第1761号 12/11

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

  • フジ住宅ヘイトハラスメント裁判高裁判決のご報告  冨田 真平
  • 核兵器廃絶をめぐる現在の情勢  森 一恵

  • 岸田首相の核兵器廃絶論の虚妄  大久保 賢一

  • 事務局次長退任のご挨拶  太田 吉則

  • ♠ 次長日記 ♠(不定期連載)  安原 邦博

 

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フジ住宅ヘイトハラスメント裁判高裁判決のご報告

大阪支部  冨 田 真 平

  2021年11月18日、大阪高裁で、フジ住宅ヘイトハラスメント裁判の控訴審判決が言い渡された。判決は、一審判決(2020年7月2日)に引き続きフジ住宅及び会長が行ってきた人種民族差別的な資料配布などの違法性を認め、損害賠償額を増額してフジ住宅及び会長に132万円の支払いを命じ、さらに資料配布の差止めを命じた。また同時に、直ちに配布を禁ずる仮処分命令も出した。
1 事案の概要
 フジ住宅及び今井会長は、遅くとも2013年頃から、①社内で全従業員に対し、人種民族差別的な記載及びこれらを助長する記載のある資料(以下「人種民族差別的資料ないし差別助長資料」という。)や今井会長が信奉する(政治的)見解が記載された資料を大量かつ反復継続的に配布してきた。また、②地方自治体における中学校の教科書採択にあたって、全従業員に対し、特定の教科書が採択されるようアンケートの提出等の運動に従事するよう呼びかけていた。さらに、③原告が提訴すると、社内で、原告を含む全従業員に対し、原告について「温情を仇で返すバカ者」などと非難する内容の大量の従業員の感想文や(会社と密接な関係にある者の)原告を攻撃するブログを配布した。
2 一審判決及び高裁での審理状況
 2020年7月2日に大阪地裁堺支部、上記①②③の行為の違法性を認め、フジ住宅及び会長に110万円の支払いを命じる判決が出された。
 これに対し、フジ住宅及び会長は判決を受け入れることなく控訴し、また、原告側も、一審判決の不十分な点をただすべく控訴した。
 さらに、一審判決後もフジ住宅が資料配布を辞める気配が全く無く、相変わらず人種民族差別的資料ないし差別助長資料を配付し、さらに「原告は今も在籍して働いていると思うと虫唾が走ります」などと原告を攻撃する従業員の感想文を大量に配布するなど原告に向けた攻撃もより一層激しさを増すようになった。
 このような事態を受け、原告としては、控訴審で上記①及び③の行為を差し止める請求を追加するとともに仮処分も申し立てた。
3 高裁判決の内容
(1)高裁判決は第一審に引き続き、上記①②③の行為の違法性を認めた。
ア 上記①の人種民族差別的資料ないし差別助長資料の配布行為については、憲法14条、人種差別撤廃条約及びヘイトスピーチ解消法の趣旨に照らして、自己の民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることがない職場において就労する人格的利益があると認めた上で、フジ住宅及び会長が、上記資料配布行為を使用者の優越的地位を背景に行った結果、職場において、朝鮮民族はすべて嘘つきであり、信用することができず、親中・親韓的態度を取る人物はすべて嫌悪されるべきであるなどといった意識を醸成させ、上記人格的利益を侵害したと認めた。
 また、差別目的によるものではないなどというフジ住宅及び今井会長の弁解を退けて、差別を煽動する効果を有する行為を行ったことに変わりはないとして、違法性を認めた。
イ 上記②の動員行為について、使用者が自己の支持する政治活動への参加を労働者に促すことについては、たとえ参加を強制するものではないとしても、参加の任意性が十分に確保されている必要があるとして、その違法性を認めた。
ウ 上記③の原告攻撃の資料配布行為については、職場において抑圧されることなく裁判を受けることができる人格的利益を認めた上で、フジ住宅及び今井会長が優越的地位を利用し、本件訴訟の提起を非難する他の従業員や第三者の意見を、社内の従業員に対しても広く周知させ、原告に対し職場における強い疎外感を与えて孤立させ、本件訴訟の提起及び追行を抑圧したとして、このような人格的利益の侵害を認め、違法性を認めた。
(3)そして、高裁判決は、フジ住宅が、原判決で違法性が指摘されても省みることなく上記①及び③の行為を続けてきたことから、㋐韓国の民族的出自等を有する者又は韓国に友好的な発言若しくは行動をする者に対する侮辱の文書及び㋑原告を批判し又は誹謗中傷する文書と特定した上で差止めの必要を認めた。
4 高裁判決の意義
 高裁判決は、上記のように民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることが無い職場において就労する労働者の人格的利益を認め、これを前提に、いわゆるパワハラ防止法の趣旨にも言及した上で、使用者が、労働者に対する関係で、民族的出自等に関わる差別的な言動が職場で行われることを禁止するだけでは足りず、そのような差別的な言動に至る源となる差別的思想が使用者自らの行為又は他者の行為により職場で醸成され、人種間の分断が強化されることが無いよう配慮する義務があると認めた。これは、使用者が職場内において、差別的な思想が醸成されないよう積極的に配慮する一般的義務を認めたものであり、レイシャルハラスメントの事案について今後広く活用できるものである。
 さらに、高裁判決が一審判決後のフジ住宅社内の状況も踏まえて、損害賠償だけでなく、今なお続く資料配布の差止め及び仮処分まで認めた点も原告の人格的利益の実効的な保護の観点から意義が大きいといえる。
5 今後に向けて
 フジ住宅は高裁判決の翌日にはさっそくHPで上告する旨のコメントを出し、フジ住宅及び会長ともに上告・上告受理申立を行った。他方で弁護団としては、フジ住宅が仮処分で禁止された資料の配布行為を行うおそれがあることや、判決後も社内システムの仮処分で禁止された文書がダウンロード可能な状態となっていることなどから、間接強制の申立を行った。今後は、最高裁での闘いとともにいかにして実際にフジ住宅に違法な資料配布を辞めさせるかという点も課題となる。
 原告は、一貫して会社に変わって欲しい(働きやすかった元の会社に戻って欲しい)という思いを述べており、高裁判決後の記者会見でも、「今度こそ会社に変わってほしい」という思いを述べた。
 職場における労働者の人格権保障のため、会社が変わってくれることを信じて今もなおフジ住宅で働き続ける原告とともに弁護団・支える会が一体となって今後も闘う所存であるので、団員の皆様には引き続き大きなご支援をお願いする次第である。

 

核兵器廃絶をめぐる現在の情勢

                三重支部  森  一 恵

第1 NPT再検討会議と核兵器禁止条約第1回締約国会合の開催
 2021年1月22日に核兵器禁止条約が発効してから,間もなく1周年を迎える。核兵器禁止条約の署名国・批准国は2021年9月24日時点で,署名国86か国,批准国56か国となっている。2022年1月には再延期後のNPT(核不拡散条約)再検討会議が,同年3月には核兵器禁止条約第1回締約国会合が開催される見込みである。
 新型コロナウィルス(COVID-19)感染症の世界的危機が終息しないにも関わらず,世界では核軍拡競争が続き,国内でも台湾有事を想定した安保法制の運用,自衛隊による敵基地攻撃能力の保有・強化など,日本国憲法第9条,前文第2段の恒久平和主義の理念に反する動きが見られている。
 このような国内外の情勢下において,NPT再検討会議及び核兵器禁止条約第1回締約国会合が開催されることは,「核兵器も戦争もない世界」を実現する上で,画期的な一歩となるものである。
第2 核兵器禁止条約と発効後のNATO加盟国の動き
 核兵器禁止条約は,前文において,核兵器が二度と使用されないよう保証するための唯一の方法は,核兵器の完全な廃絶であるとし,ヒバクシャ(Hibakusha)及び核実験の被害者の苦痛と損害に留意し,核兵器の法的拘束力のある禁止こそ,核兵器のない世界の達成及び維持に向けた重要な貢献となること,核兵器のない世界の達成及び維持は,国家的・集団的安全保障に資する最高の地球的公共善であると規定している。
 また核兵器禁止条約は,第4条において,核兵器保有国にも条約への加盟の道を開く仕組みを規定している。
 「核兵器も戦争もない世界」の実現を目指すのであれば,核兵器保有国・核依存国であるか否かに関わらず,世界各国は積極的に核兵器禁止条約に加入すべきである。
 日本と同様アメリカの核の傘に依存する北大西洋条約機構(NATO)加盟国においても,核兵器禁止条約を肯定する新しい動きがみられる。ドイツ連邦議会には超党派の「核兵器禁止議員団」が結成され核兵器禁止条約批准に向けた議論が俎上に上る可能性が生まれているほか,NATO本部のあるベルギーの新連立政権は核兵器禁止条約が核軍縮に前向きな役割を果たす可能性に言及した。ノルウェー議会は政府に対し核兵器禁止条約に加入した場合どうなるかを議会に報告するよう要請していたが,政権交代により核兵器禁止条約加入に向け舵を切る可能性が生まれている。
第3 核兵器禁止条約に対する日本政府の態度
 ところが日本政府は, NPT体制と矛盾抵触する,核兵器保有国と核兵器禁止条約賛成国との橋渡しの役割を果たすなどとして,核兵器禁止条約に署名も批准もしていない。核兵器禁止条約に否定的な日本政府の態度は,アメリカの核の傘に依存するという核抑止論に基づくものである。
 このような日本政府の態度は,核兵器の使用がもたらす破滅的な人道上の結果に向き合っておらず,唯一の戦争被爆国として許されるものではない。核兵器を使用するという「威嚇」によって,安全保障を図るという核抑止論は成り立たない。日本政府は核兵器禁止条約への加入により安全保障を図るべきであり,核抑止力の強化では安全保障を図れない。
 核兵器禁止条約と核不拡散条約とは,決して矛盾抵触しない。むしろ,核兵器禁止条約は,核軍縮に向けた効果的な措置について,交渉を行う義務を課す核不拡散条約第6条の履行を後押しするのであり,両者は相互補完関係にある。核兵器禁止条約が前文において,核不拡散条約は核軍縮及び不拡散体制の礎石として機能しており,その十分かつ効果的な実施は,国際の平和及び安全の促進において不可欠な役割を果たしていると規定しているのも,両者が相互補完関係にあることを裏付けている。
 日本政府は第76回国連総会(2021年)において,核兵器廃絶決議案「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話」を提出し,「核兵器の全面的廃絶への実践的なステップ及び効果的な措置の重要性を強調」,「国際的な緊張緩和,国家間での信頼強化及び国際的な核不拡散体制の強化等を通じ,第6条を含むNPTの完全で着実な履行にコミットしていることを再確認」等としているが,核不拡散条約第6条の完全で着実な履行を真摯に追求するというなら,核兵器禁止条約への署名・批准を拒むべきではない。
 日本政府は「核兵器も戦争もない世界」の実現を求めるヒバクシャ及び核実験の被害者をはじめとする市民社会の願いや国際的動向を積極的に推進し,唯一の戦争被爆国の政府として率先して核兵器禁止条約に署名・批准すべきである。
第4 私の思い
 私は,核兵器保有国や日本をはじめとする核依存国が早期に核兵器禁止条約に署名・批准するよう,核兵器禁止条約と核不拡散条約が相互補完して,一日も早く「核兵器も戦争もない世界」が実現するように,法律家として努力していきたい。 

 

 

岸田首相の核兵器廃絶論の虚妄

 埼玉支部  大 久 保 賢 一

  岸田文雄首相は核兵器廃絶をライフワークだと言っている。それを垂れ流しているマスコミもある。彼は「核兵器のない世界」を本気で実現しようとしているのであろうか。それを検証してみよう。
核廃絶をいう首相
 岸田首相はその著書『核兵器のない世界へ』の中で「戦後から75年。多くの被爆者がこの世を去る中で、戦争の記憶も被爆の実相も急速に色あせつつある。人類は再び悪魔の業火に手を伸ばしかねない。…私たちは『核兵器のない世界』の実現に取り組まなければならない」などとしている。ここだけ読めば、被爆者の寄り添う首相のようである。
 NHKは、反核活動家坪井直さんの訃報を報道する際に「坪井さんとは、核なき世界を目指してさまざまな場面でご協力をいただきました。坪井さんの想いを胸に刻み、前へ進む覚悟です」との首相のツイッターを紹介している。これでは、坪井さんと首相が同じような核兵器廃絶論者だと受け止められてしまうであろう。
現時点での妨害分子
 けれども、首相は核兵器禁止条約に反対しているのである。核兵器廃絶を言いながら、核兵器を全面的に禁止しその廃絶のための条約には反対しているのである。結局、首相は「直ぐに核兵器廃絶はしない」としているのである。現時点では、首相は核兵器廃絶論者ではなく、核兵器廃絶の妨害分子なのである。首相が自分を坪井さんと同様の核兵器廃絶論者であるかのように振舞うことは詐欺的だし、そこを指摘しないまま報道するのは不適切である。いずれにしても許されることではない。首相もNHKもその態度を改めるべきである。けれども、首相にそのような気配はない。どうしてそのような不誠実が可能なのだろうか。それを考えてみよう。
首相の核兵器観
 氏はその著書で次のように言う。
 「核兵器を無くしたい」という思いは人一倍だ。しかし「直ちに廃棄しろ」と言っても多くの国家が「はいそうですか」とはならない。
 「核の傘」は、中国やロシア、北朝鮮などから身を守るための護身術。
 「核の傘」は米国が日本に対して提供する抑止力。
 日本は、非核3原則を国是として掲げながら、冷戦時代は旧ソ連、冷戦後は中国や北朝鮮の核の脅威に備えるため、米国の「核の傘」に依存するというのが国家戦略。
 要するに、中国、ロシア、北朝鮮と対抗するために米国の核兵器が必要だということである。首相は政府同様に核兵器を「守護神」としているのである。氏のこれまでの政治的経歴(外務大臣、自民党政調会長など)からして当然のことであろう。なお、日本政府の核に関する国家戦略は①「非核三原則」の順守、器の究極的廃絶、米国の「核の傘」に依存、④核の「平和利用」の4原則である。
首相の議論の特徴
 氏は核兵器を抑止力としている。核抑止が現実的に機能しているかどうかを検証する方法はない。また、抑止が破綻することもありうるし、核兵器が意図的ではなく使用される危険性も否定できない。核兵器禁止条約は、その危険性に着目して核兵器廃絶が必要だとしているのである。氏はこの事実を完全に無視している。ヒロシマを知っているというのであれば、いかなる理由があっても核兵器使用を避けるのが本来であろうが、氏はそうはしていない。「悪魔の業火」が人々を襲うことを容認しているのである。私はそういう人を核兵器廃絶論者とは呼ばない。むしろ、核兵器依存論者というべきであろう。ここでは、その発想の出自を考えてみよう。
「吉田ドクトリン」賛歌
 岸田首相は吉田茂元首相を「傑出した政治指導者の一人」と評価している。その理由は、吉田が日本防衛を米国に任せたことと、その選択が「米国市場」が日本に提供され、「米国資本」も導入され、日本の奇跡的な高度成長をもたらしたからだという。「日本は核とドルの下で生きていく」という「吉田ドクトリン」を最大限の評価をしているのである。そして、この「日本国の命運を米国の核とドルに委ねる」という基本姿勢は、現在も、何も変わっていない。岸田氏の著書は、そのことを私たちに判りやすく教えてくれているのである。
 米国では、戦争を商売とする軍人と金儲けの機会とする軍事産業とその使い走りをする議員とそれを支持する愚かで野蛮な選挙民がいまだ力を持っている。軍産複合体の支配である。その潮流に抵抗せずむしろ迎合する勢力はこの国にもいる。それが「核とドルに依存する」という意味である。私は、岸田氏や日本政府が核兵器と縁を切ろうとしないのは、ここに原因があると考えている。「米国に逆らうものは核で脅し、武力を行使してでも従わせる」という選択には核兵器が必要なのである。
むすび
 現在、政府は「禁止条約は国民の命と財産を危うくする」として、禁止条約への署名・批准は拒否しているし、締約国会議へのオブザーバ参加にも消極的である。
 にもかかわらず、岸田氏は核兵器廃絶を言うのである。それは、核兵器がもたらす「容認できない苦痛と被害」や「壊滅的人道上の結末」、そして国民の反核感情を無視できないからであろう。けれども、氏は「核とドルの支配」を全面的に受け入れているので、米国の核兵器を否定する禁止条約を容認することはできないのである。だから「二枚舌」を使わなければならなくなるのである。それが首相の正体である。
 私たちは、核兵器廃絶を未来永劫の理想ではなく、喫緊の現実的課題とするリアリストである。被爆者の願いに応えるためにも、また、私たちと次世代の未来のためにも、核廃絶の掛け声だけでない行動が求められている。
 けれども、の戦いは「核とドルの支配」を全面的に受け入れている政治勢力との戦いでもあることを忘れてはならない。
(20211111日記)

 

事務局次長退任のご挨拶

  前事務局次長  太 田 吉 則

  10月23日に開催された総会にて、無事、2年間の任期を終え、本部事務局次長を退任いたしました。
 私は、事務局次長に就任するまで、団本部の活動に参加した経験がなく、就任当初は不安しかありませんでしたが、そんな私でも、2年間、無事に事務局次長をやり遂げられたのは、団本部の執行部や専従事務局、各委員会のメンバー、静岡県支部の皆様のおかげだと感じています。2年間、支えていただき、本当にありがとうございました。
 私が事務局次長に就任するきっかけになったのは、2019年6月28日、29日に開催された静岡県支部の支部総会でした。28日夜の懇親会で、泉澤前幹事長や深酒した静岡県支部の先輩方から事務局次長就任を促されたのが始まりでした。このときは、事務局次長就任をお断りしましたが、その後、大多和所長や佐野元事務局次長らと相談し、もし、本部に行くなら、このタイミングの方が良いかと思い、2019年西浦総会で事務局次長に就任することを決意しました。
 事務局次長就任後は、改憲阻止対策本部(1年目)、治安警察委員会(2年目)、教育問題委員会、少年法問題対策本部、市民問題委員会を担当させていただきました。
 弁護士会の会務は積極的に参加してきたつもりでしたが、事務局会議や常任幹事会における委員会報告や団長声明・意見書等の起案、議員要請など、慣れないことばかりで、執行部の皆様や各委員会の皆様には、かなりフォローしていただきました。
 2020年2月頃からは新型コロナウイルスの流行が始まり、本部での会議をZoomで参加できるようになり、私も、ほとんどの会議をZoomで参加させていただきました。それに伴い、静岡-東京間の移動がなくなり、空いた時間を事件処理に使えるようになったのは良かったですが、本部の方々と直接会うことがなくなり、状況的に飲み会は仕方ないとしても、Zoomでは雑談もあまりできず、交流はほとんどできませんでした。Zoomは便利な一方で、寂しさもあり、その意味で、タイミングを間違えたかなと思ったことが何度かありました(今後、事務局次長に就任することを考えている方は、新型コロナウイルスがだんだん収束して、現地参加か、Zoom参加か、自由に選択できるようになるといいなとつくづく思います)。
 私が事務局次長に就任して、1年目は次長5人、2年目は次長6人体制でした。次長を経験してみて思いましたが、自民党政権下では課題が多すぎて、一人ひとりの負担が重く、人手が足りていなかったと思います。
 しかも、先日の衆議院選で、自民党が過半数を維持し、改憲勢力が議席を伸ばすという結果に終わりました。団は、今後も、憲法改正問題や死刑廃止を巡る問題、教科書の記述への政府介入問題、民事訴訟手続のIT化の問題など、多くの課題と対峙することになると思います。そのような状況であるにもかかわらず、新執行部には、未だに、事務局次長が4人しかいない状況です。個々の負担がより一層重くなってしまうことは明白で、そのような状況が続けば、今後の運動に支障が生じたり、新たな事務局次長の担い手をより獲得しづらくなるのではないかと心配しています。
 多くの方々が、事務局次長に手を挙げていただければ、その分、個々の負担が軽く済み、事務局次長として、より自由に、楽しく取り組みが行えるのではないかと思いますので、是非、同期等で一緒に手を挙げてみてはいかがでしょうか。
 団本部の昔はあまりわかりませんが、ここ2年間で、会議のオンライン化など、事務局次長の在り方も変わってきていると感じました。今後、より活動しやすくなっていくのではないかと思います。事務局次長の仕事を引き受けるのに思いとどまっている若手の団員の方は、是非、思い切って足を踏み出してみてください。団本部の活動に参加したことがない、静岡の私でもやれたので、きっとできると思います。また、皆様の事務所にそのような若手の団員がいたら、是非、事務所、あるいは支部として、温かく背中を押してあげてください。
 2年間、事務局次長をして、本当に多くのことを学ぶことができました。
 私が事務局次長の職務を全うできたのは、執行部の皆様、専従事務局の皆様、各委員会の皆様、そして、静岡県支部の団員の皆様のお力添えがあったからです。本当にありがとうございました。

 

次長日記 (不定期連載)

大阪支部  安 原 邦 博

  最近久しぶりに人前で泣きました。1118日のフジ住宅ヘイトハラスメント裁判控訴審判決の日に、原告、支援者、弁護団の有志でおこなった食事の席で、原告が2014年5月10日に当時修習生の僕が傍聴参加していた民法協「ブラック派遣・ブラックバイト」ホットラインにかけてこられ金星姫弁護士と村田浩治団員につながった時から人種差別的資料等の配付差止めを勝ち取るまで7年半もかかった、という説明をしていたら、感極まって涙で喋ることができなくなったのです。
 弁護士登録から約7年、これまで劇的な勝利判決を得たのは初めてではないのですが、泣いたのは初めてです。なので、「なんでかな~」と考えていました。思い当たったのは、僕の出自です。僕は、「血統」的にはコリアンと日本人のダブル(昔の言い方は「ハーフ」「あいの子」)でして、ただ生まれて以来在日コリアンの母と親戚としか過ごしてこなかったので、在日の家庭しか知りません(僕が「故郷」はどこかと問われて頭に浮かぶ原風景は、祖母の家があった大阪市生野区田島の路地、伯母が韓国「料亭」を経営していた華やかなりし今里新地です)。しかし別に朝鮮民主主義共和国にも大韓民国にも、それらの国で住んでいる人にも、またその他の国で住んでいるコリアン・ルーツの人にも、そして在日コリアンでも近畿圏以外の人には特に何の感傷も湧かないのですが、近畿圏とりわけ大阪の在日コリアンには、まるで自分の親戚かのような感傷を不思議と持ってしまうことが結構あります。
 特にフジ住宅ヘイトハラスメント裁判の原告とは、この7年程の間ずっと密接に関わってきたので、僕の心情は、「いとこのお姉ちゃんがずっと会社からえらい目にあわされている!」というものであったのかな、と思います。毎日のように「今日はこんなのが配られた」と原告に教えてもらってはフジ住宅及び今井会長にキレまくってきた日々でした。原告が、「経営理念感想文」(フジ住宅の全従業員が毎月書かされるもの)で自分のことを口を極めて罵っている従業員ら(そのような感想文を書けば今井会長に「良いもの」と選別されてフジ住宅社内で全従業員に配布されるので、この従業員らは自分の罵詈雑言が原告に届くことを認識認容してそれら感想文を作成していたことになります)を擁護するようなことを言うので、僕が原告に「甘すぎる!」とキレたこともありました。1118日の僕の涙は、ずっとずっと苦しみながら頑張ってきた原告がやっと少しはむくわれた、という嬉しい気持ちが少しと、それよりも、何故原告が(弁護士とつながってからでも)7年半も辛い目にあわなければいけないのか、という悔しさではなかったかと思います。労働事件の原告が勝利まで長く苦しむのは結構あることなので、ここまで僕がフジ住宅ヘイトハラスメント裁判の原告に感情移入するのは、きっと、上記した僕の出自に関わる謎の感傷のせいではないか、と思う次第です。
 感傷などというものは、なんら合理的なものではないのに、やはり人の行動をしばるようですね。人間ってやっぱり感情の動物なんじゃないかな、と思った次第です(僕のことをよく知る人からは、単に安原がいつも感情的なだけではないか、と言われそうですが…)。

 

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