2022年5月23日、大学の自治への介入につながる国際卓越研究大学法の可決・成立に抗議し、学問の自由・大学の自治の保障を求める決議

カテゴリ:子ども・教育,決議

大学の自治への介入につながる国際卓越研究大学法の可決・成立に抗議し、

学問の自由・大学の自治の保障を求める決議

 

1 国際卓越研究大学法

 2022年5月18日、参議院本会議において、国際卓越大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律(国際卓越研究大学法)が可決成立した。
 同法は、国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度認められる大学を国際卓越大学として文部科学大臣が認定し、公的資金10兆円を投入して設立した大学ファンドの運用益を研究資金として助成する等を内容とする法律である。国際卓越大学の認定にあたっては内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)からの意見聴取を行い、助成を受けた国際卓越大学には年3%程度の事業規模の拡大を求めるとされる。

 

2 大学の運営や研究への政治介入の危険

 国際卓越研究大学に認定され、事業内容などの計画の認可を受けると多額の資金の助成が受けられるが、その認定や認可は文部科学大臣が行う。同大臣の認定・認可への意見を述べるCSTIは内閣府に置かれ、総理大臣を議長に、議員14名のうち6名を官房長官等の閣僚が占め、7名は総理大臣が任命した有識者である。
 CSTIの意見には、その構成メンバーからして内閣の政策や意向が強く反映されることが予想され、研究費確保のために助成を希望する大学側において自ら内閣の政策や意向に迎合する危険があるとともに、さらに踏み込んで、内閣が大学の運営や大学で行われる研究に対し、政治的意向に基づく意見が表明され、大学側が事実上従わざる得ない状況が作出されるなどの介入が危惧される。2020年10月、当時の菅政権が、政権の政策に批判的な意見を発表している研究者について、日本学術会議会員への任命を拒否したことに鑑みても、大学の研究に対し政治的な意図に基づく介入の危険は大きいと言わざるを得ない。このような大学の運営や研究への政治介入は、大学の自治ひいては学問の自由への深刻な侵害となる。

 

3 制度運営上の弊害も大きい

 この十数年、大学への運営交付金は削減され続け、多くの大学が資金難に陥っていると言われている。本法案が成立した場合、国際卓越研究大学に認定される大学数は数校程度との想定であり、その数校にのみ、ファンドの運用益から数百億円の資金助成が行われる。こういった助成では、助成を受けられる大学と受けられない大学の間において、大学の研究条件や学生の教育条件にきわめて大きな格差を生じさせることになる。
 また、本制度による助成を受けた大学においても問題が存在する。すなわち、助成を受けた大学においては、年3%程度の事業規模の拡大が要求される。短期的には収益性の少ない学術研究も少なくない中、一律に事業拡大を要求することで、同じ大学内においても事業規模の拡大に寄与しない分野については、寄与する分野に比べて縮小を余儀なくされ、学問全体の発展を阻害する危険がある。また、学術研究の成果のみで事業規模拡大目標が達成できなくなっていけば、大学の収入源である学費の値上げ(収益の増大)を図ることで事業規模拡大を企図する恐れもある。そうなれば国際人権規約(A規約13条2項(C))で求められている高等教育の漸進的無償化に逆行する事態となる。
 さらに、政府は10兆円規模の大学ファンドの運用目標を年4.38%以上と見込んでいるが、そもそもそれだけの運用益を確保できるのか(助成の原資を確保できるのか)極めて疑問である。

 

4 国際卓越研究大学法成立後の学問の自由・大学の自治

 学問の自由はあらゆる分野において保障されるべきものであり、戦前の教訓を踏まえれば、政治的な関与は極力排されるべきである。しかしながら、国際卓越研究大学法は、学問の世界に政治的判断や経済的価値観を過度に持ち込む法律であり、学問の自由や大学の自治が脅かされているといっても過言ではない。特に、CSTIにおける国際卓越研究大学の認定過程の透明性の確保は重要であり、それによって検証を続けていくことは不可欠である。また、認定に向けた各大学への政治的介入に対しては警戒を怠ることができない。
 自由法曹団は、大学の自治への介入につながる国際卓越研究大学法の可決・成立に抗議するとともに、引き続き、法的問題点の指摘や運用上の監視を継続し、学問の自由・大学の自治の保障を求めていく。

以上

 

2022年5月23日

自  由  法  曹  団

2022年5月研究討論集会

 

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