5月27日付、「東京電力・福島第一原発事故による被害の全面的な救済及び原発ゼロ基本法案の成立を早期に実現することを求める決議」を採択しました。

カテゴリ:原発問題,決議

東京電力・福島第一原発事故による被害の全面的な救済及び原発ゼロ基本法案の成立を早期に実現することを求める決議

 

1 いまなお続く深刻かつ甚大な被害

 2011年3月11日に発生した、東京電力(以下「東電」)・福島第一原発の事故から既に8年以上の時間が経過した。

 しかし、依然として多くの人々が避難生活を余儀なくされており、避難によりこうむった被害の実態に即した賠償もなされず、明日をも知れぬ不安な日々を過ごしている。また、形ばかりの避難指示解除がなされた地域に戻った人々も、かつての豊かなふるさとは失われ、真の復興とはほど遠い状況に置かれている。

 これらの事実は、ひとたび原発事故が発生すれば、多くの人々の平穏な生活を喪失させ、自然環境を破壊し、長期間にわたり深刻かつ甚大な被害をもたらすことを如実に物語っている。

2 原発事故被害者には冷淡で、原発再稼働には熱心な安倍政権

 しかし、安倍政権は、これらの福島第一原発事故による被害に対し、非常に冷淡な対応をしている。具体的には、原発事故被害者への賠償の打ち切り、実態に沿わない避難指示解除による強制帰還政策、「自主」避難者の家賃補助打ち切りなど、福島切り捨てとも言える政策を行っており、それは、来年2020年の東京オリンピック開催に向けて、あたかも福島原発事故及びその被害を「過去のこと」にしてしまおうとするものである。

 また、安倍政権は、福島第一原発事故後も原発推進の姿勢を改めず、エネルギー基本計画において原発を「重要なベースロード電源」などと位置付け、稼働停止している原発について、原子力規制委員会の適合性審査を経れば、随時再稼働していく方針を示している。そして、現段階で、九州電力・玄海原発、同・川内原発、四国電力・伊方原発、関西電力・高浜原発、同・大飯原発で原子炉を再稼働させている。

 こうした安倍政権の姿勢は断じて許されない。

3 原発事故被害の速やかな全面救済を求める

 現在、被害の全面的な救済を求め、全国各地で、福島原発事故被害者が、国及び東電に対する集団的な損害賠償請求訴訟に立ち上がっている。そして、2017年3月17日の前橋地裁判決を皮切りに、同年9月の千葉地裁判決(第1陣訴訟)、同年10月の福島地裁判決(いわゆる「生業訴訟」)、2018年3月の京都地裁判決、東京地裁判決、そして、本年2月の横浜地裁判決、本年3月の千葉地裁判決(第2陣訴訟)、松山地裁判決など、各地の地方裁判所で判決が言い渡されており、千葉地裁の2判決を除く全ての判決で、福島原発事故に対する東電と国の責任が認められ、東電と国に賠償が命じられている(なお、千葉地裁の2判決も国に津波到来の予見可能性があったことは認めている)

 国及び東電は、こうした司法判断を真摯に受け止めて、福島第一原発事故に関する自らの過ちを認め、被害者が置かれた実態に向き合って、これらに対する完全な救済を行う方向へ直ちに舵を切るべきである。特に、国は、従前の原発推進政策の主体としての加害責任を負うのであり、単に被害者からの損害賠償請求に対応するだけではなく、被害回復のための特別立法も含めた総合的な政策を積極的に立案し、これを実行すべきである。

4 原発ゼロ基本法案の早期成立を求める

 他方、原発稼働の差し止めを求める裁判においては、大飯原発に関する2018年7月の名古屋高裁金沢支部判決、伊方原発に関する2018年9月の広島高裁決定など、近時、住民らの主張を認めず、原発再稼働を追認する不当な判断が連続して出されている。

 しかし、原発に絶対の安全性はない上、ひとたび原発事故が発生すれば、前述したような長期にわたる深刻かつ甚大な被害をもたらすのであり、こうした現実に目を瞑り、安倍政権の方針に追随した上記判断は司法としての役割放棄といわざるをえない。

 しかも、本年4月、原発を再稼働した関西、九州、四国電力が、再稼働に向けた審査後5年以内に設置することになっている原発のテロ対策施設の建設が間に合わないとして、身勝手にも原子力規制委員会に設置期限の延長を求めていることが明らかとなった。原子力規制委員会は延長を認めない見通しであるが、これは電力事業者が原発再稼働に当たって同委員会から求められている安全対策すら懈怠し、無責任な再稼働を強行していることを示すものである。

 このような電気事業者の姿勢は、利潤追求を最優先とし、安全対策を軽視した結果、福島第一原発事故を発生させたという経験を省みないものであって、断じて看過することはできない。また、こうした電気事業者による審査申請をことごとく「適合」と判断して再稼働を認めてきた原子力規制委員会の責任も重大である。

 現在も世論調査などで多くの国民が脱原発を求めており、これ以上、安倍政権と電力事業者による危険かつ無責任な原発再稼働を許さず、一日も早く日本の脱原発を実現することが急務である。その鍵を握るのが「原発ゼロ基本法案」の制定である。同法案は、2018年3月9日に、立憲民主党日本共産党自由党社会民主党の野党4党が共同で衆議院に提出した法律案であり、その基本理念として、①すべての原発を速やかに停止・廃止すること、②施行後5年以内にすべての原発の廃炉を決定すること、③再生可能エネルギーの割合を2030年までに40%以上とすること、④廃炉作業を行う電力会社や立地地域の雇用・経済対策について、国が必要な支援を行うことなどが盛り込まれている。同法案は、日本の脱原発を実現し、脱原発を求める多くの国民の声にも合致するものである。

 ところが、法案の国会提出から1年以上が経過しているにもかかわらず、一度も審議されていない状況にある。これは、原発推進の安倍政権・自公与党による意図的な懈怠、妨害に他ならない。脱原発を求める多くの国民の声で、安倍政権・自公与党を包囲して、「原発ゼロ基本法案」の早急な審議、成立を実現することが求められている。

5 被害の完全救済と原発ゼロ基本法制定の一日も早い実現に向けて

 自由法曹団は、今後も、「原発と人権」ネットワークや原発をなくす全国連絡会などの関連団体と連携を図り、福島原発被害の完全な救済と、原発ゼロ基本法制定の一日も早い実現に向けて取り組むことを決議する。

 

2019年5月27日

自由法曹団

2019年石川県・能登5月研究討論集会

 

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