2026年6月11日、「内閣提出の再審法改正案に反対し、 議員立法案による法改正を求める意見書」を発表しました

カテゴリ:意見書,治安警察

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内閣提出の再審法改正案に反対し、議員立法案による法改正を求める意見書

                            

                              2026年6月11日
自 由 法 曹 団

はじめに
 2026年5月15日、内閣は、「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「法案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。法案は、法制審議会―刑事法(再審関係)部会(以下「法制審」という。)の審議を経て作成された「諮問第129号に対する答申案」(以下「答申案」という。)の要綱(骨子)に基づいている。
 しかし、そもそもこの法制審の構成自体が中立性に疑問を抱かせるものとなっている。袴田事件をはじめとする数多くのえん罪被害は検察法務によって生み出されてきた。本来改革される立場にある検察出身者が法制審の事務局を担い、審議を主導した。また、研究者委員も再審法に関する学会の意見を代表する立場の者とはいえなかった。その結果、元裁判官63人や刑事法研究者135人による共同声明、全国の報道機関による数々の論説、そして、えん罪被害者や家族によるコメント等で、その審議内容について深刻な懸念が示されていたにも関わらず、えん罪被害者の真の救済に繋がらない問題をかかえた答申案が作成された。
 答申案に対しては、特に検察官抗告の原則的禁止を刑事訴訟法本則に盛り込むか否かの論点につき、政権与党の自民党内で議論が紛糾をし、数度の法制審への差し戻しと答申案の改定作業が行われた経緯がある。法案はかかる経緯を踏まえて自民党内での了承が得られて内閣立法として提出されたものであるが、えん罪被害者救済という改正法の立法趣旨には程遠い内容であり、また、えん罪被害者救済に逆行し得る内容も含まれる危険なものである。
 自由法曹団員は、袴田事件や福井女子中学生殺害事件、日野町事件など数多くのえん罪事件に弁護人として携わってきただけでなく、支援者としてえん罪被害者や市民と連帯して被害に立ち向かってきた。以下では、数多くのえん罪事件に携わってきた自由法曹団として、法案の問題点について網羅的に述べたうえで、法案路線による法改正は許されないことを述べる。

 

第1 再審請求審における証拠の提出命令等 

(法案)
第445条の2
1 審判開始の決定をした裁判所は、再審の請求の理由に関連すると認められる証拠について、その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、再審請求者若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定で、検察官に対し、当該証拠の提出を命じなければならない。
2 裁判所は、前項の決定又は同項の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。
3 第一項の決定又は同項の請求を却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。

第445条の3
1 裁判所は、前条第一項の決定をするか否かの判断をするに当たり、必要があると認めるときは、検察官に対し、当該判断の対象となる証拠の提示を命ずることができる。この場合において、当該証拠の全部又は一部が電磁的記録であるときは、当該電磁的記録については、その内容を表示したものを閲覧し、又はその内容を再生したものを視聴する方法により、提示を受けるものとする。
2 裁判所は、前条第一項の決定をするか否かの判断をするに当たり、必要があると認めるときは、検察官に対し、その保管する証拠であつて、裁判所の指定する範囲に属するものの標目の一覧表を提示することを命ずることができる。この場合において、検察官が当該一覧表を電磁的記録をもつて作成したときは、当該一覧表については、その内容を表示したものを閲覧する方法により、提示を受けるものとする。
3 前二項の場合においては、裁判所は、何人にも、第一項の証拠又は前項の一覧表の閲覧又は謄写をさせることができない。
4 前三項の規定は、前条第三項の即時抗告が係属する抗告裁判所について準用する。

第445条の4
 弁護人は、再審の請求の手続において、裁判所が審判開始の決定をした後に検察官から提出を受けた証拠を謄写したときは、その証拠に係る複製等を適正に管理し、その保管をみだりに他人に委ねてはならない。

第445条の5
1 再審請求者、弁護人又は弁護人であつた者は、前条に規定する証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
 一 当該再審の請求に係る事件についての再審の請求の手続
 二 前号に掲げる手続において再審開始の決定が確定した場合における被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理及び当該被告事件に関する第二百八十一条の四第一項第二号に掲げる手続(同号ホに掲げるものを除く。)
2 前項の規定に違反した場合の措置については、再審請求者の再審の請求に係る利益又は再審における被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉又はその私生活若しくは業務の平穏が害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。

第445条の6
1 再審請求者が、第445条の4に規定する証拠に係る複製等を、前条第一項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときは、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
2 弁護人又は弁護人であつた者が、第445条の4に規定する証拠に係る複製等を、対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときも、前項と同様とする。

 

1 再審請求審における証拠提出命令の概要
 法案の445条の2から445条の3は、審判開始決定後における証拠提出命令に関して定めた規定である。この新設された証拠提出命令は、後述の審判開始決定をした裁判所が、一定の要件のもとで、再審請求人もしくは弁護人からの請求により、または職権で、決定によって、検察官に対して証拠の提出命令を行うかたちで創設され、裁判所に提出された証拠を閲覧・謄写することで、再審請求人や弁護人へ証拠が開示されたことになる。
 また、445条の4から445条の6は、裁判所に提出された証拠の謄写後の再審請求人及び弁護人側での取扱いについて規定しており、複製証拠を目的外に使用した場合に刑事罰が科されることが新たに規定されることとなった。

2 提出の対象となる証拠の範囲や要件が不当に制限されている
 証拠提出命令の第一の問題点は、提出の対象となる証拠の範囲や要件に不当な制限が加えられている点である。すなわち、本規定によれば、証拠提出命令の対象となるのは、まずもって「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」に限定されており、その上で証拠提出の必要性や証拠提出による弊害等を考慮して、相当性をクリアした場合に証拠提出が認められることとされている。こうした対象範囲の制限は、裁判所による職権判断の場合も妥当するとされている。
 刑事再審制度は、誤判を是正し、無辜を救済するための制度であることは言うまでもなく、通常審で裁判所に提出されなかった証拠の中に無罪を示す証拠があるかどうかで再審請求審の結論が大きく変わる。特に、現状の通常審においてさえ証拠開示が不十分なままである以上、再審請求審における証拠開示はより広範に認められるべきであり、「再審の請求の理由に関連する」などという限定を付すことは許されるべきではない。このような対象範囲の制限のために、捜査機関の保管する証拠の中に無罪を示す証拠があるのに、これが証拠提出の対象から漏れてしまうという事態が生じかねず、誤判是正・無辜の救済という制度目的から大きく遠のく結果になりかねない。しかも、条文構造上、再審請求理由との関連性は再審請求人や弁護人側が疎明しなければならず、弁護人側に過度な負担を強いるものである上、弁護人の主張の巧拙で証拠提出の範囲が変わってしまうことにもなりかねず、誤判救済という制度目的に照らして不当と言わなければならない。
 また、これまで積み重ねられてきた数多くの再審無罪事件や立法事実からしても、証拠開示の範囲を制限することは誤りといえる。例えば、2024年10月9日に無罪判決が確定した袴田事件では、第2次再審請求の即時抗告審の段階で、いわゆる5点の衣類のカラー写真のネガフィルムや約47時間に及ぶ取調べ録音テープが開示され、こうして新たに開示された証拠によって、5点の衣類の捏造や違法な取調べの実態が明らかとなり、袴田さんの雪冤にむすびついた。これら袴田事件で開示された証拠は、本規定の解釈によっては必ずしも「再審請求の理由と関連する」とされない可能性がある。袴田事件だけでなく、福井女子中学生事件やその他の再審無罪事件でも同じことが言えるのであり、広範な証拠開示によってこそ無辜の救済が果たされることは、再審法改正における立法事実というべきである。証拠提出命令における範囲制限はやはり不当というべきである。
 この点、改正法の附則4条で「第四百四十五条の二第一項の規定による決定については、再審の請求の理由に関連すると認める証拠の範囲が不当に狭くならないように留意されなければならない。」と定めているが、附則に法的拘束力はないため、附則にこのような規定を置いたところで法的意義は極めて限定的と言わざるを得ない。そもそも附則にこのような規定を置くこと自体、証拠提出の対象範囲が必要以上に制限されることを認めているようなものである。こうした附則を設けるよりも、証拠提出命令の対象範囲に制限を加えない形での立法に修正すべきである。
 加えて、証拠提出の要件である相当性についても、条文の文言は「相当と認めるとき」とされており、「相当でないと認めるときを除き」とは規定されておらず、証拠提出の要件は明らかに狭い。その上、相当性に関する事情の疎明責任は弁護人が負担すると解され、この点からしても不当な制度と言わなければならない。

3 証拠一覧表が再審請求人及び弁護人に提示されない
 法案は、裁判所への証拠提出及びその後の閲覧・謄写によって弁護人らに証拠開示がなされるという構造を採用しているが、第二の問題点として、裁判所が証拠提出命令を行う際に検察官に証拠の標目一覧表を提示させることができるとしつつ、その証拠一覧表の提示は裁判所限りとされ、弁護人がこれを閲覧する機会は与えられていない点である。
 弁護人側が証拠開示を求めるためには、どのような証拠が捜査機関側で保管されているのかを知ることが何よりも不可欠である。特に、上述のように「再審請求の理由と関連する」といった限定や必要性、相当性といった証拠提出の要件が設けられている以上、そのような要件該当性を弁護人が主張するために、刑訴法316条の14で定めるような証拠一覧表とするかどうかはともかく、通常審で不提出とされた証拠の一覧を弁護人において把握する必要がある。そうであるのに、証拠一覧表の提示を裁判所限りとして、弁護人への閲覧さえ認めていない本規定は不当という外ない。また、証拠提出の範囲を制限する上記規定と相俟って、再審請求審での証拠開示を例外的扱いかのように位置付けるこれらの規定は、無辜の救済への大きな障害となる規定というべきであって、極めて問題があると言わなければならない。

4 複製証拠の目的外使用に対する刑罰の問題
 法案は、証拠提出命令によって裁判所に提出された証拠を弁護人側が謄写した複製証拠について、445条の4で弁護人に適正保管管理を義務付け、445条の5で目的外使用の禁止を定めた上、445条の6で違反に対する罰則を定めている。
 目的外使用禁止及びこれに違反した際の罰則は通常審でも同様の規定があるが、これに対しては、正当な弁護活動及び被告人の防御活動を阻害する過剰な制約であり、さらに国民の知る権利の観点からも問題があるとして批判されている。このように通常審でも批判のある規定を再審請求審においても導入することは認められない。
 また、445条の6第2項は弁護人については、「対価として財産上の利益その他の利益を得る目的」がある場合に犯罪構成要件に該当することとされているが、「その他の利益」という包括的な文言で規定されており、処罰範囲が限定されているとは言い難い。
 袴田事件をはじめとする多くの再審事件は、大衆的な救援運動が大きく展開され、そうした運動の成果として再審無罪判決へと結びついている実情がある。つまり、再審請求人・弁護団・支援者らによって、救援活動が大々的に繰り広げられて世論を喚起し、さらにマスコミ報道等を通じても世論が盛り上がり、国民的関心や捜査機関に対する民主的な批判が高まることで再審無罪判決へと結びついているという実態がある。こうした大衆的な救援運動を進め、マスコミ報道を通じた国民的関心を高めるためには、開示された証拠を広く国民の耳目に触れさせ、その問題点を検討する機会がなければならない。法案による目的外使用の禁止や罰則の設定は、こうした大衆的な救援運動を阻害するものであって、これまでの再審無罪事件の実情を踏まえないものと言わざるを得ず、認められない。

 

第2 再審の請求についての調査手続・審判手続等

(法案)

第444条の2
1 再審の請求を受けた裁判所は、遅滞なく、その請求について調査しなければならない。
2 前項の裁判所は、同項の規定による調査の結果に基づいて、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める決定をしなければならない。
 一 次に掲げる場合 再審の請求を棄却する決定
  イ 再審の請求が法令上の方式に違反したものであると認めるとき。
  ロ 再審の請求が請求権の消滅後にされたものであると認めるとき。
  ハ 第441条の2第1項の書面に記載された再審の請求の理由が明らかに第435条各号又は第436条第1項各号に掲げる場合に該当しないと認めるとき。
 二 再審の請求が理由のあるものであることが明らかであると認める場合 再審開始の決定
 三 前二号に掲げる場合以外の場合 審判を開始する旨の決定(以下「審判開始の決定という。」)
3~4 (略)

第445条
1 再審の請求を受けた裁判所は、審判開始の決定をした後でなければ、事実の取調べをすることができない。
2 審判開始の決定をした裁判所は、必要があるときは、合議体の構成員に再審の請求の理由について、事実の取調べをさせ、又は地方裁判所、家庭裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。この場合には、受命裁判官及び受託裁判官は、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。
3 再審の請求をした者(検察官を除く。以下「再審請求者」という。)、弁護人又は検察官は、審判開始の決定をした裁判所に対し、事実の取調べを請求することができる。
4~6 (略)

第450条
第444条の2第2項(第1号に係る部分に限る。)、第446条、第447条第1項又は前条第1項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。

第450条の2
1 第444条の2第2項(第2号に係る部分に限る。第3項第1号において同じ。)又は第448条第1項の規定による決定に対しては、当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り、即時抗告をすることができる。
2~3 (略)

 

1 調査手続(スクリーニング規定)の危険性
 本規定のうち第444条の2第2項第1号は、再審請求を受けた裁判所が行う調査手続において、証拠の開示及び事実の取調べを行うことなく書面審査によって請求棄却を行うことを裁判所に義務付けたものである。
 すなわち、法案では審判開始決定をした後でなければ証拠の提出命令を出せないと整理されており(第445条の2)、また、事実の取調べについても同様である(第445条)。
 しかし、かかる規定が導入されてしまうと、証拠開示や事実の取調べがなされないままに、安易に再審請求が棄却されてしまうことに繋がりかねず、無実の罪を着せられているえん罪被害者の救済という趣旨が没却されてしまう危険性が存する。
 以下では、特に問題だと思われる第444条の2第1号イの危険性を述べる。

2 「再審の請求が法令上の方式に違反したもの」かどうかは書面審査では分からない
 法案では、「再審の請求が法令上の方式に違反」した場合は、再審請求を受けた裁判所は書面審査によって請求を棄却することを義務付けているところ、多くの再審請求で使用される現行刑訴法第435条6号に引き直すと「明らかな証拠」を請求に添付していないものは、「法令上の方式に違反」しているから請求を棄却するということになると思われる。また、法案では再審請求書面に「証拠書類又は証拠物・・・を添えなければならない」とされていることから、「証拠書類又は証拠物」を添付していない場合は「法令上の方式に違反」しているということで請求棄却になると思われる。
 しかし、例えば、①再審請求書に「犯行当夜8時頃、甲と街の居酒屋で知り合い、意気投合して甲のアパートで朝まで飲んでいたこと」を立証できる女性の知り合いがおり、その女性が証人尋問であれば証言すると記載されている場合、②同じく再審請求書に「犯行当夜8時頃、甲と街の居酒屋で知り合い、意気投合して甲のアパートで朝まで飲んでいたこと」を捜査段階で供述した女性の供述調書があるはずであるが開示されていないと記載されている場合、③同じく再審請求書に「犯行時刻に自分のアパートにいたことは間違いなかったが、具体的に何をしていたのか思い出せなかった。刑務所でふと居酒屋Aの名前を思い出し、その居酒屋でたまたま隣に座った女性と意気投合し、そのまま自分のアパートで一緒に深夜まで飲酒していたことを思い出した。女性の名前は居酒屋と同じAだということは覚えているが、連絡先等は交換していない。Aという女性に話を聞けば、私が無実であることがはっきりするので捜してほしい」ということが記載されている場合に、「証拠書類又は証拠物」を添付していないから請求を棄却するというのは妥当ではない。
 ①は、再審請求書面に新証拠を添付しているわけではなく証人尋問を求めているケースであるが、現行刑訴法435条6号の「明らかな証拠」は必ずしも「証拠書類又は証拠物」に限定されないのであり、女性の尋問を実施すれば無罪の心証を抱くこともあり得る以上は、尋問を実施せずに書面審査で請求棄却となるのは明らかに不当である。証人尋問の申し出であった①のケースで「法令上の方式に違反」するかどうか定かではない以上、このような規定を入れて再審請求をスクリーニングするのは危険であると言わざるを得ない。
 ②は、同様に新証拠を添付しているわけではなく再審請求書で未開示の証拠があると述べているに過ぎないケースである。この場合、法案では証拠開示や事実の取調べは審判開始決定後でないとできないとされているところではあるが、裁判所が検察官にそのような証拠があるか否かの釈明を求めることは当然できる。仮にこのような釈明を求めることなく書面審査だけで請求棄却をすることもできるとなれば、やはり再審の扉を閉ざすものとして不当であると言わざるを得ない。この点、「第3 附帯事項」では、「検察官の意見を聴取することなど、適切な対応がなされることを期待」すると付言されており、法制審第17回会議では裁判官の江口和伸委員は「釈明等をするということも、当然に考えられる」と述べ、学者の成瀬剛幹事も「検察官に対する意見聴取も、事案に応じて、当然なされ得るものと理解しております」と述べている。しかし、附帯事項は何らの法的拘束力はなく、求釈明をするかどうかは当該裁判体に委ねられており、適切に当該裁判体が求釈明をするかは定かではない。再審請求手続が裁判体の広範な裁量に委ねられていることで生じていた「再審格差」を解消することをも目的としていた本改正の趣旨からすれば、裁判体の裁量はなるべく限定すべきであり、かかる附帯事項が入れられているからといって②の事案でスクリーニングすることを義務付けることのできる規定の導入が許されるわけではない。
 ③は、同様に新証拠の添付がないが無罪に繋がる女性の存在を指摘するケースである。かかるケースも②の事例と同様に検察官に対してそのような関係者が存在し得るか求釈明を適切に行使するべきといえるが、求釈明が裁判体の広範な裁量を前提としている法案では、求釈明がなされずに請求棄却となってしまう可能性も十分に存する以上は不当である。
 ①~③のケースに共通するが、いずれも再審請求書に記載がされているのみで新証拠の添付がないことから「法令上の方式に違反」該当性が問題となってしまう。かかる場合、裁判所から再審請求人に対して、手紙に記載する、弁護人作成の報告書に記載させるなど適切に補正を促せば、手紙や報告書が新証拠として扱われ、方式違背は問題とならないものと思われる。したがって、仮に「法令上の方式に違反」する場合の請求棄却規定を残すにしても、裁判体から適切な求釈明や補正指示がなされたにも関わらず補正がなされないような事案に限ることを明文化すべきである。

 

第3 再審開始決定に対する検察官の不服申立て(即時抗告)の「原則」禁止の問題点

(法案)検察官の不服申立(即時抗告)に関する改正部分に下線

第448条
審判開始の決定をした裁判所は、審理の結果、再審の請求が理由のあるものであると認めるときは、再審開始の決定をしなければならない。
2~3 (略)

第450条
第444条の2第2項(第1号に係る部分に限る。)、第446条、第447条第1項又は前条第1項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
※同条の即時抗告の対象から第448条第1項を削除

第450条の2(新設)
1 第444条の2第2項(第2号に係る部分に限る。第3項第1号において同じ。)又は第448条第1項の規定による決定に対しては、当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り、即時抗告をすることができる。
2 前項の即時抗告を棄却する決定又は前条の即時抗告(第446条又は第447条第1項の規定による決定に対するものに限る。)が係属する抗告裁判所の第450条の5第1項において準用する第448条第1項の規定による決定に対する第433条第1項の抗告は、当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り、これをすることができる。
3 政府は、次の各号のいずれかに該当するときは、遅滞なく、当該各号に定める事項を公表するものとする。
 一 第444条の2第2項又は第448条第1項(第450条の5第1項において準用する場合を含む。)の規定による決定(最高裁判所がしたものを除く。)があったとき その旨並びに検察官が当該決定に対する即時抗告又は第433条第1項の抗告をしたかどうか及び当該即時抗告又は広告をした場合におけるその理由
 二 第1項の即時抗告を棄却する決定があったとき その旨並びに検査官が当該決定に対する第433条第1項の抗告をしたかどうか及び当該抗告をした場合におけるその理由

第450条の3
1 第447条第1項又は第448条第1項の規定による決定に対する即時抗告の提起期間は、第422条の規定にかかわらず、14日とする。
2 前項の即時抗告に係る抗告裁判所の決定に対する第433条第1項の抗告の提起期間は、同条第2項の規定にかかわらず、14日とする。

附則第5条
 近年における再審の手続に関する諸事情に鑑み、再審開始の決定に対する不服申立てであって附則第1条第2号に掲げる規定の施行の日(以下この条及び次条において「第2号施行日」という。)以後にされたもの又は当該決定に対する不服申立てに係る裁判所の決定に対する不服申立てであって第2号施行日以後にされてものについては、それぞれ事件が受理された日から1年以内にその係属する裁判所の決定がされるように努めなければならない。

 

1 法制審答申案からの前進も「例外」規定の存在
 法案の前提となった法制審による答申案の要綱(骨子)では、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止は欠落し、含まれていなかった。
 それが、冒頭でも述べたとおり、元裁判官63人や刑事法研究者135人による共同声明、全国の報道機関による数々の論説、そして、えん罪被害者や家族によるコメント等の声により、変更を余儀なくされた。その点では、一歩前進とはいえる。
 しかしながら、政府が出した結論は検察官の即時抗告の「原則」禁止であった(法案:450条の即時抗告の対象から再審開始決定の規定である第448条第1項を削除)。すなわち、検察官が即時抗告できる「例外」を認めたのである。
 「例外」の要件は、当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる「十分な根拠がある場合」に限り(法案:450条の2第1項)という、法文の要件としては異例な表現であり、いったい「十分な根拠」とは何なのか極めて曖昧なもので、結局、検察官による運用により原則禁止が逆転し「原則不服申立」の実態が生じかねない。かつ、法案は検察官による即時抗告が棄却された場合の最高裁への特別抗告すら同様の要件で認めているのである(法案:450条の2第2項)。これまで通りの検察官による即時抗告その後の特別抗告により貴重な請求人の時間が奪われていく危険が拭えない。
 なお、この点に関連して、答申案の「第3 附帯事項」「2 別添の「要綱(骨子)」において法整備の対象とされなかった事項のうち、引き続き、運用によって対応することが考えられるものについて」において、以下の記載がある。

○ 再審開始決定に対する不服申立てについては、検察官において、もとより結論ありきではなく、慎重かつ十分な検討を確実に行った上で適切な対応がなされることが望まれる。

 法案は、この趣旨を受けて「十分な根拠」を抗告の要件としているのかもしれない。
 しかし、これまでの長い歴史の中で、本来「公益の代表者」であるべき検察官が行ってきた対応に鑑みれば、到底「結論ありきではなく、慎重かつ十分な検討を確実に行った上で適切な対応がなされることが望まれる。」ことなど期待できるはずもない。現に法制審第5回(議事録21頁)において、検察官の宮崎香織委員は「検察当局は、個別具体的な事情に応じ、再審開始決定に対して不服申⽴てをするかどうかについて、⼗分かつ慎重な検討を⾏って対応していることを改めて申し上げておきたいと思います」との認識を表明している点からも、例外要件に「十分な根拠」との曖昧な規定があっても、検察官の従来の運⽤が変更されないことが危惧される。
 なお、法案の附則第5条に不服申立から1年以内に裁判所の決定がなされるよう努めるよう規定が設けられいるが、あくまで努力規定にすぎず、仮に守られたとしても、即時抗告・特別抗告と進めば2年の貴重な時間が奪われるのである。

2 検察官の不服申立てが再審開始確定までの期間を徒に長期化してきた現実・歴史 
 すなわち、せっかく再審開始決定が出されても、検察官の一律の不服申立てにより、確定までさらに長い時間を要し、結果としてえん罪被害者の迅速な救済が著しく妨げられている現実・歴史がある。
 まず再審開始決定確定までに至ったケースでも、検察官の不服申立てのため、以下のとおり長期間かかっている。

 

<事件名> <最初の再審開始決定日> <確定までに要した期間>
布川事件 平和17年9月21日 4年3ヶ月
福井事件 平成23年11月30日 13年
東住吉事件 平成24年3月7日 3年7ヶ月
袴田事件 平成26年3月27日 9年
松橋事件 平成28年6月30日 2年3ヶ月
湖東事件 平成29年12月20日 1年3ヶ月
日野町事件 平成30年7月11日 7年7ヶ月

 

また検察官の不服申立てのため、再審開始決定から長期間を経ても未だ確定に至っていないケースも以下のとおりである。

<事件名> <最初の再審開始決定日>

<右開始決定から
現在までの期間>

大崎事件 平成14年3月26日 24年
名張事件 平成17年4月5日 21年

※以上、再審開始決定日・確定までに要した期間については、法制審第5回の鴨志田祐美委員提出資料より一部抜粋及び一部補充

 さらには以上のうち、日野町事件と名張事件では、長期間を要する闘いの間に請求人本人はなくなり、遺志を受け継いだご遺族による請求となっている。
 我が国の刑事再審制度はえん罪被害者の人権救済を目的とした制度であるが、あまりにも時機に遅れた救済では、人権救済の意味を持たない。日野町事件や名張事件のえん罪被害者本人のようにえん罪を自ら晴らすことなく再審請求途中でなくなり、あるいは、高齢化し、貴重な人生を台無しにしてしまうえん罪被害者が多数存在することを思えば、このような悲劇を繰り返さないためにも、再審開始の決定に対する検察官の不服申立てを例外的にでも許すことなく、全面禁止とし、直ちに再審公判が開始される制度に改めるべきである。

3 開始決定に対する不服申立てがなくとも検察官に不利益はない
 そもそも再審開始決定は、再審公判の開始を決定するだけのものでありながら、これまでは検察官の不服申立てによって、実質的に、有罪無罪を審議するに近い実質審議が再審請求手続きの中でなされてきたという実態がある。この点は、本来、検察官の起訴に対して被告人側からの不服申立て制度がないこととの均衡からしても不合理である。有罪無罪の実体審理は再審公判においてなされる以上、検察官は、再審公判において確定判決の正当性を主張し、十分に争う機会が与えられているのである。
 法案が例外的にでも認めている検察官の不服申立ては、そもそも制度として合理性・公平性を欠く、えん罪被害者の早期救済の観点を無視したものなのである。

4 まとめ 
 以上のとおり、歴史的に検察官不服申立て制度が、えん罪被害者救済の長期化を招いてきたこと、検察官は再審開始決定に対する不服申立てがなくとも再審公判の実質審理の中で十分に確定判決の正当性について争う機会が保障されていること、及び、検察官の「運用」によっては、検察官不服申立禁止の原則・例外は逆転しうることに鑑みれば、検察官の不服申立ての全面禁止は必須の改正項目であり、例外規定を設けた法案は到底認めることができない。

 

さいごに
 数多くのえん罪事件と再審審理の長期化を背景に、2024年3月に自民党一部議員を含む超党派議連(「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」、以下「議連」という。)が立ち上がった。袴田事件の無罪確定を受け、議連では約70年間にわたり見直されてこなかった再審制度の改正を目指し、証拠開示の義務化や検察官の抗告禁止などを盛り込んだ法案の策定に向けた議論が本格化した。2025年6月18日、議連は衆議院に対し、証拠開示の義務化などを取り入れた刑事訴訟法の一部改正法案(以下、「議連案」という。)を議員立法として提出するに至った。議連案はえん罪被害者の真なる救済のために必要な内容を網羅的に含めており、議連案による改正が実現すればえん罪被害者の救済が実現するものであった。自由法曹団としても、議連案での改正を実現すべく、この1年間で声明や決議を複数回発出したところである。
 このような議連の動きに対し、法務・検察側は法制審議会を立ち上げて対立軸となる政府案の策定を巻き返すように進めた。その結果、議連案は2025年国会では成立させることができず、2026年通常国会に持ち越されて継続審議となるはずであった。
 しかし、2026年2月1日、高市首相による衆議院の解散権によって議連案は継続審議未了のまま廃案となってしまった。これ以降は法制審案の策定が進められ、上記でも触れた証拠開示の提出範囲の限定化や、開示された証拠の目的外使用の禁止、検察官の再審開始決定に対する抗告を例外的に許す、などの大きな危険性を孕む法制審案のみが国会審議入りする事態となった。
 これに対し、5月15日、一部野党である中道改革連合、日本共産党、チームみらいは議連案を受け継ぐ形で、刑事訴訟法の一部を改正する法律案(以下、「野党案という」。)を議員立法として国会に提出した。野党案は、議連案同様に証拠の全面的開示義務化や検察官抗告の全面的禁止を掲げ、また、開示証拠の目的外使用禁止などは含まない真にえん罪被害者の救済に資する内容である。
 自由法曹団は、えん罪被害者の救済に繋がらない法制審案に断固として反対し、証拠開示の全面的義務化や検察官抗告の全面禁止を含む野党案による刑事訴訟法の改正を実現するべく奮闘するものである。

以上

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