第1677号 / 8 / 11

カテゴリ:団通信

●参院選の結果とこれからの課題  船 尾   徹

●山形県沖地震被害に対する取組の報告  脇 山   拓

●日本はなぜ原発を手放さないのか(2)  佐 野 雅 則

●「第12回 民弁米軍問題研究委員会-自由法曹団沖縄支部 平和交流会」を終えて(3)  林  千 賀 子

●この夏休みに「公契約条例」を学ぼう  小 部 正 治

●「消費税廃止」が発信する「格差是正」-経済にデモクラシーを!  後 藤 富 士 子

●2019年石川県・能登五月集会旅行記 第2部 1泊旅行の風景  伊 藤 嘉 章

●PDF版団通信のメール配信を始めます  森   孝 博

 


参院選の結果とこれからの課題  団長 船 尾   徹

参院選の結果
 「九条改憲」をめざす戦後最悪の「安倍政治」の継続を許すのか、それとも「安倍政治」を終わらせ新しい希望ある政治に踏み出すのか、日本の命運を左右する歴史的政治戦となった参院選の結果が明らかになった。開票直後、「自公で改選議席の過半数確保」、政権与党の勝利とする報道がめだった。しかし自公与党は本当に「圧倒的優位」に立ったのか。
自公の獲得議席と得票数
 自民党の確保した議席は、改選前六七議席から五七議席へと後退し、公示前議席一二三から一一三議席へ減少している。政権与党として単独過半数も確保できなかった。また、自公与党は改選前の議席総数一四八を一四一議席に減らしている。比例区で自民党は、二〇一六年比で同じ一九議席確保、しかし、その得票数は二〇一一万票から一七七一万票に後退。全有権者に占める得票数の割合(絶対得票率)でみると一六・七%前後(第二次安倍政権下で過去最低)。その支持には大きな拡がりはみられない。それでも比例議席が前回と同じになったのは、低投票率(四八・八%)と小選挙区制に支えられたものといってよい。強固な集票組織を有する公明党は比例七議席を確保、しかし、その得票数は七五〇万票台から六五〇万票台に減少している。民意と議席占有率との間に著しい乖離がひろがっている。
「三分の二」割れ
 安倍政権は、衆参三分の二の改憲派議席を有していたにもかかわらず、二〇一七年五月提言の九条改憲を強行できなかった。そこで、改憲を論議する政党か、論議しない政党かを基本的な争点にして、改憲議席三分の二を確保し改憲を加速化しようとした。しかし、市民と野党共闘により「三分の二」を確保させず、安倍九条改憲阻止に展望を切り拓くものとなった。選挙後の朝日新聞の全国世論調査(二二日、二三日)によれば、「三分の二」に届かなかったことが「よかった」とする世論は四三%、「よくなかった」とする世論は二六%。また、安倍首相にいちばん望む政策について、年金など社会保障が三八%、続いて教育・子育てが二一%、景気・雇用が一七%、外交・安全保障が一四%、最も低いのが憲法改正三%。改憲については、国民世論が熟したときに国民の代表である国会が提起するものであって、国民世論を無視して政権が提起すべきものではない。
野党共闘の前進と共闘効果
 一人区の三二選挙区で市民と野党の共闘が成立し、野党共闘候補は一〇選挙区で勝利を確保した。三年前の野党共闘候補は、「現職」を軸にして一一選挙区の勝利を確保した(なお六年前は僅かに二選挙区の勝利のみ)。今回の共闘候補は新人候補が中心。それだけに準備期間は短い。そうしたなかでの一〇選挙区(うち新顔九選挙区)での勝利は「大きな成果」である。しかも、首相、官房長官を投入したにもかかわらず自民現職を七県で破っている。「総がかり」以来四年半にわたる野党共闘は、市民連合と四野党一会派による一三項目の基本合意として結実し、各地で多くの運動団体と候補者の合意のもとに共闘候補としてたたかった。議席確保に至らなかった選挙区でもその得票数は、改憲派とかなり伯仲している。各野党の比例区の合計得票と共闘候補者の得票数との対比(「共闘効果率」)でみても三二選挙区の平均効果率は一一四%、三二選挙区中二六選挙区が一〇〇%を越え、愛媛県候補の達成率は一八八%におよんでいる。共闘効果は明白である。一〇〇%下回った選挙区六、最も低いのが共産党公認の福井県候補であった。
共闘と分断
 「三分の二」を維持させなかったものの改憲断念まで追い込めなかったのも事実である。これから安倍政権は「三分の二」を確保するため、「共闘派」と「脱共闘派」の潮流が存在する一部野党を改憲勢力にとりこむ、自民党案に固執しないなど、改憲策動の戦略を組み直すなどして野党の分断策動をいっそう強め、憲法審査会での審議入りめざしてくるのは間違いない。国民民主の玉木党首は、改憲論議に関し「議論は進める。安倍晋三首相にもぶつける」と前向きな姿勢を示し、「党としての考えをまとめて、最終的には党首と党首で話をしたい」(七月二五日)などと改憲圧力に引きずり込まれかねない動揺をしている。
 安倍九条改憲NO!全国市民アクション、市民連合等と野党共闘の運動が、この間に創り上げた「安倍九条改憲」阻止の共闘枠組をさらに強固なものにして、分断を許さない運動を各地で積み重ねていくことがいよいよ重要となっている。また改憲論議に慎重な公明党の母体組織である創価学会に、「九条改憲の危険性」をともにアッピールする運動をよびかけていくことも重要である。その具体的な方法を検討しなければならない。
 いずれにせよ共闘と分断をめぐる攻防は、これから予想される政治課題・状況と対峙するなかで、共闘枠組を強化していく必要がある。
「トランプ攻勢」と自衛隊のペルシャ湾派兵
 トランプが「八月にすばらしいことが発表されると思う」と、参院選前にはその内容を秘匿していた日米貿易交渉が始まる。トランプ政権が関心を寄せているのは、米国製兵器の輸出、カジノ企業の進出、農産物の輸出拡大などであり、戦争への「抑止力」ではなく「誘発力」としての軍拡圧力と農業破壊、自動車・工業製品などへの高関税措置が予想される。またトランプ政権は、同盟のコストを米国ばかりが負担しているのは不公平と一方的に決めつけ、来年から本格的な交渉が始まる在日米軍駐留経費の日本側負担(〇四年の米国防総省の報告書によると米軍駐留経費の負担は七四・五%にのぼっている)を現状の五倍の巨額負担増を求めてくるという。
 トランプは「イラン核合意」から一方的に離脱し軍事的挑発を繰り返している。「イラン核合意」が崩れていく事態が進展していくと、親米のサウジアラビアによる核兵器開発とイスラエルによる軍事行動を誘発し、戦争の危険性が中東全体に拡大する。こうした危機的な様相をはらんでいる状況のもとでイランとの軍事対決をはかるべく、日本に対して自国の石油の確保は自国で防衛するため、「有志連合」への参加の圧力を強めている。
 改憲勢力は自国の石油の確保のために、安保法制を全面発動するとともに「安倍九条改憲」へと世論の誘導を強めてくるだろう。こうしたアメリカの戦争への自衛隊参加こそ、安倍政権が安保法制を強行した目的であり、「安倍九条改憲」のねらいにほかならない。九条にもとづく外交交渉を通じて、イラン核合意の復帰を米国に求め、自衛隊派兵阻止の道こそ平和への道とする共闘の強化が、私たちの当面の緊急な課題となっている。
朝鮮半島の緊張緩和と逆行する輸出規制
 朝鮮半島の非核化と平和体制の構築のために、わが国は韓国と連携して米・朝を後押しし、前に進める重要な役割を担うべき立場にある。しかし、安倍政権は「歴史問題」に決着をつけるべく「徴用工問題」についての韓国の対応に対して、話し合いに基づく外交的解決をめざすのではなく、報復措置として韓国向け半導体の原材料などの輸出規制に続き、輸出管理の手続を簡略化する優遇対象国から除外する閣議決定をして、政経分離の原則に反する行動をとっている。このため相互依存関係にある日・韓両国の経済・産業に深刻な影響が生じ、相互の応酬が激化し関係悪化はエスカレートしている。それは朝鮮半島の緊張緩和を主導する方向からますます逆行し、事態の深刻化は九条改憲圧力として働く。
核軍拡と核兵器禁止条約
 トランプ政権が二月に離脱通告をしていた米ロの中距離核戦力全廃条約(INF条約)は八月二日に失効し、中距離弾道ミサイルの開発を進める中国を加えた新たな米中ロの軍拡競争を加速させ、新型ミサイルの在日米軍基地への配備、ミサイルの日米共同保有の議論まで登場している。長距離戦略核の削減を定めた戦略兵器削減条約も米国は延長に消極的で、更新されない限り二〇二一年二月に終了する。また多くの国に核保有を禁じる一方、核保有国に核軍縮を義務づける核不拡散条約(NPT)も来年開かれる再検討会議で最終文書が採択できない懸念が拡がっている。いま核軍縮・核不拡散の国際ルールの底が抜け、新たな核軍拡競争の再来が危惧されている。世界が核の無秩序から核なき世界をめざした核兵器禁止条約がいよいよ重要となっている。しかし、政府は同条約の批准はおろか署名を拒否し禁止条約に加入しない。核兵器禁止条約の批准を求める共闘が重要となっている。
アベノミクスの破綻と消費増税
 日銀が先頭に立って株式を購入し(ETF指数連動型上場株式投信)、年金基金も大量購入することによって創り上げられている「官製株式相場」と事実上の財政ファイナンスによって、安倍政権は「見せかけの景気」を演出してきた。その結果、三月一〇日時点の日銀の国債保有高は約四七八兆円、株式の保有高(指数連動型上場投信)は約二四兆四七六四億円、他方、異次元の金融緩和の継続により国の借金は約一〇七一兆円におよんでおり、GDPでみたとき戦時中の水準に匹敵し、敗戦濃厚な戦時財政と似てきていると指摘されている。今やすべてのツケが未来の世代に先送りされている。
 安倍政権は、成長戦略の柱として「働き方改革」一括法による、残業代ゼロの高度プロ、過労死基準の時間外労働の上限規制、改定入管法による低賃金の「移民労働者」の拡大を強行している。しかし、規制緩和をどれほど行ったところで新しい産業は生まれない。本質的な問題は、アベノミクスの重要な柱となっている異次元の金融緩和を続けている間に、産業構造の転換に遅れをとり、産業の衰退がいっそう進んでいることである。加えて米中貿易戦争による世界経済の減速と景気悪化のもとで、消費税一〇%増税実施により家計の購買力が剥奪され消費はいっそう冷え込み、景気の底割れが必至となる。
安倍政治に代わる共通政策
 軍事大国化・新自由主義的構造改革を強行しようとする安倍政治と国民が求めている切実な要求との間に矛盾・対立は激しくなっている。この安倍政治に代わる選択肢として、「一三項目」の共通政策を市民連合と四党一会派が五月二九日に合意している。この共通政策は野党共闘の基盤であり、これからのわが国の「野党連合政権」共闘に発展していく射程を内包している。一三項目の基本的な合意にもとづくそれぞれの分野における要求運動を、市民と野党の共闘により実現・発展をめざしてたたかうことが重要となっている。  こうした運動は衆議院の二八九ある小選挙区のもとで一対一の対決構造を早期に形成する基盤ともなり、九条改憲阻止の重要な一翼を構成する。その接着剤として団員の果たす役割は大きい(二〇一九・八・四)。

 

 

山形県沖地震被害に対する取組の報告  山形支部 脇 山   拓

一 はじめに
 団本部より、二〇一九年六月一八日に発生した山形県沖地震に関する投稿の依頼があった。被災者支援の活動は、完全に弁護士会としての活動であるので、団通信へ投稿するのに相応しい題材なのかどうか悩んだが、まずは実情を報告する。
二 地震の発生
 二〇一九年六月一八日二二時二二分、山形県沖を震源とするマグニチュード六・七の地震が発生した。震度は新潟県村上市で震度六強、山形県鶴岡市で震度六弱であった。なお、村上市も鶴岡市もいわゆる平成の大合併において周辺町村と合併して広大な面積の市となっているが、上記の震度は合併前の名称で言えば震度六強は山北町、震度六弱は温海町と山形県と新潟県の県境を挟んだ両側に設置された震度観測点で記録されたものである。
 山形県鶴岡市(JR鶴岡駅近く)にある私の自宅では、地震発生当時、夫婦で「わたし、定時で帰ります。」の最終回の視聴中であったが、突然の下から突き上げてくるような揺れに度肝を抜かれた。幸いライフラインには影響がなく、自宅に不眠不休で対処しなければならないような被害も出なかった(地震保険で一部損に該当する程度の被害は発生したが。)。また、近くに住む母脇山淑子団員の無事もすぐ確認できたし、事務所の事務職員とも連絡が取れたため、比較的冷静な状態で過ごせた。
三 日弁連理事会にて
 同月二〇日、二一日は日弁連理事会の開催日であり、庄内空港には地震の影響はなかったため、予定どおりに上京した(私は本年度山形県弁護士会の会長である。)。理事会では急きょ冒頭で新潟県弁護士会会長と共に被害状況や弁護士会の取り組み状況、今後の方針などについて報告した。
 理事会初日の夜には各弁護士会連合会の理事同士の懇親会が開催されることが多いが、二〇日の夜は偶然にも東北弁連と関東弁連、北海道弁連の懇親会の日であり、そこで、新潟県弁護士会会長と今後の共同した取り組みに関して意見交換をすることができた。
四 新潟県弁護士会との関係
 新潟県と山形県は隣接しており、電力会社も同じ東北電力という共通点はあるものの、東京高裁管内と仙台高裁管内のため、両弁護士会が所属する弁連も異なっているため、これまで日常的な交流はほとんどなかった(皆無だったという方が正確かも知れない。)。 この関係が大きく変化したのは、東日本大震災と福島第一原発の事故の発生以後である。
 福島などからの自主的避難者が多いという共通点から、原発事故を原因とする損害賠償請求訴訟での弁護団同士の交流、協力が生まれ、そこから弁護士会レベルでも大規模災害の被災者支援の分野で交流が活発に行われるようになってきていた。
 今回も地震発生直後から、災害対策の担当者同士では今後の取り組みについての意見交換が着々と進められていた。
五 合同での視察と協議をへて共同声明を発表
 その後、それぞれが自治体、関連士業と共同しての相談会を行うなどした上で、七月一五日に、両会合同での被災地視察を実施し、その後、今後の取り組みついての協議会を開催した。
 協議の結果、更なる支援を求めるとともに、被災者生活再建支援法の改正を求めるという点に絞った共同の会長声明を早急に発表することになり、両会の常議員会での議決を経て、七月二五日付けで「山形県沖地震被害について更なる支援を求め、被災者生活再建支援法の改正を求める共同声明」が出された。声明文は、両会のホームページに掲載されているので、そちらをご覧いただきたい。
六 今後について
 両会では、今後、弁護士会が主体となった共同相談会を実施することなどを検討中であり、被災者の生活再建のため、引き続き活動を行っていく所存である。

 

 

日本はなぜ原発を手放さないのか(2)  静岡県支部 佐 野 雅 則

一 原発は原子力の問題
 原子力の「平和利用」と「軍事利用」の両睨みで構築された米国の原子力レジームに漬かってきた日本で発生した巨大原発事故は、「日米核同盟」がもたらした一つの帰結です。
 原子力の問題の本質は、爆発事象に伴って引き起こされる非人道的な帰結とそれに対応する人知と人為の限界にあります。巨大原発事故と核攻撃、核爆発後に起きる核分裂生成物が生身の人体に非人道的な放射能被害をもたらす帰結は同じです。広島、長崎、ビキニ、そして福島。四度の被ばく体験をいかに核廃絶、そして将来的な脱原発の道筋に繋げるかが問われています。
二 「日米核同盟」の実相
 原発事故後すぐに福島の現場に投入することに決まった米国の「被害管理対応チーム(CMRT)」。核事故の特殊専門チームであるCMRTは、核テロや原発事故が発生した場合、放射能を帯びた核分裂生成物が飛散した場合に真っ先に出動し、米軍機に設置された「空中測定システム(AMS)」を使って現場周辺の被ばく実態を解明、「放射能汚染マップ」を作製します。
 二〇一一年三月一六日には、CMRTのメンバー三三人がAMS関連機材とともに米軍横田基地に到着し、横田などの米軍基地に顕著な放射能脅威がないことを確認しました。そして、三月一七日から一九日までの間、米軍機二機にAMSを搭載して福島の上空から空間線量を測定、福島第一原発から四〇キロ圏の放射能汚染マップを作製し、日本政府へ提供しています。
 実はCMRTの役割は、米軍による被災地救援活動「トモダチ作戦」の露払い的な性格を帯びていました。つまり、「トモダチ作戦」をなるべく「被ばくフリー」で行い、自国民の安全確保に最大限の効果を発揮することを狙ったものでした。核の傘を維持したい「日米核同盟」の盟主米国の現実的かつ冷徹な真意が見て取れるとともに、核爆発によって引き起こされる非人道的な帰結とそれに対応する人知と人為の限界が見て取れます。
三 非人道的帰結
 冷戦時代、東西両ブロックの間では核抑止論を肯定する立場から、核兵器を「必要悪」をみなす傾向が強くありました。しかし、重大な非人道的性格を考え合わせると、仮に抑止が崩壊した場合の帰結はあまりに甚大であり、そうした帰結の到来はいかなる理由を持ってしても決して正当化されるものではありません。
 「原子力の平和利用」も、非人道的な帰結を伴わざるを得ません。そのことは、福島原発事故から八年が経過しても、多くの住民が故郷を追われているという冷厳な事実に凝縮されています。
四 救護の不可能性
 CMRTが製作した放射能汚染マップが示す赤色やオレンジの高線量エリアはまさに、被爆事象の非人道的帰結である「救護の不可能性」を如実に示しています。仮に救助活動要員も入れない救護不可能な高線量エリアに大勢の負傷者が取り残されていたとしたら、核爆発のもたらす非人道的な惨状が一層増幅されます。
五 世界の潮流から取り残される被爆国
 核兵器使用の非人道性や救護の不可能性が国際的に論じられる潮流の中で、核爆発による非人道的帰結を改めて経験したはずの日本が取り残されています。
 「核が存在する限り米国の核抑止力に依存する。」この言葉に「核の傘」を絶対視する被爆国政府の本音と本質が凝縮されています。
 核が存在する限り、核の傘に依存する限り、原発がなくなることはありません。
 世界唯一の被爆国に課された歴史的かつ人類的な使命とは何か。
 それは核兵器を「必要悪」とする核戦力に依存した安全保障政策からの脱却を図ることによって、本来「絶対悪」でしかない核兵器に依拠しない国策を実現することではないだろうか。そうしないと原発は無くならない。

 

 

「第12回 民弁米軍問題研究委員会-自由法曹団沖縄支部 平和交流会」を終えて(3)
                                 沖縄支部 林  千  賀  子

〔三日目〕
 朝の八時半すぎにホテルを出発し、民弁ソウル事務所での、一日かけたセミナーの始まりです。前日よりも更に気温が下がったソウルの寒さは、完全に暑さ仕様となっているわが身に著しく堪え、貼るカイロ二個をもってしても容易に打ち消せませんでした。
 そうした身体の寒さはともかく、特に楽しみにしていた国際基督教大学政治国際関係学科教授のソ・ジェジョン氏の特別講演「「トランプドクトリン」と東アジアの平和―新現実主義と新重商主義の狭間の危険とチャンス」は、昨年六月と今年二月に行われた朝米首脳会の評価や、今後の東北アジア安全保障秩序の変化の可能性等についてのお話であり、非常に興味深く、考えさせられる内容でした。トランプ政権の、現実主義的国際主義と新重商主義の妥協した結果である国家安全保障戦略は、同盟国へ危機とチャンスを同時にもたらしている、韓国はチャンスの面を捉えて東北アジアにおける新たな平和と協力の可能性を切り開こうとしている、という話を聞きながら、翻って現在の日本の有り様は非常に厳しいとしか思えず、強い焦燥感を覚えました。
 民弁側からの発表は、「南北対話、朝米対話はどこまで進んだか」「防衛費分担特別協定(SMA)の問題点」「司法壟断(私物化)の実態と課題」「強制徴用判決の紹介」「大秋里(テチュリ)名称変更拒否取消訴訟の進行経過報告」など、沖縄支部側からの発表は、「日米の軍事的一体化を全面解禁した安倍政権」「辺野古新基地建設問題をめぐる動き」「二〇一八年に実施された日弁連調査報告について 米軍関係経費の負担―主として「思いやり予算」について」「辺野古新基地建設をめぐる沖縄県と国の間での係争の現状」「基地内での人権侵害への対応―目取真国賠事件」「辺野古海上での船舶転覆事件の国家賠償請求事件〈ラブ子国賠事件〉」と盛り沢山でした。八時間近くに及ぶセミナーでしたが、もっと議論の時間がほしかったです。
 セミナーは交流会のメイン企画であり、参加する度に、韓国で日々基地問題に真剣に取り組んでいる弁護士から直接具体的かつ専門的な話を聞けるのは本当に贅沢だと感じます。
 交流会最終日の夜の公式懇親会は、多くの人が参加して大変賑やかでした。一年ぶりにお会いした民弁の先生達とお喋りし、またの再会を誓い合いました。(終)

 

 

この夏休みに「公契約条例」を学ぼう  東京支部 小 部 正 治

 今年六月に、地元の東京都新宿区にも公契約条例が制定されたが、全国で約七〇の自治体に制定されている。しかし、公契約条例はどのようにしてできたのか、公契約条例はどのようにして運用されているのか、公契約条例の意義・役割や到達点などをわかりやすくまとめた本はなかった。そのため、この度東京都世田谷区の公契約条例を題材として「公契約条例がひらく地域のしごと・くらし」(自治体研究社、二〇〇〇円)が発行された。是非とも、この夏休みに読んでいただきたく紹介文を書いた次第である。
 世田谷区は都内西南部に位置する人口約九〇万の特別区であるが、二〇一五年四月から公契約条例を施行させて五年目に入っている。革新区政二期目の保坂展人区長も「全国に広がる公契約条例の基礎から今後の課題等必携の一冊」と推薦している。
 この本の著者の一人は、永山利和日本大学元教授である。現在の世田谷公契約条例に基づく「公契約適正化委員会」の副委員長であり、「労働報酬専門部会」の部会長でもある。永山氏は、この本の第一部「拡大する公契約条例―制定の基礎と到達点」を担当し、公契約条例の意義・役割や到達点などをわかりやすくのべている。永山氏は現在都内はもちろん各地から公契約条例に関する学習会・研究会等に呼ばれる売れっ子講師でもある。理論と実践に基づく説得力のある記述こそおすすめする点である。
 もう一人の著者は、中村重美世田谷区労協議長(元世田谷区職労委員長)である。公契約条例を作ろうと言い出した「五労組委員長会議」の一人であり、公契約条例の制定まで推進役となった「公契約推進世田谷懇談会」の有力メンバーの一人である。中村氏は、第Ⅱ部「世田谷公契約条例―制定への取組みと運用の実際―」を担当し、公契約条例はどのようにしてできたのか、公契約条例はどのようにして運用されているのか、を具体的に詳細に述べている。条例を創る運動をになってきた、そして制定後の運用も注視している本人が書いている話は、説得力があり誰もが知りたい実態を正確に描写している他では絶対に得られないものである。
 最後になるが、私も世田谷区の「公契約適正化委員会」のメンバーであり、「労働報酬専門部会」の公益委員・副部会長であり、五目を迎えている。著者の二人とは月に一回は顔を合わせている。世田谷区の土木建築等の報酬下限額は「設計労務単価の八五%」を原則としている。また、土木建築以外の労働報酬下限額は、二三区の高卒初任給を労働時間で割った時間給一一二〇円(平成三〇年度)を直近の目標とし、東京都の最低賃金(今年は一〇〇〇円を超える)や区役所の非正規職員の賃金水準、労働組合の要求(時給一五〇〇円)などを参考としつつ、「官製ワーキングプアー」の改善として二年ごとに更新し、今年から一〇七〇円になってる。この審議経過や区長との対応なども是非読んでいただきたい。

 

 

「消費税廃止」が発信する「格差是正」-経済にデモクラシーを!  東京支部 後 藤 富 士 子

一 私は、昨年話題になった『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』を発刊の早い時期に大変興味深く読んだ。
 まず本の表帯の「アイデンティティ政治を超えて『経済にデモクラシーを』求めよう」に同感だ。裏帯はブレイディみかこさんの「『誰もがきちんと経済について語ることができるようにするということは、善き社会の必須条件であり、真のデモクラシーの前提条件だ』 欧州の左派がいまこの前提条件を確立するために動いているのは、経世済民という政治のベーシックに戻り、豊かだったはずの時代の分け前に預かれなかった人々と共に立つことが、トランプや極右政党台頭の時代に対する左派からのたった一つの有効なアンサーであると確信するからだ。ならば経済のデモクラシー度が欧州国と比べても非常に低い日本には、こうした左派の『気づき』がより切実に必要なはずだ」というフレーズ。これだけで「読みたくなる」ではないですか?
 私は、学生時代に社会学を専攻したせいか、松尾匡さんより北田暁大さんやブレイディみかこさんの発言に共感するところが多かった。とりわけブレイディさんの「地べたに根差した」議論に共鳴し、彼女の『子どもたちの階級闘争』を一気に読んでしまった。保育士である彼女は、「底辺託児所と緊縮託児所は地べたとポリティクスを繋ぐ場所だった。だけどそれは特定の場所だけにあるわけではなく、そこらじゅうに転がっているということをいまのわたしは知っている。地べたにはポリティクスが転がっている」と結んでいる。なお、『労働者階級の反乱―地べたから見た英国EU離脱』(光文社新書)も興味深い。

二 『そろ左派』の第一章の最後に「リベラル」と「レフト」という議論がある。ここでもブレイディさんの発言が面白い。彼女の一一歳(当時)の息子が父親(彼女の夫)に「レフトとリベラルってどう違うの?」と訊いたら、父は「リベラルは自由や平等や人権を訴える金持ち。レフトは自由と平等と人権を求める貧乏人。だからリベラルは規制緩和や民営化をするんだ」と説明したという。納得!
また、トランプ現象に衝撃を受けたナオミ・クラインは、二〇一七年にベストセラーになった『No Is Not Enough』で「NOと言っているだけではリベラルや左派は勝てない」と悟り、これからは「反〇〇」みたいなネガティヴなやり方ではダメだ、人びとを惹きつけるようなポジティヴなヴィジョンを打ち出さなければいけないと気づいたという。ブレイディさんのこの発言に続いて、北田さんは、そろそろ左派は「自民党にNOという自分たち」という他律的なアイデンティティを捨てて、庶民の物質的な―広義での―豊かさを追求するという原点に戻ったほうがいいという。

三 第二章では、「緊縮/反緊縮」の対立についての議論。財政破綻したギリシャで「EUが変わらなければ、借金を踏み倒すことも辞さない」という態度で財務大臣に就任したヤニス・バルファキスは経済学者で、ヨーロッパ中央銀行の意向を変えられれば、ギリシャは財政破綻を起こさずにすむことを知っていた。「反緊縮」は、「国の借金を返すために、民衆がこんなに苦しまなければならないなら、借金なんか返さなければいい!」「財政均衡をするために人を殺していくのか」というところから出ている。ノーベル賞経済学者で『世界の九九%を貧困にする経済』などの著書で知られるジョセフ・スティグリッツは、「緊縮こそが欧州の禍の種なのだ」と述べている。
 この議論で思い出すのは、「一〇〇年安心」の年金制度を守るためのマクロ経済スライドによる年金削減で「老後二〇〇〇万円必要」という話。年金受給者が困窮して生きていけなくなる中で「年金制度」を守ることにどういう意味があるのか。人のためにあるはずの制度が、人が生きることを支えられないという矛盾。この地べたの現実を見てなお「財政均衡」とか「緊縮」を主張する人を、私は信用しない。
 なお、政権が緊縮容認に転じたことで財務大臣を辞任したヤニス・バルファキスの近著『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい 経済の話。』(ダイヤモンド社)を紹介したい。ブレイディさんが絶賛しているが、この本は、父である著者が娘から「パパ、どうして世の中にはこんなに格差があるの?人間ってばかなの?」と質問されたときに、娘を納得させる答えができなかったことを踏まえた、追試の答案である。考えてみれば、「貧困」や「格差」を生み出しているのは人間であり、バカでない限り克服できるはずのものだ。

四 「経済にデモクラシーを!」というのは、優れて憲法問題である。憲法二五条の生存権というより第七章の「財政」の規定が重要である。第八三条は「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」と定め、第八四条は租税法律主義を定めている。
 ところで、二〇一七年五月当時民進党の代表であった蓮舫さんは、「加憲」の立場から「財政健全化を義務付ける財政規律条項(財政均衡)を憲法に入れる」旨の発言をしている、という。「財政均衡」論は、消費税増税につながったことを思い出す。
 一方、今回の参議院選挙で「消費税廃止」を掲げたのは、山本太郎さん率いる「れいわ新選組」だけである。その企図は「格差是正」。専門家や政治家は、「貧困」や「格差」という地べたの現実を是正する積極的役割を負っている。この点で、「消費税廃止」という提起は、鮮やかな希望を人々に与えているように思われる。〔二〇一九・七・二六〕

 

 

2019年石川県・能登五月集会旅行記 第2部 一泊旅行の風景  東京支部 伊 藤 嘉 章

オプショナル旅行の初日
七尾市の中国人強制連行問題の検証
 一九四二年の東條内閣の閣議決定に基づき、石川県の七尾港にも三〇〇人の中国人が強制連行され、劣悪な労働条件下で港湾荷役に従事し、一五人が死亡、六四人が栄養失調で失明した。この中国人殉難者の鎮魂慰霊碑「一衣帯水」の前で記念撮影。次に、近くの大乗寺でこの一五人の「殉難中国人の霊位」(位牌)を見ながら、訴訟支援会角三氏の説明をきく。
ダークツーリズムとは
「人類の悲劇を巡る旅」と定義される(井出明著「ダークツーリズム」二〇一八年発行・四頁)。「悲しみの場に赴き、そこで過ごすのであれば、心に何かが染み始める。……この時、ツーリスト自身に内的なイノベーションが起こり、自分の人生を大切に思うようになってくる。…今ある自分の命を何らかの形で役立てたいという気持ちも湧き上がってくるのである」(同著二二頁)。
ダークツーリズムが大好きだった前天皇の真似事
 六月一〇日一人で長野県飯田市の満蒙開拓記念館に行った。
 「戦いの終りし後の難き日々を面おだやかに開拓者語る」
 パスト天皇の御製の碑がありました。
 話はオプショナルツアーに戻ります。われわれが乗るバスが走るのと里山海道は、かつては有料道路であったところ、今は無料という。しかし、この道は片側一車線ずつの対面交通の部分が多い。しかも中央分離帯がなく、センターライン上にロードコーンを立てているだけなので危険な走行を強いられることがある。そこで、借金をしてでも、中央分離帯を設置したうえで片側二車線とする工事を進め、借金を通行料で返していく。これが道路を走行する者みんなの便益となると思うのですが。
白米千枚田の見学 棚田不要論
 六月一二日、棚田振興法が成立した。しかし、白米千枚田のようなトラクターも入らない条件の悪い水田を、ボランティアの作業で無理して維持するよりも、耕作放棄地や休耕田となっている平坦地の気候温暖な田でのコメ作りを維持していった方が社会的便益に資するのではなかろうか。跡継ぎのいない棚田は耕作をやめて山林に戻してもよいのではないか。
 但し、千〇〇四枚の田があり、世界農業遺産に指定された白米千枚田を観光資源として維持するのであれば、道路側に塀などの遮蔽物を作って観光客が勝手に見られないようにして入場料を徴収することはどうであろうか。隣接する道の駅のトイレ休憩の客を呼び込めるのではないか。
オプショナル旅行二日目
巌門の崖の上にある松本清張の歌碑
 五月二八日は風が強く波が高いので、巌門の遊覧船は欠航であった。階段を降りたところから洞窟をみる。交通事故の傷害の影響で下りの階段がつらい。洞窟の見学後、今度は階段を上がる。これも足が痛くて通常の歩行ができない。
 松林の中に松本清張の歌碑がある。
 「雲たれてひとり猛れる荒波を かなしとおもへり能登の初旅」とある。
 「ひとり」と「猛れる荒波を」とが意味上つながらないので、読みにくく覚えにくい歌になっている。ちなみに、「ひとり」と「かなしとおもへり」をつなげて作ると次のようになるか。
 「雲たれて猛き荒波われひとり かなしとおもへり能登の初旅」これでは、若山牧水になってしまうか。
「輪島朝市」という演歌
 この日の午前八時三五分に、輪島の朝市に行った。そこには水森かおりの写真と彼女が歌った「輪島朝市」の歌詞のパネルがあった。作詞は、木下龍太郎である。
愛をなくした 心のように 空は重たい 鉛色 輪島朝市… 涙をひとり 捨てに来た 寒さこらえて 店出す人の 声がやさしい 能登訛
羽咋駅前の喫茶店と能登なまり
 二五日には、能登一宮気多大社を参拝し羽咋駅に戻ったところ、和倉温泉行の特急に乗るまで時間があったので、駅前の喫茶店に入った。年配の女性の四人組のお客さんがおしゃべりをしている。早口で、しかも聞きなれないイントネーション。これが能登なまりか。
兼六園と「明治記念の標」
 雨になる。傘をさして、案内人の説明を聞きながら園内をまわる。西南戦争の犠牲者を追悼する「明治記念の標」がある。  
 そこには、日本書紀によれば、景行天皇の時代に、九州遠征の長となった「ヤマトタケル」の像がある。
 日本人同士の西南戦争の犠牲者の追悼の施設に、ヤマト王権が九州の地に、ISILのように攻め込んでいった侵略者集団の総司令官ともいうべきヤマトタケルの像をつくるのはいかがなものかと違和感をもった次第です。
犀川と室生犀星
 犀川を渡って小松飛行場に行く。
 室生犀星の「犀川」と題する詩
 うつくしき川は流れたり  そのほとりに我はうまれぬ  春は春 なつはなつの橋  花つける堤に坐りて  読み本のなさけを展く(二五日に買った「室生犀星」富岡多恵子著五〇頁所収)
小松基地と自衛隊
 ここは自衛隊と民間航空会社が共用する飛行場である。
 小松空港とは通称であり、本当は小松飛行場が正しい。
 飛行場のすぐ隣に「県立航空プラザ」がある。石川県が設置し小松市が運用する航空博物館とのことである。入口の前には海上自衛隊の飛行機が二機静態保存されている。悪くいえば、雨ざらしに放置されているにすぎない。また館内の展示も自衛隊の飛行機関連が多く自衛隊の宣伝用の施設とみまがうほどである。
 平和委員会の人の説明では基地の問題点は三つあるという。
その一 爆音 この日は雨で自衛隊機の訓練がないので爆音を体感 することはなかった。
その二 安全性の問題
 かつては墜落事故があった。いまでは物の落下がある。
その三 米軍との一体化の問題
 米軍と一体となった行動。憲法改正の先どりである。第三部に続く

 

 

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