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吉井 秀広 松橋事件の再審開始決定出る。
無罪判決を勝ち取るべく、ご支援を
外山 裕子 千葉市障害福祉サービス申請却下事件
広田 次男 原町処分場事件勝訴報告
森  孝博 ノーモア・ヒバクシャ東京二次訴訟地裁判決全員勝訴のご報告
馬奈木 厳太郎 中通りでの検証が実施されました
〜「生業を返せ、地域を返せ!」
福島原発訴訟第一九回期日の報告
伊藤 和子 ヒューマンライツ・ナウが一〇周年になりました。
記念イベントご案内



松橋事件の再審開始決定出る。
無罪判決を勝ち取るべく、ご支援を

熊本県支部 吉 井 秀 広

 松橋事件は、一九八五年(昭和六〇)年一月六日、熊本県下益城郡松橋町(現在の熊本県宇城市)で発生した殺人事件である。
 被害者の友人であった宮田浩喜さんが、捜査線上に浮かび、宮田さんは、任意の長時間にわたる取り調べ段階において、当初は否認していた。しかし、ポリグラフ検査で陽性反応が出たと捜査官から告げられた後、自白に転じ、逮捕された。しかし、起訴後の熊本地方裁判所第五回公判における被告人質問の際、明確に否認に転じ、その後一貫して無罪を主張した。熊本地裁は、一九八六年(昭和六一年)一二月二二日、宮田さんの捜査段階における自白の任意性・信用性を認め、争いのない銃砲刀剣類等取締法違反並びに火薬類取締法違反事件を含めて懲役一三年の有罪判決を言い渡した。その後、控訴及び上告がなされたが、一九九〇年(平成二年)一月二六日、有罪判決が確定した。
 宮田さんは有罪判決確定後も無実を訴え続けた。日弁連は二〇一一年(平成二三年)八月一八日、再審請求の支援の決定を行い、支援を行ってきた。そして、宮田さんは、二〇一二年(平成二四年)三月一二日、熊本地方裁判所に再審請求を行った。
 松橋事件の特徴は、宮田さんと犯行を結びつける証拠が、自白のみであるということである。
 弁護団は、新証拠として、(1)凶器とされる切出小刀に巻き付けて犯行後に宮田さんが焼却したとするシャツの切れ端が存在していたこと、(2)被害者の創傷は凶器とされた切出小刀では生成できない創傷であること、(3)犯行態様についての宮田さんの自白が被害者の着衣や創傷などの客観的状況と矛盾していること、(4)確定判決が秘密の暴露にあたるとした宮田さんの供述すなわち被害者を追尾中に近所の電気が夜中までついていたという供述が秘密の暴露とはいえないこと、(5)宮田さんに対し実施されたポリグラフ検査の結果は信用できないこと等に関する証拠等を提出し、宮田さんの自白に任意性・信用性がないことを明らかにしてきた。さらに、検察官の手持ち資料を開示するように求めた弁護団の証拠開示命令申立に対し、裁判所が証拠開示等の勧告等を行った結果、検察官が開示した証拠の中には、宮田さんが自白した侵入経路とは大きく外れる場所に血痕が存在したことを示す書面の存在や、実況見分時のビデオテープ等の開示により、宮田さんが取調官の誘導のままに供述・行動していることが判明した。いわば、捜査機関が宮田さんに有利な証拠を隠していたことが明らかとなったのである。
 弁護人と裁判所及び検察官の三者間で行われた三者協議は、二〇一五年(平成二七年)一二月二四日の第一九回を持って終了した。
 そして、二〇一六年(平成二八年)六月三〇日、熊本地方裁判所は、再審を開始する決定をした。
 これは、弁護人が提出した新証拠に新規性、明白性を認め、宮田さんの自白の信用性を否定したものである。
 これに対し、検察庁は同年七月二日、即時抗告をした。
 検察庁のこのような態度は、自らの不当な証拠隠しをなんら反省せず、いたずらに宮田さんの救済を先送りにするものであり、厳しく批判されなければならない。
 宮田さんは、本年八三歳のご高齢である。宮田さんをして、生きているうちにえん罪であることを明らかにし、救済することが急務である。
 宮田さんの無罪判決を勝ち取るまで、皆様のご支援をお願いする次第である。


千葉市障害福祉サービス申請却下事件

千葉支部 外 山 裕 子

1 訴訟提起までの経緯
 原告のAさんは、五〇歳過ぎころから、手足の力が弱まり自力歩行ができず、電動車いすで生活していたため、千葉市から、障害者総合支援法に基づく居宅介護費の支給を受けていました。
 しかし、Aさんが六五歳を迎える直前頃から、千葉市は、Aさんに対して、介護保険の申請を行うよう求めてきました。Aさんが、従前どおりの障害者総合支援法に基づく居宅介護費の支給を求めて、介護保険の申請を行わなかったところ、千葉市は、障害者総合支援法に基づく居宅介護費の申請を却下しました。その結果、Aさんは、月一万五〇〇〇円分の自己負担が生じる介護保険の申請を行わざるを得ませんでした。そこで、Aさんは、行政不服審査手続きを経た後、本件訴訟に踏み切りました。

2 本件訴訟におけるAさんの主張
 Aさんは、本件訴訟において、六五歳を迎えたという理由だけで、障害者総合支援法に基づく居宅介護費の申請を却下した市の行為は、障害者総合支援法七条及び二二条の適用につき、憲法一四条、二五条及び障害者の権利に関する条約の規定に違反すると主張しています。

3 本件訴訟の背景
 現行の障害者総合支援法の前身である、障害者自立支援法においては、障害者がサービスを受ける際に、その受けたサービスの質・量に応じて、利用者負担金額を定めるという、「応益負担」という考え方が、導入されていました。
 しかし、「応益負担」の考え方によれば、障害が重く、多くのサービスを受ける必要があり、所得を得る機会が乏しい、いわゆる重度障害者ほど、重い利用者負担を負わされるというきわめて過酷な結果が生じることになっていました。
 そのため、障害者自立支援法に対する違憲訴訟が提起され、訴訟の中で、国は法律の非を認め、原告団と和解し、住民税非課税世帯の利用者負担無料化を約束した基本合意が締結されました。
 これは、障害者がサービスを受ける際に、その所得や資産に応じて、利用者負担金額を定めるという、「応能負担」という考え方によるものです。
 しかし、介護保険法による介護保険給付を受ける場合には、たとえ住民税非課税世帯であっても、月額一万五〇〇〇円の自己負担を免れることができません。
 したがって、千葉市の行ったように、六五歳を迎えた障害者に、介護保険の申請を強制することは、結果として、六五歳になる前から障害を持っていた者が、六五歳になる前は全くなかった負担につき、六五歳以降は月額一万五〇〇〇円の自己負担を強いられることになるという、違憲訴訟弁護団が勝ち取った「応能負担」の理念を没却する結果をもたらすことになります。

4 今後の抱負
 現在、千葉市在住のAさんだけでなく、岡山市においても、同様の訴訟が提起され、障害者の人権を守るためのたたかいが始まっています。
 今後は、千葉市や岡山市以外にも、六五歳になった障害者に、介護保険の申請を強制する自治体が出てくるだろうと考えられます。近年、この国は、急速に寛容な心を失ってきているように感じられます。
 私達は、憲法の理念を踏みにじるような自治体の行いを許すことなく、寛容な心を失いかけている千葉市と、最後まで戦い抜く覚悟です。


原町処分場事件勝訴報告

福島支部 広 田 次 男

1 はじめに
 先日、脱原発弁護団の河合弘之弁護士から電話を頂いた。「広田さん、原町処分場の事件勝ったでしょう。全国の脱原発訴訟の『仮処分が最終的に負ければ莫大な賠償請求を受ける』との噂が必ず流される。この噂に反撃するためにも判決文送って」「それから、以前に負けたのもあるでしょう。参考にしたいのでそれも送って」との内容であった。
 「三.一一」以後、「忙しい」が口癖になってしまう生活が、五年以上も続いている。本来であれば、団通信に投稿して全国の団員に知らせるべき事件についてもズッと投稿を怠ってきた。いささか時間が経過したが(判決言渡は五月二四日、確定は六月一〇日)原町処分場事件の勝利を以下に簡単に報告する。

2 事案の概要
 福島県南相馬市原町区大甕字森合は全戸数二四戸余の古くて小さな集落である。住民は、弥生時代系(古代たたら製鉄の跡があり、市の文化財になっている)、平将門系(平将門の乱を逃れて移住したといわれる)、越前系(戦国期に越前から移住したといわれる)の三系と自称する。
 平成元年頃、産廃業者A社がこの地への産廃処分場設置を計画する。代表者Bは「歩く札束」と仇名される程に、森合の住民に金を配り買える土地は買い、借りられる土地は借り、処分場設置許可同意書などの書面を正に札ビラに物を言わせて集めた。当時の住民は、産廃処分場の何たるかを知らなかったので、配られた金は受け取り、求められた書類には署名・捺印をした。
 やがてBの資金は枯渇し、Cに協力を求めた。Cはこれに応じたが平成五年頃からBとCは、抗争を繰り返すようになった。Bは暴力団山口組をCは同稲川会を依頼し、両組の抗争となり、やがて全国の暴力団の殆どが顔を揃える大抗争へと発展したが、結局住吉連合が漁夫の利を得てA社の全株式を取得した。
 形式的な企業ロンダリングも終了して(株)NECの子会社が、平成一二年六月に処分場建設に着手した。住民はまさか本当に処分場が出来るとは思っていなかったので、大慌てで私の事務所に駆け込んだ。

3 裁判斗争の経過
 以来一六年間に亘り、ゴミ弁連(斗う住民とともにゴミ問題の解決をめざす弁護士連絡会)の相棒である坂本博之弁護士(茨城県つくば市)と二人で、合計で四九にものぼる法的手続を行ってきた。既に二億円とも言われる現金が、現地にブチこまれたと言われる圧倒的に不利な状況からA社を押し返すためには、考えられるあらゆる法的手段を総動員せざるを得なかった。
 平成二四年四月二四日には、廃掃法一五条の三に基づく義務づけ訴訟により、福島県に対する本件処分場の設置許可取消判決を勝ち取った(この時の私の反対尋問は、生涯で最も成功した尋問だと思っている)。
 控訴審では「行訴法二三条と民訴法一二九条の訴訟参加が競合し、後者を選択した場合の控訴権の独立性」という極めてアカデミックな論点が浮上し「判決による訴訟終了宣言」という珍しい勝利を勝ち取った。この時点で斗争のヤマは越えてたのだが、A社のしぶとさに原発事故後の福島県内に於ける処分場不足が輪を架けた。
 A社はあきらめる事なく本訴を、そしてもう一件、福島地裁相馬支部の訴訟を継続した。従って、本件の全体像は、相馬支部の事件に勝訴した暁に報告したいと考えている。

4 本件の概要
 前述の如く住民側は、考えつくあらゆる法的手段を繰り出した。緒戦の賃貸借契約解除に基づく建設工事差止の仮処分が抗告審で逆転されて以来、一進一退が続いた。そこで、集落内にある江下水利組合(相馬藩による二宮尊徳の仕法により発足)およびその役員個人を申請人として、平成一五年六月一七日(慣習)水利権を被保全権利とする建設工事差し止めの仮処分を勝ち取った。しかるに、異議審に於いて、(1)ため池の構造上からして水利権侵害とは言えない。(2)申請人らから処分場設置同意書がA社あてに提出されている。(3)申請人らの一部に対してA社から工事協力金が支払われている。等を理由として、仮処分決定は取り消され、抗告審で再逆転はできなかった。そこで、A社は申請人である水利組合および役員個人を被告として四億円余に及ぶ損害賠償請求を行ったのが本訴である。
 争点は、昭和四三年一二月二四日最高裁第三小法廷判決「仮処分命令が取り消された場合には、申請人に於ける過失が推認され、過失ある申請人には損害賠償義務が存在する」との認定の射程であった。
 本件判決は、上記最高裁判決を踏まえたうえで「申請人の過失の有無は具体的事案に沿って判断されなければならない」と認定し、そのうえで、(1)水利権の侵害の有無は水利権概念およびため池の構造について仔細な検討を要する事柄であり、(2)申請人らの処分場設置許可同意書の提出については、Bの誘導、提出者の錯誤などの可能性があり、(3)設置協力金の支払いについては、仮処分の申立権の放棄までの意味はないと認定して、申請人らが仮処分を申し立てて上記(1)(2)(3)を含む諸点について、法的判断を求めた事について過失はないとした。
 A社の主張した申請人の契約責任、不法行為責任ともに責任論の段階での住民勝訴という完全勝利であった。

5 一六年に亘る斗い(もう少し続くと思われるが)は、誠にドラマチックであった。
■  当初の溝を乗り越えて森合集落と周囲の住民が団結して、南相馬市を二分する斗いへと発展させる過程は誠にダイナミックであった。
■  運動の事務局長であったS氏が、市会議員から市長となり「三.一一」に際しては、世界に最も影響を与える一〇〇人のうちの一人に選ばれた。
■  別訴に於いて住民らには一億円余の支払義務が確定し、住民らはこれを分担して完済した。この運動の最も苦しい時に、それまでの代表者が運動から去っていった。
■  私と修習同期・同クラスで私の結婚式の司会者であったDが「原町処分場について話がしたい」として私の事務所を訪れ当時、事務所で働いていた私の妻に「奥さん少しも変わらないネ」と声をかけ、妻が「Dさん、久し振り」と応じた声は、未だに耳朶に残っている。Dはその後、A社の代理人となって法廷に登場する。
■  運動維持のために、どうしても必要な事柄を私と坂本弁護士の名に於いて為した行為について、懲戒請求がなされ、福島県弁護士会から懲戒処分を受けた。「己の信念のために体を張って運動を維持する事こそが弁護士の本分」との主張は、受容されるはずもなかった。しかし、茨城県弁護士会は坂本弁護士への懲戒請求処分を棄却した。
 等々、一冊の本がユックリと出来上がる位に、ドラマ性に満ち満ちた事件である。何時の日か整理してみたいと思っている。


ノーモア・ヒバクシャ東京二次訴訟地裁判決全員勝訴のご報告

東京支部 森   孝 博

一 原告全員勝訴!
 二〇一六年六月二九日午後三時、東京地方裁判所民事三八部(谷口豊裁判長・平山馨裁判官・馬場潤裁判官)において、原爆症認定申請却下処分取消訴訟(ノーモア・ヒバクシャ東京二次訴訟)の判決が言い渡されました。主文第一項は、
 「別表『申請者』欄記載の者がした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律一一条一項の認定の申請(同『病名』欄記載の疾病に係るもの)につき、処分行政庁が同『処分日』欄記載の日付でした却下処分をいずれも取り消す」。
 一聞しただけでは、全員勝訴なのか、それとも一部勝訴にとどまるのか、判別がつかず、期待と不安が交錯する中、判決の読み上げが進むにつれて、原告六名全員(申請疾病はガン二名、慢性心不全一名、心筋梗塞一名、甲状腺機能低下症二名)について、国の原爆症認定申請却下処分を違法として取り消す画期的判決であることを確信し、法廷が喜びに包まれました。

二 ノーモア・ヒバクシャ訴訟とは
 今回判決言い渡しのあった東京二次訴訟は、いま全国でたたかわれているノーモア・ヒバクシャ訴訟の一環として二〇一三年七月に東京地裁に提訴したものです。二〇〇三年以降、全国の被爆者が原爆症認定申請却下処分の取消しを求めて集団訴訟(原爆症認定集団訴訟)に立ち上がり、原告被爆者の勝訴判決が積み上げられていく中、国は、不十分ながら行政認定基準の見直しを行い、二〇〇八年に「新しい審査の方針」を策定しました。そして、二〇〇九年八月六日、国は日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表との間で「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」を締結して「訴訟の場で争う必要のないように、定期協議の場を通じて解決を図る」ことを約束しました。それにもかかわらず、国は、自ら策定した「新しい審査の方針」の運用すら狭め、原爆症認定行政を後退させたため、被爆者は再び全国の裁判所に提訴せざるを得ない状況となり、七地裁(東京、名古屋、大阪、岡山、広島、長崎、熊本)に一一九名の原告が提訴したのが、ノーモア・ヒバクシャ訴訟です(現在、五地裁五四名、二高裁一四名、最高裁二名が係属中)。

三 東京二次訴訟地裁判決の意義
 国は、ノーモア・ヒバクシャ訴訟において、これまでの原爆症認定集団訴訟における数多の国側敗訴判決をまったく反省することなく、被爆者援護法(原爆症認定制度の根拠法)の趣旨を無視し、残留放射線や内部被曝による人体影響や疾病と原爆放射線被曝との関連性などを徹底的に争ってきました。とりわけ、国は、二〇一三年一二月一六日に「新しい審査の方針」を改訂したこと(平成二五年新方針)を奇貨として、巻き返しを強めてきました。具体的には、平成二五年新方針で「積極認定」として掲げた疾病、被爆距離ないし入市時間の基準を“金科玉条”のものとして、この基準に該当しない原告らは、「現在の科学的知見の到達点に照らして、放射線起因性を認めるべき科学的根拠は乏しい」と一律に切り捨てることを正当化し、また、各人の既往歴や生活習慣、果ては加齢までもを執拗にあげつらって、「他原因」による発症である、との主張を繰り広げてきました。
 これに対し、今回の東京地裁判決は、「現時点においても『放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険については科学的に十分解明されていない』(引用者注:原発事故子ども・被災者支援法一条)という状況にある」ことを的確に指摘した上、被爆者援護法の趣旨に立脚して、「現時点において確実であるとされている科学的な経験則では証明できないという理由のみによって、放射線起因性を直ちに否定することには慎重であるべきである」、「(平成二五年新方針の掲げる積極認定の範囲は)いわば一般的な目安として定められたものにすぎないと考えられ、一切の例外を許さない基準であるとはいえない」と判示しました。そして、(1)積極認定の範囲には多少及ばない被爆者であっても、実質的にみて放射線被曝の程度が同等であることが推認できる者であれば原則的には積極認定対象者と同様に扱うことが要請され、また、(2)積極認定の範囲と乖離がある被爆者であっても、当然に放射線起因性が認められないと判断することは早計であり、個別的な特殊事情の有無や当該疾病の発症機序等を踏まえ放射線起因性の有無を慎重に検討すべきである、と判示して、一律の切り捨てを正当化する国の姿勢を真っ向から否定しました。
 その上で、東京地裁判決は、各原告の被爆状況や被爆後の身体状況等を丁寧に検討して、国があげつらう「他原因」も「専ら原子爆弾放射線以外の原因によって発症したことを疑わせるほどの事情であるとはいい難い」と排斥して、原告全員の申請疾病を原爆症と認めました。
 この判決は、昨年一〇月二九日のノーモア・ヒバクシャ東京一次訴訟地裁判決(一七名全員勝訴)、本年四月一一日のノーモア・ヒバクシャ熊本訴訟福岡高裁判決(三名勝訴)を更に前進させ、国の原爆症認定行政の誤りを痛烈に批判するもので、極めて優れた内容です。

四 法改正による最終的解決を
 現在、生存する被爆者の平均年齢は八〇歳を超えています。それにもかかわらず、国は、いまもって司法判断と原爆症認定行政の乖離を放置し、訴訟の場でも相次ぐ国側敗訴判決に反省することもなく争い続け、声を上げた被爆者には重い裁判の負担を、声を上げることのできない被爆者には泣き寝入りを強いる、という異常な対応を続けています。今回の東京地裁判決に対しても、七月一三日、国は、原告一名だけを控訴して争い続けるという暴挙に出ました。
 こうした事態を終わらせるためには、ノーモア・ヒバクシャ訴訟の勝訴判決を梃子に、日本被団協の提言に沿った、被爆者援護法改正による原爆症認定制度の抜本的改善を実現するしかありません。そのためにも、全国の原告団・弁護団と力を合わせ、東京高裁に係属することとなった東京一次訴訟(国が原告六名につき控訴)、東京二次訴訟(国が原告一名につき控訴)のいずれも勝ちきる所存です。
 被爆七一年になる今、原爆症認定問題の最終的な解決はもはや待ったなしの状況です。引き続きご支援、ご協力の程よろしくお願い申し上げます。


中通りでの検証が実施されました
〜「生業を返せ、地域を返せ!」
福島原発訴訟第一九回期日の報告

東京支部 馬奈木 厳太郎

一.二回続けての雨の期日
 六月二八日、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の第一九回期日が、福島地方裁判所において開かれました。この日、国と東電から新たな書面が提出されました。
 国の書面は、中通りでの検証の実施方法や指示説明事項の内容、検証現場での観察結果の口授などについて細かく注文をつけるもの(中通りの検証の実施に関する意見書)、浜通りでの検証に関して検証調書に含める内容について裁判所の判断に修正を求めるもの(検証調書に関する上申書)、浜通りでの検証に関する検証結果報告書について、検証の結果や指示説明として記載されるべきではないものが存すると反論するものです(浜通りでの検証結果に関する意見書)。
 東電の書面は、浜通りでの検証調書のありようと、中通りでの検証の実施方法について意見を述べるものです(検証に関する意見書)。
  原告側からは、被害立証の到達を示し、その到達をふまえて被害をどのように理解すべきなのかについて述べるもの(準備書面・被害総論一二)、中通りの検証対象地域の概要について述べるもの(準備書面・被害総論一三)、浜通りの検証に関して検証調書に含める内容についての国の意見に反論するもの(検証調書に関する意見書)、浜通りでの検証に関する検証結果報告書についての国の意見に反論するもの(被告国の「浜通りでの検証結果に関する意見書」に関する意見書)などの書面を提出しました。
 期日当日は、前回期日に続いて雨となりましたが、一五〇名ほどの方に参加していただきました。今回は、午後から検証ということもあって、支援の方に参加を呼びかけることはしませんでしたが、生業訴訟に続き検証が予定されている浜通り弁護団から向川純平団員が参加されました。また、参加した方々向けの講演会では、「出版の経験から見た野党共闘の意義と課題」と題して、かもがわ出版社編集長の松竹伸幸さんに講演していただき、こちらも好評でした。

二.四回目の原告本人尋問
 この日は、午前中に原告本人尋問が行われ、三名の方が法廷に立ちました。とくにこの期日では、中通り地域における被害を打ち出すようにするとの位置づけのもと、午後からの検証と午前の尋問ができるかぎり一体のものとしてとらえられるよう、尋問対象者の人選も含め意識的に追求しました。尋問では、事故により家族が避難し二重生活を送るなかで、うつ状態となり死んだら楽になるだろうと考えたことがある、国や東電の一方的な線引きのために同じ自治体の住民のなかで感情の軋轢が生じてしまったなど、生活や家族関係の変化、地域のなかで住民同士が現在抱える苦しみなどを、それぞれご自身の言葉で語っていただきました。また、事故前との生活の変化や家族関係をよりイメージしやすくするため、当日の法廷では写真を多用し、視覚的にも訴えるといった工夫を凝らしました。

三.中通りでの検証
 検証は、福島市内の仮設住宅、保育園、果樹園の三カ所で実施されました。雨が降り続くなか、裁判長ら一行は、狭く近隣の音も聞こえてしまう仮設住宅での生活状況や、被ばくをできるかぎり避けるための保育園の取り組みや努力、放射性物質が降り注いだなかで果樹農家を続けていく不安などを確認しました。裁判長は、「指示説明が聞こえないといけないので」と、最後まで雨合羽のフードを被ることはしませんでした。
 中通りでの検証は、全国でも初めてということもあり、翌日の新聞各紙には、「生業訴訟 福島でも検証」、「果樹園など被害確認」といった見出しが並びました。
 今後の審理ですが、原告本人尋問は一〇月期日まで続き、結審は来春頃と見込まれています。被害を余すことなく明らかにすべく、引き続き全力で取り組む決意です。


ヒューマンライツ・ナウが一〇周年になりました。
記念イベントご案内

東京支部  伊 藤 和 子

 二〇〇六年に、日本を拠点とする初めての国際人権NGOとしてスタートしたヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、おかげさまで一〇周年を迎えることになりました。
 団員の皆様にも多数会員になっていただき、心より御礼申し上げます。
 二〇一二年に国連の特別協議資格を取得し、ニューヨークにも事務所をおき、ジュネーブにも代表を置いて、国連の人権にかかわる意思決定に関与してきました。
 日本から国境を超えて世界の人権侵害を調査し、告発し、改善を求め、また、各国の人権活動家を励ますという活動をしてまいりましたが、これまでの活動例は以下のようなものがあります。
・ミャンマーの民主化を支援し、未来を担う法律家や学生を対象に人権・民主主義を教える学校を国境タイ側で運営し、ミャンマーの民主化の担い手を育成した(二〇〇七年〜)
・福島原発事故の避難者・被災者の置かれた実情を調査し、調査報告書等を公表して、提言を行う。
・国連「健康に対する権利」特別報告者のアナンド・グローバー氏の来日調査のNGO側コーディネートを行い、調査・報告書をサポート(二〇一一年〜)
・インド北東部・炭鉱での深刻な児童労働を調査、現地NGOとともにキャンペーンし、二〇一五年にインド最高裁が、児童労働の温床となっている炭鉱の閉鎖を命令。
・ユニクロ中国下請工場の労働環境について潜入調査を行い、過酷な労働実態を調査報告書として公表。ユニクロの親会社ファーストリテイリングが改善策を発表・実施(二〇一四年〜)
・ヘイトスピーチに関する実態調査を関西で実施し二〇一四年に調査報告書を公表、二〇一六年のヘイトスピーチ規正法制定に向けて院内集会・ロビー活動などを実施(二〇一四年〜)
・「紛争地の現実を知っているNGOとして戦争に反対する」として、日本のNGO団体で「NGO非戦ネット」を立ち上げ、安保法制や改憲に反対する声をあげる(二〇一五年〜)
・アダルトビデオ出演強要被害に関する調査報告書を公表、社会的に大きなインパクトを与え、政府として対応に乗り出すとの閣議決定を実現(二〇一六年〜)
 今後も、益々深刻となっている日本の人権状況に抗して、また、NGO非戦ネット等市民社会と連携して、日本がかかわる戦争を止めるため、活動していく所存です。私たちは、昨年以降アジアに調査員を置いていますが、将来的にはニューヨーク、ジュネーブの事務所機能を強化するとともに、中東(イラク・パレスチナ)地域にも調査員を置いて、武力紛争下での人権侵害を日本および国際社会に警告し、戦争のない世界の構築に寄与していきたいと考えています。今後とも何卒よろしくお願いします。

■ 一〇周年記念イベントのご案内
 一〇周年ということで、以下の記念イベントを開催することになりましたので、皆様、興味あるが参加したことがないという方も含め、是非お誘いあわせのうえ、ご参加いただけると嬉しいです。

◇ ヒューマンライツ・ナウ 一〇周年アニバーサリーイベント「世界と日本。これからの話をしよう」
 日 時/二〇一六年七月二三日(土) 
              一六時三〇分開場 一七時〇〇分スタート
 会 場/レストラン アラスカ 東京プレスセンター店
              七月二三日(土)午後五時〜八時三〇分
パネルトーク1 「世界と日本。これからの話をしよう」
 雨宮処凛氏(作家)×伊勢崎賢治氏(東京外語大学)×上川あや氏 (世田谷区議)×安田 菜津紀 氏(フォトジャーナリスト)×伊藤  和子氏(HRN事務局長)
 コーディネーター 三浦まり氏(上智大学)
パネルトーク2 「活動報告そして、これからの課題を語る」
 阿部浩己氏(HRN理事長)×高遠菜穂子氏(エイドワーカー)× 志葉玲氏(ジャーナリスト)×阿古智子氏(東京大学)×石田真美 氏(HRN)×雪田樹理氏(HRN)ほか。
 挨拶 濱田邦夫氏(HRN運営顧問・弁護士・最高裁元判事)
     申惠丰氏(HRN理事・青山学院大学)ほか。
 その他詳細情報は  http://hrn.or.jp/news/7431/
●申し込み HRN事務局(info@hrn.or.jp)へ、件名を「一〇周年記念イベント参加希望」として、お名前、ご連絡先をご送信下さい。

■ ご支援のお願い
 ヒューマンライツ・ナウでは、今後も国内外で様々な課題に取り組んでいく予定ですが、多くの方の寄附・会費に支えられています。二〇一四年には寄付者に税控除の特例のある「認定NPO法人」となりましたので、遺贈・刑事事件の贖罪寄付の受け付けも開始しました。遺贈・贖罪寄付をはじめ、様々なかたちでご支援・ご寄付をいただけると嬉しいです。また、多くの弁護士・法律事務所に会員になっていただいておりますので、是非ご参加いただけると嬉しいです。
 寄附先
銀行名:三菱東京UFJ銀行 支店名:上野支店(三三七)
口座番号:0176258
口座名:トクヒ)ヒユーマンライツナウ
 寄附・入会の案内
 ウェブサイトのこちらのページからご検討ください。
 http://hrn.or.jp/join/
 ともに、戦争や人権侵害のない世界を目指して!