第1807号 4/11

カテゴリ:団通信

【今号の内容】

【福岡支部特集】

◆特定非営利活動法人九州アドボカシーセンターの取組・活動報告  池永  修

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

●「沖縄高江への愛知県警機動隊派遣は違法」住民訴訟、勝訴確定のご報告  吉田 光利

●仙台トンデモ判決研究会のご案内  横田 由樹

●団沖縄支部と韓国・民弁との交流会に参加して  加部 歩人

●吉田健一前団長と団の未来を語る会・東京多摩  吉田 榮士

~追悼~

●今村核さんを偲ぶ  加藤 健次


 

*福岡支部特集*

特定非営利活動法人九州アドボカシーセンターの取組・活動報告

福岡支部  池 永  修

1 九州アドボカシーセンター(理事長:馬奈木昭雄弁護士)は、法科大学院制度がスタートした2004年4月に設立されました。
 全国各地に開校された法科大学院に学ぶ若者を中心に、それぞれの地域社会におけるアドボカシーシステムの担い手となる市民ボランティアや各分野の専門的アドボカシーを対象に、地域の第一線で活動を展開している多様な分野の人権法律家や市民団体などとの継続的な交流機会や専門的・実践的セミナーなどの研修プログラムを提供し、地域社会で活動するアドボカシー(人権擁護者)を一人でも多く養成することを目的として設立されました。
 このような九州アドボカセンターの取り組みに、福岡県をはじめ九州各県から30を超える法律事務所が協力事務所として名を連ね、有志の弁護士個人からも多くの支援が集まりました。
 当時県内に4校あった法科大学院からは、明日の法曹を担う多くの若者が集まり、希望する法科大学院生には登録研究生として自習室が無償提供され、毎月開催される人権セミナーでは時々の人権課題や社会問題に携わる第一線の弁護士や当事者が登壇しました。取り組みはこのような座学だけにとどまらず、辺野古の基地問題や諫早湾の干拓事業、ハンセン病療養所などの現場の視察や合宿も行われました。
2 しかし、その後、法科大学院への出願者数は低迷の一途を辿り、苦境に立たされた地方の法科大学院では募集停止や廃校が相次ぎました。社会全体の貧困の拡大に伴い弁護士の所得格差も拡大し、優秀な学生が法曹に魅力を感じない深刻な法曹離れが進んでいます。
 司法試験合格率を重視する法科大学院の方針や学生の意識の変化もあり、最盛期には50名を超えた九州アドボカシーセンターの登録研究生も年々減少し、2013年に最終合格を果たした1名を最後に、登録がない状況が続いています。
 このような法曹を取り巻く環境の変化を受けて、九州アドボカシーセンターの活動も、法科大学院生を対象とした研修だけではなく、これから法曹を目指す学部生や一般市民を対象とした「弁護士の魅力セミナー」の開催や、法科大学院性や学部生を対象とした協力事務所へのエクスターンシップなどへと重点を移し、2022年度からは市民も対象とした講師派遣事業を開始しています。
 現在の事業の中心となっている「弁護士の魅力セミナー」では、各分野のフロントランナーになっている弁護士に経済的メリットだけでは語れない弁護士の魅力を熱く語ってもらっています。
 ここ5年間に開催された弁護士の「魅力セミナー」は以下のとおりです。
2018年4月 労働事件から学べること(井下顕弁護士)
2018年8月 国家が人を選別する悲劇〜旧優生保護法がもたらした被害に学ぶ〜(星野圭弁護士、國府朋江弁護士)
2018年11月 防衛大では、いま何が起こっているか〜防衛大におけるいじめ・人権侵害〜(赤松秀岳弁護士)
2019年4月 ハンセン病隔離政策がもたらしたもうひとつの悲劇〜ハンセン病家族訴訟でみえてきた患者家族への差別の実相〜(池田泉弁護士)
2019年7月 薬害スモン事件に学ぶ〜「薬害の原点」薬害スモン事件で患者と弁護士はどう闘ったか〜(岩城和代弁護士)
2019年10月 法は虐待から子どもを守れるか!?〜子どもの命の最前線で働く弁護士に聞く〜(久保健二弁護士、一宮里枝子弁護士、小坂昌司弁護士)
2019年11月 LGBTと人権課題に向き合う〜同性婚法制化の実現に向けて活動する弁護士・原告に聞く〜(石井謙一弁護士、太田千遥弁護士)
2020年1月 どこまできてる?日本の監視社会〜プライバシー保護の最前線で働く弁護士に聞く〜(武藤糾明弁護士)
2020年10月 カルロスゴーンはなぜ逃げた!?どうなってる!?日本の刑事司法〜国際水準からみる日本の『人質司法』〜(上田國廣弁護士)
2020年10月 正規労働者と非正規労働者の格差を考える~わが国における同一労働賃金原則~(星野圭弁護士、井下顕弁護士)
2021年4月 裁判の中でのジェンダーを考える~弁護士から見た性暴力を巡る裁判の今~(松浦恭子弁護士)
2021年7月 韓国「慰安婦」判決と主権免除を考える〜韓国「慰安婦」訴訟2判決の判断が分かれた背景とは〜(山本晴太弁護士)
2021年10月 コロナ禍における雇用脆弱層の実体と弁護士の役割〜コロナ禍における労働弁護士・労働組合のたたかい〜(西野裕貴弁護士)
2022年2月 「日本初全盲の弁護士」竹下義樹弁護士に学ぶ困難を乗り越える力(竹下義樹弁護士)自由法曹団福岡支部・福岡青法協との合同企画
2022年5月 難民・入管事件に取り組む弁護士の魅力〜人道支援の最前線!難民・入管事件から見える社会の姿〜(稲森幸一弁護士、辻陽加里弁護士)
2022年9月 弁護士の魅力〜裁判官経験者から見た弁護士(の魅力)〜(西理弁護士)
2022年11月 旧統一協会がもたらした被害と加害の実相に迫る!〜弁護士が見てきた旧統一協会の被害に学ぶ〜(平田広志弁護士)
2023年2月 熱血!弁護士が語る少年事件の魅力〜弁護士との関わりの中で子どもは変わる〜(知名健太郎定信弁護士)
2023年4月 犯罪被害者支援の魅力〜置き去りにされた犯罪被害者と歩む弁護士に学ぶ〜(池田泉弁護士)
3 九州アドボカシーセンターは来年(2024年)で設立20周年の節目を迎えますが、この間、地域で活躍する法律家を地域の中で養成するという法科大学院制度の理念が崩壊し、学生の一極集中が進む傍ら、広告を駆使したいわゆる「新興大手」の法律事務所が新人弁護士を大量雇用するなど弁護士の雇用環境も劇的に変化し、弁護士の一極集中も進んでいます。
 地域のアドボカシーシステムを担ういわゆる「市民側」の法律事務所が新人弁護士を採用することは、法科大学院発足直後では考えられないほど困難になっており、多くの地域事務所が後継者の確保に苦しんでいます。
 九州アドボカシーセンターの活動を支えてくださる協力事務所の経営環境も厳しさを増していますが、地域社会のアドボカシーシステムを担う人材を系統的に確保し、養成していくことの重要性は増しているどころか、かつてないほど喫緊の課題となっています。
 九州アドボカシーセンターの根幹となる憲法的価値観を共有できる、自由法曹団をはじめとする法律家団体とも力を合わせて、この危機的な状況を打開すべく活動を飛躍させていきたいと考えています。

 

「沖縄高江への愛知県警機動隊派遣は違法」住民訴訟、勝訴確定のご報告

 愛知県支部  吉 田 光 利

1 愛知県民200余名が、愛知県警の機動隊派遣に伴う給与の支出は違法であるとして、住民訴訟を提起した事件について、高裁勝訴判決に対する愛知県の上告が棄却、上告審として受理しないという決定がなされ、勝訴が確定したので報告する。
2 愛知県民200余名は、2017年7月、愛知県警の機動隊派遣に伴う給与の支出は違法であるとして、名古屋地裁に住民訴訟を提起した。
 2020年3月18日、請求棄却の判決が言い渡された。
3 同不当判決に対して、名古屋高等裁判所に控訴し、2021年10月17日、逆転勝訴判決を勝ち取った(名古屋高等裁判所民事第1部。倉田慎也裁判長、永山倫代裁判官、入江克明裁判官)。
4 愛知県は同高裁判決について、2021年10月21日付で上告及び上告受理申立てをした。今回、2023年3月22日付で、同上告等について、上告棄却、上告不受理の決定が裁判官全員一致のもとで出された(最高裁判所第二小法廷、尾島明裁判長、三浦守裁判官、草野耕一裁判官、岡村和美裁判官)。
 これにより、2016年の派遣決定が違法であるとの司法判断が確定した。
5 愛知県公安委員会事務専決規程は、機動隊を派遣する場合、中でも、特に「異例又は重要」と認められるものについて、「あらかじめ公安委員会の承認を受けてこれを処理しなければならない。」と定めている。
 一審判決は、本件の機動隊派遣について、後日紛議を生ずることが予想され、社会的反響が大きいものであったから、「『異例又は重要』であると評価される余地を否定できない」として、本件派遣決定には「あらかじ公安委員会の承認が得られていないという点で瑕疵(違法性)を帯びていた」と認定した。
 しかし、事後的(派遣後)に開かれた愛知県公安委員会において、本件の機動隊派遣について、異論が出なかったことを理由として、「事後的に承認が得られたことで、瑕疵は治癒された」とし、本件派遣決定の違法性を否定し、原告らの請求を棄却した。
6 控訴審では、本件派遣決定当時の公安委員長であった入谷正章弁護士(愛知県弁護士会元会長)の証人尋問が行われた。
7 入谷証人は本件の派遣に関し、「異例又は重要と認められるもの」はあらかじめ公安委員会の承認を受ける必要があるという規程自体知らなかった、また、他県から派遣要請があればそれに応えることは当然であり、派遣が違法といわれる言われはない。」と述べた。現実は警察が公安委員会を管理しており、公安委員会が警察を管理するという公安委員会の本来の制度趣旨が形骸化していることが浮き彫りになった。
8 高裁判決は、違法な支出命令を行った当時の警察本部長に対し、地方自治法242条の2第1項4号ただし書きに基づき、機動隊員らに支払われた時間外手当相当額である110万3107円の賠償命令を行うことを愛知県に命じた。なお、請求額は1億3363万9152円(その大部分は基本給)であったが、それらについては、派遣の有無に関わらず、支給されるものであるから、損害とは認められないとされた。
9 その理由について、要旨、愛知県公安委員会事務専決規程において、警察官の派遣が異例又は重要と認められる場合には公安委員会の承認を受けなければならないと定めており、本件派遣は、異例又は重要と認められる場合の中の「その処理によって後日紛議を生ずることが予想され、かつ、社会的に反響の大きい事案に関するものであったということができるから、愛知県警察本部長が専決により派遣を決定したことは違法である。」とした。
 それを踏まえ、派遣後に開かれた公安委員会において「これが専決によって行われたことの手続的違法について想到していなかった(※考えが及んでいなかった)ことが認められ、上記報告の際に愛知県公安委員会において実質的に審議を行って事後的な援助同意を行い、あるいは専決したことに対する追認を行ったものと評価することはできない。」とした。
 その上で、結論として、「本件各派遣決定が愛知県公安委員会の実質的意思決定に基づくものと認めることはできず、本件各派遣決定は、専決で処理することが許されないものであったのに専決をもって行われたものであって違法であるといわざるを得ない。」とし、一審判決の判断を改めた。 
10 また、高裁判決は、派遣された機動隊数百名が現場で行った住民の座り込みの強制排除の違法性を厳しく批判した。2016年7月22日未明に機動隊員らが行った米軍北部訓練場ゲート前の車両、テントの強制撤去に法的根拠は見たらず違法である疑いが強いと述べ、これを目的とした沖縄県公安委員会による機動隊の派遣要求には重大な瑕疵があると断じた。
 警察による検問やビデオ撮影等の行為についても、「その適法性あるいは相当性については疑問が生じ得るところである」と指摘した。
11 愛知県は、愛知県公安委員会作成の意見書を添付するなどした上告理由書及び上告受理申立書を提出した。同意見書は上告審になってはじめて提出されたものであり、新たな証拠申出を認めない民訴法に反するものである。また、その内容も、要旨、「いかなる事項を警察本部長に専決させるかは、公安委員会に広く裁量が認められており、今回はその裁量の範囲内であり何ら違法ではない。」というもので、高裁判決が断罪した公安委員会の形骸化について、何ら省みない極めて不当なものである。その他にも様々なことが上告理由書等で述べられていた。
 我々も上告理由書等に対し、最後まで気を抜かず、徹底的に戦おうという決意のもと、精力をあげた反論書面を作成した。
 結果、最高裁は、上告理由等について、理由がないものとし、上告を棄却、上告受理を認めなかった。同上告棄却等を受け、愛知県警は「確定した判決に従って、適切に対応する。」とのコメントを出している。

12 司法が、公安委員会制度の民主的意義を正しく評価し、派遣決定の手続的違法を認めたことは、積極的意義を持ちうるものである。沖縄県民の不屈の非暴力抵抗のたたかいに愛知からエールを送り届けることができたことを原告団とともに喜び合いたい。
 この裁判闘争は終結に向かうが、勝ち取った勝訴判決を一里塚に、沖縄の人々と連帯し、日本国憲法の平和主義、民主主義と基本的人権を守り抜く新しいたたかいに踏み出していきたい。
 皆様、応援ありがとうございました。

 

仙台トンデモ判決研究会のご案内

宮城県支部  横 田 由 樹

1 仙台トンデモ判決研究会とは 
 弁護士の皆さまはよくご存じのことと思いますが、司法界では、ときに画期的な判決が世間をにぎわせる一方で、多くのとんでもない判決(トンデモ判決)が日々大量に生み出されています。このようなトンデモ判決はマスコミに取り上げられることもないので、多くのトンデモ判決が生み出されていることは世間にはあまり知られていません。
 そこで、そのようなトンデモ判決を紹介し、司法界のあり方・問題点を考えていくために、2021年、仙台弁護士会所属の弁護士有志によって結成されたのが仙台トンデモ判決研究会です。
 仙台トンデモ判決研究会には、現在、数名の会員が所属し、選りすぐりのトンデモ判決を次のホームページで紹介しています。
https://tondemo-hanketsu.com/
(「トンデモ判決」で検索していただければ、トップに表示されます。)
2 現在までの紹介事例
 現在、ホームページでは、3つの裁判例を紹介していますが、その概要は次のようなものです。
①仙台地裁・気仙沼支部・2020年2月12日判決・不当利得返還請求事件等・梶浦義嗣裁判官:相続人である原告が、被相続人の生前に、被相続人の預貯金を使い込んだ第三者を被告として不当利得返還請求等を行ったのに対し、使途不明である預貯金の使途を原告側で立証しなければならないと判示し、請求棄却した判決
②仙台高裁判所・第3民事部・2021年7月28日判決・損害賠償請求控訴事件等・本間健裕裁判官(裁判長)、岡口基一裁判官(主任)、工藤哲郎裁判官:極めて見通しのよい田舎道の交差点で夜間に発生した衝突事故において、ライトを点灯している相手方の車両に、衝突の2秒前まで気づかなかったとしても過失がないと判断して、免責を認めた判決
③仙台家裁・2022年11月8日判決・離婚等請求事件・桑原眞貴裁判官:10年間海外で別居してほとんど連絡も取り合わなかった夫婦間における離婚訴訟で、韓国でエンジニアとして高額の報酬を得ていた夫に対し、妻が財産分与を請求した事案で、夫が帰国するまでに得た財産につき、妻に対して半分の分与を認めた判決いずれの裁判例もかなりのトンデモ判決なので、ぜひホームページで詳しい内容をご確認いただければと思います。とくに、②の判決は、現在、仙台高裁に所属し、国会で弾劾裁判が行われている岡口基一裁判官が主任裁判官として担当した事件ですが、あまりに常識外れなトンデモ判決ぶりに唖然とするばかりです。弾劾裁判で問題とされているのは職務外の行動ですが、この方が裁判官としてどのような仕事をしてきたのかを知るよい事案だと思います。
3 今後の活動
 仙台トンデモ判決研究会は、仙台弁護士会の会員はもちろん、それ以外の多くの方からの注目も集めています。今後も、残念ながら多くのトンデモ判決が生み出され続けることと思われますので、当研究会では、そのようなトンデモ判決から選りすぐりのものをご紹介し、引き続き司法界の問題を提起していきたいと思います。
 また、できれば、宮城県だけでなく、同様の研究会が全国各地にできて、司法界の問題が広く国民に周知されることを願っていますので、ぜひ本稿をお読みになった皆さまに同様の研究会を立ち上げていただければありがたいと思っています。

 

団沖縄支部と韓国・民弁との交流会に参加して

国際問題委員会担当次長  加 部 歩 人

3月25日と26日、自由法曹団沖縄支部が主催した韓国の「民主社会のための弁護士会(民弁)」米軍基地問題委員会との交流会に参加させていただいた。
1 はじめに
 同交流会は、2007年からコロナ前まで毎年開催されており、既に17年もの伝統がある。2020年以降はコロナ禍のため、2019年ソウルでの開催以来4年ぶりリアル開催ということで、交流会には終始、再会できたことに対する歓喜が渦巻いていた。
 沖縄支部側29名、民弁側21名が参加する中、私は今回、ご厚意で国際問題委員会から参加させていただいた。完全な部外者であったが、沖縄の皆さんにも民弁の皆さんにも暖かく迎えていただき本当に有難かった。まずなにより、このことに深く感謝申し上げる。
2 沖韓双方の充実したセミナー報告
 交流会の目玉は、26日丸一日使って行われるセミナーである。沖縄側からも民弁側からも、両国での米軍基地に関わる現状分析や事件活動等の取り組みについて充実した報告が行われた。
⑴ メインテーマは「米軍の対中・対北の軍事戦略の変容に伴う韓米、日米の軍事態勢の現状」
 沖縄側から仲山忠克弁護士が「日米安保体制の現状と平和構築への課題」と題して、昨今進む南西諸島のミサイル基地化や安保三文書改定(特に敵基地攻撃能力の保有)の危険性についての報告が行われた上、北東アジアの平和構築・安全保障システムの創設について問題提起がなされた。続いて民弁側から、チャ・ソンウク弁護士とパク・サムソン弁護士が、「作戦計画を中心に見た米国の対北朝鮮軍事戦略」の報告を行った。同報告では北朝鮮に対する米韓の作戦計画のポイントと基地利用(平沢(ピョンテク)基地、烏山(オサン)基地及び岩国基地)の状況が報告されたが、昨今の米国による対中強硬策の中で、台湾有事の際に在韓米軍が関与する可能性が高まっていることについても、2023年の米韓年次安全保障協議会(SCM)共同声明に「南シナ海及びその二国間地域を含む全ての海域」「台湾海峡における平和と安定維持の重要性を確認する」という内容が含まれていることなどを紹介しながら指摘がなされた。また日本における安全保障政策修正の動きが日米韓3国間の軍事協力を拡大する一要因になることも指摘され、「韓米日軍事協力の強化は韓米日/北中露の冷戦構造と陣営対比を固定化し、韓半島の平和構築をさらに困難にするだけだという批判は、説得力がある」「米国の対中政策に韓国と日本が同盟で結ばれ、巻き込まれる危険性が高まっているため、韓半島をはじめとする北東アジアの平和がより切実な時期である。」と結論づけられた。
 私は従前の交流の歴史を知らないが、沖縄支部と民弁の間で、昨今の米国の対中強硬政策への同調・追従によってむしろ平和構築が遠のいているという認識が一致していることが確認されたことは、非常に大きな意味があったように感じた。
 報告後の質疑応答も興味深く、韓国内のマスメディアの論調は嫌中をあおるような記事・報道がある点は日本とも似ている側面があるが、中国を韓国自体に対する軍事的脅威と捉える見方はあまり見かけず、「重要な貿易相手国だが問題のある相手なので一定距離を置く」という程度の論調がよく見られるという点には日本世論との差異も感じた。
⑵ 個別事件報告
 メインテーマの議論の後は、沖韓双方から米軍関係の個別事件活動が多数報告された。紙幅の関係で恐縮ながら、民弁側報告事件のうち、スケールが大きい点で特に印象に残った2件のみを簡単に紹介したい。
・「米軍慰安婦」国家賠償請求訴訟
 1957年以降、韓国政府が、米軍基地周辺に米軍を対象とする性売買地域(“基地村”と呼ばれる)を指定・監理し、米軍対象の性売買を能動的・積極的に助長・幇助し、性病の疑いがある者を「落検者収容所(性病管理所)」などに強制的に隔離収容して無差別的にペニシリン等の薬物を投与した行為について国家賠償請求(被告は大韓民国)。
  1審では性病の疑いがある者に対して(1977年8月19日の法整備前に)法的根拠なく強制隔離収容した行為のみを違法行為と認定したが、2審では法整備後の行為についても、保険証不所持等の理由のみで隔離収容した場合は違法と判断し、さらに韓国政府が積極的・能動的に性売買への従事を正当化または助長した事実も認定して、同行為が「国家が基地村慰安婦の性的自己決定権、さらには『性』で表象される人格そのものを国家的目的達成のための手段として、人権尊重義務に違反した」と判断した(2022年9月、大法院で同判決が確定)。
・「ベトナム戦争時の韓国軍による虐殺にかかる国賠請求訴訟」
 1968年2月12日にベトナム・クアンナム省の村で、大韓民国軍の中隊所属の軍人らが、故意に民間人に銃撃して傷害を加え、また殺害した行為についての国家賠償請求(被告は大韓民国)。2023年2月7日に第一審勝訴判決。
 虐殺行為当時に作成された在ベトナム米軍の報告書が存在したため、加害部隊が特定でき、かつ記者がインタビューをとることまで成功して、提訴が可能となった。
 なお上記いずれの事件についても、国側の消滅時効の主張は、信義則違反・権利濫用として排斥されている。
3 これぞ民間交流~「楽観主義と決意」
 この交流会では、上記セミナーに限らず民弁の皆さんと交流できる機会がふんだんに用意されていた。スポーツを通じた交流あり、飲みにケーションあり…二次会で日本の軍拡路線の誤りについて熱弁を振るったり、若手弁護士がキツいのは同じだねと笑い合ったり、尹大統領に目の敵にされているなんて民弁はすごいですねと冗談半分で僻んでみたり…16年の蓄積と信頼関係に裏打ちされているからこそできる、貴重な、密度の濃い時間であったと思う。
 セミナー中、仲山弁護士は北東アジアの平和構築について議論を提起する文脈で、昨年6月の核兵器禁止条約第1回締約国会議で採択されたウィーン宣言の結びの一節「私たちの前に立ちはだかる課題や障害に幻想を抱いてはいない。しかし、私たちは楽観主義と決意をもって前進する」を紹介された。まさに「楽観主義と決意」を胸に沸き立たせ、明日からの闘いに奮い立つエネルギーを与えてくれる交流会であった。平和構築を促進させる「民間交流」を正に地で行く日韓の弁護士間の交流が、このように定期的に、密度濃く行われていることは極めて重要であると感じた。
 惜しむらくは、折角の沖縄滞在にもかかわらず基地等の現地視察ができなかったことであるが、近いうちに果たしたい。

 

吉田健一前団長と団の未来を語る会・東京多摩

東京支部  吉 田 榮 士

1 やっと行われた吉田健一前団長の会 
 本年3月31日、吉田健一前団長のご苦労さん会を行いました。(以下、多摩地域の親密な仲を示す意味で全員「さん」付けにします。)
 2019年10月、吉田さんが、東京多摩地域(東京西部、東京23区を除く地域)から、はじめて自由法曹団の団長になりました。これは大変なことだということで、激励会を行うことになり、2020年3月に開催する予定でした。
 しかし、折からの新型コロナの発生でこの企画は延期され、その後、コロナは拡大し、結局は好機を逸しました。
2 激励会からご苦労さん会へ
 吉田さんの任期はあっという間にたってしまいました。吉田さんが団長をされた3年間は、コロナ問題、安倍問題、ロシアのウクライナ侵略、安倍国葬問題などがあり、それに団100周年記念行事と大変な3年でした。
 それで、これは何とか吉田さんを慰労するとともに、若手団員が参加できる企画をと考えました。それが「団の未来を語る会」ですが、後で述べるように、そんな大層な会ではありません。
 この企画の呼びかけ人は、杉井静子さん、中野直樹さん、尾林芳匡さんと幹事役でもある平和元さん、齊藤園生さんと私の6人です。昨年の12月ころから企画を練りました。
3 どんなことをしたのか
 吉田さんは、多摩の30期台までの者からは、親しみを込めて「よしけん」の愛称で呼ばれています。そんなこともあり、小難しい講演などはやめよう、とにかく、楽しい会にしようということから始めました。
 参加者は15の法律事務所から34人。期でいうと20期の鈴木亜英さんから75期までが集まりました。事務局からも2名の参加がありました。
 会場は立川のホテルで、会は2部構成にしました。1部は吉田さんを半円で囲み、「今だから ここが聞きたい」と称した質問会、2部は食事を兼ねた懇談会です。
 1部の司会は、齊藤園生さんと小林善亮(埼玉・所沢)さん。2部の司会は中野直樹(神奈川・相模原)さんと山口真美さんです。小林さん、中野さんもルーツは、立川、八王子です。
4 1部「今だから ここが聞きたい」はどうだったか
 呼びかけ人代表、杉井静子さんの、多摩の団の歴史を踏まえた挨拶から始まりました、
 質問事項は、事前に参加者から出してもらい、そこから選んで項目に分けました。第1は「団長の苦労あれこれ」。これには、個性豊かな人たちをどうやってまとめたの? 今の時代に団は大事? 団の役割は何? 何に苦労したの? などなど。第2は「団長としての生活」。これには、リフレッシュの仕方はどうしたの? 健康管理はどうしていたの? などなど。第3は「これからの団へ」。これには、団員としてのやりがいって何? これからの団に望むこと。などなどでした。
 この回答はオフレコにします。しかし、これがまた、吉田さんの性格なのか、生真面目に答えて面白味がなく、企画者泣かせでした。ただ、真面目な話し振りなので若手には逆に面白かったと思います。司会者2人が芸達者で色々と吉田さんから回答を引き出してくれました。
5 2部、懇談会はどうだったか 
 2部は食事会ですが、5テーブルに7人ずつ座り、食事をしながら、テーブル責任者にマイクを渡し、各テーブルごとに、吉田さんにまつわる話をするというものです。乾杯の挨拶は二上護さん。仲間内の会ですので、この2部は面白かったですね。司会者の中野さん、山口さんの合いの手が絶妙で、昔話を中心に、多摩の団の事件、運動と吉田さんというような話が続き、笑い声が絶えませんでした。企画では1テーブル5分間位の予定でしたが、延々と面白い話が続くので、しばし歓談の時間も取れない位に、盛り上がりました。
6 やってみてどうだったか
 参加メンバーは20期台30期台のベテランが16人、60期台以降の若手が8人、残りは40期台、50期台です。この幅広いメンバーで集まり、わいわいやるというのは本当に久しぶりでした。多摩地域はまとまりがあると言われていますが、そもそも、多摩の団事務所は、すべて三多摩法律事務所をルーツとしているので、仲間意識が強いという特色があります。
 今回の会ですが、ひとことで言うと、吉田さんの真面目さ全開、周りの仲間のいい加減さと温かさ全開といった会でした。
 今回の報告をしたのは、今、団自体は難しい所にあるようですが、こういう地域もあり、それだから吉田さんをささえてこられたということも知ってもらいたかったからです。もちろん、多摩の事務所も色々な問題をかかえております。ただ、まとまるときにはまとまります。改めて、そういう面白さを団は持ち続けなければならないと思いました。
 多摩からの報告でした。

 

今村核団員~追悼~

今村核さんを偲ぶ

東京支部  加 藤 健 次

 今村核さんの訃報を聞いてから数ヶ月経つが、いまだに実感がわかない。昨年中に原稿をお引き受けしたが、筆が進まないまま時間が過ぎていった。そろそろ気持ちの区切りをつけるためにも、核さん(いつもの呼び方でそう呼ばせていただく)との思い出を語ることにしたい。
 核さんとのつきあいは、約40年前の学生時代にさかのぼる。核さんは私の後輩で、セツルメント活動を行っていた。当時、駒場寮の一室でいろいろと語り合ったことが思い出される。
 弁護士になった後、1996年に団本部の次長を一緒につとめた。この頃の核さんは、労働事件や労働問題を中心に活動していた。その後、主に刑事事件や刑事司法の問題を通じて、核さんと濃密に付き合うようになった。
刑事事件の「師匠」として
 2003年10月、私は、西武新宿線電車内の痴漢えん罪を担当することになった。この種の事件は初めてだった。この頃、核さんはすでに刑事えん罪事件で成果をあげており、弁護団に加わってもらうことになった。この事件は、2005年に東京地裁で有罪判決を受け、翌2006年に東京高裁で逆転無罪判決をかちとることができた。核さんは、本人の無実を明らかにするために、再現ビデオの作成など、徹底的に事実解明にとりくんだ。ときには、私たちに「やる気があるのか!」といわんばかりに、厳しい意見を述べることもあった。「ここまでやらなければならないのか」と思いながらも、なんとか頑張りぬくことができた。このときの核さんは、年齢を超えた「師匠」だった。もっとも、弁護団会議で厳しい意見を言った後の飲み会では、「さっきは言い過ぎました」などとフォローすることも忘れなかった。こんなやり取りを通じて、互いの信頼関係がより深まって行ったように思う。
 核さんは、一見とっつきにくそうに見えるが、いったん懐に入ると深いつきあいのできる人だった。核さんと一緒に事件に取り組んで、同じような思いを抱いた方も少なくないのではないだろうか。
刑事司法をめぐる取り組み
 私が本部事務局長だった2009年に裁判員裁判が施行された。このとき、核さんは、当時の司法問題委員会委員長だった。当時、団内では、「司法改革」に対する評価ともあいまって、裁判員裁判に対して様々な意見があった。会議のたびに激論が交わされた。団は、国民救援会などとも議論を重ねて、裁判員裁判に対する意見をまとめた。えん罪をなくすという立場を徹底し、官僚裁判官による過去のえん罪を徹底的に批判する立場から、市民が刑事裁判の事実認定に参加する意義を強調した。他方で、市民による常識にそった事実認定という本来の趣旨が歪められないよう、いくつかの抜本改正提案を主張する意見書やリーフレットを作成した。
 核さんは、えん罪事件に取り組み、多くの成果を勝ちとる一方で、何回も煮え湯を飲まされてきた。その経験に裏打ちされていたたからこそ、様々な意見がある中で、団としての見解をまとめることができたのだと思う。
団を体現した刑事弁護士
 2016年11月、NHKが核さんを取り上げた『ブレイブ 勇敢なる者「えん罪弁護士」』を放送した。当時、核さんは今市事件の控訴審から弁護団に参加しており、本部の常任幹事会でカンパを訴える場面が映っている。その後、NHK出版から「雪ぐ人 えん罪弁護士 今村核」という本も出版された。ここに核さんの生き様や弁護に取り組む姿勢があらわれている。ぜひ、多くの団員に見て、読んでいただきたい。
 このときは、常幹のみならず、治安警察委員会とその後の懇親会にも取材のカメラが入った。こんなことは後にも先にもないだろう。その懇親会での核さんとのやり取りが忘れられない思い出だ。「どうやって無罪を勝ち取るか」というテーマで、核さんは上田誠吉団員の名前をあげて、「われわれは真実を明らかにすることによって無罪をかちとる」、「無罪推定の原則で無罪を勝ち取るのではない」というようなことを力説していた。酒が入っていたこともあって、議論は大衆的裁判闘争論にまで及び盛り上がったことを覚えている。(この映像は、本編ではカットされたが、「完全版」には入っていた。)核さんは、団を体現した刑事弁護士だった。
 核さんは14件の無罪判決をかちとった。その中には、刑事ドラマのモデルになったものも含まれている。このこと自体がすごいことだ。しかし、今市事件をはじめ、核さんが絶対無実だと確信しながら不当な有罪判決を受けた事件も少なくない。不当判決を受けたときの核さんは、心から怒り、そして落ち込んでいた。私が核さんと一緒に取り組んだえん罪事件は、先程の1件だけだったが、精神的なプレッシャーは相当なものだった。常に数多くのえん罪事件を抱えていた核さんの心労はいかばかりであったろうか。いまとなれば、もっと核さんと語り合う時間をとればよかったと悔やまれる。
 核さんの姿勢は、刑事事件だけでなく、どの分野でも生かすべきものだ。それを引き継いでいくのが、せめてもの供養だと思っている。
 核さん、ゆっくり休んでください。

TOP