第1781号 7/11

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

●東京電力グループ・ワット社の組合つぶしとのたたかい~中労委で団交応諾・支配介入認定の完全勝利命令~  鷲見 賢一郎

●香川県での活動と今後  呉  裕麻

~委員会活動へのお誘い~

◆教育問題委員会へのお誘い  小川  款

~5月集会・感想(その4)~

◆新人学習会に参加して  前田 ちひろ

●法律家が安全保障政策を議論する(上)  井上 正信

●憲法前文の理念の「かってない揺らぎ」にどう向き合うか  木村 晋介

■『西岡芳樹先生を偲ぶ』  永尾 広久

■【書評】「ウトロ ここで生き、ここで死ぬ」(中村一成著 三一書房)を勧める(下)  神原  元

●労働裁判を勝ち抜くうえでの「事実・真実・本質」の捉え方/学習会のご案内  岡田 尚


 

東京電力グループ・ワット社の組合つぶしとのたたかい~中労委で団交応諾・支配介入認定の完全勝利命令~

東京支部  鷲 見 賢 一 郎

1 はじめに
 私は、自由法曹団通信2020年6月11日号、6月21日号、7月1日号に3号連続で「東京電力グループ企業の計器工事作業者の存亡をかけたたたかい(上)(中)(下)」を掲載させていただきました。今回中央労働委員会で完全勝利命令を得ましたので、その後のたたかいを報告します。
2 都労委の完全勝利命令
 東京電力パワーグリッド株式会社(以下「東電PG」といいます。)(「東京電力株式会社」の後継会社)の電気メーターを設置、取り替える計器工事作業者は、2018年2月27日、全国一般計器工事関連分会を結成し、同年12月7日公然化しました。全労連・全国一般労働組合東京地方本部、同一般合同労働組合、同計器工事関連分会(以下「3労組」といいます。)は、12月7日以降4度にわたって、組合員と請負契約を締結しているワットラインサービス株式会社(以下「ワット社」といいます。)に対し、団体交渉を申し入れました。これに対し、ワット社は、4度にわたって、「組合員は、何れも当社が労働契約を締結している従業員ではありません。」などといって団体交渉を拒否しました。3労組は、2018年12月17日、不当労働行為救済申立をし、2019年1月18日、追加の不当労働行為救済申立をしました。
 東京都労働委員会は、2020年3月4日、3労組とワット社に対し、令和2年2月4日付命令書を交付しました。都労委命令は、計器工事作業者の労働組合法上の労働者性を認め、ワット社に対し団交応諾を命じ、支配介入を認定する3労組側の完全勝利命令です。
3 中労委の完全勝利命令
 ワット社は、2020年3月6日、中労委へ再審査申立をし、中労委は、2021年6月8日の第7回調査をもって結審しました。中労委は、2022年5月16日、3労組とワット社に対し、ワット社の再審査申立を棄却し、都労委命令を維持する令和4年4月6日付命令書を交付しました。中労委命令も、計器工事作業者の労働組合法上の労働者性を認め、ワット社に対し団交応諾を命じ、支配介入を認定する3労組側の完全勝利命令です。
 中労委命令の特徴は、都労委命令以上に、労働組合法上の労働者性を根拠づける6要素等の認定を詳細に行っていることです。都労委命令の43頁に対し、中労委命令は73頁です。
4 今後のたたかい
―請負委託労働者の権利擁護をめざして
(1)中労委命令取消訴訟と緊急命令のたたかい
 ワット社は、2022年5月26日、東京地方裁判所へ中労委命令の取消訴訟を提起し、中労委は、7月1日、提訴されたことを3労組に通知してきました。3労組は、取消訴訟に補助参加し、ワット社の取消請求の棄却を求めます。また、3労組は、中労委を通じて、東京地裁に緊急命令の発令を求めます。
(2)高野清組合員の請負契約更新拒否のたたかい
 ワット社は、高野組合員の反則点が50点を超えたことを理由として、2019年3月20日をもって請負契約の更新を拒否しました。高野組合員は反則点50点を超えるような反則行為をしておらず、この点の立証に力を注ぎます。高野組合員は、現在地位確認、賃金支払い等を請求して東京地裁民事第36部に提訴中です。
(3)2020年度の組合員に対する割当工事個数と年収の差別のたたかい
 ワット社は、組合員18人に対し、2020年度の割当工事個数と年収について、前年度比約70%減(前年度比約30%)にするなど大幅な差別を強行してきました。現在都労委に係属中ですが、この差別を何としても是正させなければなりません。
(4)組合員13人全員の請負契約更新拒否のたたかい
 ワット社は、「2021年度は法人請負者としか請負契約をしない。」と言って、組合員13人全員の請負契約を更新拒否しました。露骨な組合つぶしの攻撃です。組合員13人は、現在地位確認、賃金支払い等を請求して東京地裁民事第36部に提訴中です。また、3労組は、請負契約更新拒否の撤回を求めて都労委へ不当労働行為救済申立をしています。
(5)東電PG、東光高岳、ワット社の団交拒否のたたかい
 3労組は、2021年7月29日、東電PG、株式会社東光高岳(「東光高岳」といいます。)、ワット社の3社に対し、「組合員13人に対する請負契約の更新拒否を撤回し、請負契約を継続すること」などを団交事項とする団体交渉を申し入れました。3社とも、この団交申入れを拒否しました。3労組は、3社を被申立人として、都労委へ不当労働行為救済申立をしています。親会社の不当労働行為法上の使用者性などが問われています。
5 おわりに
 東電PG、東光高岳、ワット社の組合つぶし攻撃は徹底しています。当方も請負委託等「雇用でない働き方」について研究を重ね、会社側の攻撃を跳ね返し、働く権利を守りたいと思います。

 

香川県での活動と今後

四国総支部・香川県  呉  裕 麻

1 香川支部問題
 2008年に岡山合同法律事務所に入所した後、しばらくして「香川支部問題」なるものを聞き及んだ。
 「以前は高松合同法律事務所という拠点事務所があったが、現在はこれがなく、他に拠点事務所もない状態故に団活動が十分に行えていない。何とかして活動の活性化を図りたいがそのためには(元気な)弁護士が香川県で活動を担って欲しい(担うべきだ)。」というものである(香川県弁護士会の弁護士で、団員弁護士は2名で、いわゆる若手も中堅もいない状態。)。
 当然、各種の困難な事件について担い手がおらずに困っているとのことでもあり、岡山合同法律事務所の則武弁護士からは、自身の経験に基づき、香川県内では弁護団事件を担う弁護士がおらず、苦労をしている(香川県の案件を岡山で対応したりしている)という話をいくつも聞いた。
2 香川支部問題に対する思い
 私は、そんな状態を放置して良いはずはない、自分なりにできることはないかと考えるようになった。
 そして、いつしか周囲に「自分が香川に行く。」と公言するようになり、自由法曹団の若手学習会の場でもそのように発言をしたことがある。
 また、岡山で弁護士をする中で、徐々に香川県の案件も対応するようになり、社保庁分限免職撤回事件や香川高教組の案件を担当するようにもなった。さらに、香川県内の民主団体とも繋がりを深め、月に1度の定期無料相談会を行うようにもなった。
3 香川県進出のスキーム
 こうして徐々に香川県での活動を充実化させ、その上で実際にはどのような方法で香川県へ進出するかのスキームを検討してきた。
 その際、一番手っ取り早いのは私が単身、香川県弁護士会に登録替えをし、事務所を開設するという方法であるものの、いきなり香川県に登録替えをして経営的に成り立つのかという疑問もあった。
 そこで、私が考えたのは、事務所を法人化し、社員弁護士を2名にした上で法人の支店を香川県内に開所し、その上で私が香川県弁護士会に登録替えをするという案であり、これを採用することとした(私は2013年に岡山合同法律事務所から独立をし、「岡山中庄架け橋法律事務所」を開設していた。「岡山中庄」というのは、「岡山県」の「中庄地域」の事務所という意味であったが、ゆくゆくは、「中庄」を「香川」と変更し、「岡山香川架け橋法律事務所」とすることを想定し、事務所名を選定していた。)。
 この案は経営上の不安を緩和できるというメリット(本店で基盤を作り、香川に支店を設けることで本店が支店を支えることが可能)があるものの、私以外に社員弁護士が必要という問題がある(弁護士法人は本店、支店に必ず社員弁護士の所属が必要である。)。
4 スキーム決定後の流れ
 そのため、私のこの案に賛同してくれる弁護士が必要であり、そのための人員探しには苦労した。そうした中、河田布香弁護士が2019年の弁護士登録と同時に私の事務所に入所してくれ、この案にも賛同をしてくれた。
 その後は、コロナのために経営上の影響を受け、香川への進出のタイミングについて躊躇せざるを得ない状況となった。とはいえ、いつまでも先送りにすることは望ましくないので、「エイヤ!」と腹をくくり、今年の4月1日付で香川支所を開設し、同時に私が香川県弁護士会に登録替えをした。事務所名も「弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所」と改めた。
5 今後について
 このような経緯で長年かかって自分の言ったことを実現するに至った。今後は、これまで以上に香川県内での活動を充実化し、団員を勧誘するなどしていつかは団支部の活動を行いたいと思っている。また、四国四県での連携も重要なので、四県での活動も何か出来たらと思っている(四国四県の団員弁護士のみなさま、どうぞよろしくお願いいたします。)。
 そのような次第であり、まだまだ活動は緒に就いたばかりではあるが、「香川支部問題」の現状についてご報告申し上げる次第である。

 

委員会活動へのお誘い

 

教育問題委員会へのお誘い

教育問題委員会担当次長  小 川  款

教育問題委員会は、もともと教育基本法改訂反対の取り組みを引き継ぎ、その具体化を許さない取り組みを行うために発足し、今では、多岐にわたる教育分野の問題を検討し、活動しています。「教育」とは誰もが経験してきた分野ですが、人権問題・改憲問題とも密接にかかわる重要なテーマであり、現在も多くの課題が進行しています。せっかくですので、少しご紹介します。
まず、当委員会を語る上で一番に取り上げなければならないテーマは「教科書問題」です。教科書と教育内容は切っても切り離せない関係ですが、2021年9月、あろうことか、一度検定を通過した教科書について、政府答弁に沿わない内容を(政治的圧力のもとに)訂正させるという事態が発生しました。教科書とは本来学問研究の成果に基づいてなされるべきものであり、政府の意向に忖度した教科書などあってはならないはずです。いうなれば戦前・戦中の教育による思想操作そのものであり、当委員会では、ことの重大さにかんがみ、イラスト入りのわかりやすいリーフレットを作成し、広く問題提起を行うべく準備を進めています。
次に現在取り組んでいるのは校則問題です。皆さんも、一度は学校の校則の理不尽さを感じたことがあるのではないでしょうか。あたかも学校内は治外法権であるかのように児童・生徒の人権を無視したルールが当然のように存在し、何の疑念もなく適用され続けています。近年では、ツーブロック校則問題、黒染め校則問題なども話題となっています。なぜ、学校の校則は、当然のように人権を無視しているのか、私たちはこのような問題意識から、校則問題をとりあげ、全国の団員の活躍も共有し始めています。
また、近年、問題になりつつあるのが高等教育機関に関する問題です。先の通常国会においても国際卓越研究大学法案が通過しました。現在、大学は学問研究よりも「稼げる大学」を目指し、さらに、大学のガバナンスにステークホルダーという体で政府や政治権力が介入するという問題状況があらわになっています。こうした事態は、学問の政治利用に直結する問題であり、当委員会でも、高等教育の問題について取り組みをはじめました。
「教育」とは、市民社会を形成する人々が誰もが通る道であり、人格の形成や価値観の醸成、ひいては社会の形成・成熟において重要な意味を持ちます。戦前戦中においても教育は権力者に巧みに利用され、戦争への道を進める原動力となっていました。それだけ社会に与える影響は大きく、平和・人権との関係でも重要な意味を持ちます。当委員会では少しでも本来の「教育」を取り戻し、平和や人権保障に資するよう取り組みを継続しています。ぜひ我々と一緒に活動していただけませんか?
 委員会は1~2か月に1回のペースで開催しています。学習会やシンポジウム、教科書リーフの作成など、多様な活動を行っていますので、少しでも興味のある方、大歓迎です!

 

*5月集会・感想(その4)*

 

新人学習会に参加して

神奈川支部  前 田 ち ひ ろ

1 早田由布子先生によるご講演を受けて
 5月集会の2日目には、新人弁護士・若手団員学習会に参加させていただき、その前半では、早田由布子先生による、憲法について、またあすわかの活動についてのご講演を拝聴しました。
 まず、憲法に関しては、自民党改憲草案の概要と、改憲に抗議する運動について学ぶことができました。大学、ロースクールと、憲法についてはもう長く学んできましたが、自民党改憲草案についてはそこまできちんとした知識を持っていませんでした。しかし今回、自民党改憲草案の問題点はどこなのか、どういう理由で問題なのか、自民党改憲草案から読み取れる自民党の思惑はどんなものか、また、これまでの自民党政権により行われてきたものがどのような意味で改憲の布石となっているのか等を知ることができました。今まで、特定秘密保護法の成立や、憲法9条の解釈改憲をする閣議決定、安保法成立、また共謀罪の新設など、出来事の一つとして認識しているにすぎなかったものについて、自民党改憲草案から読み取れる立憲主義の破壊という自民党の姿勢、思惑と併せて見ることで、一つ一つの出来事の後ろ側にある大きな流れを意識することができ、一つ一つの出来事が改憲への布石としての機能を果たしているということを改めて理解することができました。しかし、同時に、国民においては、依然として、自民党の描く未来がどんなものであるのか、その問題点はどこにあるのかを的確に理解できていないために、これまで起きた一つ一つの出来事をつなげて理解することができず、すでに大きな流れが存在していることに気づいていない人が大多数であるという現状をも改めて認識することができました。あすわかの設立から20年が経過した現在におけるこの状況に、草の根運動を通じた社会の意識改革というものがいかに難しいかということを痛感しました。しかし、いかに難しくとも、草の根運動により社会に根付いたものは、その後簡単に消えてしまうものではなく、そう考えると草の根運動を通じた社会改革を目差し続けることが結局は重要なのだと感じます。
 いつ日の目を見るか分からなくとも、日の目を見ることを信じ続けてそのような草の根運動を継続してきた諸先輩方の存在を知り、尊敬の念を抱くと共に、いよいよ改憲が現実味を帯びるこの大変な時期に弁護士としての活動を始めることに、大変さ以上の意義深さを感じることができました。
2 先輩弁護士の業務や生活をうかがって
 2日目の後半は、早田由布子先生、朝隈朱絵先生、伊能暁先生によるパネルディスカッションを拝聴しました。このパネルディスカッションでは、弁護士の仕事の覚え方や、業務に必要な情報の獲得の方、仕事の獲得の仕方といった、弁護士業務そのものについての話から、ワークライフバランを意識した一日の生活の仕方など、生活の面でのお話もうかがうことができました。特に、弁護士業務を続けながら結婚出産等をご経験した先輩のお話は、考え方や具体的な工夫の仕方など、そのすべてがとても参考になり、有り難い機会を頂けたと感謝しております。また、学習会等の講師としての仕事に関しては、これまでの学習会で受けて困った質問など、とても知りたいけれど中々聞けないような話を、具体的エピソードを交えてお話いただけて、とても実践的なアドバイスを受けることのできる貴重な時間となりました。
 どのお話も印象深いものばかりでしたが、特に、早田先生が最後に仰った、「今は時代が大きく変わるときで、誰もが模索中であるから、注力したいポイントは、これまで以上に自由に探し、自由に選ぶことができる」という言葉がとても印象に残っています。これから、弁護士としての社会との関わり方を模索していくにあたっては、人の価値観が良くも悪くも大きく揺らぐこの時代を、思う存分に楽しみ、そして利用して、自由な発想を大切に過ごしてゆきたいと思いました。
 貴重な経験を有り難うございました。

 

法律家が安全保障政策を議論する(上)

広島支部  井 上 正 信

 このところ、団通信で安全保障政策にかかわる意見やそれに対する議論が盛んに登場しています。多彩な意見が交わされており、なかなかついていけないくらいです。ここで一人一人の団員の議論に対して意見を述べたり批判したりするつもりはありません。私は議論の前提として踏まえておくべき点を述べてみたいと思います。

2 日米安保体制やNATOは集団安全保障ではない
 日米安保体制やNATOは軍事同盟であり、集団安全保障システムではありません。この点は混同されがちですが、国連憲章上も明確に異なりますし、実際の機能も異なります。団通信でもこの点を混同されたものがありました。
 集団安全保障システムは、国連憲章では第5章から第8章に規定されたものです。これは仮想敵国が想定されず、憲章や国際法に違反する行動をとる国に対して、国連加盟国が集団で制裁(経済制裁や軍事的制裁)を行う仕組みで、第8章は地域的集団安全保障のシステムを規定します。現在地域的集団安全保障システムは、北米大陸からヨーロッパ、ユーラシア大陸にまたがる(バンクーバーからウラジオストックまで)欧州安全保障協力機構(OSCE)とASEANです。中南米にもあったと思いますが、よくは調べていませんのでここでは除きます。
 軍事同盟は、憲章第51条で集団的自衛権が創設されたことにより結成されたものですが、元々国連創設以前から存在していたもので、本来は国連創設により存在すべきものではなかったものです。集団安全保障の理念に反するからです。ソ連側の軍事同盟には、憲章の敵国条項を根拠にしたものがあったようです。
 軍事同盟は仮想敵国に対する集団防衛のシステムです。したがって集団安全保障システムとは理念的にも実際面でも矛盾した存在です。
 例えば、OSCEの内部にはNATOという軍事同盟があります。ロシアを主要な仮想敵としています。OSCEは1975年に創設された欧州安全保障協力会議(CECE)が、冷戦終結後の95年に機構(organization)となったものです。OSCEを支える条約として、欧州通常戦力条約とオープンスカイ条約がありました。前者は軍備管理条約ですし、後者は信頼醸成措置です。両方によりOSCE内でのNATOとロシアとの間の軍事的緊張関係を緩和する機能を果たしてきました。
 しかしながら、NATOの東方拡大と旧東欧諸国(ポーランドとチェコ)へ米国がミサイル防衛システムの配備を始めたことで、ロシアとの間で不信と対立が徐々に高まり、ロシアは欧州通常戦力条約の履行停止や離脱を表明し、米国はオープンスカイ条約から離脱宣言をしました。
 将来日本を含む北東アジアで集団安全保障機構の創設が進むことになった場合、日米同盟や米韓軍事同盟との間で、集団安全保障の機能が阻害されたり、矛盾するなどの難しい問題が生じる恐れがあることは、承知しておいてよいと思います。
3 日本の安全保障防衛政策を論じる場合、これまで歴史的に形成されてきたものを踏まえた議論が必要
 安全保障、防衛政策を議論する意見には、とても抽象的な議論が多いと感じています。私は日米同盟や自衛隊の実態、防衛政策をできるだけ具体的に考えようとしてきました。
 我が国の安全保障防衛政策は、2015年12月に国家安全保障戦略が作成されるまでは、これに類するものとしては、防衛大綱、国防の基本方針くらいしかなく、安全保障政策は本来総合的なもの(軍事、外交、経済、文化等を含む)であるにもかかわらず、多分に防衛政策に偏っています。私がこれまで読んできた文献がそのような内容のため、どうしても防衛政策に重点を置いたことを述べることになります。
 そのうえで、現在進められているわが国の防衛政策と自衛隊の防衛態勢、日米同盟の運用と憲法9条との関係を論じる場合、我が国の現在の防衛政策、自衛隊の防衛態勢、日米同盟の運用が歴史的にどのように形成されてきたかを見ることが重要と考えています。それにより、これから将来どのような方向に向かおうとしているのかを知ることができるし、そこにどのような問題が潜んでいるかも浮き彫りにできるし、私たちが取り組むべき課題も見えてくると考えています。
4 安全保障防衛政策において「脅威」をどうとらえるかが重要
 いうまでもなく、安全保障防衛政策の最重要概念は「脅威」です。我が国の存立や国益を脅かす可能性のある「脅威」を明確にしなければなりません。「脅威」に対してどのような政策を採用し、対処するのかを示すものが安全保障、防衛政策だからです。
 「脅威」は、相手の意思と能力を掛け合わせた結果で判定すると言われています。それだけに「脅威」をどのように認定するのかということは、たいへん難しい判断です。とりわけ、「脅威」は政治的な思惑で作られることがあるだけに、私たちは政府が述べ立てる「脅威」が本当に私たちにとって脅威であるのか冷静に判断しなければなりません。とりわけ政府が「脅威」をあおっているときにこそ、法律家は冷静に物事を分析して判断しなければなりません。
 米国の安全保障政策の宿痾ともいうべき「敵の敵は友」という論理で、例えばイラクのフセイン、アルカイーダのウサマ・ビン・ラディン、パナマのノリエガを育てた結果、ある時から米国の国益に反した行動をとるようになり、米国の国家安全保障政策上最大の「脅威」とされ、その結果はご承知の通りです。
 我が国では、2022年4月27日自民党提言は、北朝鮮、中国、ロシアを「脅威」とし、複合事態(三つの脅威が現実となる事態)に備えるべきであると、「まじか!」と、とても驚くべき認識を示しました。
 これも一般論ですが、安全保障政策上の「脅威」を論じる場合、「注視」「懸念」「脅威」という三段階で表現するようです。「注視」「懸念」は潜在的な「脅威」です。
 我が国の安全保障防衛政策を述べている防衛大綱、防衛白書では、これまでロシアに対しては「注視」の対象でした。中国は「国際社会の重大な懸念」としており、「脅威」と認定したのは北朝鮮だけでした。自民党提言は、一気に中国、ロシアを「脅威」としたのです。ロシアは北方領土問題で外交交渉の相手でしたから、「脅威」と認定したら領土交渉が進められなくなるとの政治的思惑でした。ウクライナ侵略で、今後領土交渉を進めることは見通せなくなり、政治的配慮が不要となったために「脅威」としたのでしょう。
 中国については、昨年3月、今年1月の2+2で台湾問題が急速にクローズアップしたからでしょう。
 我が国の安全保障防衛政策においても、「脅威」が政治的な思惑で作られることを示しています。
 本当に中国とロシアは我が国の「脅威」なのか、私はそうは思われません。いったん安全保障防衛政策において、相手国を「脅威」とすれば、顕在化した仮想敵国ですからこれに対しては、軍事的な対処をとることになります。ですから相手を「脅威」と認定するかしないかは、とても慎重を要します。
(続く)

 

憲法前文の理念の「かってない揺らぎ」  にどう向き合うか

東京支部  木 村 晋 介

幹事長の問題提起と日本共産党の立場
 小賀坂幹事長は「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意(する。憲法前文)」の基本的考えそのもののリアリティがかってなく揺らぎつつある、と現状分析しておられます(5月集会問題提起p1)。これは的確な分析であると思います。問題は、この理念が揺らいだ時に、それに応じてどのような新たな問題提起をするかということでしょう。
 例えば、日本共産党の志位さんは、6月21日、日本記者クラブ主催の党首討論会に臨んで、「私たちが政権に参画する期間は、政権の憲法解釈としては当然、自衛隊は合憲という立場になる」と述べました。 政権にいるときは合憲だが、政権から降りたら違憲になる、というのはあり得ないので、結局自衛隊の合憲性を明確に認めたことになると思います。共産党は22年前から「侵略を受けたときに自衛隊を使う」といってきました。そして、ロシアのウクライナ侵攻が始まった後には、「個別的自衛権に基づき国民の命を守る」という志位さんの発言があり、私はこれに注目し、近々に綱領の改訂が行われることを予測しました(本誌1776号)。
 綱領では、憲法9条の完全実施=自衛隊解消、と規定されているわけですから、共産党は自衛隊の存在が9条に抵触しているという立場であると考えられてきたからです。しかし、幹事長のいうように非武装平和のリアリティがかつてなく揺らいでいる時代に即応して、志位さんは党首討論の機会に綱領の「解釈改訂」をしたものだと思います。また、共産党は声明で中国の海洋政策、特に海警法の制定即施行について、いち早く政府より厳しい批判をしています(本誌前号拙稿)。幹事長の分析されたような情勢に見合った発言であり、ここでまたひとつ、共産党の柔軟性が示されていると思います。
団は有効なオルタナティブを人々に示しているか
 このように、憲法のもともとの想定範囲を超える現実が現れ、憲法前文のリアリティにかつてない揺らぎが生じたのですから、そういう新たな事態にそった団内の新鮮で具体的で積極的な議論が期待されるところです。
 ですが、五月集会の報告集を見る限り、幹事長の現状分析はあまり生かされていないように見えます。今までどおり、軍事同盟を批判し、抑止論と日米の軍事政策を批判し、これを理由に「改憲反対運動を強化しよう」という慣習的なパターンから抜け出していないように見えるのです。
 例えば、自衛隊をどうするか、全く認めないのか、専守防衛の範囲ならいいのか、攻められないためにどうするか、攻められたらどうするか、抑止力を批判するとしたら、それに替わる何で対応するのか。中国の膨張的な海洋政策についてどう評価し国に対処を求めるのか(本誌前号拙稿参照)。従前どおり、「平和外交と国連とアセアン」というだけで良いということなのか。すぐに意見が一致するとは思いませんが、国民が強く関心を持っているテーマについては、団内に積極的な討論がなされるべきでしょう。「かってない揺らぎ」はあるけれども、今前やってきたことをしっかりやっていけばその揺らぎは揺り戻しが効く、ということなのでしょうか。このままでは、日本の平和運動は「反対はするが、有効なオルタナティブを示していない」という批判(この批判は戦後一貫してなされています)を受け続けることになるように思います。
私の三つの問題提起
 私は、5月集会で議論されていない三つの問題を提起をします。
 一つは、世界中で民主主義の影響力が後退し続けているということをどう見るか、ということです。憲法の前文がうたう、民主主義は人類普遍の原理であるとする理念のリアリティも今かつてなく揺らいでいます。民主主義がすでに人類普遍の原理ではなくなっているということです。フリーダム・ハウスというアメリカのNGOが19年にまとめた報告書では、地域を問わず13年連続で、民主主義の後退が見られたとされています。民主主義が保たれている国の人口はすでに少数派、過半数を割り46%になっている、ともいわれています(もっと悲観的な数字を出している機関もあります)。その分だけ、権威主義的・独裁的な国家が増えているということです。例えば香港での自由と民主主義の圧殺、ミャンマーの軍政化、ロシアによるウクライナ侵攻も、こうした一連の流れの中でとらえられるべきだと思います。決してばらばらに偶発的に起きている問題ではありません。だからどうする、という答えがすぐ出る問題ではありませんが、これを一つの基本情報として共有し団内の議論がなされるべきだと思います。今まで通り日米同盟を重点的に批判していけば足りるということなのでしょうか。
 二つ目は、今年の1月3日に、国連の常任理事国である米、ロ、中、仏、英の五か国が核軍縮などに関する共同声明を発したことをどう評価するかということです。この声明は、以下のようにまとめられています(読売1月4日夕p1など)。
1 五か国は戦争回避と戦略的リスクの低減に責任を負う。
2 核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない。
3 核兵器は防衛目的の物であり、侵略の抑止、戦争予防の物である。
4 衝突の防止や相互理解の推進のため、2国間や多国間の外交的なアプローチを追求し続ける。
5 核兵器のさらなる拡散を防止する。
6 核拡散防止条約の義務を順守する。
 この共同声明で「これで確実に核戦争が回避される。核軍縮が進む」と楽観的な評価をする人はいないでしょう。ですが、国連のグテーレス事務総長は1月3日、これを歓迎するとの声明を発表し、「核拡散防止条約で課せられている義務を含め、不拡散や軍縮に関する合意などを順守する必要があるという核保有国の認識を高く評価する。そして、核戦争を防ぐための措置を追求する姿勢を示したことについて、今後のより具体的な取り組みに期待している」としました。どうしても私たちの目は、核兵器禁止条約のほうに行きます。事務総長も「核を巡るあらゆるリスクをなくす唯一の方法は核兵器の廃絶だ」と述べています。それはその通りです(これが困難なことについては1779号拙稿)。しかし、なぜこうした声明が決して仲が良いとは言えない核保有5大国の共同で行われたかは興味をそそられることであり、様々な角度から考えてみることには大きな意義があると思います(この後にロシアによるウクライナ侵略がなされたことの評価も含めてです)
 三つめは、五月集会の開かれていた5月23日、日米首脳会談で、バイデン大統領は日本の国連常任理事国入りを支持する、と表明しました。このことをどう評価すべきでしょうか。アメリカはいままで、日本が集団的自衛権を封印したままで、常任理事国となることに反対してきました。理由は例えば、自国は憲法上の制約があってできない軍事行動について、日本がほかにはこれを命じるというのは偽善であり、ダブルスタンダードだということです。ここでのアメリカの態度の変更は何を意味するかを分析することは重要で、改めて日本の常任理事国入りについて団内でも議論されるべきだと思います。
 これらについて団内で議論していただくこと、また団員の方からのご意見をいただけることを期待します。

 

『西岡芳樹先生を偲ぶ』

福岡支部  永 尾 広 久

 大阪の西岡芳樹団員(20期。以下、西岡さん)が昨年8月に77歳で亡くなって1年たとうとしているなか、すばらしい追悼文集ができあがった。
 私も寄稿者の一人。それは、西岡さんが日弁連の憲法委員会(今は憲法問題対策本部)の初代委員長で、私は、その次の次の委員長を3年間つとめたことによる。私の直前の委員長は村越進弁護士で、日弁連会長選に出馬するというので、なぜか福岡の私に声がかかった。
 そして、この3人は、みな大学生のころセツルメント活動にいそしんだという共通項がある。私が川崎セツルで、西岡さんは亀有セツル。村越さんは氷川下セツル(だったかな…)。
 ちなみに、この立派な冊子の編集責任者の岩田研二郎団員(33期)も、亀有セツルと同じ足立区の鹿浜セツルのセツラー。
 この本によると、西岡さんの配偶者の恵子さんもセツラーで、ダンパで初めて出会ったらしいのに、西岡さんには何の記憶もなかったらしいとのこと。
 灘中、灘高卒の西岡さんは、麻雀、パチンコ、ダンス、ボーリング、なんでもござれだけど、「何をしても虚(むな)しい」と言っていたところ、セツルに顔を出したようだ。
 長めの髪をオールバックにして耳にひっかけ、細身のマンボズボンに明るい紺色のブレザー。これは、まことに生真面なセツラーにはそぐわない、「派手くるしい格好」。亀有のハウスにも、西岡さんは法相部ではなく文化部のセツラーで、土曜日ごとにそんな格好でやってきた。いやあ、川崎にはそんな派手な格好のセツラーはさすがに見かけなかった。
 西岡さんは、弁護士になってからも相変わらずのダンディーぶりは変わらず、この文集でも何人も指摘している。いつも三つ揃いのスーツ、カラーワイシャツ(襟だけが白いクレリックシャツ)、センスのいいネクタイにピン。
 恐らく、このセツルメント活動をきっかけとして西岡さんは労弁になることを志向し、駒場で司法試験の勉強を始め、本郷の3年生のとき、さっさと合格した。
 そして、結婚するときに恵子さんに言ったのは…。
 「ぼくはビジネスで弁護士をやるのではない。ワークでやるのだから、経済的には期待しないでほしい」
 似たようなことを、娘(三女)にも西岡さんは言ったらしい。
 「商売で弁護士をやってるんじゃない」
 西岡さんは、文字どおり人権派弁護士として最後までがんばった。
 辻公雄弁護士が西岡さんについて、「彼のもっとも立派な部分は、大学時代のセツルの精神を堅持し、社会派または人権派の弁護士として大地に根をおろしていることである」と評したが、これは真のほめ言葉だと思う。私もそれを目ざしている。
 西岡さんが弁護士として取り組んだのは、弁護士会の人権擁護委員会(医療問題)、そして憲法委員会を別にすれば、中国在留日本人孤児国賠訴訟とマンション問題。実は、私は今も築20年以上のビルの建築瑕疵の修理代をめぐる裁判を担当しているが、その消滅時効の問題をいかにクリアーするか悩んでいて、インターネット検索したところ西岡さんの論文がヒットした。それで、旧知の仲なので西岡さんの自宅兼事務所に電話をかけて教えてもらった。いつものように優しい口調で本当に助かった。まさか、それほど西岡さんの病状がひどいとは夢にも思わなかった。
 西岡さんは、へビースモーカーだったようで、死因も肺ガン。それでも、何回も死の淵から生還し、娘や孫たちを励まし、喜ばせたようだ。西岡さんがすごいのは、そのときの食事。
 西岡さんは、最後まで好きなものを好きなように食べた。抗ガン剤のあとも、食欲があまり低下せず、恵子さんの手づくり肉じゃが、虎屋の羊かん、そして店のカレー、うなぎ弁当、かりんとう万十、チーズケーキ、プリン。いやはや、なんとも…。
 実は、西岡さんは自ら料理人でもあった。でっかいマグロを白浜(和歌山)で買って自宅で自らさばいたというのにはびっくりたまげてしまった。
 西岡さんは「うちの娘は美人じゃぞ」と常々自慢していたが、その娘さんたちが語る父親像も、西岡さんは「諦めない人だった」とか、面白い。
 「自分の人生に悔いはない」と西岡さんは家族にもらしたとのこと。まことにそのとおりの人生。でも、昨今のキナ臭い状況をみると、西岡さんは、彼方から、なにしてるんや、なんとかせいやと渋いダミ声で叱咤激励されそう。いえ、先生、私たちもなんとかがんばっていますし、あきらめずにがんばりますから…、と返したいと思っている。
●注文は、大阪のきづかわ共同法律事務所へ ℡ 06-6633-7621

 

【書評】「ウトロ ここで生き、ここで死ぬ」(中村一成著 三一書房)を勧める(下)

 神奈川支部  神 原  元

4 土地問題の始まり
 1970年代の日立就職差別裁判に始まる反差別闘争は、「日本の公民権運動」というべき「指紋押捺拒否運動」につながり、朝鮮の人々の反差別闘争は、日本の市民社会をも巻き込み、1990年代には戦後補償の問題が提起される等、成果を上げていく。ウトロの住民も重労働に耐え、ようやく瓦屋根の家を建てる者が現れる。
 ところが、ウトロを襲った理不尽はさらに続きがある。日国からウトロの土地を引き継いだ日産車体は、「住民代表」と称する怪しげな人物に土地を売却。その人物は、さらにウトロ一帯の土地を地上げ企業である「西日本殖産」に売却してしまうのだ。「西日 本殖産」は地上げ屋らしく、ウトロの土地に400戸のマンション建設を発注、住民に無条件の立ち退きを迫る。私には、かつて朝鮮半島で民衆から土地を奪った日本帝国主義の亡霊が、現在に生き返って同じことをしているようにしか見えない。
 ウトロの民衆はここで「正義」を掲げて立ち上げる。
 「強制退去決死反対」「私たちは屈しない ウトロを守ります」「ウトロの子どもに未来を」「ウトロはふるさと」「私たちはウトロに生き、ウトロに死にます」「あなたたちに正義はありますか」家の前には大きな看板で血の出るような文句が掲げられた。住民たちはデモや抗議活動、座りこみで地上げ屋に対抗していく。
 世界からも支援が集まり始める。戦後補償問題としてドイツとの比較を議論する集会が開かれ、ウトロの住民は「被害の歴史だけ教えて加害を教えてこなかった日本政府に怒りを感じます」「(一世たちは)故郷の土地を取り上げられ、やむを得ず日本に来たんです。ウトロの町は故郷と同じなんです」と訴えた。「過去清算」が運動のテーマになった。
5 人間性の回復へ
 市民運動の中心を担ったのは女性たちだった。一世の女性たちは初めて重い口を開き、飛行場工事の厳しさや敗戦後のバラックの惨めさ、差別、読み書きができないことの悔しさをマイクを握って語り始めた。語ることそれ自体が彼女たちの人間の尊厳の回復作業だっただろう。
 圧巻は、女性たちで結成された、民族楽器を打ち鳴らす「ウトロ農楽隊」のパレードである。民族楽器チャンゴを叩く時、彼女たちはウトロに生きる朝鮮人としての自分を回復するのだった。日産本社前への抗議活動でも民族楽器が打ち鳴らされた。
 参加した一世の女性はこう述べた。
 「闘い始めて本当によかった。『人間の本質を追い求める人との出会いには、計り知れない感動がある』この言葉の意味を今にして始めて知りました」
 ここに、理不尽に立ち向かうことを決意した人々に共通する、人間としての輝きがあるように思う。私たち弁護士にとって、この輝きの場面に立ち会うことこそ、人生で最高の瞬間である。
 ウトロの土地問題。裁判所はこの問題を「過去清算」の問題とは捉えず、単なる「土地を巡る法律問題」として解釈し、地上げ屋の主張を一方的に認めた。しかし、ここからがこの話のすごいところである。3分の1と大幅に縮小したものの、民衆は最後までウトロの土地を守ったのだ。
 そこからの物語は、是非、みなさんが本書を購入して読んでもらいたい。少しだけ言うとすれば、ウトロを救ったのは彼彼女らの故郷である韓国市民であり、韓国を訪問したい際に先頭に立ったのは、最初の民族学校で朝鮮語を身につけた1世の一人だったことである。
6 結び
 全編濃厚で重い一冊。多くの人々の思いと人生が詰まっているからだ。重い仕事をやり遂げた筆者に心から敬意を評するとともに、本書を全ての人に強く勧めるものであります。

 

労働裁判を勝ち抜くうえでの「事実・真実・本質」の捉え方

神奈川支部  岡 田  尚

1 「労働」したことも「運動」したこともない私がナント労働弁護士48年
2 これまで顧問あるいは事件を依頼された主な労働組合
 国労・全逓・日教組・自治労・全金・全自交・全造船・全国一般・運輸一般・医労連・私教連・自治労連・全教・JMITU・自交総連etc.
3 これまで獲得した主な勝利判決
(1)国家公務員組合の団結権侵害に対する損害賠償(全税関・最高裁 平13.10.25)
(2)就業時間内組合バッジ着用に対する攻撃の不当労働行為性(国労神奈川・東高 平11.2.24・最高裁 平11.11.11不受理決定)
(3)整理解雇4要件で解雇無効(全金池貝鉄工)
(4)異種配転拒否解雇無効(医労連相模原南病院)
(5)組合間差別・協定なしの一時帰休における賃金全額払い(JMIU池貝)
(6)刑事弾圧事件無罪(国労横浜人活・全逓横浜中郵)etc.
4 労働裁判勝利のためには
(1)事件の本質を長いスパン(縦軸)、広いフィールド(横軸)で捉える
(2)大事件にする(とういことは普遍的課題と結びつける)
(3)基準は、法理もあるが何より道理あるいは社会的妥当性
(4)裁判官や公益委員とのスタンス→「反動」「悪い」「ダメ」「バカ」ではなく「YES、BUT」の思想で、「どう説得するか」「納得してもらえるか」である
(5)説得のためには、ストーリーが大事(決してフィクションではない)。事実の羅列だけでは説得のための事実の主張にはならない。メリハリのきいた構成が必要
(6)「事実」で勝つと言う場合の「事実」とは何か
(7)「事実」と「真実」は違うのか
(8)この事件で問われているものは何か(事件の本質)を把む
(9)事件は動く
(10)労働裁判は勝てるからやるのではない、勝つためにやる。その勝ち負けの評価も裁判上に限らない。ときに裁判に負けても運動上での勝利を目指してやる

TOP