2021年5月集会in東京決議『貧富の格差拡大を阻止しすべての国民の「健康で文化的な生活を営む権利」が保障される社会を実現するために全力で取り組む決議』

カテゴリ:決議,貧困・社会保障

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貧富の格差拡大を阻止しすべての国民の「健康で文化的な生活を

営む権利」が保障される社会を実現するために全力で取り組む決議

 

1 2021年5月7日、新型コロナウィルス感染症の拡大が止まらないことから、菅義偉首相は、緊急事態宣言の範囲拡大及び延長を決定した。いま、1年5ヶ月に及ぶコロナ禍のもとで、国民の生活、いのちと健康が危機に瀕している。
 憲法25条は、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を明記している。政府には、国民の「健康」と「文化」、「生活」を守る重大な責任がある。
 しかし、コロナ禍に対する政府の対策はちぐはぐで、後手後手で行き当たりばったりであり、いたずらに感染拡大を引き起こす一方で医療体制の拡充も不十分で、医療崩壊を引き起こすなど、国民の「健康」を守る役割を全く果していない。また、もともとわが国の文化政策は極めて貧弱である中、「文化は不要不急なものである」として、コロナ禍で多くの様々な文化芸術関連イベントが中止に追い込まれたにもかかわらず、まともな補償もなされない。文化庁の「文化芸術活動の継続支援事業」は、審査中だった8,600件中6,000件が、2021年3月になって一気に不交付とされるなど、政府の国民の「文化」に対する無理解・無配慮があらわになっている。

2 コロナ禍により、多くの国民が職を失ったり収入が大きく減少するなどして、その「生活」が危機に瀕している。生活保護の申請数は2020年9月から前年同月比で増加に転じ、2020年全体の申請件数は、比較可能な2013年以降初めて、前年よりも増加した。各地のフードバンクや生活相談には多くの人々が殺到する状況となっている。
 また、2020年の自殺者数は、2019年より912人(4.5%)多い2万1081人で、リーマンショック後の2009年以来、11年ぶりに前年を上回った。中でも、女性の自殺者は935人増の7026人と大幅に増え、2020年度のDV相談件数も2019年度に比して6割程増加することが見込まれている。女性労働者の多くは非正規雇用が多く、経済不況によって真っ先に切り捨てられる上、コロナ禍での就労不安、「ステイホーム」による閉鎖的な環境において、家庭内で立場の弱い女性に暴力の矛先が向けられているものと考えられる。

3 他方で、日本の富豪上位50人の合計資産が1年で約50%も増加する等、富める者のみ更なる富を得る異常な状況となっている。新自由主義経済を突き進める自民党政権の下、既に広がり続けていた貧富の格差は、このコロナ禍でさらに拡大しているのである。
 それにもかかわらず、政府による「公助」は極めて不十分である。特別定額給付金も1度きりであり、自営業者に支給された家賃支援給付金も2度目の緊急事態宣言下の中で申し込みが締め切られるなど、緊急事態宣言に伴う休業に対する補償や、子育て世代、低所得者層への支援も十分になされているとはいえない。それどころか、生活保護基準や年金支給額の切り下げ、高齢者の医療費自己負担の増加など、様々な策を講じて、弱者に対する「公助」を切り捨てており、憲法25条の定める生存権の保障をないがしろにしている。このような横暴は断じて許されず、直ちに転換することが求められる。

4 貧困は、世代を超えて連鎖することになる。経済的に困窮している家庭では、医療や教育等を十分に受けることができず、将来的な選択肢が狭められ、結果貧困に陥り、抜け出すことが困難となる。特に、沖縄県では、子どもの貧困率が全国平均の倍となっており、貧富の格差拡大の影響は甚大である。このような貧困の連鎖を断ち切るためには、いかなる経済状況にあろうとも、必要な医療、教育、生活の保障がなされる環境を作ることが不可欠である。
 安倍政権が2013年以降に強行した生活保護基準の引き下げが2021年2月22日大阪地裁判決で明確に違法であることが指摘されたり、生活保護における扶養照会について厚生労働省が2021年3月30日付事務連絡「『生活保護問答集について』の一部改正について」を発し「『扶養義務の履行が期待できる』と判断される者に対して行うものであることに注意する必要がある」として本人の意思を尊重する方針へと転換されるなど、市民の運動の広がりによる成果も得られている。このように、貧富の格差拡大を許容し、生存権をないがしろにする社会を転換するためには、我々法律家も市民を構成するものとして、政治の転換を求める運動を広げることが必要である。

5 自由法曹団は、全ての国民の命と暮らしを守り、憲法が保障する「健康で文化的な生活を営む権利」をすべての国民に完全に保障される社会を実現するために、全力で取り組みを行うことをここに宣言する。

 

2021年5月22日

自  由  法  曹  団
2021年5月研究討論集会

 

 

 

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