新型コロナウイルス禍により人びとの命や暮らしが脅かされ、権利が侵害されることがないよう奮闘しよう

カテゴリ:決議,貧困・社会保障

新型コロナウイルス禍により人びとの命や暮らしが脅かされ,
権利が侵害されることがないよう奮闘しよう

 

 今,日本だけでなく世界各国に新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が拡大し,大きな危機に直面している。これまでに新型コロナは世界中で約3839万人の感染者とおよそ109万人を超える死者を出しており,日本国内においても91,520人の感染者と1,649人の死者が出ている(2020年10月16日現在)。一時は,感染拡大が抑制されたといわれるヨーロッパ諸国においても,再び,急激な感染拡大に対応するため飲食店等の営業制限,外出制限に踏み切る国も出ている。
 人のいのちを守るため各国の医療関係者が懸命の努力を続け,感染拡大を抑制するため,各国の国民は他人に感染させないよう,また自らが感染しないよう日常の活動制限を余儀なくされる状態が今もなお続けてきたが,感染拡大を抑制できておらず,この状態が解消されるめどはたっていない。
 私たち自由法曹団は,この危機を乗り越えようと努めるすべての人々に敬意を表し,政府に対して感染拡大防止のためにあらゆる施策の実施を求めるとともに,「人民の権利が侵害される場合には,その信条,政派の如何にかかわらず,広く人民と団結して権利擁護のためにたたかう」という団創立の精神に立ち,人びとの命や暮らしが脅かされ,不当に権利が侵害されることがないよう引き続き全力を挙げることを誓うものである。

1 安倍自公政権は,「貧困は自己責任」という新自由主義的な考えのもと自助・共助を強調して国民負担を増やしつつ,公助(国の責務)の削減を図り,勤労者と生活保護利用者,現役世代と高齢者等といったように階層を分断・対置して,公助の後退を押し進めてきた。とりわけ,2012年に成立した社会保障制度改革推進法に基づき,消費税増税とセットで大企業減税を行い,国保料や医療費,介護費等の負担増を進める一方で,生活保護費や年金などの社会保障費の削減を進め,保険医療,公衆衛生,社会福祉分野への公的支出の削減,大企業への利益誘導を行い,国民に貧困と格差を増大させ続けてきた。こうした「新自由主義政治」が,新型コロナウイルス感染拡大に対して保健医療,公衆衛生等の公的分野が十分に対応できない事態を生じさせており,その結果,新型コロナウイルス禍によって,国民のいのちと暮らしが破壊されてようとしている。
 コロナ禍の中でも,安倍政権を承継することを標榜する菅政権においても,まず「自助」を掲げ,さらなる「公助」の後退を目論んでいる。

2 自由法曹団は,4月7日に7都府県を対象地域として緊急事態宣言が発せられた際に「憲法を生かし,いのちとくらしを徹底して守る感染拡大防止策の確立を求める」声明を発表し,幸福追求権(憲法13条),生存権(憲法25条)を保障している憲法を生かし,国民の健康と命,生活を守るために,「正当な補償」を掲げる憲法29条3項の要請に基づき「自粛要請と一体として損失補償」が必要であることを訴えた。
 その後,緊急事態宣言の対象地域が全国47都道府県に拡大され,その期間が5月31日まで延長された際に,「新型コロナウイルス感染拡大の危機に際して 人びとの命や暮らしが脅かされることがないよう奮闘しよう」と呼び掛け,政府に対して,コロナウイルス感染拡大を防止するための万全の措置を求めるとともに,諸権利を保障している憲法を生かし,国民の健康と命,そして生活を守るために,いっそうの奮闘をすることを宣言した。そこでは,コロナ禍が全国に拡大し,長期化するなかで,国民の自助努力任せでは回復しがたい打撃を回避することはできないことを踏まえて,政府に対し,生存権を十全に保障するための対策を尽くすよう求めてきた。

3 この間,新自由主義に基づく医療・介護や公衆衛生の分野での「効率化」政策が推し進められた結果,感染症病床はこの20年間で半分近くに削減され,保健所も1993年の848箇所から576箇所に減らされており,検査や治療を進める上で重大な障害ともなっている。
 いま,医療・介護・公衆衛生関係者は,ぎりぎりの条件の下で,新型コロナウイルスと最前線で対峙している。新型コロナウイルス感染拡大防止のために検査の抜本的拡充と病床・医療資源確保に取り組むことが必要であり,その実現のためには,国が十分な財政措置を講じることが不可欠である。新型コロナウイルスだけでなく新たな感染症の流行に伴って「医療崩壊」「介護崩壊」を招くことがないよう,これまでの医療費の削減や「効率」を最優先し「公助」を切り捨ててきた医療・介護・公衆衛生政策を見直し,憲法25条2項に基づき,国民の命と健康を最優先する政策に転換することが必要であることは明らかである。

4 また,これまでの政府が打ち出した「特別定額給付金」の支給や「Go Toキャンペーン」など,その効果は限定的であり,大手事業者にその効果が偏るものとなっており,これまでの幸福追求権(憲法13条),生存権(憲法25条)を保障している憲法に基づく権利保障として十分なものではない。
 そのことは,緊急事態宣言による外出自粛や補償なしの休業要請,給付金支給の大幅な遅れなどにより,中小企業を中心とする企業のコロナ関連の倒産件数は,9月23日日までに578件となっており,労働者の解雇・雇止め件数は60,439人となっており,月を追うごとに増加していることや2020年4月の全国の生活保護申請件数は,前年同月に比べて24 8%増加していることからも明らかとなっている。

5 コロナ禍では,特に低所得世帯が深刻な困難に直面している。もともと「公助」が十分ではないなかで,コロナの影響による失業し,あるいは,休業を余儀なくされ,収入が減少する中で,学校の一斉休校によって家計の支出が増加する状態に陥り,いのちと健康の危機にさらされている。多くの人々が「明日からの暮らしはどうなるのか」,「事業の継続がかなうのか」,精神的にも経済的にも不安な日々が続いている。
 政府が,国民のいのちとくらしを守る十全な政策をとらない中で,今後,ますます,生存の危機に脅かされる人が増大し,国民の間に格差と分断がもたらされることが懸念される。
 自由法曹団は,政府に対し,新型コロナウイルス感染拡大を防止するための万全の措置を求めるとともに,国民各界各層に生じているさまざまな影響及び被害実態をふまえ,国の責任で国民の命とくらしを守る対策を早急に実行することを求める。さらに、国民に自己責任を押しつける政治から、幸福追求権(憲法13条),営業の自由,居住移転の自由(憲法22条),生存権(憲法25条),財産権(憲法29条),学習権(憲法27条)を保障している憲法を生かす政治への転換を求めて,いっそう奮闘することを宣言する。

 

2020年10月18日

自由法曹団兵庫・神戸総会

 


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