2023年5月22日、外国人労働者の搾取と人権否定を招く外国人技能実習制度の速やかな廃止と、 外国人が孤立することのない共生社会を目指す決議

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外国人労働者の搾取と人権否定を招く外国人技能実習制度の速やかな廃止と、外国人が孤立することのない共生社会を目指す決議

 
1 外国人技能実習制度は、開発途上地域等へ日本の技術等を移転することにより国際貢献を果たすという制度趣旨とは異なり、現実には日本の労働者不足を補うための労働者受け入れ制度として利用されてきた。
 技能実習制度の趣旨と実態の乖離は、事実、多くの実習生に対する人権侵害事例を生み出してきた。1993年の制度創設以来、技能実習1号・2号の在留資格の創設、入国時1年目からの労働関係法令の適用、2017年11月の技能実習法の施行と技能実習3号の創設といった制度改革がなされてきたが、問題事案は一向になくならない。そのような現状を受け、政府は、2022年11月、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」という)を設置して当該制度を見直す方向を示している。

2 外国人技能実習制度により訪日した外国人は、その多くが低廉な労働力として不当な搾取を受け、人としての最低限の人権すら保障されない実情にある。
 例えば、妊娠した実習生に対する不利益取扱事案を取り出してみても、多くの女性の実習生が、妊娠したことによって解雇や強制帰国、中絶勧奨といった被害を受けている。2023年3月24日、最高裁第二小法廷(草野耕一裁判長)は、元技能実習生リンさんが、孤立死産したわが子の遺体をタオルで包み弔いの手紙と一緒に段ボール箱に入れ一晩過ごした行為に対する死体遺棄事件について、有罪とした第一審・第二審の有罪判決を破棄し、無罪判決を言い渡した。本件には死産や流産事例に対する死体遺棄罪の濫用的な適用の問題とともに、妊娠した実習生を取り巻く環境の過酷さがその背景にあり、とりわけ解雇や強制帰国させられる事例は、制度創設以来、数多く報告されている。
 このような実態が存在する中、2022年12月に公表された出入国在留管理庁の調査では、回答のあった技能実習生の26.%が「妊娠したら仕事を辞めてもらう(帰国してもらう)」という不適正な警告を受けていたとの報告がなされているなど、多くの調査において不当な権利制約、支配の構造が報告されている。「技能実習」の在留資格は、実質的に就労ビザである以上可能であるはずの家族の帯同が認められない。その中で妊娠した実習生を不利益に扱うことは、男女雇用機会均等法をはじめとする労働関係法令で禁止されていることは当然としても、政府はこのことを強調する注意喚起の文書を発行するばかりである。日本で妊娠した実習生は、産休や育休を取得でき、退職する必要がないにもかかわらず、子どもの在留資格の取得の難しさから諦めて母国に帰る実習生も多い。
 妊娠実習生への不利益取扱事案だけではなく、厚労省が毎年発表する「外国人技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況」では、全国の労基署において監督指導を実施した6割以上の実習実施者において、最低賃金法違反や残業代未払い、労災隠しといった労働法令違反が例年確認されている。
 悪質な実習実施者の元を離れようとしても転職の自由がないため容易に抜け出せず、また来日のために借金をして高額な手数料を支払っているため母国にも帰ることができないという構造的な問題が存在するのである。

3 こうした状況に対し、2022年11月に「外国人材の受入・共生に関する関係閣僚会議」の下、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が設置され、技能実習制度の存続や再編の可否を含む具体的な制度の在り方の議論が始まり、2023年5月11日、技能実習制度の廃止と新制度の創設を求める中間報告書が法務大臣に提出された。これまで認められなかった転籍についても、要件を緩和することや特定技能への移行の円滑化、監理団体の認可要件の厳格化といった方向性が示されたが、名ばかりの制度廃止では意味がない。
 第一に「国際貢献」や「人材育成」といった名目の下、実質的に労働者受入制度として機能してきた現行制度と決別し、国内の人材確保を目的とした制度であることに見合う労働者としての権利保護が十分に図られる必要がある。
 その上で、日本語学習の支援や相談体制の構築といった外国人労働者の保護を充実させると共に、他の就労系在留資格と同様、家族帯同を認めるなど、安定的な在留資格の取得につながるようにして、安心して日本で働くことができるような制度設計を行うべきである。

4 自由法曹団は、日本労働弁護団、技能実習生問題弁護士連絡会と共催で、2023年2月4日に「このまま続けていいの?技能実習制度」を開催した。人口減少が進む日本社会において外国人との共生を図ることは避けることのできない課題であり、一方的な「搾取」が行われる関係は共生とはほど遠いものである。自由法曹団は様々な団体と連帯し、日本政府に対して技能実習制度の速やかな廃止と共に、外国人労働者の使い捨てを決して許さない、安心して働ける真の共生社会の実現を求める次第である。

 

2023年5月22日

 

自  由  法  曹  団
2023年5月福岡研究討論集会

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