5月27日付、『「働き方改革」一括法の抜本改正と実効性のある包括的ハラスメント禁止法の制定を要求し、「解雇の金銭解決制度」の創設に反対する決議』を採択しました。
「働き方改革」一括法の抜本改正と実効性のある包括的ハラスメント禁止法の制定を要求し、「解雇の金銭解決制度」の創設に反対する決議
1 「働き方改革」一括法の抜本改正を求める
安倍政権は、2018年6月29日、「働き方改革」一括法(以下「一括法」)の成立を強行し、同法は、2019年4月1日から順次施行されている。残業代ゼロ、過労死容認、格差固定化、無権利労働(雇用によらない働き方)拡大の一括法の施行をそのまま許すことはできない。
一括法は、「高度プロフェッショナル制度の即時廃止」、「時間外・休日労働の上限時間を『1週間:15時間、2週間:27時間、4週間:43時間、1か月:45時間、2か月:81時間、3か月:120時間、1年:360時間』とすること」、「同一労働同一賃金の考慮要素から『人材活用の仕組み』を削除すること」、「総合施策推進法から『多様な就業形態の普及』を削除すること」等の抜本改正をただちに行うべきである。
2 実効性のある包括的ハラスメント禁止法の制定を求める
政府が2019年3月8日に国会に提出した女性活躍推進法等改定案(ハラスメント関連法案、以下「政府案」)は、4月25日、衆議院本会議で可決され、現在、参議院で審議されている。
政府案は、企業にパワハラ防止措置を義務付けているが、セクハラを含めハラスメント行為を禁止する規定を定めていない。ハラスメントを禁止する規定がないと、行政は違法行為の認定ができず、ハラスメント行為者に対する禁止勧告など実効性のある措置がとれないことになる。セクハラは、2006年に、雇用機会均等法に防止措置義務が定められたが、その後もセクハラによる被害は蔓延し続けている。防止措置義務規定だけでは、ハラスメント防止の実効性がないことは明白である。
政府案は、顧客や取引先等、第三者からのハラスメントは対象にしておらず、また、被害者救済のための独立した救済機関の設置も定めておらず、これらの点でも極めて不十分な法案である。
ILO(国際労働機関)は、今年6月の総会で「労働の世界における暴力とハラスメントの除去に関する条約」を採択する予定であるが、政府案は、ILO条約案からも大きく立ち遅れている。
包括的ハラスメント禁止立法の要求と世論を受けて、衆議院厚生労働委員会では、「①ハラスメント禁止規定法制化の必要性を検討する。②フリーランス、就活生等に対するセクハラ等の被害を防止するため、必要な対策を講じる。③被害者の救済状況等を調査し、効果的な防止対策を速やかに検討する。④ILO新条約が採択されるよう支持し、批准に向けて検討を行う。」等の17項目の付帯決議が全会一致で採択されている。これらの付帯決議の内容を「検討」にとどめるのではなく、参議院で、政府案に対して、「①何人もハラスメントを行ってはならないという包括的禁止規定を法案に盛り込むこと、②ハラスメント行為が民事罰の対象になることを明記すること、③ハラスメント定義部分につき、『労働者』に就活生、業務委託従事者、『職場』に営業先、顧客等を含む規定に修正すること」等の抜本修正を行うべきである。
3 「解雇の金銭解決制度」の創設に強く反対する
(1)政府の「解雇の金銭解決制度」検討の経過
「解雇の金銭解決制度」の創設を提言する「『日本再興戦略』改訂2015」(2015年6月30日閣議決定)を受けて、厚生労働省は、2015年10月29日、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を発足させ、同検討会は、2017年5月31日、報告書を公表した。同報告書は、「この金銭救済制度については、法技術的な論点や金銭の水準、金銭的・時間的予見可能性、現行の労働紛争解決システムに対する影響等も含め、労働政策審議会において、有識者による法技術的な論点についての専門的な検討を加え、更に検討を深めていくことが適当と考える。」と報告し、同報告を受けて、厚生労働省は、2018年6月12日、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を発足させた。同検討会は、現在までに6回の検討会を行い、2019年6月もしくは7月に、「解雇・雇止めが無効で、労働者が申し立てた場合に、使用者が労働契約解消金を支払って労働契約を終了させることができる解雇の金銭解決制度」を提言する見通しと伝えられている。
(2)解雇・雇止めの自由化をもたらす「解雇の金銭解決制度」
「解雇の金銭解決制度」は、労働者申立の「労働契約解消金制度」の形をとっても、解雇・雇止めを容易にし、解雇・雇止めを自由化するものである。
現在、解雇・雇止めは、労働契約法16条、17条、19条、労働基準法3条、19条、雇用機会均等法9条、労働組合法7条等により制限、禁止され、これらの条項に違反する解雇・雇止めは無効とされている。解雇・雇止めが無効と判断されれば、労働者の労働契約上の地位が確認され、使用者は、未払い及び今後の賃金を支払わなければならない。労働者が職場復帰を求めない場合でも、民事訴訟や労働審判で「解決金支払い」の金銭和解が行われている。新たに労働者申立の「労働契約解消金制度」を創設する必要は、まったくない。
労働者申立の形をとっても、「労働契約解消金制度」という名の「解雇の金銭解決制度」が導入されれば、国民の意識が、「カネさえ払えば解雇・雇止めは自由」へと変わり、解雇自由の社会に道を開くことになる。また、労働契約解消金の水準(上限、下限等)が定められると、使用者は、この水準の金額を目途に労働者にリストラ(退職)に応ずることを強要することになり、リストラ自由の社会が生まれることになる。財界は、この次には、使用者申立の「労働契約解消金制度」を創設し、全面的な「解雇の金銭解決制度」を創設することを狙っている。
いまなすべきことは、「解雇の金銭解決制度」の検討、創設ではなく、違法・不当な解雇・雇止めをなくすとともに、都道府県労働局のあっせんへの被申請者の使用者の参加を義務づけること、労働審判制度の拡充、整理解雇4要件の法制化、労働者の就労請求権を認めること等、解雇・雇止めされた労働者を救済する制度を強化拡充することである。
4 広範な人々と連帯して
自由法曹団は、「働き方改革」一括法の抜本改正と実効性のある包括的ハラスメント禁止法の制定を要求するとともに、「解雇の金銭解決制度」の創設に強く反対し、広範な人々と連帯し、奮闘する決意である。
2019年5月27日
自由法曹団
2019年石川県・能登5月研究討論集会