2023年5月22日、生活保護基準引き下げ違憲訴訟の大阪高裁判決に抗議し、政府に対し生活保護 基準の見直しを求める決議

カテゴリ:決議,貧困・社会保障

生活保護基準引き下げ違憲訴訟の大阪高裁判決に抗議し、政府に対し生活保護基準の見直しを求める決議

 
1、2013 年から 2015 年にかけて段階的になされた生活保護基準の減額改定(以下「本件改定」という。)を理由としてなされた生活保護利用者に対する保護変更決定処分(以下「本件処分」という。)に対し、その取消しを求めて全国で提訴した生活保護基準引下げ違憲訴訟において、2023 4 14 日、大阪高等裁判所第 1 民事部(山田明裁判長、柴田義人主任裁判官)は、保護費の減額処分の取消しを命じていた一審大阪地裁判決(森鍵一裁判長)を取り消し、原告らの請求を棄却する判決を言い渡した(以下「本判決」という。)

2、本件改定は、保護基準の検討に当たって、社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)の検証を一切経ることなく厚生労働省が独自に持ち出した「生活扶助相当 CPI(消費者物価指数)」という物価指数を用いつつ世界的な原油価格や穀物価格の高騰を受けて特異な物価上昇が起こった2008 年を起点として「デフレ調整」を行ったうえ、基準部会の検証において用いられた数値を 2 分の 1 として「ゆがみ調整」を行うという、生活保護利用者の生活実態に基づかない不合理かつ不当な改定である。
 一審の大阪地裁判決は、生活保護基準見直しの根拠とされた「デフレ調整」について、2008 年を起点に取り上げて物価の下落を考慮した点や総務省が作成公表している消費者物価指数ではなく、厚労省が独自に算定した生活扶助相当 CPI を採用することにより著しく大きい下落率を基に改定率を設定した点において、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠き、最低限度の生活の具体化という観点から見て、その判断の過程及び手続に過誤、欠落がある、と正当に判断していた。

3、これに対し、本判決は、デフレ調整についてもゆがみ調整についても「厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。」などとし、「本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえない。」としている。
 まず、本判決は、本件改定にあたってデフレ調整やゆがみ調整における数値の 2 分の 1 処理について基準部会による検証がないことを認めつつ、「生活保護法は、厚生労働大臣が保護基準を改定するために基準部会その他の外部専門家による検証を要件としているわけではないから、厚生労働大臣の判断の合理性ひいては適法性を審査する上であくまで厚生労働大臣による判断の合理性を担保する手段と解するのが相当である」などとしている。しかし、このような判示は、保護基準の設定が専門機関の審議検討を踏まえて行うこととされていた生活保護法立法当時の議論や、実際に保護基準の改定が専門機関の審議検討を踏まえて行われて来た従来の経緯に反するものであり、専門機関の役割を否定するものである。
 また、本判決は、統計等の客観的な数値との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無に関する審査に関し、「確立した専門的知見との矛盾が認められる場合に専門的知見との整合性に欠くところがあると評価すべき」などとし、専門的知見との整合性に関する審査について違法となる場合を「確立した専門的知見との矛盾が認められる場合」に限定した。だが、このように「確立した専門的知見との矛盾」を求める規範は、老齢加算訴訟最高裁判決(20122 月 28 日最高裁判所第三小法廷判決・民集第 66 巻 3 号 1240 頁)において用いられている、判断の過程及び手続に過誤、欠落がある場合に違法性を認める旨の基準にも合致していないし、本件改定のような前例のない変更等がなされた場合には、「確立した専門的知見」が存在するかどうか自体が疑問であり、立証上原告側に不可能を強いるものである。
 このように、本判決は、専門機関の役割を不当に低く評価した上で、厚生労働大臣に過剰に広い裁量を認める基準を持ち出し、本件改定の違法性を否定している。
 さらに、本判決は、本件処分によって原告らが被った苦痛について、「国民の多くが感じた苦痛と同質のもの」であるなどとして、最低限の文化的な生活ができないでいる原告らの生活実態を直視せずに、切り捨てている。

4、本判決は、2023 年に入ってからも本件改定の違法性を認める地裁判決が 5つ(宮﨑、青森、和歌山、さいたま、奈良)出されるなど、本件改定の違法性を指摘する判決が相次ぎ、本件改定が違法なものであるという司法判断が確立しつつあった中で、こうした流れに真っ向から反するものである。自由法曹団は、本判決に対して厳しく抗議すると共に、政府に対し、本件改定を改めるとともに、これまでの社会保障に対する後向きの態度をも根本的に改め、充実した社会保障制度の構築を行うことを求める。

 

2023年5月22日

 

自  由  法  曹  団
2023年5月福岡研究討論集会

PDFはこちらから

 

 

 

TOP