5月27日付、「司法修習生に対する十分な経済的支援制度の確立を求め、いわゆる「谷間世代」の救済を求める決議」を採択しました。

カテゴリ:決議,給費制

司法修習生に対する十分な経済的支援制度の確立を求め、いわゆる「谷間世代」の救済を求める決議

 

1 裁判所法一部改正案が2017年4月に国会で成立し、これまでの貸与金に代えて、修習給付金(基本給付金13万5000円、住居給付金最大3万5000円および移転給付金)が支給されることとなった。しかし、これまで給費制廃止下で修習を受けた新第65期から第70期までの元司法修習生ら(いわゆる「谷間世代」)に対する遡及適用は一切なく、1万人を超える若手法曹が救済されないままとなっている。

2 もともと司法修習生は、戦後、裁判所職員に準ずる扱いを受けて給費制が採用されていた。その目的は、国民の基本的人権の擁護を担う法曹を国の責任において育てるために、司法修習生の生活環境も国の責任において保障することにあった。そして、司法修習生は給費制の下で生活環境を保障される一方、修習に専念する義務を課され、修習に専念してきた。さらに、給費が国民の税金によって賄われることから、法曹となる者に国民の権利擁護の期待に応えなければならないという使命感を醸成する土壌ともなっていた。

 ところが、誤った受益者負担主義の発想により、2011年11月採用の新第65期司法修習生から給費制が廃止され、貸与制に切り替えられた。

 給費制の廃止に伴い、経済的理由から法曹になることを諦める者が増えるなど法曹志願者の減少に拍車がかかり、また、司法修習生からも書籍の購入や課外活動への参加を控えるなど充実した司法修習が困難であるとの声があがるようになった。司法修習を終えて弁護士登録した者の中でも、将来の貸与金の返済に不安を感じ、公益活動を控える者も見られるようになった。

 こうした事態をふまえ、日本弁護士連合会、ビギナーズ・ネットおよび司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会などが粘り強く要請を繰り返した結果、衆参両院の過半数を超える国会議員が司法修習生に対する経済的支援に賛同するに至り、上述した裁判所法一部改正に繋がった。

3 だが課題はまだ残っている。

 新たに創設された修習給付金の額は給費制廃止以前の給費の額に及ばないものであり、さらに、修習給付金は所得として扱われ、司法修習生らは所得税を支払わなければならないため、充実した司法修習を送るために十分な金額とは言えない。日本弁護士連合会による給費制廃止下の司法修習生の生活実態アンケートによれば、住居費の負担のある司法修習生の平均の生活費は月額20万円を超えており、実際に、第71、72期司法修習生の中には、従来の貸与制も申し込んで生活費の不足分を補っている者も珍しくない。したがって、司法修習生が充実した修習を送ることができるよう給付水準の引き上げが検討されるべきである。

 また、新制度は、法改正前に給費制廃止下で修習を終えた新第65期から第70期までの元司法修習生ら(いわゆる「谷間世代」)に対し遡及適用されないとされている。しかし、司法修習生の生活実態に鑑みて修習給付金制度を創設したのであるから、給費制廃止によって経済的負担を強いられた者を置き去りにすることは不公平である。

 貸与金を約300万円借りた者は修習終了後6年目から年間約30万円ずつを10年かけて返済していくことになる。しかし、修習終了後6年目の時期は、弁護士事務所の独立、結婚、出産等の転機を迎える者が少なくなく、貸与金の返済が足かせとなってライフプランの変更を余儀なくされる者も珍しくない。既に昨年から新第65期の貸与金の返還が始まっており、関係機関は至急、返還の免除、または、少なくとも猶予の措置をとるべきである。また、現在、給費制の復活を求めて全国7地裁で8件の給費制廃止違憲訴訟が提起されているが、政府はこの点の解決も図り、全国的に提起されている訴訟を和解により終結させる努力をはらうべきである。

4 自由法曹団は、残された課題の解決、特に、喫緊の課題である貸与金の返済免除ないし猶予を関係機関に対して強く求め、引き続き関係各層と連帯して取り組むことを表明し、これを本集会の決議とする。

 

2019年5月27日

自由法曹団

2019年石川県・能登5月研究討論集会

 

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