過去のページ―自由法曹団通信:1253号        

<<目次へ 団通信1253号(11月1日)



今村 幸次郎 二〇〇七年山口総会の報告
加藤 裕 沖縄・韓国法律家平和交流会報告
井上 正信 新テロ特措法案反対は、給油問題だけに絞ってはだめだ
後藤 富士子 「離婚」制度の改革
―空洞化した家事審判手続の再生
今村 核 書評 伊藤和子著「誤判を生まない裁判員制度への課題」(現代人文社)
吉原 稔 中島晃 著 「景観保護の法的戦略」 を読む



二〇〇七年山口総会の報告

前事務局長  今 村 幸 次 郎

 一〇月二一、二二の両日、山口市の湯田温泉で自由法曹団の〇七年総会が開催された。四一二名(うち弁護士三三四名)が参加した。

 総会は、田畑元久(山口県支部)、吉川健司(北陸支部)、加藤健次(東京支部)の各団員が議長団となって進められた。松井団長の開会挨拶、地元山口県支部の田川章次団員からの歓迎挨拶に続き、山口県弁護士会松崎孝一会長、全労連・井筒百子総合労働局政策局長、日本国民救援会・山田善二郎会長、日本共産党・仁比聡平参議院議員から来賓としてのご挨拶をいただいた。

 引き続き古稀団員の表彰が行われた。今年の古稀団員は一九名で、うち七名が参加された。代表して廣田繁雄団員からご挨拶をいただいた。「青春とは人生のある期間をいうのではなく、心の様相を言うのだ」というサミエル・ウルマンの詩を引用され、初恋の人との再会というエピソードも交えながら、ご自身が「青春」のただ中にいることが紹介された。心に残るスピーチであった。

 全体会討論の冒頭、田中幹事長から、本総会にあたっての議案の提案と問題提起がなされた。参院選における与党の歴史的大敗、戦後レジームからの脱却をめざした安倍政権の崩壊という劇的な流れの根底には憲法とくらしを守るたたかいがあったこと、団と団員の活動はそれと深く結び付いていることに確信をもつこと、今後も、改憲策動との対抗、格差や貧困を生みだす構造改革路線を変えさせる取り組み、治安強化とのたたかい等に奮闘することが提起されるとともに、明日の自由法曹団を築くための積極的な議論と活動が呼び掛けられた。

 なお、司法改革に関して、これまでに勝ち取られた前進面と団員の活動の重要な意義を確認するとともに、今後、司法改革の総括・検証、現状の評価と課題の整理、顕在化しつつある問題点への対応等に向け、しかるべき体制を立ち上げるなどして取り組む趣旨の議案の追加提案がなされた。

 その後、(1)徳島における偽装請負問題への取り組みについて、鷲見健一郎団員と森口英昭徳島県労連事務局長から、(2)沖縄における「集団自決」に関する検定意見の撤回を求める取り組みについて、仲山忠克団員から、(3)公民権停止を退けた大石事件の取り組みについて、河野善一郎団員から、それぞれ報告がなされた。

 一日目の全体会終了後、四つの分散会に分かれて議案に対する討論が行われた。各地における実践の報告を含めて、活発な議論がなされた。

 二日目の全体会では、以下の発言がなされた。

  ○内山新吾団員(山口県支部)、住民投票を力にする会・吉岡光則事務局長・・・岩国基地への艦載機部隊移転反対運動について

  ○長澤彰団員(東京支部)・・・インド洋給油新法への反対と改憲阻止の取り組みについて

  ○高木佳世子団員(福岡支部)・・・生活保護支援ネットの取り組みについて

  ○戸館圭之団員(東京支部)・・・反貧困ネットワークの取り組みについて

  ○鶴見祐策団員(東京支部)・・・東京大気汚染訴訟勝利和解の報告

  ○奥泉尚洋団員(北海道支部)・・・B型肝炎全国訴訟の取り組みについて

  ○福山和人団員(京都支部)・・・京都市長選挙について

  ○藤木邦顕団員(大阪支部)・・・大阪府知事選挙について

 以上の発言の後、田中幹事長から、分散会討論で裁判員制度に関する議案書の提起について批判の意見が出されたことを踏まえ、補足説明がなされた。裁判員制度については、市民の司法参加という積極面を持っていること、しかしながら、その積極面を生かすための条件整備が不十分であると考えられること、そのための制度の改善等に向け最後まで努力しようというのが議案書の提起の趣旨であって、「先送り」を前提とするものではないことが説明されるとともに、仮に条件整備が不十分なまま実施に移されたとしても、積極的に刑事裁判に取り組み奮闘することが提起された。

 その後、追加提案や補足説明を含めて議案の採決が行われ、賛成多数で承認された。予算・決算も承認された。続いて、以下の決議が採択された。

  ○米軍岩国基地への艦載機部隊移転に反対し、地元住民のたたかいを支援する決議

  ○沖縄戦「集団自決」に関する高校歴史教科書検定意見の撤回を求める決議

  ○平和憲法の蹂躙を許さず、報復戦争参加のための新法案に反対する決議

  ○「構造改革」・規制緩和政策を転換し、憲法が保障する人間らしい生活を営むことのできる労働者保護法制の実現を求める決議

  ○絶対的貧困と社会的格差の拡大に反対し、生活保護をはじめとする社会保障の充実を求める決議

  ○保険業法の自主共済への適用除外を求める決議

  ○新自由主義的「構造改革」に反対し、国の地方自治体に対する財源保障責任の履行を求める決議

  ○大石事件の高裁有罪判決に抗議し、言論弾圧とたたかう決議

  ○少年警察活動規則の「改正」に抗議し、警察のぐ犯少年に対する調査権限規定の削除を求める決議

 引き続き、選挙管理委員会から、団長は無投票で、幹事は信任投票で選出された旨の報告がなされた。総会を一時中断して拡大幹事会を開催し、規約に基づき、新入団員三七名の入団の承認、常任幹事、幹事長、事務局長、事務局次長の選任を行った。

  新役員は次のとおりであり、新任の加藤事務局長から挨拶がなされた。

   団長     松井繁明(東京支部 再任)

   幹事長    田中隆(東京支部 再任)

   事務局長   加藤健次(東京支部 新任)

   事務局次長  馬屋原潔(千葉支部 再任)

   同      町田伸一(東京支部 再任)

   同      杉尾健太郎(東京支部 再任)

   同      大山勇一(東京支部 新任)

   同      神原元(神奈川支部 新任)

   同      半田みどり(大阪支部 新任)

   同      三澤麻衣子(東京支部 新任)

  退任した役員は次のとおりであり、退任の挨拶があった。

   事務局長   今村幸次郎(東京支部)

   事務局次長  増田尚(大阪支部)

   同      阪田勝彦(神奈川支部)

   同      松本恵美子(東京支部)

   同      山口真美(東京支部)

 閉会にあたって、二〇〇八年五月集会(五月二五〜二六日、二四日にプレ企画を予定)への勧誘の挨拶が岐阜支部の笹田参三団員からなされ、最後に、山口県支部の横山詩土団員からの閉会挨拶をもって総会を閉じた。

 総会前日の一〇月二〇日に二つのプレ企画、「事務所づくり、支部づくりの議論に『将来問題』を据えて」(参加者四六名)、「いま、ワーキングプアを考える〜『現代の貧困』の克服のために」(参加者一〇四名)が行われた。

 多くの団員の皆様のご参加によって無事総会を終えることができました。総会成功のためにご尽力いただいた山口県支部の団員、事務局の皆さんをはじめ関係者の方々に、この場を借りて改めてお礼申しあげます。どうもありがとうございました。



沖縄・韓国法律家平和交流会報告

沖縄支部  加 藤  裕

 去る一〇月四日、那覇市内にて、韓国民主社会のための弁護士会(民弁)米軍問題研究委員会と団沖縄支部の間で、初めての「沖縄・韓国法律家平和交流会」が開催された。

 この交流会は、近年めざましい成果を獲得してきている韓国の米軍基地関係訴訟を担当している民弁側から、昨年春、団支部に対して提案があり、日程調整の都合で時間がかかったものの、この度やっと実現したのである。韓国側の問題意識は、双方の国・地域における米軍基地問題の現状認識を共有し、互いの基地闘争の経験を運動面、法的側面の両面にわたって交流し、米軍基地のない韓半島と沖縄を相互に目指していこうというものである。

 韓国側からは、クォン・ジョンホ前米軍問題研究委員会委員長を団長に、チャン・キョンウク現委員長、今回の交流会準備の韓国側窓口となったチョウ・ヨンソン弁護士ら弁護士九名に家族らを加えた合計一五名が来沖した。今回の訪問団のメンバーは全員はじめての沖縄訪問であった。交流会には沖縄側から団員をはじめ十数名が参加した。

二 交流会での報告と討論

 一〇月四日の交流会では、韓国側からチャン弁護士が、「平和協定と駐韓米軍の問題」とのテーマで、朝鮮戦争の停戦協定からいかにして平和協定への転換を図るかということについて法的な側面から報告した。特に問題となるのが、駐韓米軍の撤退、国連軍司令部の解体と平和協定との関係である。米軍駐留と平和協定が両立するという主張もなされているが、チャン弁護士は、外国軍隊の撤退は平和協定の前提とならなければならないと述べた。折しも同日に南北首脳会談が行われ、朝鮮戦争の終結宣言に向けた協議の合意が発表されたのであり、この報告は極めて時宜を得たものであった。一九九九年に沖縄で日韓法律家交流会が開催されたとき、民弁の弁護士の口からは、駐韓米軍撤退の問題は将来の理念的な課題というニュアンスを込めて説明されたが、この間に、これが確かに極めて困難ではあるがより現実的な課題になってきたということができる。

 沖縄側からは、初回ということでもあり、まず新垣勉団員から、「沖縄における基地訴訟」と題して、沖縄における反戦地主訴訟を中心とした反基地闘争とその裁判闘争の意義と成果について報告がなされた。ここでは、代替基地建設反対闘争やそれに関連したアセスメントに対する取組、アメリカでのジュゴン訴訟などの紹介もなされた。次に、加藤が、普天間基地爆音差止訴訟を中心に日本での基地騒音訴訟の到達点について報告した。韓国でも梅香里や平澤などで基地騒音訴訟が展開されており、相互の経験交流は今後もますます重要になってくるだろう。

三 懇親会と基地視察

 四日の交流会の夜は那覇市の料亭で懇親会をもち、五日と六日の二日間は基地視察の案内をした。

 五日は、嘉手納基地と普天間基地を視察し、宜野湾市の佐喜真美術館で沖縄戦の図を鑑賞した後、館内で普天間基地爆音訴訟団と懇談をもった。また、伊波洋一宜野湾市長との面談も実現した。

 六日は、辺野古で新基地建設予定地を視察し、大西照雄さんら辺野古命を守る会のメンバーと懇談した。嘉陽宗義さんをはじめとした辺野古のおじい、おばあにも参集していただき、それぞれの基地建設阻止の思いを語ってもらった。民弁の面々は嘉陽おじいの年齢を感じさせない不屈の闘争への情熱ともてなしに深く感銘を受けたようであった。

四 来年に向けて

 訪問団からは、帰国後早速感謝文が届けられた。ここでは、「韓半島の反戦平和と自主的平和統一に向けた闘争と、沖縄民衆の米軍基地撤廃のための闘争を通じて、韓半島を取り巻く核戦争の危機がなくなり、韓半島の平和と統一の夢が実現されるのです。韓半島と沖縄は国境がないのです。」と記されている。私たちもこの思いを共通にして、韓国民弁との連帯をより深めていきたい。

 韓国との間では、今後毎年相互訪問し、実務的なテーマで議論を深めていくことを合意した。第二回交流会は、来年秋にソウルで予定している。今年の第一回交流会には、県外で米軍基地問題に取り組んでいる団員にも呼びかけようと考えていたが、日程の確定が八月末にまでずれこんだため、事前にご案内することができなかった。次回会議については、日程が確定し次第ご案内させていただき、県外の団員のご参加もお願いしたいと考えている。



新テロ特措法案反対は、給油問題だけに絞ってはだめだ

広島支部  井 上 正 信

1、テロ特措法の立法期限が迫る中、政府与党は新テロ特措法案を国会へ提出した。参議院選挙後のテロ特措法延長問題では、給油の転用問題が議論の中心になっている。確かに給油転用問題は政府与党の弱点であり、攻めやすい。しかし、ある世論調査では国民の五〇%が給油継続に賛成しているとされる中で、私はこの問題に絞りすぎた議論、さらには自衛隊派遣の憲法違反性、情報非公開などの問題で論争しても、世論の過半数の支持は得られないのではないかと考える。

 参議院選挙後、政治が世論の動向を敏感に反映するようになっているのは、私たちの運動にとって有利な条件である。他方、政府与党も新テロ特措法案を参議院で否決された後に、衆議院で再議決しうる鍵を世論の六割の支持と見ている。双方が世論の支持を獲得する戦いをこれから展開することになるだけに、私たちの運動の戦略は重要である。

 国民の大多数は、自衛隊による国際貢献を支持している。また日米同盟も支持している。海上自衛隊が攻撃される危険性のないアラビア海上で米国などの艦船へ給油することに関し、給油中断が日米同盟に悪影響を与えるという脅迫的な日米両政府による世論誘導の影響力を侮れない。国連安保理でも利用するのだ。

2、私は、給油継続反対で過半数の世論の支持を勝ち取るためには、アフガン問題全体を正確に捉えて国民へ訴えることが決定的に重要と考える。私たちはアフガン戦争がどんな戦争であったのか、武力行使の結果アフガンの現状はどうなっているのか、アフガン復興には何が必要なのか、非軍事的支援として日本には何が可能か、という根本的な問題をわかりやすく提起しなければならない。

 このことを考えることは、イラクから自衛隊を撤退させる課題をやり遂げ、近い将来自衛隊海外派遣恒久化法案が提起された際、国際紛争へ軍事力で関与することの是非を正面から議論する際にも役に立つはずである。

 アフガニスタン攻撃が国際法違反の報復攻撃であるし、国連安保理の授権もないということは、既に十分解明されたことと思われるので、この小論では言及しない。

3、アフガンの現状などうなっているのか。

 アフガンでは米軍を中心にした有志連合軍によるアル・カイーダ、タリバーン、反政府武装組織への掃討作戦が行われている(不朽の自由作戦 OEF)。この作戦の一部として海上阻止作戦(OEF-MIO)がアラビア海などで行われ、海上自衛隊の給油活動はこれへの支援である。この軍事活動は米国の個別自衛権行使と、NATO諸国やANZAS(オーストラリア)による集団自衛権行使と説明されるが、国際法違反の報復攻撃である。

 01.12.30安保理決議1386号で、国際治安維持支援部隊(ISAF)が設置された。これは、タリバーン政権が首都カブールを放棄し崩壊した後、北部同盟(反タリバーン政権の複数の軍閥)がカブールを占領したが、新しいアフガン政党政府を作るため、アフガンの軍閥と米国などの関係諸国がボン合意に調印した。合意に基づきカルザイを代表とする暫定行政機構を樹立し、武装勢力はカブールから撤退する、国連へはカブールと周辺の治安維持への協力を要請するなどの合意であった。安保理はボン合意を受けてISAFを設置し、これを構成する各国軍には憲章第7章に基づき武力行使権限を付与し、ISAFの任務として、暫定行政機構がカブールとその周辺の治安維持をすることを援助し、暫定行政機構と国連要員の活動のための安全な環境を維持することを決議した。ISAFの活動はその後アフガン全土へ拡大された(03.10.13安保理決議1510号)。ISAFはNATOが軍事的指揮権を握っている。

 ISAFがアフガン全土へ拡大されてからは、特にタリバーン勢力が強い南部と東部では、ISAFも反政府武装勢力の掃討作戦に従事している。特に東部では、OEFの作戦と一体化している。東部でOEFに従事する米軍をISAFへ組み込んだが、米軍は指揮権はNATOへ渡さず、OEF司令部CJTF-76がISAF東部司令部をかね、米軍司令官が指揮を執った。米軍はOEFを優先させるため、NATOとの間に確執があり、現在では司令部を分けたとされる。アフガン市民の目からは、OEFもISAFも同じである。

 米国は、アフガン攻撃当初は戦後のアフガン復興にはかかわらない方針であった(無責任!)。しかし、タリバーン掃討作戦を遂行する上で地元住民の支持を得なければ、駐留軍の安全すら図れないため、地元住民の支持を得る(言い方を変えれば「懐柔する」ということだ)ため、復興支援をせざるを得なくなった。米軍は02.12最初の地方復興チーム(PRT)を設置し、その後数を増やして行った。06.10アフガン全土の治安維持権限をISAFが米軍から引きついだ結果、アフガン全土の25箇所のPRTはNATO指揮下のISAFが引き継いだ。各PRTはISAFへ参加している各国の軍が運営している。PRTは元来地方に駐留する占領軍の安全を図るため、周辺住民へ援助をばら撒くという発想で作られた。アフガンでは一応、中央政府の影響力を地方へ広めるという大義名分があるが、その実態は50〜60名から200〜300名の要員で、9割は軍人1割が文民という構成である。司令官は軍人(ドイツは例外で軍人と文民の司令官)で、その活動は軍事作戦に奉仕するものであり、軍隊による援助に過ぎない。米軍はPRTを掃討作戦の出撃拠点に使っているともいわれる。

 PRTに対しては、国際赤十字や人道支援の国際機関、民間NGOから厳しい批判が出されている。アフガンで活動するNGOの連合体であるアフガン援助調整機関は02.12声明を出し、PRTによる援助は人道援助の中立性を損ない、軍事と援助を混同させ、NGO活動が攻撃の対象にされかねないと批判した。現実にアフガンではNGO要員が殺害されたり誘拐されているという。

 アフガンで軍事作戦を遂行するOEFもISAFもPRTもアフガン市民からすれば同じなのである。タリバーン、反政府武装勢力掃討作戦を遂行した結果、アフガン市民の憎しみを買いタリバーンへの支持が増え、テロ活動が活発となり、タリバーン支配地域は広がっており、首都カブールでも自爆テロが頻発し、カルザイ政権はもはや首都すら統治しきれていない。このままではアフガンは遠からず破綻国家になるであろう。タリバーン政権が復活するかもしれない。いくら人道復興支援をしても他方で軍事攻撃で破壊しまくっているのでは、賽の河原の石を積むようなものであろう。

 アフガンを本当に復興して治安を安定するためには、すべての外国軍は撤退して、アフガン国内の武装勢力(タリバーンを含む)間の停戦と和解、それを進めるための関係国の支援(アフガンの和解と復興のための関係国会議)が必要である。

4、では、日本政府はアフガンへは給油支援だけしか行っていないのであろうか。実は日本政府は多額の非軍事的支援を行っているのだが、政府、外務省はそのことを国民へは一切知らせていない。そのため、私たちは給油支援しか知らない。

 02.1日本政府はアフガン復興支援東京会議を主催して、アフガン復興支援の国際的イニシャチブをとった。その後日本政府は07.8までに12億2000万ドルのODA資金を援助している。その重点項目は、

 (1)和平プロセス支援

  メディア、行政能力強化、選挙プロセス支援など

 (2)治安支援

  元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)、非合法武装団体の解体、地雷対策、警察機材、病院への支援、麻薬対策

 (3)復興・復旧支援

  道路整備、保健医療分野支援、難民の再定住支援、インフラ整備、 教育、農業・灌漑支援

 詳しくは別表を参照されたい。

 このほか、セーブ・ザ・チルドレン、ビース・ウインズ・ジャパン、日本地雷処理を支援する会などのNGOへ無償資金援助(現在までに合計244,921,355円)を出し、これらの団体の中には複数の要員が常駐しているものもある。

 アフガンで活動している中村哲氏は、殺しながら援助はできない、自衛隊が軍事支援していることをアフガン人は知らないから(アフガンでDDRを行った伊勢崎賢治氏はこれを、「美しい誤解」と呼んでいる)日本人は攻撃されないと述べている。日本政府だってこれだけの非軍事的支援を行っているのだ。自衛隊は撤退してそれで浮いた予算をもっとこのような活動へ支援することは可能であるし、私たちは給油支援に代わるより効果的なアフガン支援を政府に要求しなければならない。政府はいつも国民へ、自衛隊による国際貢献をするのかしないのかという、二項対立の選択肢しか提供しない。これに日米同盟の維持が付け加わる。これでは国民世論はなかなか撤退すべきという意見が過半数とはなりにくい。しかし、軍事的介入は紛争を深刻化し、国の再建・復興を妨げ、紛争に無関係な市民の犠牲と憎しみだけが確実に増大すること、これに変わる非軍事的援助が実際にできることを国民へ知らせ、アフガンそしてイラクからの自衛隊の撤退を確信を持って訴えることが必要なのではないか。

〈別表〉省略



「離婚」制度の改革

―空洞化した家事審判手続の再生

東京支部  後 藤 富 士 子
              

1 「八一九条5項」の死文化

 現行法上、離婚には実体的に二種類しかない。一つは「合意による離婚」であり、あとの一つは「国の強制による離婚」である。これを手続的分類でみると、「協議離婚」(民法七六三条)、「調停離婚」(家事審判法二一条)、「審判離婚」(家事審判法二四条)、「和解離婚」(人事訴訟法三七条)、「判決離婚」(民法七七〇条、人事訴訟法)の五種類ある。このうち「協議離婚」「調停離婚」「和解離婚」は「合意による離婚」であり、「審判離婚」「判決離婚」は「国の強制による離婚」である。しかるに、「協議離婚」以外は、「人事に関する訴訟事件」と位置づけられ、家裁の家事調停の対象となり(家審一七条)、調停前置主義の適用がある(同一八条)。

 一方、離婚時の親権者指定について定める民法八一九条では、(1)協議離婚の場合には父母の協議により、(2)裁判離婚の場合には裁判所が、父母の一方を親権者と指定することとされているが、5項では、「協議離婚の場合に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。」とされている。すなわち、親権者指定は、家事審判事項なのである。

 ところが、離婚の合意はできるのに、単独親権制の下で親権者指定について合意ができない場合、どうなるか? 前記のとおり、離婚事件は「人事に関する訴訟事件」と位置づけられ、且つ、調停前置主義のために、家裁の調停を経なければならないが、その先の手続について想定できるのは、次の四つである。

 第一は、離婚と親権者指定の同時解決を貫いて、離婚事件全部につき「調停に代わる審判」(二四条審判)をする方法(離婚審判方式)である。第二は、離婚審判は異議申立により失効するので、解決見込みがないときは、離婚事件全体について「調停不成立」として、人事訴訟による解決に委ねる方法(人事訴訟方式)である。第三は、離婚調停において、離婚と親権者指定の同時解決の原則を外し、離婚についてのみ分離して合意を成立させ、親権者指定については別途調停または審判の申立をする旨の調書記載をし、全体として離婚調停を成立させる方法(分離別途申立方式)である。第四は、第三と同じ考えに基づき、離婚調停において、離婚についてのみ分離して合意を成立させ、家審法九条1項乙類7号の乙類事件としての親権者指定については合意不成立として、同法二六条1項により、当然に審判手続に移行させる方法(分離当然移行方式)である。

 しかるに、実務では、離婚と親権者指定の同時解決原則の例外を認めないうえ、離婚審判では「紛争の息の根が止まらない」として、「離婚訴訟」以外の選択肢は枯渇させられた。こうして、民法八一九条5項は死文化させられ、親権者指定は家事審判事項でありながら、訴訟事項に等しい扱いになっている。

2 司法の「でしゃばり」

 日本には、世界に類を見ない「協議離婚原則主義」がある。民法七七〇条に規定された離婚原因などなくても、当事者双方が離婚に合意すれば、国家の干渉を受けずに離婚できる。すなわち、離婚については「私的自治」が原則とされているのである。

 ところが、父母の「共同親権」原則は、「父母の婚姻中」に限られており(民法八一八条3項)、離婚・非婚については単独親権とされている。そのために、協議離婚届に親権者の指定がなされていなければ受理されないし(戸籍法七六条、民法七六五条1項)、協議離婚は届出の受理によって成立するとされている。そこで、離婚と親権者指定の効力発生時期の異同が問題になる。戸籍先例では、父母の協議によって直ちに親権者指定の効力が生ずるとしているが(昭和二五年六月一〇日民甲一六五三号回答)、民法八一九条は離婚と親権者指定の同時解決の原則をとっていると解釈され、離婚届の受理によって離婚が成立して初めて親権者指定の効力が生ずるとするのが、学説・実務の確定した見解である。また、親権者指定がなされていないのに誤って受理された場合には、離婚は有効となり、親権者が指定されるまでは婚姻関係にない父母の共同親権行使となり、後に「親権者指定届」がなされる。親権者指定の協議が成立していないにもかかわらず、成立したもののように記載された離婚届が受理された場合でも、離婚自体は有効であって(名古屋高判昭和四六年一一月二九日高民集二四巻四号四三八頁)、その親権者指定を不当とする者は、親権者変更の手続(民法八一九条6項)をとるべきことになる。

 かように、協議離婚において国家が関与するのは、戸籍制度上のことだけであり、しかも「受理」という受動的立場にすぎない。そして、「離婚と親権者指定の同時解決」原則を一〇〇%貫徹するには、事務手続の過誤を無とすることであり、役人的潔癖症がその実務を支えることになるものの、それは戸籍窓口のことで、それ以外は全く放任である。

 これに対し、裁判所の関与となると、様相を異にする。本来、「協議が調わない」場合の調停は、協議の成立を援助する手続のはずである。しかるに、調停が裁判所にしかなく、家裁の調停の対象は「人事訴訟事件」とされ、かつ、調停成立により離婚の効果が発生するとされている。しかし、当事者にしてみれば、協議を援助してもらって合意に達すれば、協議離婚で一向に構わない。むしろ最終的に「私的自治」による解決の形を取るほうが、円満である。かように、家裁の調停を「人事訴訟事件」と位置づけること自体、司法の「でしゃばり」である。その結果、親権者指定について協議が成立しないからといって裁判所に持ち込んだが最後、離婚訴訟になり、挙句に「判決」にしろ「和解」にしろ、子の身柄を確保している親が親権者に指定され、振り出しに戻るのである。これでは、諦めさせられるために時間と労力と費用を無駄強いされただけで、当事者が納得するわけがない。特に、不調後に当事者間で「協議離婚」が成立したり、提訴後に「協議離婚」や「和解離婚」が成立する現実を見ると、「調停前置主義」が機能不全に陥っていることは明白であろう。

3 家族に幸あれ!―「家裁」の復権

 「家庭裁判所」は、一九四九年に「家庭に光を、少年に愛を」という理念を掲げて創設された。しかるに、離婚事件では、「家裁の調停」と「離婚訴訟」しか手続がないのが実情である。すなわち、家事審判手続がズボッと空洞化している。

 前述したように、親権者指定は家事審判事項である。したがって、離婚訴訟とは別に家事審判手続に載れば、単独親権制でも合理的な解決が図られるはずである。というのは、親権の争奪が熾烈を極めるのは、他方を排除して単独親権者になろうという意思によるのではなく、親権者でなくなることによって子の養育に関与できなくなるという恐怖心によることが多いと思われるからである。そして、家事審判手続によれば、非監護親と子の面会交流など、単に親権者指定だけでなく、監護に関する事項を包括的に解決する道が保障されるのである。

 こうしたことを勘案すると、単独親権制による不幸な争いをなくすために、次のような「離婚制度の改革」を提言したい。

(1)民法八一八条3項、八一九条を改正して、「父母の婚姻中」に限らず共同親権を原則とする。

(2)離婚調停を協議離婚援助と位置づけ、民間ADRが担う。認証ADR「ひまわり家事調停センター」(仮称)は、弁護士など代理人がつかないで、当事者本人が、「よりよい解決」「最高の解決」を目指す、人間関係構築型の調停を実施する。

(3)調停によっても合意が得られない事項については家事審判手続に持ち込み、家裁は、当事者の納得が得られる結論が出せるようにインフラを整備する。たとえば、子の監護に関する事項について争いがあるときの「子どもの利益代理人」制度や、DVで面会交流の実施が困難なケースでは、専門的訓練を受けたスタッフを配置した施設「親子センター」の設立などである。養育費や財産分与についても、それぞれ工夫できるであろう。

(4)およそ協議ができないようなケースでは、離婚を求める当事者の迅速な救済が図られる必要があるから、家裁の調停に持ち込み、不調になれば離婚訴訟に移行し、離婚だけでなく、財産分与や子の監護事項などの附帯処分も判決で一括解決が図られる。

 以上は基本構想にすぎず、「民間ADR」「家事審判手続」「離婚訴訟」のそれぞれにつき、利用者の声を反映させていけば、常に進化する豊かな制度になるであろう。

 時あたかも「ADR促進法」が本年四月から施行され、「家事審判手続法の改正」が日程に上っている。上記の改革を進める好機であり、空洞化した家事審判手続の再生により、「家裁」の復権が実現されることを願ってやまない。(一〇〇七・一〇・二二)



書評 伊藤和子著「誤判を生まない裁判員制度への課題」(現代人文社)

司法問題委員会委員長  今村 核

 本書は、著者が二〇〇四年から二〇〇六年にかけてニューヨーク大学に留学され、アメリカの冤罪事件、アメリカの刑事司法改革について研究、取材した報告である。アメリカでは死刑判決等を受けながらDNA鑑定の結果、再審無罪等により釈放された人々がここ一〇年余で二〇〇名を数える。しかしこれまで踏み込んだ紹介はなく、本書により生き生きと伝えられるアメリカの冤罪と刑事司法改革の姿に新鮮な驚きをおぼえた。

 「陪審制度の国における誤判」は、陪審制度の支持者からすれば、目をつぶりたくなりがちなテーマである。しかし著者はそこに光を当てる。浮かび上がったのは、取調べの全過程でなく自白部分だけの録画、検察官の証拠開示制度の不十分さ、公設弁護制度の不在など制度的な欠陥であり、これらに対する迅速な刑事司法改革である。本書では刑事司法改革のきっかけとなった冤罪事件の当事者や、法律家などへのインタビューが写真入りで数多く掲載されており、親しみやすく、かつ読みやすい。

 例をあげると、「セントラル・パーク・ジョガー事件」(八九年)では、一四〜一七歳の五少年が逮捕され、四名が自白、検察官の前での自白だけがビデオ録画された。九〇年陪審は有罪としたが、〇二年真犯人が自白し、DNA鑑定もその結果を裏付けた。自白部分だけの録画の危険性が示され、〇六年ニューヨーク州では取調べの全過程の録画を求める法案の審議に入った(三三頁以下)。

 ノース・カロライナ州では弁護士グループのロビー活動の結果、九六年に「検察官は、再審を準備する死刑囚に対し、検察官手持ち記録のすべての開示を行う義務がある」とする「有罪確定後証拠関係法」(九六年法)が成立した。「アラン・ゲル事件」(九八年)では、ゲル氏は二名の共犯者供述により殺人罪で有罪となり、死刑が宣告された。しかし九六年法により検察官から開示された証拠に17名の供述調書があり、それらによれば、被告人が唯一犯行をすることが可能な日に、被害者が生存していたことが示されていた。ゲル氏は再審無罪となり、釈放される。「検察官の証拠隠し」は大きなスキャンダルとなり、〇三年ノース・カロライナ州は、検察官手持ち証拠の事前・全面開示を義務付ける法律を成立させ、〇四年から施行されている(四八頁以下)。ゲル氏は「あなたを有罪にした最初の陪審員についてどう思いますか。」との著者のインタビューに答える。「彼らを責める気にはなりません。なぜなら彼らも私たちと同様に、全ての証拠にアクセスできなかったからです。陪審は、真実から遠ざけられ、ミスリードされたのです。彼らの何人かは私の有罪に票を投じるにあたって本当に悩み葛藤していました。そのことを申し訳ないように思います。彼らがもう一度陪審を勤めたいと思うか、私は疑問です。彼らも司法制度の犠牲になったのだと思います。」

 死刑または懲役刑を受け、なお無罪を主張するすべての被告人に対してDNA鑑定を受ける権利を保障した「イノセンス・プロジェクト・アクト」(〇四年)が連邦法として成立し、将来のDNA鑑定を可能とするようにDNA証拠の保管が義務づけられている。犯罪捜査規範一八六条(再審査のための考慮)にかかわらず、科学捜査研究所による鑑定資料の全量消費を容認している日本の刑事裁判とのちがいが際立つ(九五頁以下)。公設弁護人制度がないアラバマ州においては、不適切弁護が原因の冤罪に対するたたかいが紹介されている(一〇五頁以下)。

 被告人に対する人権保障の不十分さ=制度的な欠陥が、冤罪を生んでいるのであり、それに対する刑事司法改革がただちに行われている。

 そして裁判員法や刑訴法一部改正の不十分さが本書を通じよくわかる。アメリカでは「公判前整理手続」という概念はない。例えば、公判前整理手続終了後はあらたな証拠調べは許さないとの制約はなく、事実審理前に弁護側が請求した証拠は原則として採用される(一四四頁以下)。また、裁判員法で裁判員が「評議の秘密」を漏らしたときは刑罰に処せられるが、アメリカでは、評決後、陪審員たちは気楽に記者会見に応じているとのことである。ご存知であろうが、本書の内容はNHK「クローズ・アップ現代」(八月二九日放映)でもかんたんに紹介された。

 本書は面白いだけでなく、日本における刑事司法改革を考え、実践する上で不可欠の資料と視座を提供してくれる。本書についてすでに、大先輩である谷村正太郎先生のすぐれた書評(団通信一二三一号)があり、より正確な概要はそちらをご参照いただきたい。



中島晃 著 「景観保護の法的戦略」 を読む

滋賀支部 吉  原  稔

 京都支部の中島晃団員が「景観保護の法的戦略」を著した。

 中島団員は、京都の景観を守る住民運動、まちづくり運動(高層京都ホテル建設、鴨川フランス橋)のリーダーであり、薬害ヤコブ訴訟など、薬害訴訟、公害、環境訴訟の第一人者である。

 本書は、中島団員が京都大学大学院に入学し、地球環境学博士号を取得した博士論文を増補し、満を持して世に問うたものである(団員のうち、「長老」以外に博士号を取得したのは中島団員だけではないか?)。

 博士論文であるだけに、本書はプロバガンダでもアジテーションでもなく、立派な学術論文である。そして、「主戦場は法廷の外にある」という団の伝統が根底にあり、過去の公害環境訴訟や「まちづくり」、「公害反対」の住民運動が、今日の前進した国や地方公共団体の環境政策をつくってきたこと、環境政策を発展させるのは住民運動と公害環境裁判であるというのが、本書の一貫したテーマである。

 この本が出版される前の二〇〇七年三月に、京都市眺望景観条例が制定されたが、この本は条例の制定の必然性とその内容を予見した。それは、著者が取り組んだ住民運動の成果であり、著者ならではの先見性である。また、「財貨秩序」から「人格秩序」へ、「景観政策による損失補償の不必要」は、出色である。本書の随所に、準備書面に引用できる実務家ならではの卓見がある。

 あえて注文をいえば、本書が博士論文であったという制約と、著者の控えめで謙虚な人柄の故かもしれないが、著者が従事してきた実務家としての住民運動の中から得られた法律、条例の欠陥や改善の提言について、読者は著者なればこそ、より多くのものを期待しているだろう。

 「景観政策の損失補償」では、「首長による政策の変更は自由であり、それによる損失補償は、原則として不必要」とする最高裁第三小法廷昭和五六年一月二七日判決(宜野座村工場誘致条例事件)を分析されたい。景観の問題でも、京都の文化財的歴史的景観だけでなく、日本で最も醜悪な景観阻害要因である国道幹線沿道の「沿道景観」について、これを美化する視点、手法の提言や、景観は公共財であるのに、「財貨として大企業による金儲けのための景観の独占」について、著者ならではの批判を、著者の第二段で展開されることを期待する。

 株式会社 かもがわ出版

  TEL 075-432-2868

  FAX 075-432-2869

  振替 01010-5-12436

 購読申出は、『市民共同法律事務所』

  TEL 075-256-3320

  FAX 075-256-2198

 なお、この本の出版祝賀会が、下記日時で開かれる。

  『景観保護の法的戦略』出版祝賀会

   日時  一一月一〇日(土)  午後五時三〇分より

   場所  ホテル 平安の森 京都

      〒606-8332 京都市左京区岡崎東天王町51 

                TEL 075−761-3130