2022年12月17日常任幹事会において、「安保3文書の閣議決定の白紙撤回を求める決議」を採択しました

カテゴリ:明文改憲,決議,米軍・自衛隊

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安保3文書の閣議決定の白紙撤回を求める決議

 

 2022年12月16日、岸田内閣は、国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画(安保3文書)を閣議決定した。
 安保3文書は、国民的な議論も国会での審議もないまま、これまで政府が「平生から他国を攻撃する兵器の保有は憲法の趣旨とするところではない」として保有を認めてこなかった敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記し、そのための費用を含む今後5年間の防衛費を総額43兆円として、日本を軍事大国に作り変えるものであって、憲法前文、9条、41条など幾重にも憲法に違反する許されざるものである。

 国家安全保障戦略は、「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」と定義される敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することを明記した。そして、この方針に従い、防衛力整備計画では、12式地対艦誘導弾能力向上型(射程を1000㎞以上に延伸)、島嶼防衛用高速滑空弾及び極超音速誘導弾の開発・試作を実施・継続するとともに、防衛力の抜本的強化を早期に実現するため、米国製のトマホーク(射程約1600㎞)を始めとする外国製スタンド・オフ・ミサイルの着実な導入を実施するとしている。これは、専守防衛の理念の下、相手国に脅威を与える兵器を保有しないとしてきた歴代政府の方針を根本的に転換し、日米安保体制下における日本の「盾」としての役割を大きく変容させるものである。

 敵基地攻撃能力は、「武力攻撃が発生していない段階」で行使することはないとされている。しかし、政府は「武力攻撃が発生した場合」とは「相手国が武力攻撃に着手したとき」であるとしており、実際に相手国からの攻撃がなされる前の段階から行使できる。そして、何をもって「着手」とするかについては、何ら判断基準が示されておらず、また、その正確な認定は困難であるから、敵基地攻撃能力の行使は、憲法にも国際法にも違反する先制攻撃となりかねない。しかも、安保3文書では、その攻撃対象も明示されておらず、「相手の領域」における様々な拠点や施設等が歯止めなく目標とされる可能性がある。
 さらに、この敵基地攻撃能力は、「2015年の平和安全法制に際して示された武力行使の3要件を満たす場合に行使しうる」と明記されている。すなわち、「我が国に対する武力攻撃が発生した」場合のみならず、「我が国と密接な関係のある他国に対する武力攻撃が発生し」我が国に一定の危険があると判断された場合(存立危機事態)に行使されることになるのである。これによって、例えば、米国に対する武力攻撃の着手があった場合に、我が国が当該相手国の領域にスタンド・オフ・ミサイルを撃ち込む事態が当然に想定されるのであって、日本は米軍と一体となっての全面戦争へと引き込まれざるをえない。

 加えて、他国の基地を直接に攻撃することができる軍事力を保有することになれば、北東アジア諸国をはじめとする周辺諸国に対する大きな威嚇的効果を持つこととなり、周辺諸国の反発を招き、外交上の緊張が高まることが容易に想定される。また、安保3文書は、スタンド・オフ・ミサイルの主要な配備先とされる南西諸島での陸上自衛隊の増強(第15旅団の師団への改編)や機動展開能力の強化等も明記しているが、これは、相手国からすれば「反撃」を加える対象となることを意味しており、沖縄を再び戦場にする危険にさらすものといわなければならない。
 敵基地攻撃能力の保有は、日本に平和と安全をもたらすものではなく、日本を際限のない軍拡競争に駆り立てるとともに、その行使によって相手国からの報復攻撃を呼び込み、沖縄をはじめとする日本の国土を戦争の惨禍にさらすものにほかならない。

 第2次安倍政権発足以降、軍事費は10年連続で前年度比を上回り、8年連続で過去最大を更新している。その結果、日本はすでに世界でも有数の軍事力を有する国となっている。
 そして、「防衛力整備計画」では、2023年度から2027年度までの5年間における防衛力整備の水準を、2019年の中期防衛力整備計画において定められた軍事費の約1.6倍にも上る43兆円とし、2027年度時点での予算水準がGDP比2%に達するよう所要の措置を講ずるとしている。しかし、なぜ5年間で43兆円なのか、なぜGDPの2%なのかについて、説得的な説明はなされておらず、「対米公約」による「規模ありき」の膨張と言わざるを得ない。
 このような「規模ありき」の「防衛費増」の財源については、「歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金の創設、税制措置等、歳出・歳入両面において所要の措置を講ずることとする」としているが、すでに政府与党内では所得税を含む増税の方針が具体的に検討されており、防衛力強化の名のもとに、コロナ禍で苦しむ国民生活がさらに圧迫されることが大いに危惧される。また、増税への批判をかわすため、その財源に国債を充てることも取りざたされているが、それは、すでに国債発行残高が1000兆円を超える超赤字国家である日本において、さらなる負債を将来世代に押し付けるものにほかならならず、亡国の道としかいいようがない。
 今回の安保3文書は、財政、予算のみならず、日本の経済、技術、情報、インフラ整備などを含め、全面的に軍事を優先し、「戦争する国」づくりを具体化するものであって、国民の権利や生活に重大な影響を及ぼすものである。このようなものを、国民の信を問うこともなく、国会での審議もなく強行することは、民主主義を破壊する暴挙であって、絶対に許すことはできない。

 武力を武力によって制することでは、「正義と秩序を基調とする国際平和」は決してもたらされない。平和的な外交を積み重ねることにより、国際的秩序の維持と国際平和の確保を目指すべきである。
 自由法曹団は、日本国憲法に違反する敵基地攻撃能力保有を含む安保3文書の閣議決定に断固として反対し、その即時白紙撤回を求めるとともに、岸田政権による大軍拡及び憲法破壊を阻止すべく、より一層の強い決意をもって取り組むものである。

 

 

   2022年12月17日
                                 自由法曹団常任幹事会

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