対の県議会の決議」だけではなく、最近では全国のトップを切って「住民基本台帳ネットワークの八月実施の延期の決議」を県議会としては全国で最初にしてしまいました。団の五月集会効果でしょうか。
 ところで、私は、五年ほど前から、三重で五月集会を持つようにといわれるであろうと覚悟をしておりましたが、ひょっとしたら、忘れられて、そのままパスするのではないかと内心は、期待もしておりました。しかし、幸い忘れられておらず、順番が回ってきて、何とか支部としての役目を果たすことができました。
2 大宴会の可能なホテル探し難しい
 まず、五〇〇名を超える人が来ることを想定してホテルを探すようにとの本部事務局のご指示がありました。どこにしようかということになりますが、最大の問題は、座敷で五〇〇名の大宴会ができるホテルがあるのかということです。この宴会の規模でホテルをさがすとなると、選択の幅が極端に狭くなります。その結果が志摩の「宝生苑」になったわけです。このホテルは、グルメで有名な「志摩観光ホテル」の姉妹ホテルですから、高級リゾートホテルなのですが、本部事務局の辣腕により、宿泊費をまけさせて、あの値段で開催できたわけです。
 これから、ますます団は大きくなるのでしょうから、今後は、宴会の方法について、工夫をしていく時期に来ている考えます。分割してするか、立食方式ならホテルを探すのは容易であると考えますが、立食では、くつろいだ雰囲気は出ませんので、悩ましいところですね。
3 地元の「出し物」は出さない
 各地の団支部では、その地方の「出し物」を参加者にみてもらうことに苦労しておりますが、当支部では、地元出し物は出さないということが即座に決まりました。なぜか。これは、出し物を見ている人はほんのわずかであり、頼み込んで出演を依頼したのに、演者を見ている人はきわめて少数で、演者にあまりにも失礼に当たる例を多数見てきているからです。それよりも、久しぶりにあった友人と語り合ってもらった方がよいと考えたからです。
 楽しく語り合ってもらいたいために、地元の銘酒だけは用意したわけです。三重のお酒はおいしかったでしょう。
4 一泊旅行は中止となったが、皆さんそれなりに伊勢・志摩を見学をしたのではないでしょうか
 伊勢の地には、何度も来ている人が多かったのか、旅行先が悪かったのか、一泊旅行は参加者が少なく中止となりました。しかし、参加者は各自に志摩・伊勢の地を見学して頂いたようです。伊勢神宮内宮は、天皇と深い関係のある神社ですが、伊勢神宮を見るときは一面的に見るのではなく、文化的意味から見る必要があります。二〇年ごとの遷宮は、建築様式の伝承であるし、その他多くの有形・無形の文化財・技術の継承が連綿と行われております。天皇などあまり意識されていなかった江戸時代の「おかげ参り」も、当時の文化的現象の一面であるといわれております。いずれにしても、多く団員・事務局が伊勢の地をいろん(異論)な意味で散策され、思索されたことを地元としてはありがたく思っております。
 尚、一泊旅行がなくなったので、事務局長を秘境の大杉谷に案内することができました。この山行の記事は、事務局長が暇になったらおそらく書くでしょうから、楽しみにしていて下さい。
5 東海三県(愛知・岐阜・三重)で有意義な懇親会がもてました
 岐阜の髭を生やした団員のご苦労により、東海三県の団員の懇親会がもたれ、大いに盛り上がりました。今後とも継続して三県で会合を持つことが確認されましたので、これからは県を越えて有機的にいろんな活動ができる期待・可能性が生まれました。全国の皆さんご期待下さい。
6 本部事務局のご苦労は大変なもの
 多くの団員から、ご苦労さまでしたというねぎらいのお言葉をいただきましたが、私どもは、ほんの少しのお手伝いをしただけです。集会の中心を担ったのは団の事務局の皆さんです。私は、五月集会を通じて、団の活動は、事務局の献身的な努力により担われていることを遅まきながら自覚をいたしました。感謝、感謝です。
7 皆さん、また会いましょう
 次に三重県が担当するのは約二五年後ですが、そのとき私は八〇歳です。二五年後も元気で皆さんと三重の地でお会いすることを楽しみにしておりますので、体をすり減らさずに、皆さん、長生きをして、またお会いましょう。



たとえば弁護士法人自由法曹団


神奈川支部  杉 本  朗

 今年の五月集会には、プレ企画の後継者養成問題から参加したのだけど、一番印象に残っているのが、このプレ企画だった。
 その中で、ロースクールの教官へ積極的になろう、という発言があり、なるほどなぁ、と共感した。ギルド的な発想でいけないのかもしれないが、自分たちの後継者は自分たちで育てるのだ、という気概というか矜恃は、弁護士に必要だと思っている。私は他人にものを教えるというか、他人に何か話して伝えるということが苦手なので、とてもロースクールの教官にはなれないが(よく考えると、そうしたことが苦手というのはそもそも弁護士にも向いていないのではないかと思われるのだが)、優秀な自由法曹団員が教官になっていくことを積極的に応援したいと思った。
 ところが、同時にロースクール教官の採用条件なんかも、教官にと声のかかった団員から話があったのだが、これを聞くとなかなか大変なこともわかった。週三日は(週三コマではなく)来て欲しい、というロースクールの要求は、あくまで「専任」教員を求めている趣旨だと理解できなくもないが(「実務家教官」というのは直近まで実務の現場にいた教官ということなんだろうなぁ)、厳しいのはその経済的条件である。のんびり一人でやっていた弁護士が事務所を半分閉めるような形で教官になるなら、この条件でも何とかなるかもしれないが、いわゆる合同系事務所に所属し、その経費を負担しながらということになると、これはかなりシビアである。
 勿論、教官を送りだす事務所は、それなりに負担経費の削減など、何らかの経済的援助は行うのだと思う(精神的援助だけは惜しまないというバチカン的事務所もあるかもしれないが)。しかし、それにも限界がある。「あいつが勝手に教官になるのに何でおれたちに経済的なしわ寄せが来るんだ」という不満は、潜在的には常に存在しうるし、仮にそれは各事務所の団結の問題だとしても、そもそも自由法曹団の後継者養成の一環としてロースクールに教官を送りだすというのであれば、教官を送りだした事務所所属の団員のみが負担を背負うというのは、原理的にはおかしいような気がする。自由法曹団の方針としてロースクールに教官を出すのであれば(そういう方針は取らないというなら話は別である)、負担も団全体で分かち合うというのが筋になるのではないだろうか。
 しかし、負担を団全体で分かち合うと言っても、なかなかその方法は難しい。仮に団員一人当たり一万円を拠出したとしても、一五〇〇万円くらいにしかならない(団員って、一五〇〇人くらいでしたよね)。低金利の現在、これくらいのお金を基金としても全然運用益は上がらないであろう。ハイリターンの(したがってハイリスクの)ファンドで年利二〇%くらいあるらしいが、それは億の単位でないと運用してくれないらしい。
 それならいっそのこと、長期的な視野で、弁護士法人を作るってのはどうだろうか。二〇〇人規模くらいの弁護士法人を作れば、一〇人くらいを教官として送りだすことが可能なのではないだろうか。二〇〇人規模の弁護士法人をどうやって作るんだよ、と言われてもそんなことは私は知らない。だから基本的に、私の話はヨタ話である。
 ただ、たとえば、日本各地に民主的勢力と共に歩む法律事務所を作ろうとしたときにすでに弁護士法人制度があったら、弁護士法人制度を利用した展開があったかもしれないではないか。新しい時代へ向けて、後継者養成問題を考えるなら、現時点で存在するあらゆる制度を活用できないか検討するという、そういったことが必要なのではないか、というのが、プレ企画に参加した私の雑感である。



特別寄稿

有事法制の危険性


日本ジャーナリスト会議(JCJ)  大 野   博

 記者時代によく後藤田正晴氏がいっていた。「戦後の日本の本当の危機は二一世紀早々に来る」と。その理由「この時期日本は大多数は戦争を知らない世代になるから」というわけ。
 さすが官僚中の官僚、能吏中の能吏といわれた後藤田氏である。予言は的中した。二一世紀のわずか二年目に有事法制(以下有法という)が政治の中心に躍り出てきたからである。
 有法が一九三八年の国家総動員法とそっくりなのはつとに指摘されている。このときの議会で佐藤賢了陸軍大佐が法案審議中に議員に「黙れ」と一喝したことは当時の軍部の強権ぶりの象徴である。今度も有法審議中に防衛庁のリスト漏洩が暴露された。歴史は繰り返す、そして日本はそれまでの日中戦争に輪をかけた対米戦争に突入する。 
 ジャーナリスト活動はどうだったか。(当時は活字メディアが主力、放送はNHKだけでまだ揺籃期)取材は完全に自由を失った。検閲は大手を振りまわした。
 その最たるものがかの竹槍事件である。その執筆者新名記者(毎日)は東条首相直々に徴兵された。
 経営上はどうなったか。用紙割当制、ページ字数制限、夕刊廃止さらに一県一紙への、しかも特高警察主導による強制合併などである。
 だがこの時期の新聞には一九三三年ごろの信濃毎日の桐生悠々、福岡日日(現在の西日本新聞)の菊竹淳のように堂々と反軍社説を書く人はいなかった。書けなかったというべきか。
 さて、現代のメディアの多様性はかつてと比較にならない。それゆえに有法のメディアに与える害毒は比較にならない。なのに反有法姿勢はいまいち弱いのはなぜだろう。後藤田氏流にいえば「メディア各社の首脳部の大多数は戦後生まれだから」ということなのか。
 ならば戦争体験世代のジャーナリストがいっそう大きな声をあげて有法反対の声をあげることが必要である。この世代はジャーナリストだけでなく多くの人は、小泉首相の「備えあれば憂いなし」の言葉を聞いた瞬間反射的に「ぜいたくは敵だ」「世の中は星(陸軍)に錨(海軍)に闇に顔(官僚)馬鹿者だけが行列に立つ」「欲しがりません勝つまでは」の文言を思い起こした。世の中真っ暗だったのである。
 蛇足だが「備えあれば憂いなし」はオールウェイズ・ビー・ケアフリー(ABC)で「常に警戒せよ」が直訳である。われわれこそ有法を直訳「ABC」でいこうではないか。

(元日刊工業新聞記者)