第1703号 / 5 / 1

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

* 神奈川支部特集 *
○神奈川におけるヘイトスピーチとのたたかい  永田  亮

○日本通運川崎支店 無期転換逃れ地位確認訴訟  川岸 卓哉

○日立の退職強要を認定!許すな「黒字リストラ」  藤田 温久

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●さいたま新都心郵便局職員自死事件、労災認定勝ち取る  青龍 美和子
                                 
●年金時効取消訴訟事件勝利  淵脇 みどり
                                 
●そろそろ左派は経済を語ろう 11100兆円の国債発行による緊急経済対策を  伊藤 嘉章

 


 

*神奈川支部特集*
神奈川におけるヘイトスピーチとのたたかい  神奈川支部  永 田   亮

一 神奈川とヘイトスピーチ
 神奈川県内では、二〇一三年以降、川崎市を中心に数多くのヘイトスピーチデモが行われ、多くの団員・市民が力を合わせて対抗していく、というたたかいが繰り広げられてきました。
 新型コロナの影響から様々な点で人権課題が浮き彫りになり、社会の分断が企てられるなか、多文化共生を目指し差別のない社会を作っていくために神奈川で進められてきた近年の取り組みの一部をご紹介します。

二 全国初のヘイトスピーチ罰則化条例の制定
(1)二〇一九年一二月一六日、川崎市においてあらゆる差別を禁止し、本邦外出身者に対する不当な差別的言動を刑事罰で規制する「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が制定されました。
 二〇一六年に施行されたものの禁止規定を欠いていたヘイトスピーチ解消法を乗り越え、日本で初めてヘイトスピーチに対して刑事罰を導入した条例として、他の自治体の条例制定を後押しし、国の法改正・整備を促すという意義があり、全国から注目され、本年三月には東京都狛江市でも人権条例が成立し、また県内の相模原市等でも条例制定の準備が進められています。
(2)この条例の中身については割愛しますが、この条例はヘイトスピーチとのたたかいを続けてきた市民の努力の結晶です。戦前から多くの在日コリアンが居住する川崎の桜本地区周辺がヘイトスピーチの標的となったことに対し、ヘイトスピーチを許さない市民が結集してデモへの反対活動を続け、桜本でのヘイトデモ禁止の仮処分決定、公園使用の不許可、武蔵小杉でのデモの中止などを勝ち取ってきた結果、地域社会の状況、市民や弁護士らの声を受け、川崎市長からこの条例の制定が示されることとなりました。
(3)それでも差別的言動は様々な手法で繰り返されており、本年一月には、川崎市の多文化交流施設「ふれあい館」に虐殺を標榜する脅迫状が届くなど、在日コリアンを標的とする差別は続いています。神奈川支部は、差別・ヘイトスピーチを許さない姿勢を明確に示すため、支部で脅迫行為を非難する声明を発出しました。

三 横浜中華街を守るための活動
 排外主義的な言動は多くの在日外国人にも向けられています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、横浜中華街の料理店に「中国人はゴミだ!細菌だ!悪魔だ!迷惑だ!早く日本から出て行け!」との書簡が届きました。横浜中華街という、地域社会に欠くことのできない存在に対してまでかような攻撃を行うことは恐るべきことであり、パンデミックという緊急時における在日外国人の排斥運動は、関東大震災時と同様の差別的感情によるジェノサイドを招く危険性もあるものです。諸外国を見れば日本人が差別にさらされている事態も生じています。同じ社会の一員である外国人を排斥する社会は決して望ましいものではないため、神奈川支部として、在日外国人に寄り添い、連帯をする意味も込めて、ヘイトスピーチを非難する声明を発出しました。

四 これからのたたかい
 ヘイトスピーチとのたたかいは、表現の自由とではなく、差別との闘いです。未だヘイトスピーチはなくなりませんが、差別を許さないという社会が出来つつある中、直接的なヘイトスピーチではなく、選挙活動に名を借りたヘイトスピーチや弁護士に対する不当懲戒請求や直接の損害賠償訴訟など、公的な場でのヘイトスピーチに形を変えてきています。これからも抗議の声を挙げ続け、あらゆる差別を行う人がいない平穏な社会を作り上げるまで、今後もたたかいは続いていきます。
 各地域の団員の方々も差別を根絶するための取組みに今後ともご協力をお願いします。

 

 

日本通運川崎支店 無期転換逃れ地位確認訴訟  神奈川支部  川 岸 卓 哉

一 事案の概要
 本件は、労働契約法一八条「無期転換ルール」逃れに対する裁判である。原告は、日本通運川崎支店で派遣社員の事務職を経て、二〇一三年より、日本通運株式会社に、一年契約更新の有期労働契約で直接雇用された。その後、契約更新は四回されたが、無期転換申込権が発生する通算契約期間五年のわずか一日前、二〇一八年六月末日をもって、期間満了による雇止めされた。これに対し、雇い止め無効を主張し、横浜地方裁判所川崎支部に提訴した。
 無期転換ルールは、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的として、立法されたものであるが、本件雇止めは、無期転換ルールの法の趣旨を真正面から否定し無期転換を阻止することに目的がある。

二 雇止め法理の形成・発展に逆行する不更新条項
 本件雇用契約書には、派遣を経て最初の直接雇用契約当初から「当社における最初の雇用契約開始日から通算して五年を超えて更新することはない」という、いわゆる不更新条項が挿入されていた。そもそも、労契法一九条において制度化された雇止め法理は、有期労働契約は合意された期間の満了によって当然に終了するという契約法理に対して、解雇権濫用法理という重要な労働法理を尊重して法定更新制度を設けたものである。つまり、合意原則よりは雇用関係の存続保護という要請を重視して、形成された法制度であり、それについて不更新条項による潜脱を認めることは、雇い止め法理の形成・発展に逆行することになる。
 本件訴訟の三つの争点①そもそも更新上限規定が労働契約法一八条を逸脱し公序良俗に反して無効②更新上限規定への同意が自由な意思に基づくものではなく無効、以上の論点を前提に、③本件件雇い止めが、雇い止めの無効について定めた労働契約法一九条に反して無効であるかである。
 特に、争点①については、国会答弁で示されてきた労働契約法一八条の立法趣旨を法解釈に斟酌すれば、使用者が、有期雇用契約に五年以内の更新上限を付して利用することについて、公序良俗違反といえる場合には、更新上限は違法無効と解釈される。意見書をお願いした立正大学准教授高橋賢治先生は、労働契約法は、五年以内の有期労働契約の利用はいずれの場合も許されるという趣旨で濫用防止規定をあえて設けなかったのではなく、「解釈は後の判例により論理的に決せざるを得なくなる」と指摘している。

三 契約書の形式的文言を突破する必要
 二〇一八年以降、全国で、本件と同様の無期転換逃れを争う裁判が提訴・係争され、各地の裁判所の判断により、労働契約法一八条に関する新たな法理が創出されていくなか、本件裁判の帰趨も、日通のみならず広く非正規労働者の将来も左右する結果となる。非正規労働事件の運動展開は困難があるが、全川崎地域労働組合及び国民救援会神奈川支部を中心に支援共闘会議が結成され、署名六〇〇〇筆を裁判所に提出するなど、運動を広げている。
 本件のように、当初より不更新条項が契約書に記載されていた内容でも、立場の弱い労働者は契約締結せざるを得ない労働者は潜在的に多数存在する。契約書の形式的契約文言の壁を事実と道理に基づく主張で突破してきた歴史が、有期契約の労働者を救済する判例法理形成の歴史である。これにならい、労働契約法一八条の趣旨に適った新たな判例法理を作り出すため、全力を尽くす決意である。

 

 

日立の退職強要を認定!許すな「黒字リストラ」  神奈川支部  藤 田 温 久

 二〇二〇年三月二四日、横浜地裁第七民事部は、(株)日立製作所が課長職A氏に対し個別面談で違法な退職強要を行ったことを認定し損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡しました。同個別面談は日立が「黒字リストラ」の一環として行ってきたものです。

 財界・政府は、一九九〇年のバブル崩壊後、「株主のための企業」に転換すると称し企業の技術力や、労働者の生活向上ではなく株価の上昇を第一義とした「コスト削減」による構造改革を推進してきました。コスト削減の中核は賃金コスト削減であり労働者のリストラ、非正規化でした。近年、この傾向は加速し、黒字であるにも拘わらずより利益を上げるための「黒字リストラ」が公然と唱えられるようになりました。日立など電機産業における五〇万人もの「電気リストラ」は、確立した解雇規制法理・整理解雇の四要件からすれば解雇できないことが明白な「黒字リストラ」であるにも拘らず、企業内労組・労働者の抵抗にほとんどあうことなく粛々と進められてきました。その主要な手法は、本件同様の「面談」であり退職・転籍に応じない者に対する「退職強要」「転籍強要」の「面談ノウハウ(仕事を奪うあるいは変更しその仕事がすぐにできないことをもって相手の能力を否定する、回答不能な質問をぶつけ回答がなっていないとして攻撃する、賃金との関係で仕事の価値を判定させる、会社の指揮命令権に属する事項を回答させようとする等)」でした。そのような「面談」でも退職・転籍に応じない者に対しては「能力開発室送り」「転職支援会社送り」「パワハラ」「不当査定」等による「退職強要」「転籍強要」が行われてきました。
 日立も「世界で闘える事業」と称して営業利益が五%に達しない事業所・部署については「黒字リストラ」するという方針を事実上掲げ、解雇規制を脱法するため同様な手法による「退職強要」「転籍強要」を組織的・継続的に行ってきたのです。

 本件の第一の争点は、A氏に対する「面談」が正当な営業上の目的に基づくものだったか、退職強要のためのものだったかでした。本判決は、日立がA氏に早期退職を迫り、断られると仕事を取り上げ、「あなたの能力を生かせる仕事は会社にはない。社内にどうしても残るというなら自分で見付けて。」「能力がなくても高い給料を払ってくれるのが魅力的ですというならそう言って欲しい」などと侮辱し「(退職以外選択肢がないことを)認識するまで面談を続けよう」と七回にもわたる面談で退職を強要したことを正当に認定しました。 
 他方、A氏が電気情報ユニオンに加入し面談が中止された後、公然と多数の社員の前でA氏を侮辱し、社内メールなどでA氏の名誉を毀損した会社の行為を「損害賠償を認める程のものではない」としてパワハラと認定せず、退職面談後突如ランクを大きく下げられた賃金査定・一時金査定を、退職強要目的のものであったと認定しなかった点では不当な判決でした。裁判長は、パワハラを認める心証を開示し、査定の正当性に疑問を投げかけていたにも拘わらず判決では一転して不当な認定を行ったものでした。

 本判決は、「電気リストラ」「黒字リストラ」の旗振り役である「経団連」会長中西宏明氏が会長兼代取である日立に対し、「黒字リストラ」の主要な手段である「面談のノウハウ」が「退職強要」であり損害賠償責任を負うとしたのものであり、「黒字リストラ」に対する労組・労働者の闘いに大きな武器を与え、闘いを励ますものです。二〇一六年一二月に横浜地裁において「転籍強要」を撤回させた日立・田中事件に続く「勝利」と言えるでしょう。

 弁護団は、本判決の重要な意義を広くアピールし闘いを励ますと共に、不十分点を克服するために控訴審において、最終的なA氏の救済と違法な「黒字リストラ」の流れの転換のため、今後もたたかい抜く決意です。
 弁護団は、高橋宏(横浜合同)川岸、畑、藤田(川崎合同)です。

 

 

さいたま新都心郵便局職員自死事件、労災認定勝ち取る  東京支部  青 龍 美 和 子

 さいたま新都心郵便局で働いていた男性が自死した事件で、埼玉労働局の労災保険審査官が、埼玉労基署長の判断を覆し、業務上災害と認める決定をしたので、以下、報告する。

事案の概要と亡くなるまでの経緯
 埼玉県在住の郵便配達員Tさんは、二〇〇六年五月、二三年間勤務した岩槻郵便局(集配課約五〇名)から、突然、さいたま新都心郵便局(集配課二五〇名)への異動を命じられた。全国の、とくに大規模な郵便局は、郵政民営化により利益追求が重視され、さいたま新都心局は、経営合理化のモデル局の一つとして、労務管理の厳しい職場だという噂が広がっていた。Tさんは、異動が決まった直後に「一番行きたくないところだよ」と配偶者のAさんに漏らしていた。
 当時、さいたま新都心局は、トヨタ生産方式を取り入れ、「立ち作業」や配達時間等の厳しい制限、仕事でミスをすると一五〇人以上の前で「お立ち台」という台に立たされて上司から追及を受ける「儀式」の他、上司に呼び出され他の従業員も見ている前で叱責を受ける等の労務管理が行われていた。また、年賀状等の販売ノルマが一人七千から八千枚課せられ、ノルマを達成するために、自分で買い取ったり、金券ショップに売ったりする「自爆営業」が問題になっていた。
 Tさんは、こうした就労環境で職場全体の「ミスをするな」「残業するな」「営業成績を上げろ」という圧力に精神的ストレスを重ねていく。退職も考え、毎年の異動希望調査で小規模な郵便局への異動を願い出ていたが、かなわなかった。
 Tさんは二〇〇八年二月に初めてうつ病を発症、病気休暇と復職を三回繰り返し、最後の復職後、二〇一〇年一二月八日、職場から身を投げて死亡した。

裁判と労災請求の経過
 配偶者のAさんは、郵政労働者ユニオンに相談し、「過労死を考える家族の会」につながり、過労死事件の経験豊富な尾林芳匡団員(八王子合同法律事務所)にたどり着いた(それまで方々相談して断られた経緯がある。)。そして、当時新人だった山添拓団員と私に声がかかり、弁護団を結成した。さいたま新都心郵便局自死事件を「追及する会」も立ち上がり、労働組合の枠を超えて支援者が集まった。
 まず証拠保全を行ったところ、その直後にさいたま新都心局から「お立ち台」が消えたという話を聞き、さっそく成果を実感した。
 二〇一三年一二月五日、会社を相手に損害賠償請求訴訟を提起した。「追及する会」による職場前のビラ撒き等の効果があり、裁判の最中、職場の内外からたくさんの情報が寄せられた。とくに郵政ユニオンは、「自爆営業」やパワハラの情報などを告発し改善を要求した組合ニュースを全国各地から集め、裁判でも大いに役立った。
 尋問を終えた後、裁判所から和解勧告がなされ、二〇一六年一〇月一二日、さいたま地裁で、会社との間で和解が成立した。
 二〇一五年一一月、埼玉労基署に遺族補償年金等を請求したが、二〇一七年一〇月、埼玉労基署長は不支給決定をした。同年一一月、埼玉労働局に審査請求し、二〇二〇年三月三一日、埼玉労働局・労災保険審査官は、労基署長の不支給決定を取り消す旨の決定を出した。

労災保険審査官の判断
 労基署長は、本件について、発病(二〇〇八年二月頃)前六か月間の出来事として、①「達成困難なノルマが課された」と②「仕事内容・仕事量の(大きな)変化があった」という二つの出来事があったと認定。心理的負荷の評価は、①は「弱」、②は「中」と判断し、総合判断で「中」とした。Tさんが死亡直前に上司から不当な叱責を受けた事実を主張し、調査を求めていたが、労基署は「発病後の出来事」として評価しないと判断した。
 これに対して、労災保険審査官は、①の評価を「中」、②も「中」と評価し、「本件は複数の出来事が関連して生じたものではなく、『中』と『中』の出来事が生じており、民営化後に二つの出来事が近接して生じていることから、業務による心理的負荷の全体評価は『強』と判断する」としている(なお、死亡直前の出来事については、労基署の判断と同じ。)。

審査官決定の意義
 まず、学齢期の子をかかえ突然一家の大黒柱を失った遺族の生活のための保障を実現したことである。Tさんが亡くなった当時、三人の子どもは皆小学生であった。
 過労死労災認定実務と認定基準の運用の上で、「自爆営業」を生む年賀はがきノルマの心理的負荷の程度を「中」としたこと、「仕事の質量の変化」と「達成困難なノルマ」を近接時期の関連しない二つの出来事としたこと、最終的に「中」と「中」とで全体評価が「強」となるとの判断を明快に示したことも重要である。業務上の発症から休職と復職を繰り返し、二年一〇か月という長期間経過後の自殺について救済されたことも大きい。
 また、裁判を先行し、労災手続にも活かせたことも、今後の労災事件を取り組むにあたって意義があると思う。さらに、「自爆営業」や「お立ち台」など、本件で問題になった労働環境は全国の郵政職場に共通であり、本件発生以後も、かんぽの問題など全国各地の郵政グループの職場でパワーハラスメントが多発している。今回の決定は、全国の郵政職場の就労環境が精神障害の原因となり、労災認定される可能性があることを示している。パワハラや過酷な就労環境をなくしていく上で重要である。
 決定書が届いた四月一日、埼玉県庁記者クラブで会見を開いたところ、大きな反響があり、ネットニュースも含めて全国に報じられた。

最後に
 本件は、私が弁護士になったばかりの頃から取り組んできた事件で思い入れがあり、裁判でも行政手続でも勝利を得られ、遺族が救済されて本当に嬉しい。死の原因を明らかにしたい、二度と同じことを繰り返してほしくないという遺族の強い思いと、同じ思いを抱えて支えてきた仲間の努力による勝利である。
 一緒に事件をたたかった尾林団員は、長く労災・過労死事件に取り組んでこられた。個々の事件だけでなく、支援者や労働組合とともに、広く救済される労災制度の構築を国に働きかけ、過労死防止法などの立法化も実現している。こうした経験や本件を通じて、現在の基準では一見して困難な事件でも、運動の力で切り開いていくことができることを実感した。長期間にわたる闘いで遺族も弁護団も苦労したが、今後も果敢に取り組んでいきたい。

 

 

年金時効取消訴訟事件勝利  東京支部  淵 脇 み ど り

一 振替加算未払い問題とは
 厚生年金共済年金に二〇年以上加入していた人が六五歳未満の配偶者がいる場合には加給年金が支給されます。加給年金の対象となる配偶者が六五歳になると、加給年金は打ち切られ、配偶者への振替加算として支給されます。ところが、国は、加給年金が停止しても配偶者への振替加算をしないまま放置していました。
 厚生労働省は、二〇一七年、この事実が行政の過失によるものであると認め、その対応策として、対象者一〇万一三二四人に対しては、「時効の援用は行わない」と発表しました。ところが、そのほか、四〇万五六〇六人について、「『生計維持関係がない』と申告されている事例で、一定の帰責性がある場合は五年の時効を適用する。」として不当な差別的取り扱いをしたのです。
 この時効援用処分が違法だとして、二〇一九年四月、二名の原告が、国を被告として取り消しを求めた事件です。(第一次訴訟)

二 原告に限って全額支給
 国は、原告が、「生計が同一でないと申請した」という事実も「一定の帰責性がある」という事実も全く立証できませんでした。そもそも、国は受給者に対して、「六五歳になったら、加給年金の振替加算を受けるには、届け出が必要だ」という説明を十分にしていなかったのです。国は二〇二〇年二月一四日原告二名に対し、時効援用された未支給年金全額を支給しました。法廷で、再三「裁判を起こさなければ支払われないというのは不当だ。速やかに全国の対象者に全額を支払うように、制度を改善しろ。」と主張しましたが、被告国は、『当該原告についてだけ支払う』という態度を崩しませんでした。三月二三日付けの赤旗八面で解説記事が報道されました。

三 制度全体の改善を求めて、第二次訴訟
 実は、私の母も一次訴訟の原告の内の一人です。かくいう私も提訴するについては、正直躊躇しました。最初は「おかしい話だ、でも不服申立も面倒だし、国相手の訴訟は骨が折れるな、」とあきらめかけました。自由法曹団団員であっても、年金切り下げ違法訴訟弁護団であっても、自分の事についてはそう思ってしまいました。
 国を相手に闘う決心をすることは、煩雑さ、精神的、体力的、経済的ストレスがあり、何よりも、勇気がいるものだと痛感しました。
 年金者組合を中心に、同じように、時効で切り捨てられている人が各地で不服審査などを起こしています。泣き寝入りしてあきらめている人も多くいます。年金者組合も一日も早く制度全体の運用を改善し、時効を援用して未支給とした年金を全員に支払うように声明を出しています。 
 そのためにも、続いて勇気をもって立ち上がった人がいます。本年一月に一名が二次提訴しました。国は一次訴訟と同じような方向での解決を検討するとは言っていますが、制度全体の改善には至っていません。

四 第三次訴訟を準備中です
 現在第三次訴訟を準備中です。今年の五月頃までに提訴予定です。今後は「未支給額を支払え。」という給付訴訟を起こす予定です。
 時効を援用された人は、年金機構に「未支給額の開示」を求めれば、開示されるようになりました。
 もし、このニュースを読んで、同じ問題で悩んでいる方、提訴をお考えの方が身近にいたら、年金者組合か、渋谷共同法律事務所の渕脇までご連絡ください。コロナ状況から、運動で制度改善を迫る取り組みは限界があります。しかし、次々に提訴し、「提訴したら、全額を支払う」を糸口として、「請求したら払う」「新たな請求手続きをとらなくても払う」というように、制度全体の抜本的解決を実現させたいと思います。

 

 

そろそろ左派は経済を語ろう(11) 一〇〇兆円の国債発行による緊急経済対策を
                                 東京支部  伊 藤 嘉 章

はじめに 緊急経済対策の規模
 政府が発表した緊急経済対策は、一〇八・二兆円の規模であり、GDPの二割に相当するという。しかし、真水の部分は少なく、二六兆円の納税猶予を含めている。
猶予は納税免除でなければならない
 二〇一九年度の所得税や消費税であっても、多くの零細企業の納税者にとっては、二〇二〇年に入ってからの売上金から納税資金を捻出して四月の納期限までに支払うのが現実のやり繰りではないでしょうか。私もそうなのですが。
 しかも、今年は、イベントの開催自粛から始まり、休業となっては、納税が猶予されても、いずれ納期限がくれば、二〇一九年分の納税資金などは、もはや稼ぐことはできないのであり、納税は不可能である。多くの零細業者にとっては、猶予は免除でなければならない。
 民の家からカマドの煙がたたないのを見て、三年間税金を免除した仁徳天皇の故事を思い起こしてほしいものです。

リーマンショックどころではない
 二〇〇八年に突如生じたリーマンショックによって景気が落ち込みGDPが減少し租税収入が激減した。しかし、それでも、リーマンショックの時には、各種イベントの自粛、各種業種への休業要請などなかった。もちろん、団の五月集会の中止もなかった。

一〇〇兆円の真水の投入
 GDPの大幅な下落を防ぐには、消費税を一時凍結し(三〇兆円)、国民ひとりあたり毎月一〇万円の給付金を半年配布すれば、おおそよ七〇兆円。あわせて一〇〇兆円となります。
 一〇〇兆円の資金は、GDPの大幅な落ち込みを補填する需要喚起に使われるにすぎない。インフレマネーなどではありえないのです。

財源は日銀の国債引受け
 この未曾有の危機には、国債の日銀引受けによる資金調達しかない。それも、無利息の償還期限なしの国債の発行である。これならば、発行する財務省には、金利負担もなければ、満期時の償還の義務もないことになります。償還資金を調達するための将来の増税も必要ないのです。発行のコストもかからない。財務大臣と日銀総裁の談合によって、日銀のバランスシートの資産の部に、国債一〇〇兆円と記帳するとともに、負債の部に政府預り金一〇〇兆円と記帳するだけで発行は終了します。
 そして、財務省が日銀への預け金を取り崩して国民の預金口座に資金を振り込む。あるいは、日銀小切手を書留で送付する。

国庫短期証券の変形
 租税の季節的な歳入不足のときには、財務省は国庫短期証券を発行し日銀が引受け、財務省に租税が入ったら償還するというやり繰りを繰り返しています。
 今回は、まずは、国庫短期証券の日銀引受けによって一〇〇兆円を調達し、後日この国庫短期証券を無利息の永久国債に差し替えるのです。
 このような法律があるかって、なければ作ればよい。作る余裕がなければ、安倍内閣得意の法律の解釈変更によって対応すればよいのではないでしょうか。

伝家の宝刀・通貨発行権
 日銀引受けの無利息の永久債は、利息もつかないし、償還義務もないのですから、借金ではありません。無から有を作り出す通貨発行権の行使にほかならないのです。

どさくさまぎれの公共事業礼賛論
 さらに、こういうときこそ、緊縮財政をあらためて、安倍内閣の第二の矢であった財政支出を実行すべきではないでしょうか。整備新幹線の建設資金は年間七五〇億円などという枠を取り外して、石破茂議員の地元の山陰新幹線をはじめ、九州東部新幹線・羽越新幹線・四国新幹線・伯備新幹線を整備新幹線に格上げする。長崎新幹線のうち、新鳥栖・武雄温泉間の早期着工。そして、使い勝手の悪いしょぼいミニ新幹線などはやめてすべてフル規格で作る。これから作る新幹線は東海道新幹線や山陽新幹線とはちがい、一時間に片道で一本か二本の運行にすぎない。そこで、客車の運行の隙間時間に、貨物新幹線の運行が可能となる。築造費を新幹線が通過する自治体に負担させる方式をやめてすべて国の負担とする。自治体には、通貨発行権はないが、国には通貨発行権があります。

銀行の救済
 世の中には内部留保を蓄えている大企業や、金の使い道がなく相続税でとられるのを待っている富裕層がたくさんいるのです。金のあるところから取り上げ、足りなければ金を作り出す。そのために、運用先がなくマイナス金利で収益が圧迫し経営が危殆に瀕している地方銀行には、補助金を交付する意味で相当利率の表面利息を付した国債を割り当てる。

景気対策には需要の喚起を
 コロナが収束しても、解雇、失業、多くのひとに大幅な収入減が予想されます。消費需要が減退し、GDPが減少し、租税収入も減少する。
 そこで、長引く不況にならないために、今まで緊縮路線をすすめてきた政策をやめる。失業者の吸収の意味も含めて、整備新幹線等の公共事業費の増額に加えて、年金給付水準や生活保護基準の引き下げをもとにもどす。公務員の賃金引き下げもやめる。調停委員や国選弁護人の報酬引下げもやめる。国立大学の運営費の減額や、国公立病院の統廃合などもとりやめる。

真冬には暖房しかない
 国民一律に給付金をばらまくという議論があったときに、銀行には金があまっているとか、貯蓄にまわってしまい意味がないなどという議論があった。今は休業を迫られ、収入が途絶えたひとが多数いるのです。とにかくばらまくしかない。
 真冬に寒波が来て凍えそうになっているときに、真夏の熱帯夜とか熱中症の心配をしても始まらない。
 富裕層には、将来のインフレ税という納税で負担してもらうことになります。貨幣価値の減価というインフレこそが所得の再分配という、しかも日本円を保有していれば誰も逃れられないもっとも公平な課税方法と思うのですが。 二〇二〇年四月一四日 記述

 

 

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