第1743号 6 / 11

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

●「土地利用規制法案」の廃案を求める議員要請行動に参加して  小野寺義象・堤  智子

♪♪5月集会in東京2021特集♪♪
●労働分科会の感想  鈴木 創大
●「事務局交流会の感想」  花村和歌子
●5月集会事務局交流会に参加して  形岡 七恵
●5月集会と特別報告集  永尾 廣久

●「共立メンテナンス不当労働行為事件」の中労委命令の波紋広がる!  愛須 勝也

*コロナ禍に負けない!貧困と社会保障問題に取り組みたたかう団員シリーズ ⑨(継続連載企画)
●天海訴訟の報告  向後  剛

●館山 茂さんのご逝去  荒井 新二


 

「土地利用規制法案」の廃案を求める議員要請行動に参加して

宮城県支部  小 野 寺 義 象

 去る6月4日午前10時より、自由法曹団本部主催で、「土地利用規制法案」の廃案を求める議員要請行動を行いました。
 宮城県支部より、草場裕之団員と私の団員2名のほか、自衛隊の国民監視差止訴訟原告団事務局長の堤智子さんが上京して参加し、参議院内閣委員会委員21名に要請書と資料を配布して来ました。
 堤さんから当日の感想を頂きましたので、紹介します。

自衛隊の国民監視差止訴訟原告団事務局長  堤   智 子

 2021年6月4日早朝、雨の仙台を出発。東京へ近づくにつれ風も強まってきました。雨に濡れ鮮やかさを増した緑にすっぽり包まれた参議院議員会館。一般社会から隔絶されしんとしていました。ここに自由法曹団の方々が準備を整え待っていて下さりホッとしました。お骨折りに感謝申し上げます。
 まずミニ集会。日本共産党・赤嶺政賢衆議院議員より生々しい国会情勢についてご報告いただきました。政権与党が衆院で悪法を次々と通し、参院へ送ってよこす事態に、与党内部で矛盾が起きているというお話しに〝今こそ私たちの攻め時。あきらめず廃案にさせるまで頑張ろう〟と確信と勇気が持てました。
 さあ、行動開始です。この日は午前中に参院本会議が開かれているため、目的とする「土地利用規制法案」の審議に携わる参院内閣委員21名の議員とは直接お会いできませんでしたが、小野寺義象弁護士と国民救援会鈴木猛副会長、草場裕之弁護士と私と井上救援新聞編集長との2組に分かれ議員控室訪問です。
 「宮城から来ました」と切り出し、迷惑顔の自民党議員秘書の対応にもめげず、草場先生から法案の違法性、立法に根拠がないこと、罰則規定があるのに何を罰則するのか曖昧である点などを強調。私からは「自衛隊の国民監視差止訴訟」において、裁判所は〝自衛隊情報保全隊の国民監視は違法〟と判断し、シンガーソングライターAさんに対し国は損害賠償金を支払っているのに、「土地利用規制法案」はこの司法判断を無視するばかりか、Aさんと原告団を逆に犯罪者に仕立ててしまう恐怖を訴えました。病身の96歳になる元原告団長後藤東陽さんはじめ、原告の方々の顔が浮かんできます。訴えにも力が入ってきます。
 「土地利用規制法案」は基地などの周囲おおむね1キロの範囲としていますが、Aさんは自衛隊船岡駐屯地から10キロ離れたみやぎ生協亘理店の敷地内で『イラクへ自衛隊を送らないライブ』を監視されたのです(監視を正当化するために国側が裁判資料として提出した地図によります)。監視の範囲は無制限に広げられるにちがいありません。そして宮城県で22か所、全国で500か所を超す施設周辺の住民が監視され、土地・建物の利用制限を受けるというのですから、戦後生まれの私にはリアルに想像すら出来ない程です。
 実は今度の議員要請は急遽計画された行動でした。自衛隊の国民監視差止訴訟の弁護団事務局長を務めた小野寺義象先生より提起されたのです。「無制限に国民監視を合理化しようとする土地利用規制法案を座視するわけにいかない」との鋭い指摘を受け、歴史の授業の復習のような戸惑った感覚もありました。5月30日の相談会、6月1日の宮城県政記者クラブでの記者会見と、マスコミの無報道・無視にも腹を立てながら走りました。しかし愚痴っても仕方ありません。
 自衛隊監視訴訟の記録集『権力の闇に憲法の光をあてた9年』(2017年3月4日発行)の中で、私は自身の手記を次の様に結んでいます。「国の武力集団を相手に勇気をふるい、多くのお金と時間とエネルギーを費やした命がけの訴訟。必ずや今後に活かされると確信します」と。稀代の悪法阻止に役立つなら、今こそ勝ち取った財産を活かすのが、全国からいただいたご支援に応えることではないか、それこそがたたかった者の責任であると思い定めております。

 

♪♪5月集会in東京2021特集♪♪

労働分科会の感想

東京支部  鈴 木 創 大

  労働分科会では、学習院大学法学部法学科教授の橋本陽子先生を講師としてお迎えして、「労働者概念について」というテーマでご講演いただいた。
 紙面の都合上、特に印象に残った部分にしぼって、その概要の紹介と若干の感想を述べる。
2 裁判所による労働者性判断の特徴と問題点
 日本では、労基法上の労働者性と労組法上の労働者性について、一般に、後者の方が前者より広い概念であると理解されている。しかし、橋本先生の見解によれば、2つの労働者概念は、指揮命令拘束性(業務諾否の自由の有無、業務内容および遂行方法における指揮監督の程度および時間的場所的拘束性)が判断要素である点で異ならず、その判断方法(あてはめ)が、労基法では厳しく、労組法では緩やかであるという違いがあるのではないか、ということであった。そして、判断要素(定義)が同一であるにも関わらず、あてはめが異なるというのは、理論的に正当化するのが困難ではないか、統一的に理解すべきではないかという見解であった。
 これまで、労組法上の労働者性の方が広い概念であるということに、あまり疑問を持ってこなかったため、橋本先生の見解はたいへん興味深かった。裁判例で蓄積されてきた判断方法(あてはめ)を変えていくことは簡単ではないと思うが、将来的な課題として重要であると感じた。
3 中間概念の是非
 ドイツには、「労働者類似の者」という、労働者と自営業者の中間概念があり、それについての解説があった。ただし、労働者類似の者に該当することで得られる法的利益に限界があり、その該当性を争う訴訟はあまり多くないため、この概念が発展しているとはいえない状況であるということであった。また、労働者と労働者類似の者を区別する必要から、ドイツでは、労働者性の判断が厳格に解される傾向となっているということであった。
 従来の規範や判断要素がきれいに当てはまらない事例が出てきたとき、新しい概念(中間的な概念)を創設するというのは発想としてはありがちであるが、今度はその新しい概念と、従来の概念との線引きの問題が出てくるため、新しい概念の創設が必ずしも問題解決にとってベストではないということの例ではないかと感じた。
4 デジタル化による新たな就労について
 ヨーロッパでは、労働者性を広く認める方向性が明らかになっており、ドイツでも、連邦労働裁判所2020年12月1日判決が、本業クラウドワーカーの労働者性を否定した原審を覆して、労働者性を肯定し、大きな注目を集めているということで、その判決についての解説があった。原告となったクラウドワーカーの仕事内容は、商品の陳列に関するアンケートに回答したり、写真を加工したりするというものであり、被告はそれらの仕事をあっせんするプラットフォーマーであった。
 同判決では、(労働の)他人決定性という概念を、人的従属性と並ぶ労働者性の独自の判断要素であると捉え、従来、人的従属性を裏付ける事情として認められてこなかった「事実上の拘束」を、他人決定性を裏付ける事情として考慮していることが注目される、ということであった。
 いわゆるプラットフォームビジネスは、ヨーロッパに限らず世界的に普及しており、日本でも急速に拡大している。すでに、日本でもギグワーカーの労働者性については労働委員会等で争われているところであるが、なかなか海外の判決を正面から検討する機会はないため、今回ドイツの判例について解説していただけたことは、大変勉強になった。
5 当事者の意思の考慮
 労働者側が、必ずしも労基法等の適用を望んでいない場合に、それが労働者性の検討にあたって考慮されるのか、という問題意識から、検討項目に挙げられた。
 理論的には難問であり、ドイツでも解明されておらず、全く考慮されないわけではないと解されているということであった。
 労働基準法等の強行法規性を考えれば、仮に労働者側 の意思が斟酌される場面があるとしても、極めて限定的であろうし、橋本先生の見解も同旨であったと思われる。
6 出席者からの質問
 労働者概念についての議論は、現在進行形で問題が顕在化している分野であり、出席者の関心も非常に高く、講演終了後には多くの質問が提起され、活発な議論がなされた。
 質問のなかでは、労基法上の労働者性の判断要素として、広く裁判所で用いられている、昭和60年12月19日労働省労働基準法研究会報告(労基研報告)について、判断要素(基準)として厳格すぎる、労働者性の範囲を狭く考えすぎているのではないか、という問題提起があった。
 橋本教授の見解としては、労基研報告が定める判断要素自体は、現在でも通用するものであると考えているが、裁判所がそのあてはめについて厳格に解しすぎているのではないかという見解であった(ただし、判断要素を変えなければ裁判所の判断は結局変わらないのではないかという批判は当然あり得るということであった。)。
7 まとめ
 多くの示唆に富んだ、たいへん勉強になる講演だった。ぜひ今後の事件活動に活かしていきたい。

 

「事務局交流会の感想」

(弁)ぎふコラボ  花 村 和 歌 子

 Bチームでは、勤続年数10年以上のベテラン勢がそろい、事務所のコロナ対策についての話からのスタートでした。緊急事態宣言が出ている、いないにかかわらず、多くの事務所で危機管理をもって対応しているのが事務局中心だということ、事務所の営業時間の変更やコロナ対策の環境づくりについて、すでに対応していないといけない時期なのに、進まないことに焦りを感じていたなど不安な時があったと話がでました。
 事務所は同じだけれど、それぞれの価値観で活躍している自由法曹団の個性豊かな弁護士たちの意見をまとめていくことの苦悩がだされ、どの事務所も事務所の在り方、事務局との関係性が問われてきた時期でした。
 こうやってお互いが意見を出し合い、希望を伝え合い、対策がなされていく過程を経たからこそ、普段のコミュニケーションの大切さや、お互いの価値観を聞くことの重要性が確認できたことも気づきとなりました。
 都市部(関東、関西、北海道など)はチーム制を取り入れ、出勤を1/3や2/3に減らしたはいいが、出勤日の業務の多さが悩みだと話されると、電話応対時間を減らしたとか、電話機能として、弁護士の携帯からの電話を事務所の代表電話でかけられるようにし、事務所で受けた電話を弁護士の携帯へ転送できるシステムを導入しているなど、アイディアが出されました。助成金のことも手間暇かけて申請をした事務所も多いことも知れ、こうやって意見交換ができることがとても心強いし、今後の各事務所にとって参考になった時間でした。
 また、人と集まれない中、弁護士発案でZOOM忘年会を開催した事務所もありました。事務所や自宅、それぞれの場所で参加したそうです。新人弁護士の歓迎会も兼ね、ベテラン弁護士が新人弁護士に様子を聞いたりする時間になったそうです。その中で今年の重大ニュースを決めるレクリエーションがあったりと工夫されていました。人との接触が制限されている中、コミュニケーションをとる参考になるお話でした。
 団の活動の中では普段表に出てこない事務局ですが、 事務所の運営、運動を下支えしている方のお話は共感することも多く、遠くにある事務所が身近に感じられ、がんばっている仲間がいるといううれしさも感じることができました。
 参加人数も程よかったです。企画や進行、ありがとうございました。
最後に団員の先生方へ
 団事務所は最後の砦。何があっても存続させ、閉めるわけにはいかない。その心意気には敬意を表します。その心意気を持つ先生が健康で、安全に仕事をしてほしいと心から願っています。
 最後の砦であるからこそ、脆いものであってはなりません。事務局も先生方と一緒に強い砦になるため、マスクをし、パネル越し(画面越し?)にコミュニケーションをとり、安全に日々の仕事を行い、先生方の一番近くにいる応援者でありたいと思っています。
 これからもよろしくお願いします。

 

5月集会事務局交流会に参加して

渋谷共同法律事務所  形 岡 七 恵

 私は、去年の2月に渋谷共同法律事務所に入所しました。勤めはじめてほぼずっとコロナ禍です。実際に人に会ったり、大勢で集まることができず、本来であれば経験していたであろうことを逃すことが色々とありました。5月集会も、本当は沖縄だったんだな、と思うと残念な気持ちです。
 新人交流会では、初めての人とオンラインで、どの程度話せるかなと不安がありました。実際、なかなか発言が出ない場面もありましたが、皆さんが面白いなと思うことや困っていることなどを聞くことできました。私だけじゃなかったと思えたし、私が感じていることもみなさんと共有でき、うれしかったです。
 どれくらいで一通りの仕事をできるようになれるか、という質問に、ベテランの方から、5年くらいかなとのお答えや20年やっていても初めてのこともある、毎日勉強!と話して下さり、1年たって、自分はこんなことでいいのだろうかと思っていたので、この言葉はとても励みになりました。また、冒頭にあった横山雅先生のお話も、基本の「き」がいかに大切かということを改めて認識でき貴重なお話を伺えました。
 今回、画面上でしかお会いできなかった皆さんと、いつかどこかで、実際にお会いできるのを楽しみにしています。ありがとうございました。
 これからもよろしくお願いします。

 

5月集会と特別報告集

福岡支部  永 尾 廣 久

 5月集会(研究討論集会)にはズームで少しだけ参加しました。実は沖縄に行くのを楽しみにしていたのです。コロナ禍のため東京が会場となり、不要不急の人は東京に来ないでくださいと言われては東京にも行けず、事務所で一人寂しく参加しました。
 ずっと画面をみているのは疲れます。斉藤幸平先生の話は、福岡支部で前に聞いていましたが、今の情勢にぴったりの話で面白く最後まで視聴しました。
 会議のほうは、原発と憲法にしばらく参加したくらいです。
 佐藤真理団員(奈良)は、もう一つ、同時に進行していた日弁連主宰の半田・柳澤講演会にも参加したそうです。私には、とてもその真似はできません。
 ところで、報告集です。A4版の276頁で、いつものようにズシリと重たく、全国情勢と個別事件の争点と課題などがコンパクトにまとまっています。でも、この報告集って、どれほどの団員に読まれているものなのでしょうか。
 書いている側に、自分の書いたものは読まれるべきもの、読むべきものだという確信があるからなのでしょうか、読まれる工夫がまったくされていないのがほとんどで、それが、とても残念です。
 私は、もっと読まれる工夫したほうがいいし、工夫すべきだと思うのです。
小見出し
 まったく小見出しのない論稿があります。これでは、読む気が起きません。紙面がべたっと沈んでいる印象です。
 小見出しの代わりに(代わりにはなりません)、ナンバリング(数字をさす言葉)してあるのもあります。でも、私は、ぜひ小見出しをつけてほしいのです。小見出しだけ拾っていったら、およそ書き手の言いたいことは分かるというようにしてほしいです。何が書いてあるのか、さっと分かり、目に留まって、さらに深く知りたいときには内容を読んでみようという気にさせてほしいのです。
 石口俊一団員(広島)の「さあ、今年もやるぞ、…と」とか岡田尚団員(神奈川)の「出発は、林市長の裏切り」とあれば、えっ、どういうこと…と読んでみたいと思いますよね。
 小見出しがついていてもその前に数字(ナンバリング)をつけている人が大半ですが、これは余計です。うっとうしいです。
 大久保賢一団員(埼玉)は、さすがに文章を書き慣れているので、小見出しの頭に余計な数字はついていません。さっと見たところ、小口克己団員(東京)と杉本周平(滋賀)以外はみなナンバリングつけていますね。団の役職を経験した人も小見出しがなかったり、ナンバリングしたりで、ガッカリします。これでは団通信も変わるはずないかな…。
「はじめに」、「おわりに」なんてやめてよ
 準備書面や学術論文ならいいかもしれませんが、団通信や報告集はニュース記事なんです。ワンパターンで、内容のない「はじめに」、「最後に」なんて、あまりにマンネリ形式です。端的に杉本団員の「よりよい刑事司法を実現するため」とか、岡田団員の「闘いは、次のステージへ」のような中味のある、イメージの湧く小見出しをつけてくださいな。
心情あふれる文章が読みたい
 内山新吾団員(山口県)が、イージス・アショア配備撤回を報告した最後に「その土地の良さとそこで暮らす人の良さが実感できる。そういう楽しみを他の団員と共有できるように団支部の活性化を図りたい」と書いています。こんな温かみのある個性的な文章が読みたいのです。もちろんテーマによりけりで、全部が全部そんな文章を書けるはずもないでしょうが、私はこう感じたという、喜怒哀楽を文章として盛り込んでほしいというのが私からのお願いです。
「以上」、「〇日脱稿」もやめて…
 文章の末尾に「以上」とか「〇月〇日脱稿」とか、なんでこんなことを書くのか私には理解できません。読み手に必要のないことは書かないのが文章を読んでもらうための鉄則です。
編集権限と責務
 報告集も団通信も、編集する側は読みやすくするために手を加える責任があると私は考えています。内容の改変は基本的に考えられないところですが、読まれるために体裁をととのえるのは当然のことです。はじめは多少の軋轢が起きるかもしれませんが、やがて、体裁はそんなものだろうと定着していくことを心より願っています。

 

「共立メンテナンス不当労働行為事件」の中労委命令の波紋広がる!

大阪支部  愛 須 勝 也

1 はじめに
 2021年4月26日、中央労働委員会は、守口市学童保育指導員労働組合(以下、「組合」)からの団交申入れを拒否した共立メンテナンス株式会社(以下、「共立」)の再審査申立を棄却する命令を交付し、団交応諾、文書手交、掲示(ポストノーティス)を命じた大阪府労働委員会の救済命令が維持された。取消訴訟は提訴されず、救済命令が確定した。本件は、組合から提出された組合規約に不備があるとして団交に応じなかったことが不当労働行為に当たるとされたものである。
 守口市の学童保育では、2020年3月末に、組合四役をはじめとする13人の指導員(12人が組合員)が雇止めされ、10名が大阪地裁に地位確認訴訟を起こし、別に救済命令も申し立てて係争中である。
2 守口市学童保育事業の民間委託
 大阪府守口市(大阪維新の会の西端勝樹市長)は、50年以上運営してきた学童保育を民間委託し、2019年4月から共立による運営が開始された(5年)。指導員は非常勤職員として1年ごとの任用を繰り返してきたが、共立との間でも1年更新の有期雇用契約を締結した。組合は、守口市職労の分会として組織されていたが、民間委託に際し組織変更しスタートした。共立は、「ドーミーイン」などのホテル事業を中核とする東証一部上場企業であるが、最近は全国の自治体から事業委託を受けるPKP事業(Public kyoritsu Partnership)を展開している。ちなみに共立は、有価証券報告書にも「当社グループには労働組合は結成されておりませんが、労使関係は円満に推移しております」と虚偽記載をしている。
3 共立メンテナンスの団交拒否
 組合は、民間委託が開始された2019年4月1日、団交申入れを行った。 当初、共立は日程を調整していたが、学童保育連絡協議会(学保協)に指導員が関わることを禁じたことに、組合が抗議したことで態度を変え、規約の提出を求めてきた。組合が、早期団交を優先して規約を提出したところ、共立は、規約が労組法に抵触するから団交に応じないという態度に転じた。
4 救済申立と初審命令
 そこで、組合は、2019年9月11日、救済命令を申し立てた。共立は、資格審査を繰り返し求めて実質答弁をせず、調査期日も欠席し、最終陳述書すら出さなかった。府労委は、同年4月20日、異例の早さで団交応諾命令と文書手交及び掲示(ポストノーテイス)を命じた。
5 中労委における共立メンテナンスの主張と中労委命令
 共立は、中労委に再審査を申立て、①組合は、労組法に適合しない規約に基づいて運営されているので、民主的に運営されず独裁に陥っており同法2条の自主性の要件を満たさない、②団交申入れの時点において、同法2条及び5条の要件を満たさないから、労組法の保護は一切及ばないなどと主張した。
 これに対して中労委は、①組合の自主性を認め、②同法5条1項の規定は、団交に先立ち、組合が使用者に対して規約の適合性を立証しなければならないことを定めたものではないこと、2項の規定に適合することは、発令の要件であって、再審査における命令発出時点で規約不備が是正されている以上、命令を発することは可能であるとして、会社の主張をすべて排斥して、初審命令を維持した。
6 中労委命令の波紋
 中労委命令の波紋は大きかった。守口市同様、団交拒否していた沖縄県南城市では発令直後の4月30日、突如、団交に応じると言い出した。
 そして、同年5月13日には、大阪府が入札参加資格の停止処分を出したことを発端に、他市でも停止処分が続き、守口市も指名停止をせざるを得なくなった(学童保育の委託契約はそのまま)。さらに、5月20日には京都市が、「2か月以上、違反が停止されるまで」入札参加資格を停止した。京都市では、共立が世界遺産の仁和寺前にホテル建設を予定しているが、事業者選定の撤回を求める声が広がっている。
7 共立メンテナンスの不誠実な対応
 共立は、命令履行の偽装のため、同年5月24日、団交開催通知を組合委員長個人宅に送付してきた。事前協議もな いまま、日程、議題、交渉人数を一方的に指定した不誠実なものであり、初審命令に記載された謝罪文をコピーして日付を手書きした書面が何の説明もなく同封されていた(前代表取締役名のまま)。ポスト・ノーティスについては、通知後に組合が確認のため共立を訪ねたところ、掲載期間が経過したので撤去したとうそぶいているが信用できない。
8 各地での警戒の呼びかけと情報提供のお願い
 現場では、雇止め等の不利益を恐れて多くの組合員が組合を脱退しており、少なくない児童が学童保育を辞めている。学童保育の実施主体は守口市であり、共立の違法行為を放任する市の責任、行政による民間委託のあり方が厳しく問われている。全国各地での民間委託に対する警戒を呼びかけるとともに情報提供を求めたい。
 (弁護団は、城塚健之、原野早知子、谷真介、佐久間ひろみと当職)

 

*コロナ禍に負けない!(継続連載)貧困と社会保障問題に取り組みたたかう団員シリーズ ⑨

天海訴訟の報告

       千葉支部  向 後   剛

第1 はじめに
 天海訴訟で、令和3年5月18日、千葉地裁の判決が出た。 以下のとおり、大変残念な判決であった。
第2 判決の骨子
1 事案の概要
 65歳になる原告(天海さん)が、引き続き障害福祉サービスを受けるために、障害者総合支援法(以下、「法」と略す。)の規定による介護給付費の支給申請をしたのに対し、被告(千葉市)は、「原告が要介護認定の申請をしないため、サービスの支給量を算定することができない。」として、原告の支給申請を却下した(以下、「本件処分」という。)。本件は、原告が、本件処分が違法であるとして、処分の取消しや国家賠償を求めた事件である。
2 争点
 本件の主な争点は、介護給付費(障害福祉)の支給申請の適法要件である。
3 争点についての判断
(1)法には規定がないが、法が、正当な理由なく自らの申請に係る障害支援区分の認定及び支給要否決定が行われるのに協力しない障害者について、当該障害者に係る介護給付費の支給申請を不適法なものとして却下することができないこととしていると解するのは相当でない。市町村は、障害福祉給付の申請者が正当な理由なく自ら申請した手続に協力しないときは、当該支給申請を不適法なものとして却下できると解すべきである。
(2) 法及び関連法令には、65歳に達した障害者が要介護認定の申請をすることが障害福祉による介護給付費の支給申請の適法要件であると解する直接の根拠となる定めはない。しかし、法7条により、障害福祉サービスの介護給付費の支給は、介護保険の訪問介護で受けることができる給付の限度において行われず、訪問介護によっては賄うことができない不足分についてのみ行われることになる。そうすると、障害者が65歳以上で要介護状態にあると見込まれるときは、当該障害者が要介護認定の申請をしない限り、介護保険により受けることができる給付が定まらず、障害福祉サービスによる介護給付費の支給量を算定できないのであり、この場合に要介護状態にあるものであることが見込まれる当該障害者が要介護認定申請をしないことは、自らの申請に係る支給要否決定が行われるのに協力しないことにほかならない。65歳以上の要介護状態にあるものであることが見込まれる障害者が要介護認定の申請をしないときは、要介護認定の申請をしないことに正当な理由がない限り、市町村は、当該介護給付費の支給申請を不適法なものとして却下することができる(要介護認定の申請をすることが障害福祉による介護給付費の支給申請の適法要件となる。)というべきである。
(3) 本件で、自立支援給付と介護保険とを任意に選択することを許すことは、公費負担の制度よりも社会保険を優先するという社会保障の基本的な考え方に背馳するとともに、他の者との公平にも反し相当でない(以下、下線部を「※」と略す。)ので、原告が要介護認定の申請をしないことに正当な理由があると認めることはできない。
  したがって、被告は、本件申請を不適法なものとして却下することができるのであり、本件申請を却下した本件処分は適法である。
4 その他の判示
 法7条に関する原告の主張(法7条は併給調整規定であり、65歳に達した障害者が介護保険の申請をしていない場合は、申請日にまでしか遡及しない介護保険との「併給状態」は生じないので、法7条は適用されない等)は、※の理由により退けられている。
 (裁量権逸脱・濫用の主張に関連して)法7条は市町村が裁量により支給決定をすることを認めていない(岡山市の浅田訴訟と異なる判断)。
 憲法違反については、立法府の広い裁量を前提に、「法7条を65歳・低所得の障害者に適用することが、憲法14条、25条から導かれる障害者の応能負担により福祉を利用する権利を侵害するということはできない。」とした。
第3 判決についての考察
1 判決は、「自立支援給付と介護保険とを任意に選択することを許すこと」や「法7条を併給調整の場面に限定して適用すること」について、※という理由で退けている。
 この判断は、「65歳を過ぎてから加齢による障害を負った者」については、一応妥当するように思われる。しかし、この判断が「障害者が65歳を迎えた場合」にも当てはまるかは疑問である。
 「障害者が65歳を迎えた場合」については、障害者(加齢によらない障害をもって生きてきた人)の側にも自己決定権や応能負担でサービスを受けられることなどの重要な対抗利益があり、それと「保険優先の考え方」との調整については、まず立法府が判断すべきだと思われるところ、法は、「65歳を迎える障害者に介護保険による要介護認定の申請を義務づける規定」や「65歳を迎えた障害者が要介護認定の申請をしない場合に障害福祉給付の支給申請を却下すべきとする規定」を持たず、「障害者が65歳を迎えた場合」の規律については、法律上白紙になっていると思われるからである。(それゆえ、法7条は、「障害者が65歳を迎えた場合」については、併給調整・二重給付の回避に必要な限度で介護保険優先を定めていると解釈されるべきである。)
 そこに、裁判所が、※という法律解釈の根拠になりうるか疑わしい漠然とした考えを用いて、立法府に代わってルールを作るのは反則だと思う。
2 判決は、①法7条は直接には支給申請却下処分の根拠とならないこと、②法には手続に協力しない申請者の支給申請を却下できるとする規定がないこと、③法には、65歳以上の障害者が障害福祉給付の支給申請を行う場合に要介護認定の申請を行うことを支給申請の適法要件とする旨の規定がないことを前提に、私見では無理なやり繰りを経て、結論を導いている。
 しかし、日本の憲法では、「行政は法律に基づいて権限を行使すべきこと」「行政訴訟は司法裁判所が担当し、裁判所は、独立性のある立場から、行政の法適合性を判定すること」になっている。この憲法の下では、裁判所は、行政処分が法律上の根拠を欠いている場合はその行政処分の効力を否定するのが筋だと思う。
 法律の規定がないにもかかわらず、裁判所が妙なやり繰りによって行政処分に法律上の根拠を与えるのは、憲法が与えた裁判所の役割を違えているように思われる。
第4 おわりに
 本判決に対しては、控訴の手続をとった。不当判決の是正を目指して、引き続き奮闘したい。

 

館山 茂さんのご逝去

東京支部  荒 井 新 二

 もと団の専従事務局であった館山茂さんが昨年9月5日逝去されました。ご遺族から最近頂いた弔報で知りました。コロナ禍のなかでの、ご自宅での密葬だったようです(享年91歳)。
 館山さんは、秋田地裁の主任書記官であったとき、裁判書き闘争の原告団の中心的な存在として最高裁とながく争い、最終的に仲間が現職復帰を果たすなか、ひとり許される筈の復職を蹴り団の専従事務局になりました(この全司法の裁判については、上田誠吉さんの「国家の暴力と人民の権利」(新日本出版社・73年出版)228頁以下に詳しい)。
 以後団の専従事務局として団の屋台骨を背負って尽力されてきました。70年のはじめ頃団に対するその献身的な貢献に報いることになり、異例にも事務局次長に就任することになりました。これが果たして厚遇といえるか判然としないところではありますが、ともかく団が館山さんに特別な感謝を捧げずにはいられなかったことは確かなことです。館山さんはその後90年頃まで約20年の間、粛々とその職務にあたりました。専従事務局としてその確実で精確な仕事ぶりは身近に接した団員が等しく感銘を受けたはずです。
 沢山の思い出がありますが、①いつも最終列車を気にしながら、一緒に東京駅に駆け込んだこと、②忘年会ではおはこの「秋田音頭」を身振り手振りおかしく、踊り歌ったこと、③特に団報編集には意を用い晩年にはプロ的な腕前を自ら恃むほどになったこと、などの思い出があります。
 団を一生かけて愛し続けてくれた、あり難い先輩でした。合掌。

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