2022年3月22日、「少年法改正における国会審議を尊重し、 少年の要保護性に即した調査・処遇の維持を求める意見書』を発表しました

カテゴリ:子ども・教育,意見書,治安警察

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少年法改正における国会審議を尊重し、少年の要保護性に即した調査・処遇の維持を求める意見書

 

2022年3月22日
自  由  法  曹  団

 

第1 意見の要旨

 2022年4月施行の改正少年法について、裁判所内で行われている研修や運用の在り方の検討の内容は、18歳・19歳の者についても引き続き保護原理が妥当することや、原則逆送事件についても要保護性に関する調査が重要であることを確認した国会審議に悖るものであると言わざるを得ない。
 自由法曹団は、法律家団体として、最高裁判所に対し、少年法改正における国会審議及び附帯決議を尊重し、少年(特定少年を含む)の要保護性に即した調査・処遇の維持を求めるものである。

 

第2 意見の理由

1 少年法改正
 2021年5月21日、少年法改正法が国会で可決・成立した。
 同法によって、少年事件に関し、18歳・19歳の者を「特定少年」と位置づけ、全件を少年法の対象とする仕組みは維持しながら、原則逆送となる事件を短期1年以上の懲役や禁固が定められている事案に拡大し、逆送後起訴された場合に、推知報道の禁止を解除することや刑事処分上の特例措置を適用除外とする一方、ぐ犯の保護手続きの対象外とすることとなった。

2 改正法の問題点
(1)
 そもそも、現行の少年法による処遇が少年の更生や再犯防止に大きな役割を果たしていることは、3年以上にわたる法制審議会における検討でも共通認識となっていた。菅義偉総理(役職は当時のもの。以下同様)も「少年による刑法犯の検挙人員数は減少傾向にあり、少年法に基づく現行制度は、再非行の防止に一定の機能を果たしている」と国会で答弁している。つまり、少年法は、改正を行わずとも有効に機能しており、根本的に少年法を改正すべき必要性はなかった。
(2) また、改正法については、以下のような問題点や懸念が存在し、18歳・19歳の者に対する要保護性に即した処遇が後退する危険がある。
 即ち、18歳・19歳の者について拡大された原則逆送対象事件には、①悪質性が高いとは言えない行為態様のものも含まれ、少年法に基づく内省や更生に向けた指導が受けられなくなる可能性があること、②仮に刑事裁判となった場合は、推知報道の一部解禁により、むしろ18歳・19歳の者の更生や社会復帰を困難にする危険があること、③18歳・19歳の者の事件(とりわけ原則逆送事件)について、17歳以下と異なる扱いを強調するあまり、家庭裁判所での要保護性に関するきめ細かい調査が後退してしまうおそれがあること等である。さらに、④18歳・19歳の者への福祉的な支援の制度が乏しい中で、ぐ犯が適用されなくなれば、支援を受ける機会を得られない者が増加する危険も高い。
 自由法曹団はこれまでも意見書等でこれらの問題点を指摘してきた。

3 国会審議で確認された改正少年法の趣旨と運用
 自由法曹団が指摘してきた改正少年法の問題点は、国会審議の中で国会議員からも指摘をされた。政府・法務省や最高裁判所は、指摘を受けた点について以下のような答弁を行ってきた。ここでは、特に18歳・19歳の者について引き続き要保護性に基づく保護処分が適用される点と、原則逆送対象事件についても要保護性に関する十分な調査が必要であることが確認された点を指摘する。
(1)18歳・19歳にも要保護性に基づく保護処分が適用される
 改正少年法においても、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずる」(少年法1条)という少年法の目的は維持され、「特定少年」と位置づけられる18歳・19歳の者についても適用される。そして、家庭裁判所がこの目的に従って全ての事案について審理を行うことも維持された(全件送致主義)。
 18歳・19歳の者について、健全育成を図る目的や保護処分を行うことが明記され、そのために家庭裁判所が全件を審理するのであるから、今後も家庭裁判所で要保護性に基づく調査や処遇決定が行われるべきことは当然である。
 この点については、国会審議においても確認されている。すなわち、手嶋最高裁家庭局長は、「18歳以上の少年に対する保護処分につきまして、犯した罪の責任に照らして許容される限度を上回らない範囲でしなければならないものとされてはおりますものの、家庭裁判所は、その範囲内において対象者の要保護性に応じ課すべき保護処分を選択することとされておりまして、その点の家庭裁判所の役割には変わりがない」(2021年5月11日参議院法務委員会)と答弁し、川原法務省刑事局長も「18歳以上の少年に対する保護処分は、刑罰と異なり、応報としてではなく、専ら少年の健全育成を図るために課すものであることから、犯した罪の責任に見合うほど重く処分をすべき要請はなく、要保護性が小さければそれに応じた軽い処分を選択することになる」と答弁し(同日参議院法務委員会)、18歳・19歳の者も引き続き要保護性に基づく保護処分の対象となることが確認された。法務大臣及び法務省刑事局長も改正法によって「実務上、要保護性に応じた適切な処分選択を行うことに直ちに支障が生じるものではなく、現在の少年事件における実務の運用が大きく変わるものではない」と答弁している(上川法務大臣及び川原法務省刑事局長答弁。同日参議院法務委員会)。
 また、改正少年法成立の際に付された付帯決議においても、「18歳及び19歳の者は、類型的に成長発達途上にあって可塑性を有する存在であることから、引き続き少年法の適用対象と位置付けることとした趣旨を踏まえ、少年の健全な育成を期するとする法の目的及び理念に合致した運用が行われるよう本法の趣旨の周知に努めること」を定めた。
(2)原則逆送対象事件についても要保護性に関する十分な調査が必要
 改正法により原則逆送事件の範囲が短期1年以上の罪に拡大された。上記の通り、まずは少年法の目的に即して家庭裁判所が全件を審理する以上、原則逆送事件についても少年の要保護性に関する十分な調査が家庭裁判所で行われることが大前提となる。
 国会審議でも、この点が繰り返し確認された。
 具体的には、「新たに原則逆送の対象となる事件におきましても、現行の原則逆送対象事件と同様に、家庭裁判所においては、要保護性に関するものを含め、調査で判明した様々な事情を考慮し、逆送決定をするか否かについて慎重な判断が行われるものと考えております」(川原法務省刑事局長答弁。2021年5月11日参議院法務委員会)。「一般に、家庭裁判所調査官におきまして、非行の動機、態様、結果等だけでなく、少年の性格、年齢、行状及び環境なども含めまして、少年の問題性について十分に調査を尽くし、それらの結果も十分に踏まえて処分を決定するという点におきまして、・・・原則逆送事件とその他の事件とは特に異ならないものと承知をしております」(手嶋最高裁家庭局長答弁。同日参議院法務委員会)。「(最高裁が、現行制度において、原則逆送事件について保護処分を選択する際は、逆送しない特段の事情があるか否かを中心に調査すべき等の考え方を強調しているのではないかとの質問に対し)原則逆送対象事件における調査官調査の在り方や調査票の作成の在り方について、最高裁として特定の考え方や方向性を示しているということはありません。原則逆送対象事件においても社会調査を尽くして非行のメカニズムをできる限り解明することが求められているということに変わりはなく、家庭裁判所調査官は、他の事件の場合と同様に、非行の動機、態様、結果などだけではなく、少年の性格、年齢、行状及び環境等も含め、少年の問題性について十分に調査を尽くし、その結果を的確に調査票に記載するよう努めているものと承知しています」(同)。「家庭裁判所調査官による調査、これは非行の動機、態様、結果等だけでなく、少年の性格、年齢、行状及び環境等も含め、要保護性について十分に調査を尽くさなければならない」(手嶋最高裁家庭局長答弁。2021年5月13日参議院法務委員会)といった答弁が国会審議においてなされている。
 改正法成立時の付帯決議においても、「現行の原則逆送事件については、家庭裁判所が、犯情及び要保護性に関する様々な事情について十分な調査を行った上、これにより判明した事実を考慮して、検察官に送致するかどうかの決定を行っていることを踏まえ、新たに原則逆送の対象となる罪の事件には様々な犯情によるものがあることに鑑み、家庭裁判所が同決定をするに当たっては、きめ細かな調査及び適正な事実認定に基づき、犯情の軽重及び要保護性を十分に考慮する運用が行われるよう本法の趣旨の周知に努めること」を定めた。

4 裁判所内の研修や運用の在り方の検討
(1)裁判所内の研修での議論
 上記の経緯を経て成立した改正法について、今年4月からの改正法の施行を前に、最高裁司法研修所において、改正法の運用に関する研修が行われている。
 研修では、改正法の趣旨について「民法との整合性を図る観点から少年法が改正されることになった」として、18歳・19歳の者の処分については、保護処分の正当化根拠とは異なり侵害原理による、18歳・19歳には保護原理は適用されないなどと説明する講演が行われた(2021年5月25日「ミニ研究会(少年)」、下線筆者)。
 また、別の研修では、改正法の18歳・19歳の者に対する保護処分は、実質において、法制審議会部会において、少年法適用年齢の18歳未満への年齢引き下げを前提として議論されていた「新たな処分」を引き継いだものであり、18歳・19歳の者に保護原理は適用されないと説明する講演も行われた(2021年9月9日「少年専門研究会」)。
(2)改正少年法の運用の在り方の検討
 同様に、改正法について、東京家庭裁判所では、2021年12月に、同法の在り方についてPTの検討結果の取りまとめを行った(以下「取りまとめ」という)。
 「取りまとめ」では、現在の原則逆送事件の判断の在り方について、例外的に保護処分を選択するときは、保護処分の方が矯正改善に適しているとか、必要であるという事情のみならず、保護不適の推定を破る事情、すなわち、保護処分を許容しえる特段の事情が必要であるとの前提に立ち、改正法でも現行の判断枠組みと同じであるとされている。また、改正法は、特定少年が自律的主体であると位置づけており、特定少年による犯罪行為全体について評価替えがされたとみることができ、原則逆送事件以外の事件についてもこの趣旨を踏まえ検察官送致となる事件は増えるとしている。
 さらに、裁判官と調査官・書記官とのカンファレンスの在り方として、犯情の軽重や逆送の見込みについて、裁判官が事件受理段階における法的調査によって事件処理の見通しを把握したならば、これを早期に調査官・書記官に示し、認識共有を図ることが重要としている(なお、仙台家庭裁判所所長・入江猛氏による、改正少年法運用に関する論文「家庭裁判所のおける改正少年法の運用について」においても「取りまとめ」と同様の記述がなされている。「家庭と法の裁判」No.36・2022年2月所収。)

5 裁判所内の運用検討での議論は国会審議を踏みにじるものである
(1)裁判所内での研修の議論の問題点
 前記の通り、改正少年法に関する、懸念や批判の声を受け、法案審議を行った国会では、不十分ながらも改正法の弊害に配慮した国会答弁が法務省及び最高裁判所によってなされていた。国会も、弊害をなるべく小さくしようとの観点で付帯決議を付し、今後の運用において政府や最高裁判所に配慮すべき事項を指摘した。
 しかしながら、前記の裁判所内の研修での講演は、国会における審議内容に反し、18歳・19歳の者について、保護原理が適用されることを否定するものである。この考え方に基づけば、18歳・19歳の者の処分については、必ずしも要保護性は必要とされないことになる。
 つまり、18歳・19歳の者について、家庭裁判所で詳しい要保護性の調査も必要ないということになりかねない。これでは、18歳・19歳の者について、少年の問題性や環境等を十分調査をしたうえで処遇を行う現在の少年法の機能が損なわれてしまう。
 改正法は、このような懸念があったからこそ18歳・19歳の者についても第1条の健全育成の目的や保護処分の適用対象としたのである。前述のように、国会審議の中でも、18歳・19歳の者についても要保護性に基づく保護処分が適用され、原則逆送対象事件も含めたすべての事案について、十分な要保護性の調査が必要なことは、最高裁判所家庭局長の答弁を含め、繰り返し確認された。要保護性の重要性は付帯決議でも明記され、立法者の意思も示されている。
 最高裁判所において、18歳・19歳の者について保護原理が適用されないとの議論が改正法の正しい理解であるかのような研修がなされていることは、国会における審議経過や、国会の意思である附帯決議を全く踏みにじるものであると言わざるをえない。
(2)裁判所が検討している改正少年法の運用の在り方の問題点
 東京家庭裁判所の「取りまとめ」は、現行の判断枠組みについて、原則逆送対象事件について保護処分を選択する場合に、逆送をしない「特段の事情」の有無を中心に判断するとの枠組みであることを前提に、改正法でも同様の枠組みで判断することを表明している。しかしながら、前記の通り、最高裁判所は「最高裁が特定の考え方や方向性を示しているものではない」として、このような判断枠組みを現行の運用として最高裁判所が決めたものではないと国会審議で明確に答弁している。「取りまとめ」は、原則逆送事件における現行の判断枠組みについて、最高裁判所が示ししていない枠組みを前提にしている点でも国会審議での議論に反するものである。
 また、「取りまとめ」は、改正法について18歳・19歳の者の行った犯罪行為全体について「評価替え」がされたものと評価し、原則逆送事件以外の事件についても検察官送致が増えると、いわば厳罰化を容認している。しかしながら、このような運用は、18歳・19歳の者について少年法の処遇から外される範囲を拡大するものであり、改正法が引き続き少年法の保護処分の対象として、少年法による処遇により18歳・19歳の者の更生や社会復帰を図るとした法の趣旨を没却する危険がある。
 さらに、「取りまとめ」で、裁判官が早期に犯情の軽重や逆送の見通しを調査官に示すとされていることは、調査官調査の範囲を裁判官の見通しの範囲内に限定させる恐れがあり、18歳・19歳の者や原則逆送事件についても十分な要保護性に関する調査が必要であることを強調していた国会審議と整合しないものである。
(3)要保護性調査の重要性を裁判官・調査官に周知すべき
 最高裁判所は、要保護性に関する調査が引き続き重要であることなどについて「法の趣旨、目的、そのあたりを含めまして、しっかり説明、十分な周知を図りたいというふうに思っております」(手嶋最高裁判所家庭局長答弁。2021年5月11日参議院法務委員会)と述べ、裁判官や調査官への周知を国会で約束した。これは国民に対する約束である。最高裁判所は、国会の意思を尊重し、自ら国会で約束した通り、要保護性に関する調査や要保護性に基づく処分・処遇の重要性を裁判官・調査官に周知しなければならない。

6 まとめ
 以上より、自由法曹団は、最高裁判所に対し、国会の審議及び附帯決議を尊重し、引き続き、少年の要保護性に即した調査や処遇を行い、少年の更生の機会を狭めることのないように運用するよう求めるものである。

以上

 

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