第1790号 10/11

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

●「国葬」反対9.27国会前大行動に参加して  塚本 和也

●国葬反対国会前集会に参加して  和田 壮一郎

●第6回先輩に聞くシリーズの感想  佐藤 雄一郎

●郷路征記弁護士の講演「統一協会その違法な伝道・教化の手法」を聴いて  髙橋 友佑

~委員会活動へのお誘い~

◆治安警察問題委員会へのお誘い  三澤 麻衣子

◆貧困・社会保障問題委員会の紹介  林 治

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●議案書の情勢認識には賛成できない  中西 一裕

●木村晋介さんへの回答-団通信上の批判について(後編)  松島 暁

●ロシアのウクライナ侵略は「気候戦争」だ!!―斎藤幸平氏の見解を受け止める―  大久保 賢一

●【書評】自由法曹団の皆様に、自著「DHCスラップ訴訟」のご紹介  澤藤 統一郎

■「朝鮮学校を支援する全国弁護士フォーラム2022」参加の呼びかけ  辛 鐘建

■次長日記(不定期掲載)      岸 朋弘


 

「国葬」反対9.27国会前大行動に参加して

東京支部  塚 本 和 也

 はじめまして。または大変ご無沙汰しております。8月に八王子合同法律事務所に移籍しました、67期の塚本和也と申します。
 弁護士1年目が戦争法強行採決の年で、よく国会前に行っていました。国葬前日に足立区から八王子市に引っ越しました。ひさしぶりかつはるばる国会前に行ったので最初から最後まで参加していたら、この原稿を書かせていただくことになってしまいました。
 さて、13時半ごろ霞ヶ関駅に着くと、駅構内には集会参加者が多くいて、トイレは行列となっていました。出口は閉鎖されていなかったですが国会前まで少し遠回りさせられて向かいました。国会近くの歩道は、集会参加者と通り抜ける人用に半分に分けられていました。国会手前100メートルほどで集会参加者用の列が進まなくなったので、通り抜ける人用の道で団の旗のところまで行きました。その後続々と団員や事務局の方々が集まってきました。延べ100人ほど参加されたかと思います。
 14時、集会が始まりました。実行委員会の菱山さんが、「今日は自由民主党の葬式」だとの熱い訴えとともにコールを行いました。本当に共産党よりも自民党が名前を変えるべきだと思います。続いて立憲野党の各代表が国葬の問題点をわかりやすく力強く訴えました。志位委員長が「安倍政権こそが戦後最悪の政権」と言い切ったのが印象に残りました。さらにカトリック教徒でフェミニストの方、在日ビルマ労働組合の方や広島の住職の方の話など、当事者の発言もよかったです。フォークソングは心に響きましたが、正直、個人的には少し長いと感じました。原発や基地の被害者、過労死遺族、統一協会元信者の方などの発言もあれば、よりよかったかと思いました。
 参加者は約1万5000人とのことでした。19日祝日の1万3000人よりも多く平日昼間に集まるとは思っていませんでした。実行委員会の方が何度も「警察の不当な介入・弾圧を防ぐために交通誘導にご協力ください」と呼びかけていたおかげか、トラブルはなかったようなので、よかったです。いつかまた道路にあふれたいとも願っています。
 たくさんの方とひさしぶりにお会いできて、思いを共有できたので、参加してよかったです。参加できなかった方も含め、引き続き、自由と民主主義を守るために頑張っていきましょう!

 

国葬反対国会前集会に参加して

東京支部  和 田 壮 一 郎

 9月27日に国会前の安倍晋三元首相への国葬反対集会に参加しました。大勢の市民が集まって怒りをあらわにしている光景は圧巻でした。人が多すぎて通行が大変でした。
 国葬については,安倍晋三元首相の功罪の問題というより,基準なく誰かを祭り上げるような国家行事自体やめるべきではないかと思っています。
 国は,安倍さんを悼むことを強制していないとしていますが,半旗を掲げる自治体,学校があるなど強制されていると考えざるを得ません。

 

第6回先輩に聞くシリーズの感想

京都支部  佐 藤 雄 一 郎

1 2022年9月28日、我々京都支部の団員はある学習会への動員を掛けられていました。開催1ヶ月前には、京都支部の幹事会議・事務局会議で開催告知がなされ、皆が手帳に予定を書き込み、勢い込んで参加をしました。
 事前告知の効果もあり、京都支部に留まらず、多くの団員が村山晃団員講演の学習会「第6回先輩に聞くシリーズ」を拝聴することとなりました。以下では、不詳、弁護士3年目となる私が村山晃団員の話を聞いての雑感を述べさせて頂きます。
 村山団員の話を聞いていて、始めに感じたことは、話が非常にわかりやすくて、聞きやすいということでした。「文章を書くときは、高校生でもわかるように書け」とは巷間よく聞く心構えの一つですが、伝えたい事柄をわかりやすく、要点を押さえて伝えることは、「言うは易し、行うは難し」の代表例であるため、自然にそれを実践している点にまず感心してしまいました。長時間集中して人の話を聞くことが苦手な私が、楽しく村山団員の話を聞くことができたので、かなり凄いスキルだと思います。
3 私も京都建設アスベスト訴訟の弁護団員であるため、偶に開かれる飲み会の席で村山団員の昔の事件や弁護士としての心構えについて聞く機会があるのですが、終始一貫ぶれることなく、勝利し、労働者の権利を守ることが大切だと仰っていました。今回の学習会でもその部分は変わらず、より具体的で実践的な勝訴のためのアプローチ方法を学ばせて頂きました。
 村山団員曰く、「一つ、法廷を創る。二つ、反対尋問で相手の信用性を打ち砕く。三つ、主尋問で固める。四つ、主張で決める。」とのことです。「法廷を創る」では、裁判官や相手方と徹底的に弁論を戦わせ、こちら側の議論に引き込むことが肝要であり、その過程でこちらの言い分が正しいのだということをわかってもらうための努力を惜しむなという趣旨だと思います。今では私も単身で裁判期日に裁判所に乗り込むことが増えてきましたが、弁論期日に裁判所・相手方と舌鋒鋭く討論をしていたかと言えば、よくわからない部分については釈明を求めることはしますが、書面・証拠のやり取りをして次回期日の調整をして終わりというのを繰り返していたように思います。もちろん、事案によって弁論での活動の仕方に濃淡はあるとは承知していますが、次からもう少し「法廷を創る」ことを意識した訴訟活動を行っていきたいと感じました。
 村山団員のご紹介された新卒採用教員の分限免職処分事件の事案の特徴でもありましたが、証拠がほとんどない事件での尋問での闘い方は大いに参考になるものでした。私も現在進行形で、証拠の薄い事件で闘うことを余儀なくされており(労働事件ではないですが)、最終的には、尋問で勝訴をもぎ取ることも視野に入れて活動していく覚悟が出来ました。なので、私と同じ事務所の福山団員が質疑応答の時間でお願いをしていましたが、尋問に当たってどんな準備をし、どの点に力点を置いていたのかの資料があれば、是非ともご提供頂きたいなと私も思いました。
 最後の「主張で決める」については、できるだけ簡潔・明瞭・確信的に、誰が聞いてもすっと染み入るように主張することがポイントだというお話でした。ただ、あらゆる事件でこれが可能かと言われれば、そうと断言するのは躊躇せざるを得ないし、アスベスト訴訟などは手探りでやって来たところもあるので、結局ケースバイケースとのことでした。まぁ、そうだよなぁと思いながらも、3年弱に過ぎない私の弁護士生活の中でも、無駄なことばかり書かれている書面は何度も目にする機会がありましたし、見るだけで読む気が失せるような書面は「百害あって一利なし」だと思うので、そんな書面にならないように気をつけねばと改めて教訓としました。
4 最後に、まだまだ私は駆け出しで、知らないこと、わからないこと、経験不足に足下を掬われそうなことが多々ありますが、知らなくても、わからなくても、おかしいことはおかしいと堂々と言えるようにするマインドこそが弁護士の基本にして極致なのだと自己暗示を掛けながら、これから出会うかもしれない難事件に立ち向かって行けたらと思います(でも怖いので、民訴と刑訴の異議を述べる手続は予め勉強しておきます)。

 

郷路征記弁護士の講演「統一協会その違法な伝道・教化の手法」を聴いて

北海道支部  髙 橋 友 佑

1 はじめに
 2022年8月23日、自由法曹団北海道支部と青年法律家協会北海道支部の共催で、郷路征記弁護士による「統一協会その違法な伝道・教化の手法」と題する講演が開催されましたので、その内容をご報告します。
2 ある人が統一協会員になるまで
 郷路弁護士は、ある人が統一協会員となる過程を、安倍晋三襲撃事件の被疑者である山上さんの母を例にとり説明をします。以下、山上さんの母をAさんと呼んでいきます。
 統一協会員への道は、統一協会側が、対象となる人物を選定することからはじまります。対象者の条件は、原則として預貯金が100万円以上あること等いくつかあるようですが、Aさんはその条件を満たすとして統一協会によってターゲットにされました。
 統一協会によってターゲットにされると、「あなたの人生を決めるのは、運勢が80%、努力は20%である」「不幸の原因は先祖の因縁である。」などという通称「トーク」をされるようです。この「トーク」を信じない人間はこの時点で対象から外されますが、Aさんは、夫を自死で亡くす等のつらい経験をいくつもしてきていたため、この「トーク」に感銘を受けたようです。
 対象者として選定されると、次はビデオセンターに誘われます。ビデオセンターでは、霊人体について学ばされます。霊人体とは、現世での行いによってその完成度が決まるものであり、その完成度に応じて、死後、天国や地獄等に行くことが決まるものです。そこでは、理屈で考えることや質問をすることは許されず、ただ霊人体をはじめとした統一原理を丸暗記させられます。そして、Aさん夫の自死等の不幸は、Aさんの現世での行いに問題があるから引き起こされているものであると説明し、Aさんに罪悪感を植え付けます。Aさんを罪の意識のどん底まで突き落としたあと、救われる道は神に献金をすることだと告げるのです。
 郷路弁護士は、このビデオセンター受講までの過程に統一協会の最大の問題点があると指摘します。それは、ビデオセンターが統一協会員になるまでのプログラムの一環であることは対象者に一切隠されたまま受講させられる点です。統一協会という正体を明かさないまま、知らず知らずのうちに統一原理を教え込み、統一協会員に仕立て上げていくのは、対象者の信教の自由の侵害であると指摘します。
 ビデオセンター受講後は、教育部というステップに移行し、そこでは更なる献金を正当化するための理屈を教え込まれます。献金の資金がなくなると、借金を指示されます。対象者は、親戚、友人、知人ありとあらゆるところからお金を借りますが、無論返済できないので周囲との人間関係が断絶されます。それも統一協会の狙いです。
 献金の原資確保のもう一つの手段は、物品を高額で売りつけることです。時には、高齢者に物品を高額で売りつけて老後の資金を枯渇させるという非人道的な行いをしなければなりませんから、倫理観を捨てさせることが必要です。その方法として、日常の行いを逐一連絡報告相談させることを義務付け、自分の頭で考えずに統一協会の指示で反射的に行動する精神を作らせるといいます。
 おおよそ以上のような過程を経て、一人の統一協会員が作られるといいます。
3 本来の自分を取り戻すには
 では、どうすれば本来の自己を取り戻すことができるのか、郷路弁護士は次のように考えを述べます。
 「統一協会の信者は、統一原理を論理で確信しているわけではないので、論理、常識、権威で説得しようとしても効果はない。統一協会との密な連絡・報告・相談体制により、自分の頭で考えることを停止しているので、統一協会との連絡を絶たせることで、再び自分の頭で考え始めるようになる。親愛な関係を形成している第三者からの、本当にあなたの人生を考えているという愛のこもった言葉が必要である。」
4 おわりに
 統一協会自体が宗教団体でありながら、その伝道活動が対象者の信教の自由を侵害しているという郷路弁護士の言葉は非常に印象的でした。そのような人権軽視の団体が自民党の一部の議員と結びついているという事実に暗澹たる気持ちとなると同時に、その動向について今後も厳しく注視していく必要性をより一層強く感じます。
 また、統一協会の手法は、法の網をかいくぐるように非常に精緻に組み立てられており、裁判における主張立証活動は非常に困難を極めると推察されます。郷路弁護士をはじめとした統一協会の被害者救済に携わっている先輩方に敬服するとともに、立証上の困難性ゆえ、救済すべき被害者の依頼を安易に断っていないか、自身の日々の相談対応の姿勢を見直そうと思うきっかけにもなりました。
5 補足
 講演の様子は、自由法曹団北海道支部のYoutubeにアップしています。ぜひご視聴ください。弁護士必聴の講演です。

 

 

委員会活動へのお誘い

 

治安警察問題委員会へのお誘い

治安警察問題委員会委員長 三 澤 麻 衣 子

 団といえば、弾圧との闘いから始まったと言っても過言ではありません。その弾圧問題を中心に扱っているのが治安警察問題委員会です!
 新入団員は、入団のはじめに弾圧学習会に参加して、弾圧のなんたるかを知る方が多いと思いますが、その弾圧学習会の企画を行っているのももちろん治安警察問題委員会です。近年の議題は、弾圧問題だけでなく、その他の刑事法制、えん罪・再審事件など、そして、昨年の総会で決議を挙げた死刑制度問題も治安警察問題員会が中心となって議論しています。
 現在、治安警察問題委員会の開催は月1回、中心メンバーは7~8名で、課題によっては2~3名参加が増えることもあります。特に最近は、Zoomによる開催が主となっており地方の団員でも参加がしやすくなりました。是非、1人でも多くの団員の皆様のご参加による、さらなる議論の充実化を期待しています。

 

貧困・社会保障問題委員会の紹介

貧困・社会保障問題委員会 事務局長  林   治

1 貧困・社会保障問題委員会とは
 2000年以降、景気が悪くなってきた、非正規労働者が増えてきた、生活が厳しくなった人が増えた(自分も生活が厳しくなってきた)となんとなく肌感覚で感じている人は多いのではないでしょうか。
 実際、労働者の賃金は97年がピークになっており、多くの国民の収入は増えていません。また、年金は減らされる一方で、医療費の窓口負担や介護保険料など負担増が続いています。
 また、非正規労働者の割合も労働者の約4割に達していることはみなさんよくご存じのとおりです。
 この間、2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災、2020年からのコロナ禍などのたびに、生活に困窮する人、生活困窮者支援団体や弁護士につながらなければ命を落としていたという人に接してきた人も多いと思います。
 貧困・社会保障問題委員会は、そのような命まで脅かすような貧困問題、脆弱な社会保障について議論し、時には法的な主張を他団体とともに各方面に交渉や提言を行う活動をしています。
2 具体的な活動
⑴ 千葉県銚子市県営住宅母子心中事件についての調査・交渉
 千葉県銚子市県営住宅母子心中事件とは、千葉県営住宅に住んでいた母子世帯の母親が収入が減少し家賃が支払えなかったために、千葉県から明渡訴訟を提起されその判決(欠席判決)に基づく明渡の強制執行日に中学生の娘を殺して自分も死のうとしたが、自分は死にきれず殺人罪に問われた事件です。
 この事件の報道を受け、委員会のメンバーが実態を調査しました。また、母親の刑事事件の裁判の傍聴も行いました。調査の結果、県営住宅の家賃減免措置が採られていなかったことや裁判をする前に母親と接触していなかったこと、銚子市に生活保護を申請したときに申請が受理されていなかったこと(少なくとも不適切な説明がされていたこと)などが明らかになりました。
 千葉県共産党県議団の協力も得て、他団体とともに千葉県の住宅局及び生活福祉課との交渉を行い、この事件の問題点、今後改善するべき点などを意見交換しました。
 この問題は、国会でも共産党の辰巳参議院議員が取り上げ、その結果、厚生労働省も公営住宅の家賃の滞納がある場合には福祉部門と連携をとるようにとの通知も発することとなりました。
 なお、この問題の調査結果及びこの問題について研究者からの意見や提言は「なぜ母親は娘にてをかけたのか」という本にまとめ出版しました。
⑵ 小田原ジャンパー事件について背景の理解~現場の状況の確認
 小田原ジャンパー事件とは、2017年1月、小田原市の生活保護担当職員が、「保護なめんな」「不正受給はクズ」などと英語で書かれたジャンパーを10年間も着用して業務に当たっていたことが報道により発覚した事件です。その後の調査でジャンパーだけでなく、ポロシャツ、Tシャツ、フリース、携帯ストラップ、マグカップ、マウスパッド、ボールペンなども作っていたことが発覚しました。
 生活保護利用者に対する威圧的な言葉で、かつ、生活保護に対する悪いイメージを助長する言葉でもあり、担当者に生活保護利用者に対する差別意識や人権を尊重しない姿勢が見られるものです。
 なぜ、このようなことが起こったのか、事件が起こった背景を独自に考えるべく、都内の福祉事務所に長く勤務されている現役の職員(係長)との懇談を(匿名を条件に)行いました。
 小田原では職員が切りつけられる事件を契機にこのような事態が生じたとの事であったので、実際の現場での話を伺うと、「暴力事件は毎年一件ぐらいある。警察が来ることや罵声を浴びることもある。防犯カメラもある。」「しかし、最初から生活保護利用者だから悪と見ているのではない。いろいろな経験の中で、ハードルが上がっていく(生活保護利用者に対する姿勢が厳しくなっていく)。」「例えば、アパートに住むための転居費用を出して、費用を持ってそのまま逃げられると、同じようなケースでアパートに転居をさせようと思えなくなる。」など利用者に接する中で、利用者に対する姿勢が厳しくなって行ってしまう現実も率直に語ってもらいました。
 小田原事件に関しては、「負担が大きいのに、一方で人事評価されていない。モチベーションがあがらないため、内向きの連帯感につながったのではないか。本来専門職だと思うが、その点も考慮されていないことがあるのではないか」という感想も語ってもらいました。
⑶ 生活保護のしおり点検
 生活保護を利用する際に、多くの福祉事務所ではしおりを基に制度の説明がなされる。しかし、そのしおりの内容が驚くべきことに虚偽、又は不正確であることが多いのです。東京支部とも協力して東京の全自治体のしおりを取り寄せ、問題点を検討しました。
 その中でもとりわけ問題点が多いと思われた八王子市のしおりについては、八王子市と直接の交渉の機会を設け、記載の問題点や改善を求める要望を出しました。
 八王子市では、生活保護を利用する前に、社会福祉協議会からの借り入れを行うこと、離婚した場合には調停等を行い養育費を請求することなどと記載されており、これらのことを行わなければ保護が利用できないような記載になっていました。
 その結果(かどうかわかりませんが)、現在では八王子市のしおりは大幅に改善されています。
⑷ コロナ禍で
 コロナ禍で生活困窮している人に対し様々な支援をしたり、行政に要望を出している団体にみなさんの意見を聞き、一緒に活動できることなどないかという意見交換会をこの間行ってきました。
 その中では、若い女性が「家がなく泊まるところがない」とSNSで発すると途端に親切を装って、多くの男性から「泊めてあげる」との返事が来るという実態が女性支援を行っている人から報告されたり、生活保護は絶対に使いたくないという強い拒否反応があることなどが報告されたり、実際に支援の現場でその人に接しないと分からない情報が多数集まりました。
 もっとも、この意見交換自体がマンネリ化したところもあり、最近は参加者の少なくなり、近いうちに開催を止める予定です。
3 根本には貧困が
 弁護士の仕事をしていると、離婚したけど夫の収入がなくなり途端に生活が苦しくなる、解雇されたら貯えもなくないので家賃も支払えずホームレスになってしまう、労災を申請したいが労災給付がされるまでの生活費がない、過労でうつになり仕事を辞めたがすぐに次の仕事を始められないなど相談に出会うことはあると思います。
 いずれの場合でも経済的な余裕・人的なつながりなどがあれば直ちに生活できなくあることはないでしょう。
 しかし、現在は経済的にも人的関係も恵まれない人が多く、生じている現象の背景には貧困が原因になっていることが少なくありません。
 貧困問題を考えることは、多くの問題を多面的にとらえることにもつながると思います。
 ぜひ、多くのみなさんに貧困・社会保障問題委員会にご参加いただければと思います。最近はZOOMでも参加でもできますので、地域問わずに参加できます。

 

議案書の情勢認識には賛成できない

東京支部  中 西 一 裕

 本日(10月3日)、団総会の議案書を入手した。総会には参加できないので、最も気になるウクライナ戦争をめぐる情勢認識について急いで意見を述べる(なお、私の立場は団通信1778号で書いている)。
1.ロシアをどうみるのか。
 2月以来の現地取材を含む多数の報道等から、ロシアが行ったことは誰の目にも明らかである。すなわち、一方的にウクライナに軍事侵攻を行い首都キーウを占領してウクライナ政府を打倒することを目論んだこと、住宅や学校、病院、ライフラインを狙った爆撃が行われ多数の民間人が犠牲になったこと、解放されたロシア軍占領地からは多数の拷問・虐殺の犠牲者が発見され戦争犯罪が告発されていること、ウクライナの黒海からの穀物輸出を妨害し世界食糧危機をもたらしたこと、さらには核兵器使用の脅迫を露骨におこなっていること、軍事占領下での「住民投票」を演出し国際法無視の領土併合宣言をしたこと等々。他方、ロシア国内に目を向けると、言論統制と反戦運動に対する苛酷な弾圧を行い大量の国外避難民を出すに至っているうえ、エネルギー企業幹部の多数の不審死など政権に批判的・非協力的な人々の「粛正」さえ疑われる。
 こうした数々のロシアの無法非道な犯罪的行為は文字通り「ならず者国家」の所業というほかなく、マフィアが政権を牛耳っていると言っても過言でない。こうした認識がまず共有されるべきである。
2.欧米の軍事支援と「NATO拡大」の評価について
 これに対し、議案書はまず、欧米がウクライナ支援のために巨額の軍事費を投じていることを問題視しているが、私には何が問題なのかわからない。欧米の軍事支援がなければウクライナはロシアに軍事占領されていたか、東部や南部を割譲しなければならなかっただろう。むしろ、エネルギー問題と物価高騰にもかかわらず、欧米各国の議会や世論が一丸となって支援を継続していることが、侵略に対抗する断固たる意思表示として重要だと思う。欧米の軍事支援は「ロシアの弱体化」が狙いと議案書はいうが、無謀な侵略を行ったロシアがウクライナの反撃と国際社会の制裁によって弱体化するのは当然の報いではないか。
 次に、議案書はロシアの侵略の「原因を探る」としてNATOの東方拡大を問題視するが、ロシアが脅威を感じればこれだけの無法非道な侵略に「原因」があったといえるのか?
 到底賛同できない議論である。脅威を感じることと実際に他国を侵略することは天と地ほども違う。まして、民間施設を狙った爆撃や戦争犯罪について被害者側の「原因」を論じるのは、ホロコーストの原因はユダヤ人にもあるとか、日韓併合は韓国側にも責任があるという議論の同類であろう。
 NATO拡大について一言すれば、先行事実としての2014年のロシアのクリミア侵略とその後のウクライナ東部地域の親ロ派支配などを看過すべきでない。また、旧ソ連の軍事支配に長く苦しめられた旧東欧諸国やバルト三国がNATO加盟を選択したのは、国民の強い意思であろう。議案書は北欧諸国が中立政策を転換してNATO加盟を選択したことについて、あえて少数派であるスウェーデン左翼党と緑の党の反対見解を引用しているが、問題の本質は大多数の国民が中立政策転換を支持したことのほうにあるはずだ。ロシアの侵略よりもNATOの拡大を問題にする議論は倒錯しているというほかない。
 事態の推移を見ればNATO拡大の脅威なるものは「回避できた原因」ではなく、侵略の口実にすぎなかったことが明らかである。

 

木村晋介さんへの回答
-団通信上の批判について(後編)

東京支部  松 島  暁

7 キューバ危機について
 他人を批判する以上は、その他人の書いた文を正確に読みとることが最低限のルールかと。木村さんは、キューバ危機において「米がキューバの主権を侵した」と私が結論付けていると記されていますが、何処にそのような記述があるのでしょうか。
 私が述べたことは、一国の主権を制限しかねない理不尽なレッドラインを引く不正義に対し、いかなる国と軍事同盟を結ぶか、自国にいかなる兵器を配備するかその国の自由かつ主権的判断だとの論理(国際法の形式的理解からは当然ありうる主張です)を対置することの危険性を指摘し、その例示としてキューバ危機を取り上げたものであって、アメリカがキューバの主権を侵したなど何処にも書いてはいません。
 実際、キューバ危機の際、ケネディの海上封鎖に対しフルシチョフは「キューバもソ連も主権国家であり、自国が適切と考える軍事協定を結ぶ権利がある。アメリカも類似のミサイルをソ連に隣接するトルコに展開しているではないか」と主張しました。この論理に依拠してフルシチョフが核ミサイル配備を強行していたら破滅的結末を招いていたかもしれません。法的には正しくとも有害な主張や選択はいくらでもあるのです。なお、カストロ政権の打倒やミサイル基地への空爆には踏み込まず、海上封鎖にとどめた点において、ケネディも賢明だったとの木村さんの指摘(④)は、その通りだと思います。
 ただし、米による核脅迫はなかった(⑤)とされていますが、トルコに展開している上記「類似のミサイル」とは、核ミサイル(ジュピターMRBM)であり、核脅迫がなかったわけではありません。最終的にはジュピターの撤去と引き換えにキューバからミサイルを撤去することで米ソ間の妥協が成立しています。
8 ネオコンについて
 ネオコンとは何かについて、木村さんはWikipediaを引用して「政治的イデオロギーの1つで、自由主義や民主主義を重視してアメリカの国益や実益よりも思想と理想を優先し、武力介入も辞さない思想」とされています。それ自体間違いではないのですが、それに加えて、その「思想と理想の輸出」という点に特徴があります。それはネオコンの創始者アーヴィン・クリストルが、世界革命を目指したトロツキストからネオコンに転じたことに由来すると考えられます。正義である社会主義革命を輸出することで世界革命を目指したのがトロツキズムであるのに対し、ネオコンは自らが正義と考える自由・民主主義の輸出による権威主義国家・独裁国家(悪の枢軸国)の打倒を目指しました。その実践がイラク侵攻とフセイン打倒です。(なお、アーヴィンの息子W・クリストルらのネオコンが立ち上げ、『ネオコンの論理』の著者R・ケーガンの妹K・ケーガンが所長を務めるISWというシンクタンクは、連日、ウクライナ情勢・戦況を発信し続けています。)
 プーチン独裁体制下のロシア、あるいは東欧や中東諸国に、アメリカ流の自由と民主主義を輸出、押しつけようとする動きについて、私は批判的です。この点で木村さんとは意見が異なるかもしれません。
9 その他の質問について
 木村さんからいくつか質問が出されていますので、以下で簡単に回答します。
① 軍縮条約や核兵器禁止条約が意味がないとは考えません。ただ、規範が通用するためにはそれを支えるパワーが必要だとは考えます。
② 戦争が起きた原因やクーデターに至る要因を分析することと、戦争やクーデターが正当性を有するかどうかを判断することは別問題であり、ベトナム戦争やアジェンデ政権打倒がやむを得なかったとも許されるとも考えていません。
③ 非武装平和原則を維持したいと考えていますし、だからこそ、なぜロシアがウクライナに攻め入ることになったかの検証は不可欠だと考えます。プーチンの個人的野心によって侵略が起こされたのであり独裁国はいずれ侵略に至るのだとの見地からは、侵略に対し抵抗することなく万歳してしまうか、逆に、侵略を抑止し対処する圧倒的軍事力の保有=軍備増強という二者択一の結論しか出てこないでしょう(木村さんとしては、前者を批判し後者を主張されているのかもしれませんが)。
④ 「旧式装備のウクライナ軍のNATOによる近代装備への総取替えや米英軍の軍事顧問団が投入」の出所は、文藝春秋5月号のE・トッドのインタビュー記事です(同じものが『第三次世界大戦はもう始まっている』 (文春新書)に収められていると思います)。
10 おわりに-憲法9条の意味と適用
 木村さんは1786号の最後に「日本国憲法的非武装平和主義の側からウクライナの行為を批判するとすれば、そんな無理な理由づけはいらないと思います。シンプルに『そもそも軍備を持っているからいけない。ロシアの公正と信義に信頼して、武装解除すればよかった』と言うべきだと思います」と記されていますが、とても乱暴な議論だと思います。
 そもそも日本国憲法9条の由来が、近代日本の対外的侵略という固有の歴史をを踏まえて生まれた条項であり、その意味・機能も、帝国日本の無力化・懲罰、天皇制存続の交換条件、あるいは国際社会に復帰する際の対外的公約、日本の軍事大国化の防波堤などの多面的要素を持った規定だと私は考えています。そしてそのような歴史性と多面的意味合いを持ったものとして9条は守られるべきだというのが私の立場です。木村さんの議論は、9条=無抵抗主義と単純に理解すること、また、日本固有の原理の歴史の全く異なる国への機械的な適用という点で乱暴な議論と言わざるをえません。

 

ロシアのウクライナ侵略は「気候戦争」だ!!
―斎藤幸平氏の見解を受け止める―

埼玉支部  大 久 保 賢 一

 斎藤幸平氏[i]が、今回のロシアのウクライナ侵略は、NATOの東方拡大やナショナリズムの問題など、様々な観点から論じられていますが、私は「人新世の気候危機」という観点から論じるべきだと考えています、と語っている[ii]。コロナ危機も気候変動も、飽くなき経済成長を求める資本主義がもたらした「人新世」[iii]の危機である。ロシアのウクライナ侵略も、気候危機への対応戦略と考えることができる。慢性化する気候危機を克服するため、「脱成長」に舵を切るべきである、という講演の中での発言である。私は、そんな問題意識は全くなかったので、大いに興味をそそられたのである。以下、その論述を少し詳しく紹介してみる。
気候変動と新たな覇権争い
 気候変動を前にして、銅やレアアースなどの需要が増大し、化石燃料は不要になろうとしている。世界秩序は変わらざるを得ない。先進国は「緑の資本主義」[iv]という新しい旗印の下で激しく争っている。「気候リバイアサン」[v]という米国の学者もいる。ロシアのウクライナ侵略も「気候戦争」というべき熾烈な覇権争いの一環であり、人新世の気候危機に対するロシアの適応戦略である。21世紀の戦争の背景には、気候変動がもたらした不作と人々の困窮がある。プーチンとオリガルヒ(新興財閥)は化石燃料を輸出することで外貨を獲得し、莫大な富を築いてきた。「緑の資本主義」への転換を迫られることは一つの危機のはずだ。
ロシアを覆う気候危機
 プーチンは気候変動について「ロシアは温かくなれば、毛皮のコートを着なくてよくなる。シベリアが穀倉地帯になり、農業生産性も向上する」と言ったそうだ。また、ロシア人は、「北極の海氷が溶ければ、新たな航海ルートが開け、地下資源も開発できる」と考えているので、気候変動に関心は薄いとも言われている。
 しかし、ロシアにおける気温上昇は世界の他の地域に比べて2.8倍のペースであり、国土の65%を占める永久凍土の溶解が進み、地盤沈下が起きている。2020年には、シベリアでは凍土が融解して燃料貯蔵庫が倒壊し、燃料が流出して、周辺に非常事態宣言が出された。気候変動による損害額は約十兆円と予測されている。
 だから、プーチンは、2020年G20サミットで、「ロシアは砂漠化、土地浸食、永久凍土融解といった複合的脅威に直面していると危機感を露わにした。
プーチンのジレンマ
 プーチンは気候危機への対応で深刻なジレンマを抱えている。脱炭素化によってロシア経済を支える化石燃料への需要が低下して、自身の権力基盤が弱体化することは避けたいけれど、脱炭素化が遅れればロシア社会が瓦解するかもしれないというジレンマである。
 だからといって、エネルギーシフトをして電気自動車を作ったり、太陽光パネルを世界に輸出する技術力はない。あるのは、旧来の原子力だけである。チェルノブイリ原発の攻撃や核使用の脅しは、原子力への執着の表れである。プーチンの一挙手一投足は気候変動と切り離せないのである。
ウクライナの魅力~「ヨーロッパの穀倉地帯」
 ウクライナは「ヨーロッパの穀倉地帯」で、ロシアと並ぶ小麦の輸出大国であり、トウモロコシの輸出も多く、中国はウクライナから最も多く輸入している。気候変動で食糧危機の可能性が高まると、ウクライナの豊かな土壌はロシアだけではなく中国、中東、アフリカにとって重要性が増すことになる。穀物は戦略物資なのである。
ウクライナの魅力~「東欧のシリコンバレー」
 ウクライナは天然資源に恵まれている。半導体の生産に必要な原材料の主要輸出国である。ウクライナは、ソ連時代から宇宙分野や核開発の拠点で、今も、「東欧のシリコンバレー」としてIT・ハイテク産業が盛んである。科学技術の水準は非常に高い。
 ウクライナには気候変動に直面するロシアが渇望する食料、資源、ITが豊富にある。
 私が、今回の侵略を「新たな”気候戦争”。気候危機下の大国間の覇権争い。ロシアの気候危機への適応戦略」とみるのはそのためである。
 以上が、氏の議論の概要である。
 皆さんは、どのように受け止めるだろうか。私の感想は以下のとおりである。
私のウクライナ侵略理解
 私のプーチンの行動の背景についての理解は次のようなものである。
 プーチンの行動について、「バランス感覚を失い自分を抑える能力を失ってしまったからだ」[vi]とか、「こちらがビクビクすれば相手は自分たちの方が強いと思うようになる」[vii]と考えている独裁者の個人的情念による行動であるかのように解説する人もいる。だがしかし、それは事態の一面だけを見る半可通なものでしかない。プーチンのウクライナ侵略の背景には、米国とNATOの対ロシア政策があったことを忘れてはならない。プーチンの行動は、侵略行為であり、戦争犯罪であることは免れないが、プーチンが、何の理由もなく「切れた」わけではない。
 要するに、プーチンの侵略行為の主要な要因は「NATOの東方拡大」という理解である。プーチンの個人的資質に原因は求めていないし、プーチンの大ロシア主義や汎ユーラシア主義についても触れていない。私は、プーチンの公の言明は、その侵略戦争の動機についての正直な「自白」だと受け止めているからである。個人的信念や歪んだナショナリズムはあるかもしれないけれど、NATOの「東方拡大」を軽視することは、米国やNATOを免罪することになる。「切れた」プーチンはもとより、切れさせた勢力の罪も重い。核戦争を誘発し、核不拡散条約(NPT)が指摘するように「全人類に惨害をもたらす」かもしれないからである。
 そういう私の理解とは全く違う斎藤氏の分析から学ぶべきことは多い。プーチンという政治家の行動を、ロシアの置かれている経済的諸条件に求めているからである。斎藤氏はマルクスの専門家らしく社会の「土台」に戦争という「上部構造」の原因を求めているのである。私にはその方法と結論を否定する意思も能力もない。
斎藤氏の結論
 氏は、結論部分で、IPCCの報告書を引用している。「気候変動が深刻化する中、水、食料、資源、エネルギーを巡る紛争や戦争の火種が増えていく」、「居住可能で、持続可能な未来をあらゆる人々に確保する”機会の窓”は急速に閉じつつある」という警告である。その上で、ウクライナ戦争が長期化すれば、より多くの命が失われるうえに、「機会の窓」は永久に閉じられることになる。そこで、私は、バラバラに見える二つの問題をつなげることで、どうすれば平和と国際協調を維持し、持続可能な社会を構築できるのかを提起させてもらった、としている。
 氏が、「人新世」という概念を用いるのは、人間は、産業革命以降、化石燃料を大量に使用して、膨大な二酸化炭素を排出するようになった。二酸化炭素濃度が400万年前と同程度になった。400万年前は、現在の気温よりも2~3度高い「鮮新世」だった。海面は今より最低でも6メートル高かった。当時と同じような状況になるとすれば、人類が築いてきた文明が、存続の危機にあることは間違いない。経済成長は、豊かな生活を約束していたはずだったが、皮肉なことに、経済成長が人類の繁栄の基盤を切り崩しつつある、という問題意識である。そして、その対処策は「脱成長」とされているのである。
私の感想
 「人新世」という地質学上の概念を介在させなくても、現代資本主義の問題点は解明できるという意見もあるけれど、介在させていけないわけでもないだろう。私は、その言葉に誘導されたのである。また、地球の存続が不可能になったら、この学説の真偽を誰も確認できなくなるであろうとも思う。けれども、氏の議論は、現代資本主義の病状を理解し、よりよい社会を築く上での知的作業に役立っていることは間違いないであろう。「人生我以外皆我師」の一場面である。
 ただし、コロナも気候危機もプーチンの侵略も「人新世の危機」と一括し、「脱成長」がその対処策だとしてしまうことは、氏のいう「脱成長」がマルクスの理解として適切かどうかはともかくとして、短絡的に過ぎるであろう。なぜなら、プーチンの侵略はウィルスや自然環境には直接的には関わらない人為的な行動だからである。生産活動も戦争も人の営みということでは同じであるが、戦争の廃止、いわんや核兵器の廃絶は「脱成長」を待たなくても解決できるし、また、待っていてはいけないであろう。気候変動とウクライナ侵略との間に何の関係もないとは思わないけれど、侵略行為の特殊性を無視することは許されない。その無分別は「虻蜂取らず」となるであろう。
 私は、氏の「土台」にかかわる意見には耳を傾けるけれど、プーチンのウクライナ侵略については、「脱成長理論」とは関係なく向き合うこととする。侵略行為との対抗は、資本主義的生産様式の転換の前に取り組むべき課題だからである。もちろん、核兵器廃絶はそれよりも先行しなければならないであろう。(2022年9月20日記)

[i]  今年4月から東京大学大学院総合文化研究科准教授
[ii] 「學士會会報」2022年Ⅳ号。「人新世の環境危機と二十一世紀のコミュニズム」
[iii] 人類の経済活動が地球に与えた影響があまりにも大きいため、人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味。(斎藤浩平.「人新世の『資本論』」)
[iv] 環境と成長の両立を目指す資本主義。本当に両立するのか疑問が向けられている。
[v] 気候変動をある種の戦争と捉えて、国家に無限の権力を与えて気候変動対策を志向するような考え。
[vi] キャサリン・メリデール「プーチンが恐れているもの、それは自身の死と民主主義だ」(「ウクライナの未来 プーチンの運命」・講談社新書)
[vii] ワシントン・ポスト「ウラジーミル・プーチンという男の思考回路を読む」(同上)

 

【書評】自由法曹団の皆様に、 自著「DHCスラップ訴訟」のご紹介

東京支部  澤 藤 統 一 郎

 「紺屋の白袴」という。「医者の不養生」とも。他人のことならテキパキできても、いざ自分のこととなると調子が狂う。私の場合は、ある日突然、「弁護士が民事訴訟の被告になった」。勝手が違って、ウロウロするばかり。
 医者が患者になると、見慣れた病院の風景が変わり、医師としては見えないものが患者として見えるようになるという。私も、スラップ訴訟の被告とされ、さらにスラップを違法とする「反撃訴訟」の原告にもなって被告・原告の立場を体験し、少しは見えてきたものもある。
 その6年9か月の顛末を、読み物として上梓した。表題は、『DHCスラップ訴訟』。「スラップされた弁護士の反撃そして全面勝利」という長い副題がついている。版元は日本評論社。
 出版社は≪内容情報≫として、「批判封じと威圧のためにDHCから名誉毀損で訴えられた弁護士が表現の自由のために闘い、完全勝訴するまでの経緯を克明に語る」とキャッチコピーを書いている。
 この散文的な、長い副題とキャッチコピーのとおりなのだが、もう少し、ご説明して、この本をお読みいただくお気持ちを喚起したい。
 ご記憶だろうか。2014年の春に、DHCの吉田嘉明が、当時「みんなの党」の党首だった渡辺喜美に、選挙資金8億円の裏金を提供するという事実が発覚した。大金持ちと政治家の巨額な裏金での結びつき。
 私は毎日ブログを書いている。「澤藤統一郎の憲法日記」である、連続更新がもう3400日を超えている。その3本のブログでこれを批判した。みっともない政治家渡辺喜美よりは、スポンサーである吉田嘉明の「カネで政治を動かそうという姿勢」に批判の重点を置いたもの。サプリメント販売の最大手であったDHCの経営者として、「消費者利益に反する規制緩和を求める」姿勢も強く批判の対象とした。
 そんなブログを書いたことも忘れた5月のある日、東京地裁から私宛の特別送達で訴状が届いた。原告は、DHC・吉田嘉明の両名。私の3本のブログ記事によって名誉を毀損されたとして、2000万円の損害賠償を請求するという。
 私は、黙っていてはならないと、この訴訟を典型的なスラップだと批判のブログを連載し始めたら、請求が拡張されて6000万円の訴訟となった。なんともムチャクチャな話し。
 この「DHCスラップ訴訟」の応訴のために、親しい友人弁護士にお願いして弁護団を結成していただいた。このとき、あらためて身に沁みた。仲間と言える弁護士をもっていることのありがたさを。
 そして、このときに考えた。弁護士が被告にされたスラップなのだから、スラップに対する闘いの典型例を作らねばならない。けっして《スラップに成功体験をさせてはならない》と。そして今は、成功体験をさせてはならないでは足りない。《DHC・吉田嘉明には手痛い失敗体験をさせなければならない》と思うようになっている。
 訴訟面ではほぼその思いを達し得たと思う。私が被告とされた「DHCスラップ訴訟」では最高裁まで争って請求棄却判決が確定し、そのご攻守ところを変えた「反撃訴訟」では、DHC・吉田嘉明のスラップを違法とする判決を獲得し、これも最高裁まで争って165万円の慰謝料+弁護費用を勝ち取った。
 しかし、まだ十分ではない。DHC・吉田嘉明に《徹底した失敗体験》をさせるとは、骨身に沁みて、「こんなスラップ訴訟をやるんじゃなかった」「もうこりごりだ。今後2度とスラップはするもんじゃない」と思わせなければならない。
 そのために、訴訟の経過と判決の到達点を多くの人に知ってもらいたいと思う。DHC・吉田嘉明とその代理人弁護士(二弁・今村憲)がどんなみっともない訴訟をしたのか、裁判所がどう断罪したのか。
 この本を普及することが、「社会の公器」であるべき民事訴訟を、「強者の凶器」たるスラップに悪用させてはならない(弁護団長・光前幸一さんの言)ことにつながるのだと思う。
 幸い、市民からは「読み易い」、弁護士からは「実務に役立つ」、と好反響を得ている。とりわけ、スラップを違法とする訴訟実務の到達点は分かり易く書けていると思う。
 是非、ご一読ください。よろしくお願いします。
 https://nippyo.co.jp/shop/book/8842.html

 

「朝鮮学校を支援する全国弁護士フォーラム 2022」参加の呼びかけ

神奈川支部  辛  鐘 建

 きたる10月22日午後1時30分より、「朝鮮学校を支える全国弁護士フォーラム 2022」を開催する運びとなりました。本フォーラムの結成の経緯やその趣旨について、下記の通りご案内いたします。
 朝鮮学校は、日本に在住する在日朝鮮人の子ども(「朝鮮籍」、「韓国籍」、日本籍等の国籍を問わず朝鮮半島にルーツを有する全ての子ども)が通う学校です。日本全国に、幼稚園38カ所、初級部53校、中級部33校、高級部10校、大学校1校が設置されており(2015年のデータ)、朝鮮語により民族の言語、文化、歴史を教えるとともに、日本の正規の学校(学校教育法1条に規定する学校。「1条校」と呼ばれる。)と同等レベルの普通教育(専門教育・職業教育などと区別される一般的・基礎的教育)が行われています。朝鮮学校は、学校教育法1条に規定される正規の学校としての認可ではなく、各種学校(学校教育法134条)の認可を得て運営されており、所轄庁である都道府県知事の監督に服しております。
 朝鮮学校では、「21世紀の新たな時代の要求に沿い、日本社会を始め世界の国々を深く理解し、国際社会において信頼と尊敬を得られる人材の育成」をも教育目標としており、在学生はもちろん、卒業生も、日本社会の一員として、学術、芸術、スポーツなど多方面にて活躍しており、ラグビー、サッカー、ボクシングなどスポーツで全国的名声を得て、日本、朝鮮、韓国などの国家代表選手となったり、日本の大学に進学して研究者、専門職、経営者等になる卒業生も数多くいます。
 一方で、朝鮮学校に通う子ども達は、排外主義的風潮が高まる日本社会の中で、差別とヘイトに晒さてきました。その象徴が、「高校無償化制度」からの除外問題でした。
 2010年に成立した高校無償化法にもとづく就学支援金制度は、1条校のみならず外国人学校を広く対象とする画期的なものでしたが、「拉致問題」等を理由に朝鮮学校の子ども達だけが制度の対象から除外されました。
 2013年1月以降、全国5カ所で朝鮮学校除外の違法性を問う裁判が提起されましたが、大阪地裁での画期的原告勝訴判決を唯一の例外に、2021年7月までに全ての事件で最高裁の判断が示され、敗訴が確定してしまいました。行政による差別を追認した司法の責任は重大です。
 「朝鮮学校無償化裁判」に取り組む過程で、各地の弁護団を中心に朝鮮学校に通う子ども達の権利を守り、支える弁護士たちのネットワークが形成されました。
 私たちは、このようなネットワークを発展させ、教育の分野での差別を解消し朝鮮学校に通う子ども達の学習権を法的に確立するために、弁護士を中心とした法律家が集い議論する場(フォーラム)を作ることが必要と考えました。
 2022年10月東京で、第1回のフォーラムを開催します。「朝鮮学校を支える」というフォーラムの趣旨に賛同する全ての弁護士に参加を呼びかけます。
 また、フォーラム当日は、弁護士だけでなく、学校関係者、市民のみなさんの幅広い参加をお待ちしています。
「朝鮮学校を支える全国弁護士フォーラム2022」
日時 2022年10月22日(土) 午後1時開場 1時30分開演
会場 東京朝鮮中高級学校(東京都北区十条台2-6-32)
※  オンライン中継も準備する予定ですが可能な限り現地参加をお願いします
内容(予定)
冒頭企画 朝鮮学校を知るためのビデオ上映
第1部   シンポジウム
「朝鮮学校無償化裁判の到達点と課題」(仮)
第2部   全国各地で朝鮮学校支援に関わる弁護士らの報告・情報交換
※フォーラム終了後、夕刻から全国交流会を別途実施する予定です。
呼びかけ人弁護士
師岡康子(東京)、金舜植(東京)、喜田村洋一(第二東京)、李春熙(第二東京)、内河惠一(愛知県)、中谷雄二(愛知県)、裵明玉(愛知県)、丹羽雅雄(大阪)、李承現(大阪)、足立修一(広島)、平田かおり(広島)、後藤富和(福岡県)、金敏寛(福岡県)

 

次長日記(不定期掲載)

岸  朋弘 / 東京支部

 おそらく弁護士には、仕事や活動の時間とプライベートの時間とをスパッと分けられるタイプの人間と、プライベートの時間にも常に仕事や活動のことが頭から離れないタイプの人間が存在すると思います。私は後者のタイプであり、遊んでいる最中にも、しばしば仕事のメールチェックをしなければならない衝動に駆られたり、仕事を終えた帰宅中にも仕事の積み残しがあるのではないかと不安になり、途中駅で下車して事務所に戻ったりという行動に出ることもあります。心のオンとオフの切り替えは私にとって大きな課題であり、共感される方も少なくないと思われます。
 ところが先日、抱えている仕事が全く気にならなくなる出来事がありました。きっかけは山です。私が所属する法律事務所には非公式の部活動として山部というものがあり、今年の8月に山部のメンバーで2泊3日で苗場山に出かけました。1日目は、赤湯温泉・山口館という山小屋に泊まり、2日目は苗場山頂ヒュッテという山小屋に泊まりました。実はこの山登りの前に積み残した仕事が結構たくさんあり道中気になっていたのですが、山小屋はインターネット圏外でした。メールの送受信も、SNSでのメッセージのやりとりもできません。どれだけ仕事のことを心配して誰かに連絡をとろうと思っても、何もできやしないのです。そして目の前にそびえ立つ山、流れる川といった大自然に囲まれると、どこか大胆な気持ちになりました。すると不思議なことに、仕事のことが全く気にならなくなりました。ただ目の前の自然に触れ、暗くなったらさっさと寝るだけの時間を過ごしました。
 もし仕事や活動に追われ、少し疲れている団員のみなさまがいましたら山に籠もることを1つの解決策としておすすめします。インターネット圏外の山で過ごすのがベストです。山は心を癒やしてくれます。思えば、山は古来より人々の信仰の対象であり、人々は畏敬の念を抱いて山と向き合ってきました。私の中にも狩猟採集民としての本能が残っているのでしょうか。山の力は偉大ですね。
 最後に、山を歩いているとたくさんの雑草が生えています。私の次長の任期もわずかではありますが、踏まれても踏まれても頭を上げ、刈られても刈られても再び生えてくる雑草のように、根気強く事務局次長の任務を全うしたいと思います(←強引な締め!)

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