第1671号 / 6 / 11

カテゴリ:団通信

【5月集会特集】
◇石川県・能登5月集会のご報告  森  孝 博
◇事務局員交流会 全体会感想  亀 井 美 織

●安倍首相の憲法観-憲法は国の理想を語るもの  大 久 保 賢 一

●独自の天皇制論議その5 ~平成天皇は後鳥羽上皇となるのか  伊 藤 嘉 章

●「核の時代」と憲法9条  永 尾 廣 久

 


【五月集会特集】
石川県・能登五月集会のご報告  事務局長 森  孝 博

1 はじめに
 本年五月二五日から二七日にかけ、石川県・能登において、二〇一九年五月研究討論集会が開催されました。憲法審査会の開催をめぐる与野党の攻防の激化、トランプ米大統領の来日、今夏に予定されている参議院選挙と浮上する衆参同時選挙の可能性といった緊迫した情勢の下、憲法、平和、人権を守るべく、全国から三四〇名の参加者が集まり、経験交流と熱心な討論が繰り広げられました。
 詳細はおって団報にて報告しますが、取り急ぎ概略につき、ご報告します。
2 全体会(1日目)
 全体会の冒頭、石川県支部の渡邊智美団員と東京支部の平井哲史団員が議長団に選出されました。船尾徹団長の開会挨拶に続き、石川県支部の飯森和彦団員(支部長)から歓迎の挨拶がありました。
 来賓として、地元金沢弁護士会会長坂井美紀夫氏、山添拓参議院議員(日本共産党)にご挨拶をいただきました。
 続いて、東京大学名誉教授の廣渡清吾教授の記念講演(後記三)がありました。
  その後、泉澤章幹事長から、安倍改憲を阻止し、民主主義の破壊を許さないため、七月の参議院選挙に向けて、国民的運動をさらに広げて、市民と野党の連帯を強化することが重要であり、そのために全団員の知恵と力を出し合おう、と訴えられました。また、沖縄基地問題、労働法制改悪阻止、均等待遇に向けた裁判闘争、原発再稼働阻止と原発事故被害者救済、外国人労働者の人権、貧困対策と社会保障の強化、差別・ヘイトスピーチの根絶など、現在団が取り組んでいる重要課題についての基調報告と、分科会討論へ向けた問題提起がなされました。 
3 記念講演
 全体会では、東京大学名誉教授の廣渡清吾教授を講師に迎え、「安倍政治・改憲の危機と社会の変革」というテーマでご講演いただきました。廣渡教授は、まず「安倍政治・改憲の危機の特徴」として、①安倍改憲は軍事のメインストリーム化の総仕上げであり、日本の近現代一五〇年を通じた政治路線の岐路であること、②麻生副総理の「ナチスの手口をまねればよい」発言や「忖度」政治の現象など、安倍政治にファシズム的徴候が現れていること、③実質賃金は上がらず、外交も行き詰まり、安倍政治が閉塞する中、改元や東京オリンピックを利用して国民の目を逸らそうとしていること等、を指摘されました。次に「日本国憲法の可能性を汲みつくす」として、④非戦、非武装の絶対的平和を誓った憲法九条の世界的現代的意義、⑤個人の尊厳が国家の現実の政治・政策が絶えず立ち戻るべき根本価値であること、⑥日本国憲法は「民主主義的立憲主義」に立ち、憲法が自らの擁護と実現を国民に期待していること等、を指摘されました。そして、「市民社会論のルネッサンスと『市民連合』」として、⑦市民社会が市民の公共的オピニオン形成と運動の場として位置づけられるようになってきていること(市民社会論のルネッサンス)、⑧日本においても市民プロジェクトとしての「市民連合」が生まれ、市民が政治における能動性を持つようになったこと(市民と政党の関係の変化)等、を指摘され、最後に⑨目指す未来について語ること、憲法と結びつけて語ることの重要性を訴えられました。廣渡教授のご講演は、理論と実践の両面において刺激的で、今後の安倍政治・改憲阻止の運動にとって非常に有益なものであったと思います。
4 分科会
(1)憲法分科会(1日目・2日目)
 憲法分科会一日目は、憲法情勢に関する報告、自衛隊の実態に関する動画視聴、憲法学習会に関する報告を行った後、十グループに別れて、グループ討論を行いました。グループ討論では、学習会の拡げ方、三〇〇〇万人署名への取り組み、弁護士会での取り組み等、幅広いテーマで活発な議論が行われました。五月集会の憲法分科会におけるグループ討論は、初の試みでしたが、「これまでの五月集会などでは発言されなかった団員の活動を知ることができて有意義だった」、「発言があると、その発言に対する反応が返ってくるのが面白い」、「今後も継続すべきだと思う」等、肯定的な意見・感想が多く寄せられました。一方で、「人数に対して、部屋が狭く、声が聞こえにくかった」「もう少しテーマ設定をした方が良いのでは」という意見・感想も寄せられましたので、今後の検討課題にしたいと思います。
 憲法分科会二日目は、一日目のグループ討論の報告、沖縄の基地問題、イージスアショアの配備候補地とされた陸自新屋演習場(秋田市)の現地調査に関する報告を行った後、改憲阻止に向けた取り組みに関する討論を行いました。一日目のグループ討論を踏まえて、より深まった発言が複数なされました。
 今回の憲法分科会は、従来とは異なり、グループ討論形式を取り入れてみましたが、多くの方から肯定的な意見・感想が寄せられて、実施してみて良かったと思います。また、たくさんの感想文をお寄せ頂きましたので、今後の運営の指針にしていきたいと思います。感想文をお書き頂いた皆様、貴重なご意見をありがとうございました。
(2)労働分科会(1日目・2日目)
 労働分科会一日目は、労働契約法二〇条裁判をテーマに全国交流集会を行いました。まず、団員が取り組んでいる事件の報告として、滝沢香団員(東京支部)からメトロコマース二〇条裁判について、平井哲史団員(東京支部)から郵政二〇条裁判について、鎌田幸夫団員(大阪支部)から大阪医科大学二〇条裁判について、それぞれ事件報告がなされました。その後、団員から、裁判にはなっていない労働契約法二〇条に関連する事件について報告がありました。その中には、低賃金で働いている多数のブラジル人従業員が、無期転換権を行使するとともに、従前の低い賃金の是正を求めているといった事件の報告もありました。ただ、想定していたほど、各地からの事件報告や討議が活発化されなかったことは、今後の課題となりました。
  労働分科会二日目は、労働法制改悪阻止の取り組みと、各地で取り組んでいる裁判闘争について議論を行いました。分科会の前半は、まず鷲見賢一郎団員(東京支部)から労働法制をめぐる情勢について基調報告がなされました。そして、それを基に、「働き方改革」関連法に関する問題、最低賃金制度に関する問題、ハラスメント禁止立法に関する問題、解雇の金銭解決制度に関する問題等につき議論を行いました。また、一日目の国際分科会の講師をつとめていただいた本多ミヨ子さんから、外国人技能実習生制度と特定技能の問題について報告をしてもらいました。分科会の後半は、各団員が取り組んでいる裁判闘争の報告がなされ、KLM雇止め事件、NHK事件、セブンイレブン団交事件等の報告がなされました。また、労災の審査担当者である労働基準監督官の不足による労災行政の停滞の問題や、小笠原忠彦団員(山梨県支部)から労働弁護士に対する攻撃に関する問題の報告もなされました。多くの発言と活発な議論がなされたので、この議論の成果を持ち帰り、今後の闘争に活かしていただければと思います。
(3)原発分科会
  原発分科会は、講師に一橋大学名誉教授の寺西俊一教授をお招きし、福島原発事故損害賠償請求訴訟における損害論の問題について議論を行いました。まず、分科会の前半で、寺西教授から、環境経済学の立場からの損害の捉え方、各弁護団の主張内容への活用などについてご講演いただきました。そして、分科会の後半で、それを受けて、千葉訴訟弁護団、京都訴訟弁護団、首都圏訴訟弁護団、浜通り訴訟弁護団の各弁護団から、現在の審理状況、損害論の主張構成についての悩み等が出され、議論がなされました。寺西教授は、裁判用の意見書の作成も手掛けられているということもあって、各弁護団から出された課題について、実践的にお答えくださりました。また、今後の裁判闘争をいかに進めていくか、につき多くの発言があり、充実した議論がなされました。
(4)国際分科会
 国際分科会は、労働者を中心とした訪日外国人(移民)の人権をテーマに行いました。これまで自由法曹団で積極的に取り扱ったことのないテーマであり、初めての試みとなりました。まず、技能実習生や難民を中心に多くの外国人の支援活動を行われている首都圏移住労働者ユニオンの本多ミヨ子さんを講師に迎え、現状を語っていただきました。本多さんは在留資格や入国動機別に外国人の状況を説明され、外国人が日本において受けている取り扱いの問題点、外国人が何を必要としているか、をご自身の経験を踏まえてお話しされました。その後、杉島幸生団員(大阪支部)より、改正入管法の解説があり、各地の団員からそれぞれの活動を報告をした上、私たち弁護士に何ができるか、自由法曹団はどうすべきか、という積極的な提案がありました。今後の取り組みを進めるうえで有意義な議論がなされました。
(5)貧困・社会保障分科会
  貧困・社会保障分科会は、講師に立命館大学産業社会学部の唐鎌直義教授をお招きし、「ナショナルミニマムと生活保護基準」というテーマで、日本の生活保護制度、社会保障制度の課題についてご講演いただきました。唐鎌教授は、社会保障の意義は「労働者を強くする」「いつでも仕事を辞められる」ことにあると指摘された上で、日本において最低生活を保障する機能が生活保護に丸投げされていること、生活保護制度が稼働世帯の貧困に対応していないこと、生活保護費のうち、医療、介護、住宅扶助費で総額の約三分の二に達しており、生活扶助費には総額の約三分の一しか使われていないことなどの課題をお話されました。今後の取組みをいっそう発展させる上で必要な日本の社会保障制度の課題を理解することができた講演でした。また、各地の取組みとして、全国一律最低賃金制に向けた取組みや東京・立川市生活保護廃止自殺事件についての報告がなされました。
(6)差別・ヘイトスピーチ分科会
 差別・ヘイトスピーチ分科会は、冒頭、神原元団員(神奈川支部)から「ヘイトスピーチ問題とは何か」ということについての概説的な説明が行われました。続いて、神奈川新聞の石橋学記者から、この問題の最前線の一つとなっている神奈川県・川崎市におけるヘイトスピーチの状況、規制と条例化についてご講演いただきました。その後、在日コリアン弁護士としてこの問題に取り組み、川崎での闘いに当初から参加している宋惠燕団員(神奈川支部)、東京・国立市の人権条例制定に関わった金竜介団員(東京支部)、各地でヘイトスピーチ問題に取り組んでいる安原邦博団員(大阪支部)、皆川洋美団員(北海道支部)及び池田賢太団員(北海道支部〔文書報告〕)から、各地の状況と取り組みについて報告がありました。また、ヘイトスピーチと同じく深刻な差別問題である女性差別に関し、伊藤和子団員(東京支部)からMeToo運動についての報告、早田由布子団員(東京支部)から団内でのセクハラ問題についての発言がありました。最後に、分科会参加者一同で、団内にヘイトスピーチや差別問題を議論する委員会またはPTの設置を求めることを確認しました。
5 全体会(2日目)
 分科会終了後、全体会が再開され、次の八名の全体会発言がありました。テーマと発言者は次のとおりです。
(一)改憲阻止の取り組みについて
      東京支部・白根心平団員
(二)沖縄における米軍基地問題について
      沖縄支部・加藤裕団員
(三)小松基地爆音差止請求訴訟の現状について
      石川県支部・飯森和彦団員
(四)差別・ヘイトスピーチ分科会の報告
      神奈川支部・宋惠燕団員
(五)解雇の金銭解決制度の危険性と導入阻止のために
      大阪支部・鎌田幸夫団員
(六)福島原発事故に対する総合的な政策による救済・復興と原発ゼロ基本法の制定に向けて
      東京支部・柿沼真利団員
(七)少年法適用年齢引き下げ問題について
      東京支部・辻田航団員
(八)よみがえれ!有明訴訟の報告
      福岡支部・國嶋洋伸団員
 全体会発言に引き続いて、次の六本の決議が執行部から提案され、会場の拍手で採択されました。
(一)安倍九条改憲を阻止し、安倍政権の退陣を求める決議
(二)日米両政府に対して辺野古新基地建設の断念を求める決議
(三)「働き方改革」一括法の抜本改正と実効性のある包括的ハラスメント禁止法の制定を要求し、「解雇の金銭解決制度」の創設に反対する決議
(四)少年法の適用年齢を一八歳未満に引き下げることに反対する決議
(五)東京電力・福島第一原発事故による被害の全面的な救済及び原発ゼロ基本法案の成立を早期に実現することを求める決議
(六)司法修習生に対する十分な経済的支援制度の確立を求め、いわゆる「谷間世代」の救済を求める決議
 以上の決議が採択された後、拡大幹事会が開催され、新人団員の入団が拍手で承認されました。
 続いて、今年一〇月の総会開催地である愛知支部の田原裕之団員から、開催場所となる愛知・西浦温泉への歓迎の挨拶が行われました。
 最後に、石川県支部の西村依子団員から閉会の挨拶が行われ、全てのプログラムが終了しました。
6 プレ企画について
(一)新人学習会
  学習会の前半は、菅野昭夫団員(石川県支部)から、これまでの弁護士人生の歩みと自由法曹団員に伝えたいことをテーマに、九〇分間お話しをしていただきました。参加した多くの団員が感銘を受け、多くの感想文が寄せられました。
  学習会の後半は、神保大地団員(北海道支部)から「新人弁護士が学習会を成功させるために必要なこと」、舩尾遼団員(東京支部)から「社会運動を見守る弁護士が知っておきたいポイント」をそれぞれ報告していただきました。両団員とも話が上手であり、分かりやすいと好評でした。また、参加した団員をくじ引きで六グループに分け、各グループから神保団員と舩尾団員に自由に質問してもらうというパネルディスカッションも実施しました。新人団員からの様々な質問(例えば私生活や収入の話も)に対し、神保団員と舩尾団員に快く対応していただき、学習の場になるとともに、新人団員相互の交流の場になったようで、パネルディスカッション方式は大成功であったと思います。
(二)将来問題
 将来問題企画では、全国一四支部よりご参加いただき、各地報告や事前に実施したアンケートの回答を交えながら討議を行いました。
 企画の前半では、学生や修習生に団を知ってもらい、団事務所に入所してもらうにはどうしたらいいか、について話し合いました。各地の経験を共有する中で、学生の段階から地道かつきめ細やかな周知活動を行うことの重要性が確認されました。法科大学院や大学法学部のない地域では、学生とつながること自体が困難であり、すぐには解決策が見いだせない状況も明らかになりました。
 企画の後半では、事務所に入所した若手に定着してもらい、団の活動に出てもらうにはどうしたらいいか、に関して、経営問題も含めて意見交換をしました。話題は所員間のコミュニケーションの取り方、インターネットの利用方法、他団体との付き合い方など多方面に及びました。
 今後も団員の皆様のご意見・ご希望を踏まえながら、将来問題に関する様々な取り組みを続けていく予定です。
(三)法律事務所事務局員交流会
 事務局員交流会は、全体会で、新垣勉団員(沖縄支部)から「『辺野古』県民投票運動について」というテーマで、本年二月二四日に実施された沖縄県民投票について、その意義や県民投票運動から得られた教訓などについて、ご講演いただきました。その後、北大阪総合法律事務所事務局の三澤裕香さんから、団事務所における事務局の役割というテーマで、ご自身の体験を通じて得られた事務局の果たす役割の重要性や仕事のやりがい等について、ご講演いただきました。
 そして、全体会終了後は、①新人事務局交流分科会、②活動交流分科会、③業務に関する経験交流分科会に分かれ、それぞれ活発な意見交換がなされました。
7 最後に
 二〇一九年五月石川県・能登研究討論集会では、全体会及び六の分科会において、いずれも大変熱心な討論が繰り広げられました。今回の討論集会が団員一人一人の全国各地での今後の活動に役立ちうるものになったのであれば、主催者側として大変嬉しく思います。
 最後に、今回の五月集会も、地元石川県支部の団員の皆さま、事務局員の皆さま、大変多数の、多大なるご尽力によって成功しました。執行部一同、深く御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

事務局員交流会 全体会感想  東京法律事務所 亀 井 美 織

 五月集会プレ企画、事務局員交流会の全体会では、沖縄支部の新垣勉先生より「辺野古県民投票運動について」の報告、北大阪総合法律事務所の事務局である三澤裕香さんより「団事務所における事務局の役割」について、お話を伺いました。
 二月二四日に投開票があった辺野古埋立の賛否を問う沖縄県民投票は、反対派が多数を占める結果となりましたが、当初、県民投票実施へは反対派からも反発や反論があったそうです。この間の数々の選挙で反対の民意は示されているのに、なぜまた行う必要があるのか。埋立工事は始まっているのに、なぜ時間もエネルギーも消費する県民投票をするのか。県民投票は知事の「埋立承認撤回」を遅らせることになってしまうのでは。そういった声に対して、新垣先生は「県民投票は現場での運動や知事の意思を励ますもの」「選挙の争点は基地だけでなくさまざまな要素を含んだものであるから、〝埋立反対の民意〟を明確にするためにも県民投票は意味がある」と語っていました。
 また、県民投票実施を求める署名には、氏名・住所のほかに印鑑もしくは指印が必要であり、さらに、署名は市町村ごとに集めてそれぞれの選管に提出しなければならないため、沖縄のスーパー「かねひで」の協力を得て、そこに行けば署名をできるようにしたというお話も伺いました。そういった具体的な話や、運動をすすめるにあたり苦労したことなど具体的に聞くのは初めてだったので、とても興味深かったです。
 新垣先生は運動を振り返り、「今後も続く沖縄の闘いの基盤をつくれた」「県民投票を自分たちの武器にできるようになったことは、沖縄に限らず、日本の政治にインパクトを与えられた」と語っていました。闘いをながい視野で捉えていることに、改めて尊敬の念を抱き、住民運動の最先端をいく沖縄にはやっぱり学ぶことがたくさんです。さいごに、県外の人へ向けたメッセージとして、「沖縄県民は、基地が身近にあるからこんなに頑張っている。それぞれ身近で起きていることにアンテナを張って、運動を頑張ってほしい」と語っていたことも印象的でした。
 三澤さんからは、これまで団事務所の事務局として関わった運動などを中心にお話を伺いましたが、運動以外のこともいろいろとお話していただいて、三澤さんの人生を少しのぞかせてもらったような、そんな濃い内容でした。
 三澤さんは「団事務所の事務局」を意識したことは今までなく、「法律事務所の仕事に携わるなかで、事件活動や人とのつながりが自分を変えた」と話されていて、具体的にはアスベスト訴訟を五年間担当し厚労省前での集会を行っていたり、自衛隊イラク派遣違憲訴訟では原告として意見陳述をしたり、団事務所ならではの事件活動を、その中心で経験されてきたのだなあと感じました。
 もともとは「絵を描くことが好きで、絵本作家や美術の先生になりたかった」そうですが、運動に関わるなかでその趣味を活かすことができたり、「人の面倒を見るのが好き」という性格もあって「法律事務所の仕事は私の天職だと思います」とキラキラしていたのがかっこよかったです。また、「自分が一人だと思わないことが重要」とお話されていたことからも、北大阪法律事務所のチームワークの良さをとても感じました。
 事務所に入所してまだ二年目の私にとって、三澤さんのようなベテラン事務局さんは憧れの存在ですが、いつか私も自分の言葉でたくさんの経験を語れるように頑張っていこうと思えるお話でした。ありがとうございました!

 

安倍首相の憲法観-憲法は国の理想を語るもの  埼玉支部 大 久 保 賢 一

はじめに
 安倍首相が、通常国会の施政方針演説の「おわりに」の部分で、「憲法は、国の理想を語るもの、次世代への道しるべであります。私たちの子や孫の世代のために、日本をどのような国にしていくのか。大きな歴史の転換点にあってこの国の未来をしっかりと示していく。国会の憲法審査会において、各党の議論が深められることを期待しています」としている。
 私は、この部分を読みながら、いくつかの感想を持った。
 まず、施政方針演説の最後の部分で「改憲問題」に触れていることについてである。彼の野望は二〇二〇年に「新憲法」を施行することだから、この時期の演説の「おわりに」でとってつけたような言い方をしているのは、いささかトーンダウンではないかという感想である。改憲について強い執念を持っている首相としては、このような触れ方は不本意なのではないだろうか。もちろん、その著書「美しい国へ」で「闘う政治家」を自認する安倍首相のことだから何をしでかすかわからないけれど、彼が描いていたスケジュール通りには事が進んでいないことは間違いない。これは、「安倍流改憲」を許さないたたかいの成果である。最後まで油断せずに奮闘しなければならない。
立憲主義の無理解
 それはそれとして、この安倍首相の憲法観は看過できない問題を含んでいる。憲法の存在理由は、国の理想を語るものでも、次世代への道しるべでもなく、権力者にその権限行使の正統性を付与し、他方では、その権限の限界を画することにあるからである。安倍晋三を首相という権力者にし、その権限を付与しているのは憲法である。安倍晋三は憲法によって首相となっているのだから、その憲法に従うのは当然なのである。それをあれこれと難癖をつけて変えてしまうなどということは身の程知らずの所業なのである。憲法についての基本的な理解を欠く人間が政治権力を握っていることは、この国の最大の不幸である。
 一五年前、私は、小泉純一郎首相(当時)が、自衛隊のイラク派遣について「世界の平和と苦しんでいる人々のための行動であり、憲法の理想を実現する道だ」として、憲法前文の意味を正反対に引用している施政方針演説を批判した際に「その国の宰相を見ればその国の民度がわかる」と書いたけれど(自由法曹団通信・二〇〇四年二月一日号)、それに勝るとも劣らない事態が再現されているのである。
なぜ安倍首相はそのように考えるのか
 安倍首相は「私たちの国日本は、美しい自然に恵まれた長い歴史と独自の文化を持つ国だ。そしてまだ大いなる可能性を秘めている。…日本の欠点を語ることに生きがいを求めるのではなく、日本の明日のために何をなすべきかを語り合おうではないか」としている(「美しい国」一二八頁)。安倍さんにとっての国とは、自然や歴史や文化で特徴づけられているが、政治的、経済的、社会的諸矛盾は完全に捨象されている。むしろ、それらは「欠点」として語ってはいけないこととされているようである。
 このことと関連して、愛敬浩二さん(名古屋大学・憲法)は「安倍晋三も国家を語る際、『統治機構としての国』ではなく、『悠久の歴史を持った日本という土地柄』という言い方をする。そして、『土地としての国』への帰属意識が、『愛国心』の基礎になると論じる」としている(「社会契約は立憲主義にとってなお生ける理念か」・岩波講座憲法Ⅰ・三五頁)。憲法学にとっての国家とは「民族という自然の所与を前提としてものではなく、逆に自然の帰属主体からいったん解放された諸個人が取り結ぶ社会契約というフィクションによって説明される」(樋口陽一)とされているので、安倍さんのいう国家は、憲法学の到達点を理解していない国家論だという指摘である。それは、安倍さんの立憲主義に対する無知と無理解の指摘でもある。安倍さんからすれば、こんなことを言いたてる憲法学者などは不倶戴天であろうが、私からすれば、せめてその程度の理解はしていて欲しいと思うのである。
天賦人権説は全面的に見直す
 安倍首相の国家観によれば「愛国心」は導き出せるけれど、「社会契約」は無視されることになる。このことは安倍さん個人の見解ではなく、自民党改憲草案の基調でもある。自民党の日本国憲法改正草案Q&Aによれば、改正草案は「天賦人権に基づく規定を全面的に見直した」としている。国家は個人の人権を保障するためという観念は「我が国の歴史、文化、伝統を踏まえない西欧の思想」として排除されているのである。天賦人権思想が否定されれば社会契約などはお呼びでないことになる。
 愛敬さんは、「社会契約は立憲主義にとって、そして立憲主義を奉ずる憲法学にとって、今なお『生ける理念』である」としている(同前四七頁)。この見識と安倍さんや自民党の憲法観は対極にある。安倍さんが憲法学者を敵視し、憲法学者が安倍改憲を容認できない根本的理由はここにあるように思われる。安倍さんや自民党は近代の啓蒙思想を根底から覆そうとしているのである。
小括
 私は、国家は私の生命、自由、幸福追求権を保障するための機関だと理解している。そのために、法律には従うし、納税もしている。一人で生きられる自信もないので社会の形成は不可欠だし、無政府状態による混乱も避けたいと思っている。けれども、国家によって生命や自由を奪われることなど絶対に避けたいところである。そのために立憲主義を深いところで理解したいと考えている。憲法改正をめぐる闘争は深い論点を抱えているようである。 (二〇一九年二月一日記)

 

独自の天皇制論議 その5 ~平成天皇は後鳥羽上皇となるのか  東京支部 伊 藤 嘉 章

天皇と内乱(順不同)
 後醍醐天皇のわがままによる元弘の乱
 後白河法皇と源平の争乱
 後鳥羽上皇による承久の乱
 このように、天皇、あるいは上皇が自分の意思で「御活動」をすると、世の中が乱れ、不幸な社会になるのです。
 なお、「御活動」とは、天皇の退位等に関する皇室典範特例法第一条にあることばです。「御活動」などという日本語があるのでしょうか。
徳川家康による禁中並びに公家諸法度の制定
 そこで、幕府を開いた徳川家康は、このような歴史に学んで、天皇・上皇が自分の意思で御活動をすることのないように、天皇には権威と、征夷大将軍を任命する権能だけを認めて、あとは宮中深く閉じ込めて「学問に専念しなさい」と命じたのであった。
平成天皇の退位にかかる御言葉の疑問点
 天皇の高齢化の対処は、象徴としての行為の縮小によるのではなく、天皇が重病などの場合に摂政を置くことも考えらるる。「しかし、この場合も天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、生涯の終わりに至るまで天皇であり続けることに変りはありません。」という。ここでいう「その立場に求められる務め」とは何をさすのでしょうか。
 天皇の行為が憲法六条と七条の国事行為という判子を押すだけの行為であれば、摂政で十分に代行できるはずです。あとは、食うことと寝ることだけです。「その立場に求められる務め」などあるはずがないのです。
過度の自粛行為について
 また、「天皇が健康を損ない、深刻な事態に立ち至った場合、これまでに見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしに様々な影響が及ぶことが懸念されます。」ともいう。
 これは、村祭りや運動会が中止になったという昭和天皇死亡前後の各方面における自粛について述べていると思われる。しかし、平成天皇が退位して上皇になったうえで、不例で入院した場合には、各方面の自粛はなくなるのだろうか。
平成天皇の退位にかかる御言葉の真の意味は何か
 平成天皇は憲法の国事行為の他に「その立場に求められる務め」を果たしたいというのです。憲法にない権力を行使するということであろうか。
天皇の意思で実現したベトナム訪問
 「天皇が来日した外国要人と会見した際、その国への訪問を要請されることがある。天皇は『外国訪問については政府で検討することになっています』と答えることになっている。」(井上亮著「象徴天皇の旅」二〇一八年発行・一〇二頁)
 ところが、二〇一七年二月二八日から三月六日のベトナムとタイの訪問は、随行した侍従長が随行記で、天皇の意思で実現した訪問であるとあかしている(井上著・一〇二頁孫引)。
従軍慰安婦への謝罪
 もし、天皇が、豊臣秀吉が朝鮮半島に攻め入って起こした文禄の役・慶長の役の犠牲者を慰霊したいといって、韓国を訪問し、韓国国会議長の「日本を代表する首相か、間もなく退位される天皇が望ましいと思う。一言でいいのだ。……天皇がおばあさんの手を握り、申し訳なかったと一言言えば、問題は解消されるであろう。」との要望に応えて、元従軍慰安婦によりそったらどうなるか。
 さらに足を伸ばして、北朝鮮に向かい、金正恩の歓迎を受け、晩餐会のスピーチで「日本と貴国の間には不幸な一時期があった」と述べたらどうなるだろうか。
禁中並びに公家諸法度の復活
 このような政治家がおこなうべき仕事を勝手にできないように、江戸時代の禁中並びに公家諸法度を復活して、「天皇は学問に専念しなさいと」と命じなければならないと思います。
上皇の復活
 天皇の退位等に関する皇室典範特例法第三条一項によれば、退位した元天皇を上皇というとある。上皇には、憲法の国事行為はなしえないことは明らかであるが、天皇の象徴行為に準じた行為ができるのでしょうか。
 上皇は一般参賀に参加するのでしょうか。被災地に行って被災者に寄り添うことができるのでしょうか。
上皇の信教の自由と退位の本当の理由
 天皇は国事行為をする国家機関であるが、上皇は憲法第二〇条三項の「国及びその機関」にはあたらない。上皇にも憲法第二〇条一項の信教の自由が保証される。だから、上皇が靖国神社に参拝しても憲法上の問題はおこらない。上皇はもはや象徴ではないのです。中国が怒ることがあっても、法務死をさせられたA級戦犯十三人の御霊に、一人の人間としてよりそうこと。このことが、平成天皇が退位を望んだ本当の理由なのではないだろうか。詳細は、その4で述べます。
上皇の行為規範が必要では
 後鳥羽上皇は、自分の意思で幕府を滅ぼそうとして承久の乱を起こして、島流しになった先例がある。
 上皇が自分の意思で日本会議の名誉総裁に就任して、大会や総会であいさつをするようになったらどうであろうか。
 上皇の行動を規制する規範がないのです。
 そこで、上皇は民間のいかなる団体の構成員、役員に就任してはならないその他の法による縛りが必要なのではないか。
 上皇という虎に翼をつけて野に放つことがないように。
「虎着翼放之」(「天武天皇上 即位前紀」岩波文庫・日本書紀(五)・三九二頁)

 

「核の時代」と憲法九条  福岡支部 永 尾 廣 久

 大久保賢一団員の本(日本評論社)です。
 私たちは現在、核兵器や原発という制御不能なものとの共存を強いられている。
 核エネルギーは「神の火」ではなく、「地獄の業火」だ。私たちは核地雷原の上で生息しているようなもの。にもかかわらず、核兵器や原発を脅しの道具や金もうけの手段としている連中がのさばっている。
 つい先日も、日本経団連会長(原発をイギリスに輸出しようとして失敗した日立出身です)が、日本には原発が必要だと堂々と恥ずかし気もなく高言していました。恐ろしい現実です。三・一一のあと原発反対の声は広く深くなっているとはいえ、まだまだ原発停止したらマンションのエレベーターが停まってしまうんじゃないかしら・・・、なんていう日本人が決して少なくないのも現実です。
 著者は、私と同じ団塊世代。埼玉・所沢で、この四〇年間、「くらしに憲法を生かそう」をスローガンとして弁護士活動をしてきました。同じ事務所の村山志穂団員によると、事件処理に関しては、ガチンコ対決、つまり白黒つけるというより、仲裁型の事件処理が多いようだということです。所沢簡裁の調停委員として、調停協会の会長も最近までつとめていたそうです。
 この本を読んで初めて知り、驚いたことは、第二次大戦終了後まもなくの一九四六年一月二四日の幣原喜重郎首相とマッカーサー連合国最高司令官の二人だけの会談の内容です。終戦直後のマッカーサーは、今から思うと信じられないようなことを断言していたのです。
 「戦争を時代遅れの手段として廃止することは私の夢だった。原子爆弾の完成で、私の戦争を嫌悪する気持ちは当然のことながら最高度に高まった」
 これを聞いた幣原首相は、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、こう応答した。
 「世界は私たちを非現実的な夢想家と笑いあざけるかもしれない。しかし、百年後には私たちは予言者と呼ばれます」
 いやあ、すばらしい対話です。これを知っただけでも、この本を読んだ甲斐がありました。
 さらに、同じ年(一九四六年)一〇月一六日、マッカーサー元帥は昭和天皇とも会談します。そのときマッカーサーは、こう述べました。
 「もっとも驚くべきことは、世界の人々が戦争は世界を破滅に導くことを、十分認識していないことです。戦争は、もはや不可能です。戦争をなくすのは、戦争を放棄する以外に方法はありません。日本がそれを実行しました。五〇年後には、日本が道徳的に勇猛かつ賢明であったと立証されるでしょう。一〇〇年後には、世界の道徳的指導者になったことが悟られるでありましょう」
 こんな素晴らしいことを言っていたマッカーサーが、朝鮮戦争のときには原爆使用を言いだして罷免されるのですから、歴史は一筋縄ではいきません。
 アメリカのトランプ大統領は世界の不安要因の一つだと私は思いますが、アメリカ国内の支持率は四六%だといいます。恐ろしいことです。そのトランプ大統領は、「アメリカは核兵器を保有しているに、なぜ使用できないのか」と外交専門家に、一時間のうちに三回も同じ質問を繰り返したそうです。安倍首相が一〇〇%盲従しているトランプ大統領の実体は危険にみちみちているとしか言いようがありません。
 原爆も原発も、核エネルギーの利用という点で共通している。核エネルギーの利用は、大量の「死の灰」を発生させる、人類は、その「死の灰」、すなわち放射性物質と対抗する手段をもっていない。放射性物質は、軍事利用であれ、平和利用であれ、人間に襲いかかってくる。原爆被爆者は、「死の灰」が人間に何をもたらすかを、身をもって示している。
 著者は、最近の米朝会談や南北首脳会談について、日本のマスコミが、おしなべてその積極的意義を語らず、声明の内容が抽象的だとか非難して、その成果が水泡に帰するのを待っているかのような冷たい態度をとっていることを厳しく批判しています。私も、まったく同感です。二度の南北首脳会談を日本人はもっと高く評価し、それを日本政府は後押しするよう努めるべきです。そして、アメリカと北朝鮮の対話が深化して、朝鮮半島に完全な平和が定着するよう、もっと力を尽くすべきなのです。それが実現してしまえば、イージス・アショアは不要ですし、F35だって一四七機の「爆買い」なんて、とんでもないバカげたことだというのが明々白々となります。
 これは貴重な資料だと途中から粛然とした思いになって、最後まで一気に読み通しました。

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