2022年8月23日 「土地利用規制法」に対する意見(パブコメ)を発表しました

カテゴリ:意見書,憲法・平和,米軍・自衛隊

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「重要施設の施設機能及び国境離島等の離島機能を阻害する土地等の利用の防止に関する基本方針案、重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律施行令案及び重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律施行規則案」に対する意見を発表し、内閣府政策統括官に提出(郵送)しました。

 

1   立法事実について
該当箇所:第1の1 第2段落~第4段落
 国会審議において、政府がいう外国資本による土地等の取得が安全保障上のリスクとなっている実態は存在しないことが明らかになっており、立法事実が不存在であることは明白である。それにもかかわらず、基本方針案、かかる立法事実があることを前提として作成されており不適切である。

2   権限抑制条項について
該当箇所:第1の2(1)~(3)
 法第3条は、この法律の実施にあたって国民の権利を不当に制限しないようにすることを定めるが、基本方針案は何らこれを具体化することなく、「必要最小限度のものとなるように実施する」、「日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限することのないよう留意する」とするのみで、国民の権利を不当に侵害しないための制度的保障の用意が全くない。土地利用規制法による国民の権利侵害の危険性は極めて高いのであり、国民の憲法上の権利及び自由を不当に侵害しないための具体的施策を定めるべきである。
 また、個人情報保護についても、具体的な保護の施策が何ら定められていない。法21条1項による情報提供に含まれると考えられる個人情報の取り扱いについても何ら触れられていないが、具体的な保護施策を定めるべきである。

3   注視区域・特別注視区域の指定の趣旨及び手続について
該当箇所:第2の1
 注視区域及び特別注視区域の指定に際し、「重要施設の周辺に海、河川等が存在するといった地理的特性」を考慮するとしているが、その内容が不明確である。どういう場合に、どう考慮するのか明確にするべきである。
 また、関係地方公共団体の意見を「聴取する」としているが、土地利用規制法による制約は甚大であり、不動産取引をはじめとする地域経済・地域社会の安寧に影響をもたらす上、地方公共団体にとっては、都市計画、経済計画、社会福祉計画、税収など多岐にわたる影響が予想される。したがって、関係地方公共団体の意見聴取に留まらず、その意見を「尊重する」とすべきである。
 さらに、指定された区域の住民及び権利関係者には、指定されたこと、指定の種別並べに、その趣旨・内容を告知して、異議申立の機会を与えるべきである。

4   注視区域の指定の対象について
該当箇所:第2の2(1)ウ
 生活関連施設に該当するとされている原発関連施設について、国会では「原子力発電所と核燃料サイクル関係施設」と答弁されている(第204回国会衆議院内閣委員会議録第27号15頁(2021.5.26))が、基本方針案ではこれよりも広げており、国会審議を超えるものだから許されない。
該当箇所:第2の2(2)
 有人の国境離島及び有人国境離島地域を構成する離島について注視区域の指定をなす場合、領海基線の周辺と領海警備等の活動拠点の周辺とされているが、その範囲が不明確であるから、明確に示すべきである。
該当箇所:第2の4
 「経済的社会的観点から留意すべき事項」が示されているものの、その内容及び基準が不明確であり、恣意的な運用を許しかねないから、具体化し確定的な要件として定めるべきである。とりわけ、注視区域指定について「機能阻害行為の兆候が容易に把握できる地域の特性」とか、特別注視区域の指定については「総合勘案」するなど、その内容や基準が不明確であり、恣意的な運用がされるおそれがある。

5   土地利用状況調査について
(1) 調査の方法
該当箇所:第3の1(2)
 イの現地・現況調査について、「利用の実態をさらに具体的に確認する必要があると認められる場合等」の例示は未登記建物の存在しか挙げられておらず、何らの限定もないに等しい。また、その調査内容も不明確である。法22条による調査は極めて広範に及ぶおそれがあり、その分人権侵害の危険性も高いものであるから、実施できる場合を限定的に列挙し、かつ、その調査内容も明示すべきである。
 ウの報告の徴収についても、「土地等利用調査のためになお必要があるときに限って行う」としているが、示された例は1つのみであり、いかなる場合に「土地等利用調査のためになお必要があるとき」に該当するのか不明確であるから、これを明確化すべきである。併せて、審議会の意見を聞く必要がある場合も明確化すべきである。
(2) 調査の対象
該当箇所:第3の1(3)
 法8条において、報告を聴取できる利用者その他関係者という範囲については明確な限定がされておらず、工事に従事している請負業者の例を挙げるが、事業の取引先や従業員、団体・組織のメンバーなどきわめて広範に及ぶことが否定できないものであり、機能阻害行為に関連付けて、様々な個人情報にまで調査が及ぶおそれが大である。また、機能阻害行為を行っていることについて「推認される場合」というのは少なくとも削除するべききである。
(3) 調査項目
該当箇所:第3の1(4)第3段落
 「思想・信条等に係る情報を含め、その土地等の利用には関連しない情報を収集することはない」としているが、本来かかる限定は法律において定めるべきである。また、「土地等の利用に関連する情報」と判断されれば思想・信条はもとより平和活動や生活・権利確保の活動、表現活動等に係る情報も調査の対象と読むこともできるため、明確に「思想・信条、及び平和活動や生活・権利確保の活動、並びに表現活動等に係る情報は収集しない」と定めるべきである。
(4) 情報提供の受付体制の整備
該当箇所:第3の1(5)
 基本方針案では、「内閣府に、……地域住民等から、土地等の利用状況に関し、現場の実態等に係る情報提供を受け付ける体制を整備する」とされているが、かかる情報受付窓口の設置は密告の奨励に等しく、法律上も根拠規定がないのだから認めるべきではない。また、地域住民だけでなく「重要施設を所管する関係行政機関等、重要施設を運用する事業者」も情報提供の主体として位置付けられており、これに自衛隊が含まれるとすれば、法7条等によらず、情報保全隊等が収集した情報を内閣総理大臣に提供させることが可能となる。かかる法の抜け道は断じて許されず、明確に禁止すべきである。

6   特別注視区域内における土地等に関する所有権等の移転等の届出
該当箇所:第3の2(2)
 届出の対象となる建物については、床面積が200平方メートル未満とされているが、延床面積なのか建築面積なのか明らかではない。土地と同一の面積としていることからすれば、建築面積と解すべきであり、その旨を明示すべきである。

7   注視区域内にある土地等の利用者に対する勧告及び命令に関する基本的な事項について
(1) 勧告及び命令の趣旨及び手続
該当箇所:第4の1
 基本方針案では、「内閣総理大臣は、勧告を受けた者から申立てがあった場合には、それが正当な理由に相当するか否かについて、個別の事案ごとに判断する。」とされており、国会審議において、かかる内閣総理大臣の判断に対しては、行政不服審査法に基づく申立てができるとの答弁がなされている。しかし、上記基本方針の内容では、行政不服審査法による不服申立手続とは別に、内閣総理大臣による審査がなされるかのような記載となっており不適切である。勧告に対しては行政不服審査法に基づく不服申立手続が可能であることを明記し、行政不服審査法及び行政手続法等で定められる教示等の行政の義務について明記すべきである。また、勧告に対する不服申立てがなされた場合には、当該不服申立ての審理判断が確定するまでは命令は行わないことを明記すべきである。
(2) 機能阻害行為について
該当箇所:第4の2
 機能阻害行為について7つの類型が例示されているが、あくまで例示に過ぎず、しかも何ら限定されていないものであり、内閣総理大臣の恣意的な判断を何ら阻止するものではなく、罪刑法定主義違反は解消されていない。罪刑法定主義の観点から、抽象的な類型の例示ではなく、施設ごとに具体的な機能阻害行為を特定し明記すべきである。施設ごとにその機能は異なり、それらの機能を阻害する行為がいかなるものかは施設ごとに判断せざるを得ないが、当該施設の周辺に居住する住民は、当該施設の実態など知らないことの方が多く、自らの行為が機能阻害行為に該当するか否かの判断は不可能である。すなわち、いかなる行為が構成要件に該当するかもわからないまま刑罰の対象とされうるのであり、罪刑法定主義に違反するのだから、施設及び指定区域ごとに個別具体的に機能阻害行為を定めるべきである。
 また、機能阻害行為に該当しない例があげられているが、いずれも不適切である。
 「施設の敷地内を見ることが可能な住宅への居住」は機能阻害行為に該当しないとされているが、「居住し、あるいは施設を監視すること」が該当しないとは記載されていない。この点は法案審議時の資料では「高所からの継続的監視、盗聴」が機能阻害行為として挙げられていたことと関連するものと考えられるが、これらの行為が機能阻害行為に該当しないのであれは、「居住」に限定せず、「監視すること」も機能阻害行為には該当しないと明記すべきである。
 「施設周辺の私有地における集会の開催」が挙げられているが、そもそも集会の開催は、憲法が保障している重要な事由である表現の自由の一環であり、これが規制の対象となることを検討すること自体が不適切である。
 また、「施設周辺の商業ビル壁面に収まる範囲の看板の設置」についても、商業ビルでない建物の看板、壁面からはみ出る看板の設置は機能阻害行為に該当すると読めるため、不適切である。
 「国境離島等の海浜で行う漁ろう」との点も、海水浴などは機能阻害行為に該当すると解され、不適切である。
 以上のように、例示はいずれも不適切であり、該当しない場合として例示を行うべきではない。
 さらに、基本方針案では、「公共の土地をイベントのために一時的に使用する者は、法9条の措置の対象となる土地等の利用者には該当せず、勧告及び命令の対象とはならないと考えられる」としている。デモ行進や宣伝活動もこれに含まれ、前述の集会とともに、それら表現活動等は対象とならないとするものと解される。そうであれば、集会やデモ行進、宣伝活動等の継続的な取り組み、及びそれらを企画し、継続的に取り組む団体等の活動についても、当然に機能阻害行為に該当しないと解されることになるのであるから、そのことを明記して、より徹底するべきである。

8   その他重要施設の施設機能および国境離島等の離島機能を阻害する土地等の利用の防止に関し必要な事項
(1) 関係行政機関の長に対する情報提供等
該当箇所:第5の1
 法21条1項による内閣総理大臣からの関係行政機関の長に対する情報提供について、「必要がある場合」の内容が不明であり、基本方針案でも示されていない。内閣総理大臣の恣意的判断により行政機関の長に対して情報が提供されることは許されないのであり、いかなる場合に内閣総理大臣が関係行政機関の長に情報を提供できるのか、明確に定めるべきである。
(2) 国による土地等の買取り等
 該当箇所:第5の2
 法23条に基づく国による買取り等について、「機能阻害行為の用に供されることを防止するため国が適切な管理を行う必要があると認められるもの」の場合は買取り等を行うことができるとしているが、基準が明らかでない。国により恣意的な運用がなされ、対象者との癒着関係等により、不公正な買取等がなされるおそれがあることから、国による買取ができる場合は明確化しておくべきである。
(3) 土地等利用状況審議会の概要及び役割
該当箇所:第5の3
 土地利用規制法による制約は、著しい人権侵害をもたらしうるものであることから、審議会の委員には、本法に対し批判的立場をとる識者、基地や原発に反対・批判する立場で活動する市民など、本法によって不当に規制される可能性のある者も委員に加えるべきである。
(4) 法に基づく実施状況の公表
該当箇所:第5の4
 基本方針案では、法に基づく勧告及び命令等の実施状況について、概要を取りまとめた上で公表するとしているが、事件侵害のおそれが極めて高い法律であることからすれば、概要ではなく詳細を公表するとともに、国会へも報告を行うことを明記すべきである。
(5) 我が国の安全保障をめぐる内外情勢の変化等への対応
該当箇所:第5の5
 5年以内でも、国民の権利・自由に対する制限が問題となったときには、不当な制限が生じないよう見直しを検討するべきである。

 

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