100周年・東京総会『日本政府に核兵器禁止条約の署名及び批准を求める決議』

カテゴリ:原発問題,国際平和,決議

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日本政府に核兵器禁止条約の署名及び批准を求める決議

 

 2021年1月22日に発効した核兵器禁止条約は、2021年9月24日現在、署名国が86か国、加入・批准国が56か国に上っている。同条約は、被爆者らが被った耐え難い苦難に触れ、核兵器の非人道性と核兵器がもたらす壊滅的な結末を明示し、あらゆる核兵器の使用は国際人道法に反することを明確に指摘している。初めて核兵器を違法なものと断じ、これを廃絶するための道筋を示す極めて大きな意義を有する条約である。

 ヒロシマ、ナガサキへの原爆投下は、投下された1945年12月までに21万もの人々の命を奪い、膨大な数の人々に、身体を蝕み、命を奪う放射線障害を残した。以降は戦争において核兵器が使用されたことはないものの、ビキニ環礁における核実験被害等、核実験や核兵器搭載機の事故による取り返しのつかない放射能被害が繰り返されてきた。国際社会では、1970年発効の核不拡散条約(NPT)、1988年発効の中距離核戦力全廃条約(INF条約。2019年に失効。)、1996年に採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)、2011年発効の新戦略兵器削減条約(新START)等、核兵器の削減に向けた取り組みが長年にわたって行われてきたものの、未だに世界には1万3000発以上の核兵器が存在している。
 その根本的な原因は、核兵器国及びその同盟国が「核抑止論」に依拠していることにある。世界に核兵器が存在する以上、その使用を防ぐために、自らも核兵器を持ち、仮に核兵器が使用されることとなれば、核兵器をもって反撃をすることを示し、核兵器の使用を思いとどまらせる、というものである。しかし、かかる核抑止論は、終局的には核兵器を使用することを容認し、非人道的な結末をもたらすことを容認するものである。   さらに、意図せず核兵器が使用される危険性を看過している。偶発的にでも核兵器が使用されれば、人類の終焉をもたらす惨事を引き起こしかねないのである。また、自国は核兵器を保持しながら、他国に対して核兵器を廃棄せよと主張しても、応じる見込みは極めて低い。核抑止論に頼った状態のまま、核廃絶を進めようとしてきた結果が、未だに1万3000発以上の核兵器の存在を許し、さらに「使える核」の実用化を目指す状況を作り、未だに世界に核の恐怖を与え続けているのである。

 核兵器禁止条約は、核兵器の非人道性を訴え、長年にわたって核廃絶に取り組んできた被爆者や市民社会の運動が、一部の国家政府をも巻き込んで成立したものである。核兵器禁止条約は、核兵器の非人道性を踏まえ、いかなる場面においても核兵器が使用されることを防ぐために、核兵器の全面的な禁止を定めたものであり、「核の傘」にある国に対してもその門戸を開き、極めて現実的な核兵器廃絶の道を指し示している。
 核兵器による非人道的結末とそれに対する恐怖から解放された社会を構築するためには、核抑止論から脱却し、核兵器禁止条約に基づく完全な核廃絶を進めることが、最も合理的である。
 核兵器禁止条約に反対する勢力からは、核兵器国が参加しないことから、その意義を否定する主張も見られる。しかし、対人地雷、クラスター爆弾等の非人道兵器について、条約を批准しなかった保有国もその生産数を大きく減らし、残存兵器の処分も進められているように、保有国が参加しなくとも、禁止条約の成立・発効と批准国の遵守によって構築された国際的な規範により、廃絶に向けて大きく進展している。核兵器禁止条約においても、多くの国や地域が参加することにより、核兵器を禁じる規範が構築され、慣習法として核兵器国にも効力を生じることは十分に考えられる。そのためにも、核兵器禁止条約を普遍化し、世界に広げていくことが重要である。

 しかし、歴代日本政府は、核抑止論に拘泥し、日本をめぐる安全保障環境から米国の「核の傘」が必要であるとして核依存政策を堅持しており、唯一の戦争被爆国でありながら、核兵器禁止条約に背を向け続けている。他方で、核無き世界を目指すとして、「核兵器国と非核兵器国の橋渡し」を標榜しているが、「橋渡し」のために、有効な具体策が講じられている様子はない。それどころか、オバマ政権における核先制不使用宣言に対して反対して阻止する等、到底核兵器廃絶のための「橋渡し」の役割を果たそうとしているとは評価しえない。
 広島県出身である岸田新首相も、核廃絶を目指すことを述べているが、歴代日本政府の核依存政策を継承し、米国の「核の傘」が必要であるとして、核兵器禁止条約に反対する姿勢を取るなど、全く実質を伴っていない。日本政府がオバマ政権の核先制不使用宣言に反対した時期の外務大臣も岸田首相である。
 日本が目指すべきは、憲法9条に基づく平和外交により、武力によらない平和を構築することであり、極めて危険かつ不合理な核抑止論に基づき、核兵器禁止条約に背を向ける姿勢を取り続けることは断じて許されない。
 自由法曹団は、核兵器禁止条約の発効日である2021年1月22日、「核兵器禁止条約の発効を歓迎し、核兵器廃絶に向けて日本政府に核兵器禁止条約の批准を求める声明」を発したが、未だに核兵器禁止条約を否定する日本政府に対し、改めて核兵器禁止条約への署名および批准を強く求め、唯一の戦争被爆国であり、憲法9条を有する平和国家としての責務を果たすことを求める。

 

2021年10月23日

自由法曹団創立100周年・東京総会

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